シナリオ詳細
<神逐>焔白の応
オープニング
●焔の娘と白き獣
「見える? 朱雀」
「んぅ……?」
ぱちり、と瞬いたは朱雀――ではあるが、どうやら眠たげである。
「瑞が泣いてる」
「……うん。瑞も泣いてる。都全体がそれに呼応してるね……」
「起きてる?」
「うん」
対するは白虎。少女はそっと、朱雀の額をぺちりと叩いた。寝ぼけ眼を擦って、朱雀は「約束したのじゃ」と呟く。
「神使に力を貸すと――」
「うん。我もだよ。我も、だからこの力をこの場で託したんだ」
それが一人の青年の起こした奇跡である事を、弐柱は知っていた。
只人が命を懸けたのだ。
自身ら大精霊、否、『神』が黙するのも可笑しな話ではないか。
「黄龍だって、言ってた。御霊石に力を込めろって。
朱雀、目を覚まして。今こそ我らの力を見せつけるぞ! えいえいおー!」
「……ん」
「起きてる?」
「起きてるのじゃ」
その弐柱を束ねる黄龍は彼らが『加護を与えし存在』へと結界の補佐を行うように頼んだのだという。
寧ろ、この弐柱は『頼まれずとも』協力しただろう。それだけ、彼女達は神使を好ましく感じていた。
眼前でその慟哭を響かせる黄泉津瑞神。その悲しさを打ち払うが為――そして、この高天京を護るが為の力を、今一度貸して欲しい。
●黄泉津瑞神
――遍く命は等しく在らねばならぬ。故に、我が心を子らへと伝えるものが必要だ。
言霊により、産み出された一匹は、『瑞』の名を頂いた。
瑞兆を与えし神意の大精霊。彼女は国産みを行った祖の第一の娘であった。
彼女がその姿を現す時、黄泉津は様変わりする。草木繁り、花啓く。枯れ泉は湧き出て蓮華は車輪が如く花咲かせ、瑞雲は中天を彩り続ける。天つ空なりし瑞の言葉が一つ、落ちれば大地は変貌し続ける。
それだけの力を持った美しき白き娘。浄き神気を纏い、遠つ御祖の心へと添い続ける。
祖は次々と『瑞』の補佐たる子らを生み出した。黄龍――四神。
彼らは瑞を愛し、祖を愛し、祖の体なる黄泉津を深く愛していた。
そして、祖は彼らへと一つの言葉を残した。
自身の力を大きく別つ愛しき娘『瑞』が邪なる者に侵され狂おしくも祖を害する刻が訪れたならば――その時は『黄泉津瑞神』を弑するのだ、と。
●
只人は可能性に溢れる。神とは坐し、黙し、人の営みには手を出せない。
委ね、可能性を与える事こそが神に求められたもので、彼らが直接的に『何か』を行う事が出来ないのだ。
それは神格として煽られた高天京の『大精霊』とて同じであった。
彼らは皆、人の手によって蓄積した『けがれ』を厭い、霞帝に――今園 賀澄に助けを求めた。
彼らの加護と、そして前へ行く心が国を僅かに進展させたのも束の間、『ありきたりな事故』が不幸にも『天香家の許嫁』であったことで停滞した。国の政は澱みに存在し、確執は深き溝を作る。
それ故に、爆増したけがれはこの国を守り続けた黄泉津瑞神を――瑞獣を苦しめた。
彼女は人によってその体を毒に蝕まれ、今にもその性質さえも『狂わせた』
だが、狂気に侵されながらも僅かな光が差したのは――彼女が『神』であったかもしれない。
青年が――ヴォルペ(p3p007135)が願った奇跡により罅割れた結界は再構築され、瑞が大呪を抑え続ける。
その隙に、動けと黄龍へ告げたイレギュラーズも居たが、彼らは与える側であり、自らが動く子とは叶わない。
それは自身らが人の歴史を変えてしまうという懼れ、そして、この地を護る為に縛れる存在だからである。
だからこそ、只人に――イレギュラーズへと求めた。
高天御所に存在する『御霊石』を守ってほしい。
瑞の嘆きに呼応して襲い来る眷属達は皆、涙を流しているだろう。
――人の所為である。
彼の女神が苦しみ藻掻いているのは、人が生み出す『けがれ』の所為であると。
その悲しみを打ち払ってやって欲しい。
そして、どうか、この結界を補佐して欲しい。より強固な結界を作り出すがために。
それこそが、瑞を護るための――この京を救う為の――そして、誰かが願った奇跡の続きなのだから。
- <神逐>焔白の応完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年11月16日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
神逐(かんやらい)――
