シナリオ詳細
筋肉プリン(TM)はビタミン・カルシウム配合の完全栄養食
オープニング
●ごく一般的な鉄帝の家庭の光景
ここは鉄帝のごく普通の一般家庭である。
父と母、それと上と下の兄弟がおり、仲むつまじく暮らしている一家。
「ほら、早く起きて!」
「う、ううん……」
カーテンを引くと、子どもはベッドの上で日差しにまぶしそうに目を細める。鉄帝の朝は寒い。布団のぬくもりが名残惜しいが、もう起きる時間だ。
「起きて、集団訓練に遅刻するわよ。まったく、夜中まで懸垂なんてしてるからでしょ!?」
「だって、だってお兄ちゃんとどっちがたくさんできるか競争してたんだもん」
「お兄ちゃんはもうとっくに起きて訓練に行きましたからね」
階下に降りていくと、父が母の用意したプロテインを飲みながらニュースを見ている。
「パパ、おはよう」
「やあ、遅かったね。今日は急ぐって言ってなかったっけ?」
「わ、どうしよう、ほんとに遅刻しちゃう! お母さん、プロテインだけでいいから!」
「だめよ! ちゃんと食べなさい! バランスの良い食事は身体づくりの基本よ!」
慌ただしく食事を済ませて、少年は身支度をする。
「いってらっしゃい。野生のケトルベルに気をとられて鍛錬なんてしちゃだめよ!」
「もう、ぼくだって子供じゃないんだから! わかってるよ」
「おいおい、また米俵忘れてるぞ」
「あっ、いっけない! どうりで何か背中が軽いなと思ったんだ!」
慌てて米俵をしょい込む少年。体を鍛えるための重石である。
「行ってきます!」
●お気づきでしょうか
「VTRをご覧いただいて、問題点にお気づきでしょうか?」
依頼人は深刻な顔で集まった皆を見回す。
「そうです。今の映像の朝食です。イモとソーセージのみ! なんと、なんと嘆かわしいことでしょう。
こちら、鉄帝のとある地域で行ったアンケートです」
Q:朝食をとっていますか?
必ず食べている……152.1%
週5日以上は食べている……89.8%
週3日以上は食べている……12.8%
週2日以上は食べている……3.8%
選択肢の総数が100%を超えているのは、「訓練の前に食べて、訓練の後に食べる」という行いをする家庭が多いためである。何の問題もない。
「朝ごはんを食べる習慣は根強くあります。それ自体は良いことです。しかし、多くの家庭が、理想的な食事をとっていません!
今の映像はまだましな方で、プロテインだけで済ませるというご家庭もあるようです。それには、わが国固有の問題があります」
曰く、鉄帝には、豊かな土壌というものは少なく、食料の供給は長らくの課題だったのだという。
「ご飯が食べられないのって辛いことだもんね」
『咲く笑顔』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は狐耳をぺたんと畳む。スラム街で過ごした時は、何日も何も食べられなかったこともある。
「我々は、どうにかして食糧事情を改善できないかと考えておりました。そこで注目したのが……こちらです」
ガラガラと檻が運ばれてきた。物々しく銃を構えた研究員がいる。
プシューという白い煙と共に、マッチョ ☆ プリン(p3p008503)が現れた。
「オレノ名ハ──マッチョ☆プリンダ!」
その筋力だけで、拘束具をぶち破った。
「うわーーーー!」
「我々が注目したのは、マッチョ☆プリン様の味と、再生力でした」
こんな登場の仕方をしているが協力者である。
指を鳴らすと、パワーポイントじみたプレゼンテーションが映し出される。
「こちら、マッチョ☆プリン様の栄養素をグラフにしたものです。ご覧ください、五大栄養素と呼ばれる栄養をバランスよく持っており、きれいな五角形になっております。これが無限に生み出されるとなれば……国家戦略級のカードにもなりうるでしょう」
なるかなあ。
「こっちの科学、いや、魔術? も、うん、似たところに帰結するのかなあ……」
『紫緋の一撃』美咲・マクスウェル(p3p005192)は首をひねる。
