シナリオ詳細
<マジ卍体育祭2020>駆けろ騎馬戦
オープニング
<マジ卍体育祭2020>
●
台風の過ぎ去った希望ヶ浜は気持ちのいい秋晴れ。
絶好のマジ卍体育祭日和である。
グラウンドに整列した生徒の中には『中止になんなかったかー。まじダル』なんて顔もちらほら。けれどやっと開催出来た体育祭を喜ぶ笑顔が圧倒的に多い。
こっそり隣の人と話したりして、競技のスタートを待ちわびるのだった。
そんな校庭の様子をよそに、屋上に生臭い風が吹き溜まる。
例えば。
体育祭の前日に事故るなんて誰が想像しただろう。
生きたい、より行きたい。勝負がしたい――したかった。
例えば。
あいつやあいつと違うチームなら絶対仲良くやれたし、最高の結果を出せた。
同じクラスじゃなかったら。違う学校だったら。
例えば。
普通に学校に通って普通に体育祭に参加したかった。出られる種目に全部出たかった。
病院のベッドで時間を潰すだけの人生なんてつまらなかった。
『体育祭に行きたい』
小さな無数の思いが集まって。
●
「あ、来た来た!」
綾敷・なじみ(p3n000168)は寄りかかっていた体を起こし、aPhoneを持った手を振る。
「めーったくそ楽しい楽しい体育祭の真っ最中にゴメンなんだけど、『夜妖』が出ちゃったんだよねえ」
だから退治お願いなーと軽い口調で告げて、なじみは廊下を歩く。
競技や応援の合間に集まったイレギュラーズは肩をすくめて、ゆらゆら揺れるなじみの尾っぽを追った。
「真っ昼間から夜妖が出た? んで、詳しい内容は?」
「説明しよう! 体育祭って、台風で中止になっちゃえー! って思う輩もいれば、体育祭最高ー! って人もいるよね。ちなみに綾敷さんは後者に一票なのだ」
皆で作戦を練って準備をして、本番で一喜一憂するドキドキの学園イベント。
そんな晴れの日に、怪我したり病気にかかって不参加になったり、学生や教師じゃないけど体育祭に参加したい人は結構いる。ついでに命を終えて二度と参加できない人も。
「体育祭に参加したいけど出来ない皆のつよつよの思いと、『保健室で死んだ子が屋上で騎馬戦の練習をしている』なんて学校の七不思議が合体したら夜妖の爆誕ってわけさー」
参加したい者の無念が屋上に集まって渦を巻いて、結実した。
噂の『保健室で死んだ子』を大将に、『騎馬戦』のチームを作って練習しているのだという。
「練習ってことは本番――体育祭に乱入するわけでしょ、きっと。そうなる前に倒して欲しいんだよ」
なじみは階段を一段飛ばしに上って、くるりとイレギュラーズを振り向いた。
「ところで皆は騎馬戦はご存知かな? 騎馬役三と騎手役一で四人組を作って、敵チームの騎手を倒す競技だよ」
こういう風に、と騎馬の組み方を身振りで説明すると、なじみは前へと向き直った。弾む足取りでさらに階段を上る。
夜妖なんて実力行使で倒せばいいのだが。『体育祭やりたい』という気持ちの集合体のせいか、普通の攻撃が効きにくいのだという。
騎馬戦で戦い、騎馬戦で倒すといいだろう。
スポーツマンシップにのっとり、正々堂々と戦うことを誓います――というアレだ。
パイナップル、チョコレイト。じゃんけん遊びのように口ずさみながら階段を上れば、屋上に繋がるドアが現れる。なじみが鍵を開ければ、生ぬるい空気がむわりと押し寄せた。
オオオ、オオオ……!
