シナリオ詳細
その犬喫茶、天下平等につき
オープニング
●”例の店”
男はきょろきょろとあたりを見回し、誰にもつけられていないことを念入りに確認する。
彼は役人だ。
彼の目当ては人にはとても言えないお店。カムイグラの京の中心部を少し外れたところに、おおっぴらにはできない店があるという。
……こんなところを見られれば、何と言われるか。
屋敷の門を3度、ノックする。
そして、これ見よがしに咳払いを2回。
「何用か」
「”獣耳”」
「”尻尾”」
「「ふかふかパラダイス」」
「……通れ」
この一連の儀式を知るものでなければ入れない、隠れた店……。
●犬喫茶「しぇぱあど」
「ワワワワワワワワワワン!!! ワワワン!!!」
一斉に犬たちが寄ってくる。
そう、ここは知る人ぞ知る隠れ犬喫茶であった!
(むふふ)
つい頬を緩める男であったが……。
「げえっ、貴様、宮内省の」
「兵部省の!」
こんなところで仲の悪い人間と出くわしてしまった。
「貴様ぁ、こんなところで何をしておるか!」
「貴様こそ……! この天下の一大事に!」
「知るかよお! うちのトップが顔の良い男とランデブーしたんだよぉ! もうイヌチャンの毛皮でも吸わねぇとやってられねぇんだよぉ!」
「あぁ!? やるかぁ?!」
「お客様……」
ぬぼっと出てきたガタイの良い店長。店長は掛け軸を指し示した。
この場においては鉄の掟がある。
一つ。ここで見たことは他言せぬこと。
二つ。ここでは外の身分を持ち込まぬこと。
三つ。喧嘩をせぬこと。
番外、猫もまた良し。
●犬、物足りない
「スゥー……はあ……」
「イヌチャン……イヌチャン……」
「ワン」
しかし、犬たちは……どことなく元気がない。
早めに下げてやろう。そう思って抱きかかえるとじたばたと犬が暴れた。
「む、こら」
「クウン」
それを店長は「この動乱の世で犬もテンションが下がっているのだろう」と考えていたが、実際は違う。
……客足がいつもの半分にも満たない。
いつもの半分も撫でられてない!
「無理をするんじゃない。下がっていなさい」
「クウゥン」
犬たちの元気がなくなり、客が来なくなる悪循環に陥っている。
(どうしたものか……)
●犬使たち
「そ、こ、で、イレギュラーズたちの出番なのです!」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はぱたたたと羽を震わせる。
「犬喫茶「しぇぱあど」がピンチなのです。最近客足がぱったり少なくなってしまったらしいですけれど、店長さんも原因がわかっていないらしいのです」
依頼書には「求:救援。犬使8名。時給応相談」と書かれていた。
「もともと、最近できた”知る人ぞ知る隠れ家的犬喫茶”ということなのですけれども、客足が遠のいてそうもいっていられなくなったそうですよ。ジャンジャン盛り上げてくるのです!」
![](https://img.rev1.reversion.jp/illust/scenario/scenario_icon/26452/5b8b532425202aabea874712edabd2ac.png)
- その犬喫茶、天下平等につき完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2020年10月31日 22時12分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●なんかすごい白い犬が暴れてるっぽいけど犬は知らんし
――沃土の業 乙女座のゲオルグ――。
真剣な顔の『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)の姿を見て、あたりはざわついた。
果たしてどんな事件が起こっているというのか。
「この動乱の世の中、癒しというものは絶対に必要なもの。
その癒しの一つである犬喫茶が、危機に陥っているというならば、それを見て見ぬふりなど出来ん」
ゲオルグの指先は魔方陣を描き、ぽこんぽこんとふわもこフレンズが現れる。
「さぁ、もふもふパラダイスへいざ出陣なのだ!」
