PandoraPartyProject

シナリオ詳細

人形演武

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●お披露目

「よく来たね、入りな。そこらへん散らかってるが……まあ気にしなさんな」

 近代的な風景から一変。
 金属扉が開かれた先に広がっていたのは木造の内装から畳まである和風の邸宅。
 しかしここは――扉を開いた女性、時塚・揚羽の所有する建物ではないらしい。
「以前、オレの作品を気に入った研究者が練達にいてねぇ。そいつが是非工房に使ってくれだなんだと譲って来たんだが、作品に魂籠めるには不向きでさ」
「向いてない、ですか?」
「枕が違うと寝付けないようなものかな」
 空き箱や新品のテーブル台、作業台に用途不明の細かなパーツがびっしり収められた重箱。揚羽が持ち込んだらしい散乱した道具などを見回しながら、桜咲 珠緒 (p3p004426)と藤野 蛍 (p3p003861)は首を傾げる。
 フ、と笑う揚羽はもっと"曖昧"なモンだと答える。
「手紙は読んでくれたろ? 今日はアンタ達に見て貰いたくてね。この建物はオレの作品とアンタ達が暴れやすいように借りたのさね。
 机上の設計図と実際に動かしてみるのとじゃまるで違うんだ。未完成とはいえ人様にお披露目するにゃ、こうして他の目に触れない場が良い」
「なるほど、珠緒たちの為に用意してくださったのですね」
 そうして道すがら揚羽の話に相槌を打っていると、長い回廊を進んだ奥に重厚な金属扉が目の前に現れる。
 木の香りに混ざって漂う無機質な臭い。
 そこは空気が微かに薄い。広い楕円形になったステージが中央に据えられた屋内だった。
「あの舞台上でやって貰う」
 揚羽がステージへと近付き、軽快な足取りで胸元まである高さの台に飛び乗る。
「聞いてたよりも『見られてる』って感じがするな」
「なぁに気にしなさんな、ここにはオレとアンタ達しかいないんだからねぇ。向き合う相手はオレの作品でもある」
 ジェイク・夜乃 (p3p001103)が辺りを見回して言うと、揚羽がステージ奥に広げられた黒布に手を掛けてそれを剥ぎ取る。
 ばさりとカーテンが引いて現れる、整列した複数体の人形達を目にした夜乃 幻 (p3p000824)が感嘆の声を上げた。
「これが――未完とはとても思えませんね。どの人形も、艶があり形に芯となる魂が籠められているのを僕は感じます」
 ふわりとステージに上がった幻は背の翅を震わせ、中央に並んだ十二体の少女を模した人形達を一体ずつ覗き込むように観察して行った。
「さすが揚羽さん……どの子も綺麗だね」
 揚羽は例え、これからイレギュラーズと戦い傷つき破壊される可能性があるとしても。自らが造る人形に妥協や粗雑な手を加える事は決して許さない、それは普段から彼女自身が言っている事だ。
 それゆえにステージ上に並んだ人形達はいずれも、カッティングされたばかりの宝石同様の真新しい美しさと煌びやかな輝きを携えていた。
「当然……といいたいがねぇ、アンタ達を呼んだのはオレ自身腑に落ちない部分もあるからさ」

 今回、時塚揚羽という人形職人が珠緒たち四人に加えてイレギュラーズに依頼したいと言ったのは。ある事件によって自らの人形に防衛機構を施そうと考えたからだった。
 今でこそ飄々とした様子の彼女だが、自らが創った作品を改悪し辱められた当時の怒りを忘れたわけではない。
 彼女は――揚羽はあらゆる意味で人形の創作に余念が無い、自他共に認める本物の職人である。
 だがそこに本格的な戦闘を想定した、人形の持つ芸術性を損なわぬ機構を施すことは彼女の手を以てしても難しいと。そう揚羽は考えた。
「餅は餅屋にって言うじゃないかい? 人形は人形職人が、実戦のテストはオレが知る中で信頼できるアンタ達に任せた方が確実だと思ってねぇ」
 揚羽は言う。
 この舞台で人形達と一戦交える様を見せて欲しいと。
「話は分かった……ちなみにこの舞台から落ちても別に負けとかは無いよな?」
「そんな興醒めするルールは設けないさね。ただ――オレの人形は足を踏み外して落ちたりはしないよ」
 ジェイクの前で挑発的に笑って見せる揚羽の前に、幻がとんと爪先を鳴らしてカーテシーを見せながら手を広げる。
「ではお見せしましょう。僕達ローレットが時塚様の作品と共に織り成す、演武を――」

