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シナリオ詳細

巨大重戦士の脳はランチュウ。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「天誅を」
 命令は、攻撃位置以外はそれだけだ。
「ファルマコンを信じぬ者に天誅を」
 白い鎧に金色の装飾。
 一歩一歩踏みしめるごとに見送る子供たちの歓声が響いた。
「あの聖獣は使命を持っているのですね!」
「そうとも。悪辣極まりない偽神の徒を成敗するために赴く貴き御使いなのだ」
 鎧は一歩一歩地面を踏みしめ、進軍していく。
 大きな盾は小舟くらい。手に握ったメイスは若木くらい。一振りで馬車の一台や二台は粉砕できるだろう。
「いつか、僕たちも聖獣のようにお役に立てましょうか」
 ファーザーは問うた少年の肩に手を置いた。
「もちろんだとも。きっと、お役に立つのだよ」
 いい天気だ。聖獣の頭部に日光が照り返す。
 きらきら光るガラスの水槽。
 中では、大きな赤い魚がじっと前を見据えていた。


「てーんばつちゅどーん」
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、気のない声でそう言った。
「された方はたまったもんじゃない。まして、どう考えてもインチキ新興宗教の天罰でなど。という訳で、アドラステイアって知ってる?」

 アドラステイア。
 天義(聖教国ネメシス)の首都フォン・ルーベルグより離れた海沿いにその独立都市は存在した。
「冠位魔種による『大いなる災い』で天義にて信仰される神の権威は失墜。『今度の神様こそ最高だ』ってんで『ファルマコン』という神様を信仰しだした奴らがいたわけよ」
 信仰は捨てられない。でも今までの神様だなだ。新しい神様に乗り換えよう。ある意味合理的。と、メクレオは茶をすする。
「フォン・ルーベルグは現状では手が回らず、無法地帯と化してるから、どさくさ交じりの不法占拠からのなし崩し統治って感じ。天義は完全なる復興にはまだ至らず、今までの『信仰』からの変革の最中であるから、『新たなる神』と宗教戦争するにはまだ教義という名の武器が研ぎ終わってないんだわ」
 で。と、メクレオは言う。
「そのアドラステイア、むやみやたらと硬い城壁都市でして、攻め込むのも超面倒。周辺領主も困り果ててるの。超異分子? 更に、やたらと子供が多い。大人が少ない。戦災孤児の吹き溜まりみたいなんだけど、なんか意図的に集められたくさい。そんで、なんか中で粛清つうか統括つうか信仰心があるとかないとかで処刑し合ってる――実質蟲毒状態」
 まあ、ろくなもんじゃない。
「そんなのご近所さんじゃたまらないから、周辺領主も圧力かける。そうすっと報復されるのよ。なんか、やたらと神々しい感じの化け物が襲ってくる。今回はそれを人里に入る前に迎撃するお仕事です」
 怪しげな新興宗教発モンスターを倒せ!
「連中は聖獣とか言ってるようですが――想像してください。身の丈10メートルの頭が逆さ金魚鉢で中に神々しいずんぐりむっくりした魚が沈んでる重甲冑騎士」
 もちろん、金魚鉢の水は漏水防止加工はされている。とメクレオが言ったが、とてつもなくどうでもいい。というか、首は? 鎧の中、どうなってるの?
「鎧の中も水っぽいというか、水っぽい粘体なんじゃねえかな。と。だから人間の可動域は無視してでたらめに動いてくるぞ。多分脳みそは魚が役目を担っている。避けるとき、気をつけろ。それにしても、夜中に夢見そうな外見だなあと」
 しかも、とびっきりの悪夢だ。
「手にはメイスとカイトシールドを持ってる。繰り返すが身長10メートルだ。機敏ではないのが救いだが、当たったら、まあ、ただじゃすまない」
 へたすると、生臭いお好み焼きのタネになる。
「止まるまで破壊をしまくり、止まったら金魚鉢の『水』を放出して、周囲を汚染した上で早晩腐った魚が苗床になってろくでもない植物が生えるそうな。倒した後はよく魚と『水』を焼いてきてね。言っとくけど食えねえから。生物兵器だから」
 けっして振りではない。と情報屋は言った。

