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シナリオ詳細

再現性東京2010:火焔のヒノコ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 赤石・ヒノコは自他共に認める地味で平均的な女子高校生だった。
 平均的なルックスに平均的な成績。まあまあそれなりに友達もいて、家族ともまあまあそれなりに仲が良い。
 これといって得意と言えるようなものも、苦手と言えるようなものもなく、かといってそれを悩むでもない。平均値を地で行く少女。
 ただそんなヒノコにも、1つだけちょっぴり変わった趣味があった。
 それは、火を眺める事。ライターの火、マッチの火。ガスコンロの火。ゆらりゆらりと唯静かにゆらめくソレを見るだけで、なんだか心が癒される気がした。
 パソコンにもただ薪が燃え続けるだけの動画を大量に保存してある。傍から見ればどれも同じに見えるそれは、しかしヒノコにとってはどれも違って見えた。
 だけど、それだけ。ヒノコについて語れるエピソードなど他には存在しない。筈だった。
 それはあまりにも些細な、けれども唐突な切っ掛け。ヒノコはある日いつもの様に学校から帰宅すると、自室の机の上に覚えのない黒い指輪が置いてあるのを見つけた。
「なにこれ」
 そしてヒノコは、それを手に取ってしまった。
 たったそれだけの出来事で、全てが変わってしまったのだ。
 

 夕暮れ時。ヒノコが通う高校は今、地獄と化していた。辺りかしこから火の手が上がり、誰かの怒号、誰かの泣き叫ぶ声がこだましていた。
「ウフ、フ。フフ。ウフフフフフ」
 その叫びの中心に立つ少女、ヒノコは、不気味でくぐもった笑い声を漏らしながら、モノを、そしてヒトを燃やしていた。
「やめ、や……やめて、ヒノコちゃん! わた、わ、私よ! アカリよ! こんな事、やめ……」
「ウフフ」
 かつての友の必死の投げかけは、ヒノコが掌から放った爆炎と共に掻き消えた。ヒノコが指に嵌めた黒い指輪が、妖しく光を放つ。
 後に残ったのは、丸焦げになった1つの死体のみ。
「アハハ、ハ、ハハ……綺麗……どんな火も綺麗だけど、一番キレイなのはやっぱり、ヒトが燃える火ね……」
 正気などとうに消え去っていた。あるのは愉悦と、心の内から溢れだす殺戮衝動。そして火を見たいという純粋な願い。
 その元凶は、ヒノコが手にした黒い指輪。これは『黒死環』と呼ばれる強力な『夜妖憑き』である。
 この指輪を手にした人物には抗いがたい狂気と殺戮衝動が植え付けられ、そして本人の性格、特性、欲望に応じた超人的な力を宿してしまう。
「アハ。ハ、アハハハ……!! もっともっと……!! みんなみんな、燃えちゃえ……!!」
 燃え盛る校舎に、ヒノコの笑い声が響き渡っていた。


「緊急指令だ。この通信は現場に近いおまえらイレギュラーズ達に繋がってる。繰り返すが、緊急事態だ。至急現場に向かってくれ。というか今すぐ走ってくれ」
 夕暮れ時。各々が街中でそれぞれの時間を過ごしている最中、唐突にアデプトフォンから指令が入った。
 この声は無名偲校長のものだろうが、その声にはいつにもなく緊迫感が籠っていた。
「おまえらの近くの高校で無差別殺人が起きている。運良く逃げ延びた連中からの情報によれば、犯人の名前は赤石・ヒノコ。地味で普通な女子高校生だったらしいが――今は全身から炎を出しまくって暴れてるらしい。十中八九夜妖が絡んでると考えて間違いねぇだろう」
 赤石・ヒノコは既に自宅において両親・妹を含む家族もろとも家を焼き、そして今は在籍していた高校で殺戮を繰り広げているらしいと無名偲校長は言う。
「俺の見立てでは、恐らく『黒死環』の仕業だ。どんな凡人でも心身共にイかれた殺人鬼に変えてしまう危険な代物――とにかく奴を逃がす訳にはいかない。確実にここで終わらせるんだ」
 終わらせる。つまりは殺せという事だ。『黒死環』に蝕まれて超常的な力を手に入れ、殺戮を繰り広げている今の段階では、もはや被害者ともいえる赤石・ヒノコもろとも『黒死環』を破壊するしか手はないのだという。
「大したサポートも出来ないが……とにかくしくじるな。ここからどれだけの人の命が助かるかはお前らの手にかかっている。以上だ」

