PandoraPartyProject

シナリオ詳細

永久に美しく

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●時は止まった君は美しい
 薔薇が敷き詰められた広間に十二の棺が並んでいる。棺は透明な液体で満たされ、少女が祈るように手を組んで眠っている。
「こちら、ワンオフ品でございます。お好みの娘を選んで一晩お過ごしください。フルチョイスも承っております。貴男の理想を追求なさってください。欲望は果てを知らぬもの、そして命の糧となるもの。なんぞ恥じる必要がありましょう。どうぞご自分に正直に」
 男は薔薇を踏み荒らしながら棺を見て回り、十番目の棺の前で足を止めた。
「この娘を」
 お目が高い、と死霊術師は笑った。
 術師が杖を振ると少女は目を覚まし、百年目の逢瀬のごとく男の胸に抱かれた。桜のように儚げな面差し。その華奢な体から立ち昇る、甘い薔薇でもごまかせないホルマリンの臭い。

●依頼
「ごめんあそばせ、マダムフォクシーの名代で参りました」
 あなたたちを前にして、沁入 礼拝 (p3p005251)はお辞儀をした。清純を絵の具に乙女を描き、キャンバスから抜き出したらこうなるのだろうか。もっともその腹のうちまでは誰にも、本人にも見えてはいないのだけれど。夜に生きる娘でありながら穢れなど知らなげな瞳があなたを映す。礼拝はおっとりと話し始めた。天気の話でもするかのように。
「マダムは娼館の主でして、先日そこの従業員の娘が一人、姿を消しました。かどわかした男の方は……気にしなくてけっこうです。マダムの手の者が首尾よくやってくれました。最近は海洋の不法投棄が問題になっているようですけれども、お魚に餌をあげるくらいは許されましょう」
 さらり、長い髪が頬へかかった。礼拝はそれをあどけないしぐさでかきあげると穏やかに微笑んだ。それにしても寒い。この部屋へ入った時から冷気を感じている。秋が急に深まったかのようだ。あなたは暖炉へ薪をくべた。
「一件落着と思えたのですけれども、生憎と肝心の従業員の行く末を尋ねそこないまして、こうして皆様にご協力のお願いにあがったしだいですの」
 あなたは少しひっかかった。礼拝はいま「行く末」と言った。姿を消した従業員の安否を問うならば「行方」と言うだろう。正面から聞いたところで教えてくれる女でもなし。あなたは思考するために視線を落とし、まばたきをした。礼拝の影が異様な形に膨れ上がっている。まるで手足をつぎはぎにした人間大の風船を背中へ縫い付けたような。
「……気づいてしまいました? ええ、このような次第ですから、せめて真っ当に弔って差し上げたいでしょう?」
 嘘をつくなとあなたは視線で釘を刺した。礼拝はころころと笑う。
「ふふふ、本当は弔う以外にあの子を浄化する方法が分からなくて。綺麗な娘だったんですよ、桜の花のように儚げで」
 礼拝はあなたが断るべくもないと心得ているかのように話をつむいだ。
「今回のお願いは彼女の死体を探しだし、魂を鎮めることです。マダムいわく、覚悟して春をひさぐのと、売らされるには雲泥の差があるそうで、恨みで膨れ上がりこうして今回はたまたま私の背中におるわけです」
 私、細かいことは気にしませんのでちょうどよかったのでしょうね。などと礼拝は笑む。
「マダムの調査によれば、バウム地区のある娼館が、最期に彼女……そうですね、仮にサクラとでも呼びましょうか、サクラが目撃された場所だそうです。けれどもバウム地区はマダムの威光の届かぬところ。娼館へは警備をかいくぐって潜入するか客として堂々と入るかしかありません。何故なら……」
 礼拝は声を潜めた。
「その娼館は時と場所を転々と変えながら続いてきた幻のような館。『キルシュブリューテ』。客は花を一輪、受付へ三枚の金貨と共に」
 マダムですらあすこは気に入らないと眉をしかめるお店ですのと、礼拝は言い添えた。
「今回は3階建ての洋館を商売処に定めたようです。現地はファミリア―も通さぬ分厚い警備だということしかわかっておりません。飛行で近づこうにも撃ち落されてしまうでしょうね。そのまま赤い花になるのも勇敢なる皆さまにおかれましては一興かと存じますが、私がさみしうございますのでおよしくださいましね」
 微笑む礼拝。何故だろうか、妙に胸騒ぎがする。
「サクラの遺体が近づいたなら私の背の亡霊が騒ぎたてますので、お知らせいたしますね。それではともに参りましょう皆さま。頼りにしております」