「そして、練達の協力を仰ぎ、ついに完成させました。『筋肉プリン』を! しかし、問題はその生命力にありました。彼らは次々と筋トレを始め、脱走してしまったのです。
放っておけば、倍々に増え、鉄帝がプリンに沈むこと請け合い。ほどよく増えたところでほどよく収穫してください。最も、放っておくと次々と体積を増やし、手の付けられないほど強い化け物になるのですが……」
何てことしてくれちゃってるんだコイツら。
「問題はそれだけではございません。
バイオテクノロジーというものに、拒否感を示すものも多くおります。今は、……この『筋肉プリン』の魅力が、十分に伝わっている状況ではないようです」
「つまり、プロモーションを兼ねているのですね」
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は思案する。
「ええ。せっかく作ってみたはいいものの。このまま暴れまわるようでは消費者の皆様に良い感情をもっていただけません」
「飽きただなんて言わせませんよ。美味しく食べられるように、たくさんアレンジしたいですね!」
『新たなるレシピを求めて』ミエル・プラリネ(p3p007431)はうきうきとレシピを考える。
- 筋肉プリン(TM)はビタミン・カルシウム配合の完全栄養食 完了
- GM名布川
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年11月10日 22時10分
- 参加人数6/6人
- 相談8日
- 参加費200RC
参加者 : 6 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(6人)
リプレイ
●~前回までのあらすじ~
『たんぱく質の塊』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)がどうして練達の研究者に捕まり、檻に閉じ込められることとなったのか……。
時は、数日前にさかのぼる。
道端に落ちていたプリンを見つけたマッチョ☆プリン。
10人中225人(スーパープリン☆フォース調べ)がそうするように、マッチョ☆プリンもまた、「プリン! プリンダッ!」と喜んでプリンに飛びついた。
すると道の先に、もう一つプリンが落ちている……。
そして、それを平らげたところ、さらに先にプリンが落ちている。
「プリンッ! タクサン!」
次々と現れるプリンをホイホイと追いかけ……。
ガシャン、と……。
檻が落ちてきたというわけだ。
『被検体P、捕獲しました!』
『よし、徹底的に分析しろ!』
『いいか、これは国家を揺るがす研究になる……! 徹底的に調べ上げるんだ!』
普通の人間であれば、罠にはまったと慌てふためくことだろう。
しかし、マッチョ☆プリンはぐるりと自身を取り囲むプリンを見て頷いた。
「ココハプリンノ部屋ダッタカ」
それからというもの、マッチョ☆プリンは、知らず、過酷な実験に協力し続けてきた。
プリンの形をした台形の波形の心電図をとられたり……。
釣り竿に吊るされたプリンを追いかけてどこまでもランニングマシンを走り抜けたり……。
高いところに吊るされたプリンを、用意された棒と箱を組み合わせるまでもなく筋肉の力で解決したり……。
練達の研究者に囲まれ、ありとあらゆるデータを取られながら……平然とプリンを食し続け……気がつけば自分とよく似たモンスターがいっぱいにひしめいていた。
「コ、コレハッ……」
マッチョ☆プリンのプリンの本能がはっきりと告げていた。
――このモンスター達は最高のプリンに育つに違いない、と。
きり、とマッチョ☆プリンの目がつりあがる。
「プリンノ力ヲ、特ト見ルガイイッ!」
この群衆に、プリンの良さをわからせてやらねばならぬ。
それがプリンの、スーパープリン☆フォースのリーダーとしての使命であった。
●フンッ! ハッ!
「……これ、食べて大丈夫なの?