『カイカと一緒』カシャ=ヤスオカ(p3p004243)は、小さく息を吸って吐いた。人混みに、何度か足が止まったが……、その度にカイカは優しく寄り添い主人を待っている。
角を曲がるゲオルグのジークがちらっとコッチを振り返り、手を振った。カイカが小さく尻尾を振った。
今日ばかりは、風も少し優しい気がする。
●しぇぱあど
かくして、神使たちはしぇぱあどへとやってきた。
「これが噂の、犬喫茶……ですか」
『夢為天鳴』ユースティア・ノート・フィアス(p3p007794)は、ほう、とため息をついた。【夢幻の鎚】シシル・ガルムヒルド・オフェリアスは若干疑いのまなざしででユースティアを見ている。
「大丈夫です。私は全力を尽くすつもりですからっ」
そうじゃない。
ユーフィーは、犬のためならばパンドラを削ることすら厭わない。
「来たね、余のテリトリーに」
『通りすがりの外法使い』ヨル・ラ・ハウゼン(p3p008642)はすでに店内にいた。両手を広げ、悠々と犬を侍らせている。
「わーんこ、わんこもふもふわーんこ! はー、犬がいっぱいとか幸せじゃない? と言うか余はすっごい幸せ、犬大好きだしネ!」
わかります、とユースティアは頷く。
(何より素晴らしいのは、この場では誰もが同じ立場であると言う事。
もふもふしに、犬たちと触れ合いに来るのですから、至極重要な事でしょう)
ここでは誰もが平等なのだ。
「俺が住んでた所の犬は凶暴なのが多かったから、こうやって可愛がる場所ってのはなんか新鮮だな」
『特異運命座標』ライ・ガネット(p3p008854)は、大人しく匂いを嗅ぐ犬に目を丸くする。カーバンクルの匂いは、犬たちも未知数だった。
『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)の回りを回る犬たちは不思議そうな顔をしている。猫? っぽい。新入り? ではないっぽい。
「なんとも可愛らしい犬たちがあちこちに……」
「ふかふかもふもふパラダイス……! 素晴らしい、です。わんだふる、です」
『さまようこひつじ』メイメイ・ルー(p3p004460)の雰囲気に犬たちは確信する。仲間だ。ふわふわしているし!
犬たちはあまり羊に詳しくなかった。
「おー! 豊穣の和のわんこ! 略して和んこが盛りだくさんだな!」
『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)の元気な声が響き渡る。犬がぴく、と耳を立てた。
「あれ? ダディ・ドギィは?」
洸汰がきょろきょろと辺りを見回すと、ドギィはすでに犬の群れに埋もれていた。
「新入りか……なかなかのガタイだな」
「……わわわわ!?」
「おーいわんこ達ー!! ドギィのおっちゃんは新入りじゃねぇぞー!
皆も、おっちゃんはここのわんこじゃねぇからなー!!」
●撫でるがよい
「いやぁ、大変だったよぉ」
ドギィはもみくちゃに舐められまくったらしい。
ここへやってきたのはビジネスのためだ。しっかりと世話はされているようあが、この店の品揃えはあまり良いとはいえないのだ。
「なるほど……」
店の主人はふんふんとドギィのアドバイスを聞いている。商売人としての目は確かだと、話してみればすぐわかる。
「建物もずいぶん傷んでるみたいだな」
シシルは手際よく屋根を修理していく。
単に、元に戻すだとか、補修の域ではない。造りが悪かった部分は的確に頑丈になっている。
「えっ……と、予防、せっ、しゅは大丈夫……で、お名前が……」
カシャはまず犬たちの特性をしっかりと確認していくのだった。
「なるほど……です」
「……えっそういう理由……?」
「い、犬たちはなんと?」
メイメイとカシャが何かわかったようだ。
「……もっと遊びたいのに、店長さんが気を遣って休みをくれる。でも其れが、却って物足りなくて悲しいのですね」
ユースティアはそっとしゃがみこみ、犬の背を撫でた。
「くぅん」
優しさである事も理解しているからこそ、悩ましくもあるという。
「なんですって?」
「店主! 店! 主! 明らかに犬達コミュにケーション不足でストレス溜まってるのだけど!」
「そ、そんなばかな。私の思いやりが……犬たちを……?」
