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シナリオ詳細

レディ・ランヴォヴィルのカンツォネッタ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 晩晴に一朶の木が頭を垂れた。瑞枝に滴る雨露は生を感じさせる。
 美しき、聖域――わたくしのせかい。
 長耳の、永遠をも思わせたながい、ながい、いのちに差した一つの期待。
 それが小さな小さな『わたくしのこども』達。

 レディ・ランヴォヴィルは『外』を知らないまま育った。
 閉鎖的な美しき森に住まい、森の中で生きをする。
 読書を楽しみ鳥たちと微睡んで、そんな日々の中にある日、短命でか弱い生き物がやってきた。
 彼は人間種(ほかのいきもの)と自身を名乗り、その在り方を教えてくれた。
 レディ・ランヴォヴィルはそのか弱きいきものに愛情を抱いた。

 ああ、わたくしのこどもたち。かわいいかわいい、まもるべき生き物。

 それは恋ではなく。慈愛のひとつのかたちであった。
 レディは人間種の子供達をペットとして愛することを決めた。
 自身と命の長さが違うかわいいかわいい子供達。
 腱を切り、その命が果てるまで飼い続ける。

 最初に飼育した子供は20を過ぎないうちに亡くなった。心労が祟ったのだという。
 次に飼育した子供は40まで生きた。其れでも呆気なく死んだしまった。

 よわい。かわいそうなこどもたち――ああ、もっともっと、愛してあげるから、ね。


「深緑のある村で『可愛いペット』を飼育しているって噂の幻想種が居るんだ」
『サブカルチャー』山田・雪風 (p3n000024)に神妙な表情をして頷いたフラン・ヴィラネル (p3p006816)は唇を噛んだ。
「もう、聞いた?」
「聞いた……」
 言葉少なに、雪風はフランの頭をぽんと叩いてからイレギュラーズに向き直る。屹度、此れは幻想種である彼女にとっても苦しい話だったろうからだ。
「実は、そのペットというのがモンスターや愛玩動物の類い――ではなくて、人間種だった。
 相手は深緑の中でも更に閉鎖的な村に住まう幻想種。100歳以上なのは確かで、彼女も正確な年齢はもう、覚えてないと思う」
 レディ・ランヴォヴィル――ピオニー・ランヴォヴィルは美しいピオニーカラーの髪を持った幻想種の魔女なのだという。
 在るとき、彼女が『人間種』と出会い、その命の在り方を知ったときに何とも言えぬ感情が沸き立ったのだという。短命の種、自身らと比べれば命の尺度さえも違う。
 故に、レディ・ランヴォヴィルは人間種をペットとして飼育することを決めたのだそうだ。
「で……まあ、ここからが依頼なんだけど。
 レディのペットの一人、人間種の男の子が『何処かで攫われて奴隷商人に売られて深緑にやってきた』事が判明したんだ。レディが其れを何処まで識っているか分からないけど……その両親が彼を探してる」
「じゃあ、人間種の男の子の保護をして欲しい、って事……だよね?」
「うん。そういうこと。人間種の男の子を確保して欲しい、けど、障害は――」

 ――自身の『ペット』として人間種を飼うレディ・ランヴォヴィル。

 彼女の考え方は彼女にとっては当たり前だ。それが倫理に反するとは思って居ない。
 故に、厄介なのだ。誰だってそうだろう。ペットを突如として『奪われる』となれば、反撃を行うはずだ。
「人間種は、ペットじゃないと伝えても彼女は屹度理解、出来ないんだ。
 ほら……よく本でもあるじゃん。『価値観が違うから、永遠に理解し合えない』。
 レディと、俺達じゃ育った環境が違う。レディは未だに閉鎖的な森で『幻想種だけ』が唯一の生き物なんだ」
 そのこころを頭ごなしに否定するか。何も言わずに攻撃し、ペットを奪うか。
 どのようなやり方だってある。けれど――屹度、彼女の変化を行うには『今』しかないのだから。
「もし、皆が良いのならレディにも……変化を与えて遣って欲しいな、って思うよ。
 それは、難しいのかも知れないけどさ。でも、最初から何もしない、は俺は悲しいと思うよ」

