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シナリオ詳細

<Raven Battlecry>ここらで一杯、酒が怖い

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ファルベライズ
『願いがかなう宝物』の眠る土地、ファルベライズ。
 ここは砕け散った幾多の夢が埋もれている場所。

「なあ、夢を見たくねぇか? テメェらにも分けてやるよ、山分けだ」
 大鴉盗賊団頭領――コルボの言葉に、盗賊たちは沸いた。
 大部分は強奪の号令を皮切りに、競うように首都ネフェルストへと向かう……今頃は、ラサの主戦力も、オアシスの防備にかかりきりだろう。
 その隙を突くようにして、コルボは密かに遺跡の地下湖へと歩みを進めていった。
 信頼できる一部の部下たちを引き連れて……。

●ゲッコー宴会部隊
 ぶくぶくと上がる泡。
「ぶっはあ!」
 水面から、盗賊たちが次々と姿を現していく。
 その数、およそ10といったところか。
 大鴉盗賊団、ゲッコー宴会部隊。
 ゲッコーらは、元々は大鴉盗賊団の補給部隊だ。無論、盗賊である以上荒事も行うが、頭領や荒くれ者たちの皿にタイミング良く料理を盛り――酒杯を空っぽにしないようにするのがその使命だ。
……まあ、体の良い使いっ走りといえばそうだろう。
「イデデデデデ! 畜生、ここにもピラニアかよ!」
 腕にかじりつく魚をぽいぽいと放り投げるゲッコー。
「しかし、入り組んでるな。ここが地下湖か……」
「やりましたね、ゲッコーの兄貴。ここはもしかすると新しい道かもしれやせんぜ。コルボ様もこれでこの前の失態をお許しくださるのでは」
「やめろお!!!」
 とある色宝を求めてイレギュラーズと奪い合いになったゲッコーら。
 飲み比べの遺跡で色宝を逃した……ばかりか、歴然たるアルコール耐性の差を見せつけられて、あえなく砂漠の海に沈みかけた(<Common Raven>酔いどれ色宝珍道中参照)。
「あいつらは人間じゃねぇ! 人間じゃねぇんだ!」
 敵に情けをかけられて介抱されたとあっては盗賊団の名折れ。それも宴会部隊が飲み比べで負けたというのは……彼らの心に深い傷跡を残していた。

 オオオオンシュウウン…………。
 まぜこぜになったようなモンスターの遠吠えが響いている。
「兄貴、あれは!」
「うわっ」
 水路の中央。その場所に巨大なモンスターがいた。
「へっ、あれがここの守護者ってやつか……?」
 頭はライオン、胴体はヤギ。そして、尻尾は蛇。動物をいびつに縫い合わせたような化け物が、水路を守るように立ち塞がっていた。
「おい、おまえら、持ってきたか!」
「へい!」
 彼らが小舟にくくりつけて運んできたのは樽――大量の酒樽だ。
「俺たちはもう酒はやらねぇえっ!」
「応!」
「俺たちゃ注ぐのが仕事よお!」
「応!」
「立ち塞がるモンスターは、酔わせて、酔わせて、酔い潰せ!」
「応!」
 コールと共に、ぐいぐいとキマイラに酒を注いでいく。ごろごろと喉を鳴らして酩酊していくライオンの表情、尻尾はトロンと垂れ下がる。
「ふはっはっはーーーー! どうよ! 俺様に不可能なーーし!」
 しかし、その行いは、思わぬ災いまで呼び起こしていたのだ。
 足音。
「ゲッコーの兄貴! 来ます!」
「何!?」
「奴らが来ます!」
「馬鹿なっ……」
 アルコールあるところに、イレギュラーズあり。
 奇しくも反対側の通路にやってきていたのは――イレギュラーズであった。

●ちょっと前
「この前のお土産は全部レオンにとられたです」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は不服そうに頬を膨らませている。前の依頼で手に入れた酒は全てレオンに渡った。いや、そうだ。酒は、未成年はどうあがいてもNGだ。大切な未来があるので。
「連中が逃げ出したですけど、酒樽を持っていったのを聞いてるです。追いかければきっと何かあるに違いないですよ! とにかく追いかけて追いかけて追いかけて! おつまみの一つでも奪ってやらなきゃ気が済まないです」
 それは八つ当たりではないのか?

