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シナリオ詳細

<天之四霊>黒天北星

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●北天
 かく、あれ。

 星の瞬きを幾千と感じた。我がこの世を眺めてから。
 幾つの星が光り輝き、そして散っていっただろうか。
 命は短い。天に在りし星の流れを眺めている内に――ふと地を見れば消えている。
 蛍の様だ。誰も彼も、瞬いては消えていく。
 この世、全て儚き事。
 瞼を閉じて開く暇すら無き事か。
 それでも――この脳裏に全ては焼き付いている。
 炎の様に煌めいた彼らの輝きを覚えている。
 人よ。
 振り絞れ、その魂を。
 獣非ざる知恵の子らよ。

 かく、あれ。

 己らの道は、きっとその先に開かれているのだから。
 獣非ざる唯一の子らよ。
 我は玄武。
 北に座す、地の守護者。
 我は玄武――遥かなるときよりこの国を見据える、黒き星である――

●かの者
 ――先の巫女姫一派との戦いは熾烈な事となった。
 此岸ノ辺が攻撃され、中央では大呪が為されようとしていたかの事件――結論だけを述べれば大呪は防がれた。此岸ノ辺も打撃を受けたものの全壊した訳ではなく、巫女姫らの攻勢は、大きな意味では防げたと言ってもいいだろう。

 ただし……幾人かのイレギュラーズが囚われもした。

 総勢にして十一名。多くは罪人の島に流刑に処され。
 幾人かはそれぞれの思惑と事情によって――巫女姫の膝下に留まった。
 由々しき事態であった。此岸ノ辺が攻撃された事により、かの地のイレギュラーズを運ぶ転移機能には些かの麻痺が生じている。混沌の大陸から大きく離れたこの地へは海洋伝いに訪れる事は出来るが、物理的な距離が即座の到達を阻み……次に何か魔種達に企みがあれば、防げるかどうか。囚われた者達を救う手段もあるかどうか。
 しかし悲観する事ばかりでもなかった。
 つい先日、中務省が眠りに付いていた霞帝の奪還に成功。
 眠りの呪いを打ち払い――かの者の眼を覚ましたのである。
「なんと……帝が、目を覚まされたと!?」
 帝の話はまだあまり大きくなっていないものの、カムイグラ各地に噂となっていた。その中には噂ではなく『確かな話』として聞き及んでいる者もいる――それは各地に潜伏している中務省の協力者である。
 豊穣北部。牛宿(いなみぼし)大寺。
 古くから『ある存在』を祭っている寺である――この地は以前より霞帝へ忠誠を誓っている者が多く、帝が眠りに付いた後もその復帰を心待ちにしていた。
「して、帝はなんと……?」
「それが――これより訪れる神使達を四神の玄武様に――と」
 しかし、途端。住職の顔が強張った。
 四神。その名は豊穣の中で有名である。
 一言で言えば彼らは守り神だ――豊穣に古くから在る、精霊達。
 だが永き時を経て紡がれた存在はもはや神格の域に到達し、精霊という枠組みを超えている。自らを神に近き存在としているヤオヨロズ達ですら彼らを龍神同様に信仰対象とする程で。
 ここ、牛宿大寺では其が一角。『玄武』を祭る地であるのだ。
 玄武とは亀の身体に蛇の要素を持つ巨大な存在であり、水の神としても崇められている。生命を司り不老と長寿を齎すとも……その力が真かは分からぬが、ともあれ斯様な存在として認知されている。
 故にこそ住職は焦った。玄武様に――会わせる――?
「む、むむむ、いかん、いかんぞ。如何に帝の命であろうと玄武様に……!」
「――呼んだかの?」
 瞬間。住職の背より紡がれし声が一つ。
 しわがれた声だ。見ればそこに居たのは、黒き衣に身を包み、腹まで届こうかと言う立派な顎髭を蓄えた――老人――
「げ、玄武様!」
 否。
 彼こそが四神が一角、玄武。彼こそがこの地の神。
 遥かな太古よりこの国を眺めし――天星であった。
 住職の身体が震える。それをなだめる様に玄武は、手を翳して――

「話は聞いておった――かつて我の下に訪れた霞帝が来てからどれほどか!
 我に客人! 客人とはの! いぇ――い!! 今日は祭りじゃ――!!
 玄武ぱぁぁぁりぃぃぃぃじゃああああああ――!!」

 ――はっちゃけた。
 まるで子供の様にはっちゃけた。玄武はものすごく心が躍っている。
「げぇッ! 出たぞ、玄武様の『ぱりぴぃ』思考だ!」
「楽しみであるの。霞めが寄こした者達となればさぞや期待できることであろう! さぁさ早速酒と饅頭を揃えて玄武ぱーりーを――やめろ、離せ! 何をする! 我玄武ぞ! 我玄武ぞ!!」
 いけません! このようなお姿、威厳がなくなります玄武様!
 信者に取り押さえられる信仰対象――まぁ、なんだ。四神は神として認識されており、知らぬ者からすればとかく偉大な存在であると思われている事が多い。玄武もその例に漏れぬのだが――実際は『コレ』であった。
 玄武は永き時を経て『楽しみ』を渇望している。
 自らの心を躍らせるような存在が到来する事を待ち望んでいるのだ――あぁ、霞帝! 懐かしい。以前――どれぐらい前だったか覚えておらぬが――とにかく我の下へ至った彼を認めてから幾何か!

