PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Common Raven>酔いどれ色宝珍道中

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●試しの遺跡
 ある盗賊の前に、恐ろしい魔人が現れた。

 さあ、旅人よ。三つの願いを叶えてやろう。
 酒だ。

 盗賊が迷いなく答えると、皮袋一杯の馬乳酒が男の懐に収まった。
 魔人はささやかな願いに困惑しつつも答えた。

 あと二つだ。国を傾ける美女でも、大いなる力でも、願うがいい。
 酒だ。

 盗賊が迷いなく答えると、樽一杯の馬乳酒が男の懐に収まった。
 さあ、と口を開く魔人よりも先に、盗賊は答えていた。

 酒だ。
 とにかく大量の酒だ。
 魔人は自らが呼び出した酒におぼれて流されていった。
                『ラサ 千夜一酒物語』より

●朝帰り
 色宝とは色濃く人の欲望を移す鏡である。

「ゲッコーの兄貴、ぜってー<大紅葉盃>を見つけて見せますからね!」
「おう! 頼んだぞ!」

 ゲッコーが信じて送り出した部下たちは、果たして約束の時間を過ぎても戻ってこなかった。仕置きが必要かと鞭を構えて遺跡への道をたどっていくと、転々と……布が……落ちている。
 靴下のかたっぽ、上着、もう片方の靴下……。
 ぱんつ。
 野郎のぱんつは別に嬉しくはなかったので見なかったことにした。
 ほどなくして、部下は見つかった。砂に半分上半身を埋めている。
 ぎょっとしたのを隠してゲッコーはおそるおそる近づいていく……。
「あ、アニキいい、へへへ、へへへへへ」
 部下はにやけた笑いを浮かべていた。ほかの仲間たちもあちこちに埋まっている。半裸だったり、キスマークがついていたり、屍累々である。
「お前らあ、おかしいぞ! 何があったってんだ!? ぶわっ、酒くせぇ! やめろ!」
「へ、へ、へ……兄貴ぃ、おかしいなあ、あれ? 俺は遺跡で……酒を飲んでて……オイイイ、なんてことだ! 兄貴の盃が空だ!」
「ヒーーー、すんません兄貴! すぐ注ぐっすよおおお!」
「俺は仕事中に酒は飲まねえ。うわ、無理やり入れてくるな!……やめろおおお!」
「いええええい、パーティーだ!」

●私には大切な未来があるので
「アルハラ、ダメ、絶対、なのです!」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はぐびぐびとジュースを飲んでいた。頬は赤く、なんとなく酔っぱらっているような気がするがジュースだ。
「ユーリカ情報によると、試しの遺跡に『飲み物が無限に沸いてくる盃』があるそうなのです! ずるいのです! じゃなかったです。こんな面白そうなもの、ひっく、大鴉盗賊団に渡すわけにはいかないですよ!」
 言い直しても本音が漏れなかっただろうか。
「問題は『試しの遺跡』なのです! その遺跡は、なんでもしこたま酒を飲まないと先に進めないらしいのです。それはもうすごい量の酒で、今までにチャレンジした盗賊もみんな酔っぱらって倒れてたいへんなのです。ほんとうに羨ましいのです」
 そうだろうか……。
「あ、砂漠で行き倒れたら死ぬと思うです。気を付けて帰ってくるですよ。そして一口! 一口でいいからユーリカにも感想を聞かせてほしいです!」

GMコメント

●目標
・色宝「大紅葉盃」を手に入れる

●『試しの遺跡』
流砂の上に手すりのない一本橋がジグザグ上に架かっています。
橋の上以外の足場は不安定で、盗賊団が妨害してくる他、後述のモンスターに襲われます。

地点の途中にあるチェックポイントにいくと、備え付けの杯に酒が湧き出します。飲み干すと次の橋とチェックポイントが現れます。
※未成年の場合はノンアルコールになりますが、とくに難易度は変わりません。
これを繰り返してゴールの祠までたどり着きましょう。

