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シナリオ詳細

<Common Raven>偽りの理想に溺れて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●遺跡の最奥にて
「ひゃははは! 金だ! 金だ! どんなに使っても使い切れねえぜ!
 流石は『願いを叶える財宝』と言うだけはあらあ!」
 金色の豪華な椅子に座り、成金趣味の派手な服で着飾った男が、四方に無限に続く金貨の海に囲まれて歓喜している。
 肉感的な女達を周囲に侍らせた男は、その女達を思うがままに撫で回して女体の感触を楽しみつつ、供ぜられた美酒や珍味を貪って贅沢の限りを尽くしていた。
 実のところ、この光景は現実のものではない。男の精神世界で描かれている、理想の光景に過ぎないのだ。現実の男はただのみすぼらしい盗賊であり、ラサの遺跡群ファルベライズのとある遺跡の床に、十人ばかりの同胞と共に至福の表情を浮かべながら転がっている。
 この盗賊達は、『大鴉盗賊団』に属する盗賊達である。『大鴉盗賊団』は頭領コルポの野心の下、ラサを支配するために色宝の入手に躍起になっていた。その一環として、この盗賊達も色宝を入手するためにこの遺跡に入り――そして、色宝によって己が願望が叶ったと錯覚させられ、精神世界の中で自らの理想に溺れているというわけである。

「何だ、これは――!?」
 その場に足を踏み入れたイレギュラーズ達は、困惑を禁じえなかった。色宝を狙いこの遺跡に『大鴉盗賊団』の盗賊達が入ったからと、盗賊達よりも先に色宝を入手するか、盗賊達が入手した色宝を奪取してほしいと依頼を受けたものの、まさか当の盗賊達が遺跡の中で無防備に転がっているとは思わなかったからである。
 しかし、イレギュラーズ達の困惑は長く続かなかった。
「――汝が真に欲するは、何ぞや?」
 すぐにそんな声が頭に響き、意識がホワイトアウトしたからである。

「……あれ? ここは?」
 意識を取り戻したイレギュラーズは、周囲を見回す。そこには、イレギュラーズの願望が叶った理想の世界があった。
「……ああ、そうか。でも、どうして気を失っていたんだろう?」
 かすかな違和感は瞬く間に打ち消され、この世界は元から存在していたんだ、自分は元からここにいたんだとイレギュラーズの意識は認識していく。
 だが、実はイレギュラーズが意識を取り戻したのは、自身の精神世界の中でしかなかった。その身体は、盗賊達と同様に無防備にその場に転がっていた。

GMコメント

 こんにちは。緑城雄山です。さて、皆さんの願望は何でしょうか? 今回は、その願望が叶った偽りの世界から脱出して、色宝を手に入れて下さい。

●成功条件
 精神世界からの脱出=色宝の入手
 精神世界から脱出できれば、色宝が姿を現します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 現実世界ではファルベライズ遺跡群の遺跡の中ですが、精神世界の中では皆さんのプレイングによりそれぞれ変化します。
 いずれにせよ、環境による戦闘への影響はありません。

●プレイングについて
 このシナリオでは、願望や理想が叶った偽りの精神世界から、皆さんがどう脱出するかが肝となります。
 そのため、プレイングには以下の項目の記入をお願いします。

・願望や理想は何か
・それが叶った結果、どんな世界になっているか
・その世界が真実ではないとわかる理由
・???(後述)について

●??? ×1 ×8
 皆さんが自分のいる精神世界が真実ではないと気付いて現実の世界に戻ろうとした時に、精神世界に引き留めようとしてくる存在です。自分自身であったり、あるいは近しい人であるかもしれません。基本的に、皆さんと同じスペックを持ちます。
 この???に勝てなければ、皆さんは誰かに遺跡の外に出してもらわない限り精神世界から逃れられません。
 ???が近親者等イレギュラーズを攻撃するのが不適当な者である場合、GM判断で戦闘の処理は行いますが描写は会話などで行うという処理をする可能性があります。

●大鴉盗賊団 ×10
 自分の理想の世界に浸っているため、基本的にイレギュラーズの皆さんが色宝を入手するまでは現実に戻ってきません。
 その後、皆さんのプレイングの内容に応じて、現実に戻るまでの時間が長くなったり短くなったりします。
 流石にそのまま放置したりはしないでしょうから、お好きにどうぞ。

●描写について
 このシナリオのリプレイは、皆さん一人一人について個別に概ね700~800字程度で描写する形を取る予定です。予め、ご承知おき下さい。

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • <Common Raven>偽りの理想に溺れて完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
ファレル(p3p007300)
修行中
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
カイロ・コールド(p3p008306)
闇と土蛇
九重 縁(p3p008706)
戦場に歌を