GMコメント

 のらむです。火焔操りし少女です。ウェルダンにされないよう気をつけてください。

●成功条件
 赤石・ヒノコを仕留め、『黒死環』を破壊する

●現場
 赤石・ヒノコが通う高校。時間は夕暮れ時。あちこちから火の手があがり、イレギュラーズ達が到着した段階でも殺戮が進行している。

●赤石・ヒノコ
『黒死環』を手にした事によって火と死を愛する殺人鬼に変貌してしまった少女。その精神は既に狂気に浸りきっている。
 逃げ延びた人たちの目撃証言によれば、ヒノコは広範囲に火を放ったり、火を纏わせた拳で犠牲者の頭を殴り割ったりしていたらしい。また、その動きは異様に素早かったらしい。
 目撃証言以上のヒノコの戦闘能力に関する情報は無し。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

 以上です。よろしくお願いします。

  • 再現性東京2010:火焔のヒノコ完了
  • GM名のらむ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

銀城 黒羽(p3p000505)
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
HOSHOKU-SHA
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心
玄緯・玄丁(p3p008717)
蔵人
金枝 繁茂(p3p008917)
焔鎮めの金剛鬼
雑賀 才蔵(p3p009175)
同じ傷跡
トキノエ(p3p009181)
特異運命座標

