シナリオ詳細
<神逐>夜行。或いは、忌の夜…。
オープニング
●騒乱暗雲
カムイグラの地を覆う暗雲。
黄泉津『此岸ノ辺』に迫った危機は、イレギュラーズの活躍により一応の決着を見た。
とはいえ、被害は甚大。
加えてカムイグラを覆う“暗雲”は今だ晴れてはいないのだ。
『黄泉津瑞神』
それはカムイグラの守護神の名だ。
曰く、それは犬の姿で顕現し、時の権力者へ予言と加護とを与える存在であるらしい。
そんな黄泉津瑞神が『けがれ』と『大呪』の影響を受け暴走しかかっている。
そして、それを放置しておけば、多くの民が犠牲となるだろうことは想像に難くない。
場所は高天京、城下。
天守閣に起きた異変をひと目見ようと、通りには無数の民が集う。
ざわめき、困惑し、すすり泣く民たちの前にソレは静かに現れた。
カッポカッポと蹄が地面を打つ音がした。
首の無い馬にのる大男。
背丈は3、4メートルほどか。男を乗せた馬も相応に巨体を誇る。
その手には太い槍が1本。
ざんばら髪の間から、三白眼が覗いて見えた。
その頭部には角が2本。
「ひれ伏せぇい!!」
男は太く低い声でそう怒鳴る。
間近でその大音声を聞いた民たちの中には、失神する者さえ現れる始末であった。
「地に額をこすりつけ、頭の上に草鞋を乗せよ。黄泉津瑞神の御前であるぞ!」
男が槍を一閃させると、途端に周囲を火炎が包む。
赤黒く燃える火炎に呑まれ、数名があっという間に灰燼と化した。
あちらこちらで悲鳴があがる。
気を失う者。
泣き叫ぶ者。
逃げ惑う者。
錯乱し他者に殴りかかる者。
恐慌に陥る民たちを見て、その男は呵呵と大口を開けて笑う。
「醜い! 醜いぞ! これは良い見世物だ! なぁ、お主ら?」
男が“何か”にそう呼びかけた、その瞬間。
火炎の中から、都合7人の僧侶が姿を現した。
黒衣を纏い、錫杖を突き、ケタケタと笑う不気味な僧侶。
その顔は醜く焼けただれ、白濁とした眼はどこを向いているのやら……。
「……も、魍魎」
と、誰かがそう呟いた。
その言葉に「応」と答えるかのように、僧侶たちはより一層に大声を上げ笑い狂うのであった。
●夜に駆け行く
「城下街で暴れる妖……夜行と、7体の魍魎を撃退してもらいたい」
唸るようにそう告げたのは、1人の武者だ。
その鎧は、誰のものとも知れない血で赤く濡れていた。
「現在、夜行たちは武家屋敷通りを進行中だ。うち2体の魍魎だけが道を外れ飲み屋街の方へと向かっている」
武家屋敷通りを抜けた先は、街人たちの避難場所となっている。
おそらく夜行たちはそちらへ向かっているのだろう。
避難場所に辿り着くまでに食い止めねば、多くの街人たちがその命を落とすことが予想される。
「夜行は首の無い馬に乗っている。周囲に【業炎】を展開する技と、加速からの刺突を得意とするようだ」
そう言って武者は鎧に付いた血を拭う。
夜行によって殺められた誰かの血……なのだろう。
「そして、追従する僧侶……魍魎たちは【呪縛】や【混乱】を誘発する経を唱える。拙者の仲間は、動きを止められたところを夜行に突き殺されておったな」
魍魎たちに比べると、夜行の戦闘力が高いことは明白。
とはいえ、魍魎たちとて無視できるほどに弱いわけではない。
また、現在は2体を除き纏まって行動しているようだが、夜行と魍魎は別個の存在だ。
いつ散開するとも限らない。
「被害が拡大する前に、可能な限り早期の討伐を頼みたい。無論、我らも協力しよう。幸い、まだ5名ほど動ける足軽が残っている」
存分に使ってやってくれ、と。
そう言って武者は言葉を切った。
否……。
見れば、鎧の隙間から夥しい量の血が溢れているではないか。
彼もまた、夜行によって重症を負わされていたのだろう。
最後の力を振り絞り、夜行たちの動向を知らせに走ったのだ。
事切れた武者の姿に涙をこぼす足軽たちが、イレギュラーズの前に並び膝を折る。