夜妖の叫びか、歓喜か。
禍々しい存在の群れがイレギュラーズに気づき、ぞわりと蠢く。
「というわけで、四人で組んで騎馬を作ってね! 屋上エキシビションの騎馬戦開始だよ!」
なじみはススッとイレギュラーズの背後へ回って見学のポーズだ。
「がんばれがんばれ、チーム・ローレット!」
なじみの声援を背中に、イレギュラーズは即席の騎馬チームを組むのだった。
- <マジ卍体育祭2020>駆けろ騎馬戦完了
- GM名乃科
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年12月04日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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屋上に現れた特待生――イレギュラーズの存在に、夜妖が沸く。
対戦相手だ。一緒に運動会をやる、ライバルだ。
ぐずぐずとした薄墨のような怪異の群れは、手足を持った人の形に成る。歪な形のそれらは集まると円陣を組んだ。
「ヨルグミ、ファイトー」
「オー」
覇気の無いかけ声を出すと四人一組になって騎馬を作る。その数、二十と一。手足が異様に長い人型のリーダー格が最奥に陣取り、他の夜妖は蠢きながら大将首を守るように陣形を整える。
「勝負につきあうのはヨロコンデーでありますが、吾輩達まだノープランゆえに作戦会議の時間をいただきますぞ! つまらぬ試合より楽しい試合でありますからな!」
腕でTの字を作って『良い夢見ろよ!』ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)が申し出ると、夜妖達は首を縦に振って待機モードに入った。聞き分けがいい。
夜妖退治、といっても切った張ったのない依頼。『咲々宮一刀流』咲々宮 幻介(p3p001387)は少しホッとした表情を浮かべ、古典の非常勤講師の顔に切り替えた。
全力でぶつかってくる生徒がいるなら、応えるのが先生の仕事だ。ビシッと夜妖を指さして宣言する。
「気合十分みてぇだな。先生も全力で遊んでやるぜ……覚悟しとけよ、オメーらァ!」
先生といえば養護教諭――保健室の先生もこの場に居て。
「こうして顕在化する程に身の内に溜め込んだ、『参加したかった』という無念……か」
「思いの集合体の夜妖、ねぇ。その無念、晴らしてあげなきゃねぇ」
『元神父』オライオン(p3p009186)と『la mano di Dio』シルキィ(p3p008115)は競技前の準備運動をしながら、蠢く怪異の姿を眺めるのだった。
「これは負けてらんないね! こっちも円陣組もうよ!」
体育祭に燃える『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)の提案に、皆で輪になって伸ばした手を重ねる。
「チームイレギュラーズ、ファイト!」
「オー!!」
団結の掛け声が青空に響いた。
班分けの相談はさくさくと済んで、四人ずつ二組の騎馬が出来る。
「此度はがっつりと全力で、その想いに応えるとしよう。今ここで、最高の騎馬戦を味わわせてやる!」
一騎は高速戦チーム。騎手役の『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)はよく通る声で宣戦布告した。体操着の袖から伸びる、引き締まった上腕が眩しい。
騎馬役は先頭に幻介、右後方にシルキィ、左後方にジョーイという構成だ。
「汰磨羈殿、ちょっと重……い、いや。何でもないぜ!」
何かを言いかけた幻介にはちょこっと拍車を入れておく。
もう一騎は『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)が騎手を務める持久戦チーム。
