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シナリオ詳細

<FarbeReise>慕情喧嘩は赤犬も食わない……?

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「――勝負よエルス・ティーネ!!」
 えっ? と思ったエルス・ティーネ (p3p007325)が振り向いた先にいたのは一人の女性であった。
 彼女の名はレッド・ドッグ。ラサにて活動している傭兵である――が、正確にはソレは彼女の本名ではない。レッド・ドッグの名はラサの長であるディルク・レイス・エッフェンベルグにあやかって付けた名であった。
 ……もうお分かりかと思うが、あえて何故かと言えば彼女はディルクを想っているから。
 自らの名を『赤犬』とする程に。名と共に外見も彼の如くに寄せて。
 名は体を表すと言うが――名も体も変えるとはよほどの熱量である。
 閑話休題。そんな彼女と出会ったのは、ラサの砂漠地帯の一角。
 なんであろうか一体……これから依頼によりFarbeReise(ファルベライズ)の地域に出向き、『願いを叶える』とされる色宝なるモノの回収をする必要があるのだが――
「奇遇よね。私もその依頼を受けた所なのよ。あなたとは依頼主は別だけれども――ね」
 ……ファルベライズにおける色宝回収はラサ商会の総意である、が。ラサは傭兵と商会の多くが集った集合体であり窓口が一つとは限らない訳だ。多くを回収した商会があれば後々の立場も良くなる、とすればこのような事もある訳か。
 しかしそれなら協力して依頼に取り組むことだって……
「ハッ! だから言ったでしょ――勝負だって! あなたとあたし。どちらが色宝を手に入れるか!」
「どうして? わざわざ争う理由なんてどこにも……」
「あるのよッ!」
 レッドはエルスに一歩近寄り、激しい感情を向けてくる。
 なぜ――どうして――いきなり現れて捲し立ててくる彼女の様子にエルスは困惑。
 全く何の心当たりもない……が、レッドにしてみればエルスの存在は看過できない理由があり。
「知っているのよ――あなたが最近ディルク様に言い寄っている事はッ!!」
「い、言い寄……!? 何を言ってるの! そんな事は……!」
「いーえそれだけじゃないわ! 言葉を交わすだけならまだしも……度々あの方に会っては、卑猥な恰好をして誘惑しているって事も!! 知ってるのよ!! あたしの目を――誤魔化せるとでも思っているの!?」
「えっ!!?」
 なんだその話は一体どこから飛び出てきたのだ!
 慌てるエルス――しかしなんともレッドの敵意に関しては理解出来てきた。つまる所レッドはディルクと親交を幾つか重ねている彼女が気に入らないのだ。かつてのエルスであればその行動は消極的であり気にも留めていなかったのだろうが……最近は別、と言う事か。
「もう許さないわ……ディルク様の目に留まるのはあたしよ! あなたなんか目じゃないって、知らしめてやるわ!!」
「そんな事を言われても、そういうものはディルク様次第では……」
 だがそうだ。仮にここで勝っただの負けただの張り合って何になるというのだ。
 ディルクはそんな事を気にする様な人物ではあるまい。だから勝負なんて意味がない――
 そう言おうとした、直後。

「なんだ、ディルク様への思いはその程度なのね――情けない子」

 何かの『糸』が切れた気がした。
「そんな事ない!! 私のディルク様への思いはその程度なんかじゃ……ないッ!」
 自分がどうこう言われるのはいい。だが彼への想いまで嘘などとは言わせない。
 ――誰にもこの想いが軽いなどとは笑わせない。
 弱気な声色と表情は一転。エルスの目には意思が灯りレッドを見据える視線は――鋭い。
「やっとらしい表情になったわね、でも吐いた唾は呑み込めないわよ!」
「だからなんだって言うの! 貴女こそ……色宝を手に入れられなくて不格好にならない事ね!」
 互いに切った啖呵に熱が籠る。
 視線の間にまるで火花が散っているかの如く激しい感情がぶつかって、しかしやがて同時に視線を切って互いに別方向へと歩き出した。
 ――負けられないアレには、と。
「絶対、負けないわよ……!!」
 目指す先は同じくファルベライズの遺跡へと。
 どちらがはたして先に色宝を手に入れるか――背に焔を宿した戦いが始まろうとしていた。

GMコメント

 リクエストありがとうございます!