 『我の下に到達した』数少ない人間の一人! それが再び人を寄こすというのか!

「楽しみであるの――はっはっは! はたして今の世の神使は我の下へ至れるのか!」
 天へと向かって高らかに。紡ぐ言葉は笑の感情を纏わせて。
 秋の風。間もなく冬へと移り変わる季節の水流を感じながら。
 玄武は待っていた。彼らを、神使を――『貴方』達を。

●見
「――おかしい」
 玄武がいるとされる山へと足を踏み入れた神使達は『違和感』に囚われていた。
 そもこの地へと来た理由は目覚めた霞帝より頼みがあったからだ。カムイグラを守護する四神……彼らに会い、彼らと意志を、そして力を通わせてほしい――と。
 四神は自ら動く事はせぬ者達だが、時折人に力を貸し与える事がある。
 かつて帝も彼らと心を交わせ、その加護を受け取った事があるのだとか。巫女姫たちの活動によって綻びを生じさせている京の守護結界の修復――並びに奴らの大呪を成就させぬ為、四神に接触してほしいという訳だ。
 囚われた神使達の事もある。
 あまり時に猶予が無い故に、四方に散りそれぞれが四神に接触を試みている――のだが。
「随分歩いたが……一向に辿り着かないぞ。どういう事だ?」
 山の中に足を踏み入れてから既に一時間だろうか。
 一向に、人がいるという神社に辿り着く気配すらない。いやそれ所か……時刻的には昼の筈なのに段々と霧が広がってきている次第だ。辿り着けないのはまだしも、これはおかしい――
『ほほ。後ろへと歩けば帰れるぞ?』
 瞬間。響いた声はどこからか。
 前か、後ろか。いや右である様な左である様な――
『霞めが寄こした者らが己らであろう?』
 声は続く。天からも地からも響く様な――不思議な言霊。
 同時。眼前に突如襲来した影が貴方達へと撃を紡ぐ。
 馬鹿な。此れだけ距離を詰められながら、殺意は愚か闘志すら感じなかった。が、疑問を抱いている暇も無し。割り込ませた武具が影の撃を防ぐ――
 ほぼ反射の行動だった。二撃、三撃。
 更に紡がれたソレらを防げば、影は霧の彼方へと跳躍して……追いかけても、もはやおらぬ。
『さぁさ見せてみよ。只人は幾千と見た。幾万と見た――我は飽いているのだ』
 霧が更に濃くなる……その先に、再び人影が見えた気がするのだが。
 駆け抜けても気のせいだったかのいつの間にか影は消えている。
 ――それでも感じる。どこかに誰かがいるのだと。
 この声の主がいるのだと。
『己らが智をみせよ』
 見せよ。
 魅せよ。
 見世よ。
 私は玄武。
 北に座す、地の守護者。
 我は玄武。
 遥かなる時よりこの国を見据える、黒き星である――

GMコメント

■目的
 霧を突破し、牛宿大寺へ到達する。

■フィールド
 玄武の住まう山。牛宿大寺という寺がある地です。
 周囲は深い木々に囲まれており、山頂付近に寺があるとの事なのですが……
 何故か周囲は霧に囲まれ全く先が見えません。空を飛行しても何故か霧を抜ける事が出来ない始末です。只管前に進んでも進んでも何故か寺に到達する事も出来ません……

 更に霧の中に潜む『黒い衣』を纏った人物が時折襲ってきます。
 その人物は数手格闘した後に霧の中へと消える様です。

 ――実は山に入った時点で玄武の領域であり、貴方達は『迷わされて』います。
 方向感覚が完全に狂わされており、真っすぐ進んでいるように見えて真っすぐ進めていないのです。R2から先は完全に見えません。また、移動時に一定確率で意図せぬ方向に進んでしまう効果があるようです。(前方に進む筈が左に何故か進んだり、など)
 下手をすれば近くにいた筈の仲間ともすぐに逸れてしまいます。
 非戦スキルやギフト、その他何かしらのアイディアによってこれらの効果発動を減少、或いは突破口を見出す事が出来るかもしれません。

■『玄武』
 黒き衣に身を纏った、老人の様な人物です――
 実際はその姿は人に接する際に創り出す現身であり、本体ではありません。

 本体はこの『山そのもの』です。
 この山こそが玄武であり、この山は元々巨大な亀であった……とも言われています。玄武は「あんまり昔過ぎて忘れたの~♪」とかほざ……言っており真実は不明ですが、とにかく玄武の力はこの山全域に及んでいると考えて間違いありません。

 訳の分からないレベルの防御能力を持ちます。
 クリティカルを除き、全ての攻撃の最終ダメージを一定値常に減少させるようです。
 人型は徒手空拳で挑んできます、が。数手戦ったらすぐ霧の中に逃げる様です。
 当然玄武自体には霧の効果はありません。