GMコメント

●依頼目標
 「なーに、防衛ってのはどっちかが勝つか負けるかだろう?
  だったら――成功か失敗かは自ずと分かるもんさね。本気でやってくれるかい」

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。不測の事態は起こりません。

●時塚 揚羽の人形(十二体)
 全体パッシブ能力『出血無効』

 ■攻式・紅
 四体の小柄な少女を模した人形たち。流れる様な紅い髪が揺れるたびに垣間見える、鋭い眼差しが幼い少女の持つ強さと脆さを表現している。
 細い肢体はいずれも白く、柔らかな肌を見せているものの、腕部と脚部に隠し刃の機構が施されているらしい。
 軽量ゆえ、自律行動できる人形の中ではかなり俊敏にして鋭敏な動きが可能。

 ■攻式・藍
 四体の淑女然とした美女を模した人形たち。長い艶のある黒髪は重く、人肌の温もりを感じさせる色合いを有した女性らしいフォルムは呼吸すらしているように錯覚させる。
 平均的な人間種と同等のサイズ感ではあるものの、足取り確かな動きと全身に仕込まれた駆動機構が体内の水銀と連動して、近距離から中距離にまで到達する衝撃波や魔力波を生み出すことができる。
 攻式・紅や御式・翠のようなか弱い者を庇い守るように疑似思考が組み込まれている。

 ■御式・翠
 四体の小駆なドールタイプの少女人形たち。可憐な金髪に散りばめられた銀の毛髪には、時塚揚羽なりの『ただ幼いだけ』ではない人形としての美しさや愛らしさを醸し出す為の工夫と拘りが講じられている。
 ウェーブがかった髪や縦ロールの髪型をした成人の腰ほどまでしかない人形だが、内部には時塚揚羽が練達でひっそりと学び培った技術が施されている。
 背から天使の羽を出して飛行する形態や、体内の疑似人体魔力炉による魔術式などが使用できるようになっているとのこと。
 翠たちの着ているドレスは、揚羽が仕上げた「そっちの道」に通じる程の耐魔術式が編み込まれている。ただのレース生地ではない。

搭載魔術式)『閃きの輝き』(神中単:命中・物攻・神攻・クリティカル・上昇大【副】【瞬付】)
      『温かな瞬き』(神至単:防御技術・特殊抵抗・反応・上昇中【付与】)
      『即席修理術』(神自域:BS回復中【治癒】)

●戦闘領域
 縦幅60m、横幅40mほどの楕円形ステージ上で戦います。
 特にルールはなく、ただ皆様は時塚 揚羽の前で人形たちの実戦テストを行う事になります。
 ちなみにフィールドを照らしている天井部のスポットライトが消えると想像以上に暗くなります。

●時塚 揚羽
 練達に居を構える人形師、日本に近い世界から来た旅人である。
 桜咲 珠緒と藤野 蛍の関係者。
 彼女は以前に二人を介しローレットへ依頼を出しており(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3106)
 その際に回収された人形を観察、魔改造された人形のような被害が繰り返し起きない事を目標に、今回は防衛機構を搭載した人形を製作してイレギュラーズに実戦テストに挑んで貰おうとしている。
 たとえ破壊されるとしても、彼女は自らの人形に精緻を欠かさず。相手が誰であっても勝てるつもりで強化した。
 リプレイ中は安全な場所から戦場を見つめています。

●最後に
 今回リクエストしていただきありがとうございます。
 揚羽さまから皆様への依頼を通し、人形に籠められた力強い思いを感じていただければと思います。
 ご参加、プレイングをお待ちしております。
 いちごストリームです。

  • 人形演武完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年12月02日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
※参加確定済み※
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
※参加確定済み※
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
※参加確定済み※
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
※参加確定済み※
ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)
鉱龍神
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾

リプレイ

●「人生で最高のもの、最も美しいものは目に見えず、触れることも出来ない。それは、心で感じるものなのだ」
 自由気ままに散らかった畳部屋を、靴を履いたまま進む。
 特に日本育ちの『二人でひとつ』藤野 蛍(p3p003861)にとって畳を靴底で踏むのは奇妙な感覚だったが、どうやら『この部屋』では普通のことであるらしい。
「そう、そう、そこ。その場所に立つんだ。いいね?」
 時塚 揚羽は赤い枠内に立った蛍を見て、指を上下に動かして『動くな』のジェスチャーをした。
 ちらりと見ると、薄型のモニターがいろいろなデータを表示している。
 人型の立体グラフィックモニタの様子から察するに、今回の人形たちのデータをリアルタイムでとるためのものなのだろう。揚羽がこれの使い方を熟知しているかはわからないが……。
(あの揚羽さんが本気で仕上げた人形チーム。
 きっと正確無比な鋼鉄の連携力で攻めてくるのよね。
 それなら、不確定性と――可能性の塊である人間のボク達にできる対抗策は……)
 考え込む蛍の手を、横に並んだ『二人でひとつ』桜咲 珠緒(p3p004426)がぎゅっと握った。
「芸術性に戦闘能力……兼ね備えて完成した子が『目覚め』たら、なかなかに恐ろしいことになりそうなのです」
「そうだね。もし前みたいなことが起きたら……」
「だからこその防御機構。だからこそのテストなのです。全開で行きましょう」
 二人に続いてほかの仲間達が同じ畳の枠内へ立つと、揚羽がパネルを操作。何かの駆動音と振動が伝わり、彼らの足場はゆっくりと降下をはじめた。
 部屋の階下……というべきなのだろうか。床から下の空間は真っ暗な闇に包まれているように見える。
「相手は人形か……人形は動揺しないし、精神的な揺さぶりは無意味、と。
 まぁそう言うの得意分野じゃないけどね。如何に連携を阻止して我々の土俵で勝負させるかが重要かな?」
 『天統七翼鉱龍』ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)はこれから戦う人形のことを考えながら、暗闇をじっと見つめている。
 それまでとっていた、鬼才の掘り出す石膏像のごとき美しい人型形態から鉱龍形態へとチェンジ。ェクセレリァスなりの気分の切り替えなのだろう。
 気分と言えば、『口達者な会長』楊枝 茄子子(p3p008356)は畳の上にぺたんと座ったまま降下し続ける床の感覚を楽しんでいた。
「人形が動くって凄いね! 会長も家事とか雑用おか全部人形に任せたいぜ……! あ、そういうのじゃないのか。そっか」
 これからある意味命がけの戦いが始まるかもしれないというのに、茄子子はマイペースを崩さない。もしかしたら本当に死ぬまでペースが崩れることがないのかもしれない。
「まぁいいや! 戦って欲しいって言うなら戦ってあげよう! 全力を持って相手してあげるよ! ……他のみんながね!」
「いや、御主も本気で治癒してくれ楊枝」
 足場の降下がとまり、何かのロックがかかるガゴンという重い音がした。
 と同時に天井のスポットライトが一斉に点灯。サッカーコートなみに広い空間が突如として彼らの前に広がった。
 ほう、とつぶやいて軽く腕組みをする『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)。
 それもそのはず。部屋の広さや強化合成畳の床や漆喰めいた風合いの壁やまるで昼間の空のごとき明るい天井よりも一段と強く目を引く、十二体の人形たち目に入ったからである。
「こんなに素晴らしい出来の人形達と戦うとはな……」
 『美』に激しいこだわりを持つ揚羽の新作人形。
 これが一切自律稼働せずなんなら現在の十分の一のサイズであったとしても相当な高値がつきそうな、それは紛れもなく美術品であった。