 とにかくユリーカの勘は当たり、イレギュラーズが追いかけたのは遺跡へと進むゲッコーらだった。
 ともあれ、残った酒は全て……違った、先へ進ませるわけにはいかないだろう。

GMコメント

●目標
酒を飲……じゃなかった。
大鴉盗賊団・ゲッコー軍団をゴールに到達させない(後述)

●ロケーション
地下湖の一角、ここは水路のようになっています。
中央のキマイラを挟み、互いに狭い通路の上にいます。

基本的にはキマイラをうまく操りうまいこと盗賊団を妨害して撃破しましょう。
遠距離攻撃も届きますし、飛行があれば飛んでいくことも出来ます。
あるいは誰かがキマイラを足止めして、その隙に盗賊団に挑みかかっても構いません。

ゲッコーの部隊は妨害がなければターン経過で目標地点に到達します。それほどすぐではないです。

●敵
酩酊するキマイラ×1
 遺跡を守るモンスターです。巨体です。
 盗賊に酒を飲まされ、非常に酔っ払っています。
 ライオンの頭、ヤギの胴体、ヘビの尻尾の化け物です。
 本体としては一匹なのですが、頭と尾はそれぞれ別々に行動します。
 頭が物理攻撃、尾がBSを伴う神秘攻撃を繰り出します。
 ともに範囲攻撃です。

 頭がこちらを向いているときは尾が盗賊団を攻撃し、尾がこちらを向いているときはライオンが盗賊団を攻撃します。
 ライオンは甘い酒が好き。ヘビは辛い酒が好き。
 注意を引くことで向きを変えることが出来ます。

『宴会部長』ゲッコー
 飲酒がトラウマとなっているボス格です。
 そこそこ強い。酒には弱い。

ゲッコー宴会部隊×10
 ゲッコー率いる禁酒部隊。
 このまえのイレギュラーズたちとの対決で飲酒がトラウマとなった。
 ここらで一杯酒が怖い。
 今日は飲酒してないので普通にそれなりの強さです。飲まないぞ。でも数人顔が赤い気がします。

ピラニア×いるかも
 水路にたまにいるみたいですが、小さくてかじりつく程度です。無理矢理渡ると少し痛いかも、程度です。

●酒
 未成年者はジュースになります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <Raven Battlecry>ここらで一杯、酒が怖い完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年12月20日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
冰宮 椿(p3p009245)
冴た氷剣
茨木 蝶華(p3p009349)
酒呑衝動