GMコメント

 部分リクエスト有難うございます。日下部あやめです。
 見た事の無いものを、そうと認識した彼女に。
 伝えてやってください。ただしいが、どれかを。

●成功条件
 こどもたちの保護
 (レディ・ランヴォヴィルの処遇はここに含めない)

●レディ・ランヴォヴィル
 そのいのちは百を超え、閉鎖的な深き森で過ごした幻想種の娘。
 美しく揺らいだピオニーのウェーブヘアに雪色の瞳。無知で無垢を形にした幻想種の魔女です。
 外見はまだ年若い少女を思わせます。10代半ばで時を止めたような、美しさ。
 彼女には『人間種の子供をペット』にすることへの罪の意識はありません。
 短命で、か弱い彼等は『可愛らしくよわいいきもの』『護るべきペット』です。

 魔術を嗜み、戦います。彼女にとってのペットは愛しくて大切な存在です。
 奪うだなんて、許せない。幻想種(ながくいきるもの)よりも短いいのちの者は皆、愛しい愛玩動物なのですから。

●こどもたち*5
 腱を切られた人間種の子供達。その歳は10歳くらいでしょう。
 レディにとっては愛らしい愛玩動物です。逃げ出そうとするが故に脚の腱を断ちました。ペットのしつけの一環です。
 人間らしい生活は与えられずペットとしての待遇を受け続けています。藁のベッドで眠り、温かな食事を与えられますが其れも全てペットとしての。
 余り満足には動けません。言葉も碌には話せません。けれど、レディに『ペットとして愛されていること』には気付いています。
 彼等が何処から遣ってきたのかは……。

●レディの邸
 深緑のある村に存在するレディの邸です。ペットたちと共にレディは暖炉の前で優雅な時間を過ごしています。
 彼女と、皆さんの考え方は違うでしょう。
 その何方が正しいか。レディにとっては自身が正しいと信じています。其れを正すことも難しいでしょうが――……彼女の処遇についてはお任せ致します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • レディ・ランヴォヴィルのカンツォネッタ完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年12月24日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
背負う者
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
Luxuria ちゃん(p3p006468)
おっぱいは凶器
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)
緑雷の魔女
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
※参加確定済み※
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
月錆 牧(p3p008765)
Dramaturgy