「私のいた世界にもこういうものはあったが……ううむ、まれに見るレベルの技巧だ。破壊するのが聊か勿体ない気がしないでも無いが……」
「そうかな? 美というからてっきり美少年を作ったかとおもったのに」
 また別のベクトルで美へのこだわりをもつ『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)が、前髪を爽やかになで上げて目を瞑った。
 そうするだけで空気が清浄化するかのような、外観そのものからグリーンハーブの香りがするかのような、いっそ超次元的な美しさがそこにはあった。
 拘りすぎて自らを作り替えてしまった魔道士のなれはてであり、これもまた美の到達点のひとつだ。
「人形作りの腕前は評価するけど、ボクと趣味はあわないね。もっとも……『ボク』を二つと作れる人間がこの世にいるとはおもえないけど」
「おいおい、忘れてないか?」
 『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)が腰ベルトにさげたホルスターから二丁の拳銃を抜き、まるで照れ隠しでもするみたいにくるくると緩やかに指で回し始める。
「確かに美人だらけでよりどりみどりだが、こっちには『本物の美』がある。
 毎夜見慣れちまって目がくらむくらいだ」
 なあ? と片眉をあげて振り返ってみせると、『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は肩をすくめてシルクハットを被り直した。
「それでも、このような美しい人形を壊してしまうだなんて勿体ない気が致します。あまりにもリアルで……」
「形あるものはいずれ壊れるさ。ただ『美しいだけ』より、自分を守れる美術品のほうがずっといい……と考えたんだろう」
「次なる創造のための破壊、なのですね」
 目を瞑る幻、うっすらと笑うジェイク。
 この人達ここぞとばかりにいちゃいちゃしてるなあと小声でいいながら立ち上がる茄子子。
『準備はいいかい?』
 大きな壁へ揚羽の姿が映し出された。珠緒が作り出すような空間投影モニタかと思ったが、どうやらプロジェクタによる投射映像であるらしい。
 ふかふかとした赤い座布団に腰掛け、キセルを手に肘掛けによりかかっている。
『最後に確認しておくよ。本当に危なくなったら引き上げるが……それまでは実戦と全く同じ状態でテストするから、白旗をあげる準備くらいはしておいとくれ』
「ご冗談」
 珠緒はうっすらと笑い、蛍にウィンク。
 空中にかざした手のひらを左から右へ大きくスライドさせると、蛍とリンクした仲間達のコンディショングラフを投影表示。
 対する人形立ちはややうつむいていた顔をクッと上げ、瞳にまるで命のような輝きを灯した。
 眼鏡のフレームを指でトンと叩いてから、腰の後ろにホールドしていた教科書のベルトロックを解除する蛍。
 ばらばらに分解されたページが彼女を覆うように展開し一方で桜色のブレードを形成。
 隣では宙に浮きあがったェクセレリァスが保有武装のすべてを展開。神滅弓『ワールドスレイヤーⅡ』がボディの延長として出現し、人形へと狙いを定める。
 セレマはといえば常在戦場とばかりに優しく冷たくそして絶世に美しく微笑んで人差し指だけで手招きをし、汰磨羈はくるんと回転した勢いで大太刀を鞘から抜き、なびく髪と二股の尻尾をゆらして戦闘の構えを取る。
 幻はステッキの先端で地面をトントンと叩くと、幻の花をいくつも咲き乱れさせ、早回しで散った花弁を蝶に変えた。
 茄子子は『なにこれみんなで身構える流れなの?』と言いながらとりあえずファイティングポーズをとってシュッシュとシャドーしてみせ、苦笑したジェイクが二両拳銃をそれぞれ水平に構えて人形へと向けた。
「さ、始めようか」
 放たれた銃弾が回転しながら跳び、人形たちが一斉に動き出す。
 ゴングもホイッスルもなく、戦いは始まった。