リプレイ

●酒あるところに
 どおん。
 グラグラと遺跡が揺れる。
 その音はだんだん大きくなり。
 べきり、と。
 錬鉄徹甲拳が、壁を貫いた。
「さ け の に お い が す る ぞ」
 アルコールが、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)を呼び覚ましていた。
 アルコールあるところに、イレギュラーズあり……。
「お酒が飲めると聞いてやってきたでござる!」
 茨木 蝶華(p3p009349)が、のれんをくぐるかのように出来た穴を通る。ごろごろと大樽を転がしながら。
「やってるでござるかー?」
「一名様ごあんないであります!」
「たはー! 拙者の様な新参者にも優しい職場環境……ローレットとは誠いい所でござるな」
「人生の潤滑油はいくつかありますが、大事なものはこれですね」
『氷翼』冰宮 椿(p3p009245)は瓶を掲げる。
 美しい翼は氷をまとい、冷え冷えだ。
「ひい!」
「何故怖がっているのですか。あなた方も飲みなさい」
「え?」
「わたしも呑む。あなたも呑む。皆呑む。はい世界平和ハッピーエンドです。
呑めないのですか? ん? ん???」
 神々しい圧を放ちながら、椿はすごむ。
「駄目だ! みんな! あいつら酔っ払いだ!」
「え???? まだ酔っていませんが????」
「そうよね! これからよね!」
「アーリアウェーイ!!」
「ウェーイ!」
『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)はぐいと杯をあおる。
 まるでシャイネンナハトのジングルベルのように、グラスを打ち鳴らす音がする。
「盗賊さんは凝りてない、いやもしかして飲み足りないのかしら!」
「違うっ!」
「酒!
酒!!
酒ぇっ!!!」
「あんなにお酒を持ってるんですもの!
私もやる気モードでお相手しないと、酒飲みの名が廃るわねぇ」
「1+1は2じゃないぞ。自分達は1+1で200だ! 10倍だぞ10倍」
 プロレスラーのごとくすごむ二人。
「さてここで問題よ! じゃん……1足す1は~……?」
 相互に酒を注ぎ合うエッダとアーリア。腕を組み交わし、互いにジョッキを飲む。ジョッキはすぐに空になる。
「「0っ!」」
 変幻自在の酔っ払い算の威力に、頭を抱える盗賊たち。
「今日は最強の仲間を連れて来たもの、ねぇエッダちゃん!」
「ウェーイ!」
「私達のパワー、見せてやりましょー! 宴会が待っているわ!」
「……え?」
 まじまじと樽を見つめる蝶華。
「本格的にお酒飲むにはあの盗賊団を倒さなきゃいけない? しかもお酒はあの盗賊団が持ってる? ……そんな~」
 驚愕の表情を浮かべる蝶華。
「……ふう、仕方ないでござるな」
 ニア殺してでもうばいとる。
「な なにをする きさまらー!」
 酒呑衝動。
 アルコールは、いくらあっても足りない。

●酒飲み(穏当派)
「もうだめだ! もうだめだ!」
「落ち着け! ネコチャンがいるぞ!」
「んああネコチャン!?」
 癒やしを求めて振り返る盗賊たちの目に飛び込んできたのは、ビューン! と川を飛び越す『雷虎』ソア(p3p007025)だ。
「ネコチャ……トラチャン!!!」
 森の王の存在感に、キマイラはうなる。
「ふっふーっ、こっちのさーけはかーらいぞー♪」
 ソアは瓶を開け、とくとくと注いで、チロリと嘗めてみる。
 アーリア曰く、「辛口」というやつだ。
(さあ美味しそうでしょう?)

「はっ、あのアザラシは……っ!」
 酒瓶を片手にきり、とする『思いを力に変えて』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)。しかし、今回はしゅんとしてふるふると首を振る。
(うきゅ……今回のレーさんはヒーラーなので飲酒は我慢っきゅ)
「……! 今日は飲まないんだ!」
「お仕事中だから!」
「よ、よかった、まともだ!」
「アルコールあるところに、イレギュラーズあり……そう云うものだったでせうか?」
『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は首を傾げる。
「宴会部隊なんてものがあるとは、盗賊団もなかなかの規模ということでしょうか」
『青き砂彩』チェレンチィ(p3p008318)は、酒におびえる盗賊たちの数を数える。
「いやしかし、飲酒が怖いだなんてもったいない。何があったか知りませんが、お酒は楽しむものでしょう」
「それには限度ってモンがだなあ!」
「ボクはお酒は静かに楽しみたい派なんですがねぇ」
「私たちは、倒してから飲みましょうか」
「まともだ……!」
「え、二次会は静かなところがいいですって?」
「任せるであります!」
「う、うわあーー!」
 イレギュラーズたちはお酒が大好き。
「まあ、ユリーカさんの言でも逃げた盗賊より、それの抱える酒の方にウェイトが有る様でしたので、間違っていないかもしれないのですよ」
 ふう、と息をついて、ヘイゼルはキマイラの前に一歩踏み出す。
「では、酒の奪還(さかもりのじゅんび)……ではなく盗賊の捕縛と参りませうか」

