PandoraPartyProject

シナリオ詳細

その先に待つしあわせの為に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「皆さんはこう思った事がありませんか? どうして自分はこんなにも不幸なのか。恵まれないのか。幸せが得られないのか? と。残念な事にこの世は、全ての人々が平等に幸福を得られる様には出来ていないのです」
『シスター・ピリカ』は語り出す。自らが引き連れてきた信者達と、椅子の上に縛り付けられた村人達の前で。
「ですがそれは、あくまでも1人の人間としての『一生』の中での話……全ての人間には等しく幸福は与えられません。しかし全ての『魂』には、平等に幸福が与えられるのです」
 目を輝かせながら、壇上にて語られるシスター・ピリカの話に耳を傾ける信者――否、狂信者達。
「ムグ……ウーッ!! ウーッ!!」
「黙れ!! シスターのありがたいお話を邪魔するな!!」
 捕縛から逃れようと1人の農民がガタガタと身体を揺らすと、即座に狂信者の1人が立ち上がり、その顔面に容赦なく鞭を叩きつけた。
 そんな様子をにこやかに眺めるシスター・ピリカ。そのまま何事も無かった様に話を続ける。
「これはつまりどういう事か? ここで大事なのは、輪廻転生という概念。即ち、死んだ者の魂が行きつく場所が重要なのです……時々、気の狂った異教徒達は死者の魂は死後の世界へと流れる、あるいは消滅するなどとのたまいますが、これは大きな誤りです。死んだ者の魂は、再び新たな肉体に宿り、この世に顕現するのです!」
 大きく両手を広げ、力説するピリカ。その両腕には、激しい苦痛を与える劇毒がたっぷりと塗り込まれたクロスボウが装着されていた。
「そして再びこの世界に顕現した魂は、前世に受けた様々な出来事――理不尽な生い立ちや、心を潰される様な事件。そして悲惨な最期など、前世に受けた様々な不幸の量に応じて、それを上回る幸福を受ける事が出来る――これこそが、我々の唯一の神の信託によって明らかになった、世界の真実なのです」
 ここまで語り終えたピリカが狂信者の1人に目配せすると、狂信者は全身を縛られた1人の村人――女を壇上まで担いでくると、ドサリとピリカの眼前に放り投げた。
 猿ぐつわをされた村人は呻くことしか出来ないが、涙を流しながらブンブンと首を振り、ピリカに訴えかける。
 殺さないでくれ、と。
「分かります……死ぬのが、怖いんですよね? でも大丈夫です。安心してください……確かにあなたは今からとっても苦しい目にあいます。でも、それだけなんです。ほんの少しの間だけ苦しい目に会えば、次の人生ではずぅーっと幸せで居られるんですよ? 一足先に次の人生に旅立ったあなたの夫もお子さんも、必ず幸せになれます。もし再び次の人生で出会う事があなたの幸せならば、必ず巡り合えます。だから――どうか、怖がらないで」
 優しく語り掛けたピリカは、そのまま両腕のクロスボウから矢を射出。2本の矢は、それぞれ女の両足首を貫いた。
「――――ッ!! ――ッ!!」
 女は声にならない叫びを上げた。矢に塗られた毒は瞬く間に全身を巡る。
 熱くて冷たくて痒くて煩くて気持ちが悪くて眩しくて暗くて苦しくて辛くて――いっそ早く殺せと女は思った。
 だが死なない。何故ならすぐに死んでしまっては、大した苦痛を得られないから。次の人生で大した幸福を得られないから。だからピリカはすぐには女を殺さない。
 再びピリカは狂信者に目配せすると、ガラガラと様々な拷問器具が乗せられた台が運ばれてくる。
「……私の声が、聞こえますか? 苦しいですか? 死にたい程に苦しいですか? ……なら、良かった」
 ピリカは錆びたノコギリを手に取ると、矢が貫通した足首に刃を当てた。
 そうしてピリカは、人々をしあわせな人生に導いていく。それはとっても善良な行いだった。
 少なくとも本人は、そう信じ切っていた。