 玄武は貴方達の『智』を見る事を目的としています。
 玄武の妨害を排し、霧を突破してください――

●四神とは?
 青龍・朱雀・白虎・玄武と麒麟(黄龍)と呼ばれる黄泉津に古くから住まう大精霊たち。その力は強くこの地では神と称される事もあります。
 彼らは自身が認めた相手に加護と、自身の力の欠片である『宝珠』を与えると言い伝えられています。
 彼ら全てに愛された霞帝は例外ですが、彼らに認められるには様々な試練が必要と言われています

●重要な備考
<天之四霊>の冠題の付く『EXシナリオ』には同時参加は出来ません。
(ラリーシナリオ『<天之四霊>央に坐す金色』には参加可能です)

  • <天之四霊>黒天北星完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月27日 23時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
彼岸会 空観(p3p007169)
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
鏖ヶ塚 孤屠(p3p008743)
日々吐血

リプレイ


 ――山の中に鈴の音が満ちる。
 それは『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)の持ち込んだ風鈴だ。進む先々で木に取り付けるそれら……風が吹けば音が鳴ろう。複の音が鳴れば先々との距離を知れよう、と。
「まぁ向こう様もまた邪魔をしてくるでしょうし、他にも手は必要でしょうが」
「ええ。迷わされるのは気にくわないけど――なんか新鮮ね。この先にいるのが玄武なのよね」
 故に『木漏れ日妖精』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)が手にしているのはロープだ。縄を中心――いや縄を『外側』とし、その内側にイレギュラーズが布陣する。
 こうして一塊となって道を進むのだ。
 如何に道を足を狂わされようが、外へと至る道を塞いでしまえば迷う事はない、と。
「さてさて『知』を見せよと言ってますが、実際何をすればいいのやら……
 まぁとりあえず私達の力を駆使して、この山の頂点を目指して進めば良いのですよね?」
 であればと『鏖ヶ塚流槍術』鏖ヶ塚 孤屠(p3p008743)は意思を固めるものだ。
 はぐれ防止の縄を彼女も手に取り、見据える先にはあるは――唯々どこまでも広がる深い霧。
 正しく文字通りの意味で五里霧中だ。
 このような環境であれば普通は下手に動くかぬが吉であるが……しかし頂上を、寺を目指すべき自ら達にとって動かぬなどと言う選択肢は取れない。そもそも囚われた仲間達を助ける為に――ここに来ているのだから。
 歩む。見えぬ先に、しかし確かに在るのだと信じて。
「――焦っちゃ駄目だ。見えるものも見えなくなる」
 必要なのは光を見つける事だ。霧の果てに在る――終点。
 心臓の鼓動を一定に『ムスティおじーちゃん』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は『見える』ものを探す為に己が全てを研ぎ澄ませる。仲間と逸れぬロープで造った輪の中で、一丸と成りて。
 後ろに進めば帰れるというが、ならば逆を言えば背面以外に正しい道があるという訳だ。まぁ後ろに進もうという意思を見せた時点で道を誘導する――と言った可能性もある、が。どちらにせよ今の前方は帰る道でないのなら。
「今はまっすぐ進もう。後は斜面とかがあると分かりやすいんだけどね」
「ああ。多分これ、たった一つの絶対的な答えを探すタイプの試練ではないと思う。
 だから思い付いた事は試すだけ試してみよう。なに、損はない筈さ」
 言うムスティスラーフに同意するように『祖なる現身』八田 悠(p3p000687)もまたこの試練に挑むものだ。
 試されるは『智』――なるほど、単純に斬った張ったをするよりは気楽なものである。無論『彼』の妨害もあるのだろうが……それでもソレ自体は主題ではあるまい。先程の攻勢も本気で命を取り合う様な雰囲気は無かった。
「そうさ……確かに目は潰されているようだけど、耳はどうかな?」
 故に悠が紡ぐのは歌である。
 透き通るような歌唱の才知――さすれば声の欠片は周囲に響くものだ。そして反響した音を孤屠の耳が捉える……それはエコロケーション。反響を知覚し、周囲の物体の情報を得るその技術である。
 周囲に不審がないか? 木々が移ろうてはいないか?
 些細な違和感も感じ取れるように集中し――

