PandoraPartyProject

シナリオ詳細

カリ・ガリ。或いは、パラサイト・ハピネス…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●救世部隊
 独立都市『アドラステイア』
 とある研究施設にて、若い男女と1人の老婆が相対していた。
「どこへ行こうというのですが、ドク?」
 くぐもった声で、若い男がそう告げる。
 黒のボディスーツを纏う男の右腕は、円筒形の金属カバーで覆われていた。
「どこにも貴女のを受け入れてくれるとこなんてありませんよ、ドク」
 そう告げたのは若い女だ。
 男とは反対に、彼女の身体は丈の長いマントに包まれている。
「どこでもいいさ。ここでなけりゃね。これ以上、アドラスティアに加担するのはうんざりだ」
 嫌悪の感情に顔をしかめ、老婆は告げる。
 白い髪に皺だらけの顔。年齢の割に背が高く、背筋もピンと伸びている。
「せっかく築いた地位を捨てるというのですか?」
「考え直してください、マザー。貴女の帰りを待つ子どもたちが大勢います」
 マザー。
 それが老婆のアドラスティアにおける立ち位置だ。
 アドラスティアは、『ファルマコン』と呼ばれる神を信仰する教徒たちが主となり運営する都市だ。
 男性教徒をファザー、女性の教徒をマザーとそれぞれ呼称する。
 ドク、或いはマザーと呼ばれた老婆もその1員ということだろう。
 当の本人は皮肉気に頬を歪め、嘲るようにこう言った。
「私の帰りを待つ子ども? 私はその子たちに何をすればいい? え? 洗脳だろう? それと改造だ! 不気味な蟲を子どもの身体に埋め込むなんて非人道的な真似がしたくて、私はここに来たんじゃ無い」
 そう叫び、老婆……カリ・ガリは激しく肩を上下させた。
 しばしの沈黙の後、若い男はため息を零す。
「残念です、ドク。貴女を殺めることになるなんて……貴女がくれた、この力で」
 そう言って、男は腕を覆う金属カバーのベルトを外す。
 金属カバーが地に落ちて、露わになった男の腕は黒かった。
 よくよく見れば、男の腕は絶えず脈打っているようだ。
 それもそのはず、彼の腕は膨大な量の線蟲によって形作られているのだから。
「悲しいです、マザー。貴女のおかげで私たちはこんなに強くなれたのに。貴女にはもっと、弱き子どもたちを救ってほしかったのに」
 そう言って、女はマントを脱ぎ捨てた。
 女の身体に腕と呼べる部位はなく、代わりに線蟲によって構築された触手が数本伸びている。
「そうさ。孤児たちを救うという名目で私はこの都市に来た。だけど、どうだ? 私の研究成果は何に使われた? 洗脳された少年兵を怪物に変えただけじゃないか」
 これ以上は付き合い切れない。
 ここにいたら、頭がどうにかなりそうだ。
 だから、カリ・ガリはアドラスティアから逃げ出すことに決めたのだ。
「長生きしたいなら、せいぜい密かにしてることだね」
 と、そう言って。
 カリ・ガリは手にした何かのボタンを押した。
 直後、遠くで爆音が響く。
 ヒビ割れ、砕けた壁に向けカリ・ガリはその身を踊らせる。

●カリ・ガリからの手紙
 私は地獄に落ちるだろう。
 私は孤児を救いたかった。
 1人でも多くの子どもたちを救いたかった。
 
 私がアドラスティアで行っていたのは、某国で発見された“線蟲”……寄生蟲の研究だ。
 黒い針金のような形のその蟲は、宿主の心臓に巣食い、やがて死に至らしめる。
 そうして、宿主と似た形状の怪物として活動を開始するという特徴を持っていた。
 たとえば、犬の心臓に巣食った線蟲は、増殖し宿主を食い殺した後“犬型”の線蟲群として活動を開始する。
 鳥に巣食えば“鳥型”に、人に巣食えば“人型”に、といった具合だ。
 けれどその過程で、線蟲の活動を抑制することが出来れば、人と線蟲は共存できることを知った。
 線蟲の生命力は非常に強く、宿主の感じる餓えや痛み、疲労を軽減させる。