「なんともまあ突っ走った思考だね……聞いてるだけでゲンナリしてくるよ」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)は、依頼の説明を受ける為集められたイレギュラーズ達を前に、話を始める。
「天義の辺境に位置する小さな村、テテリア村。何の変哲もないこの村が今、とある邪教徒達に支配されて地獄と化しているみたいなんだ……そいつらを全員始末するのが、みんなの仕事だよ」
 幸運にも邪教徒から逃げ延びた若者の証言によれば、邪教徒達は『今の人生で不幸を味わえば次の人生で凄く幸せになれる』という理念の元、捕縛した村人達に長い時間をかけて拷問し、殺しているらしい。
「善意による拷問、殺人。性質が悪いね。邪教徒達は村人達を1人1人じっくりと丁寧に殺しているらしいから、まだ全員が死んだ訳じゃないだろうけど……それも時間の問題だね」
 また、邪教徒達は捕縛した村人達に、一切水や食料を与えていないらしい。
 飢餓による苦しみもまた、次の人生での幸せに繋がるから、だそうだ。
「精確な数は分からないけど――邪教徒達の数は少なくとも十数人。そして彼らを束ねるリーダーが、『シスター・ピリカ』と名乗る純種の女だよ」
 逃げ延びた若者の証言によれば、村を襲撃した際ピリカは両腕に装着したクロスボウを巧みに操り、抵抗する村の自警団らをあっという間に無力化したらしく。他の邪教徒達に比べれば、明らかに強さの格が違って見えたという。
「邪教徒達とシスター・ピリカは、村の中央に位置する教会に籠って、拷問と殺人を続けているみたいだよ。『多くの苦しみを与えて殺してみんなを幸せにする』事が目的の以上、イレギュラーズの皆が現れたからっていきなり村人たちを惨殺する事は無いと思うけど……教会の中には多くの村人達が椅子に縛られているみたいだから、戦闘に巻き込まない様気をつけるに越したことはないと思うよ」
 そこまでの説明を終え、ショウは改めてイレギュラーズ達に向き直る。
「説明は以上だよ。どうやら連中は100パーセントの善意で行動してるみたいだけど、だからどうしたって感じだね。奴らを逃がせばまた別の場所で虐殺を繰り返すだろう……確実に、ここで仕留めるんだ」

GMコメント

 のらむです。どうしようもない連中に終わりを与えてきてください。

●成功条件
『シスター・ピリカ』を含む、全ての邪教徒の殺害

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●フィールド情報
 シスター・ピリカ含む邪教徒達と村人達は、村の中央の教会の内外に固まっている。教会内部はかなり広い空間となっている。
 正面扉から真っすぐ進んだ突き当りに大きな壇があり、その上で拷問と殺人が行われている。
 村人達はその全員が、教会内のあちこちに、椅子に頑丈に縛り付けられた状態で監禁されている。

●シスター・ピリカ
 狂った教義を崇拝、心酔している邪教徒達のリーダー。
 シスター服を着用し、両腕には猛毒が塗られた矢が放てるクロスボウを装着している。
 クロスボウを用いたり、拷問器具を用いたりして戦う。
 毒系と出血系のBSを保有。特殊抵抗、命中の能力に秀でている。

●邪教徒(呪術師)×数体
 呪術を扱う事の出来る邪教徒達。
 遠距離中心の神秘攻撃で、呪殺、Mアタックを保有。

●邪教徒(剣士)×数体
 剣術に長けた邪教徒達。
 近距離中心の物理攻撃で、出血系のBSを保有。

●邪教徒(ピリカ親衛隊)×数体
 盾とクロスボウを装備した邪教徒達。
 ピリカを守る為動いたり、クロスボウによる中~遠距離の物理攻撃を行います。
 毒系のBSを保有。

 以上です。よろしくお願いします。

  • その先に待つしあわせの為に完了
  • GM名のらむ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年12月27日 22時01分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

江野 樹里(p3p000692)
ジュリエット
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
一条 佐里(p3p007118)
砂上に座す
ドミニクス・マルタン(p3p008632)
特異運命座標
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
グリジオ・V・ヴェール(p3p009240)
灰色の残火
ニコル・スネグロッカ(p3p009311)
しあわせ紡ぎて