国津罪が如き、高つ神の災の如き。堕つ神を浄め、『けがれ』と澱みに満ちたこの国を正すが為の『人』の行い。
座すその陣は朱雀と白虎の加護を帯び、淡く焔と白き光を放つ。その中で『終末の騎士』ウォリア(p3p001789)は静かに息を吐く。
「人が始めた因果ならば、それを終わらせるのもまた人の手であるが故に」
だからこそ、と前を向く。この國が生み出した苦しみが『誰も』を狂わせたのならば。『揺蕩』タイム(p3p007854)は震える声音で「どうして……」と呟いた。
「でも、神様も大精霊もみんな頑張ってる。助けてくれてる。大勢の人がどうにかしようって力を合わせて動いてる。
だからわたしもここで御霊石を守りぬいてみせるわ。皆さん、よろしくお願いしますね!」
やる気十分に。浄き陣の上で静かに息を吐くタイムは眼前の淀んだ気配に息を飲む。
「加護なんか要らないんで自分達でケツ拭いてくださいよって思わなくもないですが……
は。自分達が神様だから手を出せないってそれマジで言ってんですかね。貴方達ちょっと力強いだけの精霊でしょうに」
小さく吐き捨てたのは『星飾り』ラグラ=V=ブルーデン(p3p008604)。大精霊達は皆、神である事を望まれた存在だ。故に、手出しができないとそう言ったか。人の世に介入し、勝手に人の心より湧き出た全てを飲み込んで。『勝手』にため込んだのは神様の側だ。
「……というか、ですね。本当に神様だって言うなら、人間に迷惑かけないでくださいよ」
瑞ちゃん、と。ラグラ見上げる先に存在するのは天守閣の黄泉津瑞神である。それを押さえつけるために結界を巡らせ、『補佐』するのがこの地に坐したイレギュラーズの役割か。
「マリアおねえさんにアカツキ、そして力をかしてくれる朱雀と白虎たちのためにがんばるよ!」
朱雀と白虎はこの結界の為に頑張っている。そう思えば『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は自身とて黄龍の朋友だ。故に、役に立てるはずだと震える拳に力を籠める。
「私達の役目は弐柱が力を込めた御霊石を護る事……ね。――ホント、責任重大ね。
この場ともう一方の御霊石を護りきらなければ、あの場で戦おうとしている彼等にも影響があるという事でしょう?」
天守閣を見上げる。『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)の指し示した『彼ら』――それは黄泉津瑞神へ向かう事になるイレギュラーズ達の事だ。黄泉津瑞神は淡き光を帯びて、僅かな救いを口にした。それは瑞神を愛する神威神楽の五つの柱の願いと同じである。
「白虎君……君の霊石は必ず護る……! 今度は私が君達の友人を助ける番さ!!」
胸を張り微笑む。『白虎護』マリア・レイシス(p3p006685)は霊石の傍らに幻影を用い、出来る事をすべて為すが為に自身に宿してくれた白虎に報いるためにと迫りくる眷属たちをその双眸へと映す。
「四神結界の補佐を行う陣、その中心である御霊石……必ず守ってみせようぞ。
黄龍とも約束したしのう、黄泉津瑞神を救うと。バシっとキメて朱雀殿に改めてお礼をしにいくのじゃ、美味しいお菓子でも持ってのう!!」
にんまりと微笑んだ『焔雀護』アカツキ・アマギ(p3p008034)は朱雀の加護を得てその両腕の紋より鮮やかなる炎を沸き上がらせる。
「実のところ高天京の行く末に、然程興味を持っていたわけでもないのですが。
私がここに立つのは、炎の権化たる朱雀の加護に報いる為。
その協力への礼を、私なりに尽くす為。その尽力を、罷り間違っても無為に終わらせない為」
アカツキの帯びた鮮やかな赤の加護。其れこそが、炎の権化たる朱雀のものであることに『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)は気付く。
今際の果てに灯あれかし。 灯の照らす果てに夢あれかし。自身を満たす焔。夢魔の世界に燃え滾ったその紅は何よりも美しい。
「私は『幻燈術師』クーア・ミューゼル――いざ、参るのです」
《Maeve=Magia》を由良がして、ぺろりと舌を覗かせる。劫火の如き恋が此処にあるならば、朱雀という炎の権化へ恋焦がれる様にクーアは地を蹴った。
「友が危地より帰還した、ならば妾に心残りは無し!