「何卒……我らにもお役目を。このまま黙って見ているだけでは、無念のうちに散った武者様に顔向けなどできません」
- <神逐>夜行。或いは、忌の夜…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年11月09日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●夜を行く
高天京、城下。
黄泉津瑞神の暴走により混乱の最中にあるその町に、都合8体の妖が姿を現した。
先頭を進むは首の無い馬に乗った武者、夜行。
さらには、僧侶に似た姿の魍魎を引き攣れていた。
彼らは黄泉津瑞神の影響を受け、狂暴化しているらしい。
イレギュラーズたちに、夜行の出現を伝えたのは1人の武者だ。
命を賭して駆けた彼は、既に息を引き取っている。
武者の部下であった5名の足軽たちへ向け、『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は静かに問うた。
「俺は武者では無い。だが彼が無念の中、民を、皆を守ろうとした事だけは解る」
その手には、武者の携えていた1本の刀。
死した武者の想いを継ぐべく、ベネディクトは刀を借り受けた。
「生憎と此処から先は通行止めだ──お前達にこれ以上の狼藉、働かせられぬ」
片手に槍を、腰に刀を携えてベネディクトは低くそう告げた。
場所は城下、武家屋敷通り。
歩を進める夜行たちの眼前に、ベネディクトと『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が立ちはだかった。
巨体を覆う鋼の鎧。両腕を組んだ仁王立ちでゴリョウは夜行たちを睨み据える。
「よぉ、随分と調子付いてるようだが……偉いのは黄泉津瑞神であってオメェさんじゃねぇだろ?」
挑発するようそう告げた、ゴリョウの身体を眩い光が包み込む。
城下、飲み屋街。
夜行たちとは別行動をとる2体の魍魎がそこに居た。
倒れた家屋に、人の死体。
血だまりに沈む女性の胸には、幼い少年が抱かれている。
「これ以上……生き残った人に手出しさせないようにしないとね」
遺体を見据え『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)はそう呟いて歯を食いしばる。握りしめた拳が震え、敗れた手の平からは血の雫が滴った。
「行きましょう」
「彼女たちの無念も、我らはしかと胸に刻みました」
そう告げたのはセリアに同行した5名の足軽たちだった。
守るべき民を守り切れず、他国の者に頼るしかない現状に悔しさと怒りを感じているのだろう。 武器を手に取り、戦う力を持つとはいえ所詮は足軽。
彼らは正しく、自分たちの無力さを理解していた。
「これ以上、悲しむ者を増やすわけにはいきません。無念に散っていった人達の為にも……」
着物の袖を紐で縛って『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)は左右の腕をだらりと垂らす。淡々と……静かに告げたその声には、隠し切れない憤りの感情が浮かんでいた。
声を揃えて経を唱える魍魎が5体。
その眼前に『魔法騎士』セララ(p3p000273)が躍り出た。
「正義の魔法騎士、セララ参上! カムイグラの平和はボク達が守る!」
はためくマントに輝く剣。
ラグナロクと銘打たれたその剣が、魍魎の持つ錫杖と激しく打ち合い火花を散らした。
「一方的な力で蹂躙しそれを愉しむ……何が見世物でしょうか」
眉をしかめて『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)はそう告げる。
地の底から響くような魍魎の声は、ひどく彼女の気に障る。
「その通り……生き死には見世物じゃないし、そうやって弄ぶ為の物でもないよ。どの命も、今を精一杯生きてるんだから」