リプレイ


 小さいながらも、人々が平穏な日々を過ごしていた辺境の村、テテリア村。この村には今、狂気が済んでいた。
 イレギュラーズ達はそんな狂気の中心へと歩を進める。
 狂信者達は皆、その狂った教義に心酔していた。彼らには悪意が無く、唯々人々を幸せにしたい。ただそれだけだった。
「外の敵は、教会の周囲を巡回しているのでに全部みたいだね。隠れてたりは、してないみたい。たぶん」
 『鎮魂銃歌』ジェック・アーロン(p3p004755)は教会の周囲をグルリと回り敵の数を確認。仲間に報告する。
 イレギュラーズ達は一気に教会に接近し、教会周辺を巡回していた狂信者達と相対する。
「……なあ、なんでだよ? おれたちはただ、みんなをしあわせに……」
「知るかよ」
『特異運命座標』ドミニクス・マルタン(p3p008632)は吐き捨て、狂信者の脳天目掛け引き金を引いた。額を撃ち抜かれた狂信者は、それでも尚生きていた。
「あ、あんた……なあ、やめてくれよ……こんなのまちがってるって……なあ」
「さあ、どうだかな。あの世でカミサマにでも聞いといてくれよ」
 『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)は追いすがる狂信者の胴体を斬りつけ機械剣の引き金を引くと、狂信者は炎に包まれる。
「……ハハ、苦しい……やった……!! アハハハハ……」
「ハア……」
『呆れて言葉も出ないとはこの事ね』
『愚者は愚者故に、己が愚者だとは永遠に気が付かないものよ』
 『灰色の残火』グリジオ・V・ヴェール(p3p009240)が溜息交じりに狂信者の額を殴り割ると、グリジオの心境を代弁する様に『双子姫』が呟いた。
「こんなの、もう……まともじゃない」
 笑顔のまま死んだ狂信者を見下ろし、『恋の炎に身を焦がし』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は呟く。その瞳に宿っていたのは紛れもなく、激しい嫌悪であった。
 そしてイレギュラーズ達は手早く教会の外に居た数人の狂信者達を素早く仕留めると、勢いよく教会の扉を開け放った。
「さあさあ、みなさんに『幸せ』をお届けにきましたよ!」
「あら」
 教会に突入した『しあわせ紡ぎて』ニコル・スネグロッカ(p3p009311)は大きく名乗りを上げた。シスター・ピリカと狂信者達が、ニコルに視線を向ける。
「(敵の注意がニコルさんに向いた……誰から助けるべきか、どこを制圧すべきか……焦らないで。でも急いで判断して)」
『砂上に座す』一条 佐里(p3p007118)は神経を集中させ、教会内部の状況を一瞬で頭に叩き込み、すぐさま行動を開始した。
「あら、あらあらあらあら……お客様ですね……しかし……どうやら平和的な解決は難しそうですね……残念です…」
 対するシスター・ピリカの判断も早く、すぐさま両腕のクロスボウに矢を装填した。
「そうですね。しかしそれも当然の事なのでは? あなたの言う通りこの世は不幸と悲劇に満ちているのであれば、の話ですが」
『ジュリエット』江野 樹里(p3p000692)は淡々と言い、ピリカを見据える。ピリカはその言葉に小さく眉を上げると、穏やかな笑みを浮かべた。
「あなたは今、しあわせですか? そうでないのなら、導いて差し上げましょう――真なる幸福。それを享受できる人生へ」
 殺し合いが始まる。


