シナリオ詳細
<神逐>月影の彼女
オープニング
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貴女は恋に焦がれて、その命を燃やし続ける。
己が長らえること因りも尚、愛し人の眸に映るが為にと輝き続ける。
それ故に、貴女は傍の星には気付かない。屑星は其の光に隠されて人知れずに朽ちていく。
それでもいい――白檀のかほりに酔い痴れ乍ら、叶わぬ戀に溺れていたい。
恋をしている貴女は何よりも美しい。狂気を湛え、命を愚弄する様は唯一無二を見詰めているが故。
恋をしている貴女は何よりも美しい。唇に乗せた愛の言葉が泡沫の如く消えていく。
だから、恋をしている貴女に。
私は恋をした。それが、儘ならぬ恋だと知っていながら。
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瑞獣の慟哭に似た穢れの雨がぼとりぼとりと音立てた。それは穢れし怨嗟が形作った『大呪』の軌跡。黄泉津瑞神は神威神楽の守護者であり、時の権力者へと預言と加護を与えると言伝えられている。
星屑にとってはそんな物『どうでも良かった』――無論、肉腫なる女にとって穢れし地が心地よく、その心を寄せる相手が瑞獣の加護を得ているのならば信奉しようもの。
けれど、女にとっての唯一無二、神と呼ぶに相応しいのは巫女姫と……そう呼ばれた『あの人』だけだった。話をしたことがあるのかと問われれば星屑は首を振る。その双眸へと映ったことは――其れにも星屑は首を振った。遠くから見ているだけで構わない。一等星の彼女の傍で屑のように輝いて。
だからこそ、黄泉津瑞神の、守護の獣の加護を得て輝く彼女が何よりも美しく好ましかった。悍ましき魔性の月を浴びて、きらり、きらりと輝く瑞獣が『彼女』の守護者であるならば、其れさえも誇らしかった。
「消えてしまえば良かろうに」
星屑は小さく呟いた。
「あの方のお心に沿わぬものなど、ぜぇんぶ、消えてしまえばよかろうに」
特異運命座標という存在は、贅沢者だ。その眸に映ることも対話することも叶わぬ星屑にとって、そうとしか考えられなかった。
ふと、彼女の傍にすり寄ったのは黒き毛並みの獣であった。瑞神の眷属なる小さな狐。
「そう、貴女も……」
一人と一匹は秋の錦の向こう側、眩む月を仰ぎ只、刻を待つ。屹度、貴女だけが私の心なのだから。
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「星屑が見つかりました」と『サブカルチャー』山田・雪風 (p3n000024)はそう言った。
「星屑が……! 彼女は巫女姫をあいしていました。
今回も矢張り戦線に携わっているのでしょうか?」
彼女の――純正肉腫『星屑』のこころを聞きたいと願っていた『瑠璃の片翼』アイラ・ディアグレイス(p3p006523)は雪風へと問い掛ける。
「うっす。巫女姫と、黄泉津瑞神――神威神楽の神様で、大呪の影響を受けてるらしい――が動き出して、高天京も危機に陥ってる状況に、彼女を敬愛する『星屑』が動かないわけも無かった、なあと」
それでも、アイラや複数のイレギュラーズが星屑を追っていた事が功をなしたのだと雪風はそう告げた。
「星屑は高天御苑の『彼女にとっての想い出の場所』に居るらしいっす。
高天御苑の中の一つ、恋ヶ樹門と呼ばれた美しい桜の名所。そこで、瑞獣の眷属と一緒にひっそりと佇んでるみたいで……」
「佇んでいる?」
「うん。正直、星屑は其処まで好戦的じゃ無い、と思う。
心酔している巫女姫の最期を見届けたいとその場所に立っているだけだ、とも思える。
けど、彼女は『純正肉腫』で、眷属もけがれを振り撒く存在だから……放置しては置けない」
雪風の言葉にアイラは唇をきゅ、と噛んだ。愛しい人を見ていたい。それが星屑の行動原理だというならば邪魔をしたくは無い――けれど、その邪魔をしなくては無辜の民に被害が出る可能性がある。