GMコメント

みどりです。ご指名ありがとうございました。
カメラを抱えてダンジョンアタックです(うそ)!
エネミーデータだけ置いておきますね。

やること
1)3階建ての洋館を探索しサクラ(仮名)の遺体をコンプリートする
A)オプション なるべく多くの遺体を回収する 名声値がプラス ただしすべての行動にペナルティがかかるのでほどほどに

●エネミー 基本的に無限湧きすると思ってください

シャドウサーバント
 肌艶のいい上級ゾンビ ミドルバランスのトータルファイター
 飛・ブレイク持ち、近距離物理攻撃とR4貫通攻撃を得意としており2~3人連れだって行動することが多いです

ジャンクパーツ
 もぎとられた人体へ憑りついた死霊 命中特化で弱め
 神秘攻撃を主に行い、氷漬・炎獄・石化・魅了などの厄介なBSをばらまいてきます
 こちらは一度に5~6体出ることも

ステーシー
 最高の美を目指して作り上げられた少女ゾンビ けっこうタフ
 物・神両方の範囲攻撃を得意とします
 致命・猛毒持ち、また悲鳴を上げることでジャンクパーツを召喚します
 基本的には1体でふらついてます

死霊術師
『キルシュブリューテ』の主
 逃げましょう、無理です
 3Fを徘徊しているようです

●戦場
3階建ての洋館
1Fは受付のほか広間や休憩室、ダンスフロアなど客をもてなす設備であるようだ
2F以上の間取りは一切不明

●特記事項
 この戦場には8人程度の一般人が紛れています。彼らを殺すと名声値が下がるので気をつけましょう

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 永久に美しく完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年11月08日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
武器商人(p3p001107)
闇之雲
シラス(p3p004421)
超える者
沁入 礼拝(p3p005251)
足女
※参加確定済み※
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
桐神 きり(p3p007718)
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