 満足に食事も取れず、治療も受けられない孤児たちにとって、一時しのぎとはいえそれは救いになるはずだ。
 子どもたちの延命に努め、その間に解決策を模索すればいい。
 貴女は“優しい人”だから、きっといつか彼らを救えることでしょう。
 そんな甘い言葉に乗った私が愚かだったのだ。

 私の研究成果である“線蟲”は“パラサイト・ハピネス”という名で洗脳された子どもたちに移植されることになった。
 子どもたちは、確かに常人を越える生命力と身体能力を手に入れた。
 そんな子どもたちにアドラスティアの連中は、人殺しを実行させたんだ。
 自分たちにとって邪魔になる者を、蟲を使って殺してこいと。
 私の研究成果に手を加えた者がいるのだろう。
 線蟲を移植された子どもたちは、身体の一部が蟲の巣に変異する。
 あれはもはや【疫病】と【猛毒】をばらまく生体兵器だ。
 アドラスティアの連中は、彼らを指して“救世部隊”と言っていたか。
 
 線蟲と子どもたちは共生状態にある。
 けれど、子どもたちが深く傷つけば体内の線蟲は途端に活動を活発化させるだろう。
 そうなれば、子どもたちは自我を失い、ただ暴れるだけの怪物になってしまう。
 アドラスティアの連中は、どうしてそんなに惨い真似が出来るんだ……。

 リーダーを務める若い男の名はポト・ポル。
 サブリーダーの女はサロ・サルという名だ。
 私は彼らに追われることになるだろう。
 アドラスティア下層の貧民街にある、地下下水道から外に逃げるつもりだが……。
 地下下水道にはメインとなる大水道のほかに、幾つも脇道が存在する。
 それを使って先回りされているのなら、私は逃げ切れないだろう。
 この手紙が誰かの手に届くのなら。
 もしも、可能であるのなら。
 誰か私を助けてほしい。
 この地獄から、私を解放してほしい。

 追伸:
 1つだけ作れた“パラサイト・ハピネス”の抑制剤を持ち出すつもりだ。
 これを打てば、宿主の命を保ったまま、体内に巣食う“線蟲”を殺し尽くしてしまえる。


「……と、いうわけだ。どうにもあそこは好きになれないな」
 そう言って『黒猫の』ショウ(p3n000005)はイレギュラーズを送り出す。

GMコメント

●ミッション
カリ・ガリをアドラスティアから脱出させる。

●ターゲット
・カリ・ガリ
アドラスティアの元・マザー。
子どもたちを飢餓や病魔から救うための研究を行っていた。
しかし研究の成果が“パラサイト・ハピネス”という名で、洗脳兵の強化に使われていることを知り離脱を決意。
現在、アドラスティア下層の地下下水道に潜伏中。
※救世部隊に宿る“パラサイト・ハピネス”を殺す薬を1つだけ所持している。


・ポト・ポル(洗脳兵)×1
・サロ・サル(洗脳兵)×1
“パラサイト・ハピネス”により強化された洗脳兵。
ポト・ポルは右腕に、サロ・サルは胴体に“パラサイト・ハピネス”を宿す。
“救世部隊”と呼ばれるチームを率いている。

救世(ポト・ポル):物中単に大ダメージ、防無、疫病、猛毒
 右腕に宿る“パラサイト・ハピネス”による攻撃

救世(サロ・サル):神近範に大ダメージ、疫病、猛毒
 胴体に宿る“パラサイト・ハピネス”による範囲攻撃。


・救世部隊(洗脳兵)×4
少年、少女で構成された部隊。
主に暗殺などの任務を実行する。
全員が身体のどこかに“パラサイト・ハピネス”の巣を宿している。
生命力が高く、痛みへの耐性が高い。

