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シナリオ詳細

心あてに 折らばや折らむ 初霜の

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 今月に入って、なんだか皆が浮き足立っている気がする。もちろんファルベライズに関わる大規模な作戦は進められているし再現性東京(アデプト・トーキョー)や各国からも変わらず依頼は出ているのだけれど、それとは別に何かを待ち望んでいるような。
 希紗良(p3p008628)はそれが『シャイネンナハト』というものだと耳にした。
(はて、どのようなものなのか)
 いかんせん彼女の出身であるカムイグラはついこの間まで閉ざされた地であった。此岸ノ辺に招かれざる異邦人――バグ召喚でカムイグラへ訪れた者――が文化を持ち込むことはあれど、それだけ。希紗良がいたような隠れ里であればなおさら伝わってこないものである。
 故に。彼女はシャイネンナハトという単語を知っているが、それだけなのだ。
「……む? あれは、」
 そんな彼女が見つけたのは雑踏に紛れる1人――否、1匹。
「ぴぃーっ」
 人の足に蹴飛ばされてころんころんと転がったブラウ(p3n000090)は希紗良の足元でようやく止まると、そのつぶらな瞳をぱちりと開けた。
「あ! 希紗良さん、ですよね!」
 ひよこと彼女はかつて、カムイグラの夏祭りで顔を合わせたことがある。その時はビーチで襲われる人々を助けねばと早々に別れてしまったが、彼は希紗良のことを覚えていたらしい。
「また転がっているのでありますか」
 両手で掬い上げればもふんと冬毛がうまる。ああ、なんと暖かいことか。
「こっちの方が落ち着くんですよねえ。流石にシャイネンナハトの夜は人型かもしれませんけれど。とても、とーっても多くの人がいま――」
「ブラウ殿」
 言葉の終わりを待たずしてずい、と希紗良が顔を近づけた。驚いたひよこが仰け反り体勢を崩して転がり落ち、それを慌てて拾い上げる。
 そうだ、このひよこは同じ妖憑とは言えど黄泉津の出身ではない。であればシャイネンナハトについても知っているはずなのである。

「――というわけで、シャイネンナハトについてお話したんです」
 ブラウは集まった他のイレギュラーズたちへそう語る。その隣では希紗良がうんうんと頷きながら、キラキラと瞳を輝かせていた。
 『輝かんばかりの、この夜に』。祝福の星が流れ続けるその夜は世界中の願いが捧げられる。戦いの禁じられた優しい夜の下では、旅人たちの文化なども混ざったのか至る所へ飾りつけをしたり、ケーキを作ったりもすると言う。
「それをキサもやってみたいのであります! それに、高天京の子供たちにも教えてあげられたら、と!」
 ずっと目を輝かせていた希紗良が仲間たちへそう告げる。おとぎ話についてはブラウから聞いたものの、やってみなければ実感がわかないと言うのが本音だ。それに先の戦いで被災した子供たちが楽しめる何かがあるならば、この寒い季節も乗り越えられるだろうから。
「ちょうどカムイグラのほうからも、被災者を元気づけてほしいという依頼が来ているんです。僕ら、サーカス団じゃないんですけれどね」
 苦笑いを浮かべるブラウ。されど『何でも屋』のような存在であるから、依頼され人が集まるのならそのようなことだってするのである。最も、今回は見世物ではなくてシャイネンナハトの準備になりそうだが。
「あれこれしようとすると教える方の手が足らなくなると思うので、いくつかに絞って教えてあげると良いと思います。今年だけじゃなくて、来年から先も簡単にできるやつならとても喜ばれそうですよね!」
 カムイグラは長く鎖国状態にあったこともあり、独特の食材や文化があることだろう。かの国の人々も身近なものを使ってシャイネンナハトを祝えるならばより気軽に準備できるし、広く浸透していくかもしれない。
 場所も材料も現地で用意してくれると言う。イレギュラーズたちは大陸でのシャイネンナハトを思い浮かべながら、どのようにカムイグラで再現するか考え始めた。

