PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Raven Battlecry>砂礫の穴

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●滑落
 それは一瞬の事だった。
 盗賊たちの来襲に気付いて打って出たイレギュラーズたちだが、いざ会敵と為った瞬間に足下の砂地が崩れ落ちたのだ。
 咳込みながらもなんとか身を起こすと……そこはひんやりと冷たく深い穴の底だった。
 幅二十メートルほどの何も無い部屋だ。辛うじて落ちて来た穴から差し込む光で室内の様子がおぼろげに見える。
「よかった。敵は別な穴に落ちたようですね」
 心底ほっとしたように呟いたのはイレギュラーズたちをここまで案内した冒険者だ。彼はラサの首都『夢の都ネフェルスト』に住む小さな遺跡探索や道案内を生業とする男で、名をダラボンという。戦闘能力は無いが砂漠には慣れているのでイレギュラーズたちの案内を買って出たのだ。
 彼は小さなランタンを取り出し、そわそわと闇の中を探る。
「これ……もしかして」
 すぐにダラボンは懐から古びた地図を出した。
「ああやっぱり。昔盗掘された墓地の跡……みたいですけど、ずいぶん荒らされている」
 よく見れば、砂の合間から崩れたレンガが覗いている。頭上を見上げても高く暗いだけではっきりとは見えないが、サラサラと落ちて来る砂粒まじりの陽光の向こうにレンガの欠片が見えた気がした。
「首都の近くにこんな危険な状態で放置してあるはずはないんだけど」
 爪先で蹴り出すと、砂の中から砕けたレンガの残骸がごろごろ出て来た。
 ふと、男の顔色が変わった。
「あれ……通路ですかね」
 落ち着いて来た砂塵の向こうに黒々とした穴があった。ダラボンは慌てて古めかしいコンパスを取り出すと方角を調べた。
「まずい。あっちは首都の方向だ。まさか、盗賊たちは向こうへ?」
 確かに横穴の近くの砂地は踏み荒らされていた。
 この通路が首都の近くで地表に出られるとは限らないが、出られないとも限らない。
 顔色を変えたダラボンが訴える。
「お願いします! 皆様はこちらの通路を進んで盗賊たちを倒してください! 俺は外から場所を確認した後、首都へ戻ってこのことを伝えます!」
 羽織っていたマントを脱ぐと、ダラボンの背中から砂漠鴉の翼が広がる。


●通路の果てに
 滑落した盗賊たちは粉塵舞う室内の中で自分たち以外の動く影と、真横の黒々とした空間にすぐに気付いた。
「…………」
 頷き合い、彼らはそっとその闇の中に滑り込んだ。
 ──どれくらい進んだだろうか。
 初めは足音を抑えるように走っていた彼らだったが、今はだいぶスピードをあげていた。
「ローレット共は追って来てるか」
 ひとりがくぐもった声で尋ねた。
「わからない。だが、すぐに気付くだろう」
 誰かがそう答えた。
「こっちの方角は首都ネフェルストだ。うまくすれば、近くに出れるかもしれない」
 彼らはコンパスなど頼らなくても、概ね方角がわかった。
「外に出たら首都に攻め込む仲間と合流するか、それとも近場を荒らすか」
「ここのことを伝えればより早く攻め込めるかも。通じて無くても、そこそこの位置で天井をぶち抜けばいけるはず」
 仲間の一人が仕舞いこんだ爆弾を思い出して指摘する。
「そうだな、この深さならうまく仕掛ければいけるかもしれない。ただ、下手するとこの通路を塞いでしまうから気を付けなければな」
「上でまた別の奴らとかち合うと厄介だ。もう少し進んでからにしよう」
 暗闇の道を盗賊たちの腰につけたランタンの光が照らす。
 すると、その先にさらに暗い闇が広がっていた。
「……曲がり角か?」
「行きどまりかもしれな────」
 警戒して踏み込んだ一人が言葉を失う。
 闇の中、ランタンの光に照らされて、何かがギラリと強く光った。
「金塊────!」
「いやまて、違う!」
 ブン、と天秤棒のようなものが盗賊の一人の身体を薙ぎ払った。
「誰だ!」
 ひとりが持ち上げたランタンもまたそれによって叩き落とされたが、砕けたランタンの流れ落ちた油が入口脇の溝をつうっと流れる。それを追うように、焔がカーテンのように壁ぞいに広がった。
 それによって、増した灯りが今度こそはっきり室内の様子を描き出した。
「ひっ!」
「ちっ、モンスターの巣穴かよ」
 目の前には全長三メートル程の黄金色に光るスカラベによく似た化物が居た。殴りつけて来たのはその脚だ。
「散開しろ! どうせもうすぐあのローレット共も来るはずだ。コイツを利用してあいつらをぶっ倒そうぜ」
「コイツと共闘しろっていうの? この言葉も通じそうもない奴と!」
 突然の焔に驚いたのか、目の前のスカラベは動きを止めていた。対して、盗賊たちも広がったまま相手を刺激しないよう動きを止め────、ひとりが白い粉をスカラベに叩きつけた。舞い上がる埃のようなそれはすぐに溶けて消えた。
「利用しろって言ってんだよ」
 盗賊の振りまいた毒はこの手のモンスターに一時的に自分たちを同族に見せる力があった。
「静かになった。共喰いはしないタイプらしいな」
「……そうだな。助かった。五人で奴らと戦うのは骨だ。利用させてもらおう。
 奴等が遅かったらこの爆弾を使って天井を崩して外に出ればいいだけの話だしな」
 そうして盗賊たちは自分たちが通って来た通路の方へ耳をすませた。