「倒さねば、なりませんか」
「倒さなくちゃならない」
「……分かりました」
季節外れに狂い咲いた桜は、紅葉の錦を混ざり合う。その四季の色彩に恋ヶ樹門は飾られならが『二つの恋』を秋風に揺らしていた。
――屹度、叶わぬ恋ならば、せめて、最期は。
- <神逐>月影の彼女完了
- GM名日下部あやめ
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年11月17日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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手を伸ばせば、届く気さえしてしまう。
声を発せば、聞こえてしまう気さえしてしまう。
けれど――私はそれを望まない。
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恋ヶ樹門。狂い咲いた桜と紅葉の錦が混ざり合い、はらり、はらりと涙の様に散り続ける。天仰げば、美しき雪色の毛並みが慟哭響かせた。その地に、一人の少女が立っている。星影の色彩を宿した純正肉腫――『滅び』より生まれ、肯定された人に非ずけだものの娘、星屑はイレギュラーズの到着に「どうして来てしまったの」と囁いた。
「……春は桜、秋は紅葉でありますか。名所と謳われるだけあって、良い場所でありますね」
揺れ落ちた白花を指先に遊ばせてから『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)は静かな声音でそう言った。女の濡れた声音は苦しげに。周囲に沸き立つけがれの気配は、その美しい光景さえも曇らすかの如く。
「お前さんは何をしてるんだ?」
煙草の煙が揺らぐ。ふう、と紫煙を吐くように。分かりきった言葉を連ねた『スモーキングエルフ』シガー・アッシュグレイ(p3p008560)へと星屑は「見ているのよ」と呟いた。
「見ている?」
「ええ、あの月を。美しい白月。どれ程穢れようとも、曇り無き真のあい。……見えるかしら?」
さあ、と首を振った。恋をしている。それは彼女のそのかんばせ、眸、すべてから感じられる。そして、恋をして、愛しい人のために戦うという美談が――狂った結果を齎したのはこころの向く先が『魔種』で、彼女が『肉腫』だからか。
「桜と紅葉に彩られた、可憐で美しい思い出の場所。ひょっとして、お前は――」
それ以上の言葉は、紡ぐことも憚られた。死を覚悟し、世を儚んで佇むか。報われなくても貫くふたつのこいごころに思うところがないと云えば嘘になる。
「ケレド、」
『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は頭を振った。見ているだけ、ただ、眺めて愛を確かめ、その命の終を届けたい。そんなきれい事を口に出来る程に彼女は無垢なる存在ではない。無数の命を害し、そして、無数の命を陥れる。それが産まれ持った彼女のサガ。
「恋を責められはしないけれどね。その恋で人を傷つけようとするのならジャマするなってのはムリな話だよ」
「……そう」
ゆっくりと、星屑がイグナートを見た。星を散らした眸は真っ直ぐに男を見る。見遣ってから、もう一度「そう」と繰り返すだけだった。
「星屑、でいいのか? ……綺麗な場所だ。成程な、天守閣が良く見えるぜ――だがな」
『晦冥の道』シラス(p3p004421)は夜のそらにも溶けてしまいそうな女を見ながら、唇を震わせた。
「眺めているだけでは決して届きやしない」
「けれど」
首を振った星屑。けれど、の続きを、ひょっとすれば『おもひのいろ』アイラ・ディアグレイス(p3p006523)も、『藍羅の片翼』ラピス・ディアグレイス(p3p007373)も気付いていたかも知れない。