■依頼達成条件
 レッド・ドッグよりも先に色宝を手に入れる事!

■戦場
 ラサの砂漠地帯――最近発見されている『ファルベライズ』の遺跡地帯です。
 時刻は昼。今回の舞台となる遺跡は廃墟の様に古ぼけた建物が砂に埋もれている場所です。この地帯のどこかに地下へと通じる階段が『一つ』だけあり――本命はその地下遺跡です。

 地下遺跡の階段を下りていくと、暫く進んだ後に少し開けた空間があります。
 そこに今回の目標物『色宝』があるようです。
 ここにある『色宝』はネックレスの様な形をしているので、運び出すのは容易でしょう。ただし……その『色宝』を守るのか、あるいは引きよせられているかの如く魔物がいる様ですが……

■魔物(地上)
 サソリ型の大きな魔物があちこちに複数います。
 奴らは鋭い爪と大きな棘を用いて攻撃してくるようです。攻撃に当たると強力な『毒』の類を付与してくることがある様なので、注意した方がいいでしょう。大きな音を感知すると集まって来る傾向があるようです。

■魔物(地下)
 最初は分かりませんが、侵入者を感知すると巨大なムカデ型の魔物が『三体』砂の下より這い出て奇襲してきます。それぞれが非常に巨大であり全てが健在の状態では、このムカデを強引に突破して色宝だけ手に入れようとするのは地下と言う閉鎖空間も相まって至難でしょう(不可能ではありません)。

 堅牢にして素早い動きがあります。
 砂の中を自由に動き回れる特性を持っている様で、まるで泳ぐように移動する事も。

■レッド・ドッグ
 ラサの傭兵の一人です。ディルクに対して明確に恋心を抱いており、名前はおろか外見も彼をイメージしているとも……別に悪人ではないのですが、ディルクに近寄ろうとする者がいれば激しい威嚇行動をする事もあるようです。嫌がらせとかその他色々も。
 ただし恋敵――ライバルに認定した者――に関しては正々堂々と争う傾向があります。
 真正面から叩き潰したいのかもしれません。

 戦闘スタイルは大きな剣……それはまるでディルクの所持する魔剣『黒犬』の様な大剣を持っている接近戦タイプで、優れた物理系の攻撃を誇ります。非常に好戦的かつ獰猛であり、その辺りもディルクの様な印象を思わせます。
 ただ似せているだけという訳でなく傭兵としての実力は確かな様です。
 いつかディルクの隣にと意気込む彼女は何者も恐れずその武威を示そうとするでしょう。

 当然彼女に『色宝』を入手されれば失敗ですのでお気を付けください。

■傭兵×7
 レッド・ドッグの傭兵仲間です。
 傭兵としての実力はそこそこ程度。色宝の確保を狙います。
 レッドを含め彼らは皆さんとは違う地点から遺跡地帯へと侵入しています。あくまでも彼らも『色宝の確保』が主題なので正面切って争う事はない……と思いますが、妨害ぐらいはしてくるかもしれません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <FarbeReise>慕情喧嘩は赤犬も食わない……?完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月31日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費200RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
虹色
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
※参加確定済み※
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
※参加確定済み※
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
※参加確定済み※
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
※参加確定済み※
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星

リプレイ


「ハハ。モテる奴だな、赤犬は」
 事の経緯を聞いた『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は思わず苦笑を。
 当の本人がこのような争いがあるという事を知っているのか知っていないのか分からないが――さてさて。
「ディルクアニキに気があるやつなんざ珍しかいねえが、自分の名前まで変えるのは相当だな。レッド・ドッグなんていくら何でもあからさますぎるぜ」
 おっと今の『珍』の部分は『砂食む想い』エルス・ティーネ(p3p007325)にも飛びした気がするが『アートルムバリスタ』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)はあくまで飄々と。
 まぁ事の経緯はともかくファルベライズの依頼をこなす必要は元よりあったのだ。
 そこに思わぬ要素が付いてきただけの事。
「命短し恋せよ乙女、とか、何とか……微力ですがお手伝い致します。エルスさんの恋路ですものね」
「え、あ、いや、その、違くて、その……今回のは偶々……」
 大丈夫ですよ、分かってますと『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)はしどろもどろのエルスに頷くように答える――ええ。
「売られた喧嘩は高価買取するものです。ご安心を、分かってます」
「なんかそれは違う気が――!」
 ああでも違わないのかと、エルスは自問自答してしまう。
 別に争う必要など無かった筈なのだが、思わず啖呵を切ってしまったのは間違いないからだ。うーむ、うーむと悩みながら砂漠の道を進むエルス……

