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シナリオ詳細

<Raven Battlecry>私を私たらしめる唯一の

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●こゝろ
 失敗したのだと、ハートロストは口を開いた。
 色宝(ファルグメント)が叶える願いのひとかけにボスが見出した可能性を否定することも肯定することもなく、彼がそうだと言うからと少女は戦場へと飛び出した。
 そして、失敗した。
 感情(こころ)の器だけの少女にとってローレットのイレギュラーズのイデオロギーを否定することは出来なかった。彼女たちは自分たちの心の儘に武器構え戦いを挑んでくる。
 それは、ハートロストには存在しない行動であった。

 ――お前は心がないからハートロストだ。シンプルで分かりやすいだろう?

 そうやって笑ったボスの顔を思い出す。こゝろが『こゝろ』と呼ばれているのは『自身が心を求めているから』だけである。本来の名など、何処にも存在して居ない。
 ならば、自身を表す唯一の記号さえ存在しないハートロストのレゾンデートルは?
 其れに惑うことさえ出来なかった。
 惑うこころがどこにも存在して居なかったから。

 それでも、ハートロストは『次の指令』を聞いて「はい」と頷いた。
「ボスが望むのなら、わたしもそうする。それが、こゝろが存在する理由になるはず」

●二つの性質(こころ)の獣
 それは顔はライオンを思わすが、首から下はアリの姿をしていた。
 草食性のアリに、肉食性のライオン。相反する二つの性質を持ったそれは飢え死ぬ事が決定付けられていた。耐えきれぬ飢えに獣――ミルメコレオは牙を立てて凶暴に肉を貪った。
 それがハートロストが知っている伝承の獣であった。ファルベライズ遺跡群の中核、『ボス』が向かうと言った地底湖にその獣が腰を下ろしていた。
「どうする? ハートロスト。ここであの生き物を放置すりゃ、ボスもぺろっと行かれちまうぜ」
「……いきものが食事をするのはあたりまえなこと。だけれど、美味しく食べてくれないなら、屹度、悲しいというのだと思う」
「そういうんじゃねぇって……」
 張り合いのない子供だと盗賊が呟く言葉にハートロストは首を傾いだ。
「ねえ。あのいきもの、お腹の辺りがきらきらと輝いてる。あいつ、色宝、沢山喰ってる」
「で?」
「殺して、奪おう。ボスも喜ぶはず」
 ハートロストの在り方は、誰かが求める事をすることだった。故に、色宝を得る為に地を蹴った。ボスを『あの虹色の扉』に辿り着かせるために。

●introduction
「ファルベライズ遺跡群と、それからラサのネフェルストに敵襲。
 まあ、後者はフィオナさんの調査でこっちの迎撃になるんだけど、さ……。
 ファルベライズの方は『何か怪しいもの』を追っかけてるってのと『レーヴェンさんが誘拐された』から、こっちが追う側なんだけど」
『サブカルチャー』山田・雪風 (p3n000024)は今回は追いかける側になるのだと口を開いた。
 遺跡の中でイレギュラーズが相対したことの或る一人の盗賊、その名前も『ハートロスト』。両親を葉柄に殺された盗賊のこどもは、魔術の才覚を買われ大鴉盗賊団に所属しているらしい。
 特筆すべきは感情が錆び付き、『心がない』とさえ揶揄される状況であるために、彼女は恐怖心も惑いもない。教えられた『かわいそう』や『こわい』を宛がうように使用しているだけだという。
 故に――殺せと言われれば殺す。それが、ハートロストと呼ばれた少女のレゾンデートルだからだ。
「……ハートロストはコルボの目的の補佐を行っているらしいので、それを撃退為て欲しいっす。
 その、補佐されても良い事は無いので……それから、もう一つ。向かう先の地底湖には『ミルメコレオ』って言うモンスターが鎮座しているようで」
 放置すればその地に訪れる者を凶暴に喰らうだろうと推測される。
 それはコルボを討伐に向かう隊や、補佐に入るイレギュラーズ、そして調査に赴くであろう人々も含まれる。あまり放置をしていたくない生き物だと雪風は続けた後、「これは三つ巴の作戦なんだ」と言った。
「『ミルメコレオ』はファルベライズ遺跡群に住んでいたから腹の中に沢山の色宝を溜め込んでる。消化できないけど、飲み込んだってかんじ。
 殺して、ハートロストは其れをも奪おうとして居るみたいだから、奪われないように為て欲しいんだ。
 勿論さ、ハートロストもミルメコレオの獲物でもあるから……上手く立ち回って、両方を撃退して欲しいんだ」
 ハートロストはイレギュラーズを見れば真っ先に狙ってくるだろう。どの順番で倒すかも重要そうな局面だ。
「気をつけて。……あの、さ、願いが叶って心を得るって、それって、本当にあの子の心になるんだろうか。俺、それがずっとずっと、気になって――」
 詮無いことだねと肩を竦めて、雪風はいってらっしゃいと笑みを零した。