いや味がどうかじゃなくて倫理やモラル的に……」
『魔動機仕掛けの好奇心』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)はおそるおそる、目の前でぷるんぷるんと弾けるプリンを見ていた。
そうしている間にも、プリンたちは入念にスクワット・プランク・デッドリフトといった鍛錬を繰り返し、体積を増していく。
「プリン、アンゼン。怖クナイ」
「で、でも直接的なクローンじゃないようだけど純種の遺伝子から作ったって……。オイラの元いた世界でもヒトの遺伝子関係については慎重に……」
「プリン、強イ」
「……」
チャロロの頭からぷしゅうと煙が上がる。
「わぁいプリンだ! 筋肉プリン、食べごたえありそうだね」
「ソウ!」
マッチョ☆プリンは大きくうなずき、サムズアップをする。チャロロも笑顔でサムズアップする。
「勝手に増えてどんどん美味しくなってくなんてスゴイね、美咲さん!」
……見た目とか強さとかの問題さえなければ。
ぼそっとつぶやかれた『咲く笑顔』ヒィロ=エヒト(p3p002503)の言葉はプリンたちのトレーニングの喧騒にまぎれて聞こえない。
「真面目な話、美味しい食事が安定して得られるって凄いことよね。各所協力して食糧事情に挑むのは……いい話、のはず?」
『紫緋の一撃』美咲・マクスウェル(p3p005192)は首を傾げる。
「やるしかないわね……」
悩んでいてもプリンは増えていくばかりだ。
それならば手を動かすしかない。
「ともかく全力でお手伝いするよー!」
「大好きなプリン、お腹いっぱい食べたいですっ!」
『新たなるレシピを求めて』ミエル・プラリネ(p3p007431)は、ちゃきっとスプーンを構える。大量のプリンたちを平らげる覚悟だ。
「そのまま食べるのも美味しいですが、プリン・ア・ラ・モードも美味しいですね」
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は、この光景を目の当たりにしても、プリンたちにひるむ様子はない。
この世に、プリンが嫌いな人間がいるだろうか?
「同じものばかりだと飽きてしまいますものね。たくさんアレンジしたいですね」
ふむ、と幻は目を閉じ、プリンの言葉に耳を傾ける。
「皆様マッチョになりたいんですか。なるほど。プリン、マッチョ、プリン、マッチョ、……」
幻は軽やかに指を鳴らした。
「皆様、マッチョ☆プリン様になりたいのですね! わかりました。僕が皆様の願いを叶えてみせましょう!」
プリンの群れは、歓喜して打ち震えた。文字の通りに、プルンプルンと。
●プリンを食べると?
『プリン プリン プリン♪
プリンを食べると♪
頭 頭 頭♪
頭がぷるぷりん♪』
快活なメロディが、マッチョ☆プリンのスピーカーボムによって爆音で鳴り響いている。
やたらと耳に残るそのメロディは、周囲一帯の住宅街をプリン一色に染め上げる。
きっと、鉄帝の兵士たちも……明日の訓練時には、頭の中をエンドレスリピートしていることだろう。
「おとーさん、あれ買って、マッチョになりたい!」
「やめなさい! 危ないでしょ!」
「試しもしないで思い込みで決め付けるのはダメだよー。
食材だって筋トレだって、一番大事なのは実際にチャレンジしてみることだと思うんだ!」
「そうよね、試してみることは大事よね」
『さぁみんなでプリンを食べよう♪
プリンは君を♪
マッチョにする♪』
「イチ、ニ、……プリン……タクサンアル!」
「さて、如何いたしましょうか」
「オレ以上ニ、プリンヲ知ル者ハイナイッ! 任セロッ!」
マッチョ☆プリンは、素早くプロテイン☆プリンを掲げる。
『!!! タンパク質ダッ』
無断で増え続けた野良プリンたちは、我先へとそれに群がった。ビーチフラッグのようにずざあとプロテインを確保する。
「では、マッチョ☆プリン様の分身の皆様の望みを叶えて差し上げましょうか」
幻はくるりと華麗に身をひるがえし、マッチョ☆プリンの着ぐるみを重ねて生成し続ける。
「ウオオオオ! オレ! オレガモット! タクサン!」
理想の姿。理想の自分を思い描くことこそ、トレーニングの真髄である。
「これで僕もマッチョ☆プリン☆幻! この筋肉、皆様の羨望の視線が今から感じられます」
艶やかなハイライトがカラメルを反射して舞台に煌めいた。
「さあ、ご一緒に」
「美咲さん、行くよっ!」
ヒィロが素早く地面を蹴り、プリンを引きつける。
「オーケー!」
ヒィロからあふれ出る闘志が、プリンたちの隙間をかいくぐり、懐に潜り込む。何よりも高く、軽やかに跳ねるヒィロを、プリンの表面が反射して映し出していた。
そして、ヒィロがプリンを引きつけている、今。
通常よりははるかに巨大なプリンは何の予兆もなくファミリーパック3個入りに姿を変えた。
美咲の不可視の刃が、プリンを華麗に切り刻んだのだ。
そこでヒィロは進行方向を変え、宙返りして、スプレーの生クリームを吹き付ける。
すかさず美咲がスパスパとスライスしたいちごを盛り付ける。
銀の匙ですくって口に含む。
「……っ!」
ギャラリーは思わずどよめいた。
「ん。この時点で十分いけるのは大したものね」
美味しい……のか?