ワイン、ビール、葡萄酒、日本酒など……。
酒は美味しいのですが、飲めば飲むほど【恍惚】【毒】【痺れ】【ショック】【崩れ】【乱れ】といった症状が重なっていきます。
BS回復魔法で多少はマシになりますが、すぐにまた気持ち悪くなります。
抵抗が強い人はいくらかましでしょう。あるいはキャラ設定で「ワクです!」と言い張ってもいいです。言ったもの勝ちです。
誰かに固めて飲んでもらっても、分担を分けても良いです。

捨てた場合はカウントされずに戻ってくるようですが、技術のある人がうまくやれば不正行為が可能です。
水筒の水にすり替える、など。

●敵
「てめえらあ、しゃけは、わたさねえぞぉおお」
大鴉盗賊団×16……いや酔っぱらって二重になっているだけだね?8だね?
大鴉盗賊団の荒くれ物たちです。
相手方も逆側の橋から、同じように攻略していっています。
弓矢や魔法で牽制してきますが、こちらから近づかなければ、ゴールまでは遠距離攻撃のみ。
たどり着くころにはべろんべろんでしょう。

砂漠ピラニア×何匹だ……えっと、たくさん
橋からおっこちるとやってくる野生の雑魚モンスターです。鋭い牙を持ちます。
道を踏み外さないように注意しましょう。
飛行を持っている人は無視できますが、飲酒飛行は大変危険ですね。

●色宝「大花見盃」
 最終地点まで行くと、手にした杯が赤色に染まります。それこそが色宝「大紅葉盃」です。紅葉が浮かぶようなきれいな盃です。ランダムな美味しい飲み物をちょびちょびと生成する能力を持ちます。……もうたくさんでしょうけれど。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <Common Raven>酔いどれ色宝珍道中完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月30日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
三國・誠司(p3p008563)
一般人
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)
孤独の雨
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
天下無双の狩人
白鷺 奏(p3p008740)
声なき傭兵
アンジェリカ(p3p009116)
緋い月の

リプレイ

●持ち込みダメとは言ってない
「あいつら酒を持ってる!」
「そういうオーダーだろうが!」
「違うっ!」盗賊は悲痛な声を上げた。「あいつら、【追加の酒を持ち込んでるっ!】」

「試しの遺跡に、飲み物が無限に湧いてくる盃!
そんなの、その辺の盗賊に渡すわけにはいかないわぁ!
飲んで飲んで飲み倒して、お宝ゲットよぉー!」
 どん、とヴォードリエ・ワインを抱える『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)。
「豊穣で重傷になってしまったのでお酒を飲みに来ました。よろしくお願いします」
『展開式増加装甲』レイリ―=シュタイン(p3p007270)の心は「不倒」。
「お酒には百薬の長という言葉がありますよね。美味しく飲めれば傷にも効くに違いないと思います」
 レイリーの目は、どこまでもまっすぐだ。
 無論、アルコール消毒などというもったいないことに美酒を使うつもりはない。
「うんうん、美味しいものをたべればげんきになるっきゅ!」
『二人で一人なアザラシ』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)は元気よく同意する。
「大花見盃のお酒も楽しみー!」
「楽しんだもの勝ちよね!」
「えへへー! お酒っきゅ!
仕事しながら合法的にお酒が飲めるいい依頼っきゅ!」
「お酒は祭りぐらいでしか飲まないからこういう所で飲めるのはいいな」
『誰かの為の墓守』グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)は落ち着いた様子で杯をあける。涼しい顔をして、レモンサワーを持ち込んでいる。
 今日ばかりは、少し羽目を外してもいいだろう。

