シナリオ詳細
兵士は静かに眠れない。或いは、乙女は命を諦めない…。
オープニング
●フロイラインの憂鬱
あまねく命を救うこと。
それが、フロイラインの率いる医師団“白き獅子団”の目的であった。
彼女たちに取って、命の重さはみな等しい。
この世に生まれ、愛され生きて来たのなら、そう易々と失われて良いものではないのだ。
だというのに、戦争はいつ何時でさえ彼女たちの想いを、行為を、献身を、容赦なく踏みにじっていく。
救えない命のなんと多いことだろう。
最後に母の名を呼んで、腕の中で息絶えた若い兵士の泣き顔を生涯忘れることはきっと無い。
鉄帝国のとある荒野。
長くノーザンキングスと鉄帝国の戦場となっていたその場所に、今は静寂が訪れていた。
両軍を襲った奇妙な線蟲……人や獣の姿をした線蟲群だ……により、壊滅的な被害を受けたことが原因だ。
人に寄生し、宿主を巣にして増えるその蟲により、多くの兵が命を落とした。
イレギュラーズの介入もあり、事態は一応の解決を見たのだが……。
「やはり……線蟲はまだ残っているようですね」
荒野を見下ろしフロイラインはそう言った。
白衣の下には防護服。足元を覆う鉄板入りのブーツ。背には大きなリュックをかるい、腰にはナイフと拳銃を携えている。
「線蟲のサンプル……いいえ、優良個体の“巣”が望ましいでしょうか」
と、そう呟いて彼女はその場にテントを建てる。
フロイラインの目的は、しばらく前に兵士たちを襲った線蟲の捕獲であった。
兵士に寄生していた線蟲は除去したはずだ。
けれど、線蟲が体内に残した毒までは取り除けてはいなかったのである。
体内の毒を除くには、線蟲を捕獲し詳しく調べる必要がある。
そう判断し、フロイラインは再び荒野を訪れたのだが……。
「あれは……あれは、いったい!?」
荒野の一角。
かつてはノーザン・キングスの拠点であったその場所にソレはいた。
否、あったと言った方が正しいだろうか。
それは巨大かつ黒々とした“線蟲の塊”であった。
まるで建物やテントの残骸に根を張るように、ノーザン・キングスの拠点を覆い隠している。
よくよく見れば、その中から1体、2体と線蟲が這い出しているではないか。
暫くの間、その様をじぃと見続けて、フロイラインは理解した。
その巨大な線蟲の塊こそが、線蟲たちの母体……そして、線蟲を産み出す巣なのだと。
●蓮杖綾姫の憤慨
「何とおぞましい……これが、線蟲たちの母体ですか」
フロイラインから送られてきた1枚の写真を見つめつつ、蓮杖 綾姫(p3p008658)はそう呟いた。
線蟲に寄生され、もがき苦しむ兵士たち。
血反吐を吐き、身体の内側から食い破られて息絶えた彼らの悲痛な叫び声は、今なお彼女の耳にこびりついて離れない。
ノーザン・キングスの拠点にあった“栄養剤”により兵士たちに巣食っていた線蟲は駆除したはずだというのに……あれらは今なお、戦地から帰った兵士たちを苦しめ続けているのだと言う。
その事実に、綾姫はギリと唇を噛んだ。
「場所はノーザン・キングスの拠点跡地……ターゲットは拠点内部にある母体の核、ですか」
拠点周辺、及び内部には多数の線蟲が徘徊していることが予想された。
幸いなことに線蟲たちの動きは鈍いが、それでも一切の戦闘行為を行わず核を破壊することは叶わないだろう。
また、核が一目見て「それとわかる」形をしているとも限らない。
場合によっては、線蟲たちの動きを見ながら敵の巣穴を駆けまわる必要も出てくることが予想された。
「しかし、核を持ちかえればフロイラインさんの目的も果たせるでしょう」
フロイラインを拠点に連れて行けば、母体の核を回収する以外の解毒方法も見つかるかもしれない。
その分、彼女の護衛という手間は増えるわけだが……。
「なにはともあれ、線蟲たちの発生源や生態、弱点などが分かれば良いのですが……あれらの持つ【疫病】や【毒】はなかなかに厄介でしたからね」
加えて、今回の目的地であるノーザン・キングスの拠点は、ドーム状の母体に覆い隠されている。
