PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<希譚>朱殷の衣

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『都市伝説:逢坂地区収集レポート』 54ページ
 一人の男が起こした村人惨殺事件に警吏は怖れ、女子供は泣き叫んだ。
 庭園の花色さえ赤く染め上げた異邦人の血を見て男は「旅人の血も赤いのだな」と言った。
 彼は異邦人の血色が我々と同じであるかを確かめたかったのだという。

 余談ではあるが、惨憺なる一面の朱殷を見遣り職人はこう言った。
 あゝ、何と美しき染め色か。此を紅下にしたならばさぞ美しき衣が出来るであろう。

●逢坂
 希望ヶ浜地区には去夢鉄道と呼ばれる鉄道会社が存在し、希望ヶ浜での生活をより豊かにしている。希望ヶ浜独自の『企業』や文化は多数存在し、練達でも有数の富豪である『澄原』家が中心となって作成した医療分野――澄原病院は希望ヶ浜の住民ならば誰しもがその看板を見た事があり、訪れる機会もあるだろう――やどこの地域にでも存在する新興宗教、静羅川立神教。冠婚葬祭は任せて呉れと看板を堂々と掲げる阿僧祇霊園に地域の夏祭りや神道分野を司る音呂木神社――その名前で判別はつくだろうが、音呂木ひよのの生家である――や通信分野を担った佐伯操率いる佐伯製作所等々……希望ヶ浜では今は良くも悪くも欠かせぬ存在だ。

 さて、希望ヶ浜を縦横無尽に結ぶ『ネットワーク』のように存在する去夢鉄道には郊外へ繋がる路線もいくつか存在している。その中でも『海』側へと繋がっているのが去夢鉄道の逢坂線である。
 再現性東京の中で希望ヶ浜地区は『希望ヶ浜県』『神奈川県希望ヶ浜市』『埼玉でいい』『山梨の領土』だとか揶揄されている。故に、鉄道を使用して海に面する場所まで旅行を行うことが出来るのだ。再現性東京と言えどもぎゅうぎゅうと寿司詰め状態になっているその場所には日本の様々な文化が詰め込まれている。
 逢坂地区は『海沿いの田舎』『離島』にフォーカスを当てたシチュエーションだ。故に、そうした場所には怪異が存在しやすいのだと音呂木・ひよのは告げた。
「偶然目に為た都市伝説だったけど、逢坂という地域ではそれが文献に残ってる打何てね」
 不思議そうに呟いた古木・文(p3p001262)にひよのは「そして、そうだと言われているものが存在して居るようですね」と付け加える。
 朱殷の衣と呼ばれるその噂は死人の血液で衣の紅下をするというものだった。発色がよくなるという事から揶揄い転じられた噂なのだろうが、其れが何の因果か存在して居るのだという。
「まあ、夜妖であれば問題はありませんし、朱殷の衣を護る夜妖を撃破して、衣を此方に持ち帰って頂ければ『奇妙なこと』が起ることは食い止められるかと……」
「えっと、持ち帰る、というのは?」
「ええ。悪性怪異:夜妖であれば『倒すこと』が可能です。ですが、本来の意味での怪異――夜妖ではない神は霊的存在――は手は及びません。死者蘇生が成り立たないように、それは『そういうもの』なのです」
「……成程」
 悪性怪異と『精霊』のように顕現しているならば手出しが出来るが、そうではない霊的存在であれば手も出せない。この場合、守り手は夜妖であるが『朱殷の衣』自体は霊的存在で或る故に音呂木神社での浄化を行いたいのだという。
「放置していて『来名戸村』のようにもなりたくないですし……」
「あはは。まあ……」
 ダムに沈んだ村にご招待されて呪われて帰ってくる経験などそう多くはしたくはないものだ。
 逢坂地区も離島が存在するという事もあり、奇妙な体験が待ち受けてきそうだが――一先ずはその周囲の探索と、内地での『朱殷の衣』の確保だけを行って帰ってくれば良い。

「そういえば」
 ふと、文は傍らになっていたひよのへと問い掛けた。
「石神地区の話はその後はどうかな? ヒトガタを付けて何人か帰ってきたって聞いて……」
 其処まで告げたとき、ひよのは微笑んだ。唇を引き結んで、何も知らないとでも言うような顔をして。
 あなたは文の隣でその話を聞いていた。あなたは『来名戸村』の報告書を読んだ事を思い出しただろう。読んでいない訳がない。どうしたことか読んだという記憶だけがこびり付いていた。

「報告書」

「ん?」
「報告書を、読んだんですか?」
 イレギュラーズはローレットの報告書を自由に閲覧することが出来る。来名戸村の怪異についてもある程度纏められていた。
 ひよのが『悪性怪異:夜妖』と『心霊的意味合いの怪異』は違うとし、後者には対応を為かねると告げていたのもその報告書に記載されていたものだ。