 ――その背を眺めているのは『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)だ。

 恋に思い悩む。それは大いに結構。ウィズィは常にエルスの恋路を応援するものなのだから。
 時に明るく、時に真剣に。だからいかなる時もウィズィは彼女の味方であり続ける。
 だが。
「……レッド・ドッグ、ね」
 赤犬を意識しているあの女――あいつだけは許せない。
 きっと根は悪くない人物なのだろう。なんとなく、エルスから事の発端となった話を聞いていてそんな印象は抱いている。
 だが、そういう事ではないのだ。常がどうとか根がどうとかそういう事ではなく。

 ――あいつは私の『逆鱗』に触れた。

 静かな怒りを身に宿し、ウィズィは進む。
 この依頼が終わった時――『やる』と決めていることがあるから。
「とにかく今は色宝……だったかしらね。それの確保のために動かないといけないわね、ふふっ」
「ああ全くだ――エルス君のバージンロードをレッドカーペット風にするのは、今度と言う訳だ。ん、なんだエルス君その表情は? 冗談だ。場を和ませる為の地球外じょーく。OK?」
 ともあれ『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)の言う様にまずは依頼の達成を目指していかねば仕方ない。エルスを半分本気にからかう『赤と黒の狭間で』恋屍・愛無(p3p007296)だが、決してこの依頼の目的を忘れてたりなどしていない。
 ただ単純にレッド・ドッグのチームよりも先に果たすだけの事。
「はぁ。いやいいんだけどね。一人の男を巡る対決とか。
 大いに結構だとも、好きにやってくれて構わないさ。ああうんホントにね」
 しかしやっぱり思うものだと『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は吐息一つ。
 いや分かってるよ。エルスティーネが赤犬に御執心なのは。でもね、いいかい? そういうのはね――
「頼むから俺と関係無い所でやってくれませんかねぇ――!! ちくしょ――!!」
 思わず天へと叫んだ世界。ああ畜生、世の中色々無常である……!


 ともあれまずは遺跡を探さねばならない。どこかに地下へと続く階段があるという話だが……と。まず動いたのはラダである。ジェットパックの力によって空を飛翔し、優れた五感で各所の位置を確認する――
 付近の地形はどうか? 魔物は。後はレッド達の位置も探れればと。
「――ふむ。どうやら魔物はあまり多く固まっていないようだ。迂回するのもそう難しくはないだろう……だが傭兵達の姿は見えないな。まだ地下への位置を発見したとは思えないから、影の位置にでも潜んでいるんだろうが」
「向こうも魔物と無意味に交戦したくはないのだろうな。慎重に歩んでいるのだろう」
 ラダからの情報を受け、愛無が判断を。
 周囲の地形情報からしてこちらも魔物を避ける事が出来るルートはある筈だ。統率の力を以って動きをスムーズに。可能な限り音を立てずして捜索を続けていく。
「サソリか……まぁ砂漠では比較的メジャーな生物だけどな。邪魔な連中だぜ」
「いざとなったらある程度は吹っ飛ばして進んだ方が早いのかもしれないね――」
 特に探索の力が優れているのはルカと世界だ。
 彼らの観察眼は隅から隅まで見据え、微かな手がかりも漏らさない。
 道中、魔物――サソリのタイプだが、奴らを見つければ世界が動いて。精霊の力を頼りにするのだ――つまり、あえて音を立ててそちらに魔物を誘き寄せる策。
「頼んだぞ。まぁ無茶はしなくて大丈夫。ちょっと意識を逸らすだけでいいんだ」
 物音を立てる。それだけで十分。
 その間に無用な戦闘を避けて通り抜けるのだ。どうしても無理なら、即座に潰すしかないが。
「万一の際は私が。ダメージはともかく、毒の備えはしていますので心配ありません」
 言うはステラだ。サソリと言えば毒を持っているのが定石だが、彼女には通じない。
 それに彼女の一撃は重く、非常に優れた殲滅力を持っている。
 他の蠍が寄ってくる前に――撃滅してくれよう、と。
「ねぇ。どこに地下へと続く階段があるか……貴方は知ってる?」
 そしてヴァイスは道行く先々にて数多の者に声を掛ける。
 彼女のギフトだ。あらゆる物の声を聞く事が出来る祝福……
 無論相手が声を返してくるモノばかりとは限らないが――少しでも情報があればいいのだ。建物の柱でも、精霊でも、大地でもなんでも。
「そう、ありがとう。起こしてごめんなさいね」
 この遺跡――廃墟が立ち並んでいる。元々は街か何かだったのかもしれない。
 ならばある筈だ、手がかりが。
 人の手が入った事のある大地ならば、意図された所に重要物の保管場所はあるもの。
 故に虱潰す。ウィズィのファミリアーによる猫も放ちあらゆるルートを探索して――
「さて……なんかこの先に在るっぽいけれど――サソリ共が邪魔ね」
 と、その時。ウィズィが見た先にあったのは一つの建物だった。
 崩れている所から見えるのだが、階段の様なモノがある……気がする。もう少し近寄ってみればハッキリと分かるのだが、サソリがたむろしていて歩いていく訳にもいかない。
 ――潰すか。敵は二体、迂回ルートを探すより奇襲すれば時間はそうかからない筈だ。