リプレイ


 古い三階建ての洋館は、今夜の天気も相まってか妙におどろおどろして見える。それとも洋館自体が飲んだ闇のせいか。イレギュラーズから見ても『腹立たしい商売』が成立しているのは買う側がいるからだ。売る側だけで商売は成り立たない。
「ひどい話だよな」
 シラス(p3p004421)は言葉短く憤りを露わにした。
「なにをどうすればそんな性癖になるんだか。まあせいぜい利用させてもらうけどよ」
 シラスは唇を捻じ曲げて笑った。彼の持つ車輪の付いたトランクの中には大量のドレスが入っており、その中では『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)が眠っている。何かと目立つキドーを安全に潜入させるためだ。
『蛇霊暴乱』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は『足女』沁入 礼拝(p3p005251)の足元へ視線を落とした。サクラの影がまた一回り膨れ上がった気がする。それはうねうねと動き、館を威嚇しているようでもあった。
「遺体を素体として弄ぶようなことをされれば恨んで当然だ」
 彼の故郷では肉体は魂の器だ。魂の抜けた器は早急に屍人にならないよう弔うのが当然だった。
「こちらの事情は違うだろうが、死霊術師の手の内でこんな扱いを受けて安らげるものか」
 無意識に隠した武器へ手をかけそうになり、アーマデルは腰へ手を当てた。死後の安寧を剥脱されつぎはぎにされて春を売らされる。いったいどれほどの苦しみだろう。想像するだけで胸が痛くなる。
「本当にねえ」
 礼拝がサクラの影を見つめる。物憂げな瞳には犬に餌をやる主人と同じ輝きがあった。
「マダムの仰る通り悪趣味な店でございますこと。芸術品をばらして、置き換えて、ワンオフです。だなんて私のメーカーが聞いたら激怒するかしら」
 完全無欠の一点物。それが礼拝という存在だ。その脚は処女をイメージして作られており、彼女は自分の脚に絶大な自信があった。普段は隠されている脚は、ここぞという時に露わにされ客を誘惑する。礼拝の生足を拝んで堕ちない客はいないとまで言われてきた。そんな彼女にサクラがすがったのはある意味当然かもしれない。同じ女であり、夜に生きる身であり、イレギュラーズでもある。
『never miss you』ゼファー(p3p007625)もまたサクラの影を見てため息をついた。
「どんなに綺麗な身体を継ぎ接ぎしたって、其処には人の熱も、人の心も屹度宿らない。……ただの器を抱いて何が楽しいのやら、ねぇ?」
 誰にともなく問うたのは皮肉交じり。洋館に集うお客の心中など慮る気はさらさらない。
 しかし『闇之雲』武器商人(p3p001107)が応えるようにつぶやく。
「フルチョイスかァ、その人間にとって『理想の肢体』なんてそうそうないもんねぇ。共感はともかく理解はできるとも。実に、人の欲望は底無しよな」
 ヒヒヒと薄く笑う。何を思っているのか、底が知れない。
「さっさとサクラさんの遺体を取り戻しましょうかー」
 桐神 きり(p3p007718)がとぼけた調子で言った。
「いくら世の中色んな趣味の人間がいると言ってもですね……死後にこんなところで使われるなんて最悪ですからね、早いところ何とかしてあげましょう」
 最後の方はマジなトーンで。きりにも思う所はあるのだ。髪をかきあげ、遠目に洋館を見やる。まずは無事潜入できるか、そこからだ。きりは当然成功させるといった体で胸を張った。
「行くぜ。胸糞悪ィ。二度とこんな悪趣味な店が開けねえようにしてやるぜ」
『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)が声をあげ、一行はそれぞれにうなずき洋館を目指し一歩を踏み出した。


 一番手はシラスだった。
 堂々とドアノッカーを叩く。すぐに重い扉が開かれ、中へ招き入れられた。落ち着いた赤の絨毯を踏みながらシラスは辺りを見回す。聞いた通りの手順で受付へ三枚の金貨と薔薇のつぼみを一輪。銀髪の受付嬢は心得顔のままシラスのトランクへ視線をやる。
「お客様、失礼ながらそちらの荷物を改めてもよろしいでしょうか」
「ああ、着せ替えを愉しみたいんだよ。べつにそのくらいはかまわないだろ?」
 シラスは受付嬢に先んじてトランクを開け、色とりどりのドレスを見せた。受付嬢は納得して笑みを見せると、シラスを奥へ誘う。トランクを閉め、シラスはおとなしくそれに従った。
 人気のないダンスホールを横切り、階段の手前で受付嬢が振り返った。
「お客様はどのような子がお好みでしょうか」
「そうだな。儚げな雰囲気の桜のような子がいい」
「担当に伝えておきます。ひとまず三階までおあがりください」
「ありがとよ」
 シラスは重いトランクを引きずり、ひいひい言いながら三階まで上がった。階上では噂の死霊術師らしきシックなローブを着た娘がシラスの手を引いた。
(う、美人、じゃん……)
 星を映すぬばたまの闇色の瞳、鴉の濡れ羽色の長い髪。小さなおとがいには、吸いつきたくなるような桃色の唇。雪のように白い肌からはホルマリンの臭いがかすかにした。彼女の髪が流れた隙に、そのうなじに施術痕があることにシラスは気づいた。
(……なんだ、こいつも継ぎ接ぎかよ)
 そんなシラスの様子に気づかず、術師は微笑みかける。
「それではお客様は初めてですのでワンオフ品をお勧めいたします。ご安心ください。どの子も当店が自信をもってお送りする完成度でございます」
(完成度ね……)
 シラスは内心舌打ちしつつ顔だけは笑顔で「たのしみだ」などと応えた。
 やがて大広間の扉が開く。胸が悪くなるような甘い香りと、ホルマリンの刺激臭。それらがないまぜになりシラスを襲った。透明な液体で満たされた12もの棺が並んでいるのが見えた。
「どうぞこちらへ、お客様」
 術士は無邪気に笑い、シラスを手招いた。
「お客様のお好みですと、こちらか、こちらがよろしいかと思われます。特にこちらの娘はほっそりとしており、着せ替えにはぴったりです」
 シラスはホルマリンの中でたゆたう乙女を見つめた。たしかに儚げな容貌ではあるが、サクラ本人かまではわからない。とりあえず勧められた娘を選ぶことにした。
「この子に決めるよ」
「お目が高うございます、お客様」
 棺の中から乙女が立ち上がる。自然な動きは生きていると言われてもしっくりきそうだ。だが瞳は遠くを見ており、肌にはそこかしこに施術痕がある。継ぎ接ぎにされたのだろう。肌の色も少々違うように見えた。シラスが内心辟易していると、術師はうっそりと笑った。
「それではお部屋へご案内いたします」
 二階の客間へ通されたシラスは扉を閉めるなり乙女の首へ手刀打ちをした。しかし乙女は倒れるどころか、死んだ魚のような目で、ぎょろり、シラスを捕える。
「げっ、ステーシーかよ! おい、キドーのおっさん! 出てきてくれ!」
 トランクを蹴飛ばし、ついでにロックを開ける。ドレスと共に寝ぼけまなこのキドーが転がりだしてきた。あたりはドレスのせいで足の踏み場もない。
「きあ……」
「黙れよ!」
 シラスは乙女を羽交い絞めにし、ついで口をふさいで悲鳴をあげられなくした。その手に噛みつかれ苦痛が走る。キドーは物珍し気に暴れる乙女を見上げた。
「おうおうこれが売物のねえちゃんか。なかなか力自慢みてえだな。鍛えるのに丁度いいんじゃねえかシラスゥ?」
「馬鹿言ってないで応戦してくれ!」
「しかたねえな、高くつくぜ?」
 キドーが壱式『破邪』を放つ。二度、三度。四度目になってようやく乙女は動きを止めた。もろもろと肉体が割れていき施術痕からバラバラになっていく。
「うげ」
「吐くなら部屋の隅にしてくれよ、シラス」
 キドーは言い捨てると、ファミリアーを作り上げた。

