シナリオ詳細
リトル・ドゥーはおつかいをする
オープニング
●はじめてのおつかい
何処ぞの学者が語った。パサジール・ルメスの民と動物の関係は切っても切れない存在だ。
混沌世界の少数勢力『パサジール・ルメス』は一箇所に留まる事のない流浪の民だ。彼らが移動する際には馬だとかパカダクラだとか、そういう動物を使う事になる。
各国で得た交易品を動物の背に乗せて、また何処か高く売れる国へ共に歩いて行く。
キャラバン隊によって細かい方針はまちまちだが、『動物好きの』リトル・ドゥー(p3n000176)の生まれたキャラバンでは動物は重要な働き手だった。
「おとめさん、今日も元気だねぇ」
ロリババァとかいうロバなのか何なのかよく分からない動物の体をワシャワシャとブラシでこするドゥー。
「ホースさんもおはよう。ロールさんも今日もふわふわだねぇ。え? 二人とも体がかゆい? うーん……」
彼女は動物の世話を始めてまだまだ年月が浅い。動物の言葉が分かる才はあれど、どのように世話すれば彼らが健康にあるかという知識はまた別だ。
「ドゥー、ドゥーや」
キャラバンをまとめている年寄りの女性が、ロリババァの背にまたがるドゥーに声を掛けた。
「あ、長! どうしたの?!」
少女特有の甲高いキンキン声に、長は耳を塞いだ。「お前はいつも元気だねぇ」と乾いた笑いを浮かべながら、膝を折ってドゥーの背丈に視線を合わせ、こう話し始めた。
「ヤァ、我々のキャラバンは幸福な日々を過ごしている。馬や羊の子が多く生まれ、そのどれもが生命を失する事なく、スクスクと元気に育っている」
「ドーも元気に育ってるよ!!」
あぁ、そうとも。長は彼女の言葉に笑みを浮かべながら頷いて、そして困った様に眉を曲げた。
「だが、世話係の者が何人か怪我をしてしもうてのう。このままだと手が足りぬ。どころか餌も食えぬ事態になろう」
長の言葉は方便である。キャラバンの中で仕事が出来ないほどの怪我人が何人も出たらもっと大騒ぎだ。だがドゥーはそれを信じ込み真顔になる。次第に泣き出しそうになった。
「……おとめさん、せいめいをシッするの?」
「メェェェエ!?」
なんかけたたましい悲鳴が横から聞こえるが、それはともかく。長はドゥーを見つめ、たった今思いついた顔をしてこう述べた。
「そうだ。ローレットギルドを頼ろう。ちょうど、お前の足でも行けるほど幻想の支部が近い。ここに金貨を入れた袋と書類がある。キャラバンを救う重大な任務だ。やれるかね?」
長にそういわれて、ドゥーは泣き出しそうな顔をぐっと顰め、「頑張ります!!」と頷いた。
●はじめてのおつかい(スタッフ側)
『そういうわけで、「動物の世話を依頼された」という体でそのリトル・ドゥーという子供についてきて欲しい』
ドゥーから渡された書類には、そんな事と共に緊急性がある要件ではないという旨が書かれていた。
つまりは、我々ローレットに求められたのはキャラバンの子供に対する洗礼や訓練の協力だろう。放浪の民である以上、動物の世話や交易、ギルドへの依頼など一通りは覚えておかねばならぬ。
「えっと……受けて、くださいますか……?」
目の前で不安そうにイレギュラーズを見上げているドゥーは、その為に遣わされたのであろう。
袋に入った金銭を見てみると、まぁ、『動物の世話』という要件にしては悪くないといったところか。その実体は十歳児の教育に付き合うという事なのだが。
その教育対象であるドゥーはというと、見知った動物達が生命を失するとかいうのを信じ込んでいる様子。
依頼は受けるとして彼女にどう対応したものかと、その場に集ったイレギュラーズ達は考えるのであった。
- リトル・ドゥーはおつかいをする完了
- GM名稗田 ケロ子