GMコメント

●ステージ
落下地点→長い通路→スカラベの間

・長い地中の通路
所々砂が落ちて来る。時々、砂と一緒に崩れたレンガや人骨なども。
人工的に作られたようにしか見えないが、勘のいいPCなら何か理由がわかれば人造のものではないと気付くかもしれない。
・スカラベの間
高さ10m×奥まで35m×幅15m(小学校の体育館程度)の穴。天井に穴が複数開いているらしく空調に問題はない。
薄暗く、灯りは入り口付近の壊れたランタンの焔※と天井からぽつぽつと差し込む太陽光。
折れた柱や崩れたレンガの山があちこちに散らばる。(※入口付近は壁に沿って1mほどの炎が広がっているが火事・窒息の心配はない)
地中に埋まった崩れた遺跡と大岩の層を前にスカラベが住処にしている穴。
入口正面、最奥に巨大な金色のスカラベとそれを扇状に囲んで身構える盗賊たちが見える。
※スカラベを倒すと天井が崩れ、瓦礫を伝って外に出られる。
首都にほど近い大岩のふもとが出口。



●敵
・盗賊×5
大鴉盗賊団の盗賊(人間、男×4、女×1)
敵対、共闘や話し合いは不可
落下してすぐに首都側へ伸びる「通路」に気付き、奥へと進んだ。
外見は男女ともにそっくりで、越えもくぐもっていて男女の聞き分けがしにくい。
顔はフードと目元までのマスクで隠しており、同じような灰色のマントと灰色のズボン。シミターを装備。
五人で一つだけ爆弾を持っている(天井を崩せる程度。戦闘には使わない、暴発はしない)
・盗賊(男):一般的な男性戦士
・盗賊(女):外見は男と見分けがつかない。素早さが高いが力は男ほどは無い。毒を塗ったナイフを持っており、二回に一回使ってくる。抵抗に失敗すると1ターン行動不能。
※モンスターを従えた粉はもう手持ちにはありません。


・金色のスカラベ
全長三メートルの巨大なフンコロガシに似たモンスター。雑食。
眼は見えないが、非常に鋭い感覚で敵の位置を判断する。熱は判るが恐れない。
金色の甲冑を持ち守備力が高く、岩を噛み砕く牙で噛みついてくる。
地中に住む。フンではなく遺跡を砕いたり土岩を固めて直径五メートルほどの硬い砲玉と呼ばれる玉を作る。節のある手足は頑丈だが攻撃力は無く、相手を押し出す程度。
地中を噛み砕き、砲玉を押して穴を開けるのだが、均等に空いたその跡はまるで人工の通路にも見える。
 ・鐵砲玉(てっぽうだま):砲玉を蹴り押しつぶす。


●NPC
ダラボン
砂漠鴉の翼を持つ飛行種、中年の男で戦闘能力は無い。
ラサの首都『夢の都ネフェルスト』周辺の遺跡や砂漠の状態を調べては地図を作ったり、冒険者を案内する仕事をしている。
※本シナリオでは彼について外に出た場合、ほぼ何もできなくなるのでしないようにしてください。