「けれど――私は、恋をしているから」
けがれの雨の中でも、余りにもけがれなき想い。
ラピスはその雨の中で散る桜と紅葉の錦の色彩のうつくしさに、そして、こいする彼女に見惚れた。
どうか、見惚れたことを赦して欲しい。その姿は、余りにも儚げで――恋に生きて、死ぬ彼女。それは、僕らの『もしも』だったのかもしれないと、ラピスの喉がこくりと鳴った。
「花は、星は、美しいままに散るからこそ――なのかも知れない」
「そう、そうだね。儚くて、美しくて。誰の手だって届かない。いとしいせかい」
アイラは目を伏せる。人の手も及ばない自然の摂理、愛しいせかいのかたち。
いとしい、と。唇を動かせば、最期まで見届けたいと願い憂う純正肉腫のこころを否定したくはない。戸惑いに切っ先が狂いそうだとさえ、希紗良は感じていた。それでも、この国を、そして自身の生まれ育った故郷(さと)を護らねばならぬのならば躊躇するこころを捨てねばならない。
――相手は。
相手は、肉腫で、敵だ。「へいきだよ」とアイラはラピスと手を繋ぐ。戦う事が、お仕事だから。
迷ってなんていられない。
「聞いても、良いかしら」
星屑の眸が、『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)を見詰めていた。
「わたしの月は、美しい?」
「ええ。屹度……恋をした眸で見れば、どんなものだって美しいもの。
話した事なんてなくても、その眼に映った事がなくても――恋してしまったなら仕方がないのよねぇ」
すき。だいすき。あいしてる。連ねた言葉は星屑のように落ちて、煌めいて。
恋は綺麗なものばかりじゃない。幸せなものばかりじゃない。『never miss you』ゼファー(p3p007625)は知っていた。そんなこと、当たり前に誰だってして居たのに。知っているはずなのに。それでも、恋い焦がれて止まらない。永遠に、しあわせものになれない恋のかたち。
「けれど、星屑の貴女が恋してしまったのは、この世界を滅ぼす魔。だから、私は――星を墜とすわ!」
アーリアの、その言葉にゼファーはひとふりの槍を、そうと握りしめた。指先が、震える。
「……其れでも。貴女が間違ってたとは言わないわよ」
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それは宵の色をした黒き獣であった。恒と、星屑がその名を呼べば尾を揺らした獣は神使を威嚇する。彼女も、また、ひとりの恋をするいのちなのだろう。
ああ、この恋を攻めることはしない――けれど、とイグナートは恒が肉腫断ち物とに行かぬように静かに身の内に気を滾らせた。
「他人を害する恋は、きれいなモンじゃない。
そのワガママを押し通したいのであれば、オレたちを倒して行って貰おうか!
倒せたらやりたい様にすればイイさ! 倒せるもんならね!」
笑みを零して、笑うように。右腕の呪いが微笑んでいる。槍が風斬り、いの一番に飛び込むように声を張り上げ複製肉腫を、星屑のこころに反応したように姿覗かせた存在をゼファーはその双眸へ戸移し込む。
「さあさ。死にたくないのなら必死にかかってらっしゃいな。
此の大一番、加減を間違えるほど無粋な女じゃありませんわ」
飽くことなき、求め続ける強欲(こころ)は最後の雫を飲み尽くしたとて足を止めることはない。
特別でも何でも無い、唯のひとであるからこそ、その命の終がここでないことを知っている。複数の複製肉腫達がゼファーへと襲い掛かる。
神の遣いたる黒き獣の攻撃を受け止めるイグナートと立ち替わるようにシラスはするりとその間に飛び込んだ。迷いなど、底にはなく、戸惑いなど抱くことはなく。武器に頼らず、自己暗示を行う。進め、戦いの時だとこころに告げれば、脳は一瞬で切り替わる。
