シナリオ詳細
<Raven Battlecry>砂漠に埋める命
オープニング
●恋い願うは男と女の
『色宝』――――それは、ラサの遺跡群『FarbeReise』に眠っていたお宝。小さな願いを叶える宝。
古来より、そういった宝を付け狙う存在が盗賊というのは、定番とでもいうべきか。
『大鴉盗賊団』首領・コルボが部下達に『色宝の分け前を与える』と発言した事で、部下達にも宝を手に入れようと欲をかく者が多く出てきた。
襲撃をかける前、部下の一人は女の下を訪れていた。
女は売春宿に住む商売女だ。金を与えれば求められるままに体を差し出す。それが女にとっての世界だった。
抜けられる道もある事はあるが、それを生きた身で行なえるのは稀とも言って良い。それぐらいに厳しい世界だ。
いつものように事を終えて、男と女はベッドの上でおしゃべりに興じる。
精悍な顔つきの男は、短く刈り上げた赤い髪を軽く撫でつけると、女に朗報を告げた。
「今度、宝が手に入りそうなんだ」
男の言葉を聞き、彼にしなだれかかっていた女は怪訝そうな顔で彼を見上げる。
「宝ぁ? そういうのは大体ボスの手に収まるもんだろぉ?」
「大体はな。だが、今回はそうじゃねえ。ボス自ら、『分け前を与える』って言ってくれたんだ。つまり、俺にもチャンスはあるってこった」
「でも、まだ宝は手に入れてないんだろぉ?」
「ああ。けど、絶対手に入れてみせる。それにな、そのお宝、願いを叶えてくれるという噂だ。そうだ、願いをお前がここから生きて出られるようにって叶えてもらうか? それか、売ってお前をここから出してもらうでもいいな」
「ふぅん」
「なんだよ、興味ねえのかよ」
不満げな男の頬を女の手が撫でる。唇に一つ贈り物をして、女は男に言葉を返す。
「興味はあるさぁ。けどねぇ、あたいが欲しいのはそんな宝じゃないのさぁ」
「あ? 何が欲しいんだよ。宝が手に入れれば、願いだって叶うんだぜ」
「わかってないねぇ。あたしが欲しいのは、二つだよぉ」
「……ここから出たいだけじゃねえのか?」
男の質問に女は首を縦に振る。
わかっていなさそうな男を見て、女は溜息を零す。
「まったく……あたいに言わせるんじゃなぁいよぉ。あんたの想いに応えたいって話さぁ」
男の目が見開き、それを見た女が笑う。
「あんだけ口説かれちゃ、こっちも折れるしかないだろぉ」
「…………嘘じゃねぇよな?」
「もちろん。この商売、客相手に口上を述べる事はあっても、心は簡単に明け渡さないもんだぁ。そんな奴が言うんだから、信じなぁ」
商売女――今だけはただの女としての言葉は、男に歓喜の声を上げさせた。
そして、互いの間に生まれたものを慈しむかのように、二人はベッドに再び沈んでいく。
●想いは突き動かす原動力となりて
「絶対に手に入れてやる……!」
男は力強く呟いた。
周りの仲間達は敵だ。誰が先に『色宝』を手に入れるのか。現場は争奪戦となるだろう。
けれど、負けられない理由がある。
男は半月剣を構えて雄叫びを上げると、後ろにいる男達を振り返った。彼らは男に対し、尊敬の念を込めた目を向けている。
男の居る部隊は少人数ながらも、それぞれが戦闘に長けている者ばかりだ。
近接戦闘要員として、半月剣や長剣を持つ者。刃には【致死毒】や【猛毒】を与えるものがついている。
中距離戦闘要員として、弓矢を持つ者。なお、当たれば【麻痺毒】や【毒】をくらう。
長距離戦闘要員として、魔法攻撃を持つ者。こちらは【防御無視】や【必殺】を有している。
男を含めて、総勢十五名程。そして、男はこの少数部隊の隊長であった。
部隊長であり、慕われている事もあるとはいえ、『色宝』を手に入れようとする時、この仲間達は彼に対して容赦しないだろう。それでも、男は負けない。負けられない。
「行くぞ、てめぇら!」
叫び、男と部隊達は行軍を進めていくのだった。
向かう先は、ラサの首都ネフェルスト。
●知らぬ想い、交わる意思、その果てに
イレギュラーズが情報屋から得たのは、ラサの遺跡群『FarbeReise』に盗賊団が襲撃を仕掛けようとしている事であった。
「『大鴉盗賊団』の一部じゃないかな、というのが見解だよ。彼らの狙いもまた『色宝』だろうね」
そう言って、情報屋の男はイレギュラーズに待ち構えて欲しい場所を地図で示す。
指先に見えるのは、一本の道。