  • <Raven Battlecry>砂礫の穴完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年12月27日 22時01分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)
うつろう恵み
那木口・葵(p3p000514)
布合わせ
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
日車・迅(p3p007500)
挫けぬ軍狼
エル・エ・ルーエ(p3p008216)
ふゆのこころ
浜地・庸介(p3p008438)
凡骨にして凡庸
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
霊魂使い
グリジオ・V・ヴェール(p3p009240)
灰色の残火

リプレイ


●砂礫の穴
「ダラボンさんは、お怪我がないように、気を付けてくださいね」
「ええ! あなたたちも!」
 『ふゆのこころ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)に見送られて彼は外へと飛び去る。
「いやはや、砂の下にこんな空間があるとは……驚きました。盗賊達が逃げたというのはあの⽳ですね。よく分からない場所なのが少し⼼配ですが、このまま逃がすわけにはいきません」
 『狼拳連覇』日車・迅(p3p007500)がふっと詰めていた息を吐き、続いて『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)も嘆息する。
「ふぅ、元気な⼈たちがいるわねぇ……視界も悪いし、場所もあまりよくはないわね。でもまぁ、それは向こうも同じだし……早くけりをつけましょう」
「はい。何が待っていようと殴り⾶ばすまでです!」
「悪いことをした⼈には、相応の報いが待っていると昔から相場が決まっているものね」

 急いでいたのだろう、通路に積もった砂に乱れた足跡が残っていた。だが、すでに人の気配は感じられない。
「盗賊達の待ち伏せがあるかもしれないです。──おねがいですよ」
 マントを羽織ったぬいぐるみが葵の練達上位式により式神となって先頭に躍り出た。
 ぽつりぽつり、小さな蛍火が闇を浮遊する。その中心に立つ『灰色の残火』グリジオ・V・ヴェール(p3p009240)は慎重に進む迅に尋ねた。
「アンタ、灯りは?」
「夜間の戦いもあるかもしれないと月灯りの雫を目に点しておいたので」
 答える迅の視線はグリジオの周囲を飛ぶ蒼紅の蛍火に向いていて、グリジオは苦笑を浮かべた。
「俺は護符があるからな」
 蛍火は灯りにはならない。視界を補助するフクロウの目の護符について伝えると、彼の周囲を泳ぐ蛍火──双子姫たちが騒めき出す。
『まあ、護符だなんて妬けちゃうわ』
『装飾品ならわたしたちだけで十分なのだわ』
「そうは言ってもお前ら役に立つ気ないだろ」
 自分にだけ聞こえる声へ彼が呆れたように答えると、姫たちは声を揃えた。
『当然なのだわ』
 だろうな、とグリジオ。
「あれは……」
 床に不自然な影が蹲るのに気付いて、『布合わせ』那木口・葵(p3p000514)は携帯用ランタンを向ける。レンガが覗く通路の上に古い人骨が浮かび上がる。天井から落ちた砂が周囲に山となっているのでこれも同じように落下したものだろうと彼女は判断した。
「地中の古い墓所の上に大勢乗って、崩れちゃったんでしょうか。皆さん大きな怪我がなくて良かったです」
 ヴァイスはランタンを天井へと向けた。よく固められてはいるがそこに支柱などは見当たらない。
「それにしてもこの遺跡、本当に⼈の⼿でつくられたのかしら……」
 ヴァイスが零した疑問にアーマデル・アル・アマル(p3p008599)も闇を見通す星晦ましの目隠し布の下で眉を顰めた。
「レンガはあるが……補強された通路ではない、のか? むしろ、ワームや地蜘蛛の巣穴にも似てるな。だとしたら、あいつら、粘性の体液や糸で砂を固めて通路にするんだ。気を付けろ」
「そうね。油断なく進んでいきましょう」
 頷くヴァイス。
「僕も塹壕などの知識はありますが、この規模でこの造りは危険ですし、人の力だけでこんな状態の通路を作れるでしょうか。入口が破壊されて開けられた穴であったことから、むしろ、足下のレンガが『天井』で──人以外の、こんなに大きな通路を作れる『何か』がいるという可能性もあります。警戒しておきましょう」
「探して、みたけど、ここは清められていて、彷徨う魂は今のところいない、みたい。誰か、居たら、尋ねられたのですが。ずっと、同じ道が、続いてます」
 周囲を警戒しながら後ろを歩いていたエルが口を開く。暗視が使える彼女には固められただけの通路がよく見える。
「成程。人工の路でないのなら、この先に首都に続く出口がある可能性は低いのだろう。強引に拓く可能性もあるから油断はできないが」
 エルの前を歩いていた『凡骨にして凡庸』浜地・庸介(p3p008438)が皆の思いを口に出した。
(今、俺ができることは何も無いが)
 ⾃分に出来ることと⾔えば敵の⾸を刈るだけ。庸介としてはそれに恥じるところはないが、そんな己を淡々と凡庸だな、とも思う。
「これは果たして、幸運、なのか……不運、なのか? どちらでしょう」
 『うつろう恵み』フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)がぽつりと呟いた。
 かつん、砂と共に落ちた砕けた石が音を響かせた。

