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シナリオ詳細

<悠遠遊園地>夢見誘昔メリィ・ゴーラウンド

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●I held a coin in my fingers――
 嗚呼、嗚呼! やっと、やっと見つけてやったぞ。此処が、私が追い求めて居た、夢に迄視た遊園地。
 我楽多が積み上げられ、錆び付いたスピーカーから毀れ落ちるオルゴール調の音樂は耳の奥でザラつき、形容し難い不安もすら煽るが、然し如何して心を攫んで離さない。園内パンフレットを頼りに、奔り出したい衝動を抑えながら辿り着いたのは――。
 ぎぃ、ぎぃ、と軋み上下動を繰り返し廻り続ける回転木馬。嗚呼、そうだ。此れこそが!
 何時の間にか熱く握り締めて居た掌を開く。入り口で手渡されたコインは三枚。

『とは、言ってもですね。三枚も使う人は希少なのです。皆、大抵は一回で満足して帰ってしまいますから』

 にこりともしないキャストの言葉を思い返して居れば、不意に音が止んだ。昇降口から出て来た者達は、満足気な笑顔で、すっきりと憑物の落ちた様であるとか、若しくは涙乍らに何者かの名前を呼び続けるだとか、様々だったが――成る程、確かに次の搭乗を待って立ち並ぶ列など見向きもせずに去って行くから、『満足した』のであろう。
 そうして、最後のひとりまでを見送った木馬は次の乗客を求めて恭しく頭を垂れた。独りでに開いた柵を潜って行く者達は一様に皆口少なで昏い貌をして――大きな不安に今にも押し潰されてしまいそうな、そんなほんの少しのちっぽけな期待を胸に箱へコインを投入して吸い込まれて行く。
 <悠遠遊園地>。そして此れこそが私が探していた、幸せだった筈の過去と、屹度幸せな筈の未来の光景を観せてくれると噂の回転木馬だ――。

 或る男の手記《1》――
 私の人生は、大凡において『ついていない』『不幸』なものであった様に思う。
 私には、幼い時分より友達がふたり居て何時も其の三人で連んでいた。腕っ節が強く少しだけ手は早いが性根は心優しい彼と、誰からも愛される縹緻と茶目っ気を持ち合わせた親しみ易い彼女。そして私の三人だ。
 聡明な読者――いや、些か陳腐過ぎて使い古されたテーマであるが、然し、筆者としてこう云わせてくれると少しは箔がつく。『此処迄読めばお判りであろう』――私も彼も思春期を迎えた頃には彼女の事が好きに成った。お互いの胸中を識っても表立って其れについて言い争った事は無かったし、取り合おうとする事も無かった。寧ろ尊重し合って居た気もする。男の友情、とでも謂ったら良いだろうか。
 私達が成長するに到って『戀』だなんて未熟な感情をそうして育んだ様に、彼女にも其の感情は極当たり前の様に芽吹いて、そして自然と彼の手を取った。まあ、当然とも言えよう。私と来たら病弱で、ひとりで居る時などは専ら空想遊びに耽っていて、蔭では『彼と彼女の取り合せに何故私が入る余地があるのだ』だとか、『家が金持ちで』如何の――と根も葉もない噂話が常に付き纏って居た。其れを聴くに及べば、必ず彼は怒ってくれて――
 本当に良い男なのだ。だから、彼女の気が彼に向くのは遅かれ早かれ、位の時間の問題であったのだ。ふたりが結ばれたのは悦しかったし、友人として祝福もした。ふたりは付き合い始めても変わらず私の事を気に掛けてくれていたし、其れで友情が破綻する様な事も無かった。
 だが、戀心に代わって私の多くを占めたのは酷い劣等感と行き場を失くした劣情――そんなもので。
 惨めだった。逃げ出してしまいたかった。私の事等、捨て置いて欲しかった――だから。