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2020年12月02日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
目的地のキャラバンまで赴く道中、イレギュラーズはその場に居合わせた自分の関係者者達にも協力を呼びかけていた。
「婆様、今回の一件についてどういう風にすればいい? 自分も、昔似たようなことやらされた記憶があるんだが……」
『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は、居合わせていた祖母のニーヴァに迷う事なく相談する。
「考える事は何処も同じって事さ。とりあえずラダが詳しい事を教えてやると良い。そして、上手くいったらよーく褒めてやる。それが私のやり方さ」
頼り甲斐のある言葉だが、ラダにとっては自分が何を教えるべきかというのは悩ましい。
「リリーお姉ちゃん! えっとね、えっとね、今から向かうのは」
「わたしはリリーじゃなくてライで……」
『リトルの皆は友達!』リトル・リリー(p3p000955)の姉妹であるライが、何やら押し問答を仕掛けられてた。狼(?)のルー、馬のカヤを統制しながら、ドゥーにせわしなく顔見知りのように話しかけられている。ドゥーと接していて分かったが、見た目以上にパワフルだ。子育ての経験が無いイレギュラーズにとっては中々に負担が激しい。
「ったく。あんな顔してたから思わず受けちまったが、先生役とか不向きにも程がある」
その光景を目にして、この依頼は向いていないとこぼす『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)。『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)が言葉を返した。
「難しい事はないわ。この弱肉強食の混沌世界を生き抜くために大事なことを教えてあげればいいのよ」
そう胸を張る彼女がドゥーと同じ世代に見えるのは世界の気のせいか。
いちいち突っ込むと一部の仲間と喧嘩になると、世界は明後日の方を向いて苦笑いする。
「とりあえずなんかこう……適当に大事な事を教えてさっさと終わらせよう」
そう考えをまとめて、パワフル幼女の方に目をやった。
「わーっ、こっちの動物さんとわんこさんはどなた!?!」
「あっははは! こいつはパカおに、この人はオレの友達! ダディ・ドギィだよー!」
キラキラした目するドゥーに、彼らを紹介する『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)。
「こんにちは! パカおさんに、ドギィさん!」
「やぁ、こんにちは小さな子。料理も必要だと聞いて、ご馳走を作りにきたんだ」
ご馳走と聞いて不思議がるドゥー。ドギィは返答に困った。
「リトル。お兄ちゃんと手でも繋ぐかい?」
助け船とばかりに『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)がドゥーに話しかけた。
「うん!」
素直に手を繋ぐドゥー。話題が逸れて、皆はほっと息をする。
「……ったく。キャラバンの子供の世話ときたか。仕事に文句はねぇが、怖がられなきゃ良いんだがな」
『灰色の残火』グリジオ・V・ヴェール(p3p009240)は溜息をついた。依頼を受ける際にも難しい顔をしていたせいか、その時にドゥーに泣き出しそうな顔で見上げられていた事を思い返す。
『安心して。既に怖がられているのだわ』
『もはや万事尽くそうが手遅れだわ』
周囲を飛び交う双子姫達にそう囁かれた。グリジオからすれば一言言い返してやりたいが、そんな事をすればドゥーからもっと怖がられるに違いない。