救世:物近単に小~中ダメージ、疫病、毒


・“パラサイト・ハピネス”
どこかの国で発見された寄生生物。
黒い線蟲。
宿主の体内に巣を作り増殖。やがて宿主を食い殺す。
救世部隊のメンバーは、カリ・ガリによって調整された“パラサイト・ハピネス”を体内に宿している。
本体が深く傷つくと“パラサイト・ハピネス”は活動を活性化させる。


●フィールド
アドラスティア下層。
地下下水道。
メインとなる大水道のほか、複数の脇道が存在している。
大水道をまっすぐに進めばアドラスティアの外に出られるらしい。
周囲は暗く、音がよく響く。
また、脇道は狭く人が並んで立つことは出来ない。



●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • カリ・ガリ。或いは、パラサイト・ハピネス…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
医術士
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
金色のいとし子
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
リインカーネーション
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
希望の蒼穹
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
岩倉・鈴音(p3p006119)
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
霊魂使い

リプレイ

●カリ・ガリ博士を救出せよ
 地下水道を、駆ける影が都合8つ。
「そこの脇道を抜ければ、カリ・ガリ殿の元まで行ける……そうだ。それにしても、子供の霊魂の多いな」
 ちら、と水路へ視線を向けてアーマデル・アル・アマル(p3p008599)はそう呟いた。
「オッケー、この先ね。カルト宗教の始末はいずれつけるとして、今はカリ・ガリを連れて逃げるよ!」
 走る速度を一層上げて『劫掠のバアル・ペオル』岩倉・鈴音(p3p006119)はそう告げた。
「えぇ、急ぎましょう。騙され、利用され、それを悔いている……そんな人を殺めさせるわけにはいきません」
 腰の刀に手をかけて『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は呟く。
 
 地下水道の片隅、崩れた壁版と道の間に身を潜ませた1人の老婆の姿があった。
 こけた頬には泥や血が付着しているが、彼女の瞳に悲観の色は窺えなかった。彼女の名はカリ・ガリ。アドラスティアの元マザーである。
 現在はアドラスティアを裏切り、この地を離れようとしているわけだが……。
「そう簡単に逃がしちゃくれないだろうねぇ。あぁ、あんたらのしつこさは私だって良く知ってるさ」
 カリ・ガリの左右に位置するのは、厚手のマントを着た2人の少年。
 マントの下、肩のあたりが不気味に蠢いているのが見える。それもそのはず、少年たちの肩には某国で発見された新種の線蟲が寄生しているのだ。
「ふざけんじゃないよ……命を繋ぐための研究を、人殺しのために使いやがって」
 肩を抑えカリ・ガリは呻いた。
 少年兵たちに抉られたのか、だくだくと血が溢れている。
「…………」
 無言のままに、少年兵の1人が腕を掲げ……。
 それが振り下ろされる、その寸前。
「やらせはしない!  勇気でもって立ち上がってくれたカリ・ガリは希望の光だ。失うわけには行かない!」
 少年兵の拳を剣で受け止めたのは『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)。よほどに急いで走ってきたのは、その額には汗が浮いていた。
 リゲルに攻撃を止められた少年兵は、すぐに背後へ跳び退る。暗殺を主任務としているだけあって、判断の速さはなかなかのものだ。
「寄生虫まで利用するとは、手段を選ばないにも、程がある、な」
 暗がりより現れた小柄な少女……『愛娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の蒼い瞳に捉えられるなり、2人は胸を抑えて呻く。
 視線を媒介としたエクスマリアの呪法によって、姿勢を崩した2人の背後にサクラと鈴音が駆け寄った。
 一閃された2人の得物が、少年兵の意識を奪う。

 拘束された少年兵を見下ろして『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は眉間に深く皺を刻んだ。
 そんな彼女の顔を見上げて、カリ・ガリは問う。
「もしかして、私の手紙を……読んでくれたのかい? それで、わざわざこんな危険なところまで?」
「えぇ、1人でも多くの子どもたちを救いたかった……なんて、悲しいことを言わないで。敵対組織の子どもであっても、生きたいと言うのなら私は救ってあげたいんです」
 医者を目指すココロにとって、人命を救うために研究を続けたカリ・ガリはまさに先人とも言うべき存在だ。
 その成果を人殺しのために使ったアドラスティアには怒りさえ覚える。
「行きましょう。これからも多くの命を“救っていく”ために」
 過去ではなく、未来を見据え行動すべきだ。
 そう言ったココロは、カリ・ガリの手を掴み取る。