「どうして――」

 ぽつり、と零される。

「どうして、見てしまったんですか?」

 ……そう、とひよのが手を伸ばした。あなたの背中から『ひとがた』をそうと取った。
「……そちらは対応しています。事が動くまで少しだけ、待っていて、ね?」

GMコメント

 夏あかねです。<希譚>は『希望ヶ浜関係』のシナリオより無差別に蒐集した『皆さんのアフターアクション』で派生していくシリーズシナリオです。
 今回は『石神地区』とは別の地域の『鳥渡した都市伝説』を。この様に多様に広がって行きます。皆さんの素敵なアフターアクション、お待ちしております。

●シナリオ達成条件
 『朱殷の衣』の確保

●逢坂地区
 海沿いの田舎へとフォーカスを当てた地域です。船を使用することで小島に移動することが可能だそうです。今回は離島には赴かず、その周辺の村々で『朱殷の衣』の確保を行って下さい。
 村というには大きく、寂れた漁師町という雰囲気です。それなりに文明は発達しており、遠く、工場街が確認できます。少し電車で移動すれば、工場や近代的な建築に変化し、その工業汚水などで漁業が衰退した……という歴史的な流れがありそうです。
 逢坂地区の村にはそれぞれ取り仕切る『代表者』が存在するようです。

『朱殷の衣』についてはその周辺の都市伝説として流れているようですが、ある程度の年齢層では一種の風習として伝えられていたとされています。
『朱殷の衣』は逢坂地区に存在する寂れた歴史記念館の中に設置されているそうです。歴史記念館の場所は逢坂地区で探索してください。

●逢坂歴史記念館
 逢坂地区(+小島)の歴史について取り扱っているようです。
 その中の常設展示に朱殷の衣が存在します。もう人が訪れる形式もないので、朱殷の衣を護る夜妖を撃破して、持ち帰って下さい。

●朱殷の夜妖 5匹
 紅色の子鬼です。朱殷の衣を護る為にうろうろとしています。
 血液を摂取すると大きく大きく膨れ上がるようです。『朱殷の衣』の都市伝説の影響を受けているようですが……。

●朱殷の衣
『死人の血で染める』衣です。それが霊的な力を所有し、何らかの特異点になるとひよのは予測しています。
 とても美しい衣です。見た人は思わず袖を通したくなるような、そんな……。

●余談
 ひよのがどうしてみてしまったんですかと告げたシナリオリプレイは此方です。

 <希譚>去夢鉄道石神駅
 <希譚>石神地区来名戸村

 ご興味があれば、是非……。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
 何故ならば、怪異は人知の及ぶ物ではないですから……。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定、又は、『見てはいけないものを見たときに狂気に陥る』可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

 それでは、みなさま。行ってらっしゃいませ。

  • <希譚>朱殷の衣完了
  • GM名夏あかね
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年12月17日 22時40分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

夕凪 恭介(p3p000803)
お裁縫マジック
古木・文(p3p001262)
結切
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の巫女見習い
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
ボディ・ダクレ(p3p008384)
紫香に包まれて
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
笹木 花丸(p3p008689)
竜交

リプレイ


 爽やかな風が吹く。だが、12月ともなれば肌を刺す冷たさは隠しきれない。ざあざあと押しては引いてゆく波の気配を眺めながら、歩くのはコンクリートで舗装された堤防だった。
 再現性東京、その2010街に該当する希望ヶ浜は再現性東京の中でも特筆して異質な空気を纏っていた。本来ならば混沌世界の一角であるはずその場所は故意的に外部を遮断し、混沌世界の事など知らぬ振りをした住民達が過ごしている。見たくない臭い物には蓋を――有り体に言えば彼等は『東京に住まう普通の一般人』を演じているのだ。だからこそ、その生活には隙間風のように怪異が潜む。
 怪異――それが本来の意味での『怪異』であるか、それとも悪性怪異と呼ばれる混沌世界では精霊や其れに類する存在として認識される夜妖<ヨル>であるかはさて置いて。
 此度、イレギュラーズが訪れることとなったのは再現性東京2010街の希望ヶ浜に存在する『逢坂地区』であった。それは離島や海沿いの田舎町、『都会から少し離れた喧噪』にフォーカスを当てた部分だ。あくまで東京から電車で行ける片田舎とそれに属する離島として描かれているようだが――そうした場所にこそ怪異や地方特有の『しきたり』たるものが存在するというものだ。
「都市伝説から生まれる化物、か。
 よく聞く話ではあるけど、再現性東京はそのペースが早すぎる気がする。何か原因があるのか……」
 この特異な空間で、なおも気になるのは希望ヶ浜では特有の事象として扱われる悪性怪異:夜妖<ヨル>の存在であった。『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)の呟きに正確な答えを返せる者は存在して居なかった。無論、其れがどうして発生するのかを考えることも出来るが、明確な答えの存在しない今では詮無き事でもあるのだろう。

