PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<マジ卍台風>ダークグレイの暴雨

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 インディゴ・ブルーの空に星は無く。質量を増した分厚い雲が視界に広がった。
 時折窓を揺らす風に木々の葉が擦れる音が聞こえる。
 強い風に空き缶が転がっていった。

 燈堂暁月は自宅のリビングでテレビのニュースを眺めている。
 映し出されるのは日本地図と台風の予想図。『現代に住む日本人』が見慣れた画面だろう。
「まぁ、この世界に現代に住む日本人なんてものは存在しないんだけどねぇ」
 無辜なる混沌に召喚されてきた者達の中には、この世界の在り方に目を背け耳を塞いだ人々がいた。
 特に現代日本かやってきた人々は練達の中に自分達の住み慣れた街を作った。
 それが、再現性東京。
 希望ヶ浜と呼ばれる街は現代日本という『日常』を守る為に、モンスターや超能力者といった彼等にとっての『非日常』を許容しない。
 自分達の現実では有り得ない事象を作り物だと思い込んだり、見なかった事にするのだ。
 その彼等の日常を守るのがイレギュラーズや祓い屋である暁月に課せられた役目。
 テレビの中の天気図も現代日本を模すことで安心感を得るためのものだ。

 リモコンを押して、チャンネルを変える。
 女子高生の足が大きく映し出され、暁月は溜息を吐いた。
「これ、うちの生徒じゃないのか? まさか盗撮じゃないだろうな」
 よくあるニュース番組の光景に暁月は教師目線で眉を寄せる。
「おはようございます」
 襖を開けて『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)が入って来た。
 既に陽は暮れて朝の挨拶をするような時間ではないが、今日初めて顔を見たのだから是非も無い。
「おはよう、廻。今回はちょっと重かったね」
「そうですね。季節の変わり目もあって、いつもより寝込んじゃいました。すみません」
 普段よりも生気の無い笑顔を見せる廻は暁月の隣に座る。
 先日、イレギュラーズの祓い屋入門に同行した廻は掃除屋としてその能力を使ったのだ。
 廻が使う『思食み』と呼ばれる掃除の能力は、全てを一瞬にして飲み込み消し去ったり、元に戻したりする大変便利なものだが、その代償は酷く重い。
 飲み込んだ夜妖の属性や強さ、修復する戦場の大きさにも左右される。
 これは夜妖憑きである廻に混ざっている夜妖『獏』の能力なのだ。
 されど、その能力を使うには共存代償をより多く必要とする。
 廻の共存代償は――『生命力』そのものだった。
 自身で賄える内は問題無いが、能力を使えば他者からそれを貰わなければならない。
 血や体液を通して得られる生命力の吸収。吸血鬼や夢魔に近い夜妖、それが『獏』だった。
 ともすれば、悪性怪異として処分されかねない廻を、暁月は自身がその代償を払うことで手元に置いているのだ。

 暁月は廻の顔を覗き込んだ。目を離すとすぐ無理をする癖がある廻に懐疑的な視線を送る。
「……えっと。大丈夫ですよ?」
「廻の大丈夫は、信用ならないからね」
 暁月は廻の額に掌を当てて熱を測った。僅かに暁月の体温より熱い。
「微熱、まだあるじゃないか」
「大丈夫ですよ。それに体育祭もありますし。抜けられませんよ!」
 アメジストの瞳がキラキラと輝いている。頑張るつもりらしい。

 しかし――
「残念。体育祭は中止だよ」
「え? 何でですか? 僕は大丈夫ですよ!?」
「台風だよ。台風」
 女子高生の足からチャンネルを変える暁月。
 画面には紫色のスーツを来た顔色の悪そうな男性が映り込む。
『台風の日は体育祭がサボれて好きです』
「このニュースに映ってるのって……」
「皆まで言うな。あの人はああいう人だ」
 希望ヶ浜学園校長であるところの無名偲・無意式はニュースキャスターの問いかけに、本当か冗談か分からない様な事を答えていた。
「……というわけで、体育祭は台風で中止だよ」
「そんな!? どうして……」
 天候をある程度整備された練達のドーム内で、突如発生した台風という自然現象。
 これが、本当に海を渡ってくる台風とよばれるものなのだとしたら、練達はおろか幻想や海洋にも被害が及ぶだろう。そんな事になれば先に情報が入ってくる。