●0次会~宴会の前に~
「キマイラがいる限り、こっちには渡ってこれねぇはずだ!」
(なんて思っているのでしょうか。ソアさんが惹きつけてくれている今がチャンスですね)
 チェレンチィは身軽に飛ぶことが出来る。闇へと紛れ、誰にも気がつかれないままに一息に距離を詰める。
 元殺し屋集団『ルイバローフ』。その身のこなしは的確だ。
 ナイフを翻す。フェアウェルレターが別離を刻んだ。
「ぐああ! くそ、一体どこから!?」
「よし、オラ酒よこせや!」
 水無月の羽根がきらりと輝く。得た効果で空を飛び、一足飛びに酒の方へと至る。
「ぐええ、もう追いつきやがったのか!?」
「落ち着け! 相手は酔っ払いだ!」
「ふっふっふ、そうもいかないっきゅ!」
 レーゲンはじゃん、と鍋を掲げる。
「秘策は皆の分のしじみ汁っきゅ! 二日酔いになる確率をぐーんと下がるし! なっても二日酔いの回復を早めるっきゅ!」
「ナイスであります!」
「これで安心でござるな!」
「じゃんじゃん飲めるわね!」
「おかわり用にいっぱいあるっきゅ」
 燦然と輝くアザラシの神聖な存在感は、無視できるものではない。盗賊たちが聞き入ってしまうものだ。
 レーゲンはびし、とヒレで盗賊を指した。
「そこの宴会部隊の顔が赤い数人! このしじみ汁を飲めば二日酔いにならないから
明日起きた時、禁酒を守らなかった事がゲッコーの兄貴にバレないっきゅよー!」
「お前! 勝手に飲んでたってのか!」
「裏切り者おおお!」
「呑んでないと言いながら!! 顔を赤らめていれば説得力は御座いませんよ!!!」
 レーゲンと椿の指摘に反論することも出来ず。
「わー! だってだっておいしいんだもん!」
「あぁ!? お前自分らの酒を飲んでるでありますか!?」
「飲んでらいです!」
「は? 飲めない? わたしの酒が飲めないですか???」
 エッダと椿両面から責められる盗賊。
 どっちにしろ運命が詰んでいる。
「いいから対処しろ!」
 賊たちが、対処に向き直ったときだった。
「はーい、かんぱーい!」
 頭上からアーリアのパルフェ・タムールの囁きが注がれる。
 甘い菫色の囁きは、抗いがたい衝動を引き起こす。
「う……っ」
 ね、お酒は楽しむものよ。
(酩酊してお互いやり合っちゃいましょ?)
 警戒した構えは、柔らかい微笑みに溶かされていく。
……逆らえるはずがない。
「うわああ! 俺は本当は酒が好きなんだ!」
「馬鹿! 俺もだ!」
 キマイラ用に持ってきたはずの酒を、気がつけばがぶがぶと飲んでいる。キマイラとイレギュラーズ、そっちのけだ。
「さて、……お相手しましょうか?」
 ヘイゼルは、こちらを向いているキマイラのライオンに向かって、錆びていた棒切れを振り下ろす。舞い上がった砂が、重い砂嵐を巻き起こす。
 キマイラの動きは明らかに鈍った。酒を飲むスピードも……。
「は?」
「オイオイオイオイなんでありますかあの畜生。
贅沢に酒とか飲んでるでありますよ。
それは自分のであります!! どけや!!!」
 酒か? 酒だな? 酒を飲もうとしたな?
 全てわかる。その好みまでも。
 すさまじく強引な攻撃、その中でも最良の角度で、キマイラの鼻っ柱に当てる。当然キマイラは怒る。
「邪魔です!!! わたし達の酒は渡しませんよ!!!」
 椿は流れるように杯をあおり、攻撃にそなえる。後の先から先を撃ち、縫い付ける刃。そして、飲酒。
 外三光を編み出した剣士もまさか合間合間に飲酒されるとは思ってはいまい。
 ソアの毛並みが金色に波打つ。ルーン・T。勝利のルーンが輝いている。
 蛇の牙はソアを止めることは出来ない。
 怒り狂った蛇を惹きつけて、そのまま。
「え」
「なんだ!?」
「うわあっ!」
「やあ、お邪魔しまーす!」
 ソアは、盗賊たちの方へと降り立った。
 ね、そのために盗賊たちの注意をこちらに向けておいたのだ。
(手助けになったかしら?)
 アーリアはグラスを片手にウィンクする。

