シナリオ詳細
<神逐>七館門に潜む影
オープニング
●新しき理想の神威神楽のために
漆黒の闇の中で、黒装束の男は来たるべき未来への喜びに震える。
「もうすぐだ……もうすぐ高天京は焦土となり、新たな神威神楽が生まれる。
次の神威神楽は、獄人などと言う穢らわしい者のおらぬ世としてくれよう……!」
八百万による獄人差別、獄人の八百万への怨恨によって生じた『けがれ』、そして『けがれ』を媒介として行われた『大呪』が、神威神楽の守護神たる『黄泉津瑞神』を歪めていた。このまま放っておけば、黄泉津瑞神の咆哮は高天京を穢れた焦土へと変わることだろう。
そうなれば、高天京を中心とする神威神楽は否が応でも変革を迎えることになる。あとは焦土となった高天京で自ら上へとのし上がるか、天香・長胤に与力しながら長胤を上手く唆すかすれば、獄人のおらぬ理想の世を実現できるであろう。
「そのためにも、今度ばかりは神使共に邪魔されぬよう、総力をもって望まねばな。
前のように、爺を弄んで戯れているどころではない」
男の言う爺とは、肉腫と化した蔦に殺された八百万の仇を神使に頼んで取ってもらった老鬼人種のことだ。神使に頼んだとは言え主人たる八百万の仇を取ったのであるから、獄人とは言え本来ならその忠義を讃えるべき所ではあるが、何故か男は老鬼人種のことがひどく癇に障った。
それもある意味当然の話で、男は特異運命座標とは相容れることのない存在の魔種だったからである。故に、「特異運命座標を使って」と言うところを無意識に、本能的に嫌悪したのだ。だから、戯れにではあるが肉腫に感染させて暴れ回らせようとした。すぐに、特異運命座標に止められたようではあるが。
しかし今度ばかりは、本気を出して特異運命座標を止めねばならない。もうすぐ理想の世が来るのを、邪魔されるわけには行かなかった。
「奴らは肉腫となった爺を殺さなかった……その甘さを、衝くとしようか。
奇しくも、高天御所には面白き場がある。そこで神使共を止めてみせよう。
黒耀衆、出るぞ! 『奴ら』も全て使う!」
男が叫ぶと、その周囲に男と同じく黒装束に身を包んだ者達が音もなく現れる。黒耀衆と呼ばれたその者達は男が率いる忍びであり、強化を目的として肉腫に感染させられていた。
かくして、男は『面白き場』にて特異運命座標達を待ち受ける。
●かつて無辜の民の血に染まりし門
高天御所、七館門。しちだてもん、と言うのが正式名称だが、ななだてもん、あるいはななつだてもんと読まれることもある。この門の突破を依頼されたイレギュラーズ達だったが、門の前にいる者達の姿を見て足を止めた。
「……鬼人種達? だが、様子がおかしいぞ」
「複製肉腫か? この数は厄介だな」
どう見ても戦闘能力のない老人や子供を含めた、何らかの武器を手にした鬼人種が三十人ばかりいるように見える。
(ククク……この獄人どもは囮にして盾よ。
貴様らが此奴らに気を取られている隙を衝いて、我らが鏖とする。
この七館門には、相応しき仕掛けよ)
七館門の前の何処かに潜みながら、男は自らの発想に酔いしれていた。
この七館門には、かつて帝に対して謀反を起こした者達が、民を人質に取り、盾として高天御所へと攻め入らんとした故事がある。結果として高天御所の軍は盾とされた民ごと謀反を制圧したものの、門の前は夥しい血が流れたことで深紅に染まり、時の帝の声望が一時的ながら下がったと言う。
誰が言い出したのか、この門は質を盾とされた門と言う意味で、質盾門と呼ばれるようになった。後に、字面が悪いと言う理由で七館門と改められ、時代が下るにつれて惨劇の記憶は薄れていった。
男が『面白き場』と言ったのは、それが理由である。攻守は入れ替わっているが、故事に倣って民を人質とし、盾としているわけだ。
今回も七館門が無辜の民の血に染まるかどうかは、イレギュラーズ達次第であった。
- <神逐>七館門に潜む影Lv:15以上完了
- GM名緑城雄山
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年11月18日 22時20分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●盾とされし鬼人種達を前にして
