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シナリオ詳細

蜘蛛の巣は揺れる

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●共食いの巣
「お前達、鬼ごっこはした事あるかい?」
 鏡 (p3p008705)とヴァイオレット・ホロウウォーカー (p3p007470)を筆頭に監獄島へ集められたイレギュラーズ達は、ローザミスティカから唐突に投げかけられた問いに各々の答えを返す。否、と応える者は少ないだろう。或いは、「鬼ごっこ」とは名ばかりの虐殺劇を演じた者は嬉しそうにそれを思い出しながら首を縦に振ったかもしれない。
「そうかい、全員知らないなんて言い出したらどうしようかと思ったよ」
 説明が面倒になるだろう。そう続けた彼女の表情には暗い光が宿っている。不愉快なことがあったのだとすぐに分かる。そしてそれは、大抵においてイレギュラーズが対応するに厄介極まりない案件であることを示唆していた。
「監獄島(ここ)は自由な場所だ。自分の命で尻拭いが出来るなら大抵の事は勝手にさせてるつもりさ。でも、自分の命じゃ釣り合わない事は放っておく訳にはいかない。……ちょっとね、『下』の収用棟の看守がポカやらかしたんだよ。そいつはもういない」
 なんでも、脱走した囚人が監獄島内の流通網を利用して凶器を手に入れ、己が『領域』と定めた区画内に入ってくる者達を囚人・看守問わず襲撃しているのだそうだ。ここまでは、特段不思議でもない監獄島の日常だ。程なくして鎮圧されることだろう。
 が、問題なのは本件に対し『模倣犯』が現れた事だ。最悪なのは、それらが狙った領域というのも最初の1人と同じ区画。つまり、ただ一カ所の支配権を巡って多数の狂人や殺人者がひしめき合い殺し合いを繰り返しているのだという。
 当然、外を出回っても、もしくは檻の中でじっとしていても襲われる事に変わりは無い。
 そこから必死に逃げ出そうとする者も居た。無駄である事は、その日のうちに気付けただろう。……肉体が死んだ後に。
「馬鹿が馬鹿やらかし合って口減らしするのは構わないよ。でもね、関係ない連中と看守どもが殺されて回ると、この島の治安に関わる。外道には外道の法ってモンがあるのさ。……わかるだろう?」
 なにより殺された奴の中に、将来的にどれほどローザミスティカにとって有益に働く者が居たのやら分からない。未来の収穫は、今であってはならないのだ。
「そんなワケでね。大体の連中はアンタ達でも大して苦にならないだろうけど数と小賢しさが厄介だ。なにより、『鬼ごっこ』を始めた馬鹿はそいつらを利用して襲ってくるって言うんだ。油断なくいきな。楽しませてくれたなら、少し色をつけてやってもいい」
 そう言って、ローザミスティカは手許のコインをもてあそんだ。

●伸ばした手は既に無く
 看守の1人であるゴドー・ラッセは汚職にまみれた男である。
 この島に来た時には使命感なりなんなりがあったのだろうが、結局の所、彼にはその使命感を貫き通すだけの実力や根性と言ったものが欠けていた。それを新米看守に要求するのは酷な話だが、無かったからこそ彼は汚職をよしとするに至ったのだ。そうでなければ、生きていくことすら苦しかったが故に。
「畜生……俺は看守だぞ、あいつらは飼い慣らされる側だろうが!」
 ゴドーの足下には囚人の死体が転がっている。『鬼ごっこ』に便乗した連中が手に取っている武器は、囚人が持つべきでは無い代物も揃っている。それはいい。この島ではよくある話だ。武器に振り回される連中は武器を捨てる事を厭い、動きが鈍る。
 だからこそ『鬼』の狩りは厄介なのだ。彼にはあらゆることの躊躇がない。
 そして彼にとっての武器とは――今そこに倒れていたはずの囚人や看守達である!

GMコメント

 EXの指名ありがとうございます。
 監獄島での何やかんやをお届けいたします。

●達成条件
・『鬼役』の撃破
・『鬼もどき』全員の殺害
・(オプション)ゴドー・ラッセの生存

●『鬼役』
 本名不詳。反応と命中が非常に高い。
 打ち込んだ銃弾に籠められた呪力で死体を動かす能力を有す(死体は基本、2~3種の単純行動しかできない)。
 基本攻撃はレンジ3単体、【出血】【流血】【不運】【呪殺】【必殺】が付随する。
 基本攻撃と同一性能の「物遠貫」も使用可能。
 基本的に死体に自身を庇わせ、レンジ外からの引き撃ち戦術に終始する。