 武器商人は受付にて金貨と共にチューベローズの花を添えた。そのまま三階へ上がり、大広間へ通される。薔薇を踏み荒らしながら棺の中身を様子見すると、どれもがステーシーだとなんとなく知れた。けれどもその美しさよ。ひとりひとりが細かくパーツを組み合わせ、『愛情深く』作成されているのがわかる。これを壊しあるべき姿へ返すのは死霊術師にとってすれば冒涜であろう。はてそんな相手に興味が一匙。
 武器商人が術師へ声をかける。
「昔、死霊術に興味があってね。嗜み程度だが少し学んでいたことがあったんだ。此処のエンバーミングは見事なものだからつい懐かしくなってしまったよ。もしよければ時間を取ってキミと話をしてみたいのだけどね」
「まあお客様、有難いお言葉です。しかしながら私はお客様をご案内せねばならない身ですので、後日ご予約のうえでお越しください」
(ふむ、一見では無理か。なかなか朴念仁のようだ……)
 キルシュブリューテが転々としてきたのも『商売柄』というのもあるだろうが死霊術師の用心深さによるところも大きいだろう。儲けだけを考えるなら、わざわざ手間暇かけてやってくる口の堅い太い客やリピーターを捨てる必要はないわけだから。それよりも術師は言の葉の噂により事が露見することのほうを嫌がっているのか。考えてみれば金貨3枚という値段設定も、死体を集める手間を考えれば『安すぎる』。術師にとってこの館は実験場。客は資料に過ぎないという事か。武器商人は納得するとそれ以上追及はせず、客として乙女をひとり指名した。二階の客間に通された武器商人は、ホルマリンの臭いのする乙女を魔光閃熱波でうがった。血の代わりに透明な汁が飛び散り、巨大な暴力を振るわれた乙女は床の上、バラバラになった。
「さて、放っておくと検分が大変そうだ。何より万が一見張りが来たら面倒」
 武器商人は乙女の体をベッドへ並べ、いかにも眠っているかのように細工して部屋を出ると裏口を探し始めた。
 