『ほほほッ流石考え無しではないようだのぅ』

 瞬間。至った声は仲間内のものではない……先程の黒衣の者かッ!
「おっと――そうは花丸ちゃんがさせないよ、っと!!」
 咄嗟に反応が早かったのは『おかわり百杯』笹木 花丸(p3p008689)だ。方向感覚は狂わされど急速に迫る気配があるのならば否が応にも感知ぐらいは出来る。霧の果てより至る黒き影が狙っているのは――縄そのものか。
 千切り、砕きてこちらを翻弄しようと。
 であれどさせぬ。妨害が来るなど承知の上であればと花丸の蹴りが黒衣の打撃を阻んだ――掠めた足の指先から、彼の狙いがそれた感覚を確かに感じる。縄を手に持った状態からのスタートであれば些か反応は遅れるが、しかし。あちらの側にも殺意の本気がないのであれば、やりようはある。
「うん――行けるねッ!」
 それに万一の際は縄が切れようと問題はない。重要なのは離れぬ陣形を維持する事。
『ふむふむ動きや良し。しかしそれもいつまで続くかの』
 同時。花丸と打撃を切り結んだ黒衣は『ほっほ』と笑みを紡いで――霧の中へ跳躍。
 やはり闘志の様なモノは見受けられない。いや、こちらが油断する様であれば容赦のない一撃が飛んでくる可能性はある故に注意は怠れないが、そうでなければ決して捌くのが難しいという訳ではなさそうだ。
 しかしこの霧――これが黒衣――いや。
 『玄武』の力であるとして、迷いの力を維持しつつ体術も用いてくるとは。
「……規格外な存在だよね。肌で感じるよ」
 幻想種たる『森の善き友』錫蘭 ルフナ(p3p004350)は妖精――いや精霊の中でも大いなる存在にして四神とまで呼ばれる様になった玄武の存在を感じ、感嘆の息を零す。
 周囲は自然だらけだ。だからこそ木々の精霊に力を借りて方向の道しるべとしたい……所であったが、玄武自体がこの山の大精霊である故か――精霊達は接触を試みてきたオデットやルフナよりも玄武に協力する思考を宿している。
「そう。ま、でも私達を騙したりーとかそういう事をするつもりもないのね。
 ありがと。じゃあどうなるかだけ――見守ってて」
 言葉を交わしたオデットが手を振り精霊に別れを告げる。助言などを貰えればと思っていたが、やむなし。いわば彼らは玄武の子らとも言える故。
 幻想種として数多の自然や精霊と心を交わした事もあるルフナであったが、彼らに拒否されるとは中々ない経験である。
 なんとも実に――面白い。
 玄武という一個体の存在そのものの大きさを正に魂で感じられる程であり。
「だからこそ必ずお目通りしなくちゃ、ね。神頼みのし甲斐があるというか」
『ほほほ、我に会おうという者は今まで幾度もいたが汝らはどうかのう? 我玄武ぞ、我玄武ぞ?』
「さてさて御身のお眼鏡に、はたして私の様な凡人風情が果たして適うかどうか。
 まぁ――全力は尽くさせてもらいますよ」
「そうですね。北天におわす黒き星、玄武様とお見受けします……その御姿、必ずや」
 どこからともなく聞こえてくる声。されど巨大であるからこそ会いに来た意味もあると『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)と『星詠みの巫女』小金井・正純(p3p008000)も思うのだ。
 小さな力しか持たぬのであれば豊穣の状況が佳境たるこの時にわざわざ足を運んだりはしない。
 掛ける労が大きければ大きい程、後の益も多くなると見込めて。
「失礼。ちなみに、我々はそちらに敵対する者ではなく――霞帝より願われ此処に至った神使なのですが――通して頂けませんかね?」
『ふはは! だからこそ、よ。我は汝らが智を見たい。通りたくば、押し通るがよい!』
 左様ですか、と。瑠璃は『やはり』とばかりに思考を纏める。
 一応相手が寺院を守る万人という可能性もあったが……先々の言動などからして玄武そのものに違いはないのだろう。そして神使と名乗ったにも関わらず判断を『上』に求める事もせず即決した――だから『やはり』と。
 ならば容赦はすまい。次来た時には自らも反撃の用意を。
 彼に力を見せ、この先へと進ませてもらう。
『後ろに進めばいつでも帰らせてやるからの――ま、頑張ってみるがよいぞ』
「ご配慮には感謝しますが、無用と述べさせて頂きましょう」
 そして相変わらずどこぞから紡がれる声に、対したは『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)。周囲を花丸と同様に警戒しつつ思うは、一つ。

 ――帰る? 戻る? 後ろへと歩めば帰れると、仰いましたか。

「縁も所縁も無きこの国なれど、余りにも我が故郷と重なるこの国を」
 放っておいて逃げると言うのであれば。
「私は生きる意味すら失う」
 歩んだ道は顧みる事はあれど、最早戻る事は無い。
 私達の道は常に前にしかないのだから。
 腐る国を放って、粟より軽きとする民の命に目を背けて立ち往生など出来ようか。
 これを救えぬのであれば――私の道は此処まで。
 故に止めぬ。己の足は絶対に。
 故に止まらぬ。己の意思はどこまでも。
 国に光を齎すまで。
 ――全てを救う道に希望を齎すまで。