「え、色宝って……そんなのもあるの?」
『一般人』三國・誠司(p3p008563)は目をぱちくりとさせる。
「大紅葉杯……どことなく豊穣みたいな響きにちょっとワクワクするぜ。お宝探しはロマンがあっていいよな!」
『深緑の狩人』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)は瓶を取り出した。
 未成年の彼らは、今回は介護班に回る予定だ。
「あ、あいつも酒を持ってる! もうダメだ!」
 ミヅハが持っているのはハーブティーだった。
 しかしすでに毒された盗賊は「薬草酒に違いないんだ!」と叫んでいる。
(周りにいるのはそんな酒を目当てにした大人がほとんど。頼りになるのはミヅハ君だけなのではないだろうか)
 ぽん、とミヅハの肩に手を置く誠司。
「?」
「頑張ろうね」
「ああ。みんな旨そうに飲むなぁ……」
(でもさ、酒ってあのなんていうの? 苦いやつだっけ?
あれおいしいの? コーラのほうがおいしくない? そんなことはない、あ、そう)
 三國誠司には酒がわからぬ。
 これから良さがわかるのかはさておき。おいおい泣き始めた盗賊団なんかを見るとやっぱりいけないもんだなあとも思うのだった。
「酒は飲んでも飲まれるなとはよく言いますが、
今回はそうも言っていられない状況の様ですね。
つまり、お酒を飲み過ぎて醜態をさらしても多少は許され……」
『緋い月の』アンジェリカ(p3p009116)の理性が勝つ。
\ダメですっ!/
「アルハラ、ダメ、絶対……ですっ!
お酒はルールを守って楽しく飲んでこそ、ですっ!」
 ぐっと拳を握って力説するアンジェリカ。
 かつての会社員としての記憶が支えとなっていた。
(よかった、おとななひともいた)
 ほっとする誠司。
(そうでないと本当に大変なことに……うっ、頭が)
 思い出したくない思い出が頭をよぎり……。
――コホンと咳払いするアンジェリカ。
「皆さんも今も見えるあちらの様な事になりたくなければ気を付けていきましょう」
『声なき傭兵』白鷺 奏(p3p008740)は確かに頷いた。
 奏とてお酒は大好きだ。
 しかし、仕事中に飲酒するなど、こんな状況は初めてだったが……。
 まあ、多種多様なオーダーに対応するのがイレギュラーズというものか。
 頑張ろう、と気合いを入れかけて。
「楽しもうねー!」
 仲間の声で思い直す。
 楽しまなくてはね。
「さあ、酒宴の為……ではなくラサの為に頑張ろうか」
 と、グリム。
「――それでは、乾杯」
「ラサのために!」
「お酒のために!」
「っきゅ」
 アンジェリカの音頭に従って、乾杯だ。
 最初ぐらいは皆で乾杯して飲むのも悪くない。

●放送事故その他諸々
「反応一番だーれ?」
「っきゅ!」
 きりりとヒレをあげるレーゲン。
「どんどん飲んでいきましょ」
「いえー!」
「実質宴会や梯子酒っきゅ?」
 アルコールでほかほかになりつつあるアザラシ。
 持ち込んだ果実をもぐもぐしていると、相手がなにやら下品な言葉をわめき立てている。
 かわいそうに。ここは、宴会芸で和ませるのがいいだろう。
「1番、レーゲン・グリュック・フルフトバー、行くっきゅ!」
 ドリームシアターで映し出されたのは、虹色の滝を口から出すレーゲンの姿だ。
 ドミノのように崩れていく相手陣営。
 計画通り。
(飲酒を邪魔する奴に容赦はねえっきゅ)

※一部映像が乱れたことをお詫び申し上げます。

「大丈夫かあああ!」
 屍累々の対岸をよそに、イレギュラーズたちは悠々と飲んでいた。
「このぐらいの酒で潰れるならもっと軽い酒で慣らしてから来るといい」
 グリムは相当に強い酒を顔色も変えずにあけていくのだった。
 祝福のブローディア。
 彼の酒席は決して侵されてならぬもの。
 誰にも邪魔されることはなく、ただ酒と向き合う。
 それを邪魔するなどとは無粋というものではないか。
 クローズドサンクチュアリを展開した奏が、仲間をかばう。
 礼の代わりに杯を差し出すグリム。
 奏はぐいーっと勢いよく呷り、にっこりと微笑む。
 酒には弱い方ではないが、運動しながらとなると結構アルコールが回ってくるものだ。
 けれど、美味しい。
 目と目で通じ合う酒飲みたち。
 ちらりと顔を上げて、盗賊団を見据える奏。
 杯を逆さにして、一滴も入ってないことを示す。
 奏は言葉を紡ぐことはないが……空気は雄弁に語る。
 まだ飲めるけど?
 ヴァリアントレイジ……それは、盗賊団の闘志に火をつけていく。
 それを無視することなど、できない。
「てめぇっ、勝負だ!」
 怒りにかまけて、盗賊団はペースを上げていく。

