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シナリオ詳細

<天之四霊>東緑龍夢

完了

参加者 : 10 人

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オープニング

●国滅ノ夢
 あなたは豊穣郷の大地のうえ、そのさらにうえ、はるか上空雲のたかみより国を見下ろしていた。
 神の視点とでもいおうか、あなたは春の稲穂が膨らみ揺れるのを、それが黄金に色付き刈り取られるさまを、新たに植えられた緑の稲が生えのび穂をつけまた再び小麦色に揺れるのを、数秒の早回しで見つめることが出来た。
 人々が家々を瞬く間に建設していくさまが。
 その瓦の一枚一枚が。
 道ばたをはねるバッタさえも。
 あなたは望めば眺めることができた。
 家々は『カムイグラ』と呼ばれ、その中心には美しい御所が建てられる。平民ではとても立ち入ることのできない中枢も中枢に――あなたが、そうあなたがいた。
 美しくこしらえられた椅子に腰掛け、出入りする人々の報告に対して命令を下している。
 あなたは、この国で『帝』と呼ばれていた。
 帝の治める国は栄え、人々が集まり、彼らは子をなし増え、家々もそこに息づく文化も、なにもかもが栄えた。
 まさにそれは豊穣郷。豊かな都のありさまであった。
 だがある日のこと、帝であるあなたは職務の最中にがくりと膝をつき、あろうことか倒れ伏してしまった。
 幸い命に別状はなかったが、深い眠りに落ち何年待ってもあなたが目覚めることはなかった。
 あなたの職務を引き継いだ貴族の男や巫女姫たちは国の政治機関である八扇の頭を自らの息のかかった人間ばかりで埋め尽くし国というしくみを支配していった。
 民の暮らしは表面上豊かさを保ったが、目に見えぬけがれがあちこちにたまりはじめた。
 あなたは神の視点からそれを見ることが出来た。
 黒く淀んだような空気はたちまち都を覆い尽くし、善良な妖怪はそれを恐れて去り、悪妖怪たちが跋扈しはじめ、人々はそれをよそに大流行した呪いで疑心暗鬼を膨らませ、互いに殺し合い続けた。
 汚れは膨らみ続け、濃度を増し、ついには巨大な呪いが完成し都を闇で包み込んでしまった。
 眠る帝……いいやあなたを永遠の眠りにつかせたまま、都は崩壊していった。
 人々は狂い次々に自死をとげ、生き残った者も妖怪の餌となった。
 魔種たちが人間を家畜のように飼育しては戯れに殺した。
 あらゆる花は枯れ稲穂は二度と芽吹かなかった。
 空は暗雲に包まれ大地は渇き、妖怪となった巨大な虫が這い回った。
 ここはもはや魔種の遊園地だった。
 この国は滅びたのだ。
 あなたはそのなかで、いつまでもいつまでも眠り続けたまま、やがて闇に蝕まれ――。

「――!?」
 息を荒げて木の洞から飛び出したあなたを、神羅(カミラ)は優しく受け止めてくれた。
「あなたが見たのは、『大地の夢』です。この神樹が見せた、うたかたの夢」
 振り返ると、天を突くのではと思うほど巨大な樹木がそびえたち、悠然と風をうけて枝葉をゆらしている。
 ここは豊穣郷東部にある山の中。特別な結界に覆われたこの場所へはたどり着くことも、どころかこの巨大な大樹を見ることすらできないようになっていた。
 この結界は、『青龍結界』と呼ばれている。

●国興ノ夢
 神羅、そして神獣という存在について語らねばなるまい。
 太古よりこの土地には精霊たちが暮らし、一部は人の姿をとり八百万(精霊種)となったが、ごく一部は強大な力をもったまま眠り神獣となった。
 青龍、朱雀、白虎、玄武。この四つを四神として東西南北に座し、彼らの加護を一身に受けた存在――つまり『霞帝』がカムイグラを作り上げた。
 しかし四神の力はあまりに強大であるがゆえに様々な方法で隠蔽や封鎖が行われ、民や悪の手に渡らぬよう施された。
 そこで東の山にそびえる神樹――つまり『青龍』を保護し代々人々の手から遠ざけ続ける役目を負った巫女が選出され、巫女は森羅(樹木が限りなく茂る意)よりとって『神羅』と呼ばれた。
 神羅はその生涯を尽くして結界を守り続けることを定めとし、そしてその宿命であるかのように短命であった。
 何代にもわたって継承されるうち、彼女たちの力を補助し結界に関わる災いがおきれば動くための人々が集まり、彼らは祈神より訛って『折紙衆』と名付けられた。
 帝が神使(ウォーカー)であったこともあり、神羅も大体ウォーカーより選ばれる。天義の土地よりバグ召喚によって豊穣郷へとやってきたシスター・カミラは樹木との対話や余りに強すぎる祈りの力をもっていたがため、新代の神羅に選ばれるのは必然であったといえよう。
 だが当代の新代が負うべき役目はあまりに重かった。
 帝は覚めぬ眠りにつき、国中枢は魔種によって支配されている。
 国中にたまる穢れが人々を苦しめ、四神も帝の敗北に落胆し結界の力を引き下げてしまっていた。
 カミラは新たに結集した折紙衆の力を使い国にはびこる穢れを祓い、魔種の手が人々を苦しめぬよう暗躍を続けてきたのだ。
 だがそれも、今日で終わるかも知れない。
「青龍は……神樹は新たな結界をはるべきかどうか、人類に協力すべきかどうかを考えなおしています。
 帝ではなく、あなたが……隔絶されし海を越えやってきた、新たなる希望であるあなたが、人類の希望を示すのです」