 ピュ―――――イ。

 上空を踊る海鳥は逢坂の地形を確認していた。『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)は鳥を使用しての上空からの探査で、地形の変化などがないかを留意し続ける。
 今日のイレギュラーズの役割は『希望ヶ浜学園新聞部』である。都市伝説や、民間信仰に関する記事を書くために逢坂地区に聞き込み遣ってきたとすれば誰もが納得できるだろう。
「都市伝説上の物が存在するとは、非常に不思議ですね。
 得てして血や肉に関する話は、尋常でない類の物です」
 それが何かが転じたものなのか、それとも曰く武器の異質な霊異物であるのかは定かではない。『痛みを背負って』ボディ・ダクレ(p3p008384)はそれを無視することも出来なければ無用な『厄介事』が起るのも避けたかった。
「偶然ねぇ。……偶々、文献が残っていて偶々、実物が残っていて偶々それに気づけたと。
 ……いやどうあろうと気づいちまったのなら回収するしかねぇか」
 その言葉に僅かな『意味』を含んだのは『博徒』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)。偶然にもその様な都市伝説や曰く付きのものに気付くことが有り得るのだろうか。
「まあ、けれど、『紅下染め』という言葉を悪戯にしたのかもしれないわ?
 其れを行うって頃は女性用の喪服かしら。綺麗な黒色か、はたまた下地の朱殷が見えているのか……。都市伝説だというなら、後者なのかもしれないけれど」
 被服に詳しい『お裁縫マジック』夕凪 恭介(p3p000803)は此の地に赴く前に生徒である定真理・ゆらぎに『おねがい』をして居た。手芸部の彼女も布に関しては精通しているだろうという考えだ。
「ゆらぎちゃんにお願いもしておいたから、急ぎましょう。人の血何て使えば曰くが付くに決まっているものね」
 恭介の言葉に成程と小さく頷いたのは『都市伝説を運んできた』側となる『想心インク』古木・文(p3p001262)であった。『朱殷の衣』の噂とは『喪服の下染めに人の血を使う』と言うことである。それが、ニコラスが言うように偶然にも希望ヶ浜の一角に同様の歴史的な逸話の存在する霊遺物が存在したという事だ。
「偶然――と捨て置くにも無理がある。レポートを読むだけで、嫌な予感が沸き上がる案件だな。さて、実態はどうだろうか?」
 悩ましげに呟いた『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)の上空でちい、ちい、と鳥が啼く。上空を旋回する花丸の鳥とは違い、低空域で人の分布をチェックする鳥たちに小さく礼を言い、聞き耳を立てた。
「……田舎町というのはどうしてこう、人の通りが少ないか」
「まあ、それが田舎って言えば田舎なんだろーけどね? 私ちゃんとしてさっさと持って帰ってひよの先輩にいいこいいこして貰って――あ、そっか、持って帰れば先輩の巫女服姿みれるっしょ? 俄然やる気が湧いてくるってもんよっ!」
 わくわくとした調子の『奏でる記憶』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は情報収集にいくぜと『足』を武器に回ることを決めていた。
 勿論、合言葉は「こんにちは、希望ヶ浜学園より来ました!」である。


 出発前に背中に張り付いていたヒトガタを取ったひよのが青褪めた様子で「何故見てしまったのですか?」と問い掛けたことを『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)は覚えている。
「なぜ見てしまったかと言われてもそれがしにゃだからです! 精々猫の様にはならないようにはしますが!」
 彼女が演じるのは希望ヶ浜学園で廃部寸前の新聞部だ。其れを疑う者は存在しないと言う程に彼女は演技に長けていた。にんまりと微笑みスケッチブックやaPhoneを手に取材中の学生を装っている。
 各自が情報収集へと進んでいくその背中を見詰めながら『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)は「なぜ呼ぶのか」と呟いた。
「……呼ばなければ来ないというのに。いや呼ばれておるのは我か?
 ああ――いや、何でもいい。仕事をすれば良いのじゃろ? ほれ、こうしてヒトガタも……」
 そこではた、とクレマァダは『ひよのが取ったはずのヒトガタ』が自身にぺたりと張り付いたママであることに気付いた。
「……なんで持ってきとるんじゃ?」
 唇が震えた気がしたが、それは恐怖心ではなく、直ぐに疑問さえも消え失せた。まるで、そんな疑問など抱いていなかったかのように、だ。
「それにしても厭な町じゃ。海が泣いておるわい」
 ざざん、ざざん、と音を立てる波の音。其れを聞きながらも、クレマァダはそう、と海の向こうに見える小島を見詰めていた。逢坂地区の小島は集落が一つ存在するだけであるらしい。
 皆が陸地を調査する中で、どうしても――否、そもそも海種であり『祭司』であった彼女には、故郷のオパール=ネラの様な例もある為に気にしない方が難しい――気になって仕方が無い場所であった。
「……陸地から程近い小島というのは祠だったりが据えられやすい。
 この地の出来事全てに対して無関係では居られんじゃろ。島の謂れや人の有無、怪奇現象が起きているかなど」
 例えば、である。あの小島には祠が据えられて、代々の守人とその親族に当たる人間だけが住まっていたとする。小島と言えども、陸から見ればちっぽけだが、降り立てば其れなりの広さがあるだろう。隔絶された場所、である。石神地区などよりももっと『文化が停滞し』『怪異が澱み』『神が神域を作る』場所。
「……あの島、名前はあるのじゃろうか?」
 唇が何時ものように、意識もせずに歌を紡いだ。誰かがその手を引いている気がする。
 まるで『彼方を向いてはいけない』と言わんばかりの指先にクレマァダはぶるりと震えた。
「……ひょっとして我、わりといらん事に首を突っ込みがちな気がするのう」
 ――それが誰なのかなど、彼女には分からぬ儘。