リプレイ


 物語の中では語られる。異種族同士の美しいこいのはなし。そんなもの、紛い物だとせせら笑うように。『価値観が、生きる時間が違うから、永遠には理解し合えない』と綴られた。現実ではわかり合えるだろうと信じていないとは言えなかった。
 嗚呼、けれど――召喚されずに澱の森で生きていたならば。長耳を持った途方もない長い時を生きるいのちを持たぬ主は『人の言葉を話す化物』だったろう。『森の善き友』錫蘭 ルフナ(p3p004350)とて、そう思っていたから――
「一方的な愛、気持ちよくていいわよね……」
 甘い笑みを浮かべてから『己喰い』Luxuria ちゃん(p3p006468)はほぅと息を吐いた。幼いこどもたちは幻想種ではない。ひとのかたちをした『別個の種族』――此れから向かう村に住まうレディ・ランヴォヴィルにとっては庇護すべき存在であり、それが愛玩動物と大差が無いのだという。
「混沌でこういった事例がないことの方が奇跡なのかもしれません。残念ですが」
 呟いた。閉鎖的な国。イレギュラーズを受入れたことさえも歴史的な変化であると呼ばれたその場所は『その色の矛先は』グリーフ・ロス(p3p008615)にとっては何時しか帰る場所だった。領地を頂き、自然と共存するならば、愛すべき隣人を害し否定するのも憚られる。礼節護り、言葉を重ねるが為。進む脚は淀みなく。
「オーダーは子供達の救出ですね。レディの説得は皆さんにお任せします」
 柔らかな声音が静かに響く。『Dramaturgy』月錆 牧(p3p008765)は冴えた金の眸に怜悧な光を宿らせた。運命は濁流にのまれて小舟のようにひっくり返る――それは、自身も、『彼等』も同じであるかのように。思慮深い鬼の娘は囁いた。
「無知で、無垢だっただけ、か」
 呟く声音は刹那を孕む。『いつか月にセレナーデを』クロバ・フユツキ(p3p000145)は此度の仕事の内容を聞いたから、そう感じていた。無知は罪で、無垢は大罪だ。何方も、酸いと甘いを噛み分けなければ人は誰かと共存することは出来ない事を、彼は知っていたからだ。
「……人間をペットかあ。か弱くて、護らなくっちゃいけない。うーん……」
 それがLuxuriaちゃんの言う『一方的な愛』であるのかを『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)は分からない儘。
「無知は罪ね……100年も引きこもってたらああなるものなのかしら。私もインドア派だけど、こんな風になるのはごめんだわ」
 溜息を漏らし、『緑雷の魔女』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)はレディ・ランヴォヴィルの許へ向かう用意を調えた。その傍ら、『緑の治癒士』フラン・ヴィラネル(p3p006816)はそのかんばせを白くする。唇から失せた色彩は『運命が分岐した』そのポイントを探るかのようで。
「――あたしも深緑で生まれ育って、召喚されるまで幻想種しか見たことがなかった。
 外に出た幻想種のあたしが『それは違う』って思っても、彼女にとっては変なことじゃないのは解る。……分かっちゃうんだ」
 フランも、ルフナも。幻想種以外が存在して居なかったならば『他の種は化物』だったのだろうと認識できる。母の影響を受け、書物を読み漁ったアルメリアの見識とは離れた『普通の幻想種の普通の思考』であるかの様で。
「……でも、違うって伝えたい。
 殺しておしまい、じゃだめで……ちょっとでも、届くように」
 怖い。彼女に『違うよ』と伝えても伝わるかも分からない。どうして違うのか、なんて。外に住まう人々の個を殺してはいけないと伝える方法が重く背へと覆い被さる。
「……アルちゃん、手繋いでて?」
 ――正しいって、何だろうとは、問えなかった。そんなの、誰も知らないのだから。