構えたボウの弦を引き『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)はそう告げた。
狙う先には経を唱える魍魎の姿。
セララと打ち合う仲間を無視し、残る5体は夜行を追って前進を再開したようだ。
「分散されるのは厄介ですが、合流されるのも困りますね」
そう言って『群鱗』只野・黒子(p3p008597)は腕を振るった。
魍魎の周囲で景色が歪む。
●悪鬼の行軍
博打よりも堅実を。
そこに困難があるのなら、知を持って制すれば良い。
そんな黒子の使うスキルは“奪う”ことに特化していた。
視界に映る空間から、彼が奪ったのは“安定”だった。地面や家屋の安定を奪えば、それは崩れ去るのが道理。さらには安定を失した空間内において、砂と化したそれが静かに地面に積もるばかりとは限らない。
そうして巻き起こされた砂塵に押され、3体の魍魎が後方へと押し戻された。
「これで少しは時間を稼げますかね」
そう告げた黒子の視界では、砂塵を抜けて前へと進む魍魎が1体。
魍魎の唱える経文が黒子の精神を激しく揺さぶる。
ここで仲間へ攻撃対象を変えたのなら……そんな黒い想いが胸の内に沸く。
そんな黒子の背に手を触れたのはリンディスだった。
「教えて差し上げましょう、この地を彩る物語の中、奴らのような振舞いを行うものに与えられる言葉を……すなわち、それは」
「成敗」と。
微笑み、告げたリンディスは白紙の紙面を展開した。
展開された紙面に彼女が綴るそれは“物語”。
かつてこの世に存在したあらゆる軍記に記された、戦士たちの軍略である。
紙面に綴られた文字は、染み入るように黒子の脳裏を埋め尽くす。
そうして平静を取り戻した黒子へと、リンディスはそっと微笑んだ。
「範囲の回復カバーは極力黒子さんへ任せます」
セララの剣が魍魎の腕を切り落とす。
輝きを纏った斬撃は、地面を抉り直線状に並んだ2体の魍魎を斬った。
「君達の相手はボクだよ! セララストラッシュ!」
小さな体に金の髪。
愛らしい顔立ちには、けれど僅かな苛立ちが滲む。
斬られ、抉られ、けれど魍魎たちは経を唱えることをやめない。セララ自身は【精神無効】の耐性により悪影響を受けることはないけれど、だからと言って聞いていて楽しいものではないのだ。
そんな彼女の頭部へ向けて、魍魎は錫杖を叩きつけた。
「くっ……」
額が割れ、血が散った。
姿勢を崩したセアラの喉へ、追撃とばかりに錫杖が迫る。
けれど、それが彼女の喉を穿つことはなく……。
クルルの放った鋼鉄の矢が錫杖を撃ち抜き、へし折ったのだ。
さらに、連続して放たれた第二の矢が魍魎の右目に突き刺さった。
「大まかな急所は目とか首とか……人と同じみたいだね」
顔を押さえよろける魍魎。
その様を見て、クルルは次の矢を番える。
直後、姿勢を崩した魍魎の首をセララの剣が斬り裂いた。
首無し馬の突進をゴリョウはその身で受け止めた。
馬上より叩きつけられた大槍による一撃が、ゴリョウの肩を激しく叩く。ミシ、と骨の軋む音がした。
「図が高いぞ、化生めが!」
「はっ、お互い様だろうが! っつーか、あんた、怒りっぽいねぇ! こりゃあよくねぇ! 朝日浴びたら落ち着く作用があるらしいぜ!」
「やかましいわ! デカブツが!」
黄泉津瑞神の影響により、夜行は怒りに憑かれているのだろう。
力任せに、けれど確かな狙いでもってゴリョウの肩や肘などの関節を狙って刺突を放つ。
刺突をその身で受けながら、ゴリョウは盾を振り上げた。
夜行の乗った首無し馬の太い胸部を、ゴリョウの盾が打ち据えた。
痛みに悶える首無し馬の足元へ、ベネディクトが駆け寄るが……。
「やらせんわ!」
夜行は頭上で槍を旋回。
夜行、そしてゴリョウの周囲を囲むかのように業火の柱が吹き上がる。
「っ……クートン!?」
業火のうちへ向けベネディクトが言葉を投げた。
「問題ねぇ! この背に無辜の民が居るとなれば、流石に後ろには引けねぇからなぁ!」