「これは……如何にも何かありますと言っているようなものですね」
七館門の前に陣取る、三十人ばかりの武器を持ち肉腫となった鬼人種達を見て、『真庭の諜報部員』イスナーン(p3p008498)はそう断じた。門を守るのに、複製肉腫とは言え老人や子供を交えた鬼人種だけを置きはするまい。おそらく鬼人種達は囮で、本命は何処かに潜んでいるのだろう。諜報畑を歩んできたイスナーンの嗅覚は、ここに鬼人種達を置いた者の企みを敏感に嗅ぎ取っていた。
問題は、七館門の突破が依頼である以上、ここを避けて通るわけには行かないと言うことだ。
「民を盾に、自分達は潜んで戦おうとは中々『分かっている』敵のようですね。
まあ、その考えが通用するかどうかは、これから分かることですけど……ふふふふ」
イスナーンが察した『企み』について聞かされた『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)は、『企み』に対し皮肉交じりにつぶやき、笑った。元より人ではなく、人の生を読み物のように眺めて楽しむ四音にとっては、『企み』に対する憤りよりも感心の方が先に立った。とは言え、四音はその『企み』を通すつもりはない。浮かんだ笑いは、絶対に『企み』を潰せると言う余裕の表れであった。
「老人や子供まで巻き込むなんて……なんて情けない連中!」
四音とは対照的にはっきりと憤りを露わにして、『企み』を唾棄しているのは『清楚にして不埒』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)だ。誰も泣かない世界を目指すミルヴィにとって、弱者を盾にするようなやり方は許せようものではない。
「……力ない人達を盾にすれば、僕らの動きが止まる。そう思っているのかな」
マルク・シリング(p3p001309)は、ミルヴィと違って静かに憤る。
「誰も死なせない。そして、元凶も逃さない」
この世界からこぼれ落ちていく命を護るために、理不尽に訪れる死を遠ざけるために、マルクは研鑽を重ねてきた。故にマルクは、固く意を決して鬼人種達に臨み、『企み』の裏に潜む者達に挑まんとする。
(このやり方……鬼じいちゃんの時と同じ……!)
肉腫にされた鬼人種達の姿に、『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)はかつての依頼主であり友人である老鬼人種のことを思い出していた。その老鬼人種も、彼らと同様に何者かに肉腫にされたことがある。
茄子子はそのやり口に、この『企み』を仕組んだ者が老鬼人種を肉腫に感染させたのだと推測する。その推測は、当たっていた。ぎゅう、と茄子子は手にしている免罪符を握りしめる。
(俺があまり世間を知らないだけできっとどこにでも差別はあるのだろうし、言える立場で無いのは分かってるが、自ら望み、覚悟したわけでない者がこうして巻き込まれるのは……どうにも、な)
『蛇霊暴乱』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は無言のまま、深く溜息をつく。暗殺者として育てられたためかドライな性格であるアーマデルだが、この『企み』とそれに至った鬼人種差別の経緯にはやりきれないものを感じている。
(命の搾取なんて……させないっす!)
かつて故郷の世界で一族の命を『搾取』され、混沌に召喚されることで唯一生き延びた『薬の魔女の後継者』ジル・チタニイット(p3p000943)にとって、鬼人種達の命を搾取するようなこの『企み』は放っておけるものではない。何としてもこの『企み』を打ち破り、鬼人種達を救い出すと心に誓った。
(隠れ潜んでいる『本命』……何とか、見つけ出せればいいのですが)
『血禍美人』クシュリオーネ・メーベルナッハ(p3p008256)は『本命』を見つけ出すべく、注意深く周囲に視線を巡らせた。周辺の暗がり、光源によって生じた影の中、建物の影、鬼人衆達。ただ、さすがに相手もそれだけで発見されるほど甘い存在ではないようだ。
(……人間の盾、ですか。いや、本命はこの人間の盾に隠れ潜む事、ですかね?)