「つまりだ。これは――夜妖の仕業なんだよ」
「台風がですか?」
 勢い良く視線を上げた廻に暁月は「そうだね」と頷いた。
「体育祭中止になればいいな。体育祭なんか無理。体育祭滅べ! そんな思いが形になった」
「誰ですか! そんな事思うのは!」
 畳に手を着いた廻は悔しそうに項垂れる。
 大人しそうな見た目に反して、廻は体育祭を楽しみにしているタイプだった。
 事ある毎に床に伏せる廻は、元気に身体を動かすのが好きなのだ。
「私も体育祭楽しみだったんだ。可愛い生徒達が一生懸命走ったり競ったり転んだりするのは見ていて楽しいからね」
「転ぶの前提なんですね」
「誰も廻が転ぶなんて言ってないよ。まあでも。いつだってハプニングは楽しいね」
 リモコンでテレビの電源を消した暁月は立ち上がり伸びをする。
「さて、病み上がりで悪いけど。私の『先生』としてのお仕事手伝ってくれるかい」
 祓い屋は夜妖憑きを祓う事を専門とする集まりだ。本来であれば純粋な夜妖退治は請け負っていない。
 しかし、これは希望ヶ浜学園の体育祭を中止にしたいという思いから発生した夜妖だ。
 それは希望ヶ浜学園の教師たる暁月の仕事でもあるのだろう。
「はい。その体育祭を邪魔する台風を倒しに行くんですね」
 立ち上がった暁月と同じように廻も歩き出した。
「そうだね。まあ、荒れ放題になったまま体育祭をやるわけには行かないから、延期になるだろうけど。台風を放置すれば最悪死人がでるからね。君の代償を私で補える内は問題ないさ」
「無理しないで下さいね」
 廻の言葉に暁月は「それはこっちの台詞だ」と苦笑いした。


 吹き荒れるは風。横殴りの雨。
 視界はダークグレイに覆われて、一寸先も見えやしない。
 雨具なんて意味を成さないそんな天候。足下は泥だ。
 飛んでみれば良いと羽根を広げた途端、風に吹き飛ばされるだろう。

「暁月さん、結構大変ですね。このお仕事」
「廻は軽いからなぁ。飛ばされないように気を付けるんだよ」
 赤い目をした暁月が後ろを振り向く。
「さあ、行こうかイレギュラーズ。気を引き締めて突撃だ! あ、そうそう、帰ったら温泉だよ!」
 冷えた身体に温かいお湯は染みるだろう。桶に浮かべた日本酒の美味しさは格別に違いない。
 暁月の声にイレギュラーズは走り出した――

GMコメント

 もみじです。台風を追い返して、温泉だ!

●目的
 夜妖『タイフーエレメント』を討伐する
 討伐後、温泉でゆったりできます

●ロケーション
 希望ヶ浜の公園。台風の夜。
 吹き荒れる風、横殴りの雨で視界は悪く足場も泥ですが、フレーバーです。
 飛ばされても転んでも、イレギュラーズはかっこよく受け身を取り戦えます。
 もちろん、非戦やスキルを持ってくればもっと良い感じになります。
 コメディ的に飛ばされるのを楽しむのもありです。

●敵
○夜妖『タイフーエレメント』×12
 台風を擬人化したもの。それぞれ個性を持っています。

・赤3:灼熱の赤。火炎系のBSを持っています。熱血パワーファイター。
・青3:静謐の青。凍結系のBSを持っています。冷静沈着のテクニカルシューター。
・緑2:優心の緑。回復役魔法を使ってきます。心優しい癒やし手。仏の顔も三度まで。
・黄2:遊撃の黄。戦場を縦横無尽に動き回ります。元気なスピードファイター。
・白1:清廉の白。恍惚のBSを持っています。司令塔で賢いです。
・黒1:不動の黒。怒りのBSを持っています。タンク型です。