ドーム内は薄暗く、またどこに居ても母体の監視下にあると考えてよいだろう。
「……いけませんね。1人で悩んでいても仕方ありません。皆さんの意見も聞いてみましょう」
と、そう呟いて綾姫はゆっくり瞳を閉じた。
![](https://img.rev1.reversion.jp/illust/scenario/scenario_icon/11030/11a32152b03a749d6bfcc5865300518e.png)
- 兵士は静かに眠れない。或いは、乙女は命を諦めない…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年11月29日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●荒野にて
鉄帝国のとある荒野。
黒い触手によって編み上げられた巨大な繭がそこにはあった。
そこはかつて、ノーザン・キングスの兵士たちが拠点としていた場所であるが、現在は奇妙な線蟲たちによって占拠された状態にある。
「辛気臭い場所だなぁ、まあ、俺は酒が飲めれば何でもいいんだが」
手にした瓶から酒を煽って、『ゴーストオブお正月島』酒匂 迅子(p3p008888)はくっくと肩を揺らした。
ロケーションは最悪なれど、酒の味には変わりない。
旨ければそれで良し。悪ければ、とっとと飲み干し次の酒を開けるだけ。
「あの……お酒の飲み過ぎは体に毒です。適量であれば気付けにもなりましょうが、貴女は明らかに飲み過ぎです」
迅子の手首に指を添え、白衣の女性……フロイラインはそう言った。今回の任務の依頼主であり、荒野に巣食う線蟲たちの調査に赴いた医師でもある。
「言っても無駄……それより、長期戦になるよ」
そう呟いて『白い死神』白夜 希(p3p009099)は、自身と『Raven Destroy』ヨハン=レーム(p3p001117)を対象として【魔の囁き】を行使する。
機械の猫耳を揺らして、ヨハンは「おや?」と首を傾げる。
何者かの声が聞こえた気がしたのだろう。いつもそうだ。希が【魔の囁き】を行使した時、対象の耳には誰かの声が響くのだ。もっとも、その誰かが何を言っているのかはわからない。
いつの間にか、囁かれたという事実さえも忘却の彼方に消え去るのだから。
「いえ、気のせいですかね。その通り、長期戦にはなりそうですが、多少のリスクを冒してでも打てる手は打ちましょう。事態が悪化しないうちに!」
胸を張ってヨハンは告げる。
フロイラインの住む町では、以前線蟲に寄生された兵たちが、今もその毒に苦しんでいるのだ。
「あぁ、アレを放置するといずれ俺の領地を脅かすかもしれんからな……っと、これが核か? フロイライン、どうだ?」
ヨハンたちから僅かに離れた場所では、先だって討伐した線蟲兵を『病魔を通さぬ翼十字』ハロルド(p3p004465)が解体中であった。
獣の形をした線蟲兵の胸の内から、心臓部らしきものを摘出しながらハロルドは問う。
「うぇ、虫嫌いなのよねえ……なんか気色悪いし焼きましょ全部」
核を一瞥し『至高の薔薇』ロザリエル・インヘルト(p3p000015)は顔を顰める。緑の肌に、身体を覆う薔薇の蔦。ロザリエルの本性は、人の形をした植物である。
「そうですね……」
ハロルドから核を受け取り、フロイラインは思案する。
小さな核だ。元となった生物の心臓の大きさに倣っているのか。
見分を終えたフロイラインは静かに首を横に振る。
「質も鮮度もサイズも今一つ。これでは、とても研究材料としては使えません」
「質? 悪化が早いということかい? 核を採取するなら生命力が強い個体の方がいいのかな。とにかく、今回は治療法を確立し、少しでも多くの兵士達を救えるように頑張ろう」
顎に手を添え『白虎護』マリア・レイシス(p3p006685)が自身の見解を述べる。
以前、線蟲兵と交戦した記憶を思い出してみれば、なるほど確かにあの時は“線蟲将”という名の上位個体がいたはずだ。