 後ろ向きに乗って過去の感傷に浸って居た私に木馬が見せたものは……――嘘だろう?
 ふたりの結婚式、友人代表のスピーチをして居る時の己だ。『お幸せに、そして此れからも宜しく』だ等と、少し誇らし気に笑って見せたが腹の底では何を思ってたかは口が裂けても云えたもんじゃあない。
 まさか、此れが今迄の人生で本当に幸せだった瞬間だとでも?
 私の不幸の上に成り立ったふたりの幸せが、私の最大の幸福だったと?
 其れでは随分といい子ちゃんではないか、そんな、莫迦な。私はピエロなんかじゃあない。

 或る男の手記《2》――
 終わったと同時に次の搭乗を待ち侘びる者達の列へと奔り出していた。最後尾に着いて、二枚目のコインを躊躇う事なく使ってやったのだ。
 ならば、ならば。せめて幸福な未来を見せてくれ!
 其の一心で、私は今度は前を向いて馬へと跨った。歔欷する、いい歳の男が乗るのは如何なものかと云う事に付いては問題無い。一縷の光を追い求めて老若男女、皆、皆、皆。己の『幸せ』にしか興味が無いのだから。
 軈て、廻り始めた回転木馬。決して座り心地の良くない其れも、上下に揺れる度に軋む音も二回目ともなれば、もう気にならなかった。軈て私の意識は凍てしを染むる落日の琥珀色に包まれる。

 ――『彼女と子供の事を宜しく頼むよ』
 産まれて間もない赤児に頬擦りをした彼は、そんな事を託して戦争に行って――呆気なく、還らぬ者となった様だった。
 ――『他ならぬ、お前なのだ。安心して残して行けるさ』
 嗚呼、私と来たら肺が弱いものだから徴兵を免除されてしまって随分と肩身の狭い想いをしたし、後ろ指を差され『役立たず』の烙印を押されて何とまあ、愍然たるものである。訃報を聞いてさめざめと泣く彼女の泪を拭ってやる資格も無いのだ。替われるものなら、私が替わりに行きたかった。幸せの絶頂に在ったふたりに随分な仕打ち。お前はそうは言ったが、本心じゃ私の事を呪っていたに違いない。此の情けない私を、羨んだ事だろう。
 其れ処か――未来の私は、哀しみに暮れる彼女の肩に手を遣りながら、笑ったのだ。嗤っていたのだ。漸く、手に入ったと。
 戯けが! 大嘘吐きめ! 私の心は其処迄、穢れて居ない。私の心は、私だけのものなのだ。そう、だから今見た光景は全てがまやかしだ、私は信じない、信じないぞ――

 《追記》
 何たる事か! 何たる事か!
 失意に塗れて遊園地から帰れば、現実は虚構の幸福をなぞる様に程なくして戦争が始まり、そして。一言一句違わぬ事を吐かした彼は兵として国の為に散り。
 そして私は、流涕し、感涙に噎び、片笑んで居た。ゾッとした、自分の本性に。彼の死を何処かで悦んですら居る己の薄汚さに――だから、逃げ出したのだ。余りに悍しい感情から逃げ出したい一心で彼女と子供を置き去りにして、私は今一度彼の遊園地を目指す事にした。