●NPC
○『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)
 希望ヶ浜学園大学に通う穏やかな性格の青年。
 裏の顔はイレギュラーズが戦った痕跡を綺麗さっぱり掃除してくれる『掃除屋』。
 戦闘には参加せず見守っていますが、たまに風で吹き飛ばされます。

○『祓い屋』燈堂暁月(とうどうあかつき)
 希望ヶ浜学園の教師。裏の顔は『祓い屋』燈堂一門の当主。
 記憶喪失になった廻や身寄りの無い者を引き取り、門下生として指導している。
 今回は戦闘に参加します。腰に吊した日本刀で敵を斬ります。
 風で吹き飛ばされた廻を回収します。

●戦闘後
 燈堂家にある温泉で戦闘の疲れを癒やしましょう。
 温泉旅館のような作りをしているため、ゆったり寛げます。
 泊まっていくことも出来るでしょう。

●マジ卍って?
 希望ヶ浜学園の学園祭の総称です。体育祭と文化祭の二つのお祭りを纏めて『マジ卍祭り』と称します。
 そのネーミングはユーザー投票と言う名前の『皆で決めた素敵な名前でしょ!』という勢いのものです。

●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
 希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
 練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
 そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
 それも『学園の生徒や職員』という形で……。

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目は自由です。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないもの。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <マジ卍台風>ダークグレイの暴雨完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月11日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

メルトアイ・ザ・ベルベットムーン(p3p000674)
悦楽種
DexM001型 7810番機 SpiegelⅡ(p3p001649)
ゲーミングしゅぴちゃん
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
二(p3p008693)
もうまけない

リプレイ


 ダークグレイの分厚い雲が紫電を轟かせる。
 轟々と風が強く吹いて、大粒の雨がアスファルトに叩きつけられていた。
 何処かから降ってきた空き缶が人気の無い公園に転がって、また吹き飛ばされていく。
「はぁ……」
 溜息一つ。『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は眉を寄せた。
 アーリアのピンク色の髪が風で巻き上がる。
「こんな日はお部屋で外を眺めてお酒を飲んでいたいけど……かわいい生徒達の為だもの、先生ががんばらなきゃ!」
 生徒の為だと気合いを入れなければ、既にビタビタになった靴や服が気になってしまう。
「それじゃあ、燈堂先生……いえ、今日は『暁月さん』、お手並み拝見させてちょうだいね?」
 振り向いたアーリアは『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)に挑戦的な瞳を向けた。
「ふふ、お手柔らかに」
 笑顔で返す暁月は腰の刀を抜き去る。
「流石に台風を倒す事になるとは想像もしなかったよ」
『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)の赤い髪が風を掴み跳ね上がった。
 吹き飛ばされないように仁王立ちするサクラの傍らには『焔雀護』アカツキ・アマギ(p3p008034)が立っている。白いスカートが緩急を着けて吹き抜ける風に煽られていた。
「夜妖の台風……割と何でもありなのかのう、夜妖という存在は」
「天使症候群といい、常識では考えられないね」
 夜妖とは概念的には希望ヶ浜の住民にとっての、非日常的な訳の分からない怖いものの総称である。
 例えば妖怪や幽霊、精霊やモンスターなど。そして、魔法や怪力を使うイレギュラーズもその中に含まれるのだ。希望ヶ浜の住民が盲信する『現代日本』に存在しない『悪性怪異』は、全て夜妖となる。
「この街の人達は閉鎖的というか。頭が硬いのじゃろうか。……まあ、中々物珍しい相手じゃが頑張って倒すとしよう、温泉が待っておるしのう」
 ふふんと口の端を上げたアカツキは『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)と暁月に視線を送った。
「あ、此度もよろしくなのじゃ祓い屋殿、廻殿。何だか最近は縁があるのう」
「はい。よろしくお願いします」
 フードの下、白い顔をした廻がぺこりとお辞儀をする。
「皆さん気を付けてくださいね」
 廻の声に頷く『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は蒼銀月を構え直した。槍先に雨が伝い落ちて行く。
「天候が此処まで酷い中で戦った経験はそう何度もは無いな……」
 雨で張り付いた金の髪を掻き上げ、廻へと視線を送るベネディクト。
「だが、これも仕事だ。廻は体育祭とやらを楽しみにしているのだろう?
 早々に台風を皆で追いやって、その体育祭の為に多少なりとも療養させてやらねばな」
 ベネディクトは、ぽんぽんと優しく廻の頭を撫でる。
「ありがとうございます」
 時折飛んでくる空き缶を避け、ゆっくりと戦場となる公園へと進んでいくイレギュラーズ。

