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シナリオ詳細

再現性東京2010:Unhappy Hallowe'en

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ハロウィンカラーの街なかで
 商店街の灯りが、煌々と夜に浮かぶ。日が沈むのも早まり、寒い夜気が吹き付けるようになった昨今――にもかかわらず、ハロウィン一色の商店街に集った人々は、寒さに追いやられ巣篭もりするという概念など知らないかのように、お伽話や伝承の装いにくるまれ、菓子や携帯端末を片手に練り歩いている。
 彼らの目的はいうまでもない。ハロウィンを堪能することにあった。
 普段は商店街でパンを焼く青年も、この時期だけは店先で南瓜やオバケ型の菓子パンを配る魔法使いになる。
 厳格なことで子どもたちに恐れられている老人も、このときだけは仮装行列を楽しむ子らに笑顔とカメラを向ける。
 いつも元気な惣菜屋のお姉さんも、吸血鬼の格好でアツアツ南瓜コロッケを次々と揚げて山積みにしていく。
 トリックオアトリート、と子どもたちが声を弾ませれば、店員や通りすがりのスタッフも楽しそうに応じる。
 何の変哲もない商店街の日常が、喧騒で溢れ返る時期だ。だが魔の手はそういうときにこそ忍び寄るもので。
「ちょっとマリ! お菓子なくなってるじゃん! どうしたの!?」
 ひときわ透る声の魔女――高らかに笑い合っていた女子中学生たちの一人が、人混みの中で友人の異変に気づいた。
 マリと呼ばれた狼モチーフの服を纏った少女は、ぎょっとしてパンプキン型のカゴを覗き込む。先程まで詰めてあったキャンディやチョコが、カゴからごっそり消失していた。嘘、なんで、と疑問の声しか零れてこない。
「どっかで落としたとか?」
「あれだけのお菓子、落ちたらわかるよ」
 そうして当事者である女子中学生たちが不思議そうに言葉を交わしつつ、道を戻っていくのをひとりの青年が呆然と見つめていた。
「……まさか本当にゆうれ……いや、まさかな、はは、ハハハ」
 一瞬だけ、白い手が少女の持つカゴへ伸びた――ような気がした。
 気がしただけだ。あれは見間違いのはず、と青年は自身へ何度も言い聞かせる。
 別のところでも、白くて丸い半透明の何かが、はしゃぐ子どもたちから帽子や羽飾りを剥ぎ取っていくのを見てしまった。風に持っていかれたと勘違いしていた子もいたが、魔女のような仮装をしていたあれの仕業だ。明らかに地に足がついていなかったが、しかし見間違いか、そうでないなら夢を見たのだ。
 何故ならいずれも、理由がつかない出来事だから。青年はぶつぶつ呟きながら、商店街を後にした。