 やがて路の先に丸く浮かび上がる揺らめく光が見えた。
 それで、一行はこの通路が筒のような形をしていたことに気付いた。
(そうねぇ……)
 ヴァイスがちらりと見ると通じたようで皆頷く。
 慎重に近づいて中を覗き込むヴァイスたち。
 揺らめく光は部屋の壁沿いに燃えあがった炎によるものだった。
 折れた柱や瓦礫の山が積み上がる広い空間で、天井からは細い光が差し込む。
(光があるということは、地上に近いということよね)
 それはあまりよろしくない。
 すでに彼らがこの穴から出た……という危惧は、次の瞬間吹き飛んだ。
「あれは──」
 そこに盗賊たちの姿は見えないが、全長三メートル程の黄金色に光るスカラベによく似た化物が蠢いているのが見えた。
 彼女の|敵を精察する力《エネミースキャン》がその巨大蟲の特性を大まかに読み取る。
「目は悪そうだけど熱は感じているようよ。外殻は硬そうだし、レンガを割ってあの大玉を作ったのなら障害物を砕く力は持ってそう。あの大玉に関してはスカラベのような食料というより武器に近いようね」
 その視線は巨大蟲からそれが抱える砲玉へと移る。
「あとは、そうねぇ……この⼤きなスカラベ、アレを転がしてるみたいだけれど……これはこっちに来たらどうしましょうね」
 その有様を思い浮かべたイレギュラーズの背中にじとりと汗が滲む。
「退避するか、⾵で押し返すか……ううん、まぁ、この遺跡は壊れにくそうだし、避ける⽅がリスクは低いかしら」
「そう、ですね……。でしたら、皆さんの回復は……わたしが。任せて頂けるでしょうか」
 ヴァイスの言葉を継いで、フェリシアが空色の瞳で仲間達を見る。
「お願いします。心強いです」
 迅の言葉に皆が頷く。
「視覚の代替になるくらい他の感覚が強いなら強い匂いや大きな音や振動で感覚を晦ませられないかな? でも音や振動は天井に響くか」
 アーマデルが砂を落とし続ける天井に目をやった。もろそうなつくりだ。振動で崩れ落ちないとは断言できない。
「それは私たちがお役に立てそうですよ」
 ぬいぐるみの背を叩く葵。
 そして、と彼らは最後の懸案事項を思い浮かべる。
 こんな大物がいるのに先に来たはずの盗賊たちの姿は見えない──ということは。
「一戦あったにしては、そこまで踏み荒らされてないな」
 庸介の指摘に葵は頷くとマントを羽織ったぬいぐるみたちを光の中へ送り出した。


