シナリオ詳細
“ソレ”と“ナニカ”。或いは、密林の王者に育てられし猫…。
オープニング
●復讐を胸に誓って
父は胸を貫かれて息絶えた。
母は頭部を踏み潰された。
兄たちは、私を守るため次々と“ソレ”の餌食となった。
そんな幼い日の記憶。
小さな身体で“ソレ”に打ち勝つことは出来ない。
父や母や兄たちは、立派な身体に鋭い爪や牙を供えた猛獣だった。
空気を震わす咆吼は、遙か遠くの野鳥たちさえ恐怖させたものである。
広い森に1人きり。
目の前で家族を殺められ、以来数年、私は1人で生きてきた。
家族を殺めた“ソレ”と遭遇し、泣きながら逃げ出したことも1度や2度ではない。
身体が育ち、爪や牙が生え揃い、力を得なければ私はそれに勝てないだろう。
今のままでソレに挑むということは、無残に死にに行くようなものだ。
家族たちの仇も討たず、死んでしまうわけにはいかない。
一矢も報いず息絶えるなど、命を賭して生かしてくれた家族への侮辱だ。
仇は討つ。
その上で、生き延びなければならない。
だと、言うのに……。
「にゃぁぉ」
木の根の間で猫が鳴く。
オレンジがかった体毛に、焦げ茶のラインが走った雌のトラ猫。
数年前に森に捨てられ、虎の親子に拾われた……紛う事なき“猫”である。
正しくは“ケットシー”という、通常の猫よりも寿命が長く、そして賢い魔物であるが。
彼女が憧れた父や母や兄たちのような立派な虎には、何年経とうが至れはしない。
●眠れぬ夜を越えた先
「鋭い爪や牙を備えてはいるものの……それは“猫にしては”という話だからな」
鼠や小鳥はどうにかなっても“ソレ”とやらを相手取るには分が悪い。
難しい顔をして『黒猫の』ショウ(p3n000005)はそう呟いた。
「その猫の存在や事の経緯を知ったのは偶然だが……現状“ソレ”について最も詳しい情報を持っているのはきっとその猫だ」
ショウの言う“ソレ”とは森に巣食う正体不明の怪物だ。
黒い触手に覆われた、猿にも似た怪物だという。
体長はおよそ1メートルほど。
森で狩った獣たちを、せっせとどこかへ運んでいるそうだ。
「得物を運んでいる先には“ソレ”の親がいるらしいな。休眠状態にある親に、餌を運んでいるんだろう」
そして近く“ソレ”の親が目覚める予兆があるそうだ。
そうなってしまえば、猫による復讐は難しくなる。
ともすると、森中の獣が食い尽くされる惨事が引き起こされるかもしれない。
「ソレの攻撃は【乱れ】【流血】【麻痺】などを備えている。親の場合は【体勢不利】【失血】【石化】だな」
予想される親のサイズは3メートル超えとなかなかの巨体だ。
体躯の分、膂力なども強化されているだろう。
「と、色々言ったが……親の隠れ家は不明だ」
猫なら知っているかも知れない。
或いは、得物を狩った“ソレ”の後を追いかけるという手もあるか。
「このまま放置というわけにもいかないだろう。すまないが、猫と強力して“ソレ”らを討伐してきてほしい」
- “ソレ”と“ナニカ”。或いは、密林の王者に育てられし猫…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年11月28日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●仇討つトラ猫
薄暗い森の奥深く。
1匹のトラ猫と奇妙な怪物が相対していた。
毛を逆立たせ、唸り声をあげるトラ猫の身体は小さい。対する怪物は背丈1メートルほど。黒い触手のような体毛を備えた、猿のような怪物であった。
うねる体毛の合間に覗く大きな口。鋭い牙と、零れる唾液。
トラ猫を見て“ソレ”はにぃと笑ったようだ。
トラ猫が振るった爪を、ソレは触手で絡めとる。
小さな身体を宙に吊り上げ、ソレはトラ猫をじぃと眺めた。
『みゃぁぁぁっ!!』
暴れる猫の鋭い爪がソレの顔面に突き刺さる。けれど、所詮は小さな猫の爪。いかに鋭かろうと、ソレにダメージを与えるほどの傷はつけられない。
『ギャギャっ』
もがくトラ猫を嗜虐的に見据えたソレは、ゆっくりとその小さな額に手を近づける。
『ギャウ!!』
バチン、と。
ソレは猫の額を指で弾いた。
割れた額に血が滲む。