GMコメント

 日下部あやめと申します。どうぞ、宜しくお願い致します。

●達成条件
・『ハートロスト』の撃退
・ミルメコレオの撃破&色宝の保護

●遺跡内部
 ファルベライズ遺跡群の更に奥まった場所に存在する地底湖です。
 地底湖の中央には小島が存在し、淡く虹色に輝いている扉があるようです。その場所を盗賊達は目指しているようです。
 ハートロストは地底湖より現われたミルメコレオの相手をしながらコルボが辿り着くための補佐を行っているようです。
 屹度、扉の先にこころを取り戻せる可能性が存在して居るでしょうから……。

●大鴉盗賊団 『ハートロスト』
 又の名前は『こゝろ』。大鴉盗賊団に所属する少女。盗賊であった両親は傭兵に殺され、その結果、感情(こころ)が動かなくなりました。
 無表情、動じません。色宝を多数集め、ボス『コルボ』に献上した後、分け前で自身に『感情(こころ)』を取り戻したいと考えています。
 両親を殺した傭兵や其れを依頼した商人を殺しても良いと考えています。其れ等全てが『こころの存在意義』になるからです。
 後衛魔術士タイプ。魔術があったからこそボスに目を掛けて貰えたと彼女は知っています。
<Common Raven>待宵のこゝろに登場しました。その時の確執によりイレギュラーズを見つけると狙いを定めるようです。

●大鴉盗賊団 部下*10名
 ハートロストと共にコルボの補佐にやってきた部下達です。
 ハートロストにとっては捨て駒でしかありません。この場ではミルメコレオの餌にもなり得ます。
 死にたく在りません。死にたくないので、イレギュラーズを積極的にミルメコレオの前へと差し出そうとしてきます。

●モンスター『ミルメコレオ』
 顔はライオン、首から下がアリの姿をした奇妙な生物です。
 2m程の体長があります。肉食のライオンの性質のために植物を食べることができず、アリの性質のために肉を食べることもできず、と言った食性の矛盾より長くは生きられません。
 ファルベライズ遺跡に潜み、色宝をお腹の中に溜め込んでいます。
 凶暴に肉を貪り、消化できずに吐き出して、それでも餌を求め、と繰り返します。ハートロスト及び盗賊もそのターゲットです。ランダムで襲い掛かってきます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 どうぞ、いってらっしゃいませ。

  • <Raven Battlecry>私を私たらしめる唯一の完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年12月20日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
リディア・T・レオンハート(p3p008325)
勇往邁進
クンプフリット・メーベルナッハ(p3p008907)
砂翔ける曲芸師
グリジオ・V・ヴェール(p3p009240)
灰色の残火