GMコメント

●すること
 カムイグラの人々にシャイネンナハトを教える

●場所
 高天京にあるお寺です。大陸側で言う孤児院のような施設としても機能しています。
 数人のお坊さんと、15人程度の孤児たちが生活しています。普段は寺の仕事を手伝いながら読み書きを習っているそうです。
 イレギュラーズが訪れる際は上記の面々と、近所で大陸文化に興味のある大人子供がちらほらやってきます。近所には温厚なヤオヨロズのお屋敷があり、困ったことがあればそれなりに手配してくれるそうです。

●シャイネンナハトを教えよう
 今回の依頼では凡そ25~30人程度(その半数以上が子供)へ「シャイネンナハトとは何ぞや?」を教え、またその準備をすることになります。
 もちろん希紗良さんのように「分からないから一緒にやってみよう」という方も歓迎しています。
 下記に参考として載せますが、どうぞ皆様で相談しながら教えることを考えてみて下さい。

1. 飾りつけ
 寺やその周囲にシャイネンナハトらしい飾りつけをしましょう。飾りつけの許可は取られています。敷地内の木々に飾りを下げてもよいですし、棚へ置くような飾りを作っても良いでしょう。高い場所への飾りつけは頼めば大人がやってくれます。
 大陸から持ち込んでもOKですし、子供たちと自作して飾り付けるのもOKです。材料としては和紙や竹ひごなどが挙げられます。困ったら平安時代とかにありそうなものを考えてください。

2. ケーキ作り
 カムイグラにも小麦粉、卵、牛乳などの菓子を作る基本的な材料は用意されています。器具などは必要に応じて(特殊なものでなければ)近所の皆さんが貸してくれるそうです。
 子供たちはこういった甘味もあまり食べられないらしいので、作ればご馳走扱いされるでしょう。夜に皆で食べましょうね。

●ご挨拶
 ご指名有り難うございます。愁です。
 カムイグラでもシャイネンナハトの準備をしましょう。各世界のシャイネンナハト(クリスマス)などのお話をしても喜ばれると思います。
 それでは、ご縁がございましたらよろしくお願い致します。

  • 心あてに 折らばや折らむ 初霜の完了
  • GM名
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年12月24日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力
此平 扇(p3p008430)
糸無紙鳶
シガー・アッシュグレイ(p3p008560)
紫煙揺らし
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
※参加確定済み※
金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸
ニコル・スネグロッカ(p3p009311)
しあわせ紡ぎて