GMコメント


 ごきげんよう。田奈です。
 迫りくる脅威が町を襲う前に迎撃してください。

 聖獣「巨大重戦士」
*身の丈10メートルの重戦士。速くはないがでかいから、意外とすぐ近くまで来るぞ。
*鎧の中と頭部の水槽はかなり水っぽい粘体で満たされ、それで動いています。
脳みそは魚。というか、魚の陸上用鎧機構と考えられます。

現場「街道沿い・馬だまり」
 晴れ・昼・無風。
 馬を乗り継ぐための開けた場所です。障害・遮蔽物は一切ない運動場とお考え下さい。
 当日は終日人の往来は制限されているので、イレギュラーな闖入者はありません。ご安心ください。
 街まではかなり距離があります。多少暴れても大丈夫です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 巨大重戦士の脳はランチュウ。完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
グレン・ロジャース(p3p005709)
理想の求心者
フランドール=ジェーン=ドゥ(p3p006597)
パッチワーカー
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
リズィ・ライム(p3p009161)

リプレイ


 まずは土木工事から。
『不沈要塞』グレン・ロジャース(p3p005709)は猛烈にスコップを使っていた。
 時間の許す限り。とにかく汚染水の流出を抑えるための簡単な堀。いや、溝。
「深さは時間的に難しそうなんで、距離を長めに、戦闘範囲が広くなってもいいようにな」
「暴れるだけ暴れて~、倒したら中から水が出て~、土壌汚染までして行くとか無駄に理に適ってるよね~。まさに突撃兵器だね~」
掘った土を詰め込んだ土嚢を積んでいく『パッチワーカー』フランドール=ジェーン=ドゥ(p3p006597)の指摘は正しい。
「それじゃあ~、ちゃちゃっと倒して~、お片付けしよ~」
『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は村で道具を借りてきた。
「戦う場所の周りに穴をほってその周りを土嚢で固めて液体が草むらに飛び散らないようにするんだよね」
「傾斜を見て、水が流れやすそうなところはそちらを重点的に固める方向でな」
 グレンは掘り具合を変えて、高低差をつけることにも余念がない。根が真面目なのだ。
「ふぅー、環境保全っつーのは骨が折れるなァ、オイ」
『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)は、敵を倒した際に草に水が接触しないように陣地を構築した。
 倒すのは必須。出来る限り被害を出さない。

 そして、それは現れる。

 どぼんどぼん。
 一歩歩くたびに、頭部の金魚鉢の水面が揺れる。
 その底に胡乱な目をした赤い魚が微動だにせず鎮座している。
 全高10メートル。頭部辺りから振り落とされれば無事では済まない高さだ。
「重鎧に乗った魚かぁ……なんでこんなもの考えつくのかな」
『魔動機仕掛けの好奇心』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)は、呟いた。
(デカイな……あれも聖獣だってのか? ――にしてもアドラステイアはどうやって聖獣を確保してるんだ?)
 アランは、城壁の向こうに隠された宗教組織の規模を洗いだそうとしているが判断材料が少ない。
「つーかよ、聖獣ってなんだよ。魔物みたいなもんか……?」
 この場にファルマコンの使徒がいたら、アランは不敬であると一番最初に踏みつぶされる栄誉が与えられていたことだろう。今度生まれ変わってくる時はファルマコンの庇護下に生まれてこられますように。と、お祈りが付きそうだ。
「こういう変わった聖獣もいるんだね……アドラステイアは一体何を目指しているんだろう? って気分になっちゃうけど」
『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が応じる。
「信仰のし過ぎで美的感覚も狂ったのでしょうか」
『星詠みの巫女』小金井・正純(p3p008000)の感想はひどくまっとうである。
「いやぁ、何というか……デザイン何とかならなかったのこいつ?」
 リズィ・ライム(p3p009161)の、そこだよねーという指摘。
「首なしにして、代わりに腹部あたりに金魚鉢嵌めるんじゃまずかったわけ? あんまり低い所に金魚鉢つけると急所殴りやすくなって嫌とかそんな感じ? にしたってもうちょっと何とかなったでしょこれ。アドラステイアとやらのセンスはわからないわ……」
 ちょっと女遊びとか男遊びが激しいムチムチプリンなお姉さん以外の一切が非公開なリズィだが、どこ殴られたらどうなるを兵器のデザインにフィードバックさせなくてはならないのを考えつくお育ちなのはわかった。
 とりあえず、感性的に正気を疑う。
 顕在化して間もない案件だ。閉ざされた城塞都市からの情報は少ない。まだどう対応するべきか材料もそろっていない。横行させないためにもここで芽を摘むのが肝要だ。
「大きいってだけで普通の人には脅威だと思うからこれ以上先に進ませる訳にはいかない! 絶対にここで侵攻を止めてみせる!」
 スティアは気合を入れ直した。領民であるかどうかにかかわらず、天義の貴族として「普通の人」に対する責任がある。そして天義の聖職者として看過するわけにはいかない。
 開いた魔導書から魔力の残滓がこぼれる。術式展開により空間の最適化が始まる。整えられた力場の中では魔術はより繊細に構築される。
 チャロロが盾を構えた。
「遠距離から攻撃を当てるにしても、敵の下にいては当てにくいと思いますので」
 正純は、そう言いおいて高台に向かった。