●「美とは、余計なものの浄化である」
 回転しながら飛ぶ弾丸を正確に目視した少女型人形『攻式・紅』が肘部からブレードを展開。舞い踊るような美しい動作で弾丸をはねのけ、ジェイクへと接近――するであろうことを予め予測していたジェイクによる第二の弾丸が少女人形『御式・翠』へと直撃した。
 弾丸の影に隠れるように巧みに放たれていたものだと人形が気づいたのは腕を破壊された後のことである。
「さ、かかってきな。残りは頼むぞセレマ」
「ああ、いいとも」
 遊んであげよう。そう行ってセレマは風のように走り他の人形たちを掻い潜ると、『翠』の至近距離まで顔を寄せていと美しく微笑んだ。
「自律なんてくだらない……お嬢さん達もそう思うだろう?」
 並のAIで彼の『微笑み』から目を背けるのは至難の業である。
 とはいえ前回の経験からかそれなりに高度なAIが積まれているらしい。排他処理を施したらしく、翼を広げてセレマから距離をとり搭載された魔術式を発動。
 淑女型人形『攻式・藍』の防御性能を引き上げるとセレマとの間に割り込ませた。
「迷った。恐れた。そして乱れたね。
 ボクのほうがよっぽど人形のように揺ぎ無くって美しい……皮肉だね」
 苦笑するセレマ。彼の思惑通りと言うべきなのか、直接狙った固体とは別の『藍』と『翠』数体がセレマの虜となり、展開したブレードや攻性術式を纏った手によって集中攻撃を浴びせにかかった。
 はべり舞い踊るような動きにセレマの全身が切り刻まれていく。
 が、吹き上がる血もそれによって押し倒される様も、床に投げ出された右手の爪に至るまで恐ろしく美しく、人形たちは目を離すことができなかった。
 殺しても死なない、壊しても乱れない、揺らぎない『美』が、そこにはあったのだ。
「美しいものは美しいもので壊したいもので御座います……」
 幻は微笑み、ステッキをスッと『翠』や『藍』たちへと向けた。
 美は時として毒。
 毒に魅せられた者の末路は、やはり自らの破滅である。
 花弁からかわった蝶たちが人形へ群がり、蝶はその瞬きを霞草へ、霞草から赤い薔薇へ、赤い薔薇から青い薔薇へ、青い薔薇から花束へ、花束から花園へと変わりすべての変化が終わった時には、壊れた人形だけが残った。
「人形も夢を見るものでしょうか……」
「さあ、な」
 ェクセレリァスはすさまじい機動力で急速に高高度へと飛び上がると、ハッとして見上げる『翠』や『藍』たちへと狙いを定め直す。
「私の得意分野で攻めさせてもらう……!」
 そして人形たちに対応されるよりも早く、『デミウェーブガン・閃輝』を解き放った。
 波動砲を摸したというこの砲撃はェクセレリァス・ドラゴンブレスとして足場もろとも『翠』たちを破壊していく。
「邪魔者は破壊した。後を頼むぞ」
「先を越されてしまったな」
 汰磨羈はフッと笑い、ブレードを展開して身構える『紅』へと距離を詰めた。
 コマのように回転する人形の斬撃をスライディングで回避し、急速にターンしてきたところを回し蹴りによって転倒させる。
「数的には不利。ならば、確実な各個撃破を繰り返す事で覆すのみだ」
 『紅』の動きもたいした物で、転倒しそうになったところで地に手を突いて今度は膝から展開したブレードで汰磨羈を斬り付けてくる。
 防御しそびれた汰磨羈は腕でそれをうけ……たが、タダでくらう汰磨羈ではない。貫通した腕に力を込めてブレードを『固定』すると、必殺の太極律道・斬交連鎖『刋楼剣』を繰り出した。
 大太刀に込めることで二重となった太極霊刃が人形表面に展開された霊力防壁を強制的に食い破り、そのボディを回転のこぎりの要領で切り裂いていく。
 傍目には汰磨羈がたったひとふりの太刀によって人形の腰を切断したように見えたことだろう。
「回復を頼む」
「はいはーい!」
 茄子子が先ほどから特に意味もなくやっているシャドーボクシングの動きをそのまま汰磨羈へシュッとすると、汰磨羈の腕を貫通していた刃がはじき出され切断されていた肉やその他組織が素早く結合していく。
「残りは任せたよ! たまほたコンビ!」
「たまほたコンビ?」
 蛍は小首をかしげつつも残った『紅』へと突進。
 跳躍し肘から展開したブレードを繰り出してくる人形だが、蛍は前方に集中させたフォースフィールドで防御。
 それでも強引に突破しようとがりがりと防壁を削る人形だが、その執着こそが狙いであった。
「珠緒さん!」
「準備おっけーです!」
 珠緒は自ら抽出した血の力を拡大し、巨大な血色の剣を作り出した。
「それにしても、綺麗なドレス……『うちの子』たちに着せてあげたいですね」
 血色の翼を広げて僅かに浮遊、更に血色の鎖をアンカーのように四方へ打ち付けると、猛烈な勢いで剣を発射した。反動で吹き飛びそうになるのを、翼と鎖によって引き留める。
 横からそんな攻撃を食らった人形は腰部に剣が命中。大胆に貫いていくのを目視確認すると、蛍は桜色のブレードを振り込んだ
 スイングと同時に分解されたページが桜吹雪のごとく人形へ殺到。すべての刃が人形の各部へ入り込み組織を破壊していく。
 吹き抜けた桜吹雪はターンして再結合し、一冊の教科書となって蛍の手の上へと収まった。
 がしゃんと音を立てて崩れ落ちる人形。
「これで全滅、か?」
 ジェイクは銃をしまおう……としたその時、わずかに力の残っていた『藍』が上半身を起こし手のひらを突き出した。
 衝撃波が走る――よりも早く、そちらを見もしていなかったジェイクの背面撃ちが人形の腕を破壊。最後の力を使い果たした人形はそのまま目の光を失って力尽きた。
「今度こそ、全滅だな」
 ジェイクは笑うと、銃をクルッと回転させ、ホルスターに収めた。