●その酒は我々のものだ
 チェレンティのスニーク&ヘルが決まった。
 賊は、つがえていた矢を取り落とす。
「はい、どうぞ」
 ヘイゼルのミリアドハーモニクスが、酔っぱらいたちの調和を保つのだった。
「っきゅ! 負けないっきゅ!」
 レーゲンの大天使の祝福がもふっとエッダを包み込んでいた。その勢いのまま、エッダは思い切りキマイラを固定する。
「よーしよしよし、甘い酒も良いものでありますな……ちょっ、おいお前、この酒は自分の……
じぶ……」
「ゴオオオ!」
「邪魔するんじゃないでありますよ!!」
 キマイラに打撃を叩き込むエッダ。
 徹甲拳。力を集約して放たれる一撃は、それだけでかなりの威力を伴う。
「グ、グウ!」
 それが何度も重なるとなれば……。見た目でこそ分からないが、キマイラの内部は大きなダメージを受けることになる。
「この酒は!! 誰にも渡さないであります!!」
 酒樽を引き寄せてがぶ飲みするエッダ。
「お見事です。では、こちらはお任せください」
 椿によって、械氷剣『桐鳳凰』が抜かれれば、辺りは一瞬凍り付いたかのように時を止める。
 潜在能力を引きずり出す妖刀。
 初見だった。不敵に微笑み、酒をあおる剣士などというものは……。そしてその剣筋は見事に盗賊を打ちのめす。
 続けて椿の繰り出した直死の一撃は魔性。
「これぞ稲荷酒造・桃源郷にござる!」
 飲む度に味が変化する美酒を片手に、変幻自在の酔剣の構え。
「ヒック! おお……盗賊が三人に見えるでござるよ……」
(チャンスッ!)
 だがしかし、盗賊の攻撃は当たらない。ふらりと酩酊する動きは、よろよろとしているように見えながら、的確に刃をかわしていた。
 馬鹿な。
 カプリースダンス。振り回される太刀の、連続攻撃が相手を切り刻む。
 流血を浴びて。
「っ……」
 らんらんと輝く蝶華の目。角が覗いた。
「先ちょだけ! 先ちょだけでござるから斬らせてその血を飲ませて欲しいでござるよ!」
「!?!?!」
 それがなくては、満腹にはなれない。
 だからこそ蝶華は、果てしなく底なしの食欲を見せるのだ。
「こんな連中に付き合ってられるか! 俺たちはまっとうに進むぞ!」
「だめだよー」
 ソアの本能は、逃げようとする獲物を的確に見抜いていた。
 わっと駆けるように側にいた。
 吹きすさぶ風のやいばが、ビュンビュンと敵を飲み込んでいく。
「あら? こっそり宴会を抜けようとしている人がいるですって?」
「それは許せねぇでありますな!」
 アーリアの葡萄酒色の蔦が、敵に這い寄っていた。
「ふふ、葡萄酒の神様とっておきの呪いよぉ」
 バッカスの饗宴。
「アーリア、いったん後ろで乾杯であります!」
 アーリアをかばい、酒を飲むエッダ。この場をでろんでろんにしている要であるからであるし。それに、何より友達だからというのもある。
「これが終わったら辛口の酒と飲み比べするでありますよ」
「約束よー!」
 死亡フラグじみているが、今なお、酒をあおっている手は止まらない。