リプレイ


 寒さも深まる今日この頃、寺には孤児や僧、近隣の大人子供にイレギュラーズとそれなりの人数が集まっていた。『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)は彼らを見渡し、礼儀正しくお辞儀する。
「ブラウ殿はじめお集まりくださった皆様。此度はありがとうございます、であります」
 先の大きな戦で家を、家族を傷つけられ、また失ったものもいるだろう。それでもこうしてシャイネンナハトを知るため集まってくれたことに感謝を込める。
 魔種、そしてセバストスたるザントマンたちとの戦いはこちらの勝利で幕を閉じた。政にも新たな風が吹き込み、これから新体制で進んでいくのだろう。けれども希紗良は、ただ『勝利』のひとことで片付けてはならないと京の様子を見て思っていたのだ。
 視線を上げれば、まだシャイネンナハトがどのようなものか分かっていない子たちがいる。彼らも戦の被害にあった1人だ。
(ほんのひと時でも楽しんでもらえたら)
 だって、シャイネンナハトは『平和で優しい夜』なのだから。
(丁度良い依頼が来た……いや、彼女が企画したんだったか)
 『スモーキングエルフ』シガー・アッシュグレイ(p3p008560)は彼女から集まった人々へ目を向ける。希紗良をシャイネンナハトに誘うつもりだったから、その説明をするつもりだったのだ。けれど準備から参加すればより楽しいことだろう。同じように視線を向けていた『さまようこひつじ』メイメイ・ルー(p3p004460)も腕の中のブラウ(p3n000090)をもふりながら気合を入れる。
(みなさまが、わくわくした、楽しい気持ちになれるようにしましょう)
 とは言え、ただ『シャイネンナハト』と聞いてもどんなものかピンとくるわけもなく。不安そうな顔をしている彼らに『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は「ぶはははっ!」と豪快な笑い声をあげる。
「俺自身もシャイネンナハトを知ってからの年月は少ねぇんだ! 安心しな!」
「そうなの?」
「おうとも! それでも一緒に楽しむ分には関係ねぇわな!」
 ニッと笑みを浮かべたゴリョウは子供たちへ飴を配り始める。どこで聞いたのだったか――紙芝居には飴が必要なのだとか。『しあわせ紡ぎて』ニコル・スネグロッカ(p3p009311)もシャイネンナハトにちなんだ菓子を配って回る。ジンジャークッキーやキャンディ、一口大のパンケーキ。子供たちは喜んでそれを受け取り、大人たちもしげしげと興味津々で知らぬ菓子を眺める。
「おねーさん、しゃいねんなはとってなにー?」
「これから紙芝居で教えてくれるわ。色んな人が幸せになれる素敵な日よ!」
 少なくともニコルはそう思っている、とにっこり笑った。走行しているうちに子供たちも菓子を食べ始めて大人しくなり、希紗良もちょこんとその端っこに座る。前へと出たのは自作の紙芝居を持った『D1』赤羽・大地(p3p004151)だ。
「声はちゃんと聞こえるか? もし聞こえにくいなら手をあげてくれ」
 大地は周囲に寄ってきた彼らを見渡す。どうやらちゃんと聞こえる範囲に全員いるようだ。
「それじゃあ、始めるゾ」
 赤羽は膝の上で紙芝居を立て、ゆっくりと話し出した。

 これは昔々、本当にあったお話です――。

 『神ではない誰か』金枝 繁茂(p3p008917)が楽器で大地の語りに音楽をつける。予め配られた菓子の効果もあってか、子供たちで騒ぎ出すものもおらず大地の声はよく通った。
「この世界では戦争が絶えず行われていました。どんな日も続いたそれは、誰も止められなくなっていたのです」
 シャイネンナハトの逸話曰く、立っているだけで倒れそうな炎天下でも、骨身まで凍りつくような冬であっても戦争は起こっていたらしい。得られず、失い続ける日々を繰り返した世界には『聖女』と『悪魔』がいた。
「ある年の冬のことでした。友人たる『悪魔』に尋ねた『聖女』がいました」
 願いは当然――世界中の争いを止めること。けれど引き換えにするものは小さくない。世界の嫌われ者である『悪魔』が何も失わずに願いを叶えるなど、ないのだから。
 それでも『悪魔』は『聖女』に手を差し伸べた。放っておけない彼女へと。
「世界中の人々の心のような真っ暗闇を、眩ゆい光が切り裂きました」
 願いが煌めき零れ落ちる夜――シャイネンナハト(輝く夜)。世界中の誰もが、『聖女』が命をかけて戦いを終わらせたのだと感じたそうだ。そして武器をおろし、戦いの手を止めた。
「たたかいがなくなって、おしまい?」
 終盤でもあるからか、菓子がなくなってしまった子供が声を上げる。おしまいかあ、ほんとうに? なんて子供たちの言葉が続く中、大地は「お終いじゃない」と告げた。
「戦いはまた起こるし、悲しいことはいつだってある。それでも――『家族や友と笑い合う日、シャイネンナハトは遥か昔のこの日から、今日まで続いています』」
 最後の一節を読み切り、大地は今度こそおしまいという紙を出す。ぱちぱちぱちと小さく拍手が起こった。
「家族で一緒に過ごす日なのね」
「争いもやめる日か」
「きれいなよる、見たいなー」
 なんとなくではあろうが、シャイネンナハトについて伝わったようだ。ほっとする大地の視界に、ほんの少ししょんぼりした希紗良が見えた。
「大丈夫カ?」
「……ああ、いや。シャイネンナハトの御伽噺は少し悲しいものでありますね」
 聖女が命を賭した、というところや戦争が続いていたというところだけをピックアップすればそうだろう。けれどきっと、その聖女とて希紗良にそんな顔をさせたくて選んだ道ではないはずだ。
「みんな! ハンモだよ!」
 ちらほらそんな子が見え、ニコルがフォローする中で大地のいた場所に立つ繁茂。シャイネンナハトを歌おうと誘うと一同はきょとんと目を瞬かせた。
「楽しくて幸せな夜は歌を歌うんだ!」
 楽器を奏でて歌う繁茂。大陸の各所で伝わる歌を聞きかじっただけだから、オリジナルとは似てはなるものだろう。けれど想いがあれば、きっと大丈夫。
「これ、ハンモの歌った歌詞カード! よかったら覚えてね!」
 繁茂は一通り歌い終わると歌詞カードを配って回る。それを飾りつけられるような道具も貸せば、子供たちが真っ先に彩り始めた。
「できた!」
「素敵!」
 見せるように高くそれを掲げた子供にニコルが声を上げる。褒められたら誰だって嬉しいもので、段々と賑やかなものとなる。
「演奏したい子がいるなら、笛とか持ってきてるからね! あとで一緒に楽しもう!」
 ハンモは持ってきた楽器を見せて笑う。さあ、まずは飾り付けと料理作りだ!