「この子達元気ないのは疲れてるのでは無いよ? と言うか、疲れてるのなら勝手にごろんって転がってるヨー」
ヨルの言うとおりだ、と犬が見上げている。店主は返す言葉もない。
「犬はコミュニケーション……触れ合いが大事な動物なのだからちゃんと相手の事を理解してあげなきゃダヨ」
がくりとうなだれる店主を慰めるように寄り添う犬。
「本当に、人のこと、好きなんだね……店長さんだけじゃなく、お客さんも、いい人ばかりだったのかな……」
なんとわんこ達はもふられ足りなかったのだ。
「……っ」
ゲオルグは言葉を失った。客たちの様子を見てみれば、読書をしながら控えめにたまにやってくる犬を撫でたりするだけだ。
(確かに、今までもふられていたのがいきなり少なくなったりしたらわんこ達からすれば不安にもなろうというもの。
ならば私がするべきことはひとつ)
ゲオルグはきり、と前を向いた。
「……ちょっと、この子達には刺激、もといモフられと撫でられが足りないみたいだな!」
洸汰はうんうんと頷いた。
「よし、ちびっこのお願いからじーちゃんばーちゃんからの依頼は勿論、ワンもニャンもタヌからのオーダーもバッチリ引き受ける、オレ達に任せとけ!」
「今、わんこ達はもふられる事を求めているのだという事を、店主と常連達に知らしめるのだ」
●A連打で犬をもふるコマンド
「今後もより仲良く、共存していく為にも、お互いの想いを理解する事は重要です」
ユースティアのギフト。人獣共存は全てがこのために使われていた。
「勿論、もふもふはさせて頂きます
其の為に来たと言っても過言ではないのですから!」
(やれやれ)
ぐっと拳を握るのを、シシルが何か言いたげに見ている。
「カイカも、皆と一緒に遊ぼうね……」
カイカはくるりと犬の群れに交じっていった。
とはいえ、急に撫でるのはいけない。
ヨルはゆっくりと近づいて、匂いを嗅がせる。
「コロ、タロ、ジロ、サブロー」
「おいでおいで」
早くもあまたの犬たちの名前をマスターしたカシャとヨルは、毛並みにそって胸の辺りを撫でていく。慣れて来たら嫌がらないのを様子見つつ遊んであげよう。
(そわそわ……)
待っていると、一匹の犬が。
希紗良は目線を合わせる。やってきた犬に、優しく微笑んだ。
「キサは最近働きづめで、ちょっと疲れているのでありますよ。
よかったら、撫でさせてもらってもいいでありますか?」
元気よく体を預けてくる犬たち。
「動物、いいでありますね……」
「……動物は、だいたい好き……猫も良い、すごくわかる……だけど、犬は特に好きだから……」
カシャは会話は得意ではないが、今日は比較的頑張れる。これぞ犬パワーか。
「ここ好き……? もっと強いほうが良いかな……あああ、素敵な毛並みだね~……」
(流石に懐いていない状態のわんこ達をいきなり抱きしめたら警戒されてもおかしくはないからな)
ゲオルグははやる気持ちを抑え、一匹ずつをそっともふ、もふ、ともふっていく。次第に長い列ができていた。
「ん、お腹は、いや、なんだね……じゃあ、こっち……」
頭、顎、背、腹、好みはそれぞれ。
反応を見つつ、犬に応じてほしい場所を撫でていく。
「ここ、ですね」
巧みに犬たちの撫でスポットを発見する。
「ふふ、こうですか?
こちらは、耳の後ろがいい? あら、あら、かわいいです、ね……」
わしゃわしゃとやっていると、コロが頭をこすりつけてくる。
分厚い三角のお耳やふっかりした顎の下をもふもふ。もふ……もふ……。
客たちがうらやましそうに彼らを見ている。
(ふむ……)
ならば、自分が行くしかないだろう。
ゲオルグは犬たちの群れへとダイブする。
(これを見ていただきたい。私にもふられ幸せそうにするわんこのこの可愛い姿を)
「……っ!」
こんな世の中でも犬喫茶に来る者達だ。
内心はわんこの事をそれはそれはもふもふしたいに決まっているのだ。
「ア……アア……」
(人目も憚らず、わんこをもふもふする私のこの姿を見るがいい)
仕方のない人間だ。
カイカがとす、と膝に手をかけて立ち上がった。
「イ、イヌチャアアアアン!!!」
盛り上がりが最高潮に達したところで、客たちはがたがたと立ち上がる。
「もう遠慮も容赦も必要ない。続くのだ、全力でもふる……もふるのだ!」
●犬と遊ぼう!