 その頃、受付ではグドルフが花と金貨を乱雑に置きながらいかにもな視線で受付嬢を見回していた。
「そのスジのやつからここの噂を聞いてね。ちょいと興味が出たのさ。ここはつまみ食いも良いんだろ? ええ? ゲハハハハ!」
 そのグドルフの太い腕には礼拝がしなだれかかっている。
「私にこんないけない事させるの貴方が初めてよ。何が起こるのかしら」
 受付嬢は何事もなかったかのように三階へ上がるよう案内した。あるいは、そうプログラムされているのかもしれない。
 大広間へ入ったグドルフと礼拝は棺を一通り見て回り、目と目で会話した。
(どうよ礼拝、この中にサクラはいるか?)
(いいえ、いません。既に客を取っている可能性が高いです)
 小さくかぶりを振った礼拝は、グドルフの背後に隠れた。死霊術師の視線が怖かったからだ。どういうわけか術士は礼拝を値踏みするかのように見つめてくる。
(クソッ、こいつさえいなけりゃここにある死体全部盗んでやるんだがな)
(そうしたいところですが、今は無理ですわね。それよりもグドルフ様、早く立ち去りましょう。術師のあの目、何かよからぬことを企んでいるようです)
 背にはりついたサクラの霊を気取られたのか。だとしたら危険だ。ここは何も知らない演技を続けるしかない。
「ねえあなた、本当に死体とするの? ううん、あなたがどうしてもっていうなら、私かまわないけれど……」
「いまさら臆病風に吹かれてんじゃねえよ。それでも俺の女か? ゲハハハ! おう、オーナー」
「なんでございましょう」
「この棺の女に決める。かまわんだろう?」
「お目が高い、それでは客間へご案内いたします」
 二階の客間へ入ったグドルフと礼拝は術師が立ち去るのを確認してからステーシーへ手を下した。バラバラになった肢体からするホルマリン臭に顔をひそめながらザックへ突っ込んでいく。いまだひくひくと動くそれらはトカゲの尻尾のようだった。
 礼拝が部屋の明かりを明滅させる。それを合図に武器商人が裏口を開ける。
 きりとゼファーとアーマデルが館へ侵入した。