●下校中
「はろうぃん、というお祭りがあちこちで行われているそうですね!」
 イレギュラーズで溢れ返った通学路から、明るい声が響き渡る。
 『想い出渡り鳥』小烏 ひばり(p3p008786)は、浮き立つ町の雰囲気に感化されつつあった。店に並ぶオレンジや黒を基調とした雑貨に菓子。店員や内装までもが、カボチャや魔女に変身して人々を迎え入れ、彼女の好奇心を強く掻き立たせる。
 この時期だけの練達の雰囲気は、イレギュラーズにとっても馴染み深い。混沌世界でもファントムナイトや収穫祭として親しまれているからだ。
 ここ希望ヶ浜のある地域でも、同じようなイベント――ハロウィンパーティが催されるのだが。
「連日、イベントでお菓子泥棒と仮装泥棒が出現していると聞きましたよ!」
「私もです! 調べて頂いたところ、夜妖の可能性が高いとのこと……」
 情報屋から話を聞いてきた『荊棘』花榮・しきみ(p3p008719)が肯う。
 夜妖は残酷だ。きゃっきゃと声も足音も弾ませる子どもたちから根こそぎ菓子を奪い、友人や恋人同士で菓子と悪戯を天秤にかける遊戯のための菓子も奪い、贈り物としての菓子も奪い去り、平たくいうとやりたい放題らしい。
「楽しんでいる方々から甘味を奪っていくなど言語道断! 急ぎ退治するのが良いでせう」
 続けたしきみの言葉に、ひばりもうんうんと頷いて。
「何処からともなく白い手がにゅるんと伸びて取っていくのを、目撃された方もいるそうです!」
 ただでさえお祭りムードでひと気も多く、賑わっている期間。窃盗などの犯罪が多発しやすい状況だろう。ましてや仮装した人ばかりなら、一般人には誰の仕業かもわかりにくい。白い手に関しても――希望ヶ浜の住む人の気質もあり――見間違えたと考える人も多いらしく。
「皆一様に仮装しているからこそ現れたのかもしれませんし、敵を釣るのは容易いでせう」
 彼女の言の通り、ハロウィンという空気が助けとなって夜妖はホイホイ出てきてくれるだろう。
 問題はそこからだが、菓子や衣装、小道具などを盗んで回る夜妖なら、やはり。
「皆様で仮装し、菓子を手に、不届きものを始末するといたしませう」
「ですね! わっちも仮装を楽し……がんばりたいです!」
 腕まくりしたひばりの双眸が爛々と輝く。そこでふとしきみは思い出した。
「希望ヶ浜では種族や服装により『変わっている』と見做される場合がある、そう聞き及んでおります」
「仮装してなくてもわっちは仮装に分類されますか!?」
 衝撃のあまり幾度か瞬くひばりを前に、しきみも自らの装いを一通り確かめたのち、首をこてんと傾けて。
「噂に聞くのは、南瓜幽霊や包帯人間のような風貌。そうした分かりやすい姿を、仮装と呼ぶのかもしれません」
 格好が『変わっている』だけだと、敵に仮装と見做されない可能性もある。
 ある程度はハロウィンらしく着飾るのが良さそうだ。自分の世界では本物の幽霊だったとか、泣く子も黙る悪の魔法使いだったとか、そうしたウォーカーだと仮装で済まなくなりそうだが。
「ということで! お手隙でしたら、今からご協力をお願いします!」
 耳を傾けていたイレギュラーズへ、ひばりが告げる。締め括りを担う少女の笑顔は、本日も見事な晴れっぷりだ。
 きっと今夜は、素晴らしいハロウィンになるだろう。

GMコメント

 アフターアクション、ありがとうございました!
 せっかくですので、お二方のアクションを合体させております。棟方ろかです。

●目的
・仮装とお菓子でハロウィンを楽しみながら、夜妖をおびき出す
・お祭りに水を差す不届き者の夜妖をやっつける

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。想定外の事態は絶対に起こりません。

●イベント概要
 ある地域でのハロウィンイベント。商店街とその周辺が会場で、時間は日没後。
 地域の子どもたちが仮装行列をなして、歌いながらお菓子をねだったり。
 町内会のダンスや消防団の吹奏楽による、賑やかなパレードがあったり。
 商店街主催のスタンプラリーや、着ぐるみ撮影に走り回る子がいたり。
 ハロウィン専用の出店が、各店舗前にずらりと並んだり。いろいろです。

●不届きもの
・仮装盗み(夜妖)×4体
 名前は便宜上のものなので、お好きに呼んでください。
 仮装して紛れ込んでいますが、イレギュラーズなら会えば夜妖だとわかります。
 悪戯としては、衣装や道具などを奪い取って逃げ回ります。逃げ足は早いです。
 一所懸命に拵えた手作り品や、思い出のある衣装などが特に狙われやすいそう。
 奪った衣装を着たり、道具で遊ぶとパワーアップ。奪ったものは武器にもします。

・菓子盗み(夜妖)×4体
 名前は便宜上のアレです。姿に関しては仮装盗みと同じ。
 悪戯としては、お菓子をごっそり盗んで回るという大罪です。
 自前の菓子を剛速球で投げつけたり、撒いて転ばせたりする他、お菓子を食べて回復も。
 食べたのがマズいお菓子の場合、マズさに応じて転げ回ったり、動きが鈍るなどします。

 それでは、いってらっしゃいませ!