●金のスカラベ
 乱れ揺らめく炎の光と影に混じってぼとりと影が落ちてきた。
「クソ、何だッ!?」
 落ちた影は踏みつけた葵の式神が血肉の代わりに綿を吐き出したのに気付き慌てて跳び退った。
 だが、時すでに遅し。
 距離を詰めた庸介が迫る。
「タイ捨流、浜地庸介、参る」
 盗賊の一人が奇襲をかけたのと同時に迅とアーマデル、一拍置いてグリジオが瓦礫だらけの部屋へ駆け込み走り出す。
 遅れてばらばらと出てきた盗賊たちへヴァイスは向かい合う。
「もう、いけない子たちね。そんなあなた達はお仕置きよ?」
 彼女の薔薇に茨の棘遂げる力によって吹き飛ぶ四人。
 その間、距離を取ったエルがパーフェクトフォームを、フェリシアはソリッド・シナジーやクェーサーアナライズで己の力を引き上げる。
 跳び起きた盗賊たちが瓦礫を飛び越えヴァイスへ襲い掛かる。連続する刃を避けて彼女はまた敵を探る。
「くっ!」
 浅く届いたぬめりと光る刃に痺れを感じ咄嗟に叫ぶ。
「ひとりは毒刃を持っているわ!」
 そんな彼女へ盗賊たちは続けざまに襲い掛かる。
「させないですよ!」
 座り込んだヴァイスを囲むように葵が呼び出したクリスタルスキュアの無数の晶槍が敵の足元から突き上がった。
 エルが投げつけた携帯用のペンキが斬りつけたうちの一人──毒刃を持った女盗賊のマントを汚す。
「くそっ! 手伝え、化物!」
 盗賊の一人が叫んだ。それに応えたのだろうか? 巨大蟲が大玉を転がしながらごとりと動き出した。

 女盗賊は踊るようにくるりと振り返り様に毒を塗った刃を振るった。
「耐性にゃ少し自信があるんでね。格好の相手だろ。『灰色の残火』グリジオ、短い間だがお見知りおきを」
 刃を静かに避けて確りと敵を見据えた隻眼の元傭兵。彼の挑発するための名乗りが彼女の怒りを煽り視界と思考を奪う。
「邪魔するな、隻眼!!」
 毒を塗った刃が勢い良く突き出される。
「戦場では冷静さこそ命綱だろう?」
 物影からがしゃりとレンガを踏みしめ飛び出たアーマデルが、女盗賊目がけて英霊残響:怨嗟を放つ。その音は彼女を絡めとった。
「行きますよ!」
 フェリシアと庸介がヴァイスの下へ駆けつけるのと同時にアーマデルの加勢へと走った葵が仲間の背後から必殺の弾丸を放つ。まともにソウルストライクを受けた盗賊は錐もみしながら瓦礫の山へ突っ込んだ。
 体勢を立て直した盗賊どもの一人が振り上げた刃を庸介が反らし、外三光を叩き込む。
「さぁどうした、凡人一人倒せぬのか。俺はまだ、生きているぞ。俺はここにいるぞ、俺はお前たちを殺すぞ」
 焦った他二人へ放つ庸介の言葉は、しかし冷徹にただ淡々と。
 その背後でフェリシアがヴァイスの回復に務める。
「大丈夫ですか」
「ありがとう。大丈夫、大したことないのよ」
「それでも、皆さんが全力で戦えるようにするのが、わたしの役目、ですから……」
「だったら、私はこの子たちを抑えるのが役目ね──もう、いけない子たちね。そんなあなた達はお仕置きよ?」

 動き出したスカラベを向かえ打つように、ごうと風を切って飛び込んだ人影がその巨体へ蒼き彗星の強力な一撃を叩き込んだ。
 砂埃をあげて揺れる、巨大蟲。それを揺らしたのは会敵した迅の一撃である。
 そこへエルがピューピルシールを施す。
「今のうち、です」
 敵を認識したスカラベはその頑強な顎と牙で圧し掛かるように迅を狙う。巨体の影が飲み込むように迅の肩に食らいつく。
「くっ!」
 だが、迅は退かず、先程と変わらず満身の力を込めたブルーコメット・TSを巨大蟲の硬い身体へと叩き込んだ。
 声帯の無い虫が身体を鳴らして哭く。
 葵と共に駆け付けたぬいぐるみたちが可愛い身体で瓦礫を蹴っ飛ばして山を崩し、小石を投げ始めた。
「音や振動で検知しているならば、少しでも効果がある可能性があります!」
 その言葉通り、スカラベの節のある手足が不安定にうぞうぞと蠢く。
「あぶない……です!」
 治癒に回っていたフェリシアがはっとして叫ぶ。
 身体の向きを変えたスカラベが砲玉にしがみついていた。通路と同じ大きさの彼らを飲み込む巨大な玉が動く。

