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シナリオ詳細

<Raven Battlecry>ラリマーの泉

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「なあ、色宝があったらどうするよ?」
 秘宝の話をすればこんな問いかけ、どこかでは聞いたことがあるはずだ。人に望みは何かしらあるもので、そこには本性だって見え隠れする。そんなものをちょこっと聞きたい、知りたい――そんな思いがこの言葉を口にさせるのだろう。
 とは言っても大抵は夢物語で終わってしまう。力も金も無ければ見つけ出すことだってできないし、見つけ手に入れたならば首都ネフェルストへと運ぶだろう。
 それ1つで起きる奇跡などたかが知れているし、『悪用されたら危ない品』だから首都で管理してもらう方が面倒ごとには巻き込まれにくい。しかも報酬が出るのだから余程現実的だ。夢は抱くものであれど、見なければならないのは現実なのだから。
 けれども勿論、そうでない者もいる。1つで起きる奇跡に限界があるのならばもっと集めてしまえば良い。悪用? 知るものか!
「なあ、色宝があったらどうするよ?」
 だから男たちは問いかけ合う。夢物語ではなくて現実の物語へするために。最も彼らの願うことなんてありきたりで、金だとか女だとか言うのだけれど。
 それでも、だって、心躍るじゃないか。『お頭』は少しなら使ってもいいって言っていたんだから!



「もう知っての事と思うが、ラサの首都に盗賊たちが攻め込んでくる」
 『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)は開口一番にイレギュラーズたちへそう説明した。
 ここまでの流れを簡単に追うとなると、その始まりはパサジール・ルメスの民レーヴェンよりFarbeReise(ファルベライズ)への誘いがあったことによる。彼女とローレットに在籍するリヴィエール、そしてイレギュラーズたちでファルベライズの外殻に施されていた仕掛けを解いたのだ。遺跡群には『小さな願いを叶える』という秘宝が隠されており、それは決して御伽噺のみの存在でないことが実証されたのである。

 ひとつひとつは小さな願いしか叶えなくとも、これが集まったらどうなるか?
 大きな願いを叶えることもできるのではないか?
 そこに邪な意志があったとしたら?
 そもそも大きな願いは――正しく叶うのだろうか?

 悪用を危惧したラサは『首都で管理し、商人と傭兵が相互に見張る』という体制を提示した。しかしこれに従う者ばかりではない。大鴉盗賊団を始めとした盗賊団は自らの願いを叶えんと色宝の略奪・確保の動きを見せていた。過激となってきたその行動の中、有力商人ファレンの妹であるフィオナ・イル・パレストは――やはり商人の血だろうか――独自の情報網により此度の強襲作戦について情報を得たのだそうだ。それがフレイムタンの告げた話である。
 色宝は広く伝えられているように首都ネフェルストで管理されている。故に、ネフェルストへ盗賊を1歩たりとも入れさせるわけにはいかない。折角情報が得られているのだ、もっと手前で防御を固め迎撃してしまおうというのが今回の全体作戦となる。
「盗賊たちの一団がこちらの方向から来ると想定されている。故に、我らはこのオアシスより前で盗賊たちを食い止めることになるだろう」
 フレイムタンがラサの地図を指でなぞる。示したオアシスは首都ネフェルストにほど近く、ここならば多少ルートの変更があったとしてもすれ違うことなく接敵できるということだろう。ネフェルストほどではないが、迎撃地点の付近にあるオアシスもまた人の集まる場所だ。ここを通過させるわけにはいかない。
「……ところで妙だと思わないか」
 フレイムタンが呟いて顔を上げる。彼の瞳に映るイレギュラーズの表情はきっと、何とも言えないものになっているだろう。
 だってあまりにも迂闊ではないだろうか。これが彼らの常であるのなら、アジトの位置だって容易に割れているだろう。
「つまり、そういうことだ。わざとこの情報は流されている」
 イレギュラーズたちがこちらへ注意を向けるように。『何か』から注意を逸らすように。
 けれどもこの情報もまた嘘ではない。故にこの防衛・迎撃作戦はなくてはならないものなのである。例え、その裏で何かが起こっているのだとしても。

GMコメント

●成功条件
 盗賊たちの撤退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。嘘はありませんが、不明点もあります。