我はアカツキ・アマギ! 焔雀護の称号を戴く者!!
けがれに苦しむ眷族共よ、焔王朱雀の加護、そして妾の炎を恐れぬならばかかって来い!!」
鮮やかな紅の色が何重にも重なり続ける――その地に踏み入れるものすべてを焼き尽くさんと広がり続ける。
●
朱雀と白虎。神威神楽においての『四神』の二柱がその加護を渡した友人へと助力する。これ程に光栄な事はないとウォリアは『炎壁』として立ちはだかる。襲い来る百何をも焼き払う。涙を流し、憂う眷属たちへと今一度、『穢れを祓う未来』を目指す地震らの意志を刻み付くために、陣の中でウォリアは今か今かと待ち続ける。
「行きましょう」
その手に、しっかりと刀を握りしめた。この國は――神威神楽は竜胆にとって大切な場所だった。それは、『弟子(あのこ)』が愛した人がいる。『弟子』が目指した未来がある。全て不透明で、まだまだ見えない事ばかり。それでも願い、誓った――『あの子と、あの子の想う彼がこの地で笑い合えるように』
その為に師が立ち止まっては居られない。竜胆は声を張り上げる。此れより先は通しはしない。その胸に抱くは確たる信念そのものだ。
「気味が悪いほど明るい月、影もより一層。
しかし暗闇の中でも私ちゃんはとっても目がいいんでなあ良く見えていますよ。
泣いているようですが、それだって自分勝手。他人に押付けがましくアピールするのやめません?」
ラグラは十三の輝きをころりと指先転がした。魔力の光が宙彩る。私ちゃんはとっても目がいいので、と胸を張り、宙見上げるその瞳は見逃すことなく細められる。
「Uh-!」
ふるりと震えたリュコスは陣の上、敵の様子を見つめて瞬いた。心の叫びを影へ。影は牙であり爪。理不尽に突き立てて、切り裂くための――その矛先が誰であろう共リュコスは惑う事はない。
「……眷属は狐、なのかな? 瑞神は犬なのに」
「朱雀は鳥で白虎は虎だ! そう思えば宛ら動物園のようではないかい?」
揶揄うように笑うマリアにリュコスは小さく頷いた。加護と共に、陣を生かして、跳ね上がる。喉奥より絞り出した一撃は赤、次いで黒。鮮やかなる色彩の中で浄き気配に小さく息をついたアカツキが「更に鮮やかな赤はどうじゃ?」と揶揄い笑う。
御霊石を護ることはマリアに任せ、心おきなく戦い続ける。その炎は霞む事はなく。魔力が空を彩った。朱の刻印は陰と陽が交わり、鮮やかなる光となって降り注ぐ。
「マリアさん、アカツキさん! 朱雀と白虎の加護、頼りにしています! その代わりに皆を支えるのは任せてください!」
竦む気持ちは陣のおかげで幾分か和らいだ。此処を護り、そして行かなきゃならないという焦燥。厄介な技がなければいいけれど――けれど、苛むものすべて、構う事はないと雪華のお守りをぎゅうと握りタクトで奏でる。
タイムは只管にマリアを支えるがためにその陣の上に立った。摂理を識、神秘万物に通ずる。
それ以上に――この国を守りたい。
「私だって……!」
「ああ。そうだね。皆でこの国を護ろう!