●死体×多数
 対象区画内で『鬼役』に殺された者達。『鬼もどき』だった者も含まれ、主に素手ないし携行火気を持つ。『鬼役』死亡で全滅。
 移動と全力攻撃、通常攻撃しかできない。武器により【出血】【痺れ】【毒】がランダムに付与される。
 攻撃射程は武器により0~3レンジ。

●鬼もどき×5
 対象区画内における模倣犯。死体達を退ける程度の能力はある。
 大口径の単発銃(物中単、ブレイク、失血)による一撃離脱をメインに行動する。

●ゴドー・ラッセ
 救出対象および友軍。
 戦力としては素人に毛が生えた程度。武器はマシンガン。死体の足止め程度の役にしか立たない。
 救出を意識しないと5ターン程度で殺され死体の仲間入り。

●戦場
 監獄島・準放棄区画。
 生存者はいないわけではありませんが、意識している余裕もありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

  • 蜘蛛の巣は揺れる完了
  • GM名ふみの
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年12月02日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
※参加確定済み※
眞田(p3p008414)
輝く赤き星
晋 飛(p3p008588)
倫理コード違反
チェルカ・トーレ(p3p008654)
識りたがり
鏡(p3p008705)

※参加確定済み※
溝隠 瑠璃(p3p009137)
ラド・バウD級闘士

リプレイ

●逃げ得ぬ鬼ごっこ
「ここが監獄島ですかぁ 。噂には聞いてましたけど、本当に楽しそうな所ですねぇ」
「ヒッヒッヒ……やはり監獄島の空気は良いものです。 此処にいるのはどうしよもうない悪人ばかり……いくら『不幸』を味わっても気が咎める必要はありません」
 鏡(p3p008705)と『木漏れ日の先』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)は監獄島の雰囲気に早々に適応し、それどころか楽しげに周囲を観察してすらいた。これから訪れる先、地獄の様相を呈す準放棄区画でさえもこの2人にとっては楽園だろう。
「ほぅ……ここが噂に名高き監獄島とな……狂気と悪徳の…悪意なる楽園と。 アハハ! それは何とも……我好みな愉悦が見られそうですこぶる昂るわ!」
 『ラド・バウD級闘士』溝隠 瑠璃(p3p009137)は常日頃の軽い口調とは全く異なり、重々しく悪意溢れる淫魔の姿と言動を取っていた。この環境が彼女にそうさせたのか、或いは彼女が臨んでそうしているのか。
「さて、噂の監獄島はどんな場所かと思ったが 中々趣き深い場所だね? 悪徳の坩堝。指図め蠱毒の様な……」
 『《戦車(チャリオット)》』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)は監獄島に充満する悪意と悪徳が生み出す蠱毒じみた空気に悦楽を覚えつつ、しかし言葉は薄っぺらく平板なものであった。されど、これから得られるであろう個人としての愉悦を思えば、『その信仰』に思いを馳せる以上の興奮が待ち受けるのは明らかだ。
「やだやだ、こんな辛気臭ぇ所。元の世界のねぐら思い出すぜ」
 『マジ卍やばい』晋 飛(p3p008588)にとっては、監獄島の雰囲気は本来の世界を思い出す様でとても喜びとは無縁だったようだ。この環境を厭う者が普通なのだが、さりとて『ローザミスティカから依頼を受ける』ような者達がそんな些事を気にすることは少ない。彼は珍しい方なのかもしれない。
「さて、噂の監獄島はどんな場所かと思ったが……中々趣き深い場所だね? 悪徳の坩堝。指図め蠱毒の様な……」
「ローザミスティカ様にお目通り出来て恩も売れる、ここまで効率的な場所は他に無ェからなァ……でも死体撃ちの死霊術師とか! 手駒持ちなのがなおさら面倒臭ェ!」
 『識りたがり』チェルカ・トーレ(p3p008654)は単純に監獄島の有様を観察するために来た、といった様子で忙しなく周囲を観察している。やや浮足立っているのが不慮の事故に巻き込まれる可能性を感じさせ、どことなく危うくもあるが。他方、『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)はチェルカが興味津々に識ろうとしている『鬼役』の死霊術に対して面倒そうに顔を引き歪めていた。数に任せた進軍、殺しても減らない不死の兵というのは何時の世も誰にとっても厄介でしかないものだ。
「鬼ごっこなら俺も混ぜてよ。やっぱ生死を分けるゲームが1番楽しいよ。もちろん、生死を分ける側に限っての話だけどさ」
 『レッド・ドラマー』眞田(p3p008414)は選ばれる側として遊戯に参加する気は更々無い。
 選ぶ側として、奪う側としてこのつまらない遊戯を面白くしようという心持ちなのだ。襲いくるであろう鬼も、よもや自分達を得物としか見ていない存在が悠然と近づきつつあるなどとは思うまい。
「して、ローザミスティカの依頼は「鬼ごっこ」を終わらせる事 さてはて……『鬼役』は我を満足させてくれるかのォ……?」
 瑠璃は舌なめずりをして準廃棄区画から漂う悪意の気配に身震いする。『鬼役』の腕前なら容易にその区画から出てこられそうなものだが、そこを堅守しているのは本人なりのルールの現れか。
「あ、勿論道中の連中はイーゼラー……様にも捧げますよー 」
 ピリムは歯切れ悪く己の信仰対象への忠誠を口にすると、斬脚緋刀を抜いてじわりと距離を詰めていく。
「ここからギリギリ感じとれる位置だ。ゴドー君は生きているが、感情が弱まっているということは……このままじゃ命が危ういな」
「チョコマカ動き回ってやがる。分かり易いな‥‥ってことは」
 チェルカと晋は各々の探知能力に引っかかったのが救出対象のそれであることを聡く察知し、それから準廃棄区画の入り口に目をやった。
 今にも溢れそうな勢いで侵入者に襲いかかろうとする、青白い顔の『鬼』達の姿がそこにはあった。