リプレイ

●懐かしき実家
「……いかんな、ソファで寝落ちてたか」
 目を覚ました『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)が起きたのは、実家の中だ。育ての親である祖父から継いだ実家は築百年にもなろうという旧い家だが、壁や屋根は補修によってそれなりに新しくなっており、家具も同様である。
(……何故だろう。妙に懐かしく感じるのは)
 ずっとここで暮らしてきたはずなのに、久々に――それこそ、数年ぶりに――ここに帰ってきたような気分に囚われる。庭に出たマカライトは、ぐるりと家の周囲を見回した。玄関の方を見れば、高層建築など数えるほどしかない田舎町。反対を向けば、幼い頃から慣れ親しんだ山。
 マカライトは、もう一度家をよく見ようと中に戻る。そこで、壁に掛けていた何枚もの写真に、親代わりの祖父母や仲間、友人達が写っていないことに気付いた。
「そうだ……俺はまだ、『仕事』を終えてないじゃないか」
「……やっと帰りたい家に帰って来れたんだ。『仕事』なんて放っておいて、ずっとここで暮らせばいいじゃないか」
 この世界は真実のものではないと察したマカライトに、庭から声がかかる。声の主は、「邪神憑き」となる前の「人間」だった自分自身。
「ここに居ても仕方ないんだ。どれだけ懐かしい場所であっても、帰りたい場所であっても……まだ仕事が終わっていない。
 受けた依頼を終わらせずに帰るなんて、言語道断だ!」
 行く手を遮らんとする偽の自分に、マカライトは斬りかかった。何度かの攻撃の末に虚を衝かれた偽の自分が体勢を崩すと、マカライトは自身から生える鎖で黒竜の顎を編み上げ、偽の自分を噛み砕かせる。同時に、マカライトの意識もそこで途切れた。
「……仕事ほっぽってあのまま寝てたら、爺ちゃんやダチに殴られちまうだろう?」
 目を覚まして元の世界に戻ったのを確認したマカライトは、何処か寂しそうに独り言ちた。

●戻る事なき日々
「……きろ。起きろ」
「……あれ? ここは何処ッスか?」
 誰かの声で起こされた『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)が寝ぼけ眼を擦ると、アルマジロトカゲの獣種がその隣で呆れたように笑っている。カミツメと言う名の、鹿ノ子の主人だ。
 はっとした鹿ノ子の目の前には、取り込んだばかりの洗濯物。どうやら、仕事の途中でうたた寝をしてしまったらしい。
 鹿ノ子ははやく仕事を終わらせようと、洗濯物を再び畳み始める。カミツメはそんな鹿ノ子を優しく見つめ、鹿ノ子はそんな主人の姿に幸福を感じる。
 ふと、遠くから鹿ノ子とカミツメを呼ぶメイド仲間の声がした。
「ほら、早く行くぞ」
 メイド達の声に、カミツメは優しい笑みを浮かべながら鹿ノ子を急かす。
 それはかつて在りし、平和で素敵だった日々。こんな日々が続けば、鹿ノ子はどれだけ幸福でいられただろうか。
 しかし、ずっと続いて欲しかった日々は既に喪われたことを、もう元には戻らないことを、鹿ノ子は識っている。だから、鹿ノ子はこれを夢だと断じた。
「……どうした、鹿ノ子?」
 不意に足を止めた鹿ノ子に、カミツメは怪訝そうに尋ねる。
「……ごめんなさい、僕は行けないッス。あっちに本当のご主人がいるから」
 カミツメは魔種へと反転し、鹿ノ子達の元を去った。もう元に戻ることも、自分の足で帰ってくることも無い。だから主人を――例え殺してでも――連れて帰るとメイド仲間達に約束して、鹿ノ子は連れ戻しに出たのだ。
「……予行演習といきましょうか、偽物のご主人!」
 精神を研ぎ澄ませた鹿ノ子は、降り注ぐ流星の如き無数の斬撃を繰り出す。一撃一撃に、本物の主人を必ず斃すと言う覚悟、信念を確りと宿して。それは、あたかも永久の別れの言葉を紡いでいるようだった。
 数多の斬撃の果てに、鹿ノ子は偽物の主人を斃す。だが、今度はこう簡単にはいかないだろうと言う確信が鹿ノ子にはあった。