耐えがたき衝動が電撃と化し、熱狂の一閃を以てシラスの魔力を放つ。獣の声が低く響く。戦わず、見ているだけ。まるで喧噪など興味も無いかの如き星屑に視線を向けながらアイラの指先から超中央が踊った。今日は、瑠璃がともに在る。故に楽しげに踊る蝶は淡く魔力を揺らがせ散る事無く支え続ける。
「こわくはない?」
「だいじょうぶ。だから、すすもう?」
囁く声音はこいの形を孕む。ラピスの双眸が英雄を映し出す。戦場を奏でるように、一度タクトを振るえばアイラの蝶が踊り出す。
「綺麗ね」と甘い乙女の声音は酔い痴れるように光の濁流に複製肉腫を巻き込んだ。脅威たる純正肉腫が空仰ぎ、神遣たる眷属を受け止める者達を支える力も厚い。だからこそ、アーリアは薄闇を纏い恋の空気にかちりとグラスを揺らがすように笑みを浮かべる。
「さて、恋に終わりを告げるにもまずは穢れを祓いましょ」
「恋の終わりか――」
シガーは静かに呟いた。焔も、こころを揺るがすものもそこにはなく。喉を鳴らし飛び込む恒受け止め、熱砂の刃に力を宿す。
「ところで、一つ疑問なんだが……なんで君はそちらについてるのかねぇ」
シガーの疑問は恒へと向けられる。瑞神に恋をする彼女のこころは果たしていつから培われたものか。狂った想い人の苦しみを払いたくはないのかと、疑問を口にする青年は星屑の視線がふと、向けられた。
「恒も、みんな狂ってしまったの。恋はひとを狂わせる。苦しみより解放するから、愛しい人が傷つく様を指をくわえて見てなど居られますまい?」
「……恒殿と仰るのでありますね。……そなたにとって、星屑殿が大切な方であるというのは、初めてそなたたちを目にしたキサにも感じ取れるであります。同じ恋を抱いた者同士、思うところがありますのでしょう」
希紗良は静かにそう言った。恒が傷つこうとも星屑は動きやしない。寧ろ、恒は星屑が永らえるためにと戦うかのようだった。彼女が、終を見守れるようにと――そう、願うかのように。
その佇まいに、そのこころに、決して善悪はなく。何が正しいのかさえ分からぬままに希紗良は剣を振り下ろした。
シガーは苦笑を噛み砕く。嗚呼、恋とは儘ならない――と。
儘ならないからこそ。イグナートは恒の行く手遮り、鉄騎の拳でその黒木獣に殴りかかった。無双流の高みへ、その体を突き動かすのは紛れもない仁義。
行方も知らぬ戀などではなく、今を生きる人を護る為。青年は只管に直向きに。その攻撃を重ね続けた。
嫌がらせだと微笑んで。ひとの命を数えるように、掬う様にとゼファーへと飛び込む肉腫の死線を揺らがせて。
「貴女が生んだかの複製肉腫は、恋をしていると諳じていた。
……手を伸ばすだけでいいならば、月見だけで満足ならば、其処で座って彼女が死に逝くのを見ていなさい」
恒星に霞む程度の星屑と、自身をそう言うかのように。黒き獣の傍で唯見ている乙女にアイラは興ざめだなんて言わないでとそう言った。
「どうして、ここに来てしまったの」
「どうして、だなんて。答えは分かりきっているで有りましょう?」
太刀握る指先が震える。希紗良が踏み込み眷属へと放つ変幻の邪剣は彼女の惑いを表すように不規則な軌道を描く。まだ、星屑は此方を見ていない。ならば、と恒を相手にするシガーは複製肉腫を受け止めるゼファーの側を確認しながら「この状況でも見ていたいとは、恋とは厄介なものだねぇ」と小さく呟いた。
厄介な恋をした。
届かないで良い。届かないで欲しい。届いてしまったならば、この恋は終わってしまうから。
独りよがりなこいごころに溺れていたい。そんな、見え透いたさいはての恋に揺蕩うだけの肉腫を見てゼファーは「寂しいわね」と囁いた。
「貴女は、そう、貴女は屹度――想いを告げて敗れる事を知っているから、片恋を続けていたいのね。
煌めく月は恋をするから美しく。その影で輝きも知らずに寄り添っていたいだけ。傷の舐め合いさえも恐ろしい程に、恋をする彼女に恋をした貴女は進めない」
「……ええ。進めないから。恐ろしい」