「……」
 焼き菓子にタルトにチョコに囲まれるグリム。
 グリムのつまみは甘いものだ。
「っきゅきゅ?」
 目をキラキラさせるレーゲンに頷く。いくらでももっていけ、と。
「あ、これハーブティーに合うよミヅハ君」
「ちょっとだけ」
 ミヅハと誠司は皆のおつまみを減らしてしまうかも……と遠慮がちにとったが、グリムは多めにお菓子を押しつけてきた。
「?」
 遠慮せず食べろ、と言うジェスチャーだ。
「酒はいいなぁ、ふわふわして幸せな気分になる」
(これは……)
(酔ってる?)
 顔を見合わせるミヅハと誠司。
「そうそう。若者が遠慮してどうするのよ」
「大人はお酒を楽しむからいいのよ♪」
 おつまみを分けてもらうのだった。
「いいよねぇ、こういうの……」
「ザッケンナコラー! 何楽しんでやがるんだ!」
 ひゅん、と飛んでくる矢。
 その幸せをぶち壊すがごとくの横槍を、レイリーが許しておけるはずもない。
「さぁ、そんなか弱い弓や魔法など効かぬ! このままじゃ、私達が色宝を手にいれちゃうよ!」
 死守の咆哮は、この飲み会を守るという強い意志の現れだ。
「ほらほら、そんなんじゃ当たっても痒くすらないよー」
「ち、ちくしょう!」
 盗賊たちなんぞは聖躰降臨で弾き飛ばされた矢に自分で当たる始末だ。
 ミヅハは立ち上がり、矢を上級に放つ。
「ぶはは、どこ狙って……ぶべっ」
 ミヅハの放ったラピッドラプターでの追撃。空高く舞い上がり、重力を得て降り注ぐ矢は盗賊を橋から追い落とす。
「いやー、縁日の出店の懸け物みたいで面白いなぁ!」
 仲間の救出にかかりきり、どぼんどぼんと落ちていく始末。
「お酒は飲んでも飲まれるなって言うでしょ。でも飲んじゃうんだけどねー」
「不思議よねー」
 へべれけにできあがっていくアーリアおねえさん。
 ソーセージの塩気がたまらない。
「……あっお酒が進むわぁ!」
「私もちゃんとおつまみ唐揚げと、酔い対策の卵粥持ってきました!」
 どんとつまみを追加するレイリーおねえさん。
「えらいっ」
「空腹だと悪酔いするらしいし、おつまみ飲みながら自分のペースで飲むのよ」
「おー!」

「さっきは良くも……ぶべら!」
「油断大敵よっ!」
 崩れた盗賊に向かって思い切り衝撃の青を食らわせるアーリア。
「イレギュラーズは肝臓も強いもの」
 例え何があったってちょっとのパンドラが減ったり5日間重度の二日酔いになるだけ。
 だけ?
 ヴォードリエ・ワインも飲み頃である。
「持ち込んだのとどっちが美味しい?」
「んー、どっちもだけど、やっぱり、熱いと冷えてるワインいいわねぇ」
 交互に杯をちゃんぽんしていくアーリアの髪は、ふわりふわりと色を変えていく。
「さらにお酒がおいしく飲めちゃうわねぇ……すり替えるなんてもったいないわぁ」
「お水、ありますからね」
 アンジェリカはテキパキと水を注いでいく。
「美味しい。あれ、今のお水だった?」
 首を傾げるレイリー。
「お水でしたよ」
「じゃあお酒も飲まなきゃね」
 じゃあ飲まなきゃ?
 レイリーに酒を注ぐ奏。おつまみを差し出すアーリア。
「アンジェリカちゃんもどーぞ」
(おいしい……)
 アンジェリカもちびちび相伴には預かってはいたものの、自らのペースを保っている。
 けれど、未成年の前でかっこ悪いところは見せられないと決意する。
 お酒のトラウマを植え付けるなんてあってはならないのだ。