 上空より俯瞰していた花丸は、変な感じと足下の石ころを蹴り飛ばした。
「変な感じ、来名戸村の報告書が妙に記憶にこびりついてるって言うか……」
 ひたり、と何かが背中に張り付いた気配がする。花丸は「何だろう」と呟くが、その答えは出ない。来名戸村での報告書を読んで、音呂木神社から送り出され逢坂に来てからと言うもののどうしても何かが付いてきている気配がするのだ。
「……って、ダメダメ! 今は目の前のお仕事に集中しなきゃっ!
 ここで確りしないと前みたいな大変な事になっちゃうってひよのさんが言ってたし!」
 首を振る。彼女を安心させるためにも自分たちなら大丈夫だという意地を見せてやらねばならないのだ。
「さって、鳥(ファミリアー)の索敵の結果も大体は出てるし、花丸ちゃんたちもバッチリお仕事を熟さなくっちゃね!」
 よし、とやる気を漲らせる。年齢層を絞らずに聞き込む事で風習だけではなく噂話を得れるという算段だ。海から市街地に当たる部分に入っていけば寒い寒いと身を屈めて歩く子供達の姿が見えた。
「こんにちは」
「こんにちは」
「えっと、私は希望ヶ浜学園で新聞部をしてるんだけど、逢坂の噂話とか都市伝説とかってないかな?
 そういうオカルト特集の予定なんだっ! もし、知ってたら教えて欲しいな?」
 赤色と黒色。二色のランドセルと黄色い帽子。少年は「学校の噂なら沢山在るよ」と言い少女は「記念館とかおばあちゃんが教えてくれるのとか?」と首を傾いだ。


「こんにちは! ちょっとお話を伺いたいんですけど、良いですか?
 あっ、勿論聞くだけでは申し訳ないですし、何かお手伝いできることがあればお任せ下さい!」
 にこりと微笑んだしにゃこ。部員数名が手分けして調査をしている旨を告げれば、老婆は「あ~~~」と穏やかに頷いた。「そうかいそうかい」と何度も繰り返すがその声は大きい。耳が遠いのだろう老婆はしにゃこに近くの八百屋までの遣いを頼んだ。
「お話――……」
「えっ!?」
「……いいえ! 行ってきます!」
 どうやら、八百屋で取り扱っている醤油を欲しがっているらしい。八百屋と言えども、こうした田舎では何でも屋の様相である。坂道を下りながら、海に近づく気配を感じて周囲をきょろりと見回せば、足下でぞろりと何かが動いた。
「ぎゃっ」
 思わず美少女らしからぬ声が出たが仕方が無い。びくっと身体を仰け反らせたしにゃこの前を蛇が過る。野生の蛇が住んでるとは随分と自然豊かだと考えながら八百屋に辿り着けば、「ああ、後藤さんちの」と知った顔からの頼みであることに気付いたように店主はしにゃこに『いつもの』醤油を持たせてくれた。
「後藤のおばあちゃんにこんなお孫さん居たかなあ」
「いいえ、えっと、しにゃは希望ヶ浜学園の新聞部なんですけど、逢坂地区には取材できたんです」
「取材?」
「はい。廃部寸前なので、良い記事を書くしかない! って事で、都市伝説とかを調べてるんですけど……何か知ってたりしますか?」
「あー……子供達の中で流行してたのは記念館の中に飾られてる人形が動くとか、後藤さんの家の人形の髪が伸びるとかかなあ」
「えっ……後藤さんって」
「そう、お嬢ちゃんがお使いしてる家のおばあちゃん。逢坂には古くから住んでるらしくてね、元は『海向こうの小島』の出身だそうだけど」
 海向こうの小島、と言われてしにゃこはそうと視線を投げかける。離れ小島とも言える小さな島。集落と思わしき木造の家屋がちらほらと見える以外はいたって普通のようにも感じられる。
(……何となく正解を引き当てた気がしますね? これは、美少女力(ぢから)の賜物でしょうか!)