 アーリアはふわりとグラスを持つ手を唇に寄せた。
 左手の投げキスから放たれるのは、真っ赤な恋の炎。
 焼け焦げて。酒に溺れて……。
 もう、逃れることは出来ない。ただただずぶずぶと沈んでいくだけだ。

「大丈夫でしたか?」
「おっと、危ないでござるなあ!」
 跳ねるピラニアをかわす蝶華。チェレンティが咄嗟に腕を引いていた。ピラニアを見て、ヘイゼルは少し考える様子を見せる。
「ピラニアって実は意外と美味しいらしいのですよね」
「……!?」
「塩焼きでもにすれば酒のあて良さそうでせうか。
ピラニアは血を撒き餌にすればすぐに集まってくると言いますし」
「血は良い、血は良いでござるよ~、おなかいっぱいになるでござる」
「まあ、釣りの餌にするものは大量にありますしね」
「餌にされるーー!!」

●酒席は続く
 なんとか体勢を立て直そうとする盗賊たちに、チェレンチィが奇襲をしかける。
 狙いは倒れそうな盗賊、ではなく、もう一人。
 まだ無事で、大きく武器を振りかぶろうとする方だ。
(ボクの役目は”妨害”、ですよ、えぇ)
 鋭い一撃。そしてもう一撃。
 そろそろ、キマイラの蛇の側も弱っている。
 ソアの武器は腕。するどい一撃である。蛇はばちんと倒された。放たれる毒をひらりとかわして、盗賊たちのそばで舞う。まるで戯れているようだ。
 蝶華は口の端についた血を拭い、満足そうにとろんとした笑みを浮かべる。
「ふにゃ……何だか滾ってきたでござるよ!」
 その足取りは、狂熱をさそうダンスだ。
「なっ……」
 懐まで飛び込んで、そして両手に持った杯を差し出す。
「うう……拙者の酒が飲めないと申すか、このアンポンタン! 飲め! 飲め―! 飲め――!」
 ヘイゼルは酔っ払いに巻き込まれない絶妙な位置にいた。
「さて、そろそろ一次会の準備が出来ますね」
 クェーサーアナライズが、仲間たちの流血を癒やす。
「っきゅ! レーさんもそろそろとっとと終わらせて飲みたいっきゅ!」
 レーゲンはきゅ、と舞い上がり、そしてそのまま身を固める。
 森アザラシフィンブル。
 圧縮させた風の冬が、盗賊たちを襲う。
 そしてそれも、仲間にとっては涼しい風。翼を広げた椿は、邪魔にならぬようにどいて、冷気を自在にまとう。
「これなら氷がいらないでありますな! 天才的な発明であります!」
「何倍でもお代わりできちゃうわね!」
「ぷっはーー! 仕事のあとの一杯は最高でござるよ!」
「こんなに酒が美味しいのですから!テンションも跳ね上がってしまいますねぇ!!」
 きりり、と椿の瞳が盗賊を見据える。
「まだ酒はあるのでしょう?  跳ねなさい。隠し持っているのでしょう?」
「ごめんなさい、持ってましたーっ!」
 血意変換が何度もの飲酒を可能にする。
「跳ねなさい。
そしてわたしに酒を出しなさい」
 ジャンプしたり歩かされて、まっすぐ歩けないとみるや酒をカツアゲされる盗賊らであった。
 攻撃をよけるソアの背を、ふわっと誰かがなでた。
「お 待 た せ」
 目が据わっているアーリアだ。
 恋心が全てを焼き尽くし、パルフェ・タムールの囁きで幾人もを酒に沈め。
 エールの入ったジョッキ、ワインの注がれたグラス。二つを、一つに。
(勝て、ねぇ……)
 ゲッコーは一撃に沈んだ。