  • 再現性東京2010:Unhappy Hallowe'en完了
  • GM名棟方ろか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月09日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)
うつろう恵み
サイズ(p3p000319)
妖精■■として
イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
メイ=ルゥ(p3p007582)
シティガール
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて
花榮・しきみ(p3p008719)
お姉様の鮫
小烏 ひばり(p3p008786)
笑顔の配達人

リプレイ


「ハロウィン、って楽しそうな行事だね」
 魔法使いに変姿した『鏡の誓い』ドゥー・ウーヤー(p3p007913)は、光と希望に溢れた商店街を眺め、ぽつりと零す。
(こんな楽しい場所を、夜妖は荒そうとしているのか)
 日常を侵す存在へと、彼の意識は既に向いていた。
 希望ヶ浜で当たり前に催されるイベントを馴染みが深いと呼ぶべきか迷って、『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)は首を傾ける。
(うむむ、イルミナがいた世界では既に廃れた催しですね……)
 沈思したのち商店街で繰り広げられる光景を見れば、そこかしこから沸く朗笑が、イベントの盛況っぷりをイルミナにも痛感させた。だからこそ。
「思いっきり楽しむッスよー!」
「ですよ!」
 魔法の杖(木の棒)を高々と掲げたイルミナに合わせて、黒猫に扮した『想い出渡り鳥』小烏 ひばり(p3p008786)も両腕を突き上げる。
「イルミにゃさん、あちらのお店にスタンプがあるそうです、行きましょう!」
 ワンピーススタイルでスタンプラリーを巡るひばりは、心も足取りも浮き立って止まない。
 ハロウィンの夜だからこそ、清く楽しく警戒行動に励む若者もいれば、ドターンバターンと豪快な破壊音を連れて商店街を練り歩く者もいる。
「ガオーッ!!」
『メイゴン』メイ=ルゥ(p3p007582)だ。咆哮を轟かせ、辺りにいた少年少女をひと気のある方へメイゴンが連れていく間、近くを歩くのは愛らしい――だけではないダークさを湛えたゾンビ仕様の赤ずきんだ。
「どう、です? おもいきり、頑張りました」
 黒ずんだフードから覗いた血色の悪い顔が、ふにゃりと微笑む。変わった格好という枠に収まらぬよう『うつろう恵み』フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)が成したのは、一世一代の大おめかし。元の滑らかな白皙の肌との差が強いのか、素肌にぺたりと貼付けた傷痕のシールもゾンビらしい雰囲気を醸し出している。
「とても素敵です!」
 魔女として佇む『荊棘』花榮・しきみ(p3p008719)は、フェリシアへそう微笑みかけた。
(矢張り、楽しい心を害されるのは……辛いですね)
 彼女の心を占める想いはただひとつ。お姉様が安全にハロウィンを楽しめるようにすること。
 だからこそバスケットをしかと抱えて、彼女は進む。目立たぬ場所を探りながら。