「単純に質量はパワー、あんなもんまともに食らっちゃったらか弱い私じゃ挽肉になっちゃうわよ」
 リズィのお肌がいかにギフトの賜物ですべすべぴちぴちが約束されていようとも、普通にけがはする。斬れば裂けるし、赤たんや青たんもできるのだ。
「悪いけど他の人に守ってもらったり、観察する余裕があればあの金魚鉢オバケのリーチを見極めて、当たらない位置に逃げるとかしなきゃね。余裕があれば」
 大事なことだから二回言う。でも、こういう現場に余裕はないのだ。巨大さはスピードでもあるからして。
「あいつ一撃の範囲が広そうだし、下手に巻き込まれないようみんなくっつきすぎないように陣取るのがいいかな?」
 前衛に陣取りながらチャロロが言う。
「さあさあ~。つぎはぎだらけの動く死体だよ~。フランドール=ジェーン=ドゥ。パッチワーカーっていうんだよぉ~」
 状態が不規則にあっちこっちにがっくんがっくんと揺れる。微妙なけいれん具合がいら立ちを誘うのか、金魚鉢の中の赤い魚の視線がフランドールにめきょっとロックオンされた。大きいから視線が分かりやすい。
「ありゃ、思ったより早い」
 眼前に迫るメイス。潰れたら誰が体を継ぎ合わせてくれるんだろう。
「こんなの当たったらぺったんこじゃすまないよ! でも、ナイス囮!」
 襲われる対象が明確だから、そこに集中することができる。
 脇から滑り込んできたチャロロの機煌重盾がそれを受け止める。受け止められた衝撃は拡散・吸収され盾の機構で再収束・反転。聖獣に打ち返される。メイスを介して衝撃を逃せなかった聖獣の手首の装甲がいびつに曲がった。チャロロのエスプリ「罠の城」は伊達ではない。
「うわ関節へんな曲がり方してるし……効いてるのかな?」
 いびつに曲がってできた隙間からぼとぼとと鎧の中身が漏れ出している。メイスを握っている指の動きが緩慢だ。多分、あれが全て流出すれば鎧は動くことができなくなる。
「オイラだってちょっと肉の混じったスクラップにはされたくないし、攻撃はまかせたよ!」
 自分が回復に回った方が効率的と判断したスティアは迅速に魔導書のページをめくり直すと、魔力を柔らかな光に変換し、チャロロの損傷を癒した。
「やっぱり正面からの殴り合いが俺には合ってるみてぇだなァ! 行くぞクソ聖獣……簡単に壊れンなよ!」
 戦争思考の演算化から転移前世界からの一時的な投影を重ね、アランの人肉を練り上げて作られたような剣が獲物を食ませろと咆哮を上げ、不定形な赤い憎悪をまき散らす。
「金魚鉢を叩き割りたいんだがなあ。まずは足首から頂くぜ!?」
 普通の相手なら中段からの抜き胴だ。アキレス腱を断裂させるスイングで肉でできた剣は金属の隙間から噴き出す中身を乱雑に飲み干しまだ足りぬとあ欄の生命力も持っていく。曲がった装甲から噴き出し、地面にあふれる中身はドロドロと足元を覆っていく。
 高台に陣取っていた正純は聖獣の手首に狙いを定めた。元から攻撃が激しそうな手を優先的に狙うつもりだったのだ。
「─────── この祈り 明けの明星 まつろわぬ神 に奉る」
 唇より音もなく紡がれた聖句。
 ひょうと放たれた一矢の反動でぎしりと堅牢な戦装束がきしんだが、それもまた神への挺身。
「これだけの巨体、そう易易とは行かないでしょう。が、アリの一撃は時に象をも倒すもの。意思があるかは分かりませんが、覚悟しなさい」
 メイスが聖獣の指から落ちて地面に刺さり、ずむんと音を立てて転がった。掌が砕け、右手に充填されていた中身がとどまっていられなくなったのだ。
 我が意を得たりと、正純がほほ笑んだ。
 次は盾を構えた左手。その後は足だ。
 精魂尽き果て、身を削って、百でも千でも矢をつがえる所存だった。