●酔っ払いどもの行進
 勇ましく酒を飲みながらレイリーが進み、道を切り開く。
 奏が敵の攻撃から仲間をかばう。
「……エール、飲みたい人いますか?」
 ランダムに湧き出る酒にも法則性があるようで……アンジェリカは賢く配分していくのだった。
「飲む!」
「きゅっ」
 皆で飲むのは、とても楽しい。
 ふわふわとした気分になる。
「なのに……なのになんで盗賊さんはこっちを攻撃するっきゅ?」
 悲しげにふるふると震えるレーゲン。
 酒飲み勝負なら受けて立つし、酔っ払って気分が良ければ大人しく抱きしめられてモフられるぐらいはサービスしてあげるのに……。
「レーゲンちゃん……」
「邪魔するやつは橋から落ちてピラニアと戯れてろっきゅ」
(あ、やっぱり酔ってる)
 どっかんと容赦のない青の衝撃が相手を吹き飛ばす。
「くそっ、反撃だ! もういい! 火炎瓶作ってやれ!」
「応!」
「っきゅ!?」
 炸裂して足場が崩れる。
「レーゲン殿!」
 レイリーが手を伸ばすが、近くの仲間を落ちないようにかばうので精一杯だった。
 ぱたぱたとヒレを泳がせてなんとか低空飛行を試みるレーゲン。
 ピラニアが迫っている。
「……っ! つかまってください!」
 アンジェリカはするりとロープを取り出し、投げる。
 仕方がない。
「ミヅハ君、みんな、頼んだ!」
 誠司は腹を決め、ロープを括りつけ、砂にダイブした。
「っきゅう!」
 必死の神気閃光がピラニアを追い払う。
「! 待っててねぇ」
 砂に飲み込まれかける二人を、アーリアがぎゅうとつかんでいた。
 危機一髪。
 するすると奏がロープを引いて、復帰完了だ。
「ありがとうっきゅ。恩に着るっきゅ!」
「良かった」
 ふかふかもふもふ、ついでにじゃりじゃりほかほかのちょっと酒臭いアザラシ。
「レーさんお酒の味は全然分からなくて、酔った時の酩酊感やふらふらーや気持ち悪さで、一人じゃないけど独りなのが紛れるから好きだったけどぉ」
「あー、やっぱりお酒ってつらい感じ?」
 ふるふると首を振るレーゲン。
「混沌に呼ばれて一人じゃなくなったから楽しいっきゅう!」
(楽しいかあ)
 まあなんとなく賑やかなのは分からなくもない。
 ぐびぐびとカラビ・ナ・ヤナルに持ち込んだ水を飲むレーゲン。
「ぷはー、よし。これで飲めるっきゅ!」
「戻ったか……」
「ハイ」
「立派になったな……」
「?」
 グリムはちょっと涙ぐんでいる気がする。
 誠司にそっとチョコレートをくれた。
「とっておけ」
(あっ酔ってるね、酔ってるんだね)
「酒の辛さが甘味をより美味しくしてくれる、もちろん甘い酒にも合うからどっちでもいいが」
 持ち込んだものは察してはいたが、グリムはかなりの甘党らしい。
 進む盗賊は必死に酒を飲もうとしている。
 ふ、と手を止めるグリム。
 あんなに急いで飲むものじゃない。
「お前らに酒はよこさ……ラサの為に止まってくれると助かる」
「いやもうこっちはいらねぇよお!」
 束縛のアイビー。
(あなた様が望むことのこの程度、どうしてできないでしょうか)
(どうぞ召し上がってください)
(美味しいお酒を)
 それは返しきれぬ恩持つ彼への祝福。
 そして、相対する者たちにとっては……。
 盗賊たちをその場に縛り付ける。その間に悠々と酒を味わうのだった。