激しい殴打の音と共に、ゴリョウの声が夜空に響く。
流れるように、音もなく。
姿勢を低くし、沙月は通りを駆け抜けた。
沙月の接近に気づいた魍魎たちが、経を唱える声を一層大きくしたが、生憎とそれは沙月の精神を揺さぶるには足りない。
足軽たちに耳を塞ぐよう指示を出し、セリアは魔導書を開いた。
魔導書の上に形成される魔力の弾丸。セリアの精神力に魔力を通して作ったものだ。
「まったく、おかしくなった神様の対処も大変なのに、こんなところまで……!」
セリアの放った魔弾によって、魍魎のうち1体が頭部を撃たれてよろめいた。
経の片方がそれで止まった。その隙を突き、セリアは足軽に“進行開始”の指示を出す。
「皆、今だよ。可能な限り背後からの急襲を狙ってね」
「「「「「応っ!」」」」」
唱和し、5人は駆けだした。
大上段に構えた刀に、渾身の力と無念の想いを乗せながら。
「連続攻撃で一気に攻め立てましょう」
そう告げた沙月は、鋭い手刀を魍魎の喉へと叩き込む。
経が完全に止まったことを確認し、足軽たちはさらにかける速度を上げた。
がむしゃらに振り回される錫杖を、沙月はその手で受け流す。
足軽目掛けて突き出された錫杖は、セリアの放った魔弾が焼いた。
沙月の掌打を腹に受け、魍魎のうち1体が地面に倒れた。
「おぉぉぉっ!!」
怒号と共に振り下ろされた足軽の刀が、魍魎の頭や肩を切り裂く。
涙を流し、嗚咽を零し、足軽たちは倒れた魍魎に次々と刀を突き刺した。
さらにもう1体の魍魎へ、沙月は素早く近寄るとその喉へ向け手刀を打つ。
「っふ!」
喉を打たれた魍魎は、錫杖を落とし仰け反った。
がら空きになったその胸部を、セリアの放った魔弾が穿つ。
声にならない悲鳴をあげて、魍魎の身体は腐肉と化して崩れていった。
その様を遠目に見つめ、セリアは静かに呟いた。
「…………少しは、無念を晴らせてあげられたのかな」
彼女の零した小さな声は、誰の耳にも届くことなく夜の静寂に溶けていく。
火炎の壁を突き破り、ゴリョウの巨体が宙を舞う。
その身に負った大火傷。
脇腹からは、夥しい量の血が溢れていた。【パンドラ】を消費し、意識を繋いだゴリョウは背後に控えるベネディクトへと視線を送った。
炎の壁が掻き消えて、現れたのは夜行であった。その角はへし折れ、身体には幾つもの殴打の痕跡。
首無しの馬は、力尽き地面に横たわっていた。
「おう、続きは頼まぁ!」
「あぁ、こいつらは此処で倒す、絶対にだ!」
手にした槍を夜行へ向けて、声高らかにベネディクトは吠えた。
「俺の怒りが、武者の無念が、民達の悲しみが俺に力を与えてくれる……覚悟して貰うぞ」
迎え撃つ夜行は、無言のままに槍を腰溜めに構える。
眉間に浮いた青筋から、夜行の怒りが見て取れた。
地面を蹴って、ベネディクトが駆ける。夜行は腰を低く落とすと、捻るようにして槍を撃ち出す。
その槍はベネディクトの頬を抉った。血飛沫と共に、切り裂かれた肉片が散る。
飛び散った血にその顔を朱に濡らし、しかしベネディクトは足を止めない。
加速の勢いを乗せたその突きが、夜行の額……角を砕いた。
●無念を乗せて
魍魎たちから遥かに遠く、地面に膝を突いた姿勢でクルルはボウに矢を番えた。
残る魍魎は2体。
既に黒子とリンディスは、ゴリョウの治療と夜行の対処へと向かっている。
「……ふぅ」
肺いっぱいに吸い込んだ、冷たい空気がクルルの思考を冷静にさせる。
彼女が放つべきは、ここぞという時のトドメの一射。迅速に敵を片付けるためにも、その矢を外すことは出来ない。
きり、と弦を引き絞る。
クルルの見つめるその先で、セララは頭上へ剣を掲げた。
「閃く刃に正義の想いを込めて。夜行の悪行はここで止める!」
セララの頭上に突如発生した黒雲が、剣に向けて雷を落とした。
地面が震えるほどの轟音。紫電を纏った剣を上段に振りかぶり、セララは跳んだ。
「全力全壊! ギガセララブレイク!」