騎馬役は先頭に『艶武神楽』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)、右後方にオライオン、左後方に茄子子。
「帰してくれぇ……祭りに帰してくれんか……もうおばけは沢山じゃ……」
「クレマァダくん幽霊怖いの??大丈夫大丈夫、会長も怖いから!」
萎れ気味のクレマァダに茄子子がフォローになってないフォローを入れる。
騎馬を組んだら右に歩いたり、後退したり。人馬一体の動きを確認したら。
「待たせたな。――さぁ、騎馬戦を始めよう」
準備が終わったことをブレンダが伝える。
「オオ……ヨロシク、オネガイシマス……」
リーダーの合図に従って夜妖が一礼。
どこからともなく、ぱぁん、と競技ピストルの音が響き――
戦いの火蓋が切って落とされた。
●
敵味方が倒すべき相手に向かって前のめりに駆ける。
その中を徒歩ほどのスピードで進む持久戦チームは目立った。
「はっはっは、さぁ来るがいい。私たちは逃げも隠れもしない!」
ブレンダの堂々とした口上も相まって注目の的だ。
「タオセ……」
「タオセ……!」
闇雲に走っていた夜妖組の半数近くが、持久戦チームに狙いを定めた。人間っぽいシルエットをぐにゃぐにゃと歪めながら迫る。
クレマァダは生のホラーを真正面の特等席で眺める羽目になった。ぬるる……ずるっ……びちゃあ、なんて生々しい効果音もリアルに包囲される。
「ひえぇ……ってなんで逃げんのじゃ貴様らぁ!」
「なに、我々は囮となるのが目的」
「ゆえに敵を集め、できるだけ動かず迎え撃つ!」
「会長がいる限りだれも怪我なんてさせないからね!? 安心していいよ!」
騎馬のフォローの言葉に、クレマァダは目を閉じた。長く息を吐き、まぶたを開けた時にはもう、恐怖に怯える少女はいなかった。
「12時方向から敵の騎馬が来るぞ! さぁ、気合を入れろ!!!」
「……えぇい、やるよ、やればいいんじゃろ?! 右に回頭!」
合図で騎馬役がなめらかに動く。接敵のタイミングで正面がずれた。先頭の騎馬夜妖はオライオンの張ったエンピリアルアーマーにぶつかり、ブレンダの足払いを受けてよろめく。
騎手の夜妖――丸坊主の男の子――もつられて体勢を崩した。
「もらった!」
クレマァダは自分に向かって伸ばされた腕を掴み、勢いを利用して騎手を突き落とす。男の子は目と口を丸く開けて床に落ちた。
「オ……? オオ……?」
「マケタ……?」
「マケタ……チクショー」
騎手も騎馬も、どろりと溶けるように形を失い、薄くなってきえる。
「まず一騎じゃ! 次は三時の方から倒す! こちらは正面を捉えつつ、敵の真正面から当たらぬよう軸をずらせ!」
「アイアイキャプテン!」
「了解した」
「体力の限り暴れてやろう! さあ、もっとかかってこい!」
ブレンダの再度の口上に、高速戦チームへ向かっていた二騎が反転した。
十を超える敵に囲まれてもクレマァダは冷静だった。この状況を艦隊戦だと思えば造作もない。潮と相手の動きを読んで船を動かし、着実に潰すだけのこと。海洋国では赤児からたたき込まれる技術を存分に活用すれば勝利は確実だろう――手足の延長のように連携してくれる騎馬役の三人を見て、そう感じた。
一方の高速戦チームは、開始のピストルと同時に走った。
「右だ!」
汰磨羈の指示で敵前を横切って進む。持久戦のブレンダが引きつけているのもあって、追ってくるものは少ない。
「俺の足の速さを舐めんじゃねえぞ!」
先生の顔で幻介は笑う。必死に追いすがる生徒との、大人げない真剣勝負だ。
「なんという爆速! 足がもつれないように気をつけねばですな!」
「全力で勝ちに行くよぉ!」
バイザー部分に『(`・ω・´)』の顔文字を浮かべたジョーイとシルキィは走った。
息を吸って。固く手を繋いだまま足を動かす。汰磨羈が合図をすると、頭で理解する前に体が反応する。
そうして瞬く間に側面へ回り込んだら馬首を巡らせて、攻撃の時間だ。