「あはは、今回の依頼人は随分と初々しいですねえ……」
グリジオの心中を察し、苦笑するように言葉を漏らす『デザート・ワン・ステップ』アレクサンドラ・スターレット(p3p008233)。
「アンタも、ジグリの嬢ちゃんみたいにおつかいを頼まれたりしたのかい」
「全く同じというわけではないですが、昔を思い出します……なんて、私はこんなに立派じゃなかったような気もしますけど……」
アレクサンドラは乾いた笑いを浮かべた。グリジオは「立派ねぇ」と怪訝そうにしながら、馬車に乗り込んだドゥーの方を見る。
「はいやー! キャラバンの皆を救う為に全速前進だぁー!」
「ちょっと、ドゥー……そんな事したら皆が取り残されるよ」
イレギュラーズの何人か馬車に乗り込んでない内に、意気揚々と手綱を握って発進させようとしている姿が見えた。
『また怖い顔をしているのだわ』
●
「長! イレギュラーズさん連れてきたよ!」
街から離れてキャラバンの元に辿り着いたのはすぐだった。
「あぁ、よくやったよドゥー。お前はキャラバンを救ってくれた」
威張ったように胸を張るドゥー。キャラバンの若人やイレギュラーズの何人かがそれをみて微笑ましさ、あるいは滑稽さのあまり噴き出した。
「笑っちゃいけないよ。あの子にとっては大役さ」
ニーヴァが笑った者を小声でたしなめた。キャラバンの長も若人を同じようにたしなめている様子が窺える。幼子に対する感性は何処でも同じか。
表情が崩れそうになるのをこらえながら、真面目な面持ちで長の前に歩み出るアレクサンドラ。
「ご依頼は動物の世話と伺っております」
「そうだ。担当している者達が傷病に罹った、という体でな。群れがいるこちらに」
そのような短いやり取りで、動物がいる場所に案内された
「いや、絶対割りに合わねぇ」
家畜の群れを見た途端、世界がそう声を漏らした。彼の出身である現代日本では畜舎、囲いがある放牧地で動物を世話している事が多い。
しかし遊牧においては動物の逃走を防ぐ囲いを設けている余裕がない。このキャラバンは『放し飼い』だ。
世界の頭の中では、動物達が方々に散って帰ってこなくなる光景が浮かんだ。
――いいかリトル、こういうのに大事なのは動物への愛情とか優しさなんかじゃない。いかに効率よく手を抜き、事を為していくかだ。
そう言って思わず動物の世話を辞退したくなる。
「へえ、ドゥーさんも同じ動物好きなんだねっ。それじゃあ、一杯お世話しなきゃ!」
「リリーお姉ちゃんと頑張ってお世話するよー!!」
張り切って動物達の元に突進していく十歳リトル、小人リトル。妹リトル。そのリトル達の後ろを洸汰がパカお達を引き連れていった。
「……まぁ、俺が直接世話しなくても大丈夫だろう。たぶん」
年長者組のイレギュラーズ達は、仲間内で畜産経験の有無について話し合っていた。
「家業の関係で経験はありますとも。ですが……」
アレクサンドラは全て自分達がやってのけてはドゥーの訓練になるまいと言う。ラダやグリジオ達も同じ考えのようで。ドギィやニーヴァも一様に頷いた。
「世話道具の扱いに回ろう。ピッチフォークは特にな」
「然りだ。使うとしても俺達がやろう。子供に持たせると危なっかしくて敵わん」
『とか言って、怪我しないか心配してるのだわ』
双子姫の言葉を聞こえないフリをした。
ピッチフォーク、熊手。干草や農作物の運搬によく使う。本来は農具だが、槍に近い形状もあって魔物が跋扈する混沌世界では農民が自衛用の武器とするのも珍しくない。
「……自衛も教えておくべきか?」
魔物や盗賊にキャラバンが襲われるというのは当然有り得る。年長者達がそのような事を考えていると、動物を世話している年少組から大声が聞こえた。
「わぁ、わぁ!! だめだよ! リリーお姉ちゃん潰れちゃうよ!」