仲間達の後方で、ギフトによって周囲の景色に溶け込み姿を消している『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は、思案する。半信半疑で導き出した答えではあるものの、寛治の解は実のところ正解だった。
この『企み』を仕組んだ忍者『黒耀衆』の頭領は、部下と共に姿を鬼人種達と同じくして、鬼人種達の中に潜んでいたのだ。肉腫にされた被害者を救おうと迂闊に近付いたところを、急襲しようというわけである。だが、イレギュラーズ達はその事実をまだ知らない。
●黒耀衆を見つけ出せ
七館門の周囲に、『企み』を仕組んだ何者かが潜んでいることは間違いない。だが、その何者か――黒耀衆――が一体何処に潜んでいるのか。イレギュラーズ達は様々な手法で黒耀衆の潜む場所を割だそうとするが、敵は忍者だけあってか中々イレギュラーズ達も尻尾を掴めない。
「……ここに眠る魂達よ。俺達は何の罪もない彼らを救いたい。知っていることがあれば、教えてくれないか?」
その場所を特定する決定打になったのは、アーマデルによるこの問いかけだった。いくら忍者と言えども、この場に眠る霊からまでは隠れられるものではないし、そもそも霊からも隠れようという発想自体するものではない。そして、七館門に眠る霊達は非業の最期を迎えた者達ばかりであるため、罪無くして盾とされている鬼人種達を救おうとするイレギュラーズ達に協力的であった。
「魂達が答えてくれたよ。忍らしき連中が彼らをここに連れてきて、彼らと同じ姿になって中に紛れ込んだのを見た、と。
それから、その中のリーダーが酷く禍々しい気を纏っていたと言うことだ。おそらくそいつは、魔種じゃないかな」
「忍び……それでいてこんなことをするとなると、黒耀衆か」
「知っているのかい、イスナーンくん?」
アーマデルの得た答えに、イスナーンがぼそりと独語する。それを聞きつけた茄子子の問いに、イスナーンは答えた。天香・長胤に同調している、強烈な獄人差別主義者を頭領に掲げる忍者の集団であると。そして、茄子子の友人である老鬼人種が肉腫に感染させられた事件の黒幕である可能性が高いとも。
ともあれ、黒耀衆が鬼人種達の中に潜んでいることは判明した。次の問題は、鬼人種達と黒耀衆とをどう見分けるかだが――。
「何も難しい話じゃない。俺にいい考えがある」
自信満々に、『聖断刃』ハロルド(p3p004465)が言い放った。ハロルドは仲間達に自身のアイデアを伝えると、鬼人種達に向けて猛然と駆け出した。
(猪武者が、罠にかかりに来たか)
ハロルドを侮る黒耀衆の頭領だったが、その軽侮はすぐに驚愕へと変わることになる。
鬼人種達は、その手に持つ武器で次々とハロルドを攻撃していく。だが、ハロルドは避ける様子も見せずに鬼人種達の武器を受けるも、全く傷を受けることが無い。鬼人種達に接近したところで、ハロルドは物理的な力を阻む障壁を展開していたのだ。
「とにかく纏めてビカーッっすよ!」
(無為に命を奪うようなことを良しとする訳にはいきません。
悲劇的に死ぬというのも物語としては悪くはないと思うんですけどね。くふふふ)
「絶対に殺さない! 痛みは少しだけ耐えてくれ!」
ハロルドに鬼人種達が群がったところで、ジル、四音、マルクが邪悪を灼く神聖なる光を鬼人種達に向けて放っていく。この光は敵を倒しはするが、その命までは奪わない。
「ごめんね、少しだけ我慢して!」
「志半ばにして斃れし英霊よ、我が声に応えよ――」
ミルヴィとアーマデルが、ハロルドの左右を固めるように前進する。そしてミルヴィは敵を惑わす舞うような剣技で、アーマデルは召喚した英霊の奏でる怨嗟の音色で、鬼人種達を攻撃する。これらの攻撃も、敵の命を奪うことはない。
神聖なる光が、剣舞が、英霊の怨嗟が鬼人種達を次々と倒していく。だが、何度それらの攻撃を受けても倒れない者がいた。その数は十一。鬼人種達に扮した黒耀衆である。
ハロルドのアイデアは、自分が鬼人種達に突っ込んで囮となっている間に、仲間達に命までを奪わない手段で攻撃してもらう、と言うものだ。イレギュラーズの攻撃を二度も三度も受けて倒れない明らかにタフな者がいれば、それが黒耀衆だと断定出来る。
「黒耀衆! 御大層な名前が付いてるくせにこの程度の小細工しか出来ねぇのか!?