 レディの邸に辿り憑いた幻想種三人は『同じ種』として彼女と滞りなく話を行うという作戦で会った。物陰でその様子を伺うクロバは『交渉』がどう運ぶのか――
 ぎゅう、と手を繋いでいたアルメリアはフランを伺うように視線を向ける。フラン、ルフナ、アルメリアの三人にも思う所がある話なのだ。
「私は今回、あんまり頼りにならないわよ。……もともと人と話すことは苦手だし、この魔女は『逃げるから足の健を切った』なんてのたまってる。個人的には、あまり説得する気にはならないわ。叩きのめして村の人に引き渡せばいいとさえ思っているもの」
 アルメリアにフランとルフナは渋い顔をした。それは愛玩動物である鳥や犬と同じような扱いだ。逃げるから脚の腱を立ってしつけた、というのは籠から逃げ出そうとする鳥などに良く行われる行動ではなかろうか。
「……けど、話しておきたいんだ。
『外を知らなかったら』そうなったかもしれないと思うあたしだってそこにいるから」
「そう」
 ノックを数回。それに応える様に「どなた?」と戸を開いたのはピオニーパープルの髪を持つ幻想種。
「レディ・ランヴォヴィル……でいいかしら?」
「ピオニー・ランヴォヴィル……レディ・ランヴォヴィルで呼ばれるのはわたくしよ」
 穏やかな女であるという印象を第一に受けた。物陰で見つめていたグリーフはレディは糾弾される事等ない清廉なる女であるかのようなかんばせをしていると感じたのだ。
「実は、僕らは攫われた異種族の子供の足跡を追ってきたんだ。
 異種族……っていうのがレディ、君が『飼っている』ペットなんだけど……」
 伺うルフナの声にレディは驚いたような顔をしてから「まあ、どの子の事?」と振り返る。ひょこ、ひょこと足を引きずりながらも屋内で伸び伸びと過ごす人間種の子供を見てアルメリアはあんまりにも複雑な心地になった。
「攫われてきたの? わたくしは、飼育を行う人を募集しているとしか聞いておりませんの。
 まあ……何処かで『飼われていた』のね。御免なさい、そうとも知らずにうちの子にしてしまって……」
 その口調があくまでも愛玩動物に向けるが儘であるのは仕方がない事なのだろうか。
「えっと……子供の具合を見てもいい? 家族が探してるし、なによりも調子が悪そうで。心配なの」
 触ってもいいかな、と囁いたフランにレディは「どうぞ」と微笑んだ。其処まで見て居れば普通の様子だ。ある意味でアルメリアは拍子抜けである。
(この人は『本当の意味合いで子供を愛玩動物』だと思っているのかしら……?)
 困ったような顔をしていたアルメリアを見つめてレディは「浮かない顔をして、お紅茶でもお飲みになる?」と囁いた。
「あのさ、その……これは正直なお願いだから、気を悪くしたら御免。
 密猟されるような形で攫われてきた弱い子供達を親元に返してほしい、せめて会わせてあげて欲しいんだ」
「……それ、は……わたくしの可愛いペットを取り上げるというの?」
 雲行きが怪しくなったか、と誰もが感じていただろう。微笑んでいたレディの表情が曇って往く。
「シェーニャも、クレスも、わたくしの子ですのよ?」
「レディさん、この子はシェーニャじゃないよ。ルイっていう名前がある。
 クレスだって、マリアンって名前があるし……言葉が通じるのに、どうして何も聞いてあげないの?」
 レディは「森の外の言葉など分かりませんわ」とそう言った。ルフナはその感覚に覚えがある。人の言葉を模した似通った形の生き物。それを人種が違う存在と認識できたか否か、だ。
「……逃げようとしたから彼らの脚の腱を断ったんでしょう、望みも断たれたから動かなく、話さなく、元気がなくなっているんじゃないのかな」