リプレイ


 こゝろとは何であるか――

 蒼と紅の蛍火は楽しむ様に揺れている。まるで、少女二人がささめくようにゆらり、ゆらりと揺らぎ震えて。その様子を眺めながらも『灰色の残火』グリジオ・V・ヴェール(p3p009240)は行く。淡く輝く虹色は、奇跡をかたちに造った様にその存在を誇張して。グリジオの傍らで『きれいなのだわ』『すてきなのだわ』と揶揄い笑う声二つ。
「この奥に、盗賊団の『ハートロスト』が……?」
 恐る恐ると、確かめる様に。『砂翔ける曲芸師』クンプフリット・メーベルナッハ(p3p008907)は呟いた。暗がり見据える双眸は柔らかな月の鈍色の色彩を湛えている。
 ハートロスト。その呼び名は『その者の在り方』を顕している様で。『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)は傷ましいと言うように唇を引き結んだ。
「心がない……それは――それは、あまりにも傷ましくて……」
 心がない、という状況をどう指すのか。それは『春告げの』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)が云う『無から有を生み出す事の出来ない』という錬金術の絶対条件のようで。願いを叶える色宝(たからもの)にどの様な効能、効果があるかは定かではないが。ハートロストは『心がない』のではなく『感情が鈍った』と表現する方が確かなのかもしれないと、そうぼんやりと感じていた。
「ハートロスト自体も『厄介』だが、此処より見えるあの化け物自体も厄介だ」
 あれは何だと言うように。『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は物陰より見遣る。獅子のかんばせに、体は蟻を思わせる、違和しか存在しないそれは肉食と草食の性をその体に内包するが故に飢え、そのこころを食欲に蝕まれていくのだという。
「此方が餌となりに行くわけにもいかないだろう」
「ああ……獣自体はさっさと撃退してしまおう。しかし……ハートロスト、か。
 これで遭遇するのも二度目になるか。以前と比べれば厄介さも増したが――」
『黒狼領主』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)はだからと言って色宝を渡しても得る者は何もないだろうと、そう断言した。鮮やかなる蒼空の瞳は見据える様に、痩せ細ったちっぽけな少女の姿を双眸に映す。決して、幸福に過ごしたとは言えない、ちいさなちいさな盗賊。
「……『感情無し』とは。……胸糞悪い」
 呟いた『不義を射貫く者』小金井・正純(p3p008000)は何処でも幼子というのは現実を教えぬ儘壊して使う『都合のいい道具』として扱われているのだと、苛立ったように呟いた。其れさえ、詮無きことで此処でその罪を断ずることも出来ない事は知っている。燃え盛る様な苛烈な星を映した瞳は、星々の力をその武具にも宿し往く。地に響いた獣の声。自身の唯一の『目的』を与えて呉れるボスの姿を見送ったハートロストの瞳が薄らと細められて背後の気配に肩揺らす。
 身の丈ほどの、ひとふり。愚かにも、それを構えることを止めないのは何の手立てもないからだ。
『never miss you』ゼファー(p3p007625)は恭しく頭を垂れることもない。溌剌なるその声音を響かせ笑う。
「はろーはろー。探しものは見つかったのかしら? 何なら一緒に探してあげてもよくてよ」
 こころの所在など、捜索届を出したって屹度少したりともみつからないけれど!