イグナートとシラス、シガーと希紗良。四人が重ねた攻撃で、恒の体が地へと倒れる。目を細めて「ああ」と唸った星屑は随分と減ってしまった複製肉腫を見た後、「頃合いでございましょう、姫様」と悲しげに呟いた。
お別れを告げようにも。あなたは、屹度――
●
「大事な存在を見守る静かな時間を邪魔して、そなたの大事なものを傷つける。……無粋なのはキサ達でありますな」
「そう、ね」
舞い散る白花に錦が混ざり込む。掌を皿にして、そうと受け止めていた星屑の煌めいた、星のいろはどこか悲しげであった。それ以上、無粋な言葉など口に出来るまいとひたむきな刃を振り下ろす。
アイラが星屑と話したいと進むのならば、ラピスも共にと進み往く。
身一つ、それでも。アイラは、ラピス。ラピスは、アイラ。ふたりでひとつと、そうこころが告げている。己のこころを傾けるならば傍で護り支えて背中を押したい。アイラが納得するまで、為すべきを為せるまで護り続けるのだと誓っていた。
「――星屑の君」
呼ばれた聲に、少女の瞳が悲しげに細められる。
「先祖の恋を知り、ボクもまた恋をした。彼を邪魔するものを憎んだ。彼が笑える世界に感謝した。
解るの。貴女の気持ち。届かないならせめて――そんな気持ちですら、」
アイラの声が震えた。震えて、翻った刃がラピスの頬を傷つける。星屑は、酷く嫌悪するように「同情をするのね」と呟いた。
「いいえ……いいえ。違うのです。
教えて欲しいの。貴女の心を――星屑の、想いの色を教えて。
その綺麗な名前……星屑、と。唇がつむぐ、四文字。彼女に呼ばれたくは、なかったの?」
アイラに星屑は「わたしは、唯の星のくず。輝くことさえ出来ないちりあくた」と首を振る。
特異運命座標か肉腫かなんて、今はどうだって良いとさえ、アイラは感じていた。攻撃を重ね、言葉を重ね、こころを重ね合わせるために。ラピスは、傷ついても尚、アイラを護る。
「ねえ。恋をしたのは、嘘なんかじゃないんでしょう?」
「これは、まぎれもなく、」
だからこそ、星屑はアイラに酷く苛立った。嘘ではなくとも、叶わぬ事を知っているちりあくたは叶ってしまった彼女への最大の八つ当たりを放ったのだろう。
其れを受け止めたラピスの足下が揺らぐ。「ラピス」と呼ぶ言葉と共に蝶々は鱗粉を揺らし、アイラを護る為に飛び込んだ。
(最期まで恋に生き、愛しいひとを見届ける、その姿。嗚呼――美しいと思った。
願わくば僕らもまた、死に殉じるその時まで、恋に生きたい、と。ねえ、アイラ――)
伸ばすラピスの指先をそう、と抓む。アイラはぎゅう、と目を閉じて飛び込んだのはゼファー。
「想いを胸に閉まったままでいたけりゃ、どうぞご自由に。
だけど、其れに寄り添おうなんて物好きがこうして来たんだもの。
――ちょっとぐらい、気紛れで心開いてくれたって罰は当たりゃしないわよ」
「それでも、私は彼女が酷く憎いのでありましょう。浅ましい、浅ましい女だ」
呟く。星屑にゼファーは「そうね」と呟いてアイラを庇い続けた。その気持ちさえも、アーリアは理解った。理解してしまうからこそ、目を伏せる。
イグナートは同情と共感を感じているとはっきりと言った。同情など為ないで欲しいと突き放す言葉に構うことはない。イグナートは唯、直向きに自らを貫くことを止めやしない。
「コブシを突き出すことに迷いはないよ!」
「……いっそ、『哀れな女』としてこの浅ましい嫉妬深い女を殺してくれればよかったのに」
できない、とアイラが唇を震わせた。相手は、純正肉腫で、おそれの生き物で。
アーリアは掌に息拭きかけ氷の花弁を回せる。愛するマルガリータ。嗚呼、悲哀の涯はこんなにも寒いのだとぬくもりさえないその世界を憂うように言葉を震わせて。
愛する人にだけ呼んで欲しい名も、届かない恋も、美しい物を好むことも――理解するからこそ。
「貴女の想い人も、屹度、私達は殺すわ。
だから、向こう側でちゃんと向き合って、自分の名を告げて、きちんと想いを伝えなさい!