「やはり、拠点内に踏み込むほか無いようですね。危険な場所ではありますが、未だに苦しむ方々への救いの一手、必ずや手にしましょう」
「うむ。拙者はもとよりその心算。敵拠点内では隠れても意味ないでござるからな、派手に暴れさせてもらうでござるよ」
剣に手を添え『放浪の剣士?』蓮杖 綾姫(p3p008658)は目を閉じる。戦いを前に精神を集中させているのだろうか。一方、『はですこあ』那須 与一(p3p003103)は既に臨戦態勢を整えていた。
その身に纏った殲滅兵装“Hades03”が、熱気と蒸気を噴き上げる。
「えぇ、では参りましょう。大胆に、そして冷静に。鉄帝国のレイザータクトに油断と慢心は無い!」
ヨハンの放った号令が、仲間たちの戦意を一層向上させた。
仲間たちの準備が整ったのを確認し、与一は拳で眼前の黒い繭を殴打する。
響く轟音。地面が揺れて、線蟲によって構成された巨大な繭には、大きな穴が開けられた。
●拠点にて
カンテラを手に、フロイラインは息を飲む。
希が用意してきたものだが、暗い拠点内部を照らし出すには十分な光源であった。果たして、フロイラインの視界に跳び込んだ光景は、実に衝撃的なもの。
地面を覆う無数の線蟲。
天井からもボトリボトリと、塊になった蟲が零れる。
さらに、音に反応したのだろう……ゆっくりとこちらへ迫る線蟲兵が10体近く。うち3体は人に似た形をしていた。
耳障りな雄たけびを上げ、跳びかかって来る線蟲兵が数体。
そのどれもが、獣の形をしていた。
迎え撃つハロルドは、両手に剣を構えた姿勢で線蟲兵の攻撃を浴びる。蟲が集まり形成された鋭い牙がハロルドの首筋に突き刺さるが、彼の身体を毒に侵すには至らなかった。
「おら、もっと掛かってこいよ! テメェらに俺の翼十字を貫けるか!」
頬を血に染め猛るハロルドの周辺に、闘気によって形成された青い刃が展開した。獣型の線蟲兵を引きずりながらハロルドは刀を一閃させる。
それを合図に青い刃は飛翔。
正面から迫る線蟲兵の身体を千々に斬り刻んだ。
飛び散る蟲の合間を潜り、赤い電光が地を奔る。
迫る線蟲兵たちの中央へと踊り込んだマリアは、腰を低くし一時的に紫電を止めた。集中する攻撃を意に介さず、彼女は笑う。
「生憎毒は効かなくてね! 広域放電……行くよ! 消し炭にしてあげよう!」
放電。
地面を奔る電撃が、周囲の敵の位置を正しくマリアへと伝達。背後から迫る線蟲兵の突きを回避し、カウンターで蹴撃を見舞う。
暗闇を照らす閃光。撒き散らされた紫電の明かり。
後方へと跳んだ線蟲兵を待ち受けるは、与一の纏う殲滅兵装による一撃だった。
「……線虫は前の世界でも見たことあるでござるがやはり気持ち悪いでござるな。このようなものを使う連中の気が知れないでござるよ」
叩き潰した線蟲から、噴き出す体液が与一の纏う装甲を汚した。
手を振りそれを払いながら、与一は呟く。
潰れた線蟲兵の身体を、後方……フロイラインへと蹴渡した。
息絶えた線蟲兵から核を取りだし、希はそれをフロイラインへと手渡した。
線蟲に半ばほど侵食されながらも、核は未だに脈動している。
「これは持って帰りましょう。ただ、同程度の核であれば、もっと多く持ち帰りたいですね」
「なるほど。なら、まだここを焼いたらまずいよね。線蟲たちならあっちにもっといるようだけど」
と、拠点の中央部を指さし希は告げた。
カンテラの明かりも届かぬ暗闇の先……彼女の目には何が見えているのだろうか。
「あの、どうしてあっちに線蟲がいると?」
「それは、ほら……こんなに恨まれてるから。ある日突然、地下から現れたんだって。休眠していたんじゃないの?」
線蟲が休眠している頭上に、ノーザン・キングスの兵士たちが拠点を作った。
その結果、目を覚ました線蟲たちは音を頼りに地上へ進み、兵士たちを襲ったのだという。
「線蟲兵の核……はお約束的にはやはり中心部でしょうか」
綾姫の刺突が、人型線蟲の心臓部を刺し貫いた。