ぐったりとしたその体を持ち上げ、ソレは大きく口を開いた。捕らえた獲物を親の元へと運ぶという役割を持つソレではあるが、猫の1匹程度であれば摘まみ食いしても構わないということだろう。
『ギャァオ!』
喉を鳴らし、ソレは吠えた。
ソレの牙が、猫の皮膚に突き立つ寸前……。
「っと、無理をするでない。家族の仇を取りたい気持ちは分かるが……猫殿にとって大切なのは生き延びる事であろう?」
草木を蹴散らし駆け込んできた『新たな可能性』久泉 清鷹(p3p008726)が太刀を一閃。
ソレの指を切り飛ばす。
「生き延びて親より長生きをする事が何よりも供養になる。猫殿の仇は私達で必ず果たすので大船に乗ったつもりで任されよ!」
宙に投げ出された猫を一瞥。
清鷹は返す刀でソレの眉間を斬り裂いた。
仰け反り、背後へ跳び退るソレを清鷹は追う。
宙に投げ出されたトラ猫は『猫神様の気まぐれ』バスティス・ナイア(p3p008666)が受け止める。
「心の内の爪を研ぎ、牙を突き立てんとする我が子らの内の一よ。君の願いを叶えて差し上げよう」
暖かな腕に抱かれて、猫は薄く目を開けた。
そこにいたのは、褐色肌の人……否、現猫神だ。一瞬、自分は命を落として天に召されたのかと錯覚した。
と、そんな猫を覗き込む……猫。
「猫はんのこと、何やか他人事には思えまへん。せにゃから、この小さいみ猫の手でも、お力になれるんやったら、いくらでも使うてええからね」
艶やかな毛並みの黒い猫。『舞猫』狗尾草 み猫(p3p001077)が頭を撫でるその手付きから、猫は思わず今は亡き母を想起した。
「おいお前、奴を倒したいんだろう? なら俺の言う事を聞け」
そう告げたのは『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)だ。
彼が猫に手を翳すと、その身を淡い光が包む。
全身に走る痛みが薄れ、額に負った傷が癒えた。初めての感覚に猫は困惑の表情を浮かべる。そんな猫に向け、世界は言った。
「まず俺の間合いから外れるな。そうすれば俺が倒れるまでお前の生を保証してやる。そして勝てない所で勝負をするな。力で劣っていてもお前には優れた知性がある。知恵を絞り出してみろ」
「そうしたら、最後のトドメ……のひとつ前の一撃ぐらいは入れさせてあげるわ」
バスティスの腕の中で体勢を変えた猫に向け、『守護竜』マリア・ドレイク(p3p008696)がそう告げる。
その手に握ったライフルを、マリアはまっすぐソレの眉間へと向ける。
鳴り響く銃声。
飛び散る火花と硝煙の臭い。
猫は驚き、全身の毛を逆立てた。
そんな猫の様子を一瞥し『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)はふっと微笑む。
「驚いている暇はないぞ。さぁ、猿似の化け物……首でも落としてみるか」
低く飛ぶ燕のごとく汰磨羈はソレとの距離を詰める。
背負うように構えた大太刀を上段から一閃。それの腕を切り落とす。切断された触手の破片が飛び散る中を、『ひだまりうさぎ』コゼット(p3p002755)が駆け抜けた。
「うん。あたしたち、黒い猿みたいなのやっつけにきたんだ。いっしょにあいつやっつけようよ」
彼女の言葉は不思議と猫の心に響く。スキル【動物疎通】の効果であろう。
清鷹、そして汰磨羈の刀がそれの胸部に十字の傷を刻み込む。
ソレは雄叫びをあげながらも、汰磨羈に向けて腕を伸ばした。その身を覆う黒い触手が、汰磨羈の肩から胸にかけて絡みつき、その白い肌に突き刺さる。
「ぬぅ……なかなか頑丈だな。私を喰う気か?」
「みゃー!!」
顔を歪めた汰磨羈を見て、悲鳴をあげたのは猫だった。猫の脳裏に過った記憶……それは、かつて自分を守り死んでいった親兄弟の姿であった。
汰磨羈を助けるべく、バスティスの腕から飛び出した猫だが……。
「それが自然の掟といわれればそうなのでしょうけれどね」
『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)が猫を制止し、駆けだした。その身より展開される無数の茨がソレの身体を巻き付き絞める。
迎撃のためにソレは腕を掲げたが……。
『ギャ!?』
痺れた身体は思うように動かない。