 錆び付いた感情は、『かわいそう』にもなりゃしない。人間らしく振る舞いたいなら人間の真似して道化を演じればそれでいい。時間と経験さえあれば、何時だって人間たり得る存在に『なったつもり』になれるのだから。
  故に、グリジオはハートロストを断ずる。価値がない。思考を放棄し、理解を放棄し、こころを放棄して、誰かの言葉に従うだけの人形なのだと。それこそ価値がない存在だというように。
『だからアナタはわたしたちのお気に入りなのだわ』
『だってアナタは狂うことすら錆び付かせているのだわ』
 笑う声。それはグリジオにだけ聞こえた双子の姫君。悍ましい呪いの様に、美しき祝いのように。囁くそれを聞きながら、グリジオは前を進んだベネディクトの「行こうか」という声に小さく頷いた。
 障害として立ち塞がる存在を。害する全てを許さないのは嘗ての栄光を輝かせる魔槍。呪いは主人を蝕み障害を越えるために代償を与える。対価を払いながらもベネディクトは囁いた「短期決戦だ」と。己の槍に乗せた全力。それは、絶望を越えて希望を見せる栄光の蒼を煌めかせる。
 ずずん。音を立てて動き出したはミルメコレオ。その奇っ怪な獣はその腹に無数の色宝を抱えているらしい。お誂え向きと言わんばかりに現われた『餌』を前に空腹の獣が唸りを上げる。
「ああ……どうやら私達をミルメコレオにぶつけて漁夫の利を得ようとしているようですが……そう思い通りにはいかせない」
 リースリットは静かに囁いた。緋色の焔の如き表情を覗かせたクリスタルの細剣は魔力の奔流に包まれる。叩くべき基本の優先順位。戦法としての明確なる道筋を定める如く、リースリットが落とす雷が波濤の如く広がってゆく。
 それはまるで御ロルが如く。ミルメコレオは突如として眼前で始まった戦いに『餌だと』躍起になっているかの様にも見えた。巨体の前で踊る様に牙研ぎ澄ます。憤怒と憎悪の妖怪変化。応報拘執は乙女の嗜み。汰磨羈が放つ電子の雪崩はミルメコレオの行く先を鈍く『変化』させる。
 息飲む音が聞こえたか。盗賊らに狙い定めた獣は戦場では盤上狂わせを担当していると云うならば、ゼファーの唇は甘い三日月描いて謳う。
「ご機嫌よう。ほら、どうにも随分ご縁があるようだし。折角なら楽しくおしゃべりでも如何?
 あんまりツレない態度はとらないで。思わず、追いかけたくなってしまうじゃない」
 くすりと、微笑み言葉は挑発の響きを載せて。愛と自由を謳うからだと対照的な酷く鎖した小さなむすめ。彼女を前にゼファーは手招き手繰る。
「……話すこと何てない」
「あら? 話してみれば案外お話が弾むかも」
 ジョークは嗜み。揶揄い遊んだその声を聞きながら正純は弓を番えて深く息を吐く。神弓に乗せるは鋼(けつい)の驟雨。決して敵を逃さぬようにと穿つが如く。瞬く双つが傍らで寄り添う如く、天星のきらめき落とす。
 ベネディクトと盗賊達の視界の端に大口開いたミルメコレオが見えた。どうせ、餌として喰らうてもその身体は肉を受け付けず、全てを嘔吐し栄養素を求め苦しむ。藻掻くそれを前の前に、畏れ慄くことはなく、鋭利な乱撃を放つ黒狼は静かに笑みを漏らすのみ。
「容赦はせん、慈悲も必要無かろう。条件は俺もそう変わらん、己が死から逃げたければ──我が槍、躱しきって見せろ」
 ――さて、腹を空かせた下郎を前にすれば、二人の姫君は怖れることだろうか。嗚呼、屹度『赤ずきんの狼さん』のお腹を気にするようにくすりくすりと笑み漏らす。
「随分腹に溜めて苦しそうだな。今楽にしてやるよ」
 声と共に、『喰われて堪るか』と云わんばかりに男はミルメコレオを呼び寄せた。その獰猛なる獅子を前に、破滅の物語が微笑んで居る。