 その向こう、インゴットの扱いにも鍛冶の技術にも長けた『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)が出店で用意したのは、語り継がれるべくして存在するような儀礼剣。実用性が無くとも、飾って楽しみたい人にとっては喉から手が出るほど欲しい逸品だろう。
 もちろん、子どもでも楽しめる安価な武具も用意してあった。
「いらっしゃい、ハロウィンのお供に見ていって」
「わあ、すごいや!」
「きれい! これほしいなあ」
 少年少女の目を引くのはやはりデザインだ。仮装をより楽しませるための彼の作品たちは、光のごとき速さで売れていった。
(さて、と)
 肝心の夜妖は、美しく光り輝く剣をどう捉えるか。サイズが次に示した興味は、そこにある。
 ふわり、ふわり。白くてまあるい何かが明るい空気に誘われていく。
 白い手の一つは迷わず、赤ずきんのバスケットを引ったくった。あっ、とフェリシアがあえかな悲鳴をもらす間にも、バスケットがひっくり返る。バスケットからは、パンのガレットなどの幸福たちが転がり落ちるはずだった。しかし白い手の主、夜妖は零れたものを見て喜ぶどころかぎょっとする。
 美味しいものの代わりに詰め込んであったのは、少女が丹精こめて手作りした斧。斧。斧。
「わたし……禍福の赤ずきん、ですから」
 斧の美しい形(なり)から禍の印象は感じない。だが、危なくない斧は夜妖の持つ幸運を一気に傾けさせる。木の皮と厚紙で丁寧に作られた斧は、夜妖の指間を一瞬で落ちていった。
 白い手にも熱は伝う。指の間を裂いた紙の摩擦は、じわじわとした痛みを生んだ。かの者の様子にフェリシアはそうっと眦を和らげて。
「狼を返り討ちにする……そのための方法を、知った赤ずきんです、よ」
 黒く眸の周りを塗り潰しているからか、フードの影をも連れて、フェリシアが表情を沈ませた。
 直後、しきみが息を整え、暗夜の月で不届き者の相手をしていると、ドゥーお手製のまずいクッキーを貪った夜妖が傍でのたうちまわる。濃い、水、水などと呻く様はなんとも憐れだ。じたばたしてはいるが、攻勢に出る気配が薄れた。菓子の効果にドゥーも感心して唸る。
 そのときだ。
「あっ! あれはまさか……!!」
 果たしてそう叫んだのは誰なのか。
 ざわつく界隈。どよめく夜空。すべての意識という意識を吸い寄せるのは、たったひとつの影。高潔なるマントをンバッと翻し、『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)、いや、怪盗ぱんちゅが俗世に降り立った。
「怪盗ぱんちゅ、ただいま参上です」
 堂々たる名乗りは静かに紡がれ、上がる口角は怪しげな笑みを湛える。そして仮面の下では冷静さがきらんと輝いた。
 素顔隠されしヒーローの登場に、夜妖は動揺を隠し切れない様子だ。いかがわしさ満点の単語を夜妖同士が耳打ちしあう。やだ、どこの家の子かしらそんな名を名乗るなんて。みたいなご近所の噂話で持ち切りだ。それでも怪盗ぱんちゅはスマートなポーズを決めて。
「日頃パンツを盗み続けている僕に、勝てるなんて思わない事ですね」
 お約束の台詞で締めくくった。突然の告白に再び地上がざわめきたつ。
「日頃?」
「盗み続けて……?」
 嘘か真かわからぬ発言により、イレギュラーズたちにまで衝撃が走った。
 場を震撼させた本人はしかし、お構いなしに道路を蹴る。
「待てコラァァ!」
「ヒィッ!?」
 怪盗が追いかけるのは当然、今し方ぬすんだ仮装で走り出した夜妖だ。思わずサイズが呟く。
「怪盗が盗人を追いかけている……」
 一体全体どういうことなのか。