 さて、和式の厨房に多少手間取るものもいるがこちらももう忙しく。ゴリョウはケーキを焼きながら食事作りに取り掛かった。
「ここでいいかな」
 力仕事を担当するシガーは材料をゴリョウと『糸無紙鳶』此平 扇(p3p008430)へ運んでいく。ただの材料と侮るなかれ。食べる人数が多ければ必然と量も増えるのだ。
「やっぱり鳥だよな。肉食OKで良かったぜ」
「ご馳走らしいご馳走だからね」
 扇の手元を見てゴリョウがにっと笑う。彼女が鳥を調理する間、ゴリョウは炊いた米をちらし寿司へ。これもまた量が必要な上に力が必要だが、シガーもいれば近隣の大人たちも料理を知りたいと手伝ってくれている。
「これは見栄えもいいし、皆で分けて食うから一体感もあるんだ」
 カムイグラの人々は比較的米に親しみがあるほうだから、ちらし寿司自体もそこまで奇異な目では見られない。やはり地元で慣れた材料を使うのは好感触だ。
「けんちん汁はどうだ?」
「いい匂いしてる!」
 ゴリョウが振り向くと、そこには少しおませになってきた女の子たち。彼女たちも大人に負けず料理を手伝っている。目の前の鍋ではけんちん汁が湯気をあげていた。
「すごく和風だけど、クリスマスのノリでいいんだよね」
「おう、大丈夫だぜ」
 崩れないバベルが異世界人同士でも会話を円滑にする。クリスマスとシャイネンナハトは似たものであるようだ。
「……で、これだけあれば十分かね」
「余ったら持ち帰って貰えばいいさ」
 扇とシガーが見渡せば、気づけば調理場には料理がどんどん出来上がりを待つ状態となっている。さあ、子供たちの手伝い(メイン)が登場だ。
「シガー、子供の中でケーキの飾り付けをしたいってやつがいたら呼んでくれるか?」
 焼けたケーキ生地を出しながらゴリョウが告げる。程なくしてやってきた子供たちに飾り付けを頼むと、彼らは興味津々で材料を眺めながらああでもないこうでもないと飾り付け始める。
「いいぜ、好きにやりゃあいいさ!」
 ケーキはゴリョウのものだけではない。扇の作った少し小さめのケーキも周りに並べてみようか。
 そうして賑やかになった調理場を後にし、シガーは飾りつけの手伝いへ向かったのだった。