「通るだろうと思われる場所はここ。この道を通ると住宅地へと繋がる。そうなると、この地の人達への危害が及ばないとも限らない。君達にはこの住宅地に入らないように迎撃をしてほしいんだ」
「敵の情報はどれぐらいわかってる?」
「人数と、おおよその構成、ぐらいかな。近接武器、投擲武器、あとは魔法を使用する者で構成されてるみたいだね。大体十五名ぐらいだよ。先頭には隊長格らしい男が居るから、多分こいつを叩けばある程度は瓦解すると思う」
「なるほど」
「とはいえ、周りがこいつを助けようとするだろうね。どうもこいつは人望があるらしい。盗賊に人望とか、なんだかなって感じだけど、まあいいや、そこはおいといて」
情報屋の男は溜息をつくと、イレギュラーズに行動を促した。
「とにかく、頼んだよ。ここを通したら民に被害が出るからね」
- <Raven Battlecry>砂漠に埋める命完了
- GM名古里兎 握
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年12月21日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●両者共に譲ることはなし
イレギュラーズの足下に広がるは砂地。
彼らの後ろには住宅街。
一本道であり、障害物も無い為、よく見渡せた。
しかし、こちらから見えるという事は、向こうからも見えるという事。
彼らが来るより先にこの地に着いたイレギュラーズは、準備をする。
出来そうな準備を行なっていく中で、『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が軽口を叩く。
「お宝争奪戦なんて住民の命が懸かってる状況でフキンシンだけれどちょっとワクワクする展開だよね」
「とはいえ、平和を乱す輩は許せん」
「そうだね。ちょっとザンネンなのは、盗賊団のボスとはバトルの後で熱いユウジョウが交わされることにはならなさそうなことかな。あんまり仲良く出来そうなタイプじゃない」
「仲良くしたくもない」
険しい顔つきの『聖断刃』ハロルド(p3p004465)とそんなやり取りをしている近くでは、『貴方の為の王子様』ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)が、砂の精霊に願っていた。自分達の足場を少しでも軽く出来ないか、と。
だが、少しでも軽く、というものがよく分からない精霊達。
足を取られにくくなるよう、滑りにくくしてくれ、と噛み砕いて説明するとやっと納得したようだ。了解の意思を得て、アントワーヌはホッと息を吐く。
その旨が仲間達に伝えられた時、真っ先に動いたのは『片翼の魔剣』チェルシー・ミストルフィン(p3p007243)だった。
彼女は一本道の奥へと駆け出していくが、止める仲間は居ない。ここに来るまでの間で、彼女が何をするのかを聞かされていたから。
安心を得たイレギュラーズは、改めて道の真ん中に陣取る。遠くから人影が見えてきた。
豆粒ほどの大きさだったものが近付くにつれて大きくなっていく。
やがて人の形が見えるほどの距離になった時、一度向こうの足が止まる。こちらの人数を確認でもしているのか。
先頭には赤い髪の男が見える。彼が部隊長だろうか。
盗賊団の部隊長らしき者とその部下一名が会話している様子が見えた。短い時間の後、すぐに行進が再開された事から、彼らに撤退の意思は無いようだ。
イレギュラーズも迎え撃つ姿勢を崩さないまま到着を待つ。
部隊長らしき人物に従うように行進する部下達の動きには、気が逸っているようなものが見られなかった。ある程度は連携が出来るのかもしれない。
ある程度近付いた所で、『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)が制止の声をかけた。
「そこで止まっていただけますか? 何故(なにゆえ)にここを通ろうとなさるのでしょう?」
部下達を制した赤い髪の男が、精悍な顔つきを険しくして彼女を見つめる。
「シスターか? はっ。帰って神にでも祈ってろ。てめぇの無事をな」
返ってきた言葉は返答の体を成しておらず。
自然の流れのように、ライが息を吐く。
「そうですか……それでは、致し方ありませんね」
慈愛のように微笑んだ口元へと運ばれたロザリオ。銃のような武器のそれに口づけて、ライは盗賊達へ視線を移す。