「心から苦しみ、心から死に恐怖するのです――絶望とは即ち、幸福へ続く架け橋なのですから――」
 自らの言葉に酔いしれる様にピリカは語り、そして舞う。猛毒の矢が次々と放たれ弧を描く。
「そんなものは体の良い被虐趣味の口実に過ぎないだろう。くだらない。実にくだらない」
 ドス、ドス、と。グリジオの身体に矢が突き刺さる。しかしグリジオは僅かな動揺を見せる事もない。
「私たちの教義を、その様な低俗なものだと混同されては――」
「望んでもいない他者に押し付けている時点で、どう呼称されても文句は言えないだろう。そもそもの話。来世で『自分』が続くなんて保障がどこにある?」
 身体から矢を無理やり引き抜き、放り投げるグリジオ。
『あなたの言ってる事は意味も根拠もない絵空事に過ぎないのよ』
『対価を支払えば一定量が得られるだなんて。幸福ってそんな単純計算で得られるものだったかしら』 
『双子姫』が可愛らしい声で囁くが。ピリカは小さく眉を上げるのみで、応えない。
「まあいいさ。確かにアンタの言う通り、平和的な解決など望むべくもない。ならば……」
 剣を振り上げた狂信者の1人がグリジオに襲い掛かる。グリジオはチラリと一瞬視線を向けると自らの手甲に破魔の力を宿し、
「お前らの幸せを、奪いつくすのみだ」
 刃が振り下ろされる寸前、その胴体に勢いよく拳を叩きつけ。狂信者は全身の骨を砕かれながら吹き飛びそして二度と動く事は無かった。
 戦闘が始まった傍ら、佐里は村人を巻き込まない為に一部の村人たちの解放を進めていた。
 狂信者達にとって好ましい事ではなかったが、イレギュラーズという脅威が眼前に迫り余裕があまり無い事や、狂信者達を引きつける様行動していたイレギュラーズ達が居た事もあり、本格的な妨害は入っていなかった。
「頭を下げて……大丈夫。連中の相手は、私の仲間たちがしてくれています。だから、歩いてください……生きる為に……!!」
 村人の手を取り誘導する佐里。程なくして、教会の一角に村人が存在しないエリアが構築された。
「貴様らがやっている事は、無垢な人々を不幸な人生に陥れているに過ぎない!」
 狂信者の1人が必死に叫び、火の玉をまき散らす。自らの教義の為に。そんな姿を見て、フラーゴラは小さく首を振る。
「苦しんで幸せになるなら自分自身にすればいい……! どうしてみんなを巻き込むの……!!」
 フラーゴラが片腕を掲げると、金属製の盾が大きく展開。降り注ぐ火の玉を全て受け止めていく。
「きっと、その教義を持った時点でアナタ達は破滅に向かっているんだろ思う……周囲を巻き込み膨れ上がる、破滅に……」
 そう呟いた直後、狂信者の眼前からフラーゴラの姿が掻き消えた。
 否、厳密には消えたわけでは無い。過剰な程に強化されたフラーゴラの移動速度を、狂信者が認識できなかっただけだ。
「それを今日、ワタシ達が終わらせる……!!」
 だがその現象を狂信者が理解する暇も無く。側面に回り込んだフラーゴラの超速度の蹴りが狂信者の身体を打ち上げる。
 ヒュン、と空を切って打ちあがった狂信者の更に上まで跳びあがったフラーゴラ。握りしめた拳を全力で振り下ろすと、凄まじい轟音と共に狂信者の身体が床に叩きつけられた。
「ああ、こんなに簡単に死なせてしまうとは……彼らもまた救われるべき魂に変わりはないというのに……」
「よく分かんないんだけど、キミ達の神ってそんな事でタマシイとやらを選別するの? なんというか、器小さくない?」