「さぁ。私が遊んでやるよ、かかってきな」

 故にウィズィは前に出る。名乗る様に、敵の注意を引きつけて。
 さすればサソリたちは闘志を目に侵入者を排除する様に襲い掛かって来るものだ。しかしウィズィは元より敵を引き付ける事に注力しているのであれば、防御の構えは完璧。突き出される尻尾の一閃を躱して。
「迅速に潰す。音が鳴れば、傭兵達にも気取られるだろうからな」
「侵入口を確保します――行きますよッ!」
 そこへラダの射撃とステラの撃が叩き込まれる――攻撃の為に尻尾を伸ばしきった瞬間を狙って、その身を穿つのだ。時間をかける訳にはいかないと二、三と全力の一撃を幾度も。
 その隙間を縫ってエルスは件の建物の中へ突入。
 響く音。反響せし音を耳が、エコロケーションの力で捉えれば――
「……うん、続いているわこの先」
 ここが『当たり』であろうと絞り込めるものだ。
 この階段はただ下に続いている訳では無い。この先に、少し広い空間がある様に感じて。
「色宝は私が……私達が手に入れるの……!」
 サソリをどかし切れば皆で突入しようと、一端外の方へ視界を向けた。
 ここまでラダの空中からの周囲把握や、優れた捜索の力によって大分素早く辿り着く事に成功した。周囲は――少なくとも感じる範囲においてレッド・ドッグ達はまだ辿り着いていないように見える。
 今の内に進むとしよう。このリードは大きい筈だ。
 負けない。決して。
 あんな方にだけは絶対に負けないと――エルスは決意を固くしていた。