 そろりと伸ばした指先で掠めとったサイズの刃はあまりに眩しく、夜妖の手も僅かに鈍る。
「盗人はいけないな」
 そして薄氷を纏ったサイズが人差し指を唇へ押し当て、薄く微笑んだ。
「商売あがったりだ。書き入れ時だからね」
 仮装ひとつ成功させるにしても、様々な材料や職人の手を経由する。そうと察したサイズの面差しは諭すかのように穏やかながら、揮う言葉には一切遠慮がない。
 彼の口上に引き寄せられた夜妖めがけ、魔女イルミナが黒衣から覗かせたのは腕部だ。魔法のように放出したエネルギーの杭が、ハロウィンの夜を駆けて白い手を射抜く。
「どんなもんッスか!」
 打ち込まれた夜妖が、悲鳴をあげる余裕すらなく崩れる一方。
 菓子で釣られた夜妖たちも、翻弄の渦に巻き込まれつつある。
 光沢を帯びた真っ黒な菓子。ハロウィンカラーだと大喜びで頬張った夜妖へ真っ先に訪れたのは、ぐにゃりと歪む食感と独特の風味。みるみるうちに顔色が一変した。
 魔女の使い魔として戦場に立ったひばりは、手早く侵されざる聖域を築き、そして。
「てりゃあ!」
 繰り出すひばりの猫パンチ。手に宿した呪いで悪を挫き、宣言するのは持参した菓子についてだ。
「わっちが食べられなかったお菓子です! 思う存分食べてください!」
 彼女の傍でなびく、魔女のローブ。細い指先で描くのは、愛をたっぷり篭めた恋の魔法――そこまで妄想したしきみへ襲い来る現実は、目の前にいるのが夜妖だという点。由々しき事態だ。ゆえにバスケットからマフィンが盗まれれば、烈火の如き怒りに囚われる――はずだったが、今の彼女が抱えるマフィンたちはいわゆる毒を孕んだもの。辛子は勿論、しきみにとって謎の横文字が並ぶ珍味まで練り込んだとっておきのマフィンは、今宵だけは夜妖へくれてやる為に。
「恋しきは 愛しい姉の 手料理です!」
 なんとなく一句詠んだしきみが、うら悲しさに駆られつつ、努力の成果たるマフィンをとめどなく夜妖の咥内へ贈る。
「殺意の波動に代わる味付けです。お気に召しました?」
 言すら模れぬ夜妖へ、しきみは双眸をそうっと伏せた。すると。
「逃げんなコラ!」
 遥か後方から迫る怒声と足音は、夜妖と怪盗のもの。
 怪盗の機動力は伊達ではない。むんずと捕まえた夜妖を、アルヴァが引き寄せる。
「甘いです……」
 怪盗はしかし至って真剣に、明瞭な音でかれらを諭す。
「仮装だけ盗んで満足している貴様達は甘い、実に甘い!」
 双眸をカッと見開いて説く彼の気迫は凄まじい。
「盗むならパンツでしょ!!」
「へ?」
 間の抜けた声が夜妖からもれた。
「パンツも盗めず何が盗人ですか夜妖ですか! 恥を知りなさい!」
 パで始まりツで終わる単語が飛び出すより先に、察したサイズが、ひばりの耳へ自らの手で蓋をしていた。良心が先行したドゥーも、メイゴンの耳へ手を押し当てていた。咄嗟に着ぐるみの上から塞いだものだから、聞かずに済んだのかは謎だ。
 そんな二名の気遣いの後、のっしのっしとメイゴンがゆく。少女が食べ進めるのは、自ら持ってきたクッキーだ。幸せを形にしたかのような表情で、メイゴンが落ちかけのほっぺたを押さえる。そんな光景を目の当たりにし、夜妖も動かずにいられない。あっという間にメイゴンのクッキーは、華麗なる手腕で夜妖に奪われていた。
 そしてクッキーを本人の眼前で食べ始める。それこそが運の尽きとなるとも知らず。
「かっっッ!!?」
 予想外の辛さに夜妖が卒倒した。
「おいしすぎたです?? あとあと、こっちもメイのおすすめです!」
「い、いひゃひゃいんぐご……」
 不要を告げる夜妖だがはっきりと綴れず、メイゴンの手で真っ赤な肉まんを口へ詰め込まれ、更なる苦悶に生死の境を彷徨うはめになる。これぞ正しく大怪獣メイゴンの得意技――赤玉肉まんお裾分け(レッドクレイジーヘルバン)である。希望ヶ浜の夜妖は為すすべなく昇天した。
 すかさず勢いに続くのはドゥーだ。
「たとえ命を奪うような相手じゃなくても……」
 紙と布で作り上げた杖を振りかざせば、ドゥーのローブが風をはらんで揺れる。
「誰かの大切なものを盗むのだって、許せない」
 そう話す彼の元から、見えない悪意が翔けた。悪ふざけが過ぎる敵を、ドゥーの意志に沿ってまっすぐ追い詰め、追い詰め、死へと追いやる。
 そしてフェリシアから奪い取った斧の中からも、夜妖が目敏く包みを発見していた。ちょこんと横たわる南瓜型のクッキーを、夜妖は当たり前のように口へ放り込む。
「……かわいい、でしょう?」
 この時期にのみ販売されるラッピング用品は、フェリシアの胸を弾ませた。ときめくのは夜妖も例外ではないが、結果はこうだ。あまりの塩辛さに舌を出して喘ぐことしかできない。
 赤ずきんは満足そうに微笑みました。めでたしめでたし。