●エネミー
・盗賊(剣)×4
 片手剣と盾を持った盗賊です。防御技術に長けており、前線へ出てきて戦います。タンク的な役割もするようです。
 ガサツな者が多く、結構お喋りです。ちなみに彼らは『美味い酒』を浴びるように飲みたいらしいです。

挑発:自らのペースに乗せるべく挑発します。【怒り】
肉盾:その身は盾なのです。2人までブロックできます。

・盗賊(双剣)×3
 双剣使いたちです。物理攻撃に長けており、前線へ出てきて戦います。
 こちらは剣持ちの盗賊とは反して言葉少なな者が多いです。アイコンタクトで何やら合図を送っているようですが、何を合図しているのかはよくわかりません。

鎌鼬:見えない刃を飛ばします。【出血】
翻弄:その身は一陣の風のように。【回避力UP】

・盗賊(魔術)×2
 魔術に秀でた盗賊たちです。神秘攻撃に長けており、多少ですが治癒魔術も使用します。
 弱気で仲間たちから何か言われるたびにびくびくしていますが火力は強気です。

ホーリーサークル:聖なる輪の内に居る味方を癒します。【治癒】
火炎鳥:温度の高い青い火の鳥が襲い掛かります。【火傷】【万能】【必殺】

・盗賊(弓)×2
 遠距離攻撃に秀でた盗賊たちです。回避はそうでもありませんが、命中力が高いです。後方から【識別】で範囲攻撃を撃ってきます。
 後方から攻撃できる役を生かし、全体的な動きを見る役目でもあるようです。弱っている者を中心に攻撃してきます。

毒矢:毒の塗られた矢が飛んできます。【毒】【致命】
痺れ矢:痺れ薬の塗られた矢が飛んできます。【痺れ】【乱れ】

●友軍
『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)
 精霊種の青年です。至近~近距離アタッカーとして戦います。皆様から指示があればそれに従います。

●フィールド
 オアシスからほど近くの砂上です。昼間で見晴らしはよく、隠れるような場所もありません。盗賊たちの姿がよく見えると同時にイレギュラーズたちの姿も良く見えるでしょう。
 オアシスには心安らぐ泉があり、その付近ではまだ商人や一般人が残っています。盗賊たちとは交戦する手段を持ちません。

●ご挨拶
 愁と申します。
 オアシスに、そして首都ネフェルストに盗賊を入れないため踏ん張っていきましょう。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • <Raven Battlecry>ラリマーの泉完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年12月21日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
優しき水竜を想う
一条 佐里(p3p007118)
砂上に座す
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
カイロ・コールド(p3p008306)
闇と土蛇
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ターヤ・スカビア(p3p009322)
黒棘