「どっちもかばうぜ。どんとこい!」
(タフな防御自慢が多いがあのでかい図体だ、腕や脚を薙払うだけで範囲攻撃になりかねない)
 そう判断したグレンが聖獣の目を引くように行動する二人に告げた。
 女神の名を冠した聖剣と掲げられた理想の騎士の名を冠する盾。
 そんな大層なものを子供のころに手にしたら、食い物のためにとっととうっぱらってしまったかもしれない。
 けれどどこかの誰かに助けられて、グレンの生き様が変わった。
 手にしたものを切り売りせずに、生かせるようになった。
 少なくとも今は、10メートルの化け物の一撃から誰かの命を守ることはできる。
 そんな献身があるからこそ、前衛は聖獣に肉薄できるのだ。
 きゅぎぎぎぎぎっぎぎぎぎっぎぎっ!
 脳内をかきむしり高出力音と火花が聖獣の鎧を軋らせる。
 リュコスは、関節にチェーンソーを押し込みながらどこを削ったらいいのか考えていた。
(魚が脳みそだから多分いろんなところが見えてるけど、体が大きいから小回りがききづらいかな)
 視線を感じる。魚が見ている。大きな目でぶよぶよした魚がリュコスを見ている。
 ふと、リュコスの頬に冷気が触れた。
 ぶよぶよした魚の視線が外れた。魚はスティアに視線を移した。魚の視線が自分に向いたのを確認してにっこりとほほ笑むスティアの手のひらの上で氷の花が散っている。あの氷は聖獣の命で出来ているのだ。それをスティアははらはらと散らして見せつける。異教の徒のみ使いとは名ばかりの化け物。お前はこれから死ぬんだよ。私にやっつけられちゃうんだよ。神に仕える天真爛漫な指がそれを取り返しがつかないように握りつぶした。
 猛然とスティアに聖獣が挑みかかる。その前にグレンが飛び出した。
「やれやれ、呆れたデカブツだな。こっから先は通行止めだぜ。『要塞(おれ)』がいるからな」
 ごばりと金魚が大きなあぶくを吐く。
「それでも通りたきゃ、こいよ金魚鉢被り!」
 その水槽の表面が不意に曇ったと思ったとたんに凍てつき真っ白になる。金魚鉢に絡まる氷の鎖。
「フロストチェインで氷結させ自由を奪い、近づいてファイアフライで視界を奪い、距離を取って瞑想。氷結が解けたら再度フロストチェインから……って流れかな。私から攻撃するときにある程度近づかないといけないんだけど。自分で言うのもどうかと思うけど所詮か弱い女の子、持久力もないからさっさと片付いてほしい所ね……タフそうだけど。あーやだやだ」
 唱える呪文の音節数より愚痴の方が長い。が、金魚鉢の金魚の動きは格段に悪くなっている。中の液体が凍り付いて酸素を取り込めなくなっているのだ。
 流れが一気にイレギュラーズに傾いた。
 巨大なカイトシールドの陰から回り込み、構造から最も無防備な腕の下へ到達する。矛先がリュコスに移れば、あっという間に盾で押し潰されるギリギリの位置。リスクディーラーの性がリュコスを駆り立て、鎧の仰々しい装飾やへこみを足掛かりに、飛び跳ねるように登っていく。
 思ったとおりそこは装甲などないも同然。
 方向を上げるチェーンソーが無遠慮に突き込まれ、十分拡販した後引きふかれる。
(液体は引っかからないように! 動きづらくなりそう)
 口や鼻の中に入らないように一目散に退避する背を追うように、鎧の中身が大噴出し、液圧を失った聖獣は頭――金魚鉢――から前のめりに倒れた。
「止まるな、リュコス!」
 盾で飛沫を防ぎながらグレンが叫んだ。チェーンソーを抜いたベクトルの関係で、中身は主にリュコスに飛んでいる。
「もう少し走ってください! ええ、そうです。こちらまで。 がんばって!」
 高台からだと、流出した中身の動向がよく見える。正純の指示でリュコスは高台に避難し、液まみれになることはなかった。
 お疲れ様です。と、正純はリュコスをねぎらった。
「これだけの巨体、そう易易とは行かないでしょう。が、アリの一撃は時に象をも倒すもの。そう思っておりました」
「うん。ぼくらは強いアリだったよね」
 眼下では、「オラァ!砕け落ちろやァァア!!」と防水マントを頭からかぶったアランが金魚鉢に自分の剣を突き立てていた。に凍らされた中身は流出することなくまっすぐ金魚を貫通し、やがて静寂がやってきた。