 晴れぬ霧は依然として続いている。
 ロープを用いて小さな陣を組めば誰ぞの足が別の方へ向いてもすぐに気付けるが故、逸れる様な事態には至っていないが……さてしかし空も見えぬこの状況では真っすぐ進めているかいないかも定かではない。
「だからこそ頼りにしてるよ――僕らの秘蔵兵器、メカ子ロリババア……!」
 ムスティスラーフが視線を向けたのは縄の陣形の中心にいる――そう、混沌謎生物を
元にして造られたロバ・ロボット『メカ子ロリババア』である……! この霧は人の知覚を狂わすのであればロボットならどうか――人間並みの知能で命令を遂行できる能力があるのなら、ただ真っすぐ進ませるぐらいは容易である。
 もしも霧の影響を受けぬのであれば方位を示す目印ともなろう。これを持ち込んでいたのは瑠璃で。
「……いつこんなの買ったんでしたっけ? 記憶にないような……いや、まぁ役に立つのならいいですけど。人ならざる存在がこんな形で役に立つかもしれないなんて」
 首を傾げつつもまぁいいかと。いや怖くない? 怖くない? 気付いたらロバ・ロボットがあったとか……我玄武だけど怖いよ? 懐にいつの間にかこんなの居たらつい泣いちゃう。
 ――だがロリババアはともかくとしても万一機械の目測すら狂わせるのであればと、ムスティスラーフが備えるのは、自らが創り出す『幻覚』の力によってである。
 眼前。簡易にして目立つ『道』をなるべく長く創り出し、そこに動く幻影としてメカ子ロリババアをイメージ。幸いにして近くに実物もあるのであれば精巧なるモノが生み出されて……真っすぐ進めているかいないかの判別とするのだ。
 機械による前進。幻影による前進。
 二つの手段を用いて狂わされる感覚の道しるべと成すのだ――
『これは、なんとも、奇怪な。えぇー? うむ? 海向こうにはそんな生物がおるのかの?』
 であれば当然玄武の妨害も入ってこよう。幻影達の方はともかくとして機械の方は潰さんと。
「だーかーらさせないよッ! 花丸ちゃんの役目は、この子を守る事なんだから!」
「幾度も幾度も霧の中からお元気な事で」
 すれば――花丸とヘイゼルが即座に対応を。
 花丸にしろヘイゼルにしろ周囲から至る音を常に警戒している。優れし聴覚か――あるいは離れた場所でも微かな音や声を聞き取る術をもって、玄武の襲来があれば動くのだ。この霧……幸いと言うべきか否か、動物達の類がいないようなので己ら以外の音が聞こえればほぼ玄武と断定してよい故に。
 玄武の拳が霧を穿って襲来する――それでもヘイゼルが彼の前進を塞ぎ、花丸が割り込む形で捌く。
 徒手空拳で戦う者自体が珍しいのだ。その動き――自らに取り入れられるなら取り入れんと、花丸は決して玄武から目を離さない。
 拳打、掌底、肘打ち……矢継ぎ早に繰り出されるそれらは技の継ぎ目が無いほどに迅速。
 もっと、もっと見たい所だが――そう渇望する所で玄武は霧の中へと消えていくのが残念だ。
「これが常の戦闘であれば追って倒す所なのでしょうが、追えば玄武様の目論見通りですね」
「ああ――決して相手の誘いには乗らない事だ。いや誘いなのかどうかも良く分からないけどね。玄武にしてみれば、遊んでいるようなものなのかもしれない」
 正純もまた耳を澄まして玄武が過ぎ去るのを知覚し、悠はいつ戦闘が起こっても問題ないように言を紡ぎながら戦の加護を皆へと齎す。縄の陣形は握っている故に動きづらい……と言うのは先述したが、しかし支援を行う悠にとってみれば一定の陣形というのは都合が良かった。
 自らの周囲に闘争の支援を余さず渡す事が出来るからだ。英雄の詩にしろ魔神の詩にしろ、英雄を作る加護にしろ――自らの周囲に人がいればいる程に齎しやすい。皆を万全にする目的で言えば実にやりやすく。
「さてさてしかし今どれぐらい進んでいるのかな? 唄はまだまだ歌えるけれど――ああ、玄武もまた聞きたいのがあったらリクエストしてくれると有難いな。同じのばかりは単調だろう?」
『ほっほ。面白い女子じゃ――しからばこう、派手なのがいいの。腹の底から震える様なろっくぅな奴を!』
「玄武ってホントに神様の枠組みなのかな? なんかすごい俗っぽいよね」
 悠が周囲に音を放つ為の歌唱。おちゃらけた様な玄武に問えば、なんとも神様っぽくはないとルフナは感じるものだ。いや玄武はあくまで神の様に祭られているだけであり別に神ではないが……いやしかしなんというか……
「パリピの爺さんとは、こう、大丈夫なのでせうか……主にムッチーさん的な意味で」
「んっ? 何が?」
 ヘイゼルがちらりとムスティスラーフに視線を。どういう意味かってそういう意味で、いや深く追求するのはやめておこう……それよりも進もう。うん。
 悠の歌声が響き、周囲に反射して孤屠の耳へと。玄武のリクエストの様な激しい音だったり――或いは豊穣を想うような、穏やかな旋律の歌声が流れれば。
「……それにしてもいい音楽ですねぇ。心が洗われるようで……」
 思わず瞼を閉じる孤屠。さすれば脳裏に情景が浮かぶかのようだ。
 ああ勿論油断ではない。視覚を潰し、聴覚に集中するが故でもある――どの道霧で遠くを眺める事は出来ないのだ。ならばいっその事、己は耳に全てを傾け何が起きても不思議ではないこの空間に備えんとする。
 研ぎ澄ませれば勾配もある程度分かるものだ。頂上に神社があるのならば、下るのではなく昇る方はこちらだと皆へ言葉を伝えて。
「進めど進めど晴れぬ霧……しかし、風は確かに吹いていますね」
 さすれば無量は頬を撫ぜる風を感じるものだ。
 木々を揺らす音を耳で感じ、吹いているのがこちらかと首を傾け。
 横笛で音を奏でて――彼女もまた反響する音がどちらにあるかと探知する。
 玄武の妨害は時折あるが、それでも前には進めている筈だ。如何にこの山に祭られしものであろうと万物を操っている訳ではあるまい……それになによりこれが試練であるのならば、必ずや抜け道はある。
「皆、逸れちゃ駄目よ――段々と険しい道が多くなってきたわ。
 ロープの中にいる事は意識しておいてね」
 そしてオデットは感じた。足元が段々とおぼつかなくなっている、と。
 石が多かったり木の根が飛び出していたり……あぁ傾斜も激しくなっているか。ここが山であれば当然ともいえるが、うっかりと転んだりしてロープの外側へ至ってしまえば逸れてしまう可能性がないとは言えない。それに。
『そうよのそうよの。段々と疲れてもくるものじゃろう? ――気張れよ若人たち』
 玄武の襲来も間隔が短くなってきている。
 それは終着点に近付けているが故か? 妨害の対応を試みさせ、惑わせ、どちらに進んでいたかも分からなくさせようとして来ているように――感じる。
「むっー! 邪魔なのよ、そんなにしてくるんだったらちょっとは痛い目を見てもらうんだからね!」
 オデットが繰り出す一撃。接近してきた玄武を迎撃するかのように。
 地面から巨大な土塊の拳が――射出された。