「まずは手前の蜘蛛野郎だ!」
汰磨羈が指したのは、蜘蛛のように人間の足をいくつも生やした騎馬。体格のいい騎手が乗っている。朗々としたブレンダの口上には目もくれず、高速戦チームに狙いを定めて襲ってきた。
「ヤル、ゾ……!」
「ああ、やろう! 今の私はフィジカルエリート……そう簡単に落とせると思うなよ!」
互いに、敵を目指して駆ける。射程までは一瞬、汰磨羈は腰だめに構えた拳に験禳・雷火樅を乗せてたたき込んだ。身を反らして避けた夜妖だが、衝撃までは避けきれずに怪我を負う。
「もう一発だ!」
続けて放たれるダメ押しの雷火樅。
「ウオ……オオオ!」
今度は夜妖の鳩尾にクリーンヒット。バチバチ散る火花と熱膨張による衝撃がその体を騎馬の上から弾き飛ばした。
無数の足が騎手役を追うように蠢くが、助けにはならず。夜妖は床に落ちた。
その行く末をイレギュラーズは見ない。
「まず一騎、次!」
汰磨羈の目はもう、新たな敵を捕らえている。
べっちょりとした生ぬるい手がクレマァダを捉える。
「ッヒィ! ……離さんか!」
気色悪い感覚に眉をしかめつつ、夜妖をぽかぽか殴る。か細い腕から繰り出されるそれらは弱々しく見えてもイレギュラーズの一撃。的確に決まる連打に夜妖は圧されて、最後は背後の騎馬を巻き込んで崩れた。
「数の差はいかんともしがたいな」
回復を放ったオライオンは視線を巡らせて手薄な場所を探る。
数の多い敵はシンプルに厄介で、一騎を倒している間に気がつけば包囲網が出来ている。クレマァダの猛攻で穴をぶち開け、実力行使で囲みを抜けての繰り返しだ。
「さながら砕氷船じゃな」
「クレマァダくんの操船だから、まさに大船に乗った気持ちってやつだね! ……あれ、会長は馬役だから大船になった気持ち?」
「どちらにせよ、沈まぬ船の共同体だな」
目の前に集中しすぎて、知らぬうちに余裕を失ってしまわぬように。機敏に動きながらも軽口を交わし、回復の光を飛ばす。重ねて、オライオンは前衛の二人へと浄化の鎧を降臨させた。
「ああ、共に敵をぶち砕いていこう! かかって来い!」
ブレンダに挑発された夜妖がふたたび集まってくる。
「狙いは五時の敵じゃ!」
クレマァダの号令に騎馬はぐるりと向きを変え、突進する先頭の騎馬夜妖とブレンダが接触した。
手の使えない者同士――頭が出る。ゴッ、と鈍い音がして夜妖が競り負けた。
「カッテェ……」
クレマァダはすかさず騎手を弾き飛ばす。
「ナイスじゃが! 避けんか! このまま前進じゃ」
「はは、つい」
「わかった、突っ切るぞ」
「回復もいっくよー」
じりじりと体力を削られては回復してを繰り返し、持久戦チームは敵中で沈まず戦い続ける。
●
敵の数は十倍以上――そんな始まりでも、一騎ずつ着実に倒していけば数の不利は小さくなり、やがて消える。
たった二騎のイレギュラーズを倒せないことにしびれを切らしたのか、次々と倒される仲間に焦りを覚えたのか。敵陣の奥にいた大将騎が動いた。
いつかどこかの保健室で死んだ子の、体育祭への思いから出来た夜妖。不健康に青白く痩せた子供に見えた。赤い鉢巻きをたなびかせ、落ちくぼんだ目を爛々と輝かせて戦いの中心を目指す。
騎馬役はムキムキの屈強そうなメンバーで、息の合った足運びは戦車のようだった。
「大将が動いたぜ!」
いち早く察した幻介が声を上げる。敵は持久戦チームを標的にして戦場を足早に横切った。
「残りは――八騎か」
汰磨羈はざっと見渡して残る夜妖を数えた。ずいぶん減らした。今戦っている相手以外は持久戦チームを囲んでいる。
「ラスボス戦前に頭数は減らしておきたいところですな!」
「だねぇ。減らしつつ作戦通りに挟み撃ち、行きたいねぇ」
「そうだな。敵を撃破しつつ接近、向こうの接敵を確認次第挟むぞ」
掴み合っていた夜妖を床に叩き伏せ、汰磨羈は前進の合図を出した。
持久戦チームは迫る大将騎を横目に見つつ、群がる敵を相手にしていた。