魍魎が構えた錫杖ごと、セララの剣はその体を両断。黒焦げた魍魎が倒れ、セララは激しく肩で息を繰り返す。
そんなセララへ向け、もう1体の魍魎が錫杖を突き出すが……。
「無暗に壊して奪ってまわるつもりなら……これ以上はやらせないよ」
ストン、と。
軽い音を鳴らして、その額にクルルの矢が突き刺さる。
ゴリョウの肩に手をかけて、黒子は回復スキルを行使。
反響する魔力によってリィン、と鐘に似た音色が鳴った。
それと共に降り注ぐは淡い燐光。ゴリョウの身に負った傷を癒す。
「おう。助かったぜ。それでよ、悪いんだが……」
「あぁ、分かっています。戦域周辺に一般人が居れば退避を促しますよ」
例の計画の邪魔になるので、と。
そう言って黒子は通りを引き返していった。
その背を見送り、ゴリョウは盾を肩に担いだ。
火炎の柱とベネディクトの間に、跳び込んだのはリンディスだった。
受けたダメージであれば、自身の術で治癒が可能だ。
戦闘不能になったとしても、高いEXFを活かして活動を続けることが叶う。
「この程度の炎、耐えきって見せましょう。こんなもの、大事な友達の炎の方が何倍も何倍も……」
火炎の中でリンディスが吠えた。
身体を業火に焼かれながらも、その瞳はまっすぐに夜行を見据えている。
「……強く、そして輝きに溢れています!」
展開した白紙に、刻み込まれた物語。
記されたそれは、多くの戦場を駆け抜けた医師団たちの記録である。
その物語により励起されるは癒しの力。
リンディス自身はもちろん、背後に控えたベネディクトの傷をも癒す。
そして、直後……。
「家屋は壊せても、俺たちを倒せるかどうか。試してみると良い……」
リンディスの援護を受けて、ベネディクトは地面を駆ける。
突き出された夜行の槍を回避しながら、ベネディクトはその懐に潜り……。
そして……。
「容易くはないぞ!」
紫電を纏った一撃が、夜行の腹部を貫いた。
黒子の背後で紫電が爆ぜた。
それを横目で一瞥し、黒子は視線を通りの先へと差し向ける。
逃げ遅れていたのだろう。
通りの先から怪我をした人々が武家屋敷通りへと駆けて来た。
「っと、こちらは危険ですよ。今なら……えぇ」
あちらへ、と。
黒子の指さした先からは、沙月、セリア、そして5名の足軽たちが姿を現す。
先頭を駆ける沙月へ向けて、黒子は視線で合図を送った。
黒子の視線を受けたセリアは頷きを一つ返すと、走る速度をさらに一段引き上げる。
ベネディクトの背後に控えるゴリョウとセララ。
眼前にはリンディスとベネディクト。
夜行の背後……ボウを構えたクルルの姿。
夜行は僅かに思案すると、1歩2歩と後ろに退る。
連れて来た魍魎たちは既に全員、討伐された。首無し馬も、ゴリョウによって息絶えている。いつの間にやら、スーツの男の姿はどこかに消えていた。
現状、ベネディクトと夜行の負ったダメージは五分五分といったところだろうか。
怒りの感情に身を任せていても、夜行は歴戦の猛者である。彼我の戦力差ぐらい、本能で理解できていた。
これ以上、無理にこの場で戦いを続けても、目的を達することは難しいだろう……戦いに時間をかけ過ぎたことも問題だ。避難場所の住人たちも、ともするともはやどこかに逃げた後かも知れない。
「仕切り直しだ……」
全速力で退避に移れば、追いつかれずに逃げ切れる。
そう判断し、踵を返した夜行だったが……。
「逃がしませんよ」
「逃げるという判断は評価するけどね!」
振り返った夜行の顔面を、沙月の手刀が強かに打つ。
さらに、空いた胸部にセリアの魔弾が突き刺さる。
「ぐ……な、どこから!?」
「武家屋敷の庭ですよ」
足軽たちの案内で、沙月とセリアは武家屋敷の裏口から通りへと抜けて接近したのだ。
さらに一撃、セリアの魔弾が夜行を襲った。素早くそれを回避して、夜行は槍を頭上に構える。
「ぶはははッ、小細工すまねぇな夜行!」
不意打ちを受けた夜行をゴリョウが笑う。