 グリジオの鎌のような軌跡が女盗賊の身体を弾き飛ばすように払った。
 同時に片膝をついたグリジオへフェリシアが駆け寄る。
「動かない、で……いただけますか」
「悪い」
 グリジオに寄り添ってた蛍光が、空気に押されたようにフェリシアを迎えるように左右に別れた。
 アーマデルは盗賊たちと対峙している。捩れた一翼の蛇の吐息は毒使いの仲間を持つ彼らの喉を苦く焼く。
 喉を抑えながら、それでも必死に刃を振るう盗賊たち。
 彼らも後がないことをわかっている。
「くそっ! こうなったら」
 華奢に見えるヴァイスを突破口だとみたのか、ひとりが懐に手を差し込み飛び込む。目の前の一人を抜けばいい。そうすれば、爆弾を使い外へ出れる。外さえ出れば。
 しかし──白い代に城の跡。人形のような少女から伸びる茨が彼女の脇を走り抜けた盗賊へと伸びる。
 遺跡の跡に響く、絶叫。

 フェリシアの天使の歌が穴の底で響き、満ちてゆく。
 押し寄せる砲玉はイレギュラーズたちをなぎ倒してゆく。
 何度も、何度も。
 ──虫を攻撃しなければ。
 突撃する砲玉に身体を叩きつけられながら、彼らは隙を狙う。
 ファントムチェイサーをスカラベに叩き込んだエルの身体が砲玉を避けきれずに空に浮く。
「エルさん!」
 エルへと向かおうとするスカラベへソウルストライクを打ち込む葵。
 叩きつけられたエルはそれでもよろよろと身を起こす。
 進行方向を遮るように庸介が飛込み、落首山茶花を叩き込む。怯みつつも、尚も前進する巨大蟲。
「これで──最後です!」
 迅の拳がめりこむ。鉄拳鳳墜がスカラベを堕とした。
 巨体が倒れると地面に積もった瓦礫が舞い上がる。
 そして、轟音と衝突した壁伝いに広がる振動。
「くっ!」
 ばらばらと降り注ぐ砂礫から腕で顔を庇い、倒したばかりの巨体の影へと入り込む。
 ざああっと、一瞬だけ雨のような音と共に大量の砂粒が滝のように流れ落ちた。雨が上がれば、一変、穴の奥底の薄闇に大量の太陽の光が降り注いだ。
「外……」
 フェリシアが呟き、細く輝く砂粒の雨と陽光の名へ一歩踏み出す。


●地上へ
 壁を伝い、光の漏れる天井付近を調べていた庸介と迅が滑り降りて来た。
「大丈夫そうです」
「大岩の陰になっていて外からこの穴は見えないであろう」
 フェリシアの回復を受けたグリジオが、彼女を連れて辛うじて息のある盗賊たちを拘束して回る。
「色々なところが崩れて、大変になる前に……早くおうちに帰りましょう、ね。……あの、盗賊さんも、ですよ? 盗賊さんはおうちに帰る前に、行く場所があります、が……」
 そのひとりの盗賊の懐から爆弾を見つけたグリジオが眉を顰める。
「こんなものまで……危ないな」
 嘆息してそれを片手で掴むと双子姫たちがそれに近づいては離れて、明滅するように漂う。
 アーマデルが女盗賊を埋葬した塚に簡単に弔いの言葉を贈った。ヴァイスはそんな彼と墓をじっと見ていた。
 エルとぬいぐるみたちと明るくなった穴の様子を調べていた葵が駆け戻って来た。
「通路は、ふさがっています……」
「荒れていた墓地といい、先程の通路といい、もしかしてスカラベが住処にしていたのでしょうか?」
「……⼀匹いたらなんとやらとも⾔いますし、終わったら早めに脱出しましょう。全⾝砂だらけな状態もなんとかしたいですし」
 たくさん働いてくたびれたぬいぐるみを抱えあげた葵がそう言って困ったように笑った。
 差し込む陽の光を辿って地上に出ると、砂塵が輝いた。
 ──ラサの風景はどこか故郷を思い出す。
 アーマデルはふと思う。
「……あんなに日差しに生命力が宿ってはいないけどな」
 陽光溢れたこの地は守られた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

イレギュラーズたちはこの地を守り切りました。
個人的な事情でお待たせしてしまい、申し訳ありません。
楽しんで頂けますように。

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