弾き飛ばし、囲みを抜けて反転。折を見て回復をしたら口上で注目を集め――
長丁場に息が上がる。口の中に鉄の味が広がる。けれど小さな勝利は一つずつ積み上がり、倒すべき夜妖はもう半分以下だ。
「皆、怪我は残っていないか? じきに来る」
迫る大将に備えてオライオンが声を上げる。
「もういくらか、減らしておきたかったがやむを得んのじゃ。――総員、衝撃に備えい」
左右を挟む雑魚は無視した。大将騎に馬首を向けて、迎撃の姿勢を取る。
「イクゾ、ヨルグミ!」
オオ、と馬役と共に気合を入れた大将がクレマァダとぶつかった。正面からの体当たり戦。どっしりとした衝撃に、馬役は少し後ずさって勢いを逃がした。受け止めて耐える必要はない。やり過ごせればいいのだ。
「ぬ、ぬぬぬ……!」
クレマァダは夜妖と手と手を組んで力比べになる。痩せこけた病人のようなシルエットとは裏腹に、夜妖の力は強い。
「汰磨羈くんたちもうちょっとで来るからね! ……3、2、1」
しのぎを削る前衛に回復を施し、茄子子は友軍の位置を確認する。
カウントダウンは正確で。
「来ましたぞ!」
幻介の声と共にかかる圧力が減る。しかし、騎手二人がかりでも大将首は難敵だった。引いても押しても殴っても、ダメージを減らしながら受けて下のマッチョ共々粘り強く攻撃してくる。おまけに残りの騎馬もイレギュラーズを倒そうと、ちょっかいをかけられ通しだった。
「こうなりゃ……少しギアを上げるぜ!」
背後から騎馬役を蹴り蹴り攻撃していた幻介だが、効果が薄いと見るやメンバーに合図を送る。
「プランBだ! チェンジ、イレギュラーズ!」
「プラン?」
「B?」
はてなマークを浮かべる持久戦チームをよそに、掛け声の下高速戦チームは――分離した。
汰磨羈は幻介の肩に。ジョーイとシルキィは手を離して周囲の夜妖へと遊撃に向かう。
「ナンテ!?」
「騎馬役が手を離しては駄目、ってルールは無かったぜ!」
確かに。
競技の説明のどこにも、騎馬役が分離したら失格、なんて文字は無かった。四人一組と、落ちたら負け――縛りはそれだけだ。
「これが伝統のKIBASENスタイルでありますゆえ! 卑怯でもなんでもありませんぞ! いざお覚悟を!」
ジョーイの放ったマジックロープが夜妖組の足元をすくい、ショウ・ザ・インパクトが安定性を奪う。
「セオリー通りじゃないかもだけど、これが新たな騎馬戦の形だよぉ!」
敵の間を駆け抜けるシルキィは青い衝撃波を放つ。どちらも決定打にはならないものの、戦場の攪乱にはじゅうぶんだった。
残った幻介の肩に汰磨羈は立った。赫い霊気を球状に練り上げ、大きく振りかぶって、投げる。素手による『彼岸赫葬』――ドッヂボール式夜妖退治である。
全身の筋肉から放たれた一撃は大将の背中に命中した。夜妖はクレマァダから手を離し、のけぞって身もだえる。
「フンヌ……!」
「フィジカルエリートの力、とくと味わえ!」
肩車になるので機動も攻守の能力もがくんと落ちる。唯一の騎馬となった幻介に夜妖が群がったら不利は免れない――そんなハイリスクの作戦は実を結び。
痛撃から間を置かずクレマァダと汰磨羈の猛攻が大将の夜妖を襲う。
「コノ、コノコノ……!」
二人がかりに加えてこちらの回復は手厚い。急いで駆け戻った後衛も高速戦チームに合体し、総力が大将に注がれる。
しぶとく戦い続けた夜妖だったが。クレマァダのパンチと汰磨羈の拳が続けて『保健室で死んだ子』を騎馬から落とした。
●
その後は二騎とも戦場を駆け回って、一騎ずつ残りを倒していった。最後の騎手を引きずり落としたところで、競技終了のピストル音が響く。
点々と転がる夜妖を眺めて、荒い息をつき。イレギュラーズは天に叫んだ。
「「「やったー!」」」
騎手役を落とされた夜妖はその場で消えたり、端に避けて観戦していたりと様々だった。どれも姿がぼやけて薄くなっているので、じきに消えてしまうだろう。
「ナイスファイトでしたぞ!」