核……奴らの巣でもあるそれを潰され、線蟲兵は息絶えた。
息絶えた線蟲をその場に放置し、綾姫は闇の中へと駆けていく。
新たに狙いを定めた1体に肉薄し、その胸部に剣の切っ先を突き付けた。
「んじゃ、さっさと先に進むかね。さぁて、きーもい線虫が相手でも酒が飲めるゾー。酒が酒が酒が飲めるゾー、酒が飲めるゾー……っと」
装甲を纏った迅子が、綾姫に続く。
彼女の腕にはオーラの剣。口に含んだ酒をそれに吹き付けて、迅子は獣のように笑った。
酒精に酔った虚ろな瞳。
左右に揺れる不安定な歩調。
防御など考えずに繰り出された斬撃が、線蟲兵と一緒に地面を砕き割る。
希の影が広がって、噴き出る青い炎が道を切り開く。
火炎に焼かれた線蟲たちが後退したのを確認し、ヨハンとロザリエル、フロイラインは拠点の奥へと向かって走る。
3人の進行を阻むためか、拠点の天井部から球体状の線蟲たちが振って来る。
人や獣の形状を成していないことから、それらの個体がまだ何にも寄生していない、生まれたてのものだと見て取れた。
降り注ぐそれを展開した魔力の壁で弾きつつ、ヨハンはふふんと得意げに胸を張ってみせた。
「監視下にあるとしても、まぁ、僕は抜かせませんよ」
そう言って、チラと視線を向けた先にはロザリエル。
暗闇の中、ロザリエルの身体を月明かりに似た淡い光が照らしだした。
【ムーンライト】。与えられる月の加護が、ロザリエルの防御力を上昇させた。
これにより、元より再生能力を持つロザリエルは攻勢に集中することが可能となる。
線蟲に抉られた皮膚が再生し、その身を侵す毒も彼女には効果を及ぼさない。
「フロイライン君の護衛は任せるからね。それと、こいつらが外に広がったりしたら絶対やだわ。絶滅しといてお願いだから……」
一閃。
茨によって形成された剣により、ロザリエルは線蟲塊を斬り捨てる。
「それを1つ渡してください!」
「ん? これ? 美味しくないと思うよ……病んだ人間ほどに不味くはないと思うけどさ」
「いえ、食べるのではなく調べるのです」
「ふぅん?」
ひょい、っと線蟲塊を手に取り、ロザリエルはそれを背後へ放った。
線蟲塊を受け取ったのはヨハンだ。ヨハンの手の内にあるそれを一瞥し、フロイラインは1つ頷く。
「これが原種……これを持って帰れば、きっと」
毒を除去するための方法も、スムーズに調べられるだろう。
何しろ、たった今手に入れたそれは、他の生物が混じっていない原種である。
「よし……後は爆破するだけですね!」
派手に燃やすぞ! と、拳を突き上げヨハンはそう叫ぶのだった。
●荒野に燃える
拠点中央。
元はノーザン・キングスの指揮官たちの作戦本部があった場所だ。展開されていたはずの天幕は、現在は線蟲の母体に侵食されてその全容は窺えない。
天幕の内部には薬品や銃火器、弾薬などが保管されているはずだ。それらに火を着け、線蟲の母体を焼き尽くすため、まず行動を開始したのは希であった。
「火気はたいまつを持ってきてるから……後は、ロープと油があれば」
きっと良く燃えるだろう。持参した【リライラ】の影響か、妙に希のテンションが高い。
天幕の前には、全身に黒い蔦を生やした巨人が立っているのが見える。身体から伸びた蔦は、どうやら地中につながっているようだ。
線蟲たちは地下から現れたという。おそらくは、その巨人こそが母体の本体なのだろう。
「ほんと、辛気臭ぇ場所だこと。これ以上いると酒が不味くならぁな、っと」
さっさと派手に燃やそうや、なんて。
迅子は加速し、線蟲巨人へ肉薄した。振り下ろした剣が巨人の肩を深く抉る。
カウンター気味に放たれた巨人の拳が、迅子の額を叩き割る。
「う……ぐ」
鼻から噴き出す鮮血が、迅子の顔を赤に濡らした。
酒精の香る荒い吐息を吐き出しながら、迅子はさらに追撃を放つ。1歩踏み込み、剣に力を一層籠めれば、その刀身は線蟲の腹部付近にまで達した。
「これが線蟲たちの母体ですか……まぁ、どうでもいいですね。いずれにせよ、私にできるのは最大火力で叩き斬るのみ!」