私は、友人の為にこの国を守りたい!! 白虎君の友人を悲しませたくない!」
マリアは霊石には触れさせないと叫び両手を広げて眷属たちを受け止めた。脚に力を籠める。はためいたのは電磁闘衣。地を踏み締めた膝に僅かな痺れを感じたのは眷属のその一撃が重く感じられたから。
それでも――雷撃の乙女は、赤き虎は留まる事を知らない。異能なる紅雷に僅かな風が吹く。ばちり、ばちりと音立てて、眷属を受け止めるマリアの側へと鮮やかなる炎と雷が舞い踊る。
『未完成』の夢魔はうっとりと目を細め、メイド服を柔らかに揺らす。幻燈術師は迎撃し続ける。厄介な存在をちらと見遣ったラグラが「アイツめんどくせーですね」と呟くソレを逃さぬ様にクーアはひらりと踊り出す。
「お薬ってお嫌いなのです?」
ぱちりと瞬く。炎の様に熱き恋心を揺らして。金の髪を靡かせた猫へと飛び込んだ眷属の一撃をも全て惹きつける竜胆が声高に剣構える。
「貴方達には申し訳ないけれどアレには指一本触れさせないわ。
何とかしたいと言うのであれば先ずは私達を倒してみせなさい」
此処より先は神奈備なりて。堂々たるは正義と信念の剣。其れは曇ることもなく――
●
「おねがい……とまって。なんで泣いてるのに戦おうとするの? 痛いんだよ? 苦しいんだよ?」
リュコスは静かに呟いた。それでも止まらぬ眷属の攻撃の中で無理はしないと陣地と戦場を行き来する様に。確実に御霊石を護るマリアの力になるようにと攻撃を重ねるリュコスは気付く。
そうだ――苦しいのだ。けがれに苛まれたその体が、苦しくて。辛いのだ。
「……悲しいのは、すぐに、胎ってあげるから」
願うように囁くリュコスに頷いてウォリアは圧倒的な暴力で眷属たちを蹴散らし続ける。
まじまじと見つめていたラグラは竜胆を支え乍ら「面倒な奴を見つけましたよ」と鮮やかなる星をこつりと投げ寄越す。
「こちらでごじゃる」
「ああ、理解った」
ウォリアが作り出す圧倒的な暴風。その様子を眺めながら、クーアやリュコスにも「あちらでおじゃる」とラグラは司令塔の様に立ち振る舞う。頷いたクーアは蠱惑的な笑み浮かべペロリと舌を覗かせた。
「さあ、甘い夢に溺れると良いのです!}
「……悲しみは、直ぐに祓ってあげるから……!」
二人を見遣りながら、離れた位置で『確認』を続けていたラグラははあ、と小さく溜息を洩らした。
(苦しかったならそう言えばいいのに。
それを出来なくしたのはこの国で、一番は貴方自身で。結局のところ――自業自得ですよ、瑞ちゃん)
瑞ちゃんと。そう呼んだは天守閣に座すこの地の守り神。大精霊が神格と呼ばれ、この地の苦しみをすべて受け止めたのだ。それでも、眷属たちは愛しき女神の苦しみを分け与えて欲しいと願ったのか。
一人で受け止めきれないならば、その苦しみを分ければよかったというのに。人であろうと、神であろうと、そうしたことが出来ないのは皆同じだと思えばどうにも虚しさだけがそこにある。
語霊石へと群がる眷属たちの数は減ったか。それでも尚、竜胆より離れた者が攻撃を重ねるのは確かな事で。ばちり、と跳ね上がるように何かがタイムの頬を擦る。
(わたしは平気、こんなのちっとも痛くないわ。ものには優先順位っていうのがあるの)
ぎゅう、と口を噤んだ。竦んでいる場合じゃない。未だ、やれることがある。
アカツキの焔の傍らでタイムは願うようにマリアを支え続けた。自分が傷ついたって構いやしない。やせ我慢だって慣れっこだ。
願う――みんながこの國をよくしてくれるのだ、と。タイムの願いに『別にこの国がどうでもいいわけではない』のだとラグラは小さく息をつき竜胆を支え続ける。
「賀澄もセーメーもつづりもそそぎも、瑞ちゃんだってヘタクソなんですから」
ラグラはよく知っている。誰も彼もが『へたくそ』で『不器用』だ。やれやれと肩を竦め、そんな奴らの為に頑張ってやっているのだから、そろそろ眷属もいう事を聞いてくれないかとシャルロットを摘まみ咥内へと放り込んだ。