リプレイ


『気合いだよ気合い』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は走っていた。
 息を切らしながらも決して足を止めず、走っていた。
 ほんの一分、一秒でも。少しでも早く現場に辿り着ける事が出来れば、助かる命もあるかもしれない。だから、ムスティスラーフは走っていた。
「……押し通すよ」
 無茶だとか無謀だとか。そんな言葉はムスティスラーフには関係なかったのだ。
「人を狂気に堕とす夜妖憑き、『黒死環』……そんな代物のせいでこれだけの事をやってしまったのは、気の毒だが……無辜の人間を手にかけた、その事実は変わらん」
『自称「会社員」』雑賀 才蔵(p3p009175)もまた現場である高校に向かっていたが、ムスティスラーフに比べれば幾分かクールに状況を頭の中で整理していた。
「……さぁ、仕事の時間だ」
 そう呟き、才蔵は足を速める。
 素早く的確な仕事は、サラリーマンの嗜みなのだ。
 そしてイレギュラーズ達は件の高校、その校門前に到着した。
 燃え盛る校舎、飛び交う悲鳴、無造作に転がる焼死体。そしてなにより、臭いが酷かった。
「(あの日、母の呪縛を断つと決めた筈なのに――)」
 辺りに飛び散る火の粉を前に、『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)の脳裏に『あの人』の姿がよぎった。
 それはまさに今目にしている――あるいはそれ以上に苛烈な炎。そして反転し、『カイブツ』と化した母親の――。
「……あの恐ろしい光景は、二度と繰り広げさせません」
 自らに言い聞かせるように呟くと、エルシアは己の『目』を使い、新たに出現する熱源、すなわちヒノコの居所を探る。
「ん~、この感じ……逃げ遅れて、かつ生き残っている人はみんな3階に居るっぽい!」
 『神ではない誰か』金枝 繁茂(p3p008917)は助けを求める人々の声を探知し、仲間達に伝える。
 どうであれ、無名偲校長は黒死環の破壊と赤石・ヒノコの殺害は必須だと言っていた。であるならば、やはりそれは完遂せねばならないのだろうと繁茂は理解していた。
「急ごう! これ以上暴れさせていたら、もっと周りの子が悲しいことになっちゃう!」
 それでも繁茂は、元気に走り出した。
 校舎内に一気に突入したイレギュラーズ達は、迷う事無く三階を目指し階段を駆け上がる。
「胸糞悪ぃ……人格まで変えてしまう夜妖だ? そんなぶっ壊されて当然のもんがなんでヒノコの手に……」
 銀城 黒羽(p3p000505)は惨状を前に、苛立ちを隠さず歯噛みする。
「……いや、今はいい。今は、さっさとこの惨状を終わらせる」
 そう静かに呟くと、黒羽は自らの感情を殺した。
 やるべき事は決まっているのだ。ならばそれに不要なモノは排するのみ。
 そしてイレギュラーズ達は三階に到着した。標的は、探すまでもなく見つけられた。廊下のど真ん中に。
「ア、ハハ、ハハハ……」
 その姿をイレギュラーズ達が捉えた一瞬の後、廊下に緑の閃光が奔った。ムスティスラーフが放った、超威力の超必殺技だ。
「アハ」
 ヒノコはギョロリとイレギュラーズ達を見、そして小さく笑った。
「あらら、アレは完全に狂気に呑まれてますね……狂気的な感情は原動力としてはとても強いんですけど、ああなってしまっては……」
 角を隠すためのフードを目深に被り直しながら、『蔵人』玄緯・玄丁(p3p008717)は呟いた。
 自ら制御できない狂気など、ただの枷でしかない。
「黒死環……誰かが作ったものなんだとしたら、とんだ不良品だね」
 厄介という意味では変わりないけど、と。心の中で呟くと、玄丁は脇差の刃を抜いた。
「ア、ハハ、アハ……」
「ふざけやがって……!! ただの人間がこんな風になっちまうってのかよ!! 一体どこのどいつが……!!」
 火焔をまき散らし、嗤うヒノコ。その異様な姿を目の当たりにしながらも、『特異運命座標』トキノエ(p3p009181)は手を止めてはいなかった。
 ヒノコの身体に手をかさずと、トキノエの全身から放たれた黒き呪いの霧が、ヒノコの全身を蝕んだ。
「……おい、俺の声が聞こえないのか!? 頼むからもう止まってくれよ!!」
 それは恐らくは意味のない呼びかけ。それでも、トキノエは目の前の少女に訴えかけられずには居られなかった。
「いよ~っし!! 全員こっちに集合! 慌てないで、でも急いで!! 俺に付いてきてくれ!!」
 イレギュラーズ達の強襲によって、ヒノコの意識は一気に生存者達から離れた。それを確認し、明るい口調で教室に隠れていた生存者達に投げかける『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)――その人格の片割れ、虚。
 虚の誘導と、虚と同様に救助人員である才蔵の冷静な呼びかけによって、パニックに陥っていた一般人達が動き始める。
「大丈夫!! 外に出るまでの道は確保してるから!! この階段を真っすぐ降りて、そのまま窓から外に出て!!」
 この高校では、多くの命が奪われた。
 だが同様に、イレギュラーズ達の手によって多くの命が救われていったのである。