「虎に育てられた猫が魔物に殺された虎の敵討ち。その意気や良し!」
「お前の技は中々に厄介だ。決まれば奴らに大打撃を与えられる」
バスティス、そして世界の言葉が猫の背を押した。
駆け出す猫の首を掴み、マリアはその身をソレに向けて投げ飛ばす。
「にゃっ!!」
「だいじょうぶ……安心して、切り裂いてあげなよ」
猫を追って跳んだコゼット。
彼女の放った足刀がソレの顎を蹴り抜いた。よろけるソレの脳天目掛け、猫の爪が振り下ろされる。
【虎爪斬獲】
それはかつて、育ての親であった虎が使っていた技だ。猫の小さな身体では、親ほどの威力は出せないが……。
「親の仇やもんねぇ……一発あれにかましたらんと、許せへんよね」
み猫の放った光の柱がソレの身体を飲み込んだ。
付与された【恍惚】により与えられるダメージは膨大。身を悶えさせ、絶叫を零し、ソレは息絶え、地に伏した。
●猫の名は…
樹木の根元に座り込み、トラ猫は数刻前の出来事を思い出す。
親の仇であるソレを、人間たちの協力により討つことができた。一部、人かどうか怪しい者もいたけれど……彼女たちのおかげで、仇討は無事に終わりを迎えた。
「みゃぁ……」
じぃとうずくまったまま、猫は思う。
親兄弟の仇討のためだけに生きて来た。
それが叶った瞬間の晴れやかな気持ちは忘れえない。
けれど、しかし……。
これから自分はどうしよう。
生きる目的を失った猫の脳裏に、彼女たちの顔が浮かんだ。
白い少女は自分のことを“タマ”と呼んだ。
母に似た雰囲気を持つ猫獣人は自分に“りんこ”の名をくれた。
兎の少女は“ガオリン”と。
白き猫武者は“小虎”と。
神々しさを感じる彼女は“ナミル”と。
黒き髪の女性は“コネクト”と。
次々と名前の候補を出す女性陣を見ながら、髪を掻いていた者がいた。
笑って「猫殿の好きな名を選ばれよ」と告げた男がいた。
そんな彼ら彼女らは、ソレの親とやらを討ちに向かった。
「みゃぁ……」
願わくば……。
優しく強い……親や兄弟たちに似た者たちが、無事に帰ってきてほしい。
そして、もう一度。
もう一度、私を撫でて、私の“名前”を呼んでほしい。
ソレの最後の雄叫びは、眠る“ナニカ”を起こしたようだ。
巣穴としていた木を倒し、立ち上がったそれの背丈は3メートルを超えている。空気を震わす咆哮と、全方位に向け解き放たれる触手の濁流。
地を這うそれの合間を駆け抜け、コゼットはナニカの懐へ潜る。放たれた足刀は正しくナニカの首を打ち抜いた。
返って来たのは粘土でも蹴ったみたいな鈍い衝撃。
触手の奥の赤い瞳を僅かに細め、ナニカは再度雄叫びをあげた。
「う……」
咆哮を浴びせられたコゼットは、顔を歪めて姿勢を崩した。
その胸部を触手が強く殴打する。
後方へ飛んだコゼットを、世界が慌てて受け止める。
「さすがにBSが厄介だな」
強打された胸を中心に、コゼットの身体が石化していく。その様子を見て、世界は唸った。
発動した【クェーサーアナライズ】により【石化】を解除しながらも、世界はナニカの様子を伺う。
敵は1体。
手数ならこちらが上回っているのだから、隙を突けないはずはないのだ。
「まだ、やれる……がんばるよ」
回避能力に限ってみれば、此度の任務で最も高い数値を誇るのはコゼットだ。数多の触手を避けながら、ナニカに一撃をくれてやるべくコゼットは再度駆けだした。
触手が大地を黒に染めた。
蠢き、のたうつ触手に削られた汰磨羈の脇から血が散った。
鞭のようにしなる触手を太刀で斬り捨て、汰磨羈は1歩前へと進む。
「小虎が言うには、ずっと眠っていそうだが……どうやら寝起きが良いタイプらしいな」
「こんなのを放置しておけば、森の平穏が乱されて適わんな」
風を纏った刀を振り抜き、清鷹はくっくと肩を揺らした。
猫の復讐は無事に遂げたが、こんな怪物を放置しておくことは出来ない。この森で今後も暮らす猫のためにも、ナニカはここで討伐しなければならないと決意も新たに清鷹は刀を握る手に力を込めた。
斬撃、刺突、時には体術さえ織り交ぜて眼前に迫る触手を切り刻む。
そうして空けた空間を、跳ねるようにコゼットが抜けた。
『ギィィャウ!』
触手の一部がコゼットを追う。
しかし、それは間に割り込むヴァイスがその身で受け止めた。
付与による加速と、展開した茨。