あたりはざわりとざわついた。
「あ、ほんとだ、美味しい!」
ヒィロは心からの笑みを浮かべる。忖度して良く言うつもりはなかった。本当に、それは”美味しい”のだ。
「プリン、ツヨイ! ツヨイ、プリン! オイシイ!」
「とうっ!」
身の引き締まってきたプリンに体当たりをするチャロロ。バックハンドブロウによる防御力はプリンの装甲(というものがあるとするならば)をたやすく貫いた。
「バイオテクノロジーっていうのはね、家畜の交配や病気に『強い』品種を作る技術の延長よ?」
美咲がすっと目を細める。
「そ、そうか……っ、強いものが生き残るんだ!」
あたりにはちょっとずつ納得の色が浮かび始める。
(うん、そうだよね)
ヒィロは、きっと、こうなると思っていた。
(だってここ、鉄帝だもん)
強さとは何よりも雄弁に語る共通言語だから。
「とうっ」
ミエルのマリオネットダンスで切り裂かれたプリンが、器へとぷるんと滑り込んだ。
きらりと光る杯を、群衆に見えるように掲げてみせる。
「朝食を摂る時間がない? プリンならすぐに食べられますよね。食欲がない? プリンなら喉を通りやすいと思います。食事を作る手間も要りませんし、栄養価も抜群に高い。まさに最高の食べ物です!」
「オイラも一口っ!」
「どうぞっ!」
「……っ! おいしい! ぷりっとしててなめらか!」
「プリン、ナメラカ!」
「オイラももっと強くなれるかな?」
「ナレルッ!」
マッチョ☆プリンは両腕を振り上げる。
スーパープリン☆フォースが投げる一投。
白銀に輝くプリンの野球ボールはこの世界の倫理や常識をなぎ倒し、投げるという行為を背信するような恐ろしい軌道を描いて真後ろにいたプリンに突き当たった。
デッドボール。
●プリンは進化し続ける
「イチ、ニ、……プリン……タクサンアル!」
一体がマッチョ☆プリンのイチゴ味のプロテインに飛びついた。
プリンはおびただしく成長している。
「食べごろのようですね」
幻がプリン・ア・ラ・マッチョを紡ぐ。
プリンとは夢である。希望である。毎夜毎夜とプリンを平らげ、トレーニングをするプリンたちの姿が幾重にも浮かび上がる。プリンは……大量にあっても平らげるのは一瞬のこと。めくるめくプリンの幻想に溺れ、カラメルに焦がれてなおも。
「朝から晩まで、プリンのことを思い慕うのはいけないことですか。プリンの香り、言葉、唇……」
「絶対! プリン! オイシイ!」
「プリンと言えば……ご存じですか?」
皿からこぼれようとするプリンを、幻は一礼して”あの”カップに閉じ込める。
そして、ぷっちん。
群衆にマッスルポーズを見せつける幻。
「どんなお味なのか、気になりますよねっ?」
ミエルが笑顔を浮かべる。
でも、とか、まだ、とか、そういう言葉はいらない。プリンの賞味期限は……思ったより短いのだ(※余ったプリンはすべてマッチョ☆プリンが平らげます)。
「僕はプリンでマッチョになれました! 皆さんもどうぞ」
返事をする前に素早く分身し、匙ですくったプリンを食べさせていく。
「うわっ」
「……あれ、甘い!?」
「もっと化学調味料、って感じの味だと思ってた!」
「え、おいしい」
「そろそろこれも食べ時かなっ!」
チャロロは、大きく育つプリンにひるまずに立ちふさがっていく。
「どうぞ、チャロロ様」
ミエルが受け止め、スプーンとともに渡してくれた。
「んー、普通のも美味しいけど味変もいいね。オイラはいちご味が好きかな」
「そちら、食べごろのようです!」
「はいっ!」
幻のプリンサーチはプリンの状態を逃がさない。
ミエルのショウ・ザ・インパクトが、プリン一体を弾き飛ばした。4体目。5体目とゆっくり強さは増していく。
「筋肉プリンは、栄養価が高いだけじゃないんですよ、とっても美味しいんですよ!