「さっきのは、ちょっとおいたが過ぎたわねぇ」
 お酒は飲むものだ。――投げるものじゃないのよ?
 アーリアのとろんとした目は、金色に変わり、盗賊を捕らえている。
 七色の髪がそよぐ。
 蜜の罠。
 纏わりつく毒の運命。目をそらすには遅すぎた。
 それは……毒。
(べつにざるでもワクでもないのよ?)
 お酒に愛され、お酒を愛し続ける彼女と、そしてイレギュラーズ。
 盗賊団との決定的な差があるとするなら、それはお酒への愛だろう。
 イレギュラーズたちは、楽しんでいるのだ。
 この瞬間を、何よりも。
「ふじゃけんなよぉ!」
「うわっ」
(アイツは危ない)
 ミヅハは呪いを込めた矢を引き、盗賊のボスに向かってナイトメアバレットを放った。
「超分析します!」
「超分析ってどんなお酒だったかしら。って冗談よ~。私も超分析するわ」
「きゅっきゅー」
 かわいらしいアザラシの鳴き声とともに、幻想曲を奏でるレーゲン。
「カラオケっきゅ!」
「あら、歌うの?」
「あっそっち来た方!」
 軍馬に従いふらふらと歩いて行くアーリアの向きを慌ててかえる誠司。
 砂の中から盗賊が這い上がってきた。
「行かせねぇぞお!」
「せーのっと!」
 大砲から放たれる弾はネット弾。
 相手陣営の酔っ払いを団子に練り上げる。
「よしよし、とりあえず確保っと」
 盗賊の酔っ払いはふらふらとしていたが、ふ、と諦めの境地になった。
「もうだめだ……」
「え? 吐きそう? マジか、ちょっと待て、吐くなら橋の外に! 落ちないように支えとくから!」
「うっぷ」
「あ゛ーーお客様!!困ります、もらいレインボーは……!! お客さま!! あ゛ーーー!!」
 虹が見えた。

●到達点:酒
 敵は捨ててきた。
 まああとで回収すれば死にはしないだろう多分。
 過去は振り返らないようにしている。
 痕跡は全て水で洗い流して――仲間を。フラフラな人を負ぶって歩き、酔っ払いをなだめ、軍馬の向きを数え切れないほどになおして、何とか奥地へたどり着いた。
(もうこんなこと終わらせなきゃ……)
 頭から虹かぶるようになる前に何とか終わらせたい。というわけで必死だ。
「良い心地ねぇ~」
 ゴールが見えてきたことにあんどする。
「ひっく。え、もう終わりなの?」
「……」
「きゅ……」
 ゴールだというのに、どうして残念そうなのだろうか。
 そして、そこは敵との合流地点でもある。
「てめぇらあ、よくもさんざん……散々……」
 リーダーはぐでんぐでん。メンバーの4分の1もいない。
「楽しそうに飲んでくれやがってよお! 俺たち必死だったのに!」
 もはや敵の目的は色宝ではない……。
 宴会をぶち壊すということだ。
「おい、あのガキだ! 散々砂に落としてくれやがって!」
「最後の正念場ね!」
 ミヅハへの攻撃をかばうレイリー。
 今は、距離の優位がある。
 それを、この狩人が逃すはずもなかった。
 ミヅハは、剣と見まごうほどの矢を取り出す。
 特別製の矢。
 ミヅハが扱うのは弓である。
 だが、それは、ミヅハが扱うならば、大砲にも負けぬほどにすさまじい威力となるのだった。
 破式魔砲が、思い切り敵を吹き飛ばす。
「ぐええっ」
(命までは奪わなくても大丈夫だろ)
 後でローレットに預けておけばいいだろう。
「ユリーカへの土産だ」
「こうなりゃ自棄だ! 突撃だ、てめぇえら」
「どうやら、見えていないようだな……」
「!」
 その感情すら、グリムの狙い通り、たき付けられたものだった。
 敵を引きつけたグリムの暗黒剣が、闇をまとって盗賊に襲いかかった。
 これ以上の追撃は必要がない。
(後は勝手に落ちるだろ)
 攻撃をよけるだけで、道からそれて一体、どぼんだ。
 好機。
 奏はガンブレード・アイギスに、リジェネレート・カートリッジを装填する。
 攻撃が激しくなるならば……その分、耐えきれば良い!
「ぐぬぬ」
(隙あり!)
 峰打ちで良いだろう。
 銃声が響き渡る。
 あ……という空気が辺りを漂った。
 ガンブレードのトリガーをうっかり引いてしまった。
 ギリギリ殺してはいないが、泡を吹いて気絶している。
(……うん、飲酒ガンブレード、やめよう!)
 固く誓う奏。
(なんていうか……僕は節度ある良心的な大人になろう)
 そう胸に刻む誠司。