 記念館はこちらですよ、とボディを誘ったのは中学生であった。逢坂には小学校が一つ、中学校が一つ、高校はないらしい。そののんびりとした雰囲気は石神地区を思わせる。
 中学生に「課外活動で来ました」とボディが告げれば、彼等は歓迎ですと微笑んでくれた。記念館や逢坂で会える偉い人は誰かと問い掛ければ「記念館の館長さんは夕方に戻るらしいですよ」と田舎のネットワークを通じて得た情報を教えてくれた。
 曰く、周囲の老人達の家を回って御用聞きをしているそうなのだ。折角なら、その課外活動に付き合いたいと言う中学生を無碍にすることも出来ず、ボディは彼等が提案した中学校に向かうことにした。
「ご丁寧に有難うございます。何か用事があったりしたのではないですか?」
「いえ、希望ヶ浜学園って憧れだったんです。あの、エリート学校って感じですよね。
 希望ヶ浜地区で一等地で、佐伯操先生が理事を務めてらっしゃるとか……僕らも行ってみたいなあって思ったんですけど……此処から出るのも大変ですから」
 ボディは中学生の横顔を見下ろして「ああ」と合点がいったように頷いた。こうした閉鎖的な田舎では、地元で過ごすことが美徳であるかのように扱われることも多い。今回に限ってはそう言う意味が込められているのだろう。
「なんで、新聞部のつもりで僕もお手伝いさせて下さい」
「はい。夕方に部員皆で集まってから帰ることになっているんですが、それまでなら。
 ……なら、折角なので、臨時部員の貴方に名前を聞いても良いですか? 聞きそびれてしまいました」
 優しい口調を心がけたボディに中学生の少年は「僕は後藤です。後藤 篤志」とにんまりと微笑んだ。
 篤志曰く、逢坂の海沿い地域には「後藤」という名字が広く分布しているらしい。本来は『護島(ごとう)』と書いていたらしいが何時の間にかその名字も一般的な『後藤』になったという蘊蓄が溢れ出す。
「篤志さんは後藤の家と言うことですが、何かこの地域とは強い繋がりがあるんですか?」
「さあ。後藤家のひとは、昔は沖の御島――あ、僕らはそう言ってます。けど、本当の名前は『行っちゃいけないから言わないらしいです』――に住んでたらしいです。僕は内地で生まれてますけど」
「あの島に?」
「はい。おばあちゃんとかには近づくなって言われてます。あ、これって調べれば記事になりますか?」
 にんまりと微笑んだ彼にボディは「なりそうですね」と返した。彼が中学校の教頭先生に『取材』をお願いしに行く背中を眺めながら、ボディはふと、遠巻きに見えた『沖の御島』のことが気になって仕方が無かった。


「失礼、記念館の学芸員の方ですか」
 柔らかな口調を作ったニコラスは希望ヶ浜学園の新聞部の引率教員であると名乗った。記念館の外で掃除をしていた学芸員は「はい」と頭を下げる。館長が留守にし、中々人が訪れないことからか、しんと静まり返った奇妙な感覚を覚えさせる。
「希望ヶ浜学園から参りました。生徒達も度々お邪魔するかも知れませんが、この地域の歴史や伝説、伝承を調べるという課外学習をしてます。新聞部がそれを記事にするそうで……」
「ああ、さっき後藤君が誰か連れてきていましたね。はい、はい。先生はその引率と下見ですか?」
「はい。良ければ、歴史などを聞いても?」
「はい、はい。よろしいですよ。逢坂と呼ばれるこの地域は海沿いの街として栄えていましてね。
 漁業村であったこともありますが、何よりも注目すべきは『沖の御島』と呼ばれております、あの島……『有柄島(ありえしま)』による風習や伝説が多いのですよ」
「あの島は、有柄島、と言う名前なのですか」
「はい、はい。けれど、この地域ではその名前では呼ばないようにして下さいね。名前はまじないにも通じます。あの島には護島(ごとう)という一族が代々居住し、神託を齎す神様を護っていると言われているので……この地域に多い後藤と言う名字は沖の御島の護島の一族が内地に移り住んだときに借りた名前だそうですよ」
「……はあ」
 ニコラスは『朱殷の衣』以外の部分の話がこれまた『曰く付き』に出てきたものだと感じていた。
 この地域に存在する代表者に該当する者は皆『護島』の出が多いと考えても良いだろう。確認してみれば、館長の名も後藤であるという――唯一、漁業組合の代表者のみがもとより内地の人間であったようだが……。
「その沖の御島より流れてきた者には様々な噂がありまして。例えば『朱殷の衣』というものが――」
「衣? と言いますと」
「はい、これは沖の御島の風習の一つ。紅下を人間の血で行うというものでして。これまた、綺麗な黒い衣なのですよ。血で染めました、なんて言われればまた神聖に見えてしまう……私が見ても一般的な喪服に見えるのですが『後藤さん』達が見ると酷く恐ろしいものに見えるそうですね」
「……成程……」
 ニコラスは「後藤さんを当たってみるのは良いことでしょうか?」と問い掛けた。その問い掛けに学芸員は静かに答えるのだ。
「くれぐれも、お気を付けて」と。その意味が分からぬほどに、ニコラスとて『怪異と関わってきたわけ』ではないのだから――