●すみませんでした
 並べて正座させられる盗賊たち。
「ところで酒が足りてないんでありますがあの盗賊団まだ持ってんじゃないでありますか?
オイコラ」
「はいそこ、ふらっとしましたね。飲酒確定ですね」
「うぇーい!」
「ちょっと脱がしてみるでありますよ。うるせえ喚くんじゃねえ生娘でもあるまいしよぉ!!」
 服をぽいとピラニアに捨てるエッダ。
「餌に為りたくないのでしたらちゃんと酒樽を運ぶのですよ」
「そうだ、ピラニア! んー、丸焼きでいいかな?」
 ソアが通路にひょいと飛び、雷電を食らわせる。
「良い匂いですね」
「文字通りサカナだね!」
 よい酒のアテができた。
「飲むわよぉー!! 酒宴!!」
 アーリアの音頭に合わせて、それぞれ杯を掲げる。
「酒樽はボクたちのもの!
いよいよ本番だよ!」
「かんぱーい!」
 この先に何かあるみたいだけれど。お酒が無くなってから、だ。
(だってそうしないと直ぐに皆に飲まれちゃいそうだもの)
 我慢していた者たちも。すでに飲んでいた者たちも。
「あはぁ、甘いのと辛いので無限に飲めるね!」
「でしょでしょー?」
「じゃーん、これがしじみ汁っきゅ!」
 レーゲンは取り出した。
 しじみ汁はオルニチンという成分が二日酔いの原因である有害物質アセトアルデヒドを分解する成分が含まれているほか、頭痛などの緩和に有効で血液中に残った毒素を分解してくれる働きもあるのだ。
「ほええ……」
「お酒を大量に飲んだ後、体は軽い脱水症状になって身体がだるくなるっきゅ。でも、塩分や水分の補給をすることで身体が楽になるっきゅ」
「それじゃあ、ラーメンが食べたくなるのは……!」
「そうっきゅ。しじみ汁は低カロリーで塩分水分が取れるっきゅ」
「あぁ!? 足りないでありますが!?」
「じ・つ・は・ね?」
 アーリアがどんと酒瓶を並べる。モリスの差し入れだ。
「合わせて飲み直しよー!
ほらほらそこの盗賊さんも、私のお酒が飲めないなんて言わせないわぁ!
はい飲ーんで飲ーんで!」
「飲め! 飲め!」
 なんだかんだ皆で酒を飲むことになっていた。
「……ね、ゲッコーさん達。
盗賊やめて、私の領地で働かない?」
「え?」
「腕っぷしの立つ人、丁度欲しかったのよねぇ。
それになんだかんだ、私貴方達嫌いじゃないのよ
三食お酒付き、魅力的な話じゃない?」
 モリスのラベルを眺める一人の部下。
「……俺、ホントは農家とかやってみたくて」
 おいおい泣き始める部下たちに言葉を失うゲッコー。
「……いいのか?」
「裏切ったら? まぁ何度でも潰すだけよぉ、ふふ」
「そうでありますな! ピラニアにドボンでありますよ!」
「そしてまた宴会ね?」
「たまには大人数で飲むのもいいかもしれませんね……ボクは酔わないのでいつも貧乏くじなんですが」
 チェレンティはふう、とため息をつく。
「大丈夫であります! 飲めば嫌なことチャラであります!」
「っきゅ!」
「そうですね、私もサポートしますよ」
 と、ヘイゼル。喉をなでるとソアがゴロゴロ言っている。
 膝の上では、あったかいアザラシが幸せそうにもふもふしている。
 たまには、いいか。……こんな日があっても。

成否

成功

MVP

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

状態異常

なし

あとがき

そして、舞台は2次会へと続く――!
お疲れ様でした。とても……強かったです……。

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