●TO BE CONTINUE……。
 限界、だったのかもしれない。
 ばたりばたりと倒れる仲間たちに、アンジェリカとミヅハが水とハーブティーを飲ませていく。つらそうなアザラシをそっとさする誠司。
「起きて起きて、終わったっぽいよ」
 目を覚ますレーゲン。キョロキョロと辺りを見渡して……。
「やったっきゅ! レーさんたちの勝利っきゅ!」
「勝利の乾杯ね」
「え、まだ飲むの?」
「戦ったら少し酔いが引いた、ラサは安くて良い酒場が多いと聞く」
 グリムは真顔でそう告げる。
「え?」
「さあ、どこで飲み直そうか?」
 仲間を振り返るグリム。
「そうですね。今のはお仕事でしたから。宴会しながらでも悪くはないですね」
 と、アンジェリカ。
「実は、その。手が空いたときに、皆さんの好みのお酒とおつまみをメモしておきました」
「やったわ! すごいじゃない」
 喜びの声を上げるレイリー。
(まだ)
(飲むのか……)
 未成年組はがっつり肩を組まれていた。
「あ、もちろん、悪いようにはしませんから。大丈夫れす。……コホン。大丈夫です。未成年の方に無理強いなんかしません」
「アンジェリカさん、語尾が?」
「ふふ、無事に終わったらユリーカちゃんにお土産……ってまぁ、あの子はまだ飲めないけど。
ま、レオンくんへお土産にでもできるかしら?」
 追加の酒を詰めるアーリア。
「私たちの千夜一酒物語はまだ始まったばかりよお!」
「おー!」
「みんなで飲めばさみしくないっきゅ!」
 奏も頷く。
 仕事を終えてからこそ、うまい酒が飲めるというものだ。
「二次会の会場だけど、そういえば顔見知りのモリスさんが、丁度ラサの方へヴォードリエ・ワインの今年の解禁のご挨拶に行ったって聞いたような……?」
 ヴォードリエ・ワインの空瓶を指し示す。領主モリスのドヤ顔がプリントされている。
「それなら盃を持って、モリスさんの主催で酒宴といきましょ!」
「行こう」
「色宝返さなくていいのか?」
「あとで返せばいいのよ!」
 彼らの戦いは続く……。
「もう散々? そんなはずないじゃないのぉ、飲んで飲んで飲み倒すわぁ!
潰れてる暇ないわぁ、飲むわよぉー!」
 応、と答えるイレギュラーズたち。
 そこに酒がある限り、彼らの戦いはまだ終わらない……。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

アーリア・スピリッツ(p3p004400)[重傷]
キールで乾杯
レイリー=シュタイン(p3p007270)[重傷]
ヴァイス☆ドラッヘ
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)[重傷]
孤独の雨

あとがき

おつまみを持ち込むことまでは考えていましたが、まさか酒を持ち込まれるとは考えていませんでした。
百点満点だと思います。

PAGETOPPAGEBOTTOM