リプレイ


 砂漠地帯独特の熱風と乾燥した空気。背後にはそれが若干なりとも和らぐ場所があるのだが、イレギュラーズ一同はそこでのんびりとしている場合ではない。そうして立った砂漠は只々広く、世界の果てまででも続いているような錯覚に陥らせる。冒険者や傭兵、そして盗賊はその砂地に夢を見るのだろう――財宝や知識、力と言ったものを。
「それにしても、わざと情報が流されている……ですか」
 『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)は周囲へ視線を走らせる。ここまでだだっ広い砂漠とあれば、そしてこの辺りを通るのだと知っていれば早々見逃すことなどあるまい。まるで『見つけて欲しい』と言っているようではないか。
「それで、その裏でこそこそと動いてるって? ま、そっちはそっちでどうにかしてくれんだろ」
 それが仕事だと『博徒』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は肩を竦める。そしてそちらが仕事であると同様にこちらも仕事だ。たとえ囮だろうと本体だろうと、向かってくる敵を迎撃しなければならないという事実に変わりはない。
「ええ。こっちも見つけて潰せば何の問題も無いわね」
 そう告げるのはドヤ顔を浮かべるウニ――じゃなくて『黒棘』ターヤ・スカビア(p3p009322)である。つい先ほど『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)が思わずウニと呟いたら即座に否定されたのでもう誰も言わない。
「でも精霊の予感っていうのは当たるものなのね? ほんとうに『悪い人』が色宝を狙って襲ってくるなんて」
 以前何某かの精霊と――恐らくは色宝を守っていたモノと――そのような会話があったのだろう、『木漏れ日妖精』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は周囲の精霊に協力を要請しながら呟く。砂漠にいる精霊たちは周辺の見回りを引き受け、ふよふよと乾燥した土地の空気を泳ぐようにどこかへ向かっていった。周辺と指定したからあまり遠くまでは行っていないだろう。
「もしかしたら最初から狙ってではなくて、隊商なんかを装ってくる場合もあるかもしれませんね」
「逆に一般人を怪しむ結果にはならないと思いますが、注意は必要でしょう」
 『砂上に座す』一条 佐里(p3p007118)の言葉に『ひねくれ神官』カイロ・コールド(p3p008306)が頷く。元々オアシスにいた商人や民間人にはここから離れないようにと伝えてあるが、その言葉ひとつで全員が留まるとは思わない。ここより首都内の方が安全と思えば決死の覚悟で移動していくのだろうし、それをカイロに止める気はなかった。庇う余裕なんてないのだから自己責任である。
「ふふふ、絶好のお金稼ぎタイム……おっと間違えました。ラサの平和を守る為の崇高な任務です」
 カイロの口から願望が飛び出てくる。咄嗟に取り繕ったが、飛び出た言葉は返ってこない。最もここにいるイレギュラーズとてその目的が完全に同じというわけではあるまい――その過程で共に戦うことになったに過ぎないのだから。
(俺だったらどうやって進む……?)
 盗賊の思想を真似るように考えながらアーマデル・アル・アマル(p3p008599)は霊魂を探して呼びかける。オデットが精霊へ助力を求めるのならばアーマデルは霊魂へ。首都を守るためにと語りかけるのだ。そしてアーマデルは自身の周囲にいた霊魂へも助力を乞うが――。
『えー……』
「あとで酒をやるから」
『後でっすか……シワいっすわ……』
 この通り、やる気はなかった。ちなみにこれでも生前は巫女であるらしい。
「まあ、陽動作戦ってのは丸見えなんだが――どーも策だけは働いてる割に『下手』だな、連中」
 『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)は事前に教えられた情報を思い返しながら首を捻る。所詮は捨て駒、ということだろうか。盗賊団の大将が部下たちをどのように思っているか手に取るようだ。

「――近くまで迫っているみたいよ」

 オデットが固い声で告げる。沙月がオアシスを経由しそうか問えば、オデットは精霊の声に耳を傾けて暫し頷いた。
「真っすぐ向かってきているって」
「成程。ならば到達させるわけにはいきません」
 自衛手段のない者たちが集まっている場所だ。通してしまえば色宝だけではない犠牲が出る。
「見えてきましたね……」
 優れた視力で砂漠の向こう、小さな点である相手を発見した佐里。ターヤが双眼鏡を使ってその姿に目を凝らす。かなり堂々とこちらへ向かってきているようだ。
「アイツらからもう見えているのかしらね」
 こちらから見えているということは可能性はあるだろう。向こうがその原理に気付いているかどうかは定かでないけれども。
「気づいていようといまいと変わらないさ。特別に招待してやろうぜ――ただの理不尽で、あっけなく訪れる『不都合な真実』って奴にさ」