「さて~、魚と水を焼いてと言われたけど~、どうやろうかな~? 魚は火に投げ込めば大丈夫だと思うけど~、水の処理は大変かな~」
 死体のつぎはぎだけど、動いているっていう概念に縛られてる以上、くたくたで指一本動かしたくないっていうのは一緒なのだ。
「でも結構とろみがあるから、工夫すれば土にしみこむ前に回収できそうだよ?」
 いそいそと素材を用意するフランドールに、グレンは機嫌よく笑いかけた。
「イレギュラーズは俺なんざより強い女性はごろごろいるが、こういう単純な力仕事くらいは活躍させてもらわないとな?」
「たくさん~、かばって~もらった~、よ~?」
 今日、囮を買って出た果敢な本日初陣の新人ウォーカーが一人生き残った。守り手としては名誉なことだ。
「魚、水はもちろん、水を吸った土や汚染された草、鎧も燃やす!」
 アランは用意してきたマッチを振りかざした。
「変な植物が生えてくるのは困るから念入りに!」
 スティアの脳裏で名状しがたい金魚と鎧と草の合成成物が爆誕している。現実になりませんように。
「うぇ、焼けるにおいもなんだかおぞましいような……お清めにお酒かけよう」
 チャロロが履きそうな顔をしながらどぼどぼ注ぐ。
「いいわね。度数が高い奴だとなおよく火が付くわよ」
 リズィも便乗する。
「メクレオさんは食べられないって言ってたけど、さすがにこんなの食べる気にはなれないよ……」
「とりあえず、食べた奴と遊ぶのは勘弁ね」
 この後、それぞれ二人は酒を撒きながらギフトとパイロキネシスで火をつけるだけのお仕事に心行くまで従事した。。
「しかし、アドラステイア。これだけのものを生み出せるとなると厄介極まりないですね」
 正純はこれから施さねばならない隠蔽工作の範囲と深度に大きなため息をついた。ここは街道近くなのだ。汚染の跡が残っては往来に支障をきたす。事前に構築された陣地で範囲が抑えられているのが不幸中の幸いだ。備えあれば患いなし。これがどこかの街のど真ん中で大暴れしたのち活動停止。中身を放出などしていたら。
「体についたらいやな気分になりそうだよ……においがすごいし、ついてなくても洗わなきゃ――」
 リュコスはそう呟いて、少しだけ黙った。
 みすぼらしい服装に、手入れしていない薄汚れた髪。浮浪者そのものの姿をしているリュコスが「洗わなきゃ」と焦燥に駆られるほどの「異物」――毒だ。
「これ誰かが作ったのかな? なんで作ったんだろう……とっても変だよ……」
 舌足らずな言葉で語られたそれが核心のようだった。
 都市に閉じこもり、辺りにまき散らす徹底的な「害意」を「聖獣」と呼ぶ狂信者たち。
 あの堅牢な城壁の中はどれだけおぞましいものが詰まっているのだろう。
「……嫌なキャンプファイヤーだ」
 あちこちにマッチを落としながら、アランがうめいた。
 動きを止め、じゅぶじゅぶと泡立ちながら焼けていく赤い魚は何も答えてはくれなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

グレン・ロジャース(p3p005709)[重傷]
理想の求心者

あとがき

お疲れさまでした。みなさんのおかげで戦闘による影響は軽微でした。ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。

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