 時間はどれ程経っているのだろうか。
 黒衣の者の襲来を感知してから一時間の様にも、十時間の様にも感じる――
「やれ、あちら様は疲れないのでせうかね。まぁ常に警戒している私達よりも精神的に楽なのかもしれませんが」
 ヘイゼルは吐息一つ。肉体的な疲れというよりも、気疲れの方が大きい気がする。
 初期から取り付けてきた風鈴の音色が彼女の耳に届くのだが……なんとも、その風鈴の様子がおかしい。霧の中を自在に駆け巡る玄武が千切っているか、位置を変えて取り付けているか……とにかく音の発生源が時折変わっている様なのだ。
「まったく、遊び心の激しい御方なのです」
 襲来に来る度その心の内を探らんとリーディングを試みているのだが――
 読み取れるのは常にイレギュラーズ達がどのようにして霧を超えるかを観察している『楽しみ』の感情と思考のみ。それがペルソナによる偽情報である可能性も考えたが……しかし。本気で戦おうという意思が未だ見えず、節々で紡がれている言動からとが一致する。
 恐らく真に向こうは楽しんでいるのだろう。
 きっと玄武は能力がある者を好むのだ。以前加護を受け取った言う霞帝を気に入っているのも、恐らくはその辺り。
「えっと、鏖ヶ塚さんは度々喀血してるけど大丈夫なのかな。一本いっとく?」
「ふぅ、ふふふ。いやはや大丈夫ですよ、この程度日常茶飯事で……ぉぉっと」
 ルフナが孤屠に声を掛けた瞬間、抑える口元、孤屠の日常。
 ああ別に負傷と言う訳では無いが……しかし幾度も行われる襲撃と幾時間も紡がれる様な歩みには、皆に多少の疲労も出てくるものであった。ルフナやヘイゼルらの治癒の力があれば傷自体は大したことは無い、が。傷は傷、体力は体力と言った次第。
 疲労が溜まり始めれば精彩を欠き始めよう。
 歴戦のイレギュラーズ達であるが故にこそ今の所はまだ大きな不調はない――ものの。
「うーん、そろそろ辿り着きたい所よね。同じ道を歩いている、って事はなさそうなんだけれど」
「だよね。花丸ちゃんもリボンを付けてきてるんだけど、今の所そんな気配はないなぁ」
 オデットと花丸は言う。持ってきたロープに数字を描いて木に結んで目印としながら。
 これがどこかでもう一度目の前に現れれば迷わされている事の証左となる。ロープの位置を玄武にずらされる可能性はなくはないが――しかし自分だけが分かる様に、可能な限り目立たせぬ様に位置させれば玄武とて全て発見とはいかない筈だ。
 花丸はリボンに番号を付けて木々の合間に添えていく。
 同時、それだけでなく『その周囲』の光景もその脳裏に記憶して、だ。先述の玄武による妨害も想定した上での策。リボンだけを覚えていれば引っ掛かるかもしれないが……周囲諸本覚えておけば、玄武の手が加わっていると判別する事は容易。
「なんでも試していくよ。考えて、実行する。駄目でもまた考えて、また実行して……
 それが人の『智』だって花丸ちゃんは思うからっ!」
 振り絞る気力が衰える事はないのか――花丸は依然として活力に満ちており、幾度霧の中を歩かされようとも折れる様な意思は見せない。
 そして実際に同じロープやリボンを目にしていることはない……し。
 オデットは手に持っていたゲーミング林檎を後ろに放って転がせば軽快に転がっていく。それは確かに『登って』いるという事で、少なくとも山を下りるルートを辿らされている訳では無い――ていうか今のゲーミング林檎って確か爆発するヤツじゃ。
『ぬわ――!! ななな、なんじゃこりゃ――!!』
 直後、後方で大爆発。
 手榴弾の類ではないので別にダメージは無いが……強烈な閃光と炸裂音が鳴り響いて、霧の中に潜んでいた玄武の近くで偶々大当たりしたようだ。慌ててどこかへ駆けだしていく音が聞こえるが、まさか当たるとは……
「なんかめちゃくちゃ目立つ気もするけど今更よね? どうせ向こうはこっちの位置が分かってるんだし!」
「ふーむ驚いたフリ、という訳でもない声色でしたね」
 正純は天を眺める――やはり上を見ても広い霧に囲まれており、空の様子すら伺えない。
 光は在る様に感じる故、まだ日は暮れていないと思いたい所だ。万一夜と成ってしまえば、星すら見通せぬし溜まった疲労が爆発しないとも限らない。
「驚いた勢いでちょっとは時間が稼げるかな? どうする。こっちも疲れたら一度休憩を取るのも手だと思うよ――焦ってあわわと進んでも良い事はないからね!」
 或いは今の内に休息をとっておくのもアリかと思う。
 花丸の言う様に一端落ち着くのも重要だ……心も体も霧に迷えばいよいよドツボに嵌ってしまう――と。