 そろそろ行きましょうかね、と駆けだしたのはカイロだ。只人の目視でも確認できるほどになった影に突っ込んでいけば嫌でも相手だって気付く。
「おい、何か来たぜ!」
「神官じゃねえか」
「なあ兄ちゃん、色宝って知ってるかい?」
「ええ、知っていますとも」
 カイロの言葉に男たちはニヤリと笑う。いかにもごろつきといった風情の輩たちだ。変装すらもせずにのこのこやってくるとは馬鹿なのか――それとも、此れも作戦の内か。
「貴方がた、大鴉盗賊団ですね? 私、カイロ・コールドと申します」
「此れはご丁寧なこって。そうとも俺たちゃ――」
「ああ、名乗らなくて結構。微塵も覚える気がありませんから」
 ばっさり切り捨てたカイロに盗賊たちの笑みが固まり、次いで憤怒の表情へ変わっていく。
「このクソガキィ!」
「そこまで子供じゃありませんけども~……ま、いいか」
 十分に怒りは煽れただろう。カイロは黒の聖杖を構えた。が、魔術師のくみ上げる魔力と現れた火の鳥に思わず声が上がる。
「これは……なかなかですね~」
 温度の高い青の鳥。術者の高い力量を感じながらカイロは位置を変え、敵を引き付けて戦線を崩す。そこへ歌われるは物悲しい狂気に似た不協和音。アーマデルの放つそれと共にニコラスは高速詠唱で高密度の魔弾をまとめ上げ、カイロの引き付けた敵諸共撃ち抜いた。
「ぐわあっ」
「長引かせたくはねぇからな。短期決戦といこうか」
 ニコラスが間髪入れずに次の魔弾を撃ちあげる。少しあせたような青空に光が上がり、細くなって消えた。
 しかし向こうとてやられてばかりではない、と言うように弧を描いて無数の矢が飛んでくる。沙月は肌に走った朱を一瞥し、されど気にした風もなく駆けだした。
(思惑に乗るのは癪ですが、全力を持ってお相手致しましょう)
 流れるような所作は、まるで月揺らぐ水面のように。たおやかなれど優雅な一撃に魔術師が呻く。追撃するようにフレイムタンの炎を纏った攻撃が敵を打ち、続くように闘争心を燃え上がらせたターヤが狼牙棒『黒棘』を振り上げた。
「月並みだけど、ここに来たのが運の尽きってね!」
 振り下ろされるその瞬間、しかし硬質な音と共に武器が弾かれる。にぃ、と盾越しの笑みを見た。
「なんだ、ウニか」
「はぁ!?!?」
「こんなところにいたら干からびちまうぜ?」
「違うんだけど!?!?」
 怒り心頭、ターヤは執拗に男へ向けて武器を振り上げる。どう見てもペースに呑まれているが――こればかりは正気付くのを待つしかない。それよりもターヤが1人を相手取っている間に他を倒してしまうほうが効率が良いだろう。
「さあ、あなたたちの好きな環境よ! 思いきり暴れちゃって!」
 オデットの使役する熱砂の精霊が砂嵐を巻き起こす。佐里はそれが止んだのを見計らってリコシェットを放った。後衛がまとまっていようと関係ない。彼らの急所を外れようともより多くへダメージを与える射撃なのだから。カイトもまた冷たき桜の幻影を彼らへと見せる。
「何か仕掛けて来るぞ!」
 戦いの最中、ニコラスが声を上げる。同時、双剣を持った2人がぱっと走り出した。それぞれ別方向へと向かう彼らはある地点で突然進路を折れ、イレギュラーズたちへ向かってくる。構えると同時、肌を薄く何かが切り裂いた。
「これは……っ」
 見えない刃が迫るものの、それがどの様な軌跡を辿っているのかもわからない。パンドラの奇跡で耐えながら応戦するイレギュラーズたちは、不意に響いたカイロの口上に喜色を浮かべた。
「やはり魔術師は厄介ですね」
 カイロは向かってくる敵の先、治癒魔術を練り上げる魔術師を見据える。彼らは仲間を正気付かせる術も持っているらしい。逆にブロックされてしまえばやりづらいことこの上ないというもの。
「さあ、さっさとよろしくお願いしますよ。本当は投降して下さったら一番なんですけれどね~」
 前衛組を引き付けるカイロ。彼が倒れるより早く仕留めなくてはならない。最も彼自身は治癒術をガンガンに使って粘っているようであるが。
 ニコラスは早々に仕留めるべく魔術師たちへ気迫と斬撃で追い詰める。止めどない連撃に相手から情けない悲鳴が上がるが、そこへさらに容赦なくフレイムタンが炎を浴びせた。
「ひぃ! あ、あんたたちだって、色宝があったら叶えたい願いもあるだろう?」
「叶わないと知っていますから」
 佐里の射撃が魔術師や弓使いを追い詰める。決めごとを破るような真似までしても叶わないものを掴みたいとは思わない。
(彼らにとっては叶うものなのかもしれませんが……果たして願いの強さとモラルの低さ、どちらが決まりを破らせたのか)
 佐里は糸を操りながら彼らを観察する。とてもではないが――前者には、見えなかった。
「魔術士はおさらばだ。後衛はアンタたちだけだな」
 カイトは弓使いへと向き、黒いキューブの中へ1人を閉じ込める。このままオアシスを見ることもなく去らせてやろう。なんていったって、砂漠の中のオアシスと言えば『死に際の都合の良い時』に見てしまうものなのだから。
「くそっ!」
 悪態交じりに射られた一矢が沙月を襲う。何かが塗布されている気配がするが、沙月は顔色ひとつとして変えない。
「どうして、」
「ききませんから」
 一瞬の隙に美しき一撃。それ以上の声も出ず、弓使いは砂の上に転がった。
「まだまだ倒し足りないわよ。コイツの餌食になるといいわ!」
 ターヤは残った弓使いへ武器を振り上げる。黒く光るそれが太陽の光を受けて光った。あ、と小さな声が上がるも彼女に容赦という言葉はない。手加減なく振り下ろし、イレギュラーズたちはカイロの引き付ける敵の元へ急ぐ。
「なああんた、何が欲しいんだよ」
「私ですか? まー……お金ですかねえ」
 カイロは攻撃を耐えながら相手の問いに答える。どうやらこの男たち、存外お喋りだ。今も俺たちゃ酒が欲しいだなんてほざいている。
「――成程。では、遠慮なく呑むといい」
 背後からアーマデルが呟くとともに酒の匂いが香る。死神の系譜には優しき香りであれど、その加護がなければただの猛毒。焼けつくような痛みに賊たちが苦しみだす。アーマデルの傍らで霊魂である巫女が嬉しそうな顔をしているのが一瞬見えた。
「おい、回復を」
「もういないぜ」
「それにあなた、治らないわよ」
 カイトとオデットの言葉に一瞬呆ける盗賊。彼らはようやく後衛が残らず倒されたことと、自分たちに回復の利かぬ何かが施されたことを自覚したらしい。
「ちっ……ずらかるぜ!」
「おっと、」
 颯爽と走りだす盗賊たち。それを追いかけるニコラスは、彼らを止めんとうち1人へマークする。
「ここがお前らの夢の終着点だぜ」
「さて、どうだか、ね!」
 喉の痛みがまだあるのか、苦し気に笑みを浮かべた男が敢えて後退する。一瞬の隙を突いてニコラスのマーク外へと逃れた彼らは再びどこか――少なくともイレギュラーズたちのいない方向へ――走り出したのだった。