 カリ・ガリと拘束した2人の兵士を連れ出すべく、イレギュラーズは迅速に行動を開始した。
 意識を失った兵士をリゲルとアーマデルが担ぎ上げようとした、その時だ……。
「っ⁉ いかん、その子たちから手を離せ!!」
 異変に気付いたカリ・ガリが怒鳴る。
 見れば、縄に縛られた少年兵たちの身体が、不気味に蠢きはじめていた。見ればその口元からは膨大な量の血が零れている。
 体内に飼っていた線蟲が暴走を始めたのだろう。
 少年の皮膚を突き破り、その背や顔から黒い線蟲が現れた。
「これが寄生生物……? そんなものまで使うなんて、アドラステイアってどうなってるの……?」
「……アドラステイアの人達はなんて非道なの!」
 困惑する『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)と憤りも顕わに叫ぶ『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は、掲げた腕に魔力を灯した。
 ぼとり、と少年の頭部が地面に落ちて……。
 首の断面からは、数千を超える線蟲の群れと肉の破片が溢れだす。

●地下水道、逃走中
 地面を這い寄る無数の蟲を、エクスマリアは跳んで躱した。
「深く、傷つかなければ、ば……蟲は暴走しないんじゃなかったの、か?」
 どこか呆とした視線をカリ・ガリへ向け彼女は問うた。鈴音に背負われているカリ・ガリは悔しそうに唇を噛み締め、視線を背後へ。
「ここに来る前にダメージを負っていたか、舌でも噛み切ったのかもしれないね。本当に、命を軽く扱う連中ばかりで嫌になる」
「そう、か……だが、こうなってしまっては命も何もないだろう? 蹴散らしてしまおう」
 そう言ってエクスマリアは体を反転。
 長い金髪が彼女の動きに合わせて靡いた。視線を通して、エクスマリアは少年兵……今は線蟲兵と呼ぶべきか……へ呪法を付与する。
 体力を削られ、悲鳴をあげながらもしかし線蟲兵たちは動きを止めずに前にでた。
 突き出された拳がエクスマリアの胸部を殴打。肺の中の空気を吐き出し、エクスマリアは地面を転がった。
「……なかなか効くな。しかし、ポト・ポル、サロ・サルはこいつらより遥かに手強いのだろう、な」
 よろりと起き上がるエクスマリアを庇うように、ココロが数歩前に出た。
「傷を付けない形でダメージを与えるのはどうかしら」
 掲げた腕に灯る燐光。
 それに呼応するように、線蟲兵の1人の真下に魔法陣が浮かび上がった。
 じわり、と魔光が線蟲兵の身体を蝕み……その身体を毒に侵す。線蟲に支配された以上、もう元には戻らないだろうとは予想しているが、それでも試さずにはいられなかったのだ。
 毒に侵された線蟲たちが、ボロボロと身体から零れていく。
「倒すしか無さそうだな……仕方がない」
 怪物と化した兵の眼前へ、アーマデルが躍り出た。振るわれる蛇腹の剣による斬撃と、ふわりと漂う酒精の香。
 酒精に焼かれた線蟲兵が1体、力尽き倒れた。
 零れる線蟲は溶解し、後に残るは黒く汚れた骨ばかり。
 残る1体も限界が近いのか、線蟲で構成された腕を力任せに振り回す。
 アーマデルの胸部をその腕が引き裂き、傷口に蟲を送り込む……が、しかし【毒無効】を持つ彼の身体を線蟲の毒が侵すことはなかった。
 血の雫を散らしながらアーマデルが再度、剣を振るった。その瞬間、何かに気づいたエクスマリアが声をあげる。
「足音が近づいて来る……この場は急いで離れるべき、だ」
「ポト・ポルたちだろうね。こいつらが先遣隊だとすれば、次に来るのは本体ってわけだ」
 忌々し気に唇を噛み、カリ・ガリはそう呟いた。