「――いやもう少し進んでみよう。多分、なんだけど……頂上は近いよ」

 だが、その時言葉を紡いだのはムスティスラーフだ。
 惑わしに対して幻を以って戦う彼の策は効いていた。人の方向感覚を狂わせ、その歩みに影響を与えるのがこの霧だが――どうやら幻影には効果が無いようだ。ドリームシアターによる真っすぐ進むだけの幻が、しかし確かな指針となっている。
 玄武自体が徒手空拳による肉体的な攻撃方法を行ってくるからかその幻影を打ち消す力は持っていないようだ……玄武が高度な神秘を放つような魔術師の類であったりすれば幻影に対処されていたかもしれないが、ここに至ってもそのような気配は見えてこない。
 誰一人として逸れる事無く一丸となって歩みを止めない。
 厳しくなる傾斜が、だからこそ頂上への道を指し示しているのだ。
『むぅ――これは、中々やるのぉ』
 直後、玄武の言動が変わり始める。言葉遣いが、ではなく込められし感情の色が、だ。
 やはりゴールは近いのか。これが最後とばかりに玄武が飛び込んでくる――
 苛烈なる勢いと共に。
 その拳に、その蹴りに力が籠っている。放たれる数閃は鋭く重く、気を緩めてしまえば思わず弾き飛ばされてしまいそうな圧が込められている。
 しかし。
「あと一歩であるならば此処で退く訳にもいきません、押し通らせて頂きます」
 瑠璃が彼の一撃を塞ぐように立ち回る。
 黒き衣を視界に収め、さすれば彼女の魔眼が力を放つのだ――それは奥州筆頭が不動明王に捧げた眼の代わりに得た魔眼の顕現。西欧に曰くバジリスク也。あらゆるを停止させんとする術が玄武を襲う。
 だが――硬い。傷は浅く、抵抗は強く。まるで大岩を叩いているかの様。
「どうしたの、随分余裕がなくなってきてるね――ああ世間話でもしようじゃないか。ねぇ、好きな物は先に食べる? それとも取っておく? 家の掃除はどれくらいの頻度でしているの――?」
『ほほ、対してそちらは随分と口を動かすのぉ』
「そりゃそうさ。だって僕は知りたい」
 治癒の術を悠は飛ばしながら、玄武に言を。
 あと少しなのだ。ならば此処で崩される訳にはいかない――
 飛ばす治癒の術が皆に活力を与える。玄武の攻勢を、弾くのだ。
 ここで縄の陣形を維持し続ければ皆で辿り着ける。一方で迷わされれば苦労があろう……!
『むぅ――!』
 玄武は固い。確かに硬い。それでも、彼を倒すのは目的に非ず。
 花丸と無量の一撃が玄武の手を塞ぎ、孤屠の槍閃が足を止め、ムスティスラーフの蒼きタンザイトの剣が玄武の身へと一撃。オデットの土塊の拳が玄武を吹き飛ばして――
「いっけぇ――ッ!!」
 ――突破する。
 霧の先に光が見えた。ああ、あれぞ正しく終点と――霧を掻き分ける様に手を伸ばせば。