「会長は! 体育祭がしたい! 応援団希望!!」
 耳を打つ暴風に負けじと『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)の大声が公園に木霊した。
「ということではた迷惑な台風をぶっ飛ばすぜ! 待っててね廻くん! すぐ倒すからね!
 ――他のみんなが!!!!」
 バチリとウィンクをしてみせる茄子子。
「えっ」
 廻のびっくりした顔に茄子子はてへぺろと舌を出した。
「だって、会長はヒーラー!」
「あ……なるほど。頼りにしてます」
 直接手を下さぬとも。剣を取る仲間を癒やすということは、共に戦っているということなのだ。
「普段から風で捲れても平気な恰好の私に隙はございませんわ! というわけで台風でも殴れるなら倒してしまいましょう♪」
 横薙ぎの雨に打たれながら『悦楽種』メルトアイ・ザ・ベルベットムーン(p3p000674)は高らかに声を上げた。いつも通り水着を着ているメルトアイには着衣が乱れるなんて事は無い。その代わり冷たい雨がメルトアイの白い肌に降り注ぐ。
「たいふう。ぶつり、で。ふきとばす、もの。なるほど。おぼえた」
 背中から生える大きな手を開いたり閉じたりしながら『無垢なる知識欲』二(p3p008693)は頷いた。
 眠りから覚めたばかりの二には、全ての事柄が色を成し。鮮烈な色彩を持って目の前に広がる。
「たいふう。あばれる。ひと、あぶない。にい。がんばる」
 空っぽだった二が人を助ける理由は助けて欲しいと願う切実な心と涙を浮かべるほどの感謝の気持ちに興味をそそられたからだ。
 自分の中には無い不確かな感情。けれど確実に存在するであろう心を識りたいと思ったのだ。
「ところで。おんせん。なに? にい、しらない」
「温泉は温かくて気持ちいものだよ。特にお仕事の後は最高だね」
 首を傾げた二に暁月が口の端を上げる。
「……。ふむ。ふむ。あったかい。いい、もの。なるほど。もっと、がんばる。むん」
「その調子だ。さあ、行こう」
「いこう」
 電灯照らされて雨粒が横に降っているのが見えた。


 公園の上空に現れたタイフーエレメントに近づくにつれて、猛烈に風も強くなっていく。
「さて、廻くんは飛ばされないようにマントは脱い……あああもう!?」
 言い終わる前にアーリアの隣を黒い物体が飛んで行く。
 前方に転がっていく廻を追いかけて暁月が跳躍し捕まえた。
「暁月さん、大変ねぇ……ってあ、私もうっかりスカート!」
 なんということだ。アーリアの履いているラインのぴっちりとしたタイトスカートさえも、タイフーエレメントが起こす風の前では為す術もない!
「男性陣、見ちゃ駄目だしうっかり見ても忘れるのよぉ!?」
 しかし、アーリアの太ももが露わになった所でサクラのスカートが良い感じに舞い上がった。
 いくらタイフーエレメントであろうと世界法則には逆らえないのだ。
「私はスカートだけどレギンス履いてるからばっちり!」
 サクラが胸を張ってウィンクをする。