「フフ……なあに、あなたたち? ……ごみはごみ箱に帰った方が、いいんじゃない……?」
 突如として現れたイレギュラーズ達に驚くでもなく。ヒノコは炎を放ち続ける。
「俺たちがゴミか。なるほどな……だが、だったらアンタはどうなんだ?」
 黒羽はヒノコの前に張り付きながら、淡々とそう言い放つ。
 全てを焦がす黒炎も、黒羽が纏った闘気の鎧が真正面から受け止めていた。
「意味も目的もなくただひたすらに炎を撒き散らすだけ……それにアンタ程度の炎じゃ俺あ死なねぇ。ぬるすぎる。燃やせないゴミは大人しく地面にでも潜ってるんだな」
「ハハ、アハハ……! 面白い冗談、ね……フフ」
 ヒノコの燃える拳が、黒羽の脳天を打つ。だが闘気の鎧は、その強烈な一撃をも受け止めた。
「所詮、薄皮を焼く程度のぬるい炎じゃあ、俺の命まで燃やすことは一生かかっても出来ねぇよ」
 そして変わらぬ調子で、黒羽は挑発の言葉を投げかける。
 自らの役目はとにかくヒノコの動きを封じ、攻撃を受け続けること。
 徹頭徹尾、黒羽は自らの役割を遵守する。
「これ以上は、させません……絶対に、絶対にここで止めてみせます……」
 どこか悲痛さすらも感じさせる声色で呟くエルシアもまた、自らの役割をこなす。
 遠方から放つ熱線が、ヒノコの肩を一瞬にして貫いたのだ。
「ん、ちょっと痛い、かも……? アハ、ウザいなぁ……」
 ヒノコは笑い声を零すと、エルシアに向け指先を向ける。すると小さな炎の塊が次々と放たれ――。
「アツ!! ちょっと! ハンモは焼いてもお芋みたいにこれ以上おいしくなれないんだよ!!」
 ものすごい勢いでエルシアの前に割り込んだ繁茂が、その巨体で火炎弾を受け止めた。
「ハハ……じゃま。どいて……目障りだから……ウフフ」
「イヤだね!! それに出会っていきなりじゃまとか目障りとかヒドクない? そういうのあんまり良くないと思う!!」
「そう。じゃあ死んで……アハハハ……!!」
「イヤだね!!」
 ヒノコは再びエルシアを狙い火炎弾を放つが、繁茂はしぶとく立ちはだかる。
「そうそう何度も同じ技は喰らわないよ! あんまり!!」
 そう言い放って、繁茂はその剛腕で手にしていた杖に魔力を込め、渾身の力で床に叩きつける。すると爆音と共に魔力の衝撃波が放たれ、向かってくる火炎弾の多くを弾き飛ばした。
「アハ……どうしておとなしく燃えて死んでくれないのかなぁ……ふしぎ……フフ、フフ……ん?」
 薄気味の悪い声を漏らすヒノコが、不意にその背後に気配を感じた。が、時すでに遅し。
「このイカれた事態の元凶、さっさとぶっ壊させて貰う……!!」
 ヒノコの背後に回り込んだトキノエが、指輪を嵌めたヒノコの右手の切断を狙い、魔力を帯びた闘気の刃を叩き付ける。
「あら……ウフフ、もしかしてアナタ達、コレが欲しいの……? アハ、アハハハハ……!!」
「別に欲しくはないよ。地味だし」
 玄丁は坦々と言い、黒き刀身の脇差を構え直す。そしてヒノコの動きを観察する。
「(確かに目撃証言の通り、ヒノコの動きは素早い。中々芯を捉えられないというか――だけど、追いつけない程じゃない)」
 そう結論づけると、すぐさまヒノコに接近。脇差に手を添えたまま、ヒノコに投げかける。
「ところで、君はとても素早いんだってね? じゃあ……僕と勝負しようか」
 ヒノコは応えず、その両拳を床に叩きつける。するとヒノコの周辺の床が眩い光と共に赤熱し、いくつもの火柱が上がり周囲を焼き尽くした。
 しかし玄丁は身を翻す。火柱と火柱の間を縫って器用に攻撃を避けると、
「今のは大して速くないんじゃない? ……ま、遅くても速くても関係ないんだけど、ね」
 そう呟いて、刃を二度振るった。
 高速の斬撃はヒノコの胴体に深い十字の傷を刻み込む。その傷口からは鮮血ではなく、激しい炎が噴き出していた。
 それでもヒノコは変わらず不気味な笑いを零していた。そしてそのまま次なる攻撃に繰り出そうとするが――。
 突如として激しい銃声が辺りに響き渡り、1発の銃弾がヒノコの首筋を掠めた。
「ふむ、確かに素早いな……ああ、待たせたな。要救助者は全員避難させた。残りの仕事を終わらせるとしよう」
 銃弾を放ったのは才蔵だった。避難活動を終えた才蔵は、虚と共に戦闘に合流する。
「助けられる命は、ほとんど救い取った……あとは、もう1人……」
 どう見ても眼前の相手は正気ではなく、もはや人間と呼べるかどうかもわからない。だがそれでもムスティスラーフは、決して希望を、夢を捨ててはいなかった。
「あは、アハハ……『無駄だ。この娘の精神は既に喰らいつくした。残っているのはその残りカスのみだ』」
 その時、ヒノコの口から、禍々しい声色の言葉が紡がれた。それは、間違いなく別人の声だった。
「今の声――まさか、ヒノコちゃんは黒死環に……夜妖に乗っ取られてるっていうのか!?」
 虚は前線に立ち、炎を受け続けてきたイレギュラーズ達の傷を手早く癒しながら、ヒノコを――いや、その中にいる『何か』を睨みつけた。
「『喰らいつくした、と言っただろう。もはやこの娘の中の狂気と力が消える事はない。全ては、無駄な事だ』」
「黙って聞いてりゃペチャクチャと……やってみなきゃ分かんねぇだろうが!! とりあえずお前は――」
 虚は両拳を固く握りしめる。すると握った拳に業火が纏い、徐々にその勢いを強めていく。
「一発、いや、二発……何十発でもぶん殴ってやる!!」
 そう言い放ち、虚はヒノコのすぐ側まで接近。業火の拳の連撃を凄まじい勢いで放っていく。
「これでどうだッ!!」
 同様に炎の纏った拳で受け流していたヒノコだったが、ついにその拳がヒノコの鳩尾を捉える。ヒノコは歯を食いしばりながら、数歩後ずさった。
「ク…………『無駄だと言っている』」
「うるせえっつってんだろ!!」
 飄々と立ち続けてきたヒノコの表情にようやく焦りが見えてきた。
 終わりが近づいてきているのを、その場の誰もが感じていた。