 残されたコインは、後一枚――

 ――
 ―――
 手記は、此処で途絶えている。

●"Hope" is the thing with feathers――
「――と、詰まりはこう云う訳さ」
 或る男が綴ったとされる其の遊園地は、確かに、間違いなく。当人に取って。
 ――過ぎ去りし人生の中で幸福であった瞬間を、
 ――此れから訪れる人生に於いて幸福な瞬間を、見せる回転木馬が存在する。
 嘘も偽りも無く、だからこそ時に其れは残酷な事が偶に傷だとしても。概ねなら、二度と戻れぬ幸せも、未来に起こり得る幸せも、そう悪いものでは無い筈で。
「――過去を覗きたければ、進行方向とは後ろ向きに。
 ――未来を識りたければ、前向きに乗る。此れがルールみたいだね」
 『怖ければ、若しくは悩むなら、横向きにでも乗ってみたらどうだい?』と付け加え、『ホライゾンシーカー』の双子の片割れ、カストルは紅薔薇の眸でほがらに笑い、行ってみたいなら寄っといで、寄っといで、と【貴方/貴女】を誘った。
「嗚呼、けれど。貪欲なのは良い事だとしても、コインはひとり、三枚迄らしいんだ。
 人生で、たったの三枚だけ。誰かに譲ったり、譲って貰うのは駄目だよ」
 然すれば、もう半分であるポルックスが首傾けて、音幽かに青水泡の眸を瞬かせ疑問を口にした。
「過去を一回、未来を一回。其れなら判るわ。なのに、何故コインは三枚なのかしら?」
「さあね、此の手記の持ち主が――
 或いは君達の中で『三枚目を使う』人が居るなら。何方を向いて座る事にするのか、大変興味深いよ」
「ええ、とっても識りたいし……――そうだわ!
 何方を向いて乗る人が多いかで賭けない? 取り分は明日のおやつよ」
「良いねえ。なら、僕は【過去】にベットを」
「わたしは【未来】にベットを! 其れじゃあ、行ってらっしゃい、特異運命座標《イレギュラーズ》!」

NMコメント

 しらね葵(――・あおい)です。
 この度は当ラリーノベルのオープニングを読んで下さり、有難う御座います。

●目的
 メリィ・ゴーラウンドに乗る。

●『悠遠遊園地』
 ――ゆうえんゆうえんち。
 訪れた者全てに等しく、何故だか懐かしい気持ちを懐かせる不思議な場所。
 今回はメリィ・ゴーラウンドにのみスポットを当てている為、他のアトラクションで遊ぶ事は出来ませんが色々と曰付きな遊園地の様です。

●プレイング書式例
○プレイング文字数節約の為にアドリブの可否は、否の場合のみ『アドリブ不可』とご明記頂ければと思います。
 プレイング内に其のお言葉が無かった場合や、ステータスシートに『アドリブ歓迎』とあれば或る程度のアドリブ描写を用いる事も御座いますので宜しくお願い致します。

○過去、幸せだった姿を見たい方はメリィ・ゴーラウンドの進行方向に背を向けて。
 未来、幸せである姿を見たい方は前を向いて。
 プレイングの冒頭に其々【後】か【前】かをご記載の上、何の様な光景を見たか、をお教え下さい。

○おひとり様でご参加頂いた場合は、関係者を除き、特定のPC様の名前を出す事は出来ません。
 過去は、其れこそ物心つく前の。大抵の人が覚えていない時の事から現在迄。
 未来は、極近しい未来から、自分が死ぬ迄の間の間の近いか、長いか、判らない此れからを。
 あくまで其のお方の心情がメインとなりますので、直接の描写は控え彼是とぼかしたものになる事をご了承下さいませ。
 
○ふたり以上でのご参加の場合
 二行目にお相手の呼び名とIDを記載するか、迷子防止の為のグループタグをご使用下さい。
 複数人で見る『幸福な光景』は共通のものとなります。
 過去も未来も其の『全員が居る範囲でのもの』しか見えない為、誰かひとりの幸せの追体験等は今回は出来ません。

○亦、未来については『現状で確定している事』です。
 覆らないとは限りませんし、PC様の此れからに確実な保証を齎すもので無いと云う事のみ御留意頂けましたら幸いです。
 突き詰めて言ってしまえば、『此の幸せな光景は自分としてこうじゃない感ある』と云うのに対して、其れに到る迄の数ある選択肢から可能性を排除する――といった事にも利用出来るかも識れないでしょう。

●ラリーシナリオにつきまして
○一章で使えるコインは一枚です。
 依って、二回目以降の搭乗予定の方がいらっしゃいます場合は、お手数ですが章が代わりましたら再度ご参加下さいませ。
 期間はゆっくり目ですが、其の間は鋭意的に執筆させて頂きますので、二章目以降に初めて乗るご新規の方もお気軽にどうぞ!