 都市伝説のレポートをしているのだと微笑んだ恭介は記念館について教えて欲しいと微笑んだ。
 スーパーマーケットの帰り道であっただろう女性は「朱殷の衣?」と問い返した。
「ええ。朱殷の衣という素敵な記念品があると聞いたのだけれど、何だか不思議な都市伝説があると聞いて……ちょっぴり興味があるのよね」
「ああー。あの死人の血で染めたとかいうアレ。うちのおばあちゃん達は『海向こうから持ってこられた』って行ってたんですけどね。妖怪島のだってんだから、そりゃあ」
「妖怪島?」
「あ、私達は内地の人間なんで……あの海の向こうに見える小島のことは『妖怪島』って呼んでるんですよ。本当は神様が住まう場所だとかなんだとか言うんですけど、怖くないですか?」
 神様と言っても、突然海の中から顔を出して預言を授けるのだという。夜になると鱗を光らせる妖怪が現われるという伝承だけでも中々に恐ろしいものだ。
「その妖怪島から持ち込まれたものなの?」
「そうですよー。あ、あんまり言えないですけど……妖怪島の人達は『蛇蠱』だとかなんだとか……よく分かりませんけど、蛇には気をつけた方が良いですよ。逢坂ではそういう風に教えて育てられますから」
 やけに饒舌であった彼女は、人が通りかかった刹那に口を噤んで愛想笑いを見せた。それ以上は語る木がないと言うことなのだろう。恭介は「有難う」と微笑んで、彼女がそそくさと帰っていく背中を見送った。


 古典を教えている文はタクシーに乗車し役場へと向かっていた。近郊地域の歴史に興味があるのだと告げた彼は不謹慎かもしれないけれど、とこの『課外授業』にわくわくとした気持ちを隠せずに居た。観光用のパンフレットを事前に駅で手に入れたこともあり、ある程度の立地は理解できている。
「逢坂について教えて貰えますか? 古典で生徒達にも蘊蓄を教えてあげれるかも知れませんし」
「なら、『朱殷の衣』の逸話なんかが面白いかも知れませんよ。
 市役所なら基本的にゃそういうのも詳しい人も居るでしょうし聞いてみりゃどうでしょうか。
 あー、でも、先生。朱殷の衣が流れてきたって言う『沖の御島』のことは触れない方が良いですぜ」
「……それは、どうして?」
「そりゃあ、あの島にゃ曰く付きですし。俺ァ、内地で生まれ育ってますがね、弟嫁が島の出身で。
 色々としきたりだとか風習だとかで苦労したもんですよ。彼女が言うにゃ、蛇には気をつけろってんですから……まあ、そりゃあ、『身内に優しい島の子』で良かったと思うことも多くて――さて、市役所ですよ」
 タクシーを降りる際に、文に対して運転手は「お守りにどうぞ」と希望ヶ浜中央往きの切符を手渡した。この地域のちょっとした風習らしいが『還る場所を忘れずに居る』というのは何ともまあ、恐ろしい話のように思えた。
「……有難うございます」
 微笑んで、文は役場の人々に自身を古典教師であり、タクシーの運転手より朱殷の衣についての古典的な見地での説明を受けられると聞いて来たと告げた。
「ああ、朱殷の衣のことですか。良ければ説明しますよ。歴史的かと言われればアレなんですが。
 ああした逸話は沖にはよく残っているようなので……でも、珍しいですね。この辺も最近は人がめっきり落ちて。記念館なんて館長が御用聞きに奔走してるくらいですし」
「そうなんですか?」
「へい……まあ、朱殷の衣も常設で展示してや居ますけど、おたずねになっている『逸話』も所詮は都市伝説くらいですしねえ。
 代表者達も夕方には役所に来られるそうですから先生も話してみられますか?」
「……はい、よければ」
 代表者。そう呼ぶのはとても不思議な心地であった。村長だけではなく、代表者と呼ばれる存在は其れ其れが『集落を形成する集合体の長』という意味なのだろう。

 汰磨羈は自身の姿を見せるわけには行かないと耳を澄ませて目とその感覚を活かしての情報収集を行っていた。
 その際に、感じるのは村人達にも二種類が存在するという事だ。それが『聞いていた限り』では後藤(護島)と呼ばれた沖の御島の出身者と内地――元から陸に住まっていた人々であることは想像に易い。一方は、此方を警戒しているかのようで。もう一方は此方を歓迎しているかのようにも思う。
「旅人の血で染める紅下、か。それが風習として残っている場合、私達が狙われる可能性もあるな?」
 小さく呟いた。黒猫と共に潜伏しつづける汰磨羈が目を送ったのは部活動で都市伝説を調べている風牙が小学生達と楽しげに話していた結果だった。
「この地域で一番偉いのって誰だ?」
「えー、誰だろう。漁業組合のおじさん?」
「校長先生かも」
「いやーどうかなあ」
 何となく会話を噛み砕けば、『代表者』と言われることだけあって、それぞれが独自の分野を担当しているのだろう。住民達が話す都市伝説は世代で様々だ。
 例えば、風牙が相手にしていた子供達はと言えば、学校の怪談などを中心とするが、島の出身者は島の話を怖れるように少しだけ続けるだけなのだ。
「どうだ?」
 影から聞いた汰磨羈に対して風牙は「まあ、若い世代だと面白おかしく衣のことを話してるけど……『後藤』君はあんまりいい顔してなかったかな」
「ふむ。後藤というのはあの島の『護り人』の一族を指すらしい。それも、あの島から陸に移り住んだ人々が後藤と名乗っていて、未だにあの島には護り手が住んでいると考えるのが妥当だろうが……」
 汰磨羈に風牙は「まあ、それでも、衣の話なんかは有名な伝承だけど『もう飽きた』って感じだったな。うん。若い子達の中じゃ冗談と同じ意味なんだろうとおもう」
「だろうな。老人達はと言えば、それはそれは恐ろしいものの様に扱っているが……」
「あ」
「どうした?」
「蛇には気をつけろ、だってさ」
「蛇? ……ふむ。蛇と言えば、神格として扱われることもあるが、この場合はまた違う意味がありそうだな。この辺りで『蛇』を見た覚えは?」
「まあ、あるような。ないような。……一先ず気をつける。
 そうやって『意味があるように言葉を持っていく』って事が、衣も層だけれど意味を与えたんだろうな。
 俺達が何かを考えたらそうした想いや妄想が、物品や言霊に命を吹き込む可能性だってある」
「……ああ。気をつけようか」