 視界が開けた。

 いきなりに飛び込んでくる光景は広き神社。一寸先は闇、いや一寸先は霧であった先程までとは打って変わった光景が広がっている――
 木々に色が付き、秋の様相を感じさせ。
 そこへ跳躍する様に飛び込んでくるのは黒き衣の影が一つ。
「ぬぅ、見事であったぞ! 天晴である!
 よくぞ惑わされず、折れず、歩みを止めなかった! 我玄武――めっちゃ感動であった!!」
 それが件の四神が一角、玄武。
 嗚咽を漏らして泣く……のはウソ泣きだろうが、しかし感激しているのは間違いなさそうだ。
「うむうむ今代の神使達もなんと頼もしい……さぁ! まずは汝らがこの地に到達した事を祝って、どうだぱぁりぃの準備が整っておるぞ! 楽しもうではないか!」
「――その前に。玄武様……どうかそのお力を我らにもお貸し願いたいのです。
 何卒、お力添えを。この国の……明日の星の為にも」
 その時。奥を示した玄武に言うは正純だ。
 歓待の気配がある――ああそれは実に結構な事である。しかし、まずはイレギュラーズ達が此処に来た目的を果たさなければならない。霞帝より託された、願い。
 四神の加護を得る目的があるのだから。
「どうか、我々に御力を御貸し下さい」
 だから――無量は嘆願する。我々は此処に客として赴いた訳では無いから。
 そうだ、全てはこの国を救うための力を求め馳せ参じた次第。
「いかに砕けた態度を取ろうともその神威は此処に到るまでに感じた通り。
 ――並大抵の信奉では神とてあの様な権能は顕現出来ますまい」
 この国を救う為の力を求め馳せ参じたこの国の地に足を付けまだ数カ月。
 玄武様がこの国を想った歳月に比べればまだ生まれてすらない時間。
 それでも我々にはこの国を守りたいと思った縁がある。
「これより先五劫の果てまで、御身を満足させる世を作る足掛かりを作る為にも」
 何卒と。
 伏してお願い奉る。
 その権能を今こそこの国の未来の為に――と。
「あいや分かっておる分かっておるぞ。
 しかしな……そう固くなるでない。我らが満足する世などとは考えなくて良いのだ」
 所詮四神など永く在った精霊の果てに過ぎぬのだ。
 この国が良き方向へと向かう事を願ってはいるが――しかしその程度の存在だ。内で育った悪徳の塊である魔種……巫女姫達に対してなんら行動を起こせていないのがその証左。
 各地で称えられ崇められ、時折試練を乗り越えた者に力を与える程度の者達だと。少なくとも玄武は己をそう称して。
「そんな我らの為などと言うな。汝が、もしくは汝が大切な者の為に全ては行動すればよい」
「――じゃあ、おじいさまは僕達に力を貸してくれる?」
「勿論じゃ。試練を乗り越える事が出来ぬ者……安易にただ力を求めてやってきただけの輩にくれてやる気はさらさらないがの。汝らは別じゃ――知を振り絞り、あの霧を乗り越える意思を以ってやってきた! そんな汝らをどうして拒めようか!」
 問うたルフナに応える。
 ならばと持ってきた土産物の――お酒を手に玄武に見せるものだ。
「ほほほう! 見るにそれは中々良い酒のようじゃの……! ぱぁりぃに相応しい一品じゃろうて!」
「あー! 待ちなさい、ずっと言おうと思ってたんだけど……霧を創り出して妖精を迷わすなんてひどいわ! 私は迷わす方なのよ!」
「おぉうそれは悪かったのぅ。なに――ちょっとした茶目っ気じゃ、許せ!」
「ゆーるーさーなーいーわ――!」
 ぷんすこと、頬を膨らませながら怒るオデット。その手に握られしはゲーミング花火。
 あひゃ、と慌てる玄武――ではなく天に投じる様にオデットは放てば。
 打ち上げられた花火の輝きが空に満ちる。
 強烈なる音と閃光はまるで祝いの様に。試練を乗り越えた全てを祝福する様に。
「さぁ! なんとここにお酒があるんだよね! 一緒にぱーりーしよう!
 ねぇねぇ僕と君はさ、すごく『気が合う』と思うんだ!」
「おおぅ! 汝もぱぁりぃ好きか! 気が合うの――どれ、奥の方で酒でも飲むか!」
 玄武はムスティスラーフと肩を組んで宴会の準備が整っている奥の方へと消えていく――ああ、もう。加護を受け取れるなら帰るべきと思うのだ、が。気付けば段々と日が落ちていた……
 今から帰ろうとすれば夜となり、そんな時間の山を往くのは多大な疲労となろう。
 ここは甘えて――一晩この地で過ごすが吉、か。
「やれやれ……ま、玄武の試練を乗り越える事が出来たのなら。
 私もどこぞの誰かではなく『何者か』ではあるという事――今宵はこれで良しとしますか」
 瑠璃は段々と星が見え始める空を眺めて、誰ぞとなく呟き零した。
 天には数多の星がある。人に知られぬ星もあり、有象無象も無数にあろう。
 しかし輝きを持つ星は人の目に留まり、誰かの記憶に残るものだ。

「ああ……一番星」

 一際輝くあの星の様に。
 成れたかと思考しながら――彼女もまた、良き匂いがする宴会の場へと足を運ぶのであった。

成否

成功

MVP

ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!

 見事玄武の試練を乗り越え、彼の住まう地へと到達しました。
 彼から得た加護は如何な事に紡がれるのか。
 カムイグラの事件も間もなく佳境。そう遠くない内に――分かる事になるかと思われます。

 ――ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は玄武の加護を得ました

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