「よしよし。まずは毬で遊ぶでありますか? 取ってこれるでありますか?」
希紗良は犬の頭を何度か撫でてから、懐から取り出した毬を少し遠くに投げてみる。犬は喜んで走り出し、くわえて持ってくる。
「お利口さんでありますね」
「! わんわんっ!」
犬の尻尾は高速でブンブンと左右に振れる。
「ふむ、なるほど」
そのやりとりをじっと見ていたライは、ボールをとってきた。
「ボール投げるのはこの前野球で練習したからそこそこ自信あるぞ」
そして、この姿であるから……というのは宝石の呪いでこんな姿になってしまったライにとっては不服であったが……じゃれあうには向いているのか。
「こうか」
まっすぐに飛んでいったボールを、犬たちが一斉に追いかける。戻ってきた犬は何か言いたげであった。
(少し恥ずかしいけど……よく考えたら最近モフられてばっかだったし、たまには自分がモフるってのも良いかもな)
そっと優しく撫でてやるのだった。
(???)
まるで人みたいななで方だ。鋭い犬は混乱しているようだ。
希紗良の周りに、期待に目を輝かせた犬たちが雪崩る。
「もう一度でありますか? では!」
「アオオーーン」
「おっきいわんこ相手でも、オレは当たり負けしないぜ!」
洸汰はばばんと腕を組んで、たち塞がる。
「さあ、オレの胸に飛び込んでこーい! 来た子から順番にナデモフしちゃうからなー!」
まずは子犬たちがワンワンと集まってきた。軽くぎゅうぎゅうと集めていると、タロが前足を蹴り、加速している。
「来い!」
飛んでくる犬ミサイル。ぎゅうぎゅうと抱きしめる。
「!?」
「まだまだ、たくさん遊べるぜ!?」
「わわわわわわわん!」
飛び交う犬ロケットを、全て受け止める。
「はいはいー、ゴホウビだよ」
ヨルは的確なタイミングでおやつをあげる。
●宣伝をかねて
(……なんか、モフりたそうな目で見られてる気がする)
撫でられたりとか抱きつかれたりとか、そういうのは好きじゃ無いんだが……。
「……まあ、どうしてもって言うなら良いぞ」
出来るだけ控え目にモフってほしいけど、とつぶやくライにおそるおそる触れる客。
「!?」
「カーバンクルチャン……」
犬とも猫とも違う、新感触。男は呆然と手のひらを見つめている。
この活気のなさが、犬たちの元気のなさにつながっている。
「このお店にはよく来るのでありますか?」
希紗良は常連さんに話しかけてみる。
「い、いいいやぜんぜん、週で5くらいだし」
「そう……でありますか」
ちょっと悲しそうな希紗良に慌てて言葉を付け加える。
「いえっ! 常連ですっ!」
「お客さんが増えるよう、知り合いにお店を薦めて欲しいであります」
にっこりと微笑めば、客は頬を赤くするのだった。
「わんこ達を満足させることも大事だが。犬喫茶『しぇぱあど』の客足を戻さなければなるまい」
ゲオルグはしみじみと言った。
このままでは犬を撫でる人たちが足りなくなってしまう。
「お散歩に、行きたい子は、いますか……?」
メイメイがふわりと小首をかしげて、リードをふりふりと揺らす。
行っておいで、とカイカが一匹の犬の背を押した。
お散歩は興味があるけれど、今までやったことがないという。お手本なら自分が見せられる。
サブロウがそれを見て、食いつかんばかりに跳ね上がったけれど、ユースティアがそっとサブロウを手招きした。
「私、全力を尽くすつもりです。お約束したでしょう?」
すでに、普段通る主なルートをリサーチしていた。サブロウの散歩を完遂できたものはいない。だからルートを集めて推定し、一つの散歩コースを練り上げたのだ。
ほう、と感心するようにサブロウは散歩コースの道をくんくんする。お散歩つき、休憩つき。悪くない。
「しぇぱあどのチラシだ。どうかな? ジーク。ライと一緒につくったのだ」
「可愛すぎるかなと思ったけど、いいよな」
「い、いい、と、思います……」
小さな声ではあったが、カシャは確かに頷いた。
「です……かわいらしいですね。あの、ここに少し描き足しても……」
メイメイの手によってさらに手を加えられたチラシは、見事なものとなっていた。