顔面を押さえた夜行が地面に膝を突いた瞬間……刀を構えた足軽たちが、夜行の元へと駆け寄った。
沙月の掌打が夜行の胴を打ち抜いた。
その隙をつき、足軽たちが夜行の手足を斬り付ける。
衝撃で、ついに夜行はその大槍を地面に落とした。
「今こそ!」
「主君の仇を!」
さらに1歩を踏み込もうとした足軽たちを、夜行の血走った眼が捉えた。
「退避を!」
そう叫んだのはリンディスだ。
咄嗟に足を止めた足軽たちの眼前で、業火の柱が吹き上がる。
燃え盛る炎に遮られ、足軽たちは夜行の元へと辿り着けない。
けれど、しかし……。
「死した武者が……仲間たちが繋いだ未来、確かに俺達へと繋がったぞ!」
体を炎に焼かれながら、ベネディクトは夜行の背後へと迫る。
夜行が火炎を噴き上げた瞬間、彼だけは跳んでいたのだ。
ベネディクトを夜行の元へ送るべく、リンディスもまた火炎にその身を晒していた。ベネディクトの盾となったリンディスは重症だ。
しかし、彼女は笑っていた。
「満身創痍の騎士が、死した戦士の刀を携え仇を討つ……まるで英雄譚ですね」
ベネディクトの手に握られていたのは、夜行に命を奪われた武者が愛用していたものだ。
「何だ、その刀は! 焼け焦げたなまくらではないか! 待て! 我の最後が、そのようななまくらであっていいはずが……!」
「……もう黙れ」
一閃。
ベネディクトの斬撃が、夜行の胸部を斬り裂いた。
「よぉ、悪いな。無辜の民を殺させるわけにはいかねぇんだわ。約束したからな」
地面に伏した夜行を見下ろし、ゴリョウは静かにそう告げた。
血を吐き、浅い呼吸を繰り返す夜行は血走った瞳でゴリョウを見上げる。
ふっ、と夜行は笑みを零して……。
「これで良い。これで良いのだ。よくぞ……我を抑えてくれた」
黄泉津瑞神をよろしく頼む、と。
そう言い残し、夜行は息を引き取った。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした。
夜行は無事に討伐され、避難所に逃げおおせた住人達が襲われることはなくなりました。
依頼は成功となります。
死した武者や犠牲者たちの無念も、晴らされたことかと思います。
この度はご参加ありがとうございました。
また、機会があれば別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
夜行&魍魎の撃退。
●ターゲット
・夜行(妖)×1
『大呪』の影響を受けて暴れ回る妖。
首のない馬に乗った3メートルほどの巨躯の男。
その外見は鬼に似ており、武器として太い槍を持つ。
言葉を理解し、意思の疎通も可能。
大呪の影響によるものか、非常に好戦的な性格となってしまっている。
夜業:神中範に大ダメージ、業炎
周囲に業火の柱を展開させる術。
夜驍:物近単に特大ダメージ
加速からの渾身の刺突。
・魍魎(妖)×7
『大呪』の影響を受けて暴れ回る妖たち。
爛れた顔の僧侶の姿をしている。
言葉を理解することは出来るが、基本的にはケタケタと笑っているだけ。
現在、5体が夜行と共に武家屋敷通りを進行中。
2体は飲み屋街をうろついている。
呪経:神遠範に小ダメージ、呪縛、混乱
不気味な経。
耳を塞いでも、脳に直接響いてくる。気持ち悪い。
・足軽×5
城下を守るために配置されている一般兵。
槍や刀を装備している。
軽装ゆえ機動力に優れる。
通常攻撃に【出血】のBSが付与されている。
●フィールド
武家屋敷通り。
道幅は広く、直線。
距離にしておよそ300メートルほど。
飲み屋街
夜行や魍魎が暴れたためか、家屋が幾つか倒壊している。
建物が乱雑に建ち並んでおり、荷車や樽といった障害物も多い。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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