 地下へと続く階段を下りれば、まるで空気も風化しているかのように感じた。
 罠が無いか愛無が確認しながら先導し進んでいく……
「しかしそう簡単には行かないというのは、やはり世の常だな」
 愛無が感じたのは魔物の気配。
 瞬間。爆音の様な激しい音を鳴り響かせた現れたは巨大なムカデ。
「……分かっちゃいたが面倒くさいな。サソリの次はムカデとは。だがこういう時こそ焦らずに、だ」
「ええ――幸いにして弱点はある様だわ。
 見て、鱗……とは違うけれど、体に幾つか薄い場所があるみたい」
 ラダもまた敵の襲来を素早く察知し戦闘態勢。同時、ヴァイスがムカデ達の能力を見据える『眼』を用いて探知すれば――成程、堅そうではあるがその実完璧では無いようだ。
 それに一体か……二体倒せば色宝までの道も開けそうな感覚がある。
 奴らを殲滅するのがこの依頼ではなければ――やりようは在りそうだとも。
「行きましょう……色宝を手に入れます……ッ!」
 そしてエルスの言と共に――ムカデへと吶喊する。
 鎌を手に向かうは最も近き個体へと。魔術を格闘を織り交ぜ、鎌を振るう形でその身を削らん。
 込めているのは全霊だ。
 レッドが来る前に片を付けるのだ、なんとしても!
 ヴァイスも『茨』を発生させ、己が導き出した相手の弱点を狙う――獲物を狙い這い回るその茨は、冷たい毒を持っている。この毒をもって、悪しき魔物達を排除しようと。
「狙うのは一体だ。硬く素早いつっても、こんだけの人数から集中されれば無事とはいかねぇよな……!」
「さてここからが本番の仕事だ。精々、全力を尽くさせてもらうとしようか」
 直後、ルカと愛無もまた同じ個体へと攻撃を重ねる。
 ルカが繰り出すは黒の大顎。ムカデであろうと貪り喰らうかの如き直視の一撃を――ヴァイスが述べた地へと叩き込めば、愛無も同様に粘膜から種子を放出。
 肉を抉り体内より活性化。内から喰らう黒薔薇を咲かせて千切り破る。
「下に潜った個体がいる……奇襲してくるかもしれん、気を付けろ!」
 瞬間。毒の塗られたナイフを投擲するラダが、潜ったムカデの様子をその目に捉える。
 地下を這いずり出てくるつもりだろう――一体減ったからと強引に色宝を取りに行けば分断される恐れもある。出てきた瞬間にまずはしかと対応したい所だが。
「なら――出てきた所を私が撃ち砕きます!」
 直後、言うはステラだ。
 深呼吸で息を整え一撃を待つ。ラダやルカが振動や砂の動きを注意深く観察すれば――ある程度は位置が絞り込めるものだ。
 故に、待つ。
 武具を構え、敵の気配を見据え。迫る殺気を感知すれば。
「――そこッ!!」
 直視の一撃を――叩き込んでやった。
 想像を絶する威力の一撃がムカデの顔面を襲う。のたうち周り、痛みを訴えて――
「援護するよ。気力は俺が保たせる……全力を維持し続けられるようにね」
 そして世界が皆の活力を満たす号令を投じるものだ。
 さすれば皆の態勢が瞬時に整うもの。傷がついたものがいれば治癒術も投じよう。
 いける。ムカデは鋭い牙でこちらを削ってきてはいるが、このままいけば敵の布陣に穴が開くのもそう遠くは……

「あっ! あなた達……もうこんな所にまで来てたの!?」

 しかしその時、遂にレッド・ドッグが地下へと到達した様だ。
 その表情は驚愕に満ちている。信じられないものを見ているかの様で。
「おいおいありゃあ……ええとホットドッグ、だったか?」
「レッド・ドッグよ! 間違えないで!!」
「おおすまないチリ・ドッグか――今忙しいんでまた後でな」
 世界が挑発――した訳では無く素で間違えたのだが、あんまり宜しくないタイミングできたものだ。レッド・ドッグに先んじさせる訳にはいかない。
「――エルス、行って。ムカデはもう落ちる。そのタイミングと同時に……走って」
「……ウィズィ?」
「アイツは私が止める」
 露祓いは友人の私の役目だと。
 サソリの時と同様にムカデの注意も引きよせ、留めていたウィズィだが――レッドの姿を見て何か別の炎が灯ったようだ。自らに付与している侵されざるべき守護の力もあれば、多少負担が増えたとしても早々には崩れない。
「ウィズィお姉ちゃん……ええ、なら私も援護しますッ――エルスさん、前ヘッ!」
 故にステラがまずは撃を飛ばす。邪魔なムカデの内、弱っている個体に狙いを定め――
 轟音。凄まじい衝撃の一撃でムカデを抉り飛ばせば宣言通り道が開けた。
「あっ! くっ……待ちなさい! そう簡単には行かせないわよッ!」
「――待ちな」
 思わず追わんとするレッドと傭兵達。しかしその前に立ちふさがったのはルカとウィズィで。
「お前さんがディルクのアニキに相応しいか、俺が試してやるよ。アニキへの想いっつーんなら俺も負けちゃいねえ。参加の権利はあんだろ」
「えっ……? ま、まさか貴方そういう事!? 『そういう事』なのね!?」
「ちげぇよ」
 いきなり頬を赤くするレッド――いや違う。一応言っておくが色恋の意味ではない。聞け。
 とにかくお前をこの先に行かせない。こっちを先に相手をしてもらうまではな。
「――邪魔するなら押し通るわよ?」
「やってみろよ。エルスの邪魔をするなら……」
 瞬間。ウィズィが構える。
 闘志……いや。