 以上です。皆様のご参加、プレイングをお待ちしております。

  • <悠遠遊園地>夢見誘昔メリィ・ゴーラウンド完了
  • NM名しらね葵
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年12月18日 15時50分
  • 章数2章
  • 総採用数7人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女

●自己形成の推移と善悪境界の変遷 Model.メリー・フローラ・アベル

 人は、死に行く時に是迄の己を象るに当たって印象的であった風景を自ら選択したアルバムを遡り乍ら息を引き取ると云う。
 其れは屹度こんな風に。――然して、吐き出されるフィルムには何れにも『暴力』が傍にあった。
 故に彼女の幸福とは握り締めた拳の数と同義と定義が可能で――街の駐在所の警官が引鉄を絞るに到る迄をメリーは眺めている。

 三歳、癇癪を起こして街灯を割った。多分、其れが始まり。

 四歳、駄々を捏ねてパパに怪我をさせて、暫く腕を上がらなくさせた。
 
 五歳、幼稚園の意地悪な男の子を怪我させて一生寝たきりの体にさせた。

 六歳、小学校に入学して直ぐ、口五月蝿い先生の頭を吹き飛ばした。
 
 七歳、綺麗なスーツを着た知らないおじさんの頭を消し飛ばして、財布からお金を抜き取った。

 ――→全て理由は思い出せない。

 八歳、傷つけたり殺したりする為に、一応『其れらしき』理由を探す様になった。わたしってば賢いから。

 九歳、答えを得る。傷つけたいから傷つけて、殺したいから殺す事にした。

「そうね、わたし、何時だってとても楽しかった!」
 此の『楽しい』は、蟻の巣に水を入れたり、捕まえた蛙の腹を裂く、其処ら辺の子供と何ら変わり無い筈で。
「だから彼のお巡りさんは全く子供心が判って居ない。野暮、サイアク!」

「――次に逢ったら。絶対、殺してやるんだから」

成否

成功


第1章 第2節

咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳

●P(Ω)≠1 Model.咲花・百合子

 吾は、――私は。未来余地だなんて、特別な力は持ち合わせて居ない。
 其れは、『コップを離せば其れは落ちる』『中に入った水は溢れる』と云う、当然の帰結――誰しもが想像するに容易い思考の一環、或いは延長線上の物だ。

 『生徒会長』とは、最強を意味する地位であり――
 『美少女』で在れば垂涎ものであり争う事は遺伝子に組み込まれた、謂わば本能である。
 
 だからこそ天に仰ぎ地に伏す等あってはならない。
 今でこそ、他の追従を赦さぬ鍛え抜かれた美少女力は『飢え』と『寂寞』すら彼女に齎して居るが、此れは、彼女が生徒会長の座を奪って直ぐの事。
 圧倒的な数の暴力は、学園への帰路を急ぐ百合子の身を『少なくとも、後五分殴り、蹴り続ければ死ぬ』迄に追い遣った。

 故郷に錦を飾り――華やかな凱旋パレェドだって夢想したと云うのに。
 泥塗れで虫の息。

「って云うか、此れってフェアじゃなくない?」

 其の貌には、覚えがあった。美少女の風上にも置けぬ、そんな理由で。
 私なんかよりもずっと弱くて、臆病者。愚かで、理想ばかりが高くて、口だけが達者。
 そんな女に救われたとも為れば、面汚しだと云うのに――

「どうせ生徒会長になったらボッチなんだからさ、」

 追憶の中の女は、そんな事を曰うものだから。
「呵呵! お前の様な者が私を殺すのだなと感じて居たが、成る程――此の感情はそうか! 喜びであったか!」

成否

成功


第1章 第3節

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って

●Chaos theory Model.イーハトーヴ・アーケイディアン

 彼が確認した幸福に類似する非周期的な軌道は赫で以て定義される。
 次の三つの条件を満たす未来、即ち

 1.初期条件として俺はもう永くはない命である
 2.彼女が最期まで俺の傍に居てくれると云う事は切に願う幸せ(I)が成り立つ
 3.夢想する幸福とは死に非常に稠密だ――常に付き纏う希死念慮に所以する