おら、掛かってこいよ! もっと俺を楽しませろ!」
(ぐぬ、まさかこのような手段で……だが!)
ハロルドの嘲弄混じりの挑発に、黒耀衆の頭領は内心煮えたぎるような憤怒に囚われる。だが、それを表に出しはしない。
「ようやく、炙り出されましたね。行きますよ、黒耀衆」
「ここからが本番です。お相手願いましょう」
聖光に灼かれ、ミルヴィの剣技を受けてなお倒れない鬼人種――黒耀衆の一人が、ミルヴィを急襲せんとする。だが、その黒耀衆はクシュリオーネによって胸板を引き裂かれ、さらに寛治の狙撃を頭に受け、どう、と地面に倒れ伏した。
●斃れゆく黒耀衆
黒耀衆は正体を曝け出されたが、戦闘は一筋縄ではいかなかった。肉腫である上に頭領による強化を受けているというのもあるのだが、それ以上に倒れた鬼人種に止めを刺そうとする素振りを見せるのが厄介だった。ハロルドやミルヴィ、イスナーンはその都度敵意を煽って防ぎにかかるが、それでも全ての黒耀衆に対応出来るわけではない。そこに魔種が様々な術を用いて戦況を引っ掻き回すものだから、一時は、回復に専念するはずの茄子子でさえも身を盾にして鬼人種を護りに入らねばならないほどだった。
だが、そんな卑劣な手段を用いてイレギュラーズ達に出血を強いる一方で、黒耀衆は次第にその数を減らしていった。
「いい加減にしてもらいましょう。貴方達のやり口は、腹に据えかねています」
「全くだ。俺でさえも、見るに堪えん」
諜報畑のイスナーンでさえも、暗殺者を出自とするアーマデルでさえも、黒耀衆のやり方は到底受け容れられるものではない。イスナーンは瞬時に残る黒耀衆の懐に入ると、速度を乗せた漆黒の刃をその脇腹に深々と突き立てる。
「かはっ」
吐血する黒耀衆に、アーマデルが敵の命運を歪める剣舞で追撃する。『蛇鞭剣ウヌクエルハイア』と『蛇銃剣ナーブアルハイア』に何度も斬り刻まれた黒耀衆は、炎に包まれながら倒れた。
「アタシ達が不殺で来るのは想定済み……なら次は狙って来るって訳ね。どこまでも汚い!」
ミルヴィは鬼人種に止めを刺そうとする黒耀衆の前に割って入ると、挑発を交えつつ情熱と律動を宿した剣舞でその敵意を煽り、矛先を自身へと向けさせる。そして黒耀衆がその矛先をミルヴィに向けたところで、花吹雪のような無数とも思える太刀筋で黒耀衆をズタズタに斬り裂いて倒す。
「邪魔だ! 寝てろ!」
収束させた光を宿したハロルドの拳が、黒耀衆の頬に叩き付けられる。拳に宿った光は眩い光を放って炸裂すると同時に、黒耀衆を後方へと吹き飛ばした。身体を起こしてハロルドに反撃しようとする黒耀衆だったが、それは果たせなかった。
「貴方はもう、終わりです」
クシュリオーネが、起き上がろうとする黒耀衆の頭に向かって指を指しながら念じて、その指を振り下ろす。すると、黒耀衆の頭が爆ぜるようにパックリと開いた。クシュリオーネは、黒耀衆の頭のあった空間を正確に引き裂いたのだ。
(こちらは頭領でしょうか、それとも部下でしょうか)