 その姿を双眸に映してから、『演じる』如くクンプフリットはナイフを取り出した。踊る様に、演じるように。魔性の茨が絡みつく。
「心がない……んだっけ」
 ちら、と盗み見れば『ボスに言われたことだから』と思考することなくイレギュラーズに相対する小さな少女。その年の頃はクンプフリットと比べても随分幼い。
「心が無いのを何とかしたいなら……まずは何をしたいか、からじゃないかなあ?」
「ボスに従う」
 クンプフリットはどうしたものかと少女を見遣る。小さなナイフに魔術を乗せて、雷の如く降注ぐ其れが照らす光が鮮やかに。
「余所見をするなよ」
「余所見なんて――知ってる? 道化師(パフォーマー)は観客を放っては置かないよ」
 ミルメコレオへと差しだそうとわざとらしく放たれた衝撃にクンプフリットは受け身を取り、グリジオが引き付けるミルメコレオ側に往かぬようにと地を叩く。たん、たた、たん。ステップ踏んで実を踊らせて。盗賊達の攻撃も其れでも重いかと僅か悔しさ浮かべたクンプフリットに柔らかな癒しが送られる。
「護ります! ――リディア・T・レオンハート、推参!
 どうしましたか大鴉盗賊団、随分と及び腰なんですね!」
 朗々と。言葉を響かせリディアは淡い蒼光を湛えた剣を振り下ろす。姫獅子は吠えるが如く、七つの剣技のその一つ、翡翠の闘気宿したリーヴァテインで盗賊達を貫き蹂躙す。
 美しき金糸は汚れ、這いずる獅子よりも尚、鮮やかな獰猛なる獣の如く揺らぎ踊った。その身は触れる者を厭うが如く。美しき獅子の娘は無数の盗賊の攻撃を受けながらもミルメコレオとの立ち位置に気を配り、仲間達の支援を受けて立ち続ける。
「話をするのにも、あなたがたは邪魔です。疾く失せなさい」
 静やかに。正純の声が降注ぐ。それは鮮やかなる鋼となって、盗賊達のその身の上に降注ぎ。
「ミルメコレオ、そんな獣に怯え竦むだけならば『宝を得る』など出来ません!」
 騎士の矜持を揺らがせて。傷を負えども、挫けぬリディアの前に降注いだ雷と驟雨。星屑の如き、矢の落とした慈悲の如く盗賊達がばたりばたりと倒れれば、次に狙うは灰の騎士が一人で『遊び相手』を担う悍ましき獣そのものか。
 クンプフリットがミルメコレオへとちら、と視線を踊らせた。汰磨羈は「次は御主の相手か」と静かに声を漏らす。ミルメコレオの標的が向いたならば、『盗賊を餌にして』という考えに揺るぎなく。宝玉の瞳細めて白猫は雲耀の速さで薙ぎ払う。その身にびりりと奔った痛み。されど、其れさえ構うことはなく。霊素の爆撃に指先より鮮やかな紅が舞う。
「どの様な経緯で生まれた存在なのかは解らないが、せめてその矛盾している身体の呪縛からは解放してやろう!」
 其れこそが自費であるが如く。ベネディクトの双槍が雷撃を纏い飛び込んでゆく。グリジオはミルメコレオががぱりと口を開けたその牙を腕で受け止め溜息を吐いた。
『まあ、おおきなおくちなのだわ』
『まあ、するどいきばなのだわ』
 笑う姫君の声を聞きながら「だからどうした」と小さく返す。腕を抉った牙を退け、暴れるようにミルメコレオが周囲へと放った狂撃が風の刃の如く。その中でもベネディクトは臆すること無くその槍を突き刺した。
 蒼炎を宿し、獅子の剣撃一太刀浴びせ。リディアが「畳み掛けましょう!」と呼ぶ声に、クンプフリットとリースリットは頷いた。
「……アイツを殺してくれるの」
「ハートロストの為じゃあ、ないわ。こっちだっておイタには困るもの。でも、此処から目を離させない」
 ゼファーが繋ぎ止めるように。そうしていれば動き回ったミルメコレオの動きも次第に鈍くなる。
 グリジオは「良かったな、腹の調子が良くなりそうだ」とその獣を見上げて嘯いた。燻るように揺らぐ、死の大鎌の如き軌跡。其れは命を刈り取る形をしていて。
「馬鹿正直に外殻を斬り続ける必要は無い。これで潰れろ!」
 音を鳴らし、踊る蛾如く。汰磨羈が地を蹴り尾を揺らす。追い縋るが如く正純が弓を爪弾き、クンプフリットの攻撃が追う。
 皆、その身体に傷を宿した。危機で有ることには違いなく。ハートロストただのひとりを残せども、不安が消えるわけではない。獣の声と共に、ずずんと音立て倒れるからだ。
 それを眺め、リースリットは僅かな癒しの響きを宿しながら、真っ直ぐにゼファーの前で呆然と立ち竦む少女を見た。
「ハートロスト」