美しく白き毛並みの狐たちは悲哀に歪んでいる。それを想えばウォリアは『この地に住まう人々』の慟哭を真正面から見つめているかのような気持ちになった。因果の席をぶつけ、己の中で暴れ狂う想いを声なき声とする。その涙が、到達点なのだとすれば――苦しんでいた。彼も、そして、彼女も。いや、黄龍、四神、霞帝にその周囲の人々、そして同胞たちも同じく苦しんでいた。
「苦しいだろう。だが――だからこそ、今からこの国に起こる事を見届けて貰わねばならないのだ!」
ウォリアが飛び込んだ。石を傷つけさせる言事はなく。変幻自在の邪剣をもってその行く道を塞ぐ。
狂化の圧倒的な攻撃は、眷属の悲しみを穿ち、屍山血河に変貌とするまで留まる事はない。だが、然し。その一撃に乗せたのは紛れもない意志の形。
「ええ。『けがれ』の影響を受けていたとしても彼らは神の遣いなのでしょう?
なら、貴方達には見ていてもらわなくってはならないわ。この國の行末を――!」
剣の切っ先は、狂う事はなかった。それでも前へ、前へと進もうとする眷属にラグラは「しつこいことで」と小さく呟く。マリア支えるタイムの表情に僅かな苦痛が浮かんだ。
地を蹴り踊る。まるでダンスの様な仕草でスカートを揺らしてクーアは小さく笑み零す。
「私の速度を前にして、そう易々と出し抜けるなどと思わないことなのです!」
「ああ」
小さな呟きに、ばちりと赤き雷が音を立てる。マリア・レイシスは――白虎の守護者は只の一人、この地でさいわいを願う幻想種の支えを得て眷属を見つめた。
「一点を貫く雷撃というものもある!! 私の間合いに隙は無い!」
そうだ。必要のない悪意が生み出した結果がこれだった。誰かが悪いわけでもない。
それでも、国の痛みを受け止めた大精霊を『神様』と呼ぶならば――その苦しみを、その因果を断ち切るのは今なのだ。
「みんなが辛くて苦しくて悲しい世界なんて、そんなのいや!
わたしはイレギュラーズよ! 未来を変える為にここにいるの!」
叫ぶ。その声に「その通りですよ」とラグラはちらりと笑み零す。竜胆の状況を分析する。その脚を前へと進ませるための力を、その為に星幽魔術を駆使して輝かせる。
「……ぼくは……みんなが泣いているのは、つらい……!」
祈るように、飛び出して。リュコスは切り裂いた。優しいから、誰も傷つけたくはない。それでも――此処で膝を折れば。諦めてしまえば。屹度、マリアが苦しむから。
「……でも、ぼくは……みんなには、笑っていて欲しいんだ……!」
だからこそ、悪運も、美学も、幸運も全てを混ぜて、地面を蹴り上げ高く高く跳ね上がる。一撃目は紅色に、そして二度目は黒――それは破滅を囁き笑っている。
鮮血を喰らうように。危険も顧みず飛び込むリュコスの傍らに鮮やかなる炎が立ち上がる。
「元がどのような存在であれ、御霊石に手を出そうとするならば容赦はせぬ……派手に燃えてもらうのじゃ……!! さあ、赤く赤く燃え上がるが良い!」
友達は無事に戻った。ならば、その友が望んだ未来の為に――そして『朱雀』が力を貸してくれたその報いを。アカツキが下した雷が炎のように広がり続ける。
そうだ。瑞を救うと誓った。黄龍とて『危険な場所』に人の子を送り込むことは厭うたのだろう。そんなこと位十分に分かっている。
「――見縊ってくれたのぅ」
小さく笑う。そして、マリアが斃れぬ様にとアカツキは飛び込んだ。眷属を受け止めたその腕に痛みが走る。牙が突き刺さったその痛みが麻痺するようにじわりと広がり、落ち着いた。
「……支えるから……!」
タイムの言葉に頷いてアカツキは叫ぶ。「さあ、燃えろ」と。その言葉はクーア、そしてウォリアにも響く。一方は鮮やかなる夢の焔を、もう一方は終焉さえも燃え尽きさせる終焉の破壊者としての赤き炎を。その二つをその双眸に映してアカツキは笑う。
「朱雀殿も喜ばしい限りの『炎』じゃろう!」
「ああ。とっても明るくて――けれど、白虎君だって喜んでくれるさ!