 悲しむ様子を見せるピリカにジェックは淡々と言いながら狂信者が放った矢を屈んで避け、矢を放ってきた狂信者の両脚を撃ち抜き、
「カミサマの世界も世知辛いんだろ……あぁ、今のはもちろんテキトーに言っただけだ」
 足を撃たれよろめいた狂信者の身体を、ドミニクスが放った激しい弾幕が粉々に吹き飛ばした。
「人々を幸せに導くために!!」
 仲間の血しぶきを浴びながらも、狂信者の1人は剣を掲げ威勢よく声を上げる。その光景にマカライトは小さく息を吐いた。
「なんだかな……仲間が次々と死んでいってるこの状況でも、お前らには迷いが無い。自らは正義であり善であると本気で思っているみたいだな?」
「当然だ!! 人々の幸せを願って何が悪い!!」
 振り下ろされた刃を紙一重の所で避けると、マカライトは機械剣を構え、全身に魔力を込めていく。
「大体お前ら、他人を不幸にしているが自分らはどうなんだ? 他人を幸福に導いているお前らは別に不幸じゃないだろ」
「理解できないか……愚かしい。だが許そう!!」
「あーはいはい。俺が悪かったよ。もう少し話が出来る奴に聞くべきだったな」
 マカライトは不意に放った膝蹴りで狂信者をよろめかせ、空いた掌でその顔面を掴み上げる。そして全身に込めた魔力を雷へと変換、放出させると、狂信者達の全身が痺れあがる。
「蹴られて痺れて斬られて燃えて……良かったな? 苦しんで今も来世もハッピーなんだろ?」
 間髪入れず刃を振るい引き金を引くと、胴体を斜めに断ち切られた狂信者は、炎に包まれながら死に逝くのであった。 
「本当にこれは善意なのかしら? どうにも思考がねじ曲がりすぎて、その輪郭を掴むのも難しいわね……『さあ、どうしたのかしら! まだまだわたしは不幸じゃないんだけど!』」
 狂信者達の振る舞いに微かに辟易しながらも、ニコルは積極的に攻撃を引きつけていく。
 教会内で飛び交う矢。呪術。弾丸。斬撃打撃。激しい戦闘の最中、次々と狂信者達が地に伏していくが、イレギュラーズ達にも徐々に傷が増えていく。一撃が重い、という訳ではなかったが、毒や出血がジワリジワリと命を削る。
「やはり痛みを、苦しみを与える事こそが肝要であると。そういう事なのでしょうね。ですが、思い通りにはさせませんよ」
 樹里は傷つく仲間達に絶え間なく癒しの光を放ち続け、戦線の維持に努めていた。 
「ああ、ところで……ピリカさん。改めてあたたにいくつか尋ねたい事があるのですが」
「あら、何でしょう」
 2人は口調も表情も実に穏やかだ。血と、血ではない物騒なモノが飛び交う戦場には実に似つかわしくない。
「沢山の人を教義に許り苦しめて殺せていたあなたは……とても幸福、でしたね?」
「……」
「あるいは。苦しめて殺さなければいけないと。その罪悪感こそが人生における苦しみであると……悲劇のヒロインを気取れる。自己陶酔し、自らの来世が幸運であると信じられるあなたは……とても幸運ですね?」
 ピリカは答えない。唯静かに耳を傾け、矢を放つのみ。だから樹里は言い切った。
「どちらにせよ、教義的にはあなたの来世には、不幸が満ち満ちていそうです」
「私はそれで構いません……何故なら私は……いえ、私達は人々の幸せの為、自らの幸せを犠牲にすると、そう誓ったのですから」
 その場に一瞬、静寂が流れた。あまりにも身勝手で、傲慢な考えだ。
「嗚呼……とても、可哀想な方」
 樹里はただ、静かにそう呟いた。