「あなた方を神の御許へ送らせていただきます。その魂を浄化していただくようにしましょうね」
憐れむような視線を受けて、盗賊達の殺気が膨れ上がる。
「ちょっと! 挑発してどうするのよ!」
思わず『狐です』長月・イナリ(p3p008096)がライにツッコミを入れるが、彼女はキョトンとした顔で振り返り、小首を傾げるだけだった。「私、何か間違った事を言いましたでしょうか?」とでも言いたげだ。
その反応を見てイナリは長い溜息を零すが、吐ききった後はその眼光を鋭く光らせて盗賊団へと向けた。
「でも、そうね。この方が手っ取り早いかもね!」
「人数さをものともしないのが私達よ。ここから先に行きたいのなら、私達を倒していくことね!」
槍を構える彼女に続くように、『オトモダチ』シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)も言葉をかける。
『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)も武具を構える。
彼女達と一緒に、ハロルドやイグナート、アントワーヌもそれぞれの武具を構えて盗賊団に相対した。
イレギュラーズの、迎え撃つ気満々という態度を見て、盗賊団の顔つきが剣呑としたものになる。
赤髪の男が号令を叫ぶ。
「突撃だぁ!」
●両者、守る欲と奪う欲をもって激突せんとする
部隊長の号令に、部下達が叫びをもって返答とする。
彼をはじめとして、前衛組がイレギュラーズに駆けていく。その後方では弓矢部隊や魔法部隊がそれぞれの武具を持って構えていた。
まずは、イレギュラーズの一人が先手を打った。
遠く離れた位置から、神秘の光が一筋の線を伴って盗賊団へと向かった。部下の一人を射貫き、その姿は空中へと飛んでいく。
その光を放ったのはチェルシーである。
反動も大きい攻撃手段だが、彼女が受けたダメージを、ポテトが癒やす。
チェルシーはコレ一つで勝負するつもりでいた。遠くからこの攻撃をしていく事で、盗賊達が吹き飛ぶ姿を見たいという気持ちがあったのは否めない。
実際に吹き飛んでいく姿を見た時、彼女の体を巡ったのはダメージとは別のものであった。
この攻撃によって自分を見てくれる、という、一種の快感。
嬉々として放つ彼女の視線の先では、イレギュラーズの一人が彼らに向けて声を発していた。
イグナートの声が砂漠地帯にてよく通る。
「オレはイグナート・エゴロヴィチ・レスキン! ここから先は通行止めだよ。大人しく帰ればよし! 押し通ろうっていうならば命を懸けてもらおうじゃないか!」
彼が視線を向けているのは部下達にだ。後方に控える弓矢部隊にまでその影響は届く。
彼らはイグナートの姿を認めると、標的を彼に切り替えた。気付いたイグナートが拳を構え、挑発するように指を一本立てる。盗賊達に向けてこっち来るよう挑発する。
注意が彼へと逸れたのを見て、ハロルドが低空飛行にて近付く。彼が狙うのは、住宅街へと入ろうとする者達だ。
「ははははっ! 神殿騎士ハロルド! ここに推参ってなぁ! おら、死にたい奴からかかってこいよ! 『泥棒が魔法のランプを拾って成り上がる』なんてストーリーはお伽噺の中にしか存在しないってことを教えてやろうじゃねぇか!」
笑いながら、自身の闘気をぶつけるハロルド。
彼の正義を具現したかのような闘気は一部の盗賊達の意識を集めさせるのに十分だった。彼らは先程イグナートに向けたものとは異なる表情――――怒りに歪んだ顔でハロルドを見つめている。
立ち向かってくる盗賊達と剣を切り結ぶ。
盗賊達に向けて、聖剣でもって応じるハロルド。太陽の光を受けて、それは聖剣に相応しい輝きをしていた。
「砕け散れ! トールハンマァァァ……クラッシャァァァァァァァッ!」
全力で振り下ろた剣から発される雷鎚。放たれる雷。盗賊の一人へその一撃が入る。
半月刀や長剣がハロルドを狙い、彼への手助けとしてイグナートが加入する。
背中を合わせ、盗賊達と戦う二人。
その二人の横をイナリが走り、部隊長へと向かう。
彼の周囲には近接戦闘を得意とする部下は居ない。だが、後方に控えている弓矢部隊や魔法部隊が的確に援護をしており、対峙している者達――――アントワーヌとシャルロットはその攻撃を受けたりかわしたりしながら部隊長と切り結んでいる為、少々やりにくい。
二人が範囲内に収まるように調整しつつ、ポテトも彼女達の後方に控えている。