「キサは皆と飾り付けをしようと思うであります! ご一緒下さる方はいらっしゃるでありますか?」
 希紗良の言葉にはーい、と子供たちの手が元気よく上がる。大人たちは道具を使う子供が危なくないように付き添ってくれるようだ。折良く戻ってきたシガーが飾りについて説明してくれる。
「定番のものを紹介するね」
 そう言って取り出したのはリースやガーロンド、キャンドル。あくまでこのような形なのだと見せるだけだから、さして大きく嵩張るものではない。
「同じものを作る必要はないのでありますよ。持ってきてもらったものと、ここにあるもの。両方使って賑やかな場所を作るであります!」
 えいえいおーと拳を上げる希紗良に子供たちが続く。それをくすりと見たメイメイはそっと口を開いた。
「折り紙や、切り絵……小さな鞠も、飾りになると、おもいます」
「そんなものも?」
 女性が感心したように声を上げる。これで考えているより身近にできる、と思ってくれれば良いのだが。
「あと、シャイネンナハトに欠かせない飾りがあるんだ。ちょっと外に出てみようか」
 シガーに促されて外へ出たカムイグラの人々はきょろきょろと見回す。そんな彼らへシガーは1本の木を示した。本当は何も飾られていないツリーを見せたかったのだが、これだけの人数で飾るとなれば相当の大きさが必要になる。そこで目を付けたのが成長途中であるこの低木だった。
「ただの木だけど、これにこんな飾りをつけるんだ」
 オーナメントのいくつかを紹介するシガー。この後はようやく飾り作りだ。シガーは持ってきていた飾りのないリースや和紙に色を塗る道具を出し、見本となるようなものを作り始める。それを待つようなそぶりを見せた子供たちだが、ニコルは「好きに作って良いのよ」と彼らへ声をかけた。
「ここでするのは『カムイグラ』のシャイネンナハトだもの。自由な発想でいいの!」
 その言葉を体現するように希紗良はもう作り始めている。彼女も初めてのシャイネンナハトだが、見せてもらったようなものを見よう見まねに紙を星型へ切ってみたり、リースをそれっぽく作ってみたりと奮闘していた。その隣でメイメイも紙を切り、雪のようなモチーフを作っている。彼女らの様子に子供たちも材料を手に取り、時には違うものを作ったりするものの少しずつ飾りを増やし始めた。
「ねえ、こういうものも使える?」
「あら、良いと思うわ! 紐を通して吊るしましょうか」
 女性が家から持ってきたのは、幼い頃遊んでいた鞠のようだ。掌でころりところがる小さなそれにニコルは満面の笑みで頷く。飾りが溜まってきたこともあって、同時並行で飾りつけも行われることになった。
「高い所はハンモに任せて!」
 子供には届かないような場所へ、肩車して届かせてあげるハンモ。その周りには次に肩車してほしい子供たちが群がっていく。
「…短冊は七夕飾りでありますが……まぁよきよき」
 ぶら下がったそれにくすりと笑みを零した希紗良は、次いで綿を乗せている男性になるほどと感心した。まるで雪のようである。
 けれど――中には心から楽しめない者もいて。
「……大丈夫、ですか?」
 メイメイの声の顔を上げた子は、じっと彼女を見つめてから唇を噛み締めた。その瞳に張った水の膜が、雫となって零れ落ちてしまう前にメイメイはハンカチを当ててやる。
「シャイネンナハトは、家族で、楽しむ日、でしょ?」
 潤んだ瞳とその言葉で、子供の言いたいことは伝わってくる。恐らくこの子の親――両親ともなのかはわからないが――はいないのだろう。メイメイは優しく子供を引き寄せ、安心させるように背をさすってやる。
「はい。……でも、お友達と、でも。ここにいる皆とでも、いいんですよ」
 傷ついた心が、楽しいことで癒されていきますように。そう祈るメイメイの鼻孔を不意に甘い香りが掠めた。
「む? 甘い香りが……」
 希紗良も気づいたらしい。その先は調理場であるが、そこからケーキ飾りに行ったはずの子供たちが戻ってくると交代だと告げる。その後から顔を出したのは扇だ。
「折角だから他の子も菓子の飾りつけをしないかい?」
 彼女が用意したのは抹茶の蒸し菓子。小さくドーナツ状に作られたそれへいろんな色の琥珀糖を散らしてもらうのだ。
「リースっぽくなるし、模様を付けても楽しいだろうさ」
 形こそ新鮮なれど、饅頭の要領で作られているから再現はしやすい筈だ。子供たちが寄ってくるのに混じった希紗良は扇を見上げる。
「それは持ち帰れるでありますか? できるなら子供に持たせ、家に帰ってから家族で食べられるようだと嬉しいでありますが!」
「持ち帰りか。たいした大きさでもないし、できるんじゃないかね」
 扇が振り返れば、大人やゴリョウ達にサポートされながら琥珀糖をかける子供たちの姿がある。その姿に扇はふっと目を細めた。
(……クリスマスのご馳走作ったりっていうのも久しぶりだねぇ)
 以前は親族と騒ぎながら若衆たちの分まで作っていた、と懐古する扇。あれが終わったらぼちぼち夕餉の時間である。