私も『好きだ』ってこと、相手が死ぬまで言えなくて後悔してるわ。だから、せめて――いい夢を」
夢を見ていて欲しかった。思うところがないわけじゃあない。嗚呼、それでも彼女はそのいのちが報われないのだとシラスはその腕に力を込めた。魔力が、揺らぎ、満ちて、飛びかかる。
「純正肉腫――ただ生まれたことが害悪だなんて報われないよな」
屹度――『俺の傍で笑う彼女なら、寄り添った』。頭に過れども、相容れない存在の排除に迷いはなかった。嚥下した、想いは、いつしか淡く広がっていく。
「報われない。報われなくて良いのです」
「どうして、ですか」
アイラに、星屑は微笑んだ。一等、綺麗な笑みで。月の影に隠れるように淡い光の下で。
「いとしいひとには、しあわせになってほしいでしょう」
歯噛みしたシラスは飛び込んだ。届かないなら、より深く。通じないなら、より強く。
飛び込んで。決意と共に牙をその喉に立てるが如く。苛むものなど、其処には何もないのだから。
「ああ、そうだな。しあわせになってほしいよ」
応じた声に女が笑い――女の体が、地へと横たわった。
燐光の如く、花弁が舞い降りる。その視界で見遣った月は、どれ程美しいだろうか。
ああ、穢れていようとも。吸い込まれそうな程に美しい月に、誰も手が届かないなんて、嘘っぱちでしょうとゼファーは笑う。
「ねえ、届きそうでしょう?」
手を伸ばしてみて。星々のちりあくた。彼女はゆっくりと指先を月へと翳し「ふふ、きれいでしょう」と目を伏せり――ぱたり、と手を落とした。
「……どうしたって、神サマってのは意地悪なんでしょうね」
言葉は、飲まれる。桜と錦の雨の中。転がったこいごころは、もう何処にも聞こえない。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
この度はご参加有難う御座いました。
MVPは耐え、そして、最期その心を伝えるために体を張った貴女へ差し上げます。
皆様の素敵なこころを拝見できて嬉しかったです。
又、お会いできますことをお祈りしております。
GMコメント
日下部あやめと申します。
●成功条件
・純正肉腫『星屑』の討伐
・眷属『恒』の撃破
●恋ヶ樹門
高天御苑の中に存在する桜の名所です。星屑にとっては初めて巫女姫をその双眸に映した場所。高天御所の天守閣を仰ぎ見ることが出来ます。
周辺の足場などに不安はありません。桜と紅葉が美しく、只、可憐な場所です。
●純正肉腫『星屑』
本来の名前は、あの人にだけ呼んで欲しいの。
巫女姫に心酔し、彼女を愛する純正肉腫。その能力は魔種相応です。美しい物を好みとても女性的です。
心に訴えかけるような攻撃(BS)が多く、非常に意地悪な戦闘を行います。
複製肉腫を増やすことが可能であり、自身は戦わずに『他者を使用する』戦闘を中心に行ってきたようです。
●眷属『恒』
黒き毛並みの狐。黄泉津瑞神の眷属であり、彼女に心酔しています。
その性質故に星屑ととても相性が良いようです。前衛タイプであり牙や狐火を駆使した攻撃を行います。
星屑の恋を、そして自分の恋を台無しにされたくは無いと言う様に地を駆け回ります。
●複製肉腫*??
星屑は自らが戦う事を余り望みません。それ故に周辺に存在する高天御所の女房達を複製肉腫へと変えてしまうようです。
どうして、と問われれば……だって、傷ついた姿であの人の傍に行きたくはないのですもの。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
どうか、宜しくお願い致します。
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