私達はこの御霊石を護り切り、そして『瑞』君を救うのだから!」
再度、立ち上がる。痛みなど最早感じる事はない。マリアはその腕を広げ、さあ来いと叫んだ。飛び込んだ眷属をクーアの夢(ほのお)が包み込む。
それ以上は往かせやしない。そして、けがれを帯びた眷属のその躰がごろりと地へと転がった。其れ等が眷属だというならば命を奪っても問題はない――気づけばまた芽吹く命の筈だろう。然し、リュコスは不安げに悲し気にそうとその体を抱きしめた。
「苦しかった、よね」
ごめんなさい、とそう告げる。
ウォリアは小さく頷いて天仰ぐ――「彼らに見せてやろうではないか。この國の行く先を」
眩む月の中、遠吠えが響く。それが怨嗟か、慟哭か。果たして理解は及ばないが。
それが『この国のけがれの受け皿』だとするならば。それを斃す事こそが重要なのだと誰もが分かっている。
もう一度、遠吠えが響いた。獣の声、眩む月に目を伏せたラグラは「さあ、次の仕事ですよ」と呟いた。
その声の先に――そこに、この結界が抑え込む黄泉津瑞神は、坐しているのだから。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
この度はご参加有難う御座いました。
沢山の焔で朱雀もとても喜んでいるでしょうし、白虎も混じりたいと心を躍らせているだろうと思います。
この補佐が、素晴らしき未来に繋がりますように。
GMコメント
●重要
「<神逐>黒青の補」「<神逐>焔白の応」はどちらかのみにしか参加できません。
(どちらか一方に受かった場合は、もう片方には参加できません。※予約段階は関係ありません)
●成功条件
呼応する眷属を撃退し『御霊石』を護る
●現場状況
高天御所。天守閣を望み、黄泉津瑞神を確認することが出来ます。その『左側』です。
『右側』との連絡は取れません。
周囲一帯は障害物はなく、地面には陣が描かれています。
また、その陣は『黄金の気』と『四神の気』、つまりは四神と黄龍(麒麟)の神気が流れ込み、四神結界の『補佐』を行っているようです。
その陣の中央に存在する御霊石を『呼応する眷属』より守り切るのが今回のオーダーです。
●加護
黄龍の加護/麒麟の加護/四神の加護を得ている存在は陣の上に立つことで補佐の力を強めることが出来ます。
黄龍の加護:クエスト報酬(期間限定クエスト『黄龍ノ試練』)またはラリーシナリオ『<天之四霊>央に坐す金色』
麒麟の加護:<天之四霊>自凝島参加者
四神の加護:<天之四霊>参加者の内、特別な『護』の称号を得た者
●エネミー:『呼応する眷属』*10
黄泉津瑞神の影響を受けた彼女の眷属です。白き毛並みを持った狐たち。
それらは、巫女姫の連れていた『白香の獣』と似通った個体のように思えます。
『けがれ』の影響を受けて暴走した神遣であり、精霊としての力を強く持ちます。
5体は前衛タイプ、5体は後衛タイプとそれぞれが役割を担い御霊石を壊して瑞に力を与えようとしているようです。
●御霊石
高天御所内の左右、それぞれの位置に敷かれた陣の上に安置されている御霊石です。
左側は青龍と玄武の、右側は朱雀と白虎の影響を強く受けており、それらは黄龍(麒麟)の力と合わさり、束ねられて結界を構築するようです。
その陣の内側は浄き気配が感じられ、不安などが取り除かれます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
それでは、どうぞ、よろしくお願いします。
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