「ぐ、ぐるし……」
リトル・リリーに酷く懐いた子羊が彼女に熱烈な頬ずりをして騒ぎになっていた。彼女達の言葉が通じるせいか、周囲の動物達もそれ心配する形で寄って集ってきている。
百三十センチと三十センチ程度の彼女達が二桁に及ぶ動物に囲まれている光景は、押し潰されないかハラハラする。
「……それは後で考えるか」
「そうだな」
年長者組も急ぎ足でその場に加わる事にした。
●
「まずはだな、パカダクラやロリババァのブラッシングはこういう風に――」
「私達のように意思の疎通が出来るなら、大人しくしてもらう事も容易いわ」
「ふむふむ」
遠巻きに眺めていた世界含めたイレギュラーズ総出でなんとか事態を収め、洸汰やメリーの指導のもとに動物の洗い方を学び始めた。
「お兄ちゃん、言葉が分からないのにちゃんと洗えて凄いねぇ」
ドゥーは洸汰の指導を素直に感心していた。
「へへっ。こーゆー風に、皆を大事に、気をつけて見てあげれば……皆と長く長く暮らせる。その為にも、皆のお世話はサボっちゃだめだぞ」
「うん!!!」
彼の言葉に元気よく頷くドゥー。馬のカヤに跨がったリリーがやってきた。
「ホースさんって子達の体がかゆい原因わかったよー!」
もちろん、言葉が通じれば利点はある。その一つが病理診断しやすい事だ。リリーはライに炎症止めの薬調達を頼んだ。
「リリーお姉ちゃんもありがとぉー!! でも、疲れてない? 大丈夫?」
「そんなに相手して疲れないか、って? 大丈夫、これ位一杯の犬猫の相手よりは楽っ……」
なんか先の子羊にまた押し潰されかけているリリー。
「リトル、お兄ちゃんが代わるよ。おにぎり持ってきたから、あれ食べて少し休んでて」
狼のルーと共同で子羊を牽制していると、アルヴァが気を遣って彼女達に交代を申し出た。
「アルバお兄ちゃんありがとう。でも、大丈夫だよ。これくら」
ぐう。
リトル達の腹が盛大に鳴った。
「偉いねリトルは。でも、食事を取る事も仕事の一つだよ。さあ、リリーお姉ちゃんと一緒にいってらっしゃい」
彼女らは少し照れるように微笑んで、食事が用意されている方に退散した。苦笑するアルヴァは、動物達の方に向き直って慣れない手つきで世話をこなしていった。
食事に向かう途中、ドゥーはイレギュラーズの年長者組と鉢合わせた。
『ほら、そんな怖い顔しないで』
『仲直りする良い機会なのだわ』
グリジオは何か言いたくなるも、目の前の少女が自分の顔を見て泣き出しそうな顔をしているから言葉に詰まる。
「あ、あはは。そんなにこの人のお顔が怖い?」
グリジオと一緒に運搬作業をしていたアレクサンドラが仲介に入る。ドゥーはぶんぶんと首を横に振った。
「お怪我、大丈夫……?」
グリジオは顔左半分に手を当てる。成る程、この傷痕を心配されていたわけか。それで得心し、ひとまずしゃがみ込んでドゥーと視線を合わせる。
「若い頃に無茶した痕だ。傷はとっくに治ってるさ」
失明している事は伏せて、そういう言葉で彼女を安心させた。
「……フォークでそんな怪我しちゃった?」
ドゥーはグリジオが携えた熊手を指さしてそう言った。真剣に尋ねるから、後ろのラダ達もくすくすと笑い始めた。
●
「実際、これは決して振り回していいものじゃない。周囲に人や動物が居ないかを確かめてだな」
皆でアルヴァやドギィが用意したものを食べながら、農具の取り扱い方や馬に荷物を運ばせる技術を学び始めた。
「重心のバランスを取れば負担は少なくなる。怪我をしないためにもまずは慌てない事だな」
「ドー、そういうのは得意だよ! だって言葉が分かるもん!!」
グリジオはそれを聞いてフッと笑いを浮かべながら頷いた。
「優しく素直に接すれば相手は応える。お前さんなら大丈夫だろうさ」
「うん! 今からでもやれるよ」