「……見事な去り際でしたね」
 沙月はあっという間に砂丘の向こう側へ消えた賊たちの方を見る。可能ならば指示者や陽動の意図などを問い詰めたかったところだが、こればかりは仕方がない。
(次はあるのでしょうか)
 未来など起こってみなければわからない。けれども何となく、何かがまだ起こりそうな予感がある。
「しかし、首都を目指す盗賊の多い事」
 カイロもまた消え去った方向を見やる。彼らのような者はもっといるし、その多くをイレギュラーズや傭兵たちが相手取っているのだろう。まるで色宝という砂糖めがけて進む蟻のようだ。
「ま、ここはこれで大丈夫でしょ。戻って報告しないとね」
「ああ。他の戦況も気にな――」
 頷いたフレイムタンはそのまま視線を滑らせ、おやと片眉を上げる。それにターヤは「なによ」と口を尖らせた。……ウニ、もとい影を纏っていない姿で。
「新手じゃ無いわよ」
「それは心得ている」
「それとも私に見惚れた?」
「……さてな。では、戻るとしようか」
 何よ今の間、と突っ込むターヤを躱しフレイムタンが皆へ告げる。ぞろぞろと踵を返す中、佐里はふと振り返った。

『あんたたちだって、色宝があったら叶えたい願いもあるだろう?』

 盗賊たちの言葉がよみがえる。佐里は視線を下に落とした。
 ああ、勿論あるとも。他でもない――二度と会えない――家族。友人。先生、近所のおじさんおばさん。彼らの笑顔がもう一度、見られるのならどんなに良いだろうか。
(私の願いだって、ありきたりですよ)
 小さく笑った佐里は仲間たちに呼ばれて今度こそ踵を返す。その表情は懐古の念など感じさせない。
 そういう願いももしかしたら、色宝を集めたら叶ってしまうのかもしれないけれど。それでも『失ったものは戻らない』ことこそが現実だ。あの日に燃えたものが元通りになるわけでもなく、死んだ者が生き返ることなどありはしない。上手くいっても一時の夢だろう。
(……ああ。そういえば混沌ではそういう研究をしていた場所があったという話もあったような)
 それでもうまくいった話なんて聞きやしない。世界というのは、そういうものなのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

カイロ・コールド(p3p008306)[重傷]
闇と土蛇

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 彼らは立て直しに時間がかかる事でしょう。その頃にはネフェルストも更に万全の態勢であるはずです。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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