 不幸は何時だって呼び込めばあっちから意気揚々と遣ってくる。
 だからこそ、秋奈は臆すること無く歌い歩いて神社や老人ホームを狙い目としていた。
 神社に赴けばぼんやりと木を眺める老人が座っている。腰を痛めているのだろうか立ち上がる素振りのないその老人に「もしもーし」と秋奈は声を掛けた。
 ……返事はない。
「希望ヶ浜のJKだぞっ! 笑顔の方がいいことあるかもしれないし!
 ……ってあれ? もしもーし、聞いてる? んー? 私ちゃんを無視するとはー!」
 もお、と頬を膨らませてその老人の傍に腰掛ける。代表者達の名前はaPhoneで検索すれば色々と出てくるのではないだろうかと検索ワードを入力する秋奈の傍らで老人はふと「遠いのお」と呟いた。
「んん? 何が?」
「逢坂の関じゃ」
「おーさかのせき」
 それは交通の要となる道を指し示すが、老人がいきなり其れを指したとは思えない。秋奈はきょとんとした様子で老人の顔を覗き込んだ。
「遠いのお」
「おーさかのせきが?」
「そう、そうじゃ……潮が引けば帰れると思っていたんじゃがなあ。
 あの道はいつになれば見えるのじゃろうて……アリエ様に逢いたいのお」
「あり……?」
 秋奈の背にぞう、と何かの気配が奔った。神社の中で、何かが自分を見ているような気配がしたのだ。口を噤んで、秋奈は老人の言葉を聞いている。それ以上自分が話すことはこの場に余所者がいますよと告げるようで――彼女は、自分の中の深層意識で保身を働かせていたのかも知れない。

 ――蛇様が道になってはくださらんか。

 ――逢坂は関は帰してことを許してくれんのかのう。

 ――ああ、ああ、此の血だけでもせめて……。

「秋奈」
 呼ぶ声に、はっと秋奈が顔を上げた。「およ」と小さく呟けば、心配そうに覗き込む汰磨羈が底には立っている。
「クレマァダといい、お前といい、ぼんやりしているがどうしたんだ……」
「クレマァダちゃんも?」
「そう。あの島を眺めてから『蛇様が道に為ってしまいそうじゃのう』と呟いたっきりぼーっとしてる」
 汰磨羈の指し示した方向でクレマァダが島を眺めてぼんやりと立ち竦んでいる。合流を、と夕刻時に集まってみたが、彼女がぼんやりしていることが汰磨羈はどうしても気になったのだという。
「ああ、そういえば。これ、お守りで貰ったんだけど」
 文が出したのは希望ヶ浜中央に帰るための切符であった。それを出した途端にはた、とクレマァダが正気を取り戻したように瞬いた。
「む……? 我は何を……?」
「クレマァダさん、向こうの島を見ながらぶつぶつ言っててびっくりしたんだよ」
 花丸に「そうか……」と小さく呟いたクレマァダは「あの島は、不吉な予感がするのじゃ」と怖れるように身を縮めた。
「いやー、でも、この地域の老人の皆さんも結構キツいですよ! お醤油買った後はお魚買いましたし、お花も供えました! しにゃ、今日一日で足が筋肉でむきむきマッチョになりそうです!」
 只管に『お遣い』をしていたしにゃこ。相手は後藤と名乗った老婆であるそうだ。彼女は『朱殷の衣』の話をした途端に「もうお遣いは良いよ」としにゃこを追い出したそうだ。
「それまで耳も遠いおばあちゃんだったのに吃驚しました! もう! 使われるだけ使われた気分ですよ!」
 ぷんすこ、と頬を膨らませた。
 ――代表者達との話は後藤と名乗る者が多く『島』のことは聞けずに居たが『朱殷の衣』に関しては文献で遺されているものその通りのことが島で行われたと伝わっていると聞かされた。
(つまり、島こそが曰く付きだってことか。まあ、そう言うロケーションだろうな)
 ニコラスは物腰柔らかに礼を言って時間を待った――次は『実にイレギュラーズらしい』方法での成功を目指して。