 殺し合いは続いた。どうやら狂信者達は本当に村人達を雑に殺す気はないらしく、イレギュラーズ達が意識していれば被害が及ぶことは無かった。あらかじめ戦闘場所を確保出来た点も功を奏し、戦闘はイレギュラーズ達に有利な展開となっていた。
「もう、早く終わらせよう……言葉を交わせば交わす程、その救われなさが嫌になってくる」
 フラーゴラは最後の呪術使いの狂信者を拳で吹き飛ばすと、心底疲れたように呟いた。残るは僅かな親衛隊と、ピリカのみ。
「こいつらがバカだってのは最初から分かってた事だろ? やり口も非効率の極みみたいなもんだ。バカに理屈を期待しても意味ねぇんだよ」
 ドミニクスは拳銃片手にそう吐き捨てると、残る2人の親衛隊に銃口を向ける。
「だが、安心しな。幸運なことに俺はバカじゃねぇからな。痛くないようにさっさと終わらせてやるよ」
 バカだろうがなんだろうが、獲物は獲物。殺せば死ぬ。ならば問題は無い。
「ク……シスターを守り切れ! 私達の大義を……」
「もういいだろ」
 面倒くさそうに呟き引き金を引くドミニクス。50口径の弾丸は分厚い鎧を突き破り、狂信者の心臓を破壊した。
「大義ね……そんな便所の紙の代わりにもならねぇ下らないもん、さっさと捨てるべきだったな。次はもっと肩の力抜いて生きようぜ? アンタらに来世があるかは知らないけどよ」
 軽い口調でそう言うと、ドミニクスは再び引き金を引く。ピリカを守る為その命を捧げる覚悟であった親衛隊は、その覚悟通り弾丸に命を奪われるのであった。
「あとはお前だけだ、シスター……いい加減、受け入れろ」
 マカライトの斬撃がピリカを抉り、そして焦がす。だがピリカは笑みを絶やさない。
「愚かしく、可哀想……けれど大丈夫。あなたも必ず、しあわせに……」
 ピリカの信仰は揺らがない。その様子を見た佐里は思わず奥歯を噛み締めた。
「どうして、どうしてそこまで歪んでしまったんですか……どうして……どうしてこんなことが出来るんですか!!」
 佐里は血と腐臭に覆いつくされてしまった教会を見渡した。
「ここには、あなた達とは違う信仰があったのに……痛みで、呻き声で、血で染めて、あなた達の信仰のある場所に、無理やり変えてしまった……余りにも、惨い……」
「魂はどれも平等だから……あなたが感じている怒りも悲しみも、全ては幸せの為の糧だから……」
「もう黙って下さい……幸せは、他の誰かが決めるものじゃない……自分自身で決めるもの……あなたには理解できないでしょう。そしてそれを理解させる程の価値があるとも思えない。だから――」
 赤い半剣を構える佐里。その瞳はどこまでも冷たかった。
「もう、終わらせましょう」
「終わりません。まだ……」
 佐里は一瞬にして眼前のピリカの動きを解析、予測。その先の先の動きまで読み、刃を振るった。
 赤い斬撃がピリカの首筋を抉り、激しく血が溢れだした。
「ハ……ク、グウ……!!」
「あなたはきっと、私達が狂っていると、恐らくそう思っているのでしょう。ですが結局の所。見る角度を変える程度で容易に変わる定義を押し付ける行為を。その在り方を。人は狂気と呼ぶのです……幸せな狂信者、ピリカ様?」
 樹里が紡いだそんな言葉を、恐らくピリカは欠片も理解できては居ない。だから相も変わらず、上から目線で話を続けるのだ。
「分かります……分かりますよ? 真実を受け入れるのは怖いですよね? ですが――」
「そんな複雑な話はもうやめない? 苦しんで死ねば幸せになれるのよね? だったらあなたもここで苦しんで死んでくれない? ……ってだけの話なのよ。自己犠牲も結構。あなたは十分頑張った。だから死んで。それだけの話よ」
 ニコルの言葉に、ピリカは初めてその表情に僅かな不快感を滲ませた。
「私には役目があるのです。だから……」
「ああ、大丈夫大丈夫。他の人達を幸せにするのはわたし達がやっていくから。だからさっさとあなたも幸せになったらいいんじゃない?」
「…………」
 ピリカはニコルにクロスボウを向ける。その瞳に、動きに怒りの色が滲んでいるのを、ニコルは確かに感じ取った。
「あら、もしかして怒ってるの? あなたも幸せになってわたし達もご立派な大義を果たせる。みんなハッピー。みんなラッキー。超絶ハッピーエンドだと思うのだけれど」
「どこまで私達の教義を馬鹿にすれば気が済むのですか……!」
「さあね。あなたが死ぬまで?」
 2本の矢が放たれた。あらかじめ攻撃を予測していたニコルは素早くナイフを二度振るうと、矢は綺麗に弾き飛ばされた。
「どうして『今』の幸せを求めないのかしら。それだけは本当に不思議ね」
 クルクルとナイフを掌で弄び、誰に言うでもなくニコルは呟いた。
『それは多分この人が世界に絶望しているからよ』
『そして幸せというものを誰よりも理解していないくせに、誰よりも渇望しているからよ』 
 数多の攻撃を受け止め、グリジオの肉体は限界が近づいている。それでも『双子姫』は変わらない様子で言葉を紡ぐ。
「なるほど……? しあわせになりたくてたまらなくて、けどその方法が分からなくて。それでこんなやり方を信じてしまった、と。うーん」
 ジェックは首を傾げながらも、銃口をピリカに向ける。ピリカには搦手が通用しにくい。で、あるならば。
「あとは愚直に撃ち続ければ良い……そうでしょ?」
 一発、二発、三発。引き金を引く度に放たれる精確無比な弾丸をピリカは避ける事が出来ない。
「追い詰めたら村人を盾にするかもって思ってたんだけど、しないんだね。ちょっと意外かな」
「そんな事をしても……誰も幸せになれないじゃない……ですか……」
 ボタボタと全身から血を流しながら、ピリカは語る。この状況でも、やはりそのスタンスは一貫していた。
「……しあわせになりたいよね。でもその形って、実は人それぞれらしいよ。知らないけど」
「どんな形の、幸せであれ……まずは苦しみが、不幸が、絶望が。必要、なんです……そうでなければ、私の人生には何の意味も……」
 朦朧とした様子で呟くピリカの額に狙いを定めるジェック。決して外さない。次で仕留める。ジェックにはその確信があった。
「……そっか。まあ、アタシにだって『人生の意味』なんてものがあると断言出来ないし、ましてや大して知らないキミの人生なら尚更だけど。でも、そうだな……言える事があるとすれば」
 ジェックは引き金にかけた指に力を込めた。
「アタシにとってのしあわせが、大好きな金平糖の形をしているみたいにさ。キミ達の来世がしあわせだと良いね」
「私は――」
 小さな銃声が響いた。放たれた弾丸は、やはり精確にピリカの脳天を穿ち。そして彼女の人生を終わらせた。
 ピリカと、ピリカに付き従っていた狂信者達。彼らの人生が幸せだったのか。そして『次』があるのならばそれは幸せな人生なのか。
 それは誰にも、決める事は出来ないのだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

これにて依頼完了です。お疲れさまでした。

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