アントワーヌは傷を受ける度にその肉体を回復している。事前にかけていたもののおかげだ。
彼女が精霊に頼んだおかげもあり、足場はイレギュラーズに少々有利だ。とはいえ、部隊長とやり合うのに少しマシになった程度のもので、足場への注意を払う必要はあった。
シャルロットやアントワーヌが対応する中でのイナリの加入は、二人にとって大きな助けとなる。
「ちっ、増えたのかよ、面倒くせぇ!」
足下の砂を蹴り、三人が怯んだ一瞬の隙を距離を取る。腰に下げていたブラックジャックを持ち、半月刀と共に構え直す。
後方から一筋の光が飛ぶ。シャルロットの鎧がそれを受け、身体へのダメージを負う。
その傷を後ろからポテトが癒やす。
「厄介ね。部下に慕われる上司なんて。でも敵わぬと知って突破ではなく、それでも向かってくる部下……盗賊にしておくにはもったいない部隊ね」
「あぁ? 何言ってるんだ、てめぇ」
「褒めたつもりなのだけど」
クスッと笑うシャルロット。それを訝しげに見つめる部隊長。
彼の後方より弓矢が放たれる。アントワーヌを狙ったそれを、彼女は空中に浮いたままステップを踏んで回避していく。まるでダンスを踊るように。
常に「王子様」であれと自分を律する彼女。その目標に恥じぬよう優雅に舞う。
そして彼女はもう一つ舞を披露する。どこからか生まれ出てきた黄色の薔薇が彼女の周りに集まり、彼女と共に優雅に舞い始めた。
黄色の薔薇は彼女の手によって遠くへと投げられる。向かう目標は魔法部隊。
一人、また一人と、命中する度に悶絶する様が見える。触れた棘から伝わったであろう電撃を受けたのだろうと分かったのは、投げた本人のみ知る事だ。
彼女は王子様らしく微笑んで、彼らに向けて礼をした。
「砂漠に咲いた一輪の薔薇なんて、素敵だと思わないかい?」
顔を上げて呟かれたその言葉は、遠くに居る彼らには決して届かないけれど。
イレギュラーズの後方で、チェルシーが狙いを定めて魔導具を構えている。
(いくら仲間意識が強かろうと、極端な暴力が強まっただけなのよ。よって死刑よ。私はむしろ嬉々として砲撃役に徹するわ)
胸中で毒づいた彼女は、口の端を上げて、三日月のように笑う。
「さぁ、膝を折りなさい! 泣き叫びなさい!」
もう一つお見舞いするべく、彼女の魔導具でもある魔剣が前に掲げられる。
癒やしの力によって回復した彼女の一撃が放たれる前に、チェルシーは再び笑って語る。
「都合の良い神様への命乞いは済んだかしら? では消える様にアッサリ死になさい!!」
放たれた一筋の光。打ち抜かれて吹き飛ぶ盗賊の一人。
その様を見て、チェルシーは舌なめずりをする。
早く部隊長を仕留めたい、と。
●彼の者の行く先を断て
部隊長を援護する部下達が少しずつ削られていく。
その事実に、男は焦りを覚えていた。
先程男が『シスター』と認識した女の行動や言動に対しても、男は得もしれぬ何かを感じていた。
彼女――――ライは、ロザリオと名付けた魔銃を掲げて、躊躇いなくその引き金を引く。
先程チェルシーが打ち抜いた後に瀕死状態となった者や、アントワーヌの薔薇により麻痺を受けた者など、そういった者達から彼女は弾を込めて撃ち込んだ。
慈愛の微笑みを変わらずに浮かべながら、彼女は独り言を呟く。
「ああ……今日は調子が良いようで……これも神の思し召し。
神が、てめぇらは死ねと仰っているのでしょう」
シスターらしからぬ口調の悪さに、部隊長の眉が顰められるも、彼女に尋ねる前にシャルロットの攻撃が彼に襲いかかる。
彼女の魔銃は、次はハロルドとイグナートが相手している近接部隊へと向けられた。
既に二人の手によって半数は砂地に沈んでいたが、僅かでも息のある者へ彼女は遠慮無く弾を放った。
「ええ、ええ、良い所に連れて行って差し上げます」
誰かから質問されたわけでもなく、独り言を続ける彼女。
笑顔のまま、引き金を引く。
「どうぞ順番に、神の御許へ……。ついでにサインでも貰って来たら?」
けたたましい銃声。体より流れる赤い色は、砂に吸われていく。
「助かった」
ハロルドの感謝の言葉に、ライは微笑み返すだけ。
彼女がトドメを刺してくれたおかげで気にせず戦える。
そう思うと、横目にその様を見ていたイグナートも意気が高揚とするものだ。
鉄の拳を握り直し、イグナートは最後の近接部隊の顔へ叩きつけた。
近接部隊は潰した。あとは、後方より部隊長を支援する部隊と、その部隊長のみだ。