「私を殺す気でかかってこいよ」

 本気の『憤怒』と共に――威圧する。
 彼女が最愛からの想いを力に換える、可能性の顕現はウィズィの力を飛躍的に高めて。
 折れず、朽ちず、壊れず。

 来いよ。

 言葉には出さず、口の動きだけで――レッドを挑発した。



 皆の助けをエルスは感じていた。後ろで響く音の数々は――ムカデだけでなく、もしかしたらレッドとも始まったのだろうか?
 確認している暇はない。後ろを向けば速度が落ちて……
「負け、たくない」
 だから往く。ああそうだ、私は負けたくないのだ。
 赤焔のルビー。エルスの所有するソレを見れば、より強く想いが固まる。
 これはディルクから贈られたモノ。

 ――ほらお嬢ちゃん。手を出しな。

 あの日、あの時の景色は私だけが知っている。
 あの日のディルクを。あの瞬間の笑顔を知っているのは――私だけなのだから。
(私は……私は……弱気になる必要なんてないんだわ……!)

「色宝は私が……私が手に入れるの……! ラサの為に……ディルク様の為に……!」
 それに何より。
「私の、為に……!」
 その手に掴むは勝利の証。邪魔をせしムカデを乗り越え、掴んだ色宝――
「やれやれ。とんだ競争劇になったものだが……まぁライバルは適度にいた方が面白い。エルス君は少々回りくどいからな――このくらい直線的なのが居たのがいいだろう」
 その様子を見て愛無は吐息一つ。
 エルスはやはり消極的な所があるのが一つの『回りくどさ』であった。
 善き刺激になったのではないかと――色宝を入手した彼女の姿を眺めていた。


 色宝の入手が終わればもはやこんな所に用はない。
 レッドのチームも含め全員が一気に離脱を選択する――レッド達は競争相手ではあるが敵ではなく、故に彼らも逃げると成れば妨害の類などしなかった。
 が。
「ちょっと、何するの!」
 地上に出た途端にレッドが大きく飛び退った。
 それはウィズィの拳が飛んだ為。手加減なし、本気の一撃がその横っ面に飛んだ理由は。
「――取り消せよ」
 最初に言った言葉。エルスを侮辱した一言。
「『その程度』って言ったの。あんまり人を舐めんな」
 ディルクへの想いがその程度と言ったのは、戦うための方便なのだろう。
 だが方便だろうが言ってはいけない一線があるのだ。
 人の想いを見下げる物言いは『冗談でも言ってはいけないこと』
 ――ウィズィの逆鱗に触れたのだ。こいつだけは許しておけない。
「――フン。負けたわ、今回はね。完敗よ。
 確かに……最後の執念からは『その程度』なんて言えない力強さを感じたわ。
 だけど私はこれからも諦めないわ! エルス・ティーネ――いつか倒してあげる!」
 謝れつってんだよ。
 一応取り消しはしたようだが、負けん気の強さからか直接の言い方をしないレッド。思わずもう一発ウィズィは拳を握りしめる所だったが――直後に撤退するレッド達。
「やれ、ハタ迷惑な奴だったな……」
「ううん……まぁ、しょうがないことなのかもしれないけれど。
 恋の争いは熾烈よねぇ……依頼であるなら互いにもう少し冷静にいきたい所だけど」
 ルカとヴァイスはほぼ同時に吐息を。なんとも凄まじい勢いだった。
 良く言えば元気な子。悪く言えば……ちょっと過激するきらいがある子。当の本人が不在故に外野の争いとも思うのだが――赤犬の彼は色々と見境が無さそうだ。このくらいの距離が丁度良かったりするのかもしれないと、ヴァイスは思考して。
 何はともあれ色宝は確かに手に入れた。
 後はこれを報告しに戻るとしよう――そうだそうそう。
「折角なら、ディルク様の所に……ね?」
 エルスは言う。ほんの少しぐらい、会いに行きたい気持ちを出してもいいかと。
 ディルク様の為なら――私、こんなに頑張れちゃうんですからと!

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 恋とは色々な事があったりするものですね……

 リクエストありがとうございました。

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