ささ、試食してみて下さい」
おそるおそると言った調子で、群衆はプリンに手を伸ばしていく。
「意外と……いや、普通においしいぞ、これ!?」
そう。
マッチョ☆プリンを食べれば健康になれるし彼氏も彼女もできるし全ての問題は解決する。パンドラはたまるし良いことずくめだ。
●インターバル
「イチ、ニ、プリン、マダ!」
イレギュラーズたちは、ずいぶんと多くのプリンたちを倒した。
プリンは、本来であれば……大量に食べるものではないかもしれない。
けれど……。
「えーいー!」
時間の経過とともに、プリンの歯ごたえが増してきても、やることはさほど変わらない。
ヒィロが突っ込んでいき、ひきつけたプリンを……。
美咲はただ、一瞥した。
七色の魔眼の外にして、純然たる最上美咲の力。……七色に光り輝くプリンは、新たなマリアージュを生み出す。
(飽きた、なんて言わせないわよ?)
美咲は得られたプリンを層に重ねた。
「あ、あれは……」
プリンパフェ。
「濃厚な複数の味がラッシュしてくる、力強い一品よ」
「わぁ、協力プレイだねっ!」
ヒィロは迷わず口に運んだ。
「あ、これ、美味しい! 全部の層で味が違うから、食べ進めても全然飽きないね!」
屈託のないヒィロの感想は、一分の演技も含まれてはいない。
だからこそ、ストレートに響き渡るのだ。
「お、俺も食べたい……」
「正気か!? いや、でも……食べたい!」
「タベタイ! プリン!」
マッチョ☆プリンが手拍子を重ねる。
「……プリン!」
プリン プリン プリン♪
プリンを求めるコールはいつしか大きな響きとなり、あたり一帯を埋め尽くしていた。
ミエルがスカートを翻して羽ばたき、プリンをキャッチする。
「そのままだと食べ続けられない? 飽きちゃう?
アイス、マフィン、クッキー、ドーナツ……アレンジ方法はいくらでもありますよ。
ミエルオススメの絶品アレンジレシピを紹介しますので、ぜひ覚えて帰ってくださいね。
メモのご用意はできてますか?」
プリン プリン プリン♪
人手のほうが、足りなくなってきた。
「……ヒィロ、試食を配ってまわるよ!」
「効果絶大な革新的プリンの試供品、今だけ無料でご提供!
ぜひ味わってみて!」
「オイラもこれで強くなった気がするよ!」
●夢幻おかわり
「プリン、とっても美味しいですよね。でも、なんだか物足りなくありませんか?」
そう言われれば、そうかもしれない……。
幻は、どこからかステッキを取り出していた。
「皆さんもマッチョ☆プリン様になりたくなってきましたよね。ジャーン!」
生み出した幾重ものマッチョ☆プリンの着ぐるみ。
「イチ・ニイ、タクサン!!! タクサン!!!」
「数分ですけど夢がみれますよ! さぁどうぞ!」
「否俺はアアアーーーー」
手際よく無理やりに着ぐるみをかぶせられていく人々の悲鳴は、プリンコールにまぎれて消えていく。
一色に染め上げられていくのだ。
「わぁ! オイラもマッチョ☆チャロロに!」
マッチョ☆ マッチョ☆ マッチョ☆
「やりましたね、美咲さんっ」
「でも、ここまでくると、倒すのもひと手間かも」
美咲は唇に指を当て、うーんと唸る。
「更に美味しくはなるけど……一般の方々には難しいかなぁ」
「うーん、そうだよねえ……ちょっと難しいかな?」
ヒィロもそれに同調する。
「まぁねー『強いひとでないと美味しいのが食べられない』ものねー」
「俺がっ!」
群衆から着ぐるみを着たマッチョ☆プリンがどたどたと現れる。
「俺たちが!」
「「「「プリンダアアアアア!!!」」」
●ラストワンは争奪戦
倒れかけの一体を、幻の青い蝶が取り囲む。
幻想を魅せる蝶たちは、プリンを吸ったことで甘いにおいを漂わせている。
「イチ! プリン! イチ!!! イチ」
いよいよ、プリンはラスト一つとなっていた。
プリンの両腕はもはやプリンとは思えないほどに発達して、ムキムキとした栄養を蓄えている。
ヒィロは果敢に、それに対峙する。
極限までひきつける。それが、自分の役割だ。
(まかせて、美咲さんっ……)
「ただ筋肉を鍛えればいいってだけじゃない、本物の強さってヤツを見せてあげるよ!」
マッチョ☆プリンの完成形は、恐るべき豪腕でオリジナルと同じようにボールを投げた。
これは勘にちかい。すれすれのところで、ヒィロはその攻撃をかわす。
そして、次へとつなぐ。
美咲が空を舞った。
くるりと体を一回転させ、魔眼がプリンを焼け焦がしていく。カラメルの焦げる香ばしいにおいがあたりを包み込んだ。気流を操作し、姿勢を保ちながら、高出力レーザーを打ち付ける。
「!」
チャロロもその意図を察し、素早く反対側に回り込んで手のひらを向ける。
「「焼きプリンになれっ!」」
ぼぼーんと爆発し、そこには香ばしいプリンが!