●「美は成功に似ている。我々はそれを長くは愛せない」
 昇降機によって再び元の部屋へと戻ってきたジェイクは、腕組みをしてモニターを見つめる揚羽へと歩み寄った。
「所詮は人形。経験によって日々進歩している俺達の敵じゃないぜ」
「それは異なこと。『偽物』とて日々進歩しますよ」
 ゆめまぼろしをどこまでも進歩させて今の高みへとのぼっている幻の言葉に、ジェイクは『そうだったな』と肩をすくめてみせた。
「けれど、『美』について甘かったのは事実かな」
 既にくつろぎはじめていたセレマが、湯飲みのお茶を啜りながら微笑んだ。
「え、どゆこと? 甘いってなに? 味?」
 その横でお茶とおまんじゅうをパクついていた茄子子が振り返る。
「防衛機構の搭載にリソースをさいた結果、芯となるべき美しさを損なった……ということか」
 さっきの話でちゃんと理解していたらしいェクセレリァスがそのまた横にちょこんと座る。戦闘が終わったからなのか、今は人型フォームだ。
「こりゃ、痛いところを突かれたねえ」
 苦笑し、キセルを灰皿へコンと置く揚羽。
「そこの色男の意見も、美少年の意見ももっともさね。例の事件で気が立ってたのかねえ、オレらしくもない」
「ふむ……どうやら、意義あるテストになったようだな」
 汰磨羈はストンと座布団の上へあぐらをかくと、茄子子から受け取った湯飲みに口をつけて『あっつ!』とのけぞった。
「そういうこった。このままだったら随分せこい人形ばっかり作っちまうところだったよ」
「せこいだなんて、とんでもないのです」
 珠緒はモニターに映し出された人形立ちを見て、ほうと息をついた。
「とても綺麗で、優しい肌をした人形たちなのです」
「そうだね。『こじまさん』たちにあるみたいな、あったかさを少しだけ感じたよ」
 蛍たちがここへ来たそもそもの縁は、彼女たちの所有する少女型ロボットたちにあった。個体ごとが高い戦闘力をもつロボットもいいが、生活や人生を豊かにするロボットもそれはそれとして美しいものである。
 そしてそれは、時塚揚羽のもつ『人形は所有者と共にあってはじめて完成品』という思想に沿うものであった。
「そうさね……自己防衛もいいが、そろそろ基本に立ち返ってみるのもアリかもねえ」
 苦笑する揚羽に、蛍と珠緒はほっこりと頷いた。
 誰かに寄り添う人形。
 それはたとえば幻とジェイクや、蛍と珠緒たちのように、奥深い美しさとなることだろう。

成否

成功

MVP

桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻

状態異常

なし

あとがき

 テストを終了しました
 時塚揚羽は今回の結果からよりよい人形作りをしていくことでしょう

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