 口頭でゆらぎに朱殷の衣のダミーを作る為の準備を頼んだ恭介は、ひよのにも『言伝』を頼んでいた。その際に、ゆらぎは「詳細を知らない様に」とひよのには再三忠告されたらしい。
『今回は』島とは直接的に関係はないために、衣を羽織ったりしなければ安心安全だろうということだ。
「え? 羽織っちゃダメ?」
「ダメらしいわ。ひよのちゃんからよ。後輩は羽織りそうって言っていたわ」
「お見通し」
 秋奈は「流石ひよのセンパイ」とにんまり微笑んでいるが――さて、朱殷の衣を回収し、朱殷の夜妖を斃してあとは希望ヶ浜に帰るだけだ。
 ランタンを用意しaPhoneで館内を撮影し『潜入』にバレないようにと気を配る。館内の説明で確認した家紋は後藤――護島家のものだろう。そして、文面などはメモを取るが、どれもこれもが逢坂を取り巻く『神』の伝説のようであった。
「偽物の準備はできてるんだよね?」
「ええ。任せて」
 文は静かに頷いた。代表者たちは希望ヶ浜学園の新聞が出来たらまた調査に来て欲しいと微笑んでいた。歓迎されるのも末恐ろしいものだと呟く汰磨羈は衣を直視してはならないかどうかという確認をしたいとも考えていた。
「うーん、照明は付けない方がよさそうですよねえ。ウォーカーでない人ならば、『血を吸われるぞー』なんてことはなさそうですけど……しにゃは……」
「しにゃこさんは取って食われそう」
「ええー!?」
 しにゃこを揶揄うようにそう言った花丸は小さく笑う。全ての情報を合わせれば余所者が等しく危険なのかもしれないが――ウォーカーの方が更に危険だろう。そして、『逢魔ヶ刻』を避けた深夜に明かりで誰かを判別していれば安心安全でありそうだ。
「水海月の如き、小物妖異めが」
 苛立ち呟いて、現れた鬼たちを牽制するクレマァダの側で、全てを引き寄せる様に花丸は集め続ける。平常心で飲まれぬ様に。静かに息を吐いては吸って。
 血液を摂取すれば膨れ上がる、という前情報。それは『衣に血液』を与えているとでも言う事なのだろうか。花丸は其れ等すべてを懼れぬ様にと全てを受け止め、しにゃこが払い去る。
「衣を着てはいけない、というのはまさに血を啜るという意味なのでしょうね」
「……そう、みたいだね」
 文が小さく呟いた。その仕草に咄嗟にボディはその肩を掴む。心を食われてしまうかと思う程にそれが魅了する。それだけに人を惹きつけ、人を喰らう化生というものは恐ろしいか。
 背に張り付いたヒトガタが衣を直視した瞬間に焼ける様に熱くなった。『喧嘩している』と感じたのは何故だっただろう――相反するものであるからか。それとも、獲物を奪われることを怒っているのだろうか。
「かっきーん! いやあ仕事した仕事した。どっかーん!」
 秋奈は気合を振り絞って小鬼たちと蹴散らし続ける。その動きが止まれば、そこにはなにも存在しない。
 ニコラスはクレマァダの名を呼んで、蹴散らされた小鬼の奥に存在した衣を確保する。aPhoneを鏡に、そしてドリームシアターで直視を避けて。汰磨羈が『aPhone越しに見れば問題はない』と告げたそれを信じれば、味方にも拠るようだ。
「私ちゃんも手伝おうか」
「手袋、ほら」
 風牙が差し出したそれで直接触れることを避ける。ふと、汰磨羈が足元を見下ろして「そも、どうやって設置したのかという疑問がある。何かしらの対策が用意されている可能性は考えたい」と呟いた後、取り出した箱にはべたりと札が張られていた。
「借りていくか」
「こっちの回収用の箱を別においておこう。……あー、まあ、こうして厳重に封印されてるってなると……まあ」
 汰磨羈に風牙が肩を竦める。文は「展示場は元通りになったよ。このまま出よう」と仲間たちへと囁いた。静かに、静かに、道を戻り、そして何事もなかったように『本物の衣』と共にイレギュラーズは帰っていく。
『朱殷の衣』は音呂木神社で浄化して貰えばいい。だが――ふと、気になったのは背に張り付いたヒトガタと、『あの島』の事だった。
「……あれ、今日はあまり怖くないのう。どうしたことか。慣れてしもうたのかのう」
 むう、と首を傾げたクレマァダはふと、背後に立っていたボディに問いかけた。
「ねえ、どう思う? 僕なにか変?」
 ――べたりと張り付いたヒトガタがひらひらと地へと落ちて、消え去った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 遠くに見える島には何が居るのかな。

 気になりますね。また、逢坂にもいらっしゃって下さい――

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