「ドーン!」
 掛け声そのものが効果音となり、怪獣メイゴンが夜妖へ突撃した。暖かな着ぐるみも、彗星を思わせる勢いでぶつかればかなりの衝撃と化す。
 矢継ぎ早に黒猫ひばりも、黒い猫耳をぴこぴこ動かし、尻尾を振るって。
「お祭りに乗じて悪さを働くなんて、許せません! メイゴンとわっちが成敗です!」
 皆の楽しみを奪う行為。それこそが、願いも想いも届けるひばりの芯へ激震を招く悪事で。
「「ガオー!」」
 咆哮が重なり、ひばりの口上を受けて敵が襲い掛かった。
「そう、悪しき怪獣をやっつける怪獣だって、いる」
 言いながら緩やかにもたげたドゥーの顔に、どのような情が射しているかはわからない。だが。
「俺はこれで舞台を飾るよ」
 虚無のオーラで敵対怪獣夜妖を包み込むと、激しく身体を揺らして夜妖が苦しみ出す。大怪獣と黒猫が綴る物語を、何色にも染まらぬ黒影が飾る。
(結構……仮装した皆で戦うのも、新鮮で楽しいかも?)
 ぞわぞわと這い上がってゆく感覚に、ドゥーは頬を緩めずにいられなかった。
 一方、サイズから盗んだ手製の剣を振り回す夜妖がいて。流れる一閃も大した痛みにならず、ただただ美しい光の軌跡が刻まれる。
「それをどこまで使いこなせるか、見物だな!」
 言いながらもサイズの手足はやまず敵へ迫り、ハロウィンの夜に相応しい魔術の煌めきと拳で叩き落とす。
 ふと仲間想いのゾンビ赤ずきんが、軽やかな足取りでアスファルトを蹴る。冷えきった道でフェリシアは魔性の直感を働かせた。否、赤ずきんゆえに直感が働いたと言っても過言ではない。彼女は散らばる手作り斧を拾い上げた。
 心優しいゾンビ赤ずきんは言いました。
「あなたが落としたのは、こっちの斧、でしょう、か? それとも……」
 英雄を讃える詩を以て彼女に支えられたしきみが、仕掛ける。
「こっちの斧でせう! 夜妖様!」
 フェリシアの斧に気を取られた夜妖は、しきみの溌剌さに射抜かれた。相手も必死に斧やマフィンを投げつけるも、しきみの激情を煽るのみで。
「喜んで頂くまで逃がしません!」
 彼女の解き放ったスケフィントンの娘が、すぐに夜妖をハロウィンの夜からも隔離する。
「私がお姉さまのために用意したハロウィンですよ!? それを阻むなど、万死に値します!」
 夜のみならず生きる今からも隔たれた悪戯夜妖に、未来はもはや訪れない。
「霧……?」
 突如として一帯を満たした霧に、フェリシアたちも驚きを隠せず周囲を見渡す。
 直後、夜妖の苦しむ様相に一人の怪盗が花を手向けた。霧というかたちの、ロベリアの花を。
「ふ、やはり仮装盗みも菓子盗みも……ひたすらに甘いのです」
 明後日の方向を見つめて、密かに囁きながら。
 こうして怪盗に追い詰められた夜妖が、イルミナへ迫る。イルミナの懐に眠る甘さに惹かれた白い腕が、黒衣から数本の指を摘んで。
「きゃー!」
 甲高い悲鳴の主は盗みを働いた夜妖だ。数本の指を握りしめたまま、全身が真っ白に染まるほど仰天する。何せ指に塗りたくられたジャムも相まって雰囲気は抜群。効果覿面だ。
「い、い、イルミにゃさん。ゆび、指が!」
 戦慄く目撃者のひばりに、イルミナはニコーッと笑ってみせる。
「仮装もお菓子も返してもらいますからね……っとぁ!?」
 夜妖から全力投球で菓子を寄越され、イルミナが額を弾かれた。
「お菓子を投げて返すとは何事ッスか!」
 ずれた三角帽を被り直し、彼女は夜妖へ抗議する。そして蒼を味方に彼女は夜気を連れ、手足で敵を貫く。魔女らしからぬ直接的な攻撃は、悪戯が過ぎた夜妖を破砕する程のお仕置きとなった。
 ふう、と盛大に息を吐いたサイズは、すっかり汚れてしまった剣を見下ろす。
「でんせつのまけんレベルの活躍、できたかな」
 手製の剣を掲げてみれば、武器にならなくとも、数多の視線を吸い上げそうな輝きを放っていた。