視線を移せば、部隊長の後方に居る人数は残り一人、二人となっていた。
徐々に部隊長を囲みつつある布陣を敷いていくイレギュラーズ。
その様に、部隊長は歯ぎしりするが、撤退する様子は見られない。
普通なら逃げ出すであろう状況になってもなお自分達に立ち向かおうとする彼へ、シャルロットが情けをかける。
「何か事情があるんでしょう? 降伏しなさい」
「はっ、誰が降伏するかよ……」
彼女の情けを撥ねのけて、男はブラックジャックを投げつけた。
躊躇いなく切り捨てるシャルロット。彼女の視界に入ったのは、ブラックジャックから出てきた大量の砂粒。
風の流れを受けて彼女の顔面に襲いかかる砂。すんでの所で目を閉じて回避し、一歩下がる足。
目を開けた彼女が次に視界に入ったのは、半月刀を持ってポテトに襲いかかろうとする男の姿。
ポテトと男の間に体を滑らせたのはイナリであった。
その身に炎を纏わせて、槍を突く動きを連続で動かしていく。
邪魔は予想していたが、連続攻撃という思わぬ反撃に、部隊長は半月刀で受けていくのが精一杯だった。
そして、彼に新たな攻撃が襲いかかる。
イグナートが彼の背後に躍り出て、その鉄の拳を振りかぶった。呪われた右腕でもって、雷吼拳と名付けた技で彼の背中に一撃を食らわせる。
一撃を受けた隙を突いて、イナリの槍が部隊長の腹部を貫いた。
槍が引き抜かれた後、部隊長の膝が砂地へとつく。意識はまだあり、彼はそのまま座り込み、空を仰ぐ。
彼にも分かる。血の量が、体に与えられたダメージが、死を迎えつつあるという事を。
近付いたシャルロットが、彼に尋ねる。
「誰かに言い残すことは?」
「……女に」
とある町と売春宿の名前、それからそこで働く女の名を告げる。
「……生きてくれ、と…………」
死を迎える事を悟った男の、女への願いはそれだった。
色宝で彼は何を願おうとしたのか、それはイレギュラーズには分からない。
だけど、と、ポテトは唇をキュッと結んで、口を開いた。
「誰かを愛して、愛される喜びは分かる。
だけど、愛した人と一緒になりたかったなら、その人の幸せを願うなら、真っ当な手段で身請け金を得るべきだった。
お前は、とるべき手段を間違えたんだ」
ポテトの言葉を受けて、男は力なく笑う。そんな事はとっくに分かっていたのだと言うように。
「せめて……楽に、して……くれ……」
今際の際の願いを、シャルロットが受け入れる。
妖刀と呼ばれる武器を振るい、大鎌の姿を作り上げて、彼女は男の首を刈り取った。
任務を終えて移動する道すがら、チェルシーは、はぁ、と肩をすくめてみせた。
部隊長に見つめられたかったのが叶わなくて少しばかり残念のようだ。
「願いが叶う色宝をボスが本当にくれると思ったのかしらね、馬鹿な男……」
その呟きは、風に溶けて消えていった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
皆様お疲れ様でした。
頑張ったので、麻婆豆腐を食べてきますね!
GMコメント
今回は舞台がラサという事で、張り切っております。エチゾチックって良いですよね。
さて、今回は盗賊の迎撃です。
●成功条件
・部隊長の討伐
・部隊の壊滅
・(オプション)住宅地に一人も通さない事
●戦闘場所
木々や障害物などが無い、開けた道。ただし、砂漠の為、気をつけないと足をとられます。
天候は良く、風もあまりありません。砂埃が多く舞うという事はありません。
●敵情報
・部隊長×一
主な武器として半月剣を使用。【致死毒】を伴う。
剣以外にも、腰にブラックジャックを下げている。
砂地での戦いに慣れている為、足下の砂をかけるなどの戦法も使用する。
『色宝』を手に入れて惚れた女と添い遂げる事を目的としている。
・部下×四(近接戦闘)
主な武器として半月剣や長剣を持つ。
【致死毒】や【猛毒】を有するのに加え、【出血】を伴う。
・部下×五(中距離戦闘)
弓矢を持つ者。なお、当たれば【麻痺毒】や【毒】をくらう。
・部下×五(長距離戦闘)
魔法攻撃を持つ者。こちらは【防御無視】や【必殺】を有している。
なお、部下十四名は部隊長の援護をする事があります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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