 右腕に線蟲……パラサイト・ハピネスを宿したポト・ポルと、胴体に宿したサロ・サル。
 その2人が線蟲を宿した洗脳兵部隊……救世部隊の隊長格だ。
「何者かは知らないが、マザーを渡してもらおうか」
 そう言ったのはポト・ポルだった。
 線蟲によって構築された太い腕が伸縮し、鈴音に背負われたカリ・ガリを襲う。
 それは鋭い槍のような一撃だった。
 空気を切り裂く音がして、迫る黒槍は正確にカリ・ガリの眉間を狙う。
「っと、そう簡単にやらせはしないゾ」
 咄嗟に身体を反転させて、鈴音は盾でそれを弾いた。
 盾から伝わる衝撃が、鈴音の細腕を痺れさせる。
「くっ、すまない。抑制剤を打ち込めば、止められるかもしれないが……」
 そう言ってカリ・ガリが取り出したのは薬剤の入った注射器だ。ポト・ポルの攻撃を受けながら、それを打ち込むつもりだったらしい。
 カリ・ガリの身体が線蟲の攻撃に耐えきれるとは思えない。命と引き換えに、ポト・ポルに宿った線蟲を除去する心算であったのだろう。
「婆ぁ無理すんな。というか、その薬は量産できるのカ?」
「設備と材料と時間があればね……それと、私の脳みそも」
「じゃあ、まだ使うナ。安全なとこまで逃げてそれから考えよう」
 線蟲の宿った兵に対して、抑制剤は切り札足り得る。
「というか、腕とかなら、その部位を切り落とせば救われないか?」
「……試してみたことは無いが」
「なら、私がやってみるよ。……天義の聖騎士、サクラが相手になるよ!  さぁ、かかっておいで!」
 刀を構えたサクラが反転。
 その身に纏う輝きが、ポト・ポルたちの視線を引きつける。
「地下水道でそんな光を纏うだなんて、絶好の的ですね」
 そう言ったのはサロ・サルだ。
 纏ったマントが激しく波打ち、その内側から四方へ向けて線蟲の槍が射ち出された。
「そのための光に決まってるでしょ!」
 居合の姿勢から解き放たれた斬撃が、サロ・サルの放った線蟲群を切り裂いた。
 宙に飛び散る線蟲の中を、2人の少年兵が駆け抜ける。
「行かせないって言ってるでしょ! それに、意に添わず戦わせられている人たちを、見過ごすわけにはいかないの!」
 少年兵の眼前にアレクシアが踊り出る。
 その身に纏った赤き魔光が、彼女の頭上で魔力塊を形成。宝石のようなそれが炸裂し、周囲に破片をまき散らす。
 その様はまるで、赤き花が散るかのようで。
 赤き魔力を浴びた2人の少年兵は、言い知れぬ怒りや敵対心をアレクシアへと向けずにはいられなくなった。
 2人の攻撃がアレクシアへと集中する。
「うっ……きっつ」
 アレクシアの身体を毒が侵す。
 口元を押さえ、呻く彼女へと向けて駆け寄ったのはスティアであった。
「すぐに治療するわ。ねぇ、カリ・ガリさん。パラサイト・ハピネスって抑制剤以外でなんとかできるの? 少しだけ沈静化させる方法とかない?」
「沈静化……本体の体力が十全であれば大人しくなるが」
「……なるほどね」
 大きなダメージを終えば線蟲は活性化する。
 それは、本体である少年に線蟲を抑え込むだけの体力や精神力が欠如することが原因だ。
 ならば、少年の体力を回復させてしまえば線蟲も暴走しなくなる。
 スティアの開いた魔本を中心に、展開された淡い燐光。
 それは静かにアレクシアへと降り注ぎ、その身を侵す毒を即座に浄化した。
 