「よし、わんこ達に興味を示している人々にチラシを渡して宣伝するのだ」
ゲオルグが力強く請け合った。
「撫でられて幸せそうに顔をすり寄せてくるわんこの姿はそれはもう筆舌に尽くしがたいものがあるからな」
「よし、ジロ。宣伝部長に任命する」
「うわんっ!」
「いざ!」
「あ、じゃあ余はお店の前で遊んじゃうよー」
犬をつやつやに磨き上げていたヨルが手を上げた。
「わ、私も、やる……!」
カイカも居るから、引っ込み思案な自分も頑張れる。
「それに、カイカも一緒に、遊びたいよね」
ヨルはボールを投げたり、投げたふりをして実はまだ持っていたりして。
ジロはおおはしゃぎだ。
「まだまだ頑張っちゃうよー!」
「うわん!」
(撫でられるのは慣れないが、撫でるのは、まあ……)
ライが不思議そうな顔をして、ちょっとだけ犬を撫でてみた。お行儀の良い犬はそっと頭を預けてくる。
●お散歩
きゃっきゃと仲睦まじく歩く親子連れ。
(……っ、タロ……)
男がタロを見た。タロも気がついたのか尻尾を振る。
「あれ、パパ、犬嫌いじゃありませんでしたっけ?」
違う。死別したのが悲しかっただけ……。
喫茶の常連であったが、タロは今は楽しそうに世話されている。そのまま、通り過ぎようと思った。タロがきゅうんと鳴いた。
(挨拶したい、んだね……)
カシャは、犬の気持ちを汲み取った。怖そうな相手だ。話しかけるのは怖い。けれど、実はいい人なんだと犬が幸せそうに言うのだ。
「ぁ、の……」
小さい声、だけどもきちんと届いた。
「また、来て、撫でてあげてください。喜んでる、みたい、です、から……」
●お散歩
「まさか、お散歩がこれほどのものとは……」
サブロウがグングンと風を切って歩いて行く。普段であればもうとっくにリードを手放しているだろうが、サブロウはユースティアをリードを預ける相手と認めていた。だが、かなり……すさまじい!
このあたりでギブアップしようか? とサブロウが後ろを振り返る。今ならば引き返せる。
「いいえ! 諦めませんよ。たくさんお散歩して、多くの人にしぇぱあどを知ってもらいましょうね」
二人はどこまでもどこまでも、どこまでもすさまじい散歩コースを練り歩いていった。
●いぬのきもち
「おかえりー」
店の前で宣伝をかねて遊んでいたヨルは、いち早く店に戻っていた。もふもふのカーペットに埋もれて幸せそうにもふっている。
「……いや、もうふかふかのもふもふで人懐っこいってもう言うことなしな完璧じゃない?少なくとも余ここの常連になれる気がするヨー。はー幸せ」
ゲオルグはジークとともに犬に埋もれながら親指を立てている。とても幸せそうだ。
「もど、り……ました」
「サブロウ!?」
馬鹿な、一緒に戻ってきたというのだ。サブロウは満足しきって、幸せそうにクッションの上に陣取った。
「なんてことだ、私はいぬたちの気持ちを全くわかっていなかったというのか……」
崩れ落ちる主人。犬たちは思いっきり構ってほしかったのだ。今、犬たちはふかふかのつやつやになっている!
「そう、お客さんとの触れ合いが足りなくってしょんぼりしちゃったんだよな。お客さんからのナデモフが充分あれば、めちゃくちゃ元気にお店をがんばってくれるってさ」
洸汰の言葉に、犬たちが「わんっ」と元気よく答えた。
「……ふぁいとです、狛畑さま」
メイメイはぐっと拳を握る。
「狛畑のおっさんも、わんこ達を大切に思ってるのは、オレ達と一緒なんだよな。
でも、ここのわんこ達は、狛畑のおっさんが思ってる以上に元気で、人間が大好きみたいだ
そこは信頼していいぜ」
……宣伝の甲斐あってずいぶんと客足も戻ってきたように思う。
(がっぽり稼げるようになったら、もっともっとお金の匂いもするかなー)
なんて考えるヨル。
「きっと大丈夫だねぇ」
「きっと、そうでありますなあ」
「お店の空気が開かれすぎて、常連さまがいなくなってしまっても、寂しいです」
メイメイがおずおずと進言する。
「衝立など、で、簡単な個室スペースを作ってみる、とかどうでしょう……?