「じゃ~ん! どうッスか、かぼちゃのパイってやつッスよ!」
 商店街から戻るやイルミナがお披露目したのは、食欲をそそる照りと色彩が温かなパイ。
「素敵ですね、皆さんでいただきましょう」
 手を叩いたしきみが嬉々として香ばしさに浸る。
「魔女の指クッキーもあるッス!」
「わあ、こうして見るとリアルなのです!」
 しわしわの指も差し出せば、メイがはしゃぎ出す。
「じゃあ俺からも。皆の分、はい」
 続けてサイズが仲間たちへ配ったのもお菓子だ。
 そこへ、商店街を見て回っていたドゥーが、子どもたちに囲まれながら戻ってきた。
「こんなのも売ってたから、どうぞ」
 ドゥーの手元では、南瓜や魔法の帽子を模った砂糖菓子たちが賑やかに揺れている。
「あ、そっちは……」
 不意にドゥーの慌てた声音が落ちた。ドゥーが夜妖に作ったクッキーを、フェリシアがつまんでいたのだ。
「スパイシーで……お酒に合いそう……です」
「えっほんとに?」
 香辛料の配合が調っていたのか、味は濃いが意外といける気配をフェリシアが醸し出す。そういう需要もあるのかとドゥー自身、驚きが隠せない。
「僕もトリックオアトリートしていいですか?」
 いつのまにか輪へ加わっていた怪盗ぱんちゅ――アルヴァの狙いは悪戯なのだが。
「どうぞですよ!」
 厚意によりメイから菓子を譲り受けた怪盗が、軽い気持ちで食べてみる。
「ンげふごふッ、え……何これ」
「激辛クッキーなのです」
「激……辛……?」
 仮面の下で汗だくになりながら、怪盗は驚倒した。
「……悪事を働く存在、見事退治と成りましたね」
 染み入るように呟いて、しきみが夜空を仰ぎ睫毛を濡らす。
(このしきみ、お姉様を守り通しました)
 お姉様という名の世界へ平穏をもたらせた。後はスポットをきっちり調べ上げれば、長い夜も終わる。
 物思いに耽るしきみの後ろ、そういえば、とひばりの不思議そうな声がして。
「アルヴァさんは何処へ行かれたんでしょう? ここへ来る前はいたんですけど!」
 おびき出しの段階で行方を眩ませた仲間を、ひばりが案じる。その一声でぱちりと瞬いた人の中には、真実を知る者もいるだろう。
 純粋な質問に応じたのはドゥーだ。彼は静かにゆっくりと言の葉を結わえていく。
「きっとハロウィンを楽しんでる。気にしなくて大丈夫だよ」
 ひばりは頭を一度は捻るも、おかげで瞬時に思考を切り替えた。
「では、わっちもハロウィンを楽しめば良いのですね!」
「ええ、素晴らしい夜にしませう」
 ふんわり笑みを咲かせて、しきみもそう告げた。今度こそ。もう一度。

 ハッピーハロウィン!

成否

成功

MVP

なし

状態異常

アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)[重傷]
航空指揮

あとがき

 お疲れ様でした! なんだかいろいろなものに翻弄されまくって、夜妖もたいへんですね。
 ご参加いただき、誠にありがとうございました。
 またご縁がございましたら、よろしくお願いいたします。

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