 執拗に、カリ・ガリを追うポト・ポルとサロ・サル。
 その進行を食い止めるのはサクラと、そしてリゲルの2人だ。
 叩きつけられる線蟲腕がリゲルの頭部を殴打する。
 よろけた隙に、その脇腹をサロ・サルの放った線蟲が穿つ。
 血を吐きながら、リゲルは剣を振り上げた。
 一閃、彼の放った斬撃がポト・ポルの腕を深く抉る。
「邪魔をするな」
「そうはいかない。この身を盾にしてでも、彼女を逃がし切ってみせる!」
 カリ・ガリを追うポト・ポルの前に身を割り込ませ、リゲルはその身を盾として彼の追走を阻んで見せた。
 苛立たし気にポト・ポルの振るう線蟲の腕がその側頭部を殴打する。頭部に走る衝撃に、リゲルの意識はほんの一瞬、途切れかけるが彼は唇を噛み締め無理やりに意識を繋ぎ止めた。
「この場は任せるからね!」
 ココロの行使した回復術が、リゲルの身体を包み込む。
 失われた体力が、じわりと回復するのを感じリゲルは笑う。
「あぁ、任せてくれ!」 
 力強い返答が、地下水道に木霊した。

●救世に殉じる
「もう、いい。私のような者のために、君たちが傷つくことはない……助けを求めておいて勝手な言い分だが、私を見捨てて逃げてくれ」
 大水道を駆ける鈴音の背の上で、カリ・ガリは唸るようにそう呟いた。
 彼女の頼みを完遂するため、目の前で胴を刺し貫かれたリゲルの姿を見たからだ。
 彼は宣言通り、その身を盾にカリ・ガリを守った。【パンドラ】を消費してまで、彼は未だ遥か背後で戦いを続けているのだろう。
 激しい剣戟の音が、途切れることなく地下水道に響き渡っている。
 しかし、そんなカリ・ガリの提案を鈴音は笑って否定する。
「そう簡単に諦めることはできない。カルト宗教の真実は生きて広めるべきだからナ。やはり宗教は蟲同様に毒だナ!」
「カリ・ガリさん。わたしは医者を目指して勉強中なの。ここから帰ったら、抑制剤を量産できないか、レシピの確立を手伝わせて。そうすれば多くの子供たちを救えると思うから」
 カリ・ガリと共により多くの命を救うため。彼女の提案はカリ・ガリにとって渡りに船と呼ぶべきものだ。
 カリ・ガリの掲げた「多くの子供を救いたい」という想いに賛同してくれる者が現れた。悲しいことに、アドラスティアのマザーが言ったその言葉はまったくの“でたらめ”であったが、ココロは違う。
「それに、カリ・ガリを生きて連れ出すことには利もある。アドラステイア内部の情報を、より詳しく得るチャンスでもあるし、な。」
 背後を警戒しながらも、エクスマリアはそう言った。
 金の髪でその身を覆う彼女の耳は、遠くで響く戦闘音が1つ減ったのを捉えている。
「無事に連れ出してみせる、さ」
 エクスマリアの持つ【エコーロケーション】は、音の響く地下水道では何よりも頼れる索敵手段と言えるだろう。
 彼女が付いているのなら、状況の変化に対応することも容易いはずだ。
 イレギュラーズたちとて意地や根性論を頼りに「カリ・ガリを連れ帰る」などと、口にしているわけではない。
 その言葉は、勝算も無しに口にできるほど軽いものでは決してないのだ。
「そうか……あぁ、分かった。それなら、私ももう少し生きてみることにするさ」
 