ジョーイは床に座り込んだ大将夜妖に手を差し出した。夜妖は首を傾げ、おずおずと手を握る。それをぎゅっと握り返してハグでユージョーを育むのは試合後のお約束というもの。
「少年よ、存分に楽しんだか?」
「いい勝負だった。番外戦となってしまったがこれもまた体育祭だ。楽しめたか?」
汰磨羈とブレンダも『保健室で死んだ子』に声をかける。禍々しさが抜けた少年ははにかんで「ウン」と頷いた。彼女らとも握手を交わして未練はすっかり満たされたようで、透き通って消えてしまった。
「さて……と」
試合終了、となれば本業――保健室の先生の顔になって。シルキィは持ってきた救急箱を開けた。
「怪我をした子はいるかなぁ? 普通の治療は効かないだろうけど、『体育祭』なら怪我した子を助けるのは当然だからねぇ」
順番に手当するよぉ、と言われて消えかけていた夜妖がスンっと濃さを取り戻し、もじもじしながらシルキィ先生の前に並ぶ。数の多さを見て、クレマァダは手助けを申し出た。
「我も手伝うぞ」
幻介は這いずっていた夜妖を抱えて行列に加わり、手際のよい応急処置を見守る。
「……俺も一応、先生だからな。生徒が怪我してりゃ心配もするさ……ほら、シルキィ先生に『ありがとう』しな?」
「アリ……ガト……」
小さな声でお礼を言って夜妖は消えた。
足元がおぼつかない夜妖に茄子子は肩を貸して、シルキィのところへ連れてゆく。
「体育祭どうだった? 楽しかったかな!? 会長はめっちゃ疲れたけどね!!」
「ゲキツヨ……テンコウセイマジヤバ」
試合後は屋上の掃除をしていたオライオンだったが、特にゴミも損傷も無く、簡単に終わった。皆の元へ戻れば出張保健室が大盛況で、少し考えた後腕まくりをする。
「俺も手当をしよう」
希望ヶ浜での肩書きは『保健室の教諭』である。今はそれを活用するいい機会だ。ちょうど順番の来た夜妖を手招く。
すりむいた膝を消毒してやれば、夜妖は頭を下げて、晴れやかな顔で秋の空に消えた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。また、大変お待たせして申し訳ありませんでした。
エキシビ戦はイレギュラーズの勝利、屋上に巣くっていた夜妖の退治も完了です。
GMコメント
こんにちは、乃科です。
体育祭を楽しみましょう!(夜妖と)
●成功条件
夜妖の全滅
●場所
昼間の校舎の屋上。そこそこ広い長方形で、四方は三メートル越えのフェンスに囲まれています。
サボりとか何とかの一般人はいませんし、現れる気配もありません。
天気は快晴、グラウンドではマジ卍体育祭が行われています。
●敵
『病気で死んだ子』×1
夜妖組の大将。中学生男子ぐらいの騎手役と、『よく分からない何か』騎馬役の組み合わせです。
フットワークが軽く、粘り強い戦いをします。
騎馬×20
その他諸々の怨念が集まった夜妖。人間っぽい形と大きさの四人?一組の騎馬スタイルで20騎。
数は多いですがさほど強くありません。
騎馬戦のルールにのっとり、4人組で騎馬を作り、敵の騎手役を騎馬役から落とせば勝ち=夜妖は消滅します。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
それも『学園の生徒や職員』という形で……。
●希望ヶ浜学園
再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。
●夜妖<ヨル>
都市伝説やモンスターの総称。
科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
関わりたくないものです。
完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)
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