残る黒耀衆は二人。寛治は黒いステッキ傘に仕込んだ銃の銃口をそのうちの一人の頭に向け、引金を引いた。弾丸が、黒耀衆の頭を容易く貫く。魔種であれば、こうも呆気なく斃れたりはするまい。寛治は、今撃ったのが部下の方であることを察した。
「茄子子さん、.今治すっすよ」
「助かるよ、ジルくん」
鬼人種を庇いに入ったために深い傷を負ってしまった茄子子を癒やすべく、ジルは大いなる天使の救済の如き癒やしを施す。茄子子の傷はまだ深くはあるが、それでも目に見えて癒やされていった。
「残るはあと一人ですね。まだ厳しい戦いが続くでしょうが、皆さんの命は必ず癒し守ります。
どうぞ、存分に戦ってくださいね」
四音はそれが自分の使命とばかりに確りと宣言しながら、神聖なる救いの音色を奏でることで前に出ているハロルド、ミルヴィ、イスナーン、アーマデルを癒やしていく。
「会長もしっかり回復するからね、任せてよ!」
「僕もだ。その魔種を倒すまで、何としても支えるぞ」
茄子子とマルクは、四音に合わせるようにして聖域の如き結界を展開する。二人がかりの、二重の結界によって包まれた四人の傷は、さらに癒やされていった。
●決着の刻
あと残る黒耀衆は頭領のみとなったが、むしろそこからが本番だと言わんばかりに戦闘は激しさを増した。これまでは部下を巻き込まないようにするためだったのだろう、範囲攻撃を多用するようになってきたのだ。いくつもの分身が忍び刀で斬りかかったかと思えば、猛烈な爆炎や轟雷がイレギュラーズ達を襲う。その攻撃は、四音、ジル、茄子子、マルクの四人がかりの回復を以てしても、イレギュラーズ達の傷は徐々に深まっていく。
一方、頭領の方も如何に魔種となった忍者とは言え、イレギュラーズ達の攻撃からは逃れきれなかった。ある程度は攻撃を躱してはいたものの、六人がかりの攻撃を全て避けきることなど出来ようはずがない。ましてや、その中には寛治やミルヴィ、ハロルドのようにローレットの中でも最高峰レベルの実力者さえいるのだ。それ故に、頭領も生命力を削り取られていた。
命の削り合いとも言える戦いは、やがて終局に至る。イレギュラーズのうちの何人もがパンドラを費やすまで追い込まれたが、頭領の方も見るからに満身創痍となっており、その動きは鈍っている。
「感情のままに人を不当に差別し傷つける。
とても素直な人間らしい行動とは思いますが、度を超すと害悪にしかなりませんね。
嫌いな相手とだって、うまく付き合うのが理性ある行動というものでしょう?
仮にも忍者ともあろうものがそれでは、いずれ破滅するのは仕方ないというものですよね?」
四音は神聖なる救いの音色で味方を癒やしつつ、もう後の残されていない頭領に問いかける。
「感情? 不当? 何を言う。獄人の如き穢らわしい者共をこの神威神楽から消すは、道理に従った正当なる行いよ。
むしろ、それを遮る貴様ら神使こそ神威神楽にとっての害悪!」
しかし、差別感情が高じて反転までした頭領には、四音の言葉は通じない。
「会長はね、鬼じいちゃんが依頼主だったから救ったし、友達だったから助けたんだよ。
友達を助けるのに害悪も穢らわしいも無いでしょ!