得意分野については自慢したいのだろうか。アルヴァやリリーの馬を用いてそれらを披露させる事にした。
「よし、えぇっと。今から荷物載せるよ……っ」
馬と意思疎通してどうにか積載作業を行おうとするが……。
「手伝おうか?」
男衆が助力を申し出るが、ドゥーは首を振った。とはいえ、背丈が足りない。
「まったく」
グリジオは埒があかないとみて、ドゥーを支える形で抱きかかえてやった。彼女はぷるぷると腕を震わせながら馬に託す。
「あ、ありがとーございます!」
「冷静になれば道は見える。一人で無茶をするな。誰に頼ったって何に頼ったって良い。事故でも事件でも、何事も状況判断が大事だ。落ち着いて、必要なことは簡潔に頭の中で纏めろ」
彼女も自分の背丈が少し足りない事をようやく認め、わざとらしく「デヘヘ」と頭を掻いた。
「あの子も嫌がらなかったね。嬢ちゃんなら犬を使って追い立てる事も出来るだろうさ」
「それならリリーも馬の使い方教えてあげるよ!」
「うん、お母さんがよくやってたけど……具体的にどうやるの?」
その方法を説明するニーヴァ。久々の教育に興が乗ったのか詳細な話、ついに実践になってまで及んで、彼女達は動物達と共に練習の一環として草原を走り回り始めた。
「急がずゆっくりでいい。少し間違えたって大丈夫だとも」
そうして小人や十歳児と一緒に汗だくになって帰って来た祖母を、ラダはびっくりしたような顔で見つめた。
「婆様、あまりムリするものでは」
「いやはや、教え甲斐のある子だったから、ついね」
「リリーもうヘトヘト……」
「ドーはまだいけるよー!!」
笑顔でそう言い切る彼女に、何人か真顔になった。
「今日はいっぱい仕事したからな、羽を伸ばしていーっぱい遊ぼうぜ! ってー訳で! 野球!」
「やるやるー! ボールぶん殴って遠くに飛ばすヤツだよね」
真顔になっていた一同がほっと胸をなで下ろす。
彼らの教育や運動を眺めて、世界は「自分も何か教えるべきだよなぁ」と考え込む。そして、閃いた。
「野球が終わったら一旦休憩だ」
「え、やきゅー終わってもまだまだいけるよ」
「学ぶことは大いに素晴らしい! ……だがな、いくら詰め込んだって人間一度に覚えられることは多くない」
実際、彼女の様子を窺うに限界に近い体を無理矢理動かしているのだろう。子供はその限界をよく知らぬ。それさえムリになると、今度は体が痛いと嘆き始める。
「いいか、俺くらいの年になったらそんな運動を続けると翌日になって筋肉痛で寝込むんだ。……休む事を覚える為に、それからしばらくは自由時間だ!」
世界の真剣味を帯びたその言い方に、ドゥーは素直に「はーい!」と手をあげた。
年長者数名は、世界の言葉に翌日の事を悩んでいるとも知らず。
●
「――私達は余所者としてその土地へ行く。敬意と愛想は忘れないように。挨拶に愛想、言葉遣い。それと――」
「幻想なら貴族に逆らわないとかね。あとは天義では宗教的なタブーとか……」
休憩の傍ら。ドゥーに知識をせがまれて、放浪の民に役立つ概念的な物事を授けるラダ。アレクサンドラの方は、具体的に「この国ではこれをやっちゃいけない」という事を補足した。
「……難しそうだー」
「最初は慣れなくても場数を踏めばじきに板につくさ。私達相手に練習してもいいさ。
練習中は何度間違えたっていいんだから、お得だよ」
「うん、無事に取引出来たらお菓子をあげるよ!」
その言葉に、耳聡く反応するドゥー。
「なら練習する! 私は、交易にやってきたキャラバンの役をするね!」
二人は昔を思い返し、ドゥーの笑顔に面映ゆく感じながらもその相手役を快く了承した。
基本的な礼儀作法や挨拶を終えてから、無難に商品の取引を始める。
「えーっと、これと、あとこれを売りたいんです」
ドゥーは鞄から布を取り出した。
布?
?????