「さあて、一生徒として体育祭開催への道を拓いて見せようぞ!」
 アカツキがタイフーエレメントに向かってビシリと指を差す。
 彼女は炎の申し子。ならばこそ。
「アカツキは逆にこういう火を点けられなさそうな状況だと燃えそうな気がするが」
 どうなのだろうなとベネディクトは首を傾げた。
「こんな雨風。妾の炎の前では赤子の手を捻るようなものじゃぁあぁぁぁぁ……!?」
 言いながらアカツキは風に煽られて飛んでいく。スカートが帆のように風を受けたのだ。
「何か見えても見てないフリでお願いするのじゃ!」
「大丈夫、大丈夫。戦闘中はそんな事気にしてられないよ」
 廻を回収するついでにアカツキを拾った暁月は両手に二人を抱え戻ってくる。
「さて、まずは司令塔の白をぱぱっとやっつけちゃいましょ!」
「ああ」
 アーリアの言葉にベネディクトが先陣を切る。
 ルナディウムの輝きを以てダークグレイの嵐に軌跡を残しながら敵陣へと舞った。
「さあ、どうした。俺はその程度の風ではまだ吹き飛ばされんぞ、もっと仕掛けて来い」
 姿勢を低く保ち、吹きすさぶ風に負けじと突き進んでいく。

 暗がりの中『シュピーゲル』DexM001型 7810番機 SpiegelⅡ(p3p001649)は戦闘モードへ移行する。
 制御システムはオールグリーン。光輪はアイスブルーからシグナルグリーンへと切り替わった。
 ――戦闘モードへの移行は正常に完了しました。
 アクアマリンの瞳を開いたシュピーゲルは魔力障壁を重ね戦場を駆ける。
「みんなが楽しみにしている体育祭を邪魔するのは許さないよ!」
 サクラは司令塔である白のタイフーエレメントへと氷の聖刀を走らせた。
 血が噴き出すよりも早く傷口から氷の花が咲く。
 アーリアの瞳は蜂蜜酒の黄金へと溶けた。
 逃れられぬ色香を持って、司令塔へ甘い罠が絡みつくのだ。

「私は一網打尽を狙って行きますわ!」
 メルトアイの瞳が魔力を帯びて赤く光る。
 視線の先には緑と青のエレメントが並んでいた。
「ここですわ!」
 赤き魔法陣がメルトアイの眼前に展開し、魔力が軌跡を帯びて収束していく。
 最大出力で解き放たれた魔力の奔流が緑と青のエレメントを飲み込んだ。
「――やりましたわ!」
 エレメントを仕留めたメルトアイは顔をほころばせる。
「風が、つよい、ですね。皆さん飛ばされないように気を付けて……」
 シュピーゲルの身体は「あーれー」という声と共に上空へ舞い上がる。
 宝石の翼は思ったよりも強風を受けたのだろう。
「た、大変ですわ!? シュピーゲルさんが飛んで来ますの。でも、安心してくださいませ。触手で受け止めて差し上げます。雨で濡れてぬめぬめ感六割増しぐらいですが、多分滑ったりはしないはずですわ!」
 メルトアイの元へ飛ばされたシュピーゲルは彼女の触手によって優しく受け止められた。

 ――――
 ――

「飛ばされたら多分ずべしゃあってなるけどぉぉぉ!」
 猛烈な横殴りの風に飛んでいく茄子子。
「会長は学ラン着てるからぱんつとかも見えないよ! 安心だね!?」
 泥まみれになった顔を上げてカラカラと茄子子は笑った。
 そこへまたもや強風が吹き荒れ、茄子子の身体を上空へと誘う。今度は先ほどよりも高い。
「うわぁああぁ! だれか助けて!!」
「にいの、『手』。ながい。つよい。あんしんする。いいと、おもう」
 二の巨大な義手が茄子子の身体を掴んだ。
「よし、ナイスキャッチ! 二回目のずべしゃあを回避できたぜ!」
「ないす、きゃっち。よかった」
 茄子子は二に掴まったまま戦場を見渡す。
 攻撃を受け続けているベネディクトへの回復は厚めにしたお陰で戦況は優位に進んでいた。
 懸念点といえば、先ほどの様に強風に飛ばされることぐらいだろう。
 それも二やメルトアイのお陰で事なきを得ている。
 残すところあと一体。体力が一番高かった不動の黒のみ。
「にい。がんばる」
 防御の硬い黒ならば。その先へと攻撃を叩き込めばいいだけのこと。
 傲慢な左。二の手。
「つよい。いちげき。これで」
 重心を込めて打ち出される必殺の拳は、黒のエレメントの装甲を打ち破り、内側から弾けた。
 その瞬間、風と共にダークグレイの分厚い雲が晴れ渡り。
 薄く輝く星空が瞬いていた。