意味わかんないこと言ってないで、さっさと斃れてよ!
この世界に必要ないのは、獄人でも八百万でもなく、キミ達魔種なんだから!!」
深い傷によろける身体を気力で支えながら、聖なる結界を展開しつつ、茄子子は叫んだ。その言葉には、頭領の言葉への強い義憤が宿っている。
「そうっずよ! 鬼人種の人達を肉腫に変えて人質にして、何が国の為っすか!」
ジルは茄子子に続けるように叫びながら、その茄子子を大天使の救済を思わせる癒やしで回復させる。だが、やはりその言葉は魔種には通じない。
「貴様らの如き輩どもに、我が理想はわかるまい!」
「ああ、わかりたくもない!」
茄子子やジルの言葉を拒絶する頭領の叫びを、マルクは激昂しながら否定する。これまで煮えたぎる憤怒を胸の内に納め冷静に振る舞っていたマルクだったが、それもここに来て限界に至っていた。
だがそれでもマルクの判断は冷静であり、茄子子の結界と重ねるように聖なる結界を展開する。二重に展開された結界は相乗効果をもたらし、中にいるイレギュラーズ達を大いに癒やした。
「そうだ、魔種こそこの世界の癌だ! だから、鏖だ!」
「ぐ……うえっ……」
ハロルドは剥がされた障壁を展開しなおす暇も惜しいとばかりに、光を収束させた拳を頭領の鳩尾に叩き付ける。眩い光が炸裂すると共に、頭領の身体がくの字に曲がり、後方へと飛ばされる。
「本当に侮られるべきは、アンタ達みたいに弱い人を盾にして自分の目的を楽に果たそうとする連中!
それをね、世間では腑抜けってんだ! アンタ達には、黒耀衆よりも臆病衆って名乗りの方がお似合いだよ!」
「がっ……ああああっ!」
飛ばされた先で辛うじて体勢を立て直した頭領を、ミルヴィの曲刀が襲う。非道への憤怒はミルヴィの身体の限界を超越させ、無数の剣閃となって頭領を突き刺し、斬り刻んだ。
(俺の暗殺者としての技量を全て使って、ここで仕留める!)
頭領の命運は最早決まったようなものであったが、アーマデルは狂い舞うような剣舞で頭領の命運をさらに歪め、命を削る。『蛇鞭剣ウヌクエルハイア』が鞭のようにしなり、頭領を斬り裂いた。
「ぐ……かくなる上は、貴様ら神使だけでも道連れにしてくれる!」
逃れられない死を悟った頭領は、最後の手段に出た。自らの命を燃料として、炎の嵐を喚び起こしたのである。焦熱地獄を思わせる猛火が、頭領から大きく距離を取っていた寛治、クシュリオーネ、ジル以外のイレギュラーズを包む。だが、炎が止んだ時には誰一人として倒れていなかった。直前の回復によって、辛うじて耐えきったのだ。
「最後の手段のようでしたが、通じずに残念でしたね。もう、諦めて下さい」
クシュリオーネは冷淡に言い放ちながら、全身が傷だらけになり焼け焦げた頭領の胴体に向けて指を指す。その指が真っ直ぐ下に振り下ろされると、その動きをトレースしたかのように頭領の胴体がザックリと左右に開いて割れる。
「怨恨だけで戦う者に、真の利益は訪れません。
反差別は人道主義でも何でも無い。その方が世の中がより栄え最大多数が利益を得る。
大局が見えぬ組織に、明日はありません」
ステッキ傘に仕込んだ銃を構えつつ告げる寛治の口調は、学生に講義する講師のようであった。だが、頭領は寛治の言葉を理解しないまま、理解出来ないまま逝った。頭領の生に終焉を告げる引金を、寛治がすぐに引いたからだ。
銃弾は、既に避ける余力さえも失った頭領の眉間に命中し、そのまま脳を貫いた。グラリ、と頭領の身体が後ろに揺らぎ、ドサリと倒れた。その表情は、己が理想を阻んだ神使への憤激に歪んでいた。
●七館門の歴史は繰り返されず