 ――けれど、そうするしか自身の存在意義を得れないとするならば。

 わたしはころす。望みなんかじゃない。これは、命令と自分自身を確固たるものにするものだ――

 其れに縋り続ける彼女は、一縷の望みを掛けて此処に遣ってきたのだろう。
 悪事を働けば、殺して良いと、誰かが言った。
 それがさだめであったと。だと、いうならば――わるものだった『おとうさんとおかあさん』を殺された罪のないわたしは『両親が死んだ』という罰を受けなくてはならなかったのか。
「……ミルメコレオの、色宝、わたしにちょうだい」
「いいえ、なりません」
 リースリットは首を振った。
「どうして」
「……お前に其れを使いこなせるのか」
 グリジオが問い掛けた。
「でも、必要だから」
「その必要が誰かに言われて言って居るのならば、それはお前にとっては不要かも知れない」
 ベネディクトは静かに息を吐いた。
「頂戴」
「……それを、本当にしたいの?」
 クンプフリットの問い掛けに、ハートロストは「わからない」と静かに云った。
「まあ、散々色々と言われたんでしょうから、私からは手短に。
 目と耳と心を塞いで言われたまま悪業を成すのは楽でいいでしょうね、感情無し。
 同情はしません。自分の意思で向かってくるなら、打倒するだけです」
 正純の言葉にハートロストは問い掛けた。
「わたしはボスに従った。これはわたしの意志なのか。それとも、ボスの命令だからか」
 その問い掛けに、正純の眉が僅かに動く。目と耳と心を塞ぎ、『そうやって動け』と与えられたことだけを。そうする子供は刃を握り他人を殺せどそれが当たり前だと思い育つのか。
「……嗚呼。鈍い子。今大事な探しものったら、貴女の心の在り処でしょうに?
 心なんて、本当に其処にあるのかも不確かで不安定なもの。
 自らの存在証明を……石ころなんかに委ねちゃダメよ。其れに。尽くすならもっとイイ男も女もいるんですから?」
 ねえ、とウインク零して彼女の魔術を受け止めて。屹度、この『魔術の才』がなければ彼女の人生はもっと違った。幼い頃に全て失い、錆び付いて。ゼファーはハートロストを見詰めながら「馬鹿な子」と囁いた。それは、敵ではなく、只の一人のおんなとしての。
「――貴女の居場所も、心の在り処も。今の場所ではないのよ。屹度ね」
 屹度と紡げば、ハートロストはどうしてそんなことを云うのかと惑うように見上げる。
 リースリットは仲間も、ミルメコレオの色宝も奪える目がなければ彼女は退くだろうと考えていた。ベネディクトが短期決戦と位置づけたように。
(彼女にとってはこころというものが、その言葉にも出来ない得がたい者が命を賭けてでも叶えたいものであろうことは分かります――それを、他者が触れても云い物ではないと、私は思う)
 けれど、とリースリットは大鴉盗賊団である彼女を不憫に思うように武器を下ろし警戒した。
 

「貴女に心がないなんて、そんなの絶対嘘ですよ! 貴女は誰かの為に、自ら望んで行動している!
 死すら恐れず、誰かの為に――それは紛れもなく、貴女の心が為している事です!
 それだけ純粋な心を持っている貴女を、私は、愛おしくすら思えてしまう!」
 リディアは叫んだ。それは、酷く朧気な乙女の言葉のようで。それは、美しき慈愛のようで。
 びく、と肩を揺らしたハートロストはリディアを見遣る。睨め付ける、その色彩に感じたのは戸惑いというなのこころか。
(……錆び付いただけならば、そうやって動くことも出来るだろうに)
 グリジオはこころをぶつけ、こころを揺れ動かそうとするひとりの娘を見詰めていた。
「この手を取る事はできませんか? 貴女の本当の名前、どうか教えてください!」
「名前なんて、」
 逃げるならば、どうぞご自由に。そう囁いたゼファーのその瞳を見詰めたハートロストの心は揺らぐ。
 あの扉の向こうに何が有るのかは分からない。それでも、ボスは行こうと行った。
 だから、わたしも。それがこころだといわれたら――『わたしは、今後どうすれば良いの』?
 そう問い掛ける瞳に「何も動かないわ。鈍い子ね」とゼファーは小さく小さく笑み零した。
 残すように、たったひとこと。少女は暗がりに身を隠すようにどこぞへと走り去る。
 その背中に手を伸ばしてリディアは彼女の言葉にずきり、と胸の痛みを感じて唇を噛んだ。

「名前なんて――わすれたわ」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ゼファー(p3p007625)[重傷]
祝福の風
リディア・T・レオンハート(p3p008325)[重傷]
勇往邁進
クンプフリット・メーベルナッハ(p3p008907)[重傷]
砂翔ける曲芸師
グリジオ・V・ヴェール(p3p009240)[重傷]
灰色の残火

あとがき

 この度はご参加誠に有難う御座いました。
 ハートロスト、彼女の錆び付いた心にも僅かに動きが見えたような、そんな気がします。

 またご縁が御座いましたら。どうぞ、宜しくお願い致します。

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