「腹いっぱい食えよ!」
 ゴリョウの言葉に一同はいただきますと手を合わせ、どれから食べようかと目を輝かせる。希紗良も一緒だ。メイメイもどうしようかと目移りして、どれも美味しそうだからくすりと笑ってしまう。
「ふふ、ゴリョウさんのごはん、どれも美味しいです、からね」
「まだまだ用意はありますよ!」
 配膳するニコルがそう告げて、早速空いた皿を下げていく。料理はあまり得意でないけれど、こういった場所で力を発揮しなければと言うように。
「キサはちらし寿司から頂くであります!」
「とりさん!」
「ケーキ! ケーキ!」
 皆が少しずつ食べ進む中、早々にデザートへ目が釘付けになる子もいる。子供たちが一生懸命飾ったケーキはとても可愛らしい。
(カムイグラまで届く文化……なんだかすごいこと、ですね)
 混沌の中でも文化は交じり合っていく。それが海を隔ててこの地まで広がるだなんて、一体誰が予想しただろう。
 食後の舞ったりとした時間になれば、ゆったりとした音楽を奏でていた繁茂が「歌を歌いたい!」と子供たちからせがまれる。繁茂はもちろんと笑って子供たちへ楽器を貸し、皆で歌い始めた。

 かがやく夜 きらめく星
 せい女さまが くれた光

 あくまも みんなも
 にぎった手を広げ歌おうよ

 シャイネンナハトはうれしいなぁ

 シャイネンナハトは楽しいなぁ

 シャイネンナハトはへいわだなぁ

 シャイネンナハトはまだ続く♪

 歌う子も、奏でる子も、それらを見る大人たちも楽しそうで。イレギュラーズたちからも笑顔がほころぶ。
「輝かんばかりの、この夜に」
 きっとシャイネンナハトの当日もこうして楽しめるだろうとメイメイは楽し気な声に耳を澄ませて。
「ねえ、希紗良ちゃん」
「はい?」
「シャイネンナハト、楽しんでもらえそうかな?」
 シガーに声をかけられた希紗良は彼の方を振り返る。そしてその質問に満面の笑みで返したのだった。

成否

成功

MVP

メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 ここからシャイネンナハトは、もう間もなくという日のことでした。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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