「ねえ、まだ……? 早く、早く燃えてよ……!!」
 受けた傷が深まるにつれ、ヒノコの攻撃は段々と激しくなってきていた。
「どれだけ焦っても、ハンモ達はそう簡単に燃やされないよ!!」
 繁茂は立ち続ける。ヒノコの火焔に包まれながら。
「ヒノコも着実に弱ってきている……ここまでは無理だったが、そろそろいけるか……?」
 ここまで慎重にヒノコの動きを観察し続けてきたトキノエは、ヒノコの動きに隙が出来始めている事を感じていた。
 一撃。とにかくその右腕に強烈な一撃を叩き込めれば……。トキノエはじっとその機会を待った。
「わた、私はただ、もっと火を、火をみたいだけなのに……!!」
 嗚咽を漏らしながらヒノコが滅茶苦茶に炎を撒き散らした、その一瞬に。トキノエは確かな好機を捉えた。
「毒も薬も、使いよう……正しく使えば、役に立つ……こんな風になッ!!」
 トキノエはヒノコの足元目掛け、呪力と闘気を混ぜ合わせた赤黒い珠を撃ち出した。その珠は床に着弾すると同時に、下から上へ突き上げる様に、無数の赤黒い槍を生み出した。
「ッ……!!」
「狙い通りだ」
 ヒノコはそれを避ける間もなく。槍の1つがヒノコの右手首を貫き、そして切り離した。
 ボトリと落ちたヒノコの手首は、更に出現した槍によって粉々に吹き飛ばされた。
 黒死環と共に。
「『貴様らぁ……!!』」
「オマエがやった事に比べれば、こんなもんじゃ済まされねぇぜ……!!」
 虚はヒノコの中の『何か』にそう言い放つ。着実に回復役として仲間の傷を癒しながら。
「ア、ハハ……痛い……!! 痛い!!」
 ヒノコは手首の断面から火炎を噴き出し叫ぶ。そんな光景を、エルシアは黙って見つめていた。
「とても苦しそう……『喰らいつくした』とあの声は言ってました。けど、本当に……?」
 痛みを感じ狂った声を上げているヒノコの中には、まだ確かにヒノコ本人の魂が残っているのではないかと思わずには居られなかった。
「けど、黒死環を壊しただけでは、ヒノコさんに変化は無い――ならば、やはり続けるしかないのでしょう」
 そう呟き、エルシアは再度己の魔力を集中させる。結末がどうなろうとも、攻撃の手を止める訳にはいかないのだ。
「ウザい、ウザい……燃えてよぉ!!」
「…………」
 もしも黒死環の本体がヒノコの宿主を変えようと足掻くならば。エルシアはその力を自らに向けさせる覚悟すらあった。
 それは目の前の相手を救いたいという願い――あるいは祈り。
 エルシアはその祈りを力へと変え、そして魔術を発動させた。これまでで最も強烈な熱線が、ヒノコの全身を包み焼き焦がす。
「グ……ウグゥウウウウウ……!!」
「安心して、もうすぐ終わるから。どうであれ」
 玄丁は灼熱にもがくヒノコの背後から突如として出現。その背に深々と刃を突き立てた。
「どんな仕事も詰めが肝心……ケアレスミスで全てを逃すのはアマチュアの仕事だ。このまま終わらせるとしようか」
 火焔は絶えず周囲の空気を焦がす。だが才蔵はその熱に呑まれる事なく、いつもの営業スマイルを絶やさずライフルを構えた。
「(既に黒死環は破壊された。ならば今の最優先事項はミス・ヒノコの動きを一瞬でも止め、味方の援護をする事)」