飛び散った血でヴァイスの白い髪が朱に濡れた。
「おさるさん、でいいのかしら? 弱肉強食なの、わかるでしょう?」
口元を血で濡らしたヴァイスが、そう呟いた、その直後。
コゼットの放った蹴りが、ナニカの顔面を打ち抜いた。
地面を蹴って、宙に舞う。
くるりと身体を回転させて、迫る触手を回避した。
ナニカの注意がコゼットに向いたその隙に、マリアは地面を蹴って跳ぶ。
その様はまるで蒼い流星。
「邪魔はさせへんよ?」
マリアの進路を阻む触手は、み猫の放つ魔力の柱が焼き尽くす。
燃える魔柱の間を抜けて、迫るマリアはナニカの腹部に激しい殴打を叩き込む。
触手に削られ、裂けた腹から血が滲む。
腹部を抑えた清鷹の身に淡い燐光が降り注いだ。
「傷は平気? ナミルのためにも、こんなところで倒れてちゃだめだよ?」
そう告げるバスティスの口元には緩やかな笑み。
絶え間なく繰り出される触手によって、後衛を務めるバスティスやみ猫もダメージを負っている状態だ。
額から血を流すバスティスだが、その瞳には戦意の炎が見て取れた。
傷など、痛みなど、猫の孤独と悲しみを思えば何てことない。
小さな身体であの猫は勇敢に戦ったのだ。
ならばこそ……。
「あぁ。そう簡単には倒れられんさ」
「うん。負けてられへんねぇ」
清鷹へ向け迫る触手を魔弾で払い、み猫ははんなりと笑う。
「よし! その意気だよ!」
2人の言葉に満足げな頷きを返し、バスティスは視線を汰磨羈へ向けた。
血と土埃に塗れながらも、大太刀を振るう彼女の姿は、まさに武者のそれである。
●王者の矜持
生い茂る木々に、増殖する触手の津波。
回避し、防御し、押し流されたその結果、世界は仲間と分断された。
孤立した世界の方へ、ナニカはじっとりとした視線を向ける。世界の背筋に走る悪寒が、反射的にその体を突き動かした。
踵を返し後退するか……否、間に合わない。
「ちっ」
素早く虚空に白蛇の陣を描いた世界は、そこに魔力を注ぎ込む。
疑似的な生命を得た白蛇が、襲い来る触手を迎え撃つ。白と黒とが絡み合うこと数秒間……押し負けたのは白蛇だった。
しゅるり、と迫る黒い触手が世界の喉へと突き刺さる……その直前。
「みゃぁお!!」
ナニカの顔に目掛けて跳んだ小さな影。
一閃。
鋭い爪に落下の勢いを乗せた斬撃が、ナニカの片目を深く抉った。
考えるよりもまず先に、世界と、そしてみ猫が駆け出した。
瞳を抉られ、痛みに悶えるナニカの眼前。毛を逆立てて威嚇の姿勢をとる猫がいた。
ナニカの怒りの矛先は、その瞬間、すべてが猫に注がれる。
後方へと掲げる腕。それを覆う無数の触手が激しくうねった。
巨体から繰り出される一撃を受ければ、小さな猫の1匹程度、あっという間に潰れて息絶えることだろう。
けれど、しかしそんな未来は訪れない。
「たしかに猫の手を借りたい状況だったが……もっと上手に立ち回れって!」
「あぁ、もう……恩返しのつもりか何か知らんけど、その命、簡単に捨てたらあきまへんよ」
跳び込んだ世界の身体が、触手の殴打を受け止めた。
骨の軋む音がして、喉の奥に血の味が広がる。
その隙を突き、み猫は猫の身体を抱え触手の間を疾駆した。
み猫を追って閃く触手が、彼女の肩や頬を抉る。慌てたように鳴く猫を見て、み猫は「だいじょうぶ」と告げた。
「ごめんなさいねとは言わないわ」
細く静かなその声は、ナニカの背後で発せられたものだった。
そこに居たのは血に濡れた白い少女……ヴァイスである。ナニカの意識が猫に向いている隙に、彼女は木々の合間を縫ってその背後へと回り込んだのだ。
展開された茨によって、ナニカの脚は縛られている。
鬱陶しい、とナニカはヴァイスへ数本の触手を差し向けたのだが……。
「…………今からあの子の名前は"ぽんこつ"に改名ね」
「そんなコト言って、本当は嬉しいんでしょう……笑ってるよ?」
触手の濁流を掻き分けて、ナニカの背後に駆け込んだのはマリア、そしてコゼットだ。
猫による一撃に意識を逸らされ、ほんの数瞬、ナニカは触手の操作を止めた。
それはごく僅かな時間だっただろう。しかし、数多の戦場を経験したイレギュラーズを相手に、短い時間とは言え隙を見せたのはあまりにも致命的だった。
長く眠っていたことによる勘の鈍りもあったかもしれない。