●世界中に溢れる意志の「輝き」
 『Enigma』ウィートラント・エマ(p3p005065)の眼前には、世界中の誰もが強い意志の輝きを見せることで光り輝く世界が広がっていた。数多の意志の輝きに魅せられ、その行く末を見届けたいと願うウィートラントにとっては、正に理想の世界と言えただろう。
「確かに、ここは素晴らしい世界でありんすよ……でもね」
 意志の輝きは儚いものだ。誰でも強い意志を持ったまま輝き続けられるわけではないし、紆余曲折の末に心が折れたままと言うのは珍しい話ではない。本当に意志を強く持ち続け、輝き続けられる者はほんの一握りに過ぎない。
 加えて、常にただただ輝き続けているとなれば、その輝きはいつか日常に埋もれて色褪せていくだろう。
(そんな色褪せていく輝きに、興味はありんせん)
 人の意志は鮮烈に輝けども儚い。だからこそ美しく、惹きつけられるのだ。
 そして何より、『このような輝きを放つ世界はありえない』。故に、ウィートラントはこの世界を偽物と断じた。
「それでもいいではありんせんか。わっちの望む数多の意志の『輝き』は、確かにここにありんす。
 ここで永遠に、『輝き』を眺めておくんなんし」
 そのウィートラントの前に偽のウィートラントが現れ、この世界に留まるように促してくる。言葉こそ穏やかではあったが、愛銃『MTG30-FOREST』を構えており、力尽くでも帰す気が無いのが窺い知れた。
「……本来ならばわっち自身が輝く事は望みやしいせんが、良いでごぜーましょう。
 今回ばかりは、わっちが輝いて魅せんしょう。
 本物の輝きを見る事がわっちの意思なのでごぜーますから!」
 帰さぬならば推し通るまで、とウィートラントは偽のウィートラントに仕掛けた。偽物の側も負けじと応戦する。自分同士の戦いは、先に偽物を麻痺させたウィートラントが、黒い狼の姿の妖精をけしかけることで勝利した。

●たくさんの料理と優しい『お師さま』
(……んん…ん? ここはどこだろ?
 たしか、色宝を大鴉盗賊団より早く手に入れるって依頼を受けて……。
 ……夢、だったのかな?)
 微睡みから目覚めた『修行中』ファレル(p3p007300)がいたのは、『お師さま』の家だった。『お師さま』はファレルが目覚めたのを確認すると、食事が出来ていると告げて起きてくるように促す。
 ファレルの鼻孔を、郷愁を感じさせる懐かしい匂いと美味しそうな料理の匂いがくすぐった。
「うわあ……お師さま、これ全部食べていいの!?」
 ファレルの目の前には、テーブル一杯に、いや、台所一杯に広がっている沢山の料理。
「もちろんだ。さあ、お食べ」
 『お師さま』はファレルの問いに答えると、テーブルについて料理を食べ始めた。ファレルも同様に、食事を始める。
 それからの時間は、ファレルにとって至福の時間だった。混沌に来る前の経験から餓死を恐れるファレルにとって、優しい『お師さま』と共に美味しいご飯を永遠に楽しめるであろうこの世界は理想そのものだと言えた。
「今まで、よく頑張ってきたな。これからは、ここでずっと一緒に暮らそう」
 くしゃっと、『お師さま』がファレルの頭を撫でる。
 だが、幸せな時間は長くは続かなかった。頭を撫でられた瞬間、心の底に燻っていた違和感を、ファレルがはっきりと認識したからだ。
「……お前は、『お師さま』じゃない!」
「何を言うんだ、ファレル?」
 ファレルは『原初の籠手』から、短剣から剣から斧からあらん限りの武器を創り出して『お師さま』を攻め立てる。『お師さま』も、戸惑いを見せつつも武器を創り出しつつ応戦した。だが。
「『お師さま』はもっと強い、厳しい。それはもう悪魔のようだった――でも、いつだって正しかった!」
 激しい連撃の応酬は、ファレルの勝利で終わった。同時にファレルが目を覚ますと、ぐうう~、と腹の虫が鳴った。