「はぁ、いい仕事しました」
きらきらと汗を拭いながら爽やかな笑みを浮かべる幻。鉄帝の迷える民たちをを救うことだろう。
「完全栄養食なら、これがいずれ主食になるのかな?」
「ナル!」
「これで鉄帝の食糧問題も解決するといいね!
でも、プリンって主食になるの??」
「ナル!」
「そっか!」
「はい、皆様。ご注目ください。すぐに収穫したプリンから限界までトレーニングを重ねたプリンまで、4種類ご用意しています。
食べ比べて頂くとお分かりでしょう、どんどん濃厚になっていきますよね。
口に入れた瞬間に、優しい甘味が広がって、舌の上でとろける……!」
「ほんとだ、美味しい!」
「毎日食べたくなってしまいますよね。
わたしも仕事先のメニューに取り入れようと思います!
ああっ! 試食は一口ずつですよ!」
人だかりはすでにこの新しいデザートを受け入れていた。
マッチョ☆プリンは満足そうにうなずいた。
「今日からみんなも」
「マッチョ☆プリン!」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
『プリン プリン プリン♪
プリンを食べると♪
頭 頭 頭♪
頭がぷるぷりん♪』
プリンの討伐、お疲れ様でした。
新たな食べ物は群衆のみなさんにも十分に受け入れられたようです。
プリン杯を掲げて乾杯しましょう!
この騒動で生み出された筋肉☆プリンが鉄帝を救う鍵となる日が…………いつかくるかもしれませんね。
『さぁみんなでプリンを食べよう♪
プリンは君を♪
マッチョにする♪』
===============
ショップで『筋肉☆プリン』の流通が開始しました。
GMコメント
布川です。
ご指名ありがとうございます。
概要を見てすごく笑って気が付いたら手をあげていて……。
おかしいな、どうしてこんなことに。
●目標
・『筋肉プリン』を討伐してください。
・美味しく食べて、プロモーションしてください。
●状況
『筋肉プリン』は研究所から逃げ出し、訓練場でトレーニングにいそしんでいます。
彼らを捕まえ、討伐し、そして、美味しくいただいてしまってください。
●登場
『筋肉プリン』×10程度
マッチョ☆プリンさんのDNAを解析して生み出されたプリン。
むきむきで完璧な栄養を供えている。特に優れているのはタンパク質で、トレーニングにも最適。
放っておくと勝手に筋トレを続けて体積が増え、その分倒すことは困難になっていく。
ノーマルとはいえ、あまり放っておくと凶悪なステータスになるので、食べごろを見極めて倒そう。
「育てた」プリンはかなり味が濃厚になるとかならないとか。
味の付いたプロテインを渡すとフレーバーを変更することができる。
特許出願中。
●その他
なんだなんだと人だかりができています。彼らは攻撃を受けることがないオーディエンスです。
「なんだ、あれ?」「バイオテクノロジーってなんか怖い……」「また練達か」「どうせ美味しそうなのは見た目だけなんだろ」
彼らはトレーニングにいそしむプリンの味に非常に懐疑的です。
『筋肉プリン』のおいしさが伝わる様にCMをお願いします。ちょっと食べさせてあげても良いですね。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
ほんとに?プリンが暴れ出すのも予想の内だったというのか!?
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