ラダとアレクサンドラ、それを見守っていた全員が公に口にするのも憚られるソレをみて数秒硬直する。
「いや、うん? なんでこれ売ろうとしてるの??」
「え、さっきアルバお兄ちゃんが宝石の値段で売れるって教えてくれて……」
女性陣一同がギュルリとアルヴァの方に振り返ると、逃げだそうとしている彼を目撃した。
「…………アルヴァ、ちょっと、聞きたい事があるから、こい」
時間は少し遡る。
「そういえば、鹿に蹴られて大怪我をしたことがあるって言ってたね」
「うん。近づいたら蹴られて、パカー、って割れて」
動物は見た目の可愛らしさに反して、想像もつかない怪力を持つ。幼子だからこそ把握してないのも分かるが、ルメスの民はそれは命取りに直結する。特に、このキャラバンは動物の世話が日常の遊牧民だ。
「僕が教えることができるのは、身を守る術。けど、これだけでも」
アルヴァは衣服を少し脱いで、装備していた鎖帷子や暗器を見せた。
ドゥーはそれらを見てキラキラと目を光らせる。
「ぱんつ!」
そのうち、アルヴァの懐に収められた女性モノの下着を見つけた。
「リトルは闇市に時々行ってたよね」
「うん!」
「宝石が高く売れるのは知ってると思うけど、これは同額で売れるんだ。こっちのは売れないから注意」
「わかった!」
「……決して如何わしい事を教えていたわけではないんですよ……」
裁判じみた始まりをした宴会にて、簀巻きにされているアルヴァ。
「ま、まぁまぁ。破廉恥な事はしてなかったとドゥーちゃんは証言しているし……」
「……そういう事を教えておくのも混沌ではダイジダトオモウヨ?」
周囲を宥める男性陣。一方で女性陣の目は険しかった。
「……リリーもちょっとどうかと思うなー……」
「子供にあんな事を教え込むなんて庇うに値しないわ」
「ねーねー、パサジール・ルメスの人って、いつもはどんなの食べてんの? お祝いなんかの時には何食うのー?」
「んーっとねー。普段食べない野菜があるの。大人は乳酒いっぱい飲んで……」
ドゥー含めた若人組は少し離れた位置で飲み食いを始めている。グリジオは「藪蛇だ」と裁判から離れ、その場に避難した。
「あとは。大人が御伽噺するの!」
「ム?」
来て早々に話を振られた。御伽噺といわれても……。
『ワタシタチを語るに打って付けだわ?』
「あー……」
実際その通りだ。両手の腕輪を見ながら、彼はぽつりぽつりと口にする。
「イレギュラーズして早々……新たに発見された地でそこを護る神様とやらと対峙した。因縁のあるコイツ等のおもりみたいなもんだったが」
グリジオは当時を思い返し、見た事そのままに語っていった。
『まあ、わたしたちが悪いみたいな言い方なのだわ』
『お人好しのくせに優しくないのだわ』
間違ってないだろう。グリジオは彼女達の言い分を聞き流そうとする。
「そうかなー、おじちゃんは優しい人だと思うよー」
グリジオは驚いた表情をした。双子姫の言葉は人ならざる者との親和性に長けた者しか聞こえぬはず。
「成る程。そうか、そうか。幼子が精霊と出会う御伽噺も存外バカにならんな」
民話の類に合点がいって愉快そうにするグリジオ。気をよくした彼は、他の者にも御話を促した。
「念願の三つ目の領地を手に入れたわ! 褒めろ! 祝え!」
「そういう話でもいいのか?! じゃあ練達で旅人を集めて、その人の住んでた元の世界をなんかすっげー機械で映し出して……」
「練達……じゃあ海洋で起こった海の戦いの話をしよっか!」
口々に、自分達が体験した事を話し合う。異世界の人種で構成された国がある。海で龍種と出会った。『風見鶏』と呼ばれる英傑の武勇伝。姉に恋人が出来た。
「じゃあ私は孫の自慢話でもしようかね」
「婆様っ……!」
「冗談さ。この世界には変わった動物がいる。まず――」
ニーヴァは混沌世界における生態系について言及した。他の者も見た事ある生物から、存在が疑わしい伝説上の生物まで。
「私はその生物を狩る仕事をする事もある。ドゥーは海を見た事はあるかい?」
「うん! あのおっきな湖でしょ?」
大人達の笑い声が漏れた。ラダも笑いながら聞き流して、リリーと同様に龍種を討伐した事を語る。
「龍が居なくなったから、ドゥーが大きくなる頃は海の向こうにいける船が出来るかもしれない」