「ごめんね、オフィーリア」
 口から漏れる不規則な雑音だけが其の部屋を乱して居る。倒れた男に立ち上がるだけの力は既に無く赫が複雑な振る舞いで其処彼処に咲き乱れ、懺悔の言葉と共に亦、毀れ落ちた。

「ドレス、汚しちゃったのに、着替えさせてあげられないや……
 嗚呼、本当はもっと早くに、君を、大切にしてくれる誰かに託すべきだった」
 でも、彼女は最後まで、良しとはしなかった。

 持病に加え、幾度と無く繰り返した度を越す服薬、随分な無茶を軀に強いていたものだから。
 嫌われて当然だと思って居た。

『ねえ、わたし。最期迄、今だって貴方を(アイ)しているわ』

 眼を僅かに見開く。其れで――彼女がそんな言葉をくれたから俺はやっと飛びっきり笑えたんだ。

「……ありがとう」

 其れが俺の最期の言葉。良かった、と胸を撫で下ろす。そんな結末があり得るなら、こんな今も生きてられる。
 唯、只管に前を見て微笑う。
「ねえ、オフィーリア
 何時も有難う、俺の――大切な、お姫さま」

成否

成功


第1章 第4節

ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)
ワルツと共に

●未来を表わす現在時制 Model.ラクロス・サン・アントワーヌ

『昔、むかぁし、或る所に――……』

 麗かな日差しの差し込む窓辺、ロッキング・チェアに腰掛けた女性が謳う様に物語を紡ぎ始める。
 始まりの言葉は、何時だって同じ。『私』――今は其の膝の上で大切に抱えられ、肌触りの良い熊の着ぐるみに包まれた可愛らしい赤ん坊は、如何せん、昼も夜も。其の御伽噺で無いと愚図って睡ってはくれないのだ。彼のお話に限って云えば。屹度、あれ程上手く語れる人は母さんを於いて右に出る者はいない。

 だから、嗚呼。そうか。
 成る程、合点が行った。此れは未だ、私が。
 
 ――辛い
 ――苦しい
 ――嫌だ
 ――怖い
 ――助けて

 こんな感情を、聲を挙げて泪を流す事で、誰かに救いを求める事が出来た幸せな光景。
 
『――王子様はお姫様と、幸せに暮らしましたとさ。目出度、目出度』
 決まり文句と共に本は閉じられ――否、本当は其れすら要らなくて。母さんの頭の中には物語が一言一句違わぬ位に入っていた事であろう。

「ふふ、迷惑を掛けてしまったなあ。其れに、随分と遠い処まで、来てしまった」

 仰ぎ見た空は雲一つ無い晴天で、泣くにも向かず。からりと乾燥した空気が、滲んだ水分を攫って行った。
 器用に木馬の上で足を組んで寛ぎ乍ら、想うは――。
「何だか湿っぽくなって良くないや。ねぇ、母さん? 私は、其の絵本の王子様の様に勇敢で優しい人に成れているかな」

成否

成功


第1章 第5節

襞々 もつ(p3p007352)
ザクロ

●相対性理論における観測系ごとの相対的時間進行差による論理的検証 Model.襞々 もつ

「遊園地!!! ご主人様と一緒に行った記憶がありますよ!
 まああの時はねっ、こう、ねっ。何て言いますか!!
 ぐるぐるカップに料理人としても美少女としても口から出しちゃいけないモノをぶち撒けちゃいましたが、今回は大丈夫!」

 お馬さんだもの。
 嗚呼、嗚呼! おにく(馬)さんはトロッと舌で溶けて、脂もあっさりして居てヘルシーでダイエットに最適――おっと?

「え? こっちは過去ですか――……
 はっ! そういえば昨日のおにく美味しかったのでもう一度味わいたいのです!!!」

 其の儘焼いたのでは彼の手のおにくは臭いったら無くて。
 おにくの癖に然も当然の様に布の服なんか着て恥ずかしがるんですよ。
 丁寧に毛を毟るのも中々骨の折れる大物でしたから。

 ――悲哀にバタつかせた肉付きの薄い腕と脚は刻みに刻んでハンバーグに!
 ――忍苦に膨らんだ胸肉は大胆に丸焼きのステーキに!!
 ――嘆願に喘いだ舌は湯掻いてタンカレーに!!!