「皆様、お帰りなさいませ」
 深々とお辞儀をしたのは燈堂家に仕える白銀(しろがね)という物腰柔らかな青年だ。
 線の細さと和服とが相まって門下生の中の間では『寮母』と認識されているらしい。
 その後ろには大柄な黒曜(こくよう)がタオルを用意して待って居る。
 二人とも暁月が拾い上げた夜妖憑きであった。
「寒かったでしょう。すぐに温泉へ入る事ができますよ。ご案内いたしますね」
「やったー! 温泉だー! 会長初めて入るね! なんか緊張してきた……!」
 朗らかに微笑んだ白銀に茄子子が嬉しそうな声を上げる。
「温泉宿でお疲れさま会じゃな! フフフ、妾愛用のお風呂に浮かべるおもちゃの出番じゃな、アヒル親子セットじゃぞ」
 ジャーン! と黄色いアヒルの親子を取り出すアカツキ。
「あ、廻殿ー! アヒルさん一個お裾分けじゃ、今回もお疲れさまじゃよー!!」
 掌に乗せられた小さなアヒルに廻は顔をほころばせる。

「おお、すごいすごい! 広い!」
 茄子子の声が温泉の中に響き渡った。
 檜の浴槽には並々とお湯が注がれ、優しい照明を反射する。
 かけ湯をして湯船にそっと足を浸ければ温かさが伝わって来た。
「台風で冷えた身体に染みるぜ……! 気持ちいいね! これなら毎日入りたいや!」
「そうねぇ。広いお風呂って良いわよねぇ。それが毎日だなんて憧れるわぁ」
 茄子子の叫びにアーリアはうっとりと頷く。
 燈堂一門は沢山の門下生を抱えている大所帯だ。
 イレギュラーズの茄子子が風呂に入りたいと言えば快く迎えてくれるだろう。
 次に入って来たのはサクラとアカツキだ。
「生き返るねー、アカツキちゃん」
「そうじゃのう」
 吹きすさぶ暴雨で冷えた身体には、温かい温泉がとても心地よい。
 サクラはゆっくりと肩まで湯船に浸かった。
 隣のアカツキへ視線を上げれば照明に反射する艶やかな肌を認める。
「ほーう……アカツキちゃん肌綺麗だねぇ。やっぱり幻想種だからかな?」
「妾、101歳じゃが幻想種じゃと多分成人前後ぐらいじゃからなあ、肌はピチピチじゃぞ」
 アカツキの肌を撫でながらすべすべの感触を楽しむサクラ。
「くはっ、は。……くすぐったいから触るのは止すのじゃ!」
 笑い声と小さな水音が弾ける。
「私は生傷が絶えないし、刀を握るから手は硬いしでちょっと羨ましいな」
 自分の手を見つめ眉を下げるサクラ。
「大丈夫じゃ。この手は守りたい者を守れる力があるじゃろ。其方の方が誇れる事だと思うがの」
 サクラの掌に自分の手を乗せて、アカツキはその手をぎゅっと握った。
 世界を背負う重さは計り知れないけれど。この瞬間だけは、温かい一時であらんことを祈るのだ。

「廻……は熱があるなら駄目そうか? 暁月もその看病をするだろうし」
 ベネディクトは白い顔をした廻の体調を伺う。
「いえ。大丈夫ですよ。今回は台風の被害ということで『掃除』の能力も使わずに済みましたし」
 戦闘の痕を隠さなくても良いほど、強い台風だったという事で片付けたらしい。
 今回のエレメントは一応自然現象の一つなので、残る物も無かったのだ。
「そうか。なら、温泉に浸かってのんびり体を暖めるとするか……」
「一緒に入った方が楽しいじゃないか」
 ベネディクトの言葉に暁月も頷く。
 その背後には二が男湯と女湯の暖簾の前で首を傾げていた。
「二は性別が無いんだったか。なら、一緒に入るか?」
 困った様子の二にベネディクトが手を差し伸べる。
「いいの?」
「もちろんだ。一緒に入ろう」
 二とベネディクトは共に男湯の暖簾を潜った。
「……。これが。おんせん」
 ベネディクトに連れられて温泉の湯船の前に立つ二。
 初めての温かい水。温泉に恐る恐る浸かってみる。
「……! あったかい。ぬくぬく」
 何処か嬉しそうな二の声にベネディクトも安心した。
「気に入ったようで良かった。肩までしっかり浸かるんだぞ。まだまだ、俺達には出来る事がある。体を壊してはいられんからな」
「からだ。だいじ」
 ベネディクトの言葉にこくこくと二は頷く。