 引き金に指を添えながら、才蔵は脳内で無意識的に自らのすべき行動とその手順を組み立てる。
「アァアアアアアア!!」
 ヒノコが乱射した火炎弾の一発が、才蔵の肩を貫いた。だが、それがどうしたというのか。
「この程度の事で動揺する様じゃあ、サラリーマンなんて勤まる筈もない」
 誰に言うでもなく呟くと、才蔵は引き金を引いた。精確に放たれた氷の弾丸はヒノコの脚を貫き、それに合わせてイレギュラーズ達が次々と攻撃を叩き込んだ。
「グ……ウグ……!! 『器が破壊された以上、この肉体が最後の砦……やらせはしないぞ……!!』」
「黙りなよ。僕は絶対に君を……お前を許さない」
 ムスティスラーフは静かな怒りと覚悟を胸に、言葉を絞り出す。火傷だらけの己の身体を顧みることもせず。
 ヒノコの中に『何か』、夜妖が居る。そしてそいつは黒死環を破壊しても消えなかった。ヒノコの命を救いたいと考えるならば、状況は絶望的。
「関係ない」
 ムスティスラーフはそんな頭の中の計算を否定した。僅かでも希望があるのなら、最後まで捨てることなどあり得はしない。
「『何度でも言おう。無駄だ!! 貴様らの願いなど――』」
「…………終わらせよう」
 ムスティスラーフは『声』を無視し、仲間たちに呼びかけた。そして一斉にイレギュラーズ達が動き出す。
 才蔵が放った弾丸がヒノコの脚を再び貫き、反撃に放ったヒノコの火炎弾を繁茂が真正面から受け止める。
 玄丁はまるで踊るような動きでヒノコの全身を切り刻み、虚が灼熱の拳を叩き込んだ。
 トキノエは呪力で生み出した黒い刃をヒノコに突き刺し、エルシアは尽きかけた魔力を振り絞り魔力の弾丸を撃ち放つ。
 狂乱するヒノコの眼前に、黒羽は最後まで立ち続け――。
 そしてムスティスラーフはヒノコを抱擁した。優しく、その両腕で包み込んだ。
「…………」
 ヒノコは、ほんの一瞬だけ、温かさを感じた。それは全てを焦がす火焔に劣る、ささやかな熱。
 ヒノコの瞳から狂気の色が消える。その目の端から、一筋の涙が流れた。口を小さく開き、何かを呟いた。
「フ……ウフ、ウフフフフ……」
 しかしその一瞬の後、再びヒノコの目に狂気が宿り始めた。
「……もう眠る時間だ……その狂気、苦痛、俺が引き受けてやる」
 そんなヒノコの額に黒羽が手を添えると、ヒノコが感じていた全ての『痛み』が黒羽に流れ込む。
 一発の銃声が響いた。隙を見せれば誰かが今度こそ焼き尽くされるしれない。才蔵は、ヒノコの脳天を撃ち抜いた。
 ヒノコの身体から、一気に熱が失われていく。
「…………ごめん」
 ムスティスラーフは呟くと、ヒノコの両瞼をそっと閉じさせる。そしてヒノコを抱きかかえたまま、立ち上がった。
 ムスティスラーフの脳裏に、最期にヒノコが残した言葉が反響する。
 狂気と正気の狭間で、ヒノコは確かにこう言った。
 ありがとう、と。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

これにて依頼完了です。お疲れさまでした。

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