「嗚呼、ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる、楽しいですね、嬉しいですね!!」

 ――ミキサーと来たら腕は良くても愛が無いんで私は嫌いです!!

「もっともっとお代わりください!!! お腹が、お腹が空いて」

 ――お姫様の呪いを解いてくれる『王子様』の口付け?
 は? 何を言ってるんですか其れは『おにく』でしょう――……?

成否

成功


第1章 第6節

古木・文(p3p001262)
文具屋

●数学的確率と統計的確率の事例比較 Model.古木・文

 喩えば、君が【過去/未来】の何方を見るかに悩んだ末にコインを投げて決めたとしよう。
 高く爪弾いたコインが空に舞い上がって戻って来ないであるとか――或るいは着地した時に直立すると言った事象が必ず現れ――其れ処か、【裏/表】の何方かだけが優位に立つ訳では無く、即ち。
 双子が賭けた甘い菓子は誰かが横から総取り、だなんて事も有り得るのだ。

「だから僕は正直な話、横向きに乗ったら如何なるのか実に興味深くあるけれど――まあ、」

 『意地悪を、少ししようかな』なんて思いはしたものの――彼はぴぃん、と背筋を伸ばして。人生でたった三回の試行回数の一回分を取り敢えずは、前を向くと決めた。

 ――聲。聲が聴こえる。
 誰のものかは識らない、けれど、皆嬉しそうで。

 ――笑って居る、誰かの肩越しに、空が見えた。
 碧瑠璃の天に、霞みの様な白い月の照り沿う爽やかな秋晴れの空。

 ――何か、良い報せでもあったのだろうか。
 誰とも識れぬが、肩を組んで、額を付き合わせて笑い転げる。
 秋桜の花搖れる、原っぱで。次の季節の冷たい湿り気を帯びた空気と草の匂いをいっぱいに吸い込めば、何たってこんな、深く満ち足りた想い!

 せめて名を、と思い立って手を伸ばした先には、静寂と頭を頭を垂れる木馬があった。

「何時か会う、其の時迄。お楽しみ――って事、かな。うん、頑張れそうな気がするよ」
 

成否

成功


第1章 第7節

ラウル・ベル(p3p008841)
砂の聲知る

●不確定事象xにおける仮定法過去の現在事実 Model.ラウル・ベル

 未来の事を知るには、其の少年は少し幼かった。然し過去の事で在れば心当たりは幾つか思い当たる。

 そんな彼の過去を不確定事象(=x)として代入し、覗いてみよう――

『何処に行っていたんだラウル、今何時だと思ってる』
 ――むすっとした貌で玄関に腰を降ろした父さん。何時だってそうやって僕の帰りを待って居てくれた。
 今日見つけた木の枝の中でもより一層立派な一振りは小さな勇者の剣で、彼方此方に出来た小さな傷と頬を伝った泪の跡は名誉の証。そう豪語する僕の頭にはごちんと一発拳が落ちて、其れが今迄の僕の心に深く根差して居る父の愛だ。

『まあ。お腹が空いたでしょう? ご飯をうんと作ったから、お土産話を聴かせてくれる?』
 ――鼻を擽ぐる野菜が煮えた甘い香り。母さんは何時だってお腹が一杯になる様にご飯を作ってくれた。
 こんな日は決まって一寸ばかし御馳走なものだから、其れが嬉しくて僕は何だかんだで帰って来る。ふかふかの焼き立てのパンと温かいシチュー、此れがお腹が空く度思い出す母の愛だ。

 人里への尽きない興味を語れば、其の度に、人とは恐ろしいと脅かされて居たのも今なら判る。僕は何て愚かだったのか。

「――嗚呼、どうか元気で居てくれれば良いのだけれど」

 僕の故郷を焼いたのは『人』だから。
 じくり、未熟な果実に針を刺す様な痛み。

「胸が、痛いよ。ねえ」

成否

成功

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