「温泉を堪能しますわよー♪」
 メルトアイはご機嫌で風呂場にやってくる。
 女湯へと入り、湯船に浸かれば疲れと冷えも癒えるというものだ。
「ええ、温泉の気持ち良さで触手もこんなにツヤツヤしております♪」
 丁度入って来た燈堂一門の門下生の背中を流してみたり。逆に流されてみたり。
「折角ですので、そのまま一泊していこうかと」
 温泉の湯にほこほこになったメルトアイは温泉旅館の夜といえば、夜這いをかけるのも王道と物質透過で先ほどの門下生の部屋を訪れる。
「きゃ!?」
 突然現れたメルトアイに驚声を上げる門下生。
 その表情に満足したメルトアイはほこほこ顔で自分の部屋に戻っていった。

「会長お酒飲めないや! 下戸だからね……間違えた学生だった!!」
 風呂から上がってきた茄子子はキョロキョロと辺りを見渡す。
 温泉には良い感じの場所に自販機があるものだが。
「こーひー牛乳ってやつはないのか! ある? 飲む! 美味い!!」
 風呂上がりの瓶に入ったコーヒー牛乳は格別な味わいである。
「ふふ、良い飲みっぷりですね。晩ご飯あるみたいなので、大広間に行きましょう」
 廻は茄子子達を大広間へと連れて行く。
 用意されたのは、豪華な和食だ。
 大人には日本酒も注がれる。廻の杯を覗き込んだ二。
「しょくじ。おいしい。しってる。にい。おいしい、すき。これ、おいしい?」
「美味しいですが、二さんにはまだ早いですかね」
「……。むぅ。おいしい。したかった」
 ぷくぷくと頬を膨らませる二に廻はオレンジジュースを注いだ。

 夜が更け。三日月が部屋の窓から見えなくなった頃。
 廻と暁月を晩酌に誘うアーリア。
「とっておきの一本持ってきたのよぉ、ささ!」
 甘みの強い日本酒を手にしたアーリアに、廻はししゃもと枝豆を用意する。
 話が弾み酒も進めば、廻は早々に顔を真っ赤にして酔っ払った。
「アーリアしゃん、は……」
 じっとアーリアを見つめた廻は「いつも綺麗で素敵だと」口でモゴモゴしながら後ろに倒れていく。
 それを暁月は頭を打たぬよう支えた。
「あらあら。この酒癖は大変ねぇ。暁月さん」
「済まないね。美味しいお酒を家で飲むと何時もより酷くなるみたいだ」
 廻の身体にブランケットを掛けた暁月にアーリアは「ねぇ」と問う。
「他人の為に自分の命を使うことは怖くないの?」
 廻の夜妖との共存代償は生命力。それを廻自身が補えなくなったとき、その対価を払うのは暁月だった。
「……廻が夜妖憑きになってしまったのは私のせいなんだ」
 それは不可抗力だったけれど、そんなもの言い訳で。
「私には護る義務がある」
「そうね……私も大好きな人とその生活を護る為なら……自分の命も、削っちゃうのかもね」
 見えなくなった月の光を追いかけて。アーリアは窓の外に視線を上げる。
 其処には薄い星と。インクブルーの空が広がっていた。

成否

成功

MVP

楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾

状態異常

DexM001型 7810番機 SpiegelⅡ(p3p001649)[重傷]
ゲーミングしゅぴちゃん

あとがき

 お疲れ様です。如何だったでしょうか。
 台風の後の温泉は最高だったことでしょう。
 MVPは戦線を支えた方へ。
 ご参加ありがとうございました。

PAGETOPPAGEBOTTOM