 二班に分かれて探索を開始した一行は、次々と客間を暴いていった。死体を回収し、かつサクラの検分をするのに最も効率的だからだ。
 反応は様々だった。驚きで固まっている者。それでも行為を続けようとする者。逆上して殴りかかってくる者。どのステーシーも自分を買った男へ従順に従った。
「ちょっと大人しくしてくれる? 私だって別に嬉しくてオッサンの裸を見たいワケじゃないですし、さっさと終わらせたいのよぉ」
「まったくですよ、いくら私が博愛主義だからって死体とやってる変態はお断りなのでー」
 ゼファーが不殺攻撃を加え、きりが跳溌を仕掛ける。グドルフが死体を集め、武器商人が客を縄で縛って転がしておく。
 別れた先ではアーマデルが礼拝にサクラの検分を頼んでいた。シラスが客をはぎ取り、キドーが倒したステーシーだ。
「これ、この顔は、サクラに違いありません」
「顏かよ……ひでえことするな」
 アーマデルは彼の教団に伝わる略式の礼を持って死者の冥福を祈り、ステーシーの顏に手をかけた。ぼろりと顔が外れる。それを専用の袋へつめ、アーマデルは背のザックへ入れた。
 一階と二階では胴と両の足が手に入った。一行は三階へ足を踏み入れた。とたんにジャンクパーツの群れが襲い掛かってきた。後ろに隠れた礼拝が「あれです!」と指差す。
「あの右腕、まちがいありません、サクラのものです!」
「そうかよ、任しときな」
 キドーが前へ出てアーマデルとシラスに攻撃を頼む。そして宙に浮かび魔力弾を放ってくるターゲットを掴み取った。
「わっ、びちびちすんな、魚じゃあるめえし! 気持ち悪ぃ!」
 直接壱式『破邪』を叩き込み、おとなしくさせたところに靴音が響いた。
「いけませんねお客様、いえ、イレギュラーズと呼ぶべきでしょうか」
 いつのまにか廊下の奥に死霊術師が立っていた。
「先ほどから『視て』おりましたらおいたばかり。他のお客様にまで迷惑をかけ、あげく私の芸術品を粉々に。これは少々お仕置きをするべきでしょう」
 死霊術師が杖を振り上げる。同時に彼女の背後に天使の翼のようなものが広がった。それはよく見ればいくつもの人体の切れ端をつなぎ合わせた醜悪な翼だった。
 礼拝は真っ蒼になっている。
「あの、あの中に、最後のパーツが」
「ああ、これですか。左腕だけは私の眼鏡に叶いましたのでこうして身を飾るのに使っております」
 わきわきと蠢く翼の中、ひときわ白い腕が。グドルフが近づいていく。
「いや、違うんだよ。バラバラなオンナに興味があってよお。他意はねえんだ。見逃してくれ、頼むよ。なっ?」
 顔を引きつらせ、揉み手せんばかりの勢いで死霊術師へ近寄っていったグドルフは、直前でダッシュして目的の腕をもぎ取った。
「何をなさいます」
 死霊術師は落ち着いた様子で杖を振った。あふれだす大量の魔力弾。それがグドルフめがけて飛来した。ばっと横合いから誰かが飛び出す。きりだった。
「グドルフさん、よくやりました。もう逃げましょう!」
 魔力弾を受けきったきりは既にぼろぼろだった。
「逃がしませんよ」
 死霊術師が笑う。大量のジャンクパーツが現れた。
「囲まれたぞ!」
 シラスが叫ぶ。背後にはシャドウサーバントの群れが居た。大広間から重い足音が聞こえる。ステーシーたちが目覚めたのだろう。
「はっ、こんなところで死ぬタマじゃないぜ俺らはよう!」
 キドーが気を吐くが、多勢に無勢だった。
「せめて倉庫くらいは行きたかったけれど……」
 ゼファーが悔し気に顔をしかめる。
「いまは生き残ることが先決だ。行くぞ、血路を開く!」
 アーマデルがシャドウサーバントへ斬りかかる。
「血路ねえ、こういうのはどうだい?」
 武器商人が遠慮なしの魔光閃熱波を術師めがけて撃った。銀河の煌めきが術師を飲み込む。その光に術師は視界を奪われたようだ。眉を寄せ目元をしきりにこすっている。その隙に一行は攻撃をシャドウサーバントへ集中させ、道を切り開いた。一気に二階まで駆け降りる。廊下の先に一階への階段を見つけた時……そこには死霊術師が待ち受けていた。シラスが唇を噛む。
「そんな……!」
「ここは私の館。私がどこに居ようと不思議ではないはず」
 術師は穏やかな声で言った。
「取引をしましょう。そこの礼拝という肉玩具と、集めたパーツを渡しなさい。そうすれば皆さんの命は見逃して差し上げます」
「肉玩具ですって!?」
 ゼファーが怒りをあらわにするも、とうの礼拝によって肩を押さえられた。
「……わかりました」
 礼拝はゆっくりと術師のもとへ歩いていく。
「待て礼拝! そんなやつの言う事聞く必要はねえ!」
 キドーが声をあげるも礼拝はまた一歩踏み出す。だがゼファーは聞いていた。礼拝の囁きを。
(おねがい、私をさらって)
 ゼファーはじりじりと距離をつめる。術師は礼拝に夢中で気づいていない。大きく翼を広げ、歓喜を露わにしている。あと一歩という所で、ゼファーは礼拝を抱き上げて窓を割って外へ飛び出した。仲間もそれに続く。パンドラが砕けるほど衝撃は大きかったが、皆無事だった。
 アーマデルが素早く二階を見上げる。そこには獲物を逃した死霊術師が暗い顔で立っていた。やがてその姿は蜃気楼のように消えた。同時に館を覆っていた異様な雰囲気が消え、あとに残っていたのは建っているのも不思議な崩れかけた洋館だけだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!
ダークなダンジョンアタックはいかがでしたでしょうか。

またのご利用をお待ちしております。

PAGETOPPAGEBOTTOM