「よく考えたら元々死体だった脚なんて、腐りかけで新鮮味がねーですねー……嗚呼、生きた方から脚を頂きたいものですー」
 ピリムは向かってくる死体の足を切り落とし、ないし半ばまで切り刻みながら前進する。数に任せた猛進は彼女の技術を前にすれば脅威にもなりはしない。切り落とし損ねた個体とて、巨漢であったがゆえに見立てが僅かにズレただけだ。誤差の範囲だろう。
「死体の群れに我の毒は過分かの? だが、精なき貴様等から精気を絞っても面白みもない」
 瑠璃はダメ押しとばかりに複合毒をぶちまけて死体の動きを鈍らせ、傷の深いものの動きを潰していく。
「そっちは行き止まりだぜ。死体でなにかあるように見せてるだけだ……っと、そっちもバレバレだぜ!」
 晋は死体を殺して前進しようとしたピリムを声で制しつつ、彼女の死角、死体達の間から伸ばされた腕目掛け火咆を放つ。大口径の銃を取り落とさせるつもりで撃ったが、相手もさるもの。痛撃を受けつつもピリムへの一撃は迷わず打ち込み、するりと死体の中へと腕を隠す。だが、流れ出た血を隠す事はできない。
「生きてる人間をこの中から探すのは面倒だけど、今狙ってきた君はバレバレだよ?」
(嘘だ……俺のことは見えちゃいねえ! まだイケる、逃げ――)
 眞田の挑発に心を乱した鬼もどきの1人は、腕を撃たれた衝撃で冷静な思考力を奪われていた。事実として彼はピリムに浅からぬ傷を与え、死体の壁を利用して逃げ回れば『鬼役』もイレギュラーズも撹乱できる技術があった。だが、そんなものは『あった』という過去形だ。
 眞田の二振りのゴア・セイラムがするりと鬼もどきの背を薙ぎ、血を噴き出させうめき声を上げさせる。
 その血に向かって鏡は駆けた。だが、鏡は返り血ひとつ浴びぬままにその首を切り落とした。
「今度はアナタ達が逃げる番です、怯えなさい童共」
 無銘刀を収めながら、凄絶に笑んでみせた。
「ひっ、ひぃ……! 何なんだ、何が起きてるんだ、一体!?」
「ちょっと大人しくしてくれよ。君だろう? ゴドー君というのは」
 ゴドーは恐怖した。今にも襲いかかってくるところだった死体の頭が爆ぜ、その後ろから悠然とチェルカの頭が覗いたのだから。何かの錯覚で恐ろしく見えても致し方あるまい。
「ホロウちゃんの占いは信用できますねぇ、こんなに早く見つかるなんてぇ」
「皆さんの努力の賜物ですよ」
 鏡の称賛に、ヴァイオレットは目許を緩めてそう返す。だが、その緩みも一瞬。ゴドーへ向けられた表情は冷酷なそれだ。
「新米とはいえ看守なんですから土地勘はありますでしょう。案内してもらいます……助かる為です。まさか嫌とは言いませんよね?」
「嫌さ、ああ正直付き合ってなんちゃいられねぇ。でもお前等についていかねえとあいつが来る。ローザミスティカ様のお使いだろ? いいぜ、ノってやる」
「……別にいいけどよ。足元の死体、起きるぜ?」
 ヴァイオレットの要求に長口上を垂れて自らを奮い立たせたゴドーは、しかし、ことほぎの言葉どおりに跳ね起きた死体に悲鳴を上げながらマシンガンをぶっ放す。狙いもなにもあったものではないが、周囲の死体数体を蹴散らす程度の働きは成し遂げた。
 畢竟(ひっきょう)、視界を拓いたことでそれらに紛れて襲撃を目論んだ鬼もどきの数人を露わにし、その意図を嫌というほど見せつける。
「疾く我に貴様等の精を献上せよ!」
 瑠璃は鬼もどき達目掛け、吸精の結界を展開する。魔力を吸い上げられ一時の快感に浸った彼等は、ついでとばかりに襲いかかる晋の火咆に深手を負う。
「こいつら死体だろ? 倒して倒しきれるのか微妙なんだよなァ……」
「ヒッヒッヒ、でしたら動けなくなるまで食いちぎって差し上げればいいのですね?」
「先程殺した鬼もどきの方の足はいまいちでしたねー。もう少し生きの良いことを期待しますー」
 ことほぎは魔術で鬼もどきを狙いつつ、転がった死体達を一瞥する。ヴァイオレットは彼女の言葉に応じたわけでもないだろうが、影を顕現させ襲いくる死体と逃げ遅れた鬼もどきを飲み込んで死の苦痛と共に吐き出した。ピリムは喜色満面に鬼もどきの死体の足を切断すると、頬ずりして笑みを深めた。