「……クレス」
 囁く声に「ママ」とか細い返事が返された。愛されることは知っている、だけれど、「ぼくは、おうちにかえりたい」――
「……そう、言ってる。だから、この子達が望むなら、外に、親にお別れだけでもさせてあげられない?
 もちろんレディも一緒に来て欲しい、彼らが生きる世界を見てほしい、僕らで守って見せるから」
「……これはわたくしの意地なの。三人、だけではないのでしょう。
 わたくしが渋ったら、この子たちを取り返すつもりだったのでしょう。なら、力づくで奪いなさい」
 レディの声音が震えている。牧とグリーフはその言葉に姿を現した。元から彼女は、分かっていたのかもしれない。
「わたくしだって、この子たちを護る為に戦います」
 ママと呼んだ『ペット』に対して「ええ、ママは守りますよ」とうっとりと微笑んで。


「落ち着いてください。あなたを助けにきました。帰りましょう、あなたを待っている人のところへ」
 声を掛けた牧を見つめていた少年は恐ろしいと言うように見上げた。奴隷商人に拐かされてきた子供たちだ。見ず知らずの大人を頼る事も出来ないのだろう。
「レディ、貴女は普段、その子たちの健康管理をどうされていますか。
 私は多少ですが、彼らの身体を看る術を心得ています。よければ、診させていただくことはできませんか? 戦う前に、私は深緑に領地を頂く人間としてレディの事を知っておきたい」
「傷つけないのならばよろしいのでは?」
 警戒するレディにグリーフは穏やかにフランの元へと歩み寄り子供たちの様子を確認する。
「……健康状態は悪くないのですね。食事も良く与えられている。
 ただ、本来この子たちは貴女と同じ、2足で歩く存在。それを奪われれば脳や身体の発達に影響が起こります。血流も悪くなり、骨格への負担もあるでしょう。栄養も、貴女と同じように食事をとります。陽の光を浴びることも大事です」
「……まあ。なら、わたくしと同じ食事を与えればよかったのね。御免なさい、みんな」
 ――それが、愛情の表れである事を感じ取るクロバは驚いたように目を見開いた。堂々巡りであれどもその愛情は確かに本物であるからだ。
「ヒトもペットを飼いますから、全てを否定はできません。
 ただ、もし彼らにこことは別に、帰る場所があるなら……手放してあげることは、できませんでしょうか?」
「嫌よ」
 ほら、とアルメリアは肩を竦めた。クロバは小さくため息を吐く。
「さっき、君は『力づくで』と言っただろう。それは幻想種という長く生きる命が、短命種を庇護すべきだと思っているからか? それとも母であるという意地か?」
「どちらも」
 柔らかなピオニーパープルが揺らいでいる。洸汰が子供たちの元へと近づこうとすれば「入らないで」とレディが鋭い声で言った。
「わたくしの愛しい子たちに何をするつもり? わたくしは、この子たちが『飼い主を探している』と聞かされました。
 ……わたくしからこの子を奪うつもりでやって来たように思えてならないのです」
 敵愾心であると、クロバはその肌に感じた。洸汰は子供たちを力づくで奪うというなら戦闘で巻き込む可能性があるのではないかとレディへと食い下がる。
「この子たちを殺すつもりですの?」
「違う。オレはその子たちを守りたいんだ」
「……なら、わたくしが諦めるまで外で話しましょう。聞かせて下さる?
 あなた達がわたくしからこの子たちを取り上げる正当な理由を。『親が探している』なんて大した理由ではありませんの。……だって、あなた方は親ではありませんもの」