自身が強者であるという慢心もあったかもしれない。
頬を打ち抜く拳と蹴りとが、ナニカの脳を激しく揺らす。
加速の勢いを乗せた2人の攻撃は、ここに来て初めてナニカに大きなダメージを与える。
痛みに叫ぶナニカを一瞥。
地面を蹴って駆けだしたのは汰磨羈であった。
「まったく、仕方のないやつだな。せっかく復讐から解放されたというのに」
横目で見据えたその先で、み猫に抱かれた小さな猫は申し訳ない顔をして耳をペタンと伏せていた。
その様を見て、汰磨羈に並んだ清鷹が笑う。
「そう言ってやるな。猫殿なりに考えて、この場に馳せ参じたのだろうよ」
清鷹の繰り出す斬撃は、あまりに正確……そしてひどく執拗だった。
斬られた触手が地面に散った。
それを踏みつけ、清鷹はさらに前へと進む。
狙うはナニカの胸部ばかり。
胸部を覆う触手が次第に減っていく。
厚い触手の層が無ければ、その皮膚を切り裂くことは容易い。
つまるところ……。
「これで終いだ」
一閃。
下段より放たれた汰磨羈の刀が、ナニカの胸部を斬り裂いた。
傷は浅い。
少なくとも、ナニカはその時、そう判断した。
だが、しかし……。
『ギ? ギャギャ!?』
ゆっくりと……深く、広がる傷口を見てナニカは思わず悲鳴をあげた。
太極律道・斬交連鎖『刋楼剣』
被弾箇所の霊素と斬撃自体を媒介として『同じ斬撃』を生成・重複させる厄狩闘流『太極律道』が技の一つだ。
汰磨羈の刀は厚いナニカの皮膚を切り裂き……ついには、その心臓に至るのだった。
み猫の腕に抱かれた猫へ、バスティスはそっと手を伸ばす。
その小さな頭を撫でて彼女は笑った。
「それで、君はこれからどうするのかな? 良ければだけれど、一緒に来る?」
キョロキョロと左右を見やる小さな猫は、ほんのしばらくの迷いを見せた。
彼女、彼らは猫の復讐に手を貸してくれた。
森で1人、孤独に生きる自分に名前をくれた。
そんな彼女たちからの誘いに……。
「みゃう」
猫……ナミルはバスティスの手を取ったのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした。
森に巣食う“ソレ”と“ナニカ”は無事に討伐されました。
依頼は成功となります。
猫の好みにより、名前はナミルとなりました。
この度はご参加ありがとうございました。
また、機会があれば別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
“ソレ”&“ナニカ”の討伐
●ターゲット
・“ソレ”×1
1メートルほどの猿に似た魔物。
体表は黒い触手に覆われている。
森の獣を狩り、休眠状態の親のところへせっせと運んでいるようだ。
通常攻撃に【流血】が付与されている。
穢れた身の“ソレ”:物近単に中ダメージ、乱れ、麻痺
対象の身を浸食する触手。
・“ナニカ”×1
3メートルほどの猿に似た魔物。
ソレの親個体であるらしい。
体表は黒い触手に覆われている。
現在休眠状態のようだが、近々目を覚ます模様。
通常攻撃に【失血が付与されている】
澱みより這い寄る“ナニカ”:物中範に大ダメージ、体勢不利、石化
増殖し、迫り来る触手の雪崩。
黒穢咆吼:神中単に中ダメージ、体勢不利
耳障りな咆吼。獲物はお前だ、という死刑宣告。
・猫
名前はまだ無い。呼びにくいのなら名前を付けてもいいだろう。
ケットシーという種族。
虎に育てられた気高い猫。
猛虎咆吼(猫):神近単に極小ダメージ、魅了
対象を威嚇する咆吼。遙か遠くの鳥や獣もその声を聞けば、たちまち逃げ出したという。
にゃぁお!!
虎爪斬獲(猫):物至単に極小ダメージ、恍惚
鋭い爪による斬撃。木々をなぎ倒し、得物を一撃で仕留める威力を誇ったという。
てしてし、ふにふに。
●フィールド
鬱蒼とした森の中。
肉食の獣が多く生息しているらしい。
太い木々が多く生えている。
また、地面はぬかるんでいるようだ。
小川、沼、地面に空いた謎の巣穴などが点在している。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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