●訪れなかった未来
 豪奢な宮殿の広間にて『砂食む想い』エルス・ティーネ(p3p007325)は、始祖種にして吸血鬼の王たる父より至尊の冠を授けられた。それは、エルスこそがこれからの吸血鬼の王国の主であるという証。
「パパ、ママ……王となれた今日この日を、生涯忘れる事は無いでしょう」
 王となるため、そのためだけに千年もの時を過ごしてきたエルスは、感無量であった。即位を祝う声と拍手の中、父も母も晴れ晴れとした笑顔をエルスに向けた。
(嗚呼……本当に、こんな日を迎えられたらどんなによかったかしら……)
 そうであれば、エルスは家族と共に、平和で幸福な生活を永く送ることが出来ただろう。
 だが、エルスは識っていた。この光景が、決して訪れることの無かった未来であることを。何故なら、父は殺され、母は召喚され、三人が揃うことは永遠になくなったのだから。 
(ifなんかじゃ、気休めにもならない……父とも母とも、こうして喜び合いたかったのよ……!)
 父親に優しく抱かれ、その懐に頭を埋めるエルス。父親の大きな手が、エルスの頭を優しく撫でた。しかしこれが現実ではないと理解しているエルスは、父親の腕を振りほどいて離れようとする。
「……如何したんだね、エルス?」
「パ……こほん。父様、離して下さい。私には、戻らないといけない場所があるのです……!」
 腕の中から逃れようとする愛娘に、父親は怪訝そうに尋ねながら、愛娘を離すまいと抱きしめる腕に力を込める。
「何故だ? 私達も、国も民も捨てて一体何処に戻ると言うのだ?」
 その言葉に、この世界が偽りだとわかっていても、一瞬エルスは怯んだ。だが、父親の胸板に掌を押し当て、突き飛ばすように力一杯腕を伸ばすと、抱きしめた腕は解ける。そのままエルスは振り返ること無く、宮殿から走り去る。だが、その瞳からは一筋の涙がこぼれていた。

●究極の黄金を前に
「これは……実に素晴らしい――」
 『黄金を求める』カイロ・コールド(p3p008306)の眼前には、全てが黄金に輝く巨大な城があった。
 獅子を思わせる形の、黄金のゴーレムが恭しくカイロの側に侍る。そのカイロが持つのは、太陽の輝きさえもかくやと言わんばかりに眩く輝く金色の剣。死者すら蘇らせるという黄金の泉は絶えることなく滾々と湧き出でる。そして周囲一面を、海の如く希少な金貨が覆い尽くしていた。
 それらはまさに、カイロが本心から追い求めてきたラサの伝承『究極の黄金』そのもの。
「実に素晴らしく……気色の悪い夢ですね」
 だが、カイロはこれが現実ではないと気付いていた。確かにこれらはカイロが願い、欲したものである。だが『究極の黄金』はあくまで伝承に過ぎず、誰も見た事がない正体不明の秘宝がこれほどまでに全て都合良く揃っているなどあり得るはずがないのだ。
「怖じ気づいたか、カイロ? 儂らの求めた『究極の黄金』を前にして」
 元の世界で無防備に倒れている自分の姿を想像し、この世界から脱しようとするカイロの行く手を塞ぐように、一人の巨躯の男が立ちはだかる。『不退の怪人』ナン・アール。共に『究極の黄金』を追い求める親友だ。
「……? 誰ですか、こんな気味の悪い場所に引き留めようとするのは。
 ……あぁ、ナン。どう考えても偽物でしょうが、お久し振りですね?
 私は帰りますよ。夢は夢、現実で究極の黄金を手にする事こそが私達の本懐でしょうが」
 果てしなく続いた戦いは、カイロの勝利に終わる。本物とはあまりに違った戦い方に、やはりこのナンは偽物だったとカイロは確信した。

●盟友の顔は見えず
 『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)が盟友である『山賊』、『海賊』と飲み明かしているのは、いつもの酒場のいつもの席だ。
 それは、悪党達のいつもの光景。だが、その光景が繰り広げられているのは混沌とは似ているようで全く別の世界。何故なら、この世界にはいつか世界が滅びると言う運命は存在しない。魔種もいなければ、”呼び声”で誰かが反転することも無い。『海賊』を含めて多くの命が散った絶望の青の海戦も存在しなかった世界だ。
 キドーはそんな世界を気ままに謳歌していた。金、権力、美味い酒、いい女――俗物的な欲望を、享楽的に刹那的に追いかける。『山賊』や『海賊』と悪巧みだってするし、取っ組み合いの喧嘩だって演じてみせる。
 そこには、キドーの心に欠乏を感じさせるものは存在しない。当たり前のようにかつてのように振る舞える世界を、キドーは満喫していた。だが。
(……おかしい。『山賊』も『海賊』も顔が見えねえ。俺はそんなに呑んだのか?)
 盟友二人のものである、自分の倍以上の巨体と磯臭い匂い、それぞれの髭面に笑い声。それらはよくわかるのに、靄がかかったように顔だけがわからない。
(絶望の青で逝った『海賊』はまだしも、如何して『山賊』の顔まで――)
 そこでキドーはハッとする。そう、『海賊』はもういない。その事実を思い出した瞬間、キドーはここが偽りの世界だとはっきり認識した。
 急に立ち上がり、店から出ようとするキドー。しかし店の入口に、かつての――今は立てなくなったモヒカンを立てたままの――自身が立ち塞がる。
「何処に行くんだ? ここで昔のように楽しくやればいいじゃないか」
「俺が欲しいものはここにもねえ――退け!」
 とにかく動いて、欠けたものを見つけ出す。キドーはその意志を衝撃波に換えると、過去の自分の姿をした何かへと叩き付け、派手に吹き飛ばしていった。