黒耀衆は全て斃れ、七館門はイレギュラーズ達によって制圧された。肉腫に感染した鬼人種達は、昏倒したことにより肉腫から解放された。
だが、鬼人種達を守るために無理をしたこともあり、イレギュラーズ達の傷も深い。これ以上の進攻は厳しいと判断したイレギュラーズ達は、昏倒した鬼人種達を放っておけないこともあり、制圧した七館門をその場で守ることにした。
茄子子、四音、マルク、ジルは倒れている鬼人種達に癒やしを施して回る。ミルヴィはその様子を心配そうに見守っていたが、誰一人として死んでおらず、鬼人種達の様子が安定していることにホッと胸を撫で下ろす。
アーマデルは力尽きたイスナーンを介抱し、ハロルドとクシュリオーネ、寛治は黒耀衆の遺体を片付けにかかる。
(せめてもう少し大局が見えていれば、違った運命もあったでしょうに……)
その最中、憤激に歪んだままの頭領の死に顔を、何とも言いようのない複雑な表情で寛治は眺めるのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんの活躍によって鬼人種達は誰一人死亡することなく、黒耀衆は殲滅されました。
MVPは、まさかの手法で黒耀衆を炙り出すのに貢献したハロルドさんにお送りします。
GMコメント
こんにちは、緑城雄山です。今回は全体依頼<神逐>のうちの一本をお送りします。
さて、今回の敵は忍者です。繰り返します。今回の敵は忍者です。
●成功条件
頭領を含む黒耀衆の全滅
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はEです。
無いよりはマシな情報です。グッドラック。
●ロケーション
高天御所、七館門の前。
地形は平坦ですが辺りには灯りがなく、ペナルティーなく戦闘を行おうとする場合は十分な光源か暗視が必要となります。
●黒耀衆頭領 ✕1
忍者衆『黒耀衆』の頭領です。鬼人種への差別感情が高じて反転した魔種です。
前回の全体依頼「<傾月の京>真実の、主の仇」では、戯れに「主奪われし老鬼の願いたるは」の依頼人である老鬼人種を肉腫に感染させました。なお、「<傾月の京>真実の、主の仇」やOP前半はで黒装束の男と描写していますが、OP後半でその姿をしているとは限りません。
七館門の前の何処かにいることは確かですが、イレギュラーズ達はその存在を認識出来ていません。
また、他の黒耀衆とほぼ同じような姿をしているため、他の黒耀衆がいる限り頭領だけを選んで攻撃することは基本的に不可能です。
●黒耀衆 ✕?
黒耀衆頭領が率いる忍者衆です。OP全体を通じて、頭領と同じ姿をしています。
OP前半で触れたとおり、肉腫に感染しています。
頭領同様、七館門の前の何処かにいることは確かですが、イレギュラーズ達はその存在を認識出来ていません。
また、頭領とほぼ同じような姿をしているため、頭領以外を選んで攻撃することは基本的に不可能です。
●鬼人種 ✕約30
老人や子供を含んだ鬼人種達です。黒耀衆に囚われ、肉腫に感染させられました。
複製肉腫とは言え、元が元ですのでイレギュラーズ達にとっては脅威とはなりません(しかし、鬼人種達の攻撃によっても回避への累積ペナルティーはしっかり発生します)。
【不殺】のない攻撃手段で攻撃され戦闘不能となった場合、確実に死亡するでしょう。
それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。
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