 赤い魔光が儚く散った。
 混じる鮮血はアレクシアの額から散ったものだった。
 線蟲兵と化した2体の攻撃を、彼女は一身に引き受ける。額を割られ、毒に侵され、身を裂かれても、自身に治癒を行使しながら2体をその場に食い止める。
「気絶させるだけに留めたかったけど……できれば治療してあげたかったな」
「連れ帰ってみるか? 薬の材料として特殊な素材……例えば寄子から抽出した抗体とかが必要かもしれない」
 そう提案したのはアーマデルだ。
 蛇腹の剣を閃かせ、線蟲兵の腕を落とした。
 斬られた端から蟲が湧きだし、新たな腕を形成するが体力自体は消耗している。繰り返せば、いずれ息絶えることは緒戦で確認済だった。
「ううん。たぶん、こうなったら……」
「もとに戻すことは不可能か」
 タン、と地面を蹴って跳んだアーマデルは体の周囲に蛇腹の剣を旋回させた。
 ダンスにも似たステップで線蟲兵へと肉薄し、その身を千々に切り刻む。力尽きて倒れた1体を一瞥し、次の相手へと跳びかかった。
 そして……。
 アレクシアを襲うことに注力している線蟲兵は、アーマデルの接近に気づくことなくその首を切り落とされたのだった。

 線蟲の槍がサクラの腹部を刺し貫いた。
 血を吐きながら、彼女は1歩前に踏み込む。
 驚愕に目を見開いたサロ・サルへ向け彼女は不適な笑みを投げかけた。
「感情が死んでるわけじゃないみたいね」
 サクラの希薄に怯んだサロ・サル。
 一閃。
 居合の間合いで繰り出された斬撃が、サロ・サルの胸部を深く裂いた。意識を失い、倒れるサロ・サル。その胴体が激しく脈打つ。
 体内の線蟲が暴走を始めたのだろう。
「回復するよ。助けられる可能性があるなら賭けてみたいから」
 宿主の体力が十全であれば、線蟲の活性化を抑え込める。
 カリ・ガリの言葉を信じ、スティアはサロ・サルの治療に移った。淡い燐光がサロ・サルの身体に降り注ぐ。
 胸部の傷が塞がるにつれ、線蟲たちの動きも次第に弱くなる。
「なにをしている……?」
 その様子を見てポト・ポルは問うた。
 線蟲の塊と化した腕を振るうが、それはリゲルが受け止める。
「可能であれば、洗脳やパラサイトの解除を試みるつもりなんだよ」
 激しく打ち合う剣と腕。
 打ち負け、弾かれたのは腕だった。
「1つだけ抑制剤もあるしね。今後も多くの子供の命を救うには、カリ・ガリの知識が不可欠だ。悪いけど、彼女は連れ帰らせてもらう!」
 掲げた剣に宿るは星の煌めきだった。
 閃光と共に放たれるそれは、まるで一条の流星のごとく。
 リゲルの放った斬撃が、ポト・ポルの腕を斬り裂いた。傷口からは、膨大な量の線蟲たちが溢れだす。
 活性化した線蟲が、腕から胴へ向けてポト・ポルの身体を侵食していく。苦悶の声を零し、血を吐きながらポト・ポルは数瞬、沈黙し……。
「そう、か。なら……サロ・サルを治してやってくれ。抑制剤は1つっきりしかないのだろう?」
 なんて、言って。
 彼は残る左手で自分の首を締め上げて……。
 線蟲によって強化された握力でもって、彼は自身の首を握りつぶした。

「……久しぶりに、空を見上げた気がするよ」
 地下水道を抜け、海へ出た一行。
 乗った船の甲板で、カリ・ガリはそう呟いた。
 空は快晴。
 彼女の隣には、意識を失ったサロ・サルが横たわっている。
 治療を施され、線蟲を除去された彼女はもはや戦う力を持たない普通の少女だ。
「命を繋ぎ止めたんだ……洗脳だって、きっと解けるさ」
 血に濡れた彼女の髪を優しくなでて、カリ・ガリはそう呟いた。

成否

成功

MVP

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
リインカーネーション

状態異常

サクラ(p3p005004) [重傷]
聖奠聖騎士

あとがき

お疲れさまでした。
カリ・ガリは無事に救出されました。
薬の量産もこれで可能となるでしょう。
また、敵勢力のうちサロ・サルは命を取り留め連れ帰られました。
洗脳が解けるか否かは、カリ・ガリの説得次第となるでしょうか……。

この度はご参加、ありがとうございました。
お楽しみいただけましたでしょうか。
もしもそうならうれしい限り。また別の依頼でお会いしましょう。

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