掲げた剣に魔力を籠めて、綾姫は叫ぶ。
最大火力を放つ準備を整える間、巨人の相手を買って出たのは与一、そしてマリアであった。
「薄気味悪い所だね……。早くことを済ませて脱出したいところだ」
紫電を纏い駆けるマリアの蹴撃が、線蟲巨人の片腕を鋭く蹴ってへし折った。腕より溢れた線蟲が、マリアを襲いその肌を食い破る。
血に濡れたたまま、マリアは駆ける。
落ちた腕を遠くへ蹴って、素早く巨人の背後へ到達。迅子の攻撃に合わせ、鋭い蹴りをその膝裏へと叩き込んだ。
弾ける雷光。
飛び散る線蟲。
揺らいだ巨体の頭部を、接近した与一が掴む。
「拠点の爆破は他の御仁に任せるでござるよ」
加速した勢いを乗せた一撃が、巨人の頭部を地面に向けて叩き込んだ。
床が砕け、巨人の頭部が圧し潰される。
けれど、核はまだ無事なのだろう。失われた頭部は、即座に集まった線蟲によって再生。その過程で、与一の纏う兵装の腕が線蟲に締め潰されて破壊された。
「っつ!?」
痛みに顔を顰める与一。
その喉に向け、線蟲たちが一斉に喰らい付く。
激戦の果てに与一が力尽き倒れた。
意識を失う与一に向けて、巨人は足を振り下ろすが……。
「させないよ!」
「お前の相手はこっちだろぉ?」
マリアと迅子の攻撃が、膝から下を撃ち砕く。
天幕内部を見渡して、ハロルドと希は左右へ散った。
天幕内部に点在する火器弾薬の詰まった木箱を、一か所に搔き集めているのだ。
「よっし。弾薬はこれで全部か? それなら俺は一旦外に出るが……線蟲も可能であれば一ヶ所に誘き寄せて皆殺しにしておきたいからな」
そう言い残し、ハロルドは天幕から外に出る。
と、その時だ。
「ハロルドさん! 出るまでもないです!」
天幕の向こうで動いた影を視界に収め、ヨハンは叫んだ。
その声を聞き、ハロルドが後退した直後、天幕の布を引き裂いて数体の線蟲兵が現れた。
「ハロルドさん、ロザリエルさんは線蟲兵の相手を! 希さんは、あっちの調理油も撒いちゃってください!」
地面の下まで焼いちゃいましょう!
そう告げるヨハンの指示は、仲間たちに力を与える。
行使されるは【オールハンデッド】。名も無き兵士をも英雄に変える、全軍銃帯の大号令だ。
「あぁ、もう煩い! 戦闘音も、蟲の音も……っていうか、蟲めっちゃいてくそやかましいのだわ!」
茨を振り回し叫ぶロザリエル。
超聴力によって強化された彼女の耳には、数万を超える線蟲たちの蠢く音は、さぞかし耳障りだろう。
大爆発など起こせば一体どうなるか……気づいたけれど、あえて言わないヨハンであった。
ハロルドの先導で、ヨハン、希、フロイラインは天蓋を出る。
追いすがる線蟲兵は、ロザリエルの茨の剣が斬り裂いた。活動を停止してはいないものの、四肢を切断された以上はこれ以上追ってはこないだろう。
希の手には油の染みたロープ、そしてタイヤのような何かが握られている。
「それ、何ですか?」
線蟲の塊を抱えたまま、フロイラインがそう問うた。
希はそれに、どこか恍惚とした笑みを返す。
嫌な予感を感じたものの、それ以上は何も言わないフロイライン。藪を突いて蛇を出すような趣味は持っていないのだ。
地面を抉る魔力の波動。
それを放ったのは綾姫であった。
魔力の渦に飲みこまれ、巨人はその右半身を失う。しかし、核の破壊には至らなかったようで、線蟲巨人はまだ活動を停止していないようだった。
仲間たちは既に撤退を始めている。
気を失った与一も、マリアと迅子が担ぎ出した。
ロープの長さは足りないが、着火の算段はあるのだろう。
であれば、後は無事に安全区域まで離れるだけ。
その為には、追いすがって来る巨人の存在が邪魔だった。
「ならば、もう一撃!」
大上段に構えた剣に、魔力が渦巻き輝きを放つ。
一閃。
空を裂くように振り下ろされた剣戟が、魔力の刃を成して疾駆する。
地面を抉り、巨人に至ったその剣戟は狙い違わず太い両脚を切り裂いた。
倒れた巨人の頭部付近には、ちょうどロープの先端があった。