 レディの庭園は美しい花が咲き誇っている。窓から覗く子供たちに「待っていてね」と微笑んだ女は魔術のひかりを揺らめかせる。
「レディさん……戦うなんて、ダメだよ」
 唇を噛んだフランの肩をぽん、と叩いたクロバは「安心しろ」とそう言った。
「彼女を苛めるつもりはない、辱める事もしない……よく頑張ったフラン。君の意思と、俺達の反抗を以て示そう」
「ええ。わたくしもわたくしの遺志を此れで示す。……そうしなくては、分かり合えないのでしょうから」
 女のかんばせに湛えられた悲哀にLuxuriaちゃんは微笑んだ。慈愛の女神の様にうっとりとした笑みは、恍惚に濡れている。
「そうやって愛する事っていいわよねぇ。満たされているって感じられるもの。
 よく解るわよ。私もそういう生き物だから……でもその愛はひどく独善的、貴女はアレから愛されているのかしら?」
 穏やかなLuxuriaちゃんの瞳の淡い蜜色に女は「愛されていると信じて居たかったのよと囁いた。


 子供たちに問いたいことがあった――「帰りたい?」と。
 そう問うて彼らが頷いたならばレディはどういうだろうか。彼女が愛したものを『取り上げる立場』になることを失念してはならなかった。それが元ある場所に戻ると言えども、おんなとて確かに『ペット』を愛していたからだ。その価値観のゆがみを正す事が出来ない儘、アルメリアは溜息をついた。
「あの子たちに人間扱いをしてあげることは? 帰りたい子は帰してあげればいい。
 そうじゃない子は共に生きる存在として考えればいいでしょう。アンタは第二第三のザントマンになろうとしてるのよ」
「そんな悍ましい存在ではないわ」
 首を振るレディに「ペットであると、其の儘で扱うならそれも同義でしょう」とグリーフはそう言った。
「そうだ。ペットだって、あれは人間じゃないか!」
 洸汰が唇を噛む。牧は「子はどんなになっても親は子とまた会えるのを望むでしょう」と囁いた。根気よく説得する時間はある。子供たちが愛情に気付いてくれるまで、その言葉を告げたかった――が、牧とて感じた事だろう。レディは本当に子らを慈しんでいることを。
 レディの周囲から漂う馨しさは魔力。その魔力のひかりが牧へと落ちた。ちり、と肌を焼いたその一閃、構う事はないと距離を詰めて炎を纏う。
「ヒトは確かに短い時を生きる存在だろう、だが――”それがどうした”。
 今から君と戦う事になる、けれどそれは奪うためじゃない。
 貴女に証明するためだ。弱く守られるだけの存在じゃない、時に力を合わせどんな壁をも超えていける強さも持っているという事を!」
「……ええ」
 クロバの言葉にレディは深く頷いた。子供たちの代弁者。そうする様にクロバが藻掻き手を伸ばす。グリーフは子供たちの側についていますと静かにそう言ってそれらの健康確認を行いながら静かに問うた。
「レディの事は好きですか?」
「……はい」
「帰る所がある、といったら?」
「ママと、友達になってから、帰りたいです」
「……良い子ですね」
 その様子を眺めながらアルメリアの雷がレディを撃ち続けた。洸汰は唇を噛む。彼女を見遣り喉奥から吼える様に。
「人間舐めんなッ! 人間って、お前が思うほど弱くって、すぐ死んじゃう生き物なんかじゃねーんだぞ! オレだって、いくらぶっ叩かれたって、痛くたってへっちゃらなんだからなー!」
 人間種ではなくて旅人。故に、レディから見ればそれは『ひどく恐ろしい生き物』だったのだろう。混沌世界の外から現れた恐ろしいいきもの。
 そう思われても仕方がないという程に、この森は深く閉ざされていたのだから――
「そりゃ、世間は危険がいっぱいだけど……それからどうやって逃げたり、戦ったり、身を守ったりするのか教えるのが、オレ達にーちゃんの仕事でもある。
 その子達を『守る』方法なら、他にも幾らでもあるんだぞー!」
「ああ……人生っていうのは、いろんな冒険があったのさ。
 楽しいだけじゃない、時には辛く失う事もあった。でも、全部自分で選んだんだ。
 貴女のような人に守られれば確かに安全なのだろうな。けど、それを決して”生きている”と言わせない! ――護るべきペット? ふざけるな、生き方を選ぶな、押し付けるなッ!!!」
 選び取るからこそ、人は生きていける。クロバが叫べばレディの手から杖が落ちていく。
「ねえ……『押付けるなら』私達があなたをペットにしても、善いってことよね?
 私、ちょうど可愛らしいペットが欲しかったのよ。嫌ならあのこどもたちで我慢してあげてもいいけど?」
「私の愛しいあの子に、なんてことを!」
 レディがLuxuriaちゃんに対して吼えた。それだけ愛しているならば、その声に耳を傾けて欲しかった――

「レディさんのばか!」
 全力で、その脚へと叩きつける。フランは涙を流した。
「痛いでしょ、皆きっと痛かった!」
「……ええ、痛いわ。わたくしは……護る為だったのに……」
 膝を付いたレディの側でクロバは静かに「レディ」と呼んだ。
「――分かれ、とは言わない。見に来ないか? 俺達の生きる残酷で美しい”外の世界”を。その上で、どうしたいかを選んでほしい。必要なら俺も手を貸す。だからどうか、知ってほしいんだ。……共に生きるという事を」
 青年のその言葉に、レディは静かに首を振った。
「こわいわ」
 まるで、それは蚊が鳴くかのような声であった。一緒に行こうと手を差し伸べる洸汰も可能ならば自身の店で世話を見てやりたいと願ったLuxuriaちゃんも、その言葉の前ではどうしようもないと首を振る。
「……うん、怖いよね。屹度、外は怖いよ。ね、今度はあたしの友達を連れて来るし、一緒にお茶しよ。
 子供たちで帰りたい子は帰してあげて。そうじゃない子はレディが一緒に生きるペットじゃなくて『家族』にしてあげて。……幻想種は長生きだもん、新しいことを知る時間は十分あるよ」
 微笑んだフランにレディは「ええ」と静かに泣いた。子供たちは家に帰る事になる。ただ、一人だけ「帰る家なんてない」と首を振った小さな子供――『クレス』だけは彼女の側に寄り添って。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度は部分リクエストにご参加いただきありがとうございました。
 たくさんの考え方があり、「すべてが円満におわりました、おしまい」は屹度難しいお話であったかと思います。
 皆さまの想いや、感情を伝えていただき誠にありがとうございました。

 レディは森の中で静かに生きていきます。一人だけ残った子供と共に。
 また、外を教えてあげてください。彼女は未だ、知らない事ばかりですから。

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