「冒険譚。いいですねぇ! ならとっておき。境界世界で大きい嵐を纏った骸骨『冬将軍』に、『ハイカラ』さんたちが立ち向かい戦いの末に春を取り戻したお話です!」
「境界世界?」
「リトルは境界世界って知っているかい。迷宮の奥地にある世界でね。ネズミさんになっちゃったことがあるんだけど……」
ドゥーは体格の大きいグリジオの膝に座り込んで、「ふんふん」と彼らの『御伽噺』を聞きいる。いつの間にかキャラバンの若人達も聴衆となり彼らを囲んでいた。
「……うーむ、武勇伝とかそこら辺は他の人と被る気がするな」
大袈裟な場になりつつあった宴会を遠巻きに見つめながら思い悩む世界。チーズケーキの材料求め、語尾が「ウホ」となる話などしていいものか。
「イレギュラーズ殿。我々もどうぞ輪に加わりましょうか」
「あ、長」
「どうもありがとうございます。我が民の教育に付き合って下さって」
世界は冷や汗を掻いた。イレギュラーズの中で一番教育らしい教育をしていないと自覚している。
「俺は何もそれらしい事は……」
長はその自嘲を制止するように首を振った。
「貴方が仰ったように体調管理も、ルメスにとっては欠かせぬ事なのです。あの子は、よく無理をしすぎるきらいがありましたゆえ……」
世界は乾いた笑いを浮かべた。自分はサボり半分で言った事だったが。
エネルギーが切れて、グリジオの膝を枕に寝入りかけているドゥー。意識が落ちる前に、やはり彼も若人達に聞かせる御伽噺をせがまれるのであった……。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
依頼お疲れ様でした。
GMコメント
●目標
・一日の間、動物の世話とドゥーの教育に付き合う。
ドゥーの教育については「動物の世話」に限らず、『イレギュラーズ殿の得意な事を教え込んで欲しい』との事。
●ロケーション
幻想近隣の草原地帯。順調に行けば昼にキャラバンの野営地に到着し、夜までには依頼された動物の世話や『教育』は終わるでしょう。
ここで行われる事はおおよそ以下三つ。
・世話パート
キャラバンは羊だとか、馬やパカクラダだとか、一般的な家畜を引き連れています。
全部合わせて種別問わず数十匹程度をおり、基本的な世話(ブラッシングや餌やり、体長や群の管理など)をドゥーと一緒に行う予定
イレギュラーズさんが動物の知識がおありになれば彼女に教え込むだとか、力仕事が得意ならそれをやってのけるだとかいう事も考えられます。
はぐれかけた仔羊を犬と共に追いかけ、馬に人やモノを乗せる事に慣れさせ、餌になる草があるところへパカクラダを誘導し……。
動物の世話とは、いつも重労働です。
・教育パート
動物の世話係を交代し、今度はイレギュラーズさんが得意とする事をドゥーに教え込むように頼まれています。
戦闘が得意なら剣術や魔術などは人並み以上に教えられるかもしれません。
算術や美術など、知識的な事がお得意なら勉学の講師として務めるのもいいでしょう。
話術や礼儀作法に関する、交易や依頼においてそういうも重宝します。
なんにしたって、混沌世界を生きる十歳児にとって無駄な知識なんてありません。
・宴会パート
夜を迎えた後は、送迎会という体でキャラバンが所持する食料を使って飲めや歌えやの宴会を開いてくれるとの事。
各地の酒もたんまりあるし、交易品の中には食材もあるから、それらを使って料理をしたりするのもいいでしょう。
それを片手に、イレギュラーズさんやローレットの冒険譚をドゥーから色々をせがまれるはずです。
異世界はこういう所だった。大盗賊砂蠍をやっつけた。海の向こうに島を見つけた。大号令に参加した。妖怪をやっつけた……。
これに限らず、自分達の一番の思い出話や冒険譚を彼女に話してやるとよいでしょう。
●NPC
『動物好きの』リトル・ドゥー(p3n000176)
混沌の少数勢力パサジール・ルメスの子供。ギフトは『動物と簡単な会話出来る』。
動物が大好き。人と関わるのも大好き。元気いっぱいの女の子。
最近になって現地の人との交易や情報交換などに参加させてもらえるようになった様子。
しかし体力面でも精神面でも、知識面でもまだまだ未熟。パサジール・ルメスの民としての人生は、まさにこれからなのです。
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