●私だけが幸せでも
「いつまで寝てるんだぁ? ったくよぉ。そっちから言い出したっていうのに」
「……ん。蓮、さん……?」
 『ささぐうた』九重 縁(p3p008706)を起こしたのは、灰色の長髪をポニーテールに纏めた赤い瞳の少年だった。蓮と呼ばれたその少年は、縁と同い年の大切な存在だ。
 現代日本に酷似しつつも、人が操縦する巨大ロボットが当たり前のように存在する世界。その都市の一つ、千条市の自室に、二人はいる。
(――そうだ。今日は蓮さんをデートに誘ったんだった)
 縁は大急ぎで準備を整えると、少年と共に街へと繰り出した。
 一緒にランチを食べ、街をぶらついて、映画を観てと、幸せそうな表情でデートを満喫する縁。だが、その中で縁はこの世界に違和感を抱く。
 何しろ、日曜の昼間だと言うのに街に人気が無いのだ。確かに、青髪のニヒルな青年や白髪の活発な少女とは会った。しかし、それ以外の人々が見当たらない。
 違和感をはっきり認識すると共に、 縁は今まで混沌にいたこと、そして千条市への帰還と蓮との再会とを望んでいたことを思い出す。だが、これは縁だけが幸福な偽りの世界でしかない。
(……この夢に沈んでいられたら、私は幸せでしょう。でも、私だけが幸せでも嬉しくありません)
 一度も離したことのない手を、縁は振り払う。
「何処に行くんだ? お前の居場所は此処だろ」
 だが、蓮は縁の腕を掴み、その場に――この世界に――引き留めようとした。その言葉には何の悪意も無くて、ただ縁が蓮の側にいることを当然と思っているようで、だからこそ。
「……私は帰らないといけないんです。本物の貴方達を、救うために」
 再度蓮の腕を振り払った縁の意識は暗転し、次に縁が目覚めたのは、迷宮の中だった。
(あーあ。やっぱり目覚めなきゃよかったかも、なんて……なんで、泣いてるんだか)
 縁の目尻には涙が溜まっており、今にも頬へとこぼれ落ちそうになっていた。

●あらゆる願望を叶える杯?
 偽りの理想の世界から戻ってきたイレギュラーズ達は、まず未だ偽りの世界に溺れる盗賊達を縛り上げる。そうしているうちに、部屋の天井の中央から眩い金色の輝きがゆっくりと降りてきた。
「金色の……杯?」
「ふむ……これが、今回の色宝ですか」
 ファレルが輝きの中心に手を伸ばし、色宝を掴む。すると、輝きは収まり色宝はその姿を現した。色宝の形状に興味を抱いているカイロは、ファレルの掌中の色宝を確認すると、満足げな様子を見せる。
「これは聖杯……と言うことなのでしょうか?」
「聖杯だって? 何でも願いを叶えると言う……」
「ですが、個々の『色宝』にはそんな力はないはずでありんしょう?」
 縁は色宝の形に、元の世界に伝わる聖杯伝説を想起する。同様の伝説は、マカライトの元の世界にも伝わっているようだ。だが、ウィートラントは色宝は聖杯ほどの力は持ち得ないと指摘する。
「異世界にはそんな伝説があるんッスね。それを聞くと、この部屋の仕掛けがこんなのだったのもわかる気がするッス」
「もしかしたら、過去の混沌にも似たような伝説があって、それを擬えたのかも知れないわね」
 鹿ノ子は聖杯伝説について聞くと、偽りの理想の世界を見せられた事に納得顔と言った様子だ。そしてエルスは、同様の伝説が混沌にも存在していた可能性について言及する。
「……何にしても、くだらねえ幻だったぜ」
 そんなことはどうでもいいと言わんばかりに、キドーはやれやれと肩をすくめたのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。執筆が遅れてリプレイをお待たせしてしまいましたこと、慎んでお詫び申し上げます。大変、申し訳ございませんでした。
 さて、八者八様の偽りの理想とそこからの脱出、お楽しみ頂けましたら幸いです。

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