「うーん、死体を攻撃するのってやっぱ楽しくないな。ゲームってのは『ライブ感』があってこそだよな!」
「嗚呼、そこは同意しよう。『生者(ライヴ)』あってこその死の絶頂と悦楽がそこにはある」
 眞田が死体の背に「tag」(捕まえた)と刻んで回り、襲い来る死体達も処理しつつどこか退屈そうに声を上げる。……果たしてそのぼやきに反応したのは『誰』だったのか?
「眞田君?!」
「……痛、ぅ」
 チェルカが驚愕の絶叫と共に眞田へ治癒術を向ける。本来なら蓄積した傷とあわせ、運命は彼に微笑まぬまま膝を屈すこともありえた。だが、眞田はギリギリで直撃を避けた。それでも傷は深いが、チェルカの治癒術でだいぶ持ち直す。続けざまにヴァイオレットの治療を受ければなおさら。
 『鬼役』はその根性にくすりと笑みを漏らしながら距離を取ると、再び銃を構え――十全に突き放した筈の間合いに踏み込まんとする鏡に舌打ちしつつ死体をけしかける。
「いい反応ですねぇ、惚れ惚れしますよぉ」
「イレギュラーズ……! あのお姫様は『鬼ごっこ』の醍醐味というものに無頓着なようだね!?」
「醍醐味なんてクソみてぇなモンがお前のやり口にあるのかよ? 調子に乗ってんじゃねえ」
 鏡に間合いを潰されつつも迎撃し、一進一退の攻防を熟す『鬼役』は決して死体繰りのみの男ではないのだろう。だが、己の絶対的自信を打ち崩す実力者の登場はさしもの彼とて対応しきれない。
 だから、だからこそ、晋は彼の動揺に勝機を見出した。
 ことほぎの懸念が事実なら、動く機能を潰せばいい。ピリムのやり口をより凄惨に、動けなくなるまでやればいい。死体に、遠慮をする道理はない。
「死体で自分を隠すなんて姑息だよねぇ。鬼は見つかって、種が割れたらもう『鬼』とは呼べないよ。ただの気狂いだ」
「ここの死体が醸し出す『不幸』もいいですが、ワタクシはそちらの因果応報を見てみたいですね」
 ヴァイオレットに向かってくる死体達から守られつつ、眞田は辺りを塞ぐ死体達を蹴散らしていく。ヴァイオレットの鋭い視線に怯えたように銃を構えたゴドーも同様に、残り少ない銃弾を死体の足を貫くことに注力した。
「お前達、マトモじゃねぇよ……!」
「こんなとこで看守やってるお前も、ローザミスティカ様に喜んで貰いたくて殺しやってるオレ達も同じモンだぜ?」
 ゴドーの呻きに、ことほぎは楽しそうに応じた。だから仲良くやろうぜ、と笑みを浮かべ告げられるのは彼女ぐらいなものである。
「さて、いい加減死体を操るしか能のない貴様の相手も飽いた。疾くその首貰い受ける」
「身の程を弁え給えよ君。その足では私に届かない」
 瑠璃は『鬼役』へと殺気を叩きつけ、マリーツィアを振るって中空に斬撃を放つ。相手はといえば、射程外から一足にて瑠璃の間合いへ踏み込むと、至近距離で銃弾を打ち込む。接近戦による威力減衰は、無い。
 内蔵を一撃でごっそり持っていかれるような衝撃。マリーツィアを振るった瞬間、彼はそこにはいない。
 ならば、彼女の一挙一動すべて無駄か? この二合、完全に翻弄されただけか?
「もしかしてぇ、少し煽られ慣れてないです?」
 鏡は瑠璃から離れた相手の間合いに踏み込み、斬りかかる。転がっている死体だって動かせる、まだ間に合う――彼は瞬時にそう判断し手を掲げた。その手は、しかし鏡の一刀で半ばまで落とされ、死力を尽くし追いすがった瑠璃の斬撃で完全に切り落とされる。
「飽いた、と言った」
「追い詰められて日和ったか? 狩るのは俺で狩られるのはテメェだ」
 腕を這い上がる激痛に顔を歪めながら、しかし『鬼役』は銃を構えることを選んだ。
 だが、その鈍りきった動きは鏡のみならず、他の者達が踏み込むだけの猶予を与えていた……晋は、握り込んだ拳を男の顔面に叩き込む。
「足を落とすのはー、いけませんかー?」
「俺達がやらなくても、どうせローザミスティカが殺す。俺達よりも酷くな」
 ピリムは心から不満そうに担ぎ上げられたそれを見たが、晋は有無を言わさぬ調子でそう返す。
 どうせ変わらぬ運命ならば、選ぶのはここの主の役目だ。