たっぷりと油の染み込むそれに向け、希は手にしたタイヤのような何かを向ける。
「あの、それは……?」
そう問いかけた綾姫に、彼女は小首をかしげて答えた。
「たぶん、自走する爆弾。それより、逃げた方がいいよ」
希がタイヤの操作をすると、外周に添って取り付けられたロケットが点火。
パパパパ、と小気味の良い音を鳴らしロケットが次々と火を噴いた。
それを推進力として、タイヤ型爆弾は天幕目掛けて疾駆する。
その途中で、地面の凹凸に引っかかって横転したが問題ない。数秒の後に爆発するそれは、油の染みたロープを業火に飲み込むだろう。
くるくると横転したまま回る爆弾へと向けて、線蟲巨人は手を伸ばし……。
直後、タイヤ型爆弾は巨人を巻き込み大爆発を巻き起こす。
ロープを伝って、天幕内部に集めた火器に火が伝う。
次々と巻き起こる大爆発。
揺れる地面。迫る業火。上る粉塵。
それらに追われるようにして、イレギュラーズとフロイラインは命からがら線蟲の巣を離脱した。
そこはかつてのノーザン・キングスの拠点。
激しく燃える業火の中に、線蟲たちの悶える影が見えていた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様です。
品質の良い線蟲の核を回収できたことにより、フロイラインの治療も捗ることでしょう。
また、線蟲の巣であった拠点も無事に爆破されました。
この世界のどこかに、線蟲が残っている可能性もありますが、少なくとも荒野の線蟲たちはこれで全滅したようです。
この度はご参加いただきありがとうございました。
機会があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
こちらのシナリオは「兵士は朝日を拝めない。或いは、乙女は神に祈らない…。」のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4086
●ミッション
フロイラインの元に「線蟲の核」を届ける。
●ターゲット
・線蟲兵×12~
線蟲の集合体。
大量の線蟲が寄り集まって人や獣などの姿を取って活動している。
ノーザン・キングスの拠点跡地に集中している。そのほとんどは、拠点に根差した母体の内部を徘徊しているようだ。
動きが鈍く、音や振動に反応するという特徴を持つ。
線蟲:物至単に中ダメージ、毒
・線蟲母体×1
黒い線蟲の母体。
直径100メートルほどのノーザン・キングス拠点跡地に根を張っている。
外から見た感じだと半球形(ドーム状)。
核となる部分、或いは個体が内部にいると思われる。
フロイラインが求める線蟲の核として、母体のそれはきっとふさわしいだろう。
・フロイライン
医者の集団“白き獅子団”のリーダーを務める女性。
長年、医療に携わり生きてきた。
彼女は命を救いたい。
兵士であれ、平民であれ、貴族であれ、貧者であれ、区別なく目の前でそれが失われようとしているのなら手を差し伸べずにいられない。
今回は、線蟲の毒に苦しむ兵士たちを救うため、線蟲の核を採取しに荒野を訪れた。
●フィールド
鉄帝国。
とある荒野。しばらく前まで鉄帝国とノーザン・キングスがこの場所で争っていた。
そのため、荒野には双方の武器などが転がっている。
今回の目的地はノーザン・キングスの拠点跡地。
廃棄されたテントやあばら家が並んでいるが、母体に覆われており外から内部は窺えない。
「兵士は朝日を拝めない。或いは、乙女は神に祈らない…。」
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4086
上記で齎された情報によれば、拠点中央部分に大きな天幕が張られている模様。
その場所は作戦本部兼薬品、武器弾薬置き場となっているようだ。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
Tweet