少しは、落ち着いて、わんちゃんを吸えるようになるかな、と」
「それはいい……かもな」
ライが頷く。人前では撫でられるのもちょっとはずかしい、そんな犬もいたのに気がついた。自分がちょっと嫌だったので気がついたのだけれど。
「これからも、わんこ達とお客さんをしっかり繋いでやってくれよな!」
「そう、だな」
「店主、話があるそうだ」
シシルが、とんと男の背をついた。
「あのっ! この子をうちの子に……っ!」
驚いて男を見る。
犬の気持ちを考えるのだ。男が呼ぶと、てしてしと小さな犬が這い寄っていった。
「……トライアル一ヶ月、無理だと思えば戻してください」
「っ! あ、ありがとうございます!」
そういえば、犬たちの顔がすごくきらきらとしていた。
「ここの子なら、犬好きな人の家にさえ行ければ大丈夫だと思うぞ。例えば、オレとか!」
すでに、メカカンガルーや様々なものを家族にしている洸汰であった。
「別れは惜しいですが、また来ます。この様な場が有ると知り、互い見知った仲になれた事は至福です」
ユースティアは、犬一匹一匹を抱きしめる。
「しぇぱあどが、わんちゃんも、お客さまも、等しく楽しい気持ちになれる、そんな場所であり続けますように」
犬たちはじっと耳を傾けている。Fluffy Fluffy。メイメイはまだ気がつかない、小さなあたたかいギフトを、しっかりと感じとっていた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
犬喫茶のお手伝い、お疲れ様でした!
これからしぇぱあどにも客足がもどり、また、シャイなお客さんも自分を解放して犬を吸うことができるでしょう。
ありがとうございました!
気が向いたらまたご来店くださいませ。
GMコメント
布川です。
皆様を通して犬を吸いに来ました。よろしくお願いします。
●目標
・犬喫茶「しぇぱあど」の客足を戻す
・従業員(犬)の満足度を上げる
●登場
狛畑(こまはた)
犬喫茶「しぇぱあど」の店長。でかい鬼人種。
雨の中打ち捨てられている犬に心を打たれ、私財をなげうって犬たちの場所を作ろうと決意した。
馬鹿が付くほど生真面目で口が堅い。
しかし、威圧的な風貌で後ろで見守っているものだから客が委縮している面がある。
犬とはうまくやっているが、犬の気持ちを完璧に分かっているとは言い難い。
犬たちは撫でられ足りていないのでかなり気が立っているのだが、店長はそれを「疲れているのだろう」と勘違いして、気を使って客から遠ざけているため、犬たちは欲求不満。
昔は猫を飼っていたらしい。
・犬たち
この天下の動乱で行き場を失った犬たちだが、結構ぬくぬくと過ごしている。
迷い犬なども一時預かりの犬もいれば、しぇぱあどの犬もいる。
●犬喫茶しぇぱあど
京の少し外れたところにある大きな屋敷を改装して作られた犬喫茶。
獣、持ち込み同伴可。
軽食を出したりもしているが、主なサービスは犬とのふれあい。
犬とのお散歩、犬へのおやつ、犬へのブラッシングなど。
犬本人の同意を得られれば外で遊ぶことも可能(一般客にはなかなか心を許しませんが、イレギュラーズに対しては結構すぐ心を開きます。違いの分かる犬ですね)。
東西南北のクッションを守護する四犬と呼ばれる犬がいる。
・柴犬コロ
とにかく人間が好き。お散歩はまだ上手にできない。甘えん坊。人間が好き。
・秋田犬タロ
宝物を集めるのが大好き。埋めたほねっこは数知れず。人間が好き。
・北海道犬ジロ
遊ぶの大好き。遊び疲れて人間の方が寝る。人間が好き。
・紀州犬サブロウ
お散歩大好き。1日中散歩をしていても飽きず、戻る気配はなく、今までに完遂できたものはいない。人間が好き。
・迷い犬レギュラー
かつてイレギュラーズに救われた犬。
犬系シナリオにたまに出てくるモブ犬だと思ってください。
いつも背景に混じっているデカい黒犬。
「高級な犬だが?」という顔をしている。「迷ってはいないが?」
どうやってか密航して豊穣まで遊びに来たのですが、とりあえず終わりには飼い主のもとに戻ります。
●常連
こんな世の中でも犬を吸いに来る筋金入りの犬好き。
人目を気にしてフードを深く被っていたり、ちらちらと犬を見ているような素直じゃない者が多い。
だが、人目があると自分を解放できないようだ。
犬を引き取りたいと言いたいけれども(ここで仲間といる方が幸せかもなあ)と言えないシャイな人がいたりする。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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