「で、そいつを縛って連れてきたのかい? まったく面白い連中だねぇ!」
(オレは正直決めかねてたけど、あそこまで満足そうならまァいいかな、ウン……)
 ローザミスティカはことの顛末に腹が捩れるかのように笑いつつ、一同をねぎらった。ゴドーは終始落ち着きのない様子で回りを見回し、彼女の視線に釘付けにされる。
「あの騒ぎでこいつらが来るまで生き延びた生き汚さは好きだよ。精々死ぬまで働きな」
「ヒッ……はい……」
(悪徳の女王も慈悲の心得があるのか、中々興味深いものを見たな)
(『足』を持ち帰ってもお咎めなしですかー、助かりますねー)
 チェルカとピリムは傷がそれなり深いものの、ローザミスティカから放散される毒気というか、気配というか。そういったものに気を抜けずにいた。が、それでも彼女が一介の看守に目をかける光景というのはなかなか興味深い。
「楽しかったよ、『鬼ごっこ』。もっとライブ感のある遊びがあったらまた教えてほしいね」
「……二度と起きてほしくはないんだけどねえ。でも、その時は呼んでやるよ」
 眞田の何一つ凝りていない(が戦闘には十分な貢献を見せた)様子に、呆れたようにローザミスティカは笑う。そして彼に、一枚のコインを投げ与える。
「お前達の働きは中々楽しめたよ。また来な。……さて、ゴドー? そこに転がってるゴミを片付けな」
「あ、それなんですけどぉ」
 鏡は、ゴドーが恐る恐る銃を抜こうとしたところを制止し、ローザミスティカに進言する。心からの楽しみを邪魔された彼女は緩やかに口の端を上げ、しかし怒りを隠しきれていない。
「邪魔するんじゃないよ。それとももっと面白い演目があるのかい?」
「ええ、ありますとも」
 鏡は怖気づくことなく、笑みを保ったまま返した。
「その『鬼役』が自分を撃って、死体(じぶん)を操れたら無罪放免! 楽しいじゃないですかぁ?」
「…………何だ、その戯言は」
 その言葉に、目覚めた『鬼役』が苦鳴とともに応じる。ヴァイオレットは、この展開と、この先の顛末を既に占い終え、知っていた。
 有無を言わさず、ゴドーに手を握り込まれ銃を掴まされた、鬼ですらなくなった男の頭部に銃弾が吸い込まれ、脳漿が飛び散った。
 ――彼の顛末は――。

成否

成功

MVP

鏡(p3p008705)

状態異常

眞田(p3p008414)[重傷]
輝く赤き星
チェルカ・トーレ(p3p008654)[重傷]
識りたがり

あとがき

 仮に放免にされてもされなくても、死体が転がるだけなのです。

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