 カミラは大樹にあいた洞を指さし、あなたの手を再び引いた。
「はじめに見せた悪夢は、あなたの手が及ばなかった可能性の世界。
 ですが次は、あなたの操作が効くようになるでしょう。
 新たな夢の中であなたが選択し、あなたが導き、あなたが国を興すのです」
 樹木に触れて、カミラは目を瞑った。
「青龍は人類に絶望しています。
 人に大地を任せても、いずれ滅んでしまうのでは……と、そう考えています。
 だからこそ、あなたが示すのです。
 あなたが治める国の可能性を。
 人類が見せる、希望のひとかけらを」
 あなたは再び洞へと入り、身体の感覚がふわふわと消えていく。
 大地の夢へと、溶けていく……。

GMコメント

●重要な備考
<天之四霊>の冠題の付く『EXシナリオ』には同時参加は出来ません。
(ラリーシナリオ『<天之四霊>央に坐す金色』には参加可能です)

■オーダー
 あなたは青龍の巫女神羅より依頼を受け、神樹青龍の試練を受け仁義を示すことになりました。
 方法は『大地の夢』の中で帝となり、カムイグラの国を作っていくことです。
 あなたの国造りが、青龍にとって人類の希望を示すことになるでしょう。

■国造り
 このシナリオでは一人ずつ独立して夢に入り込みます。ですので全員が帝であり夢のカムイグラは十通り作成されることになります。
 誰かと共同で行いたい場合はその旨を必ず相互に記載してください。その場合は帝二人制などが適用されます。

 端的に、国家経営シミュレーションゲームを想像してもらえばわかりやすいでしょう。
 カムイグラという国の長となり政治機関をつくりインフラを整え民を配置し政策をたて食料や衛生や水資源といった様々なものを管理し時にはこの国を脅かす悪妖怪や他民族と戦い果ては魔種に立ち向かいます。
 帝としてのあなたはちいさないち人間にすぎませんが、あなたの命令で国が動き国が大きくなることで、それが無限の力となるでしょう。

 プレイングには、あなたが帝となって国を動かすならどんな国にしたいか、どう脅威に対抗しようとするのか、どんなふうに(そしてどんな形の)幸せを求めるのか。
 それを書き記すのがよいでしょう。

 ねがわくば、あなたの希望が世界の希望となりますように。

■解説
●四神とは?
 青龍・朱雀・白虎・玄武と麒麟(黄龍)と呼ばれる黄泉津に古くから住まう大精霊たち。その力は強くこの地では神と称される事もあります。
 彼らは自身が認めた相手に加護と、自身の力の欠片である『宝珠』を与えると言い伝えられています。
 彼ら全てに愛された霞帝は例外ですが、彼らに認められるには様々な試練が必要と言われています。

●青龍と神羅
 結界に守られ誰からも関知されることなく隠れていた神樹青龍。
 その結界を維持しあらゆるものから守るのが神羅という巫女であり、帝休眠以降都でおきるけがれや災いに対応するために動かした隠密部隊が折紙衆です。
 彼らは帝が目覚めた今、本来の役目である結界の維持と新たな加護の獲得のためローレットを頼りました。

  • <天之四霊>東緑龍夢完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月27日 23時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
ミミ・エンクィスト(p3p000656)
もふもふバイト長
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
高貴な責務
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
アシェン・ディチェット(p3p008621)
玩具の輪舞
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
最強のダチ

リプレイ

●青龍結界と大地のゆめまで
「青龍は……神樹は新たな結界をはるべきかどうか、人類に協力すべきかどうかを考えなおしています。
 帝ではなく、あなたが……隔絶されし海を越えやってきた、新たなる希望であるあなたが、人類の希望を示すのです」
 シスター・カミラ。もとい、豊穣郷にて青龍結界の守護と隠蔽を担う巫女である『神羅』は、そう述べてあなたの額に指でふれた。
 まるで眠りに落ちるように、木の洞へとふらりと倒れていくあなたの身体。
 しかし不思議なことに、綿の布団に沈むかのように優しく大樹はあなたを受け入れ、洞の中へと引き込んでいく。
 眠るなかで見るのは、大地の夢。
 もしあなたが、帝となって豊穣郷を作ったならという、夢……。

●『魔法騎士』セララ(p3p000273)の豊穣郷
 一度は滅んだ豊穣郷の夢をみたセララは、再び開墾前の畑のごとくまっさらな大地を見下ろしてあえて明るく振る舞って見せた。
「ボクは皆が希望を持つ国にしたいな。
 『明日はきっと、今日より素敵な日になる』――国民がそう思える国を作ってみせるよ!」
 帝となったセララがまず手を入れたのは農業をはじめとする食糧自給の取り組みであった。
 四神の加護をうけた帝は大地を肥やすことにも日照をさけることにも、みのりの雨をよぶことにもすぐれた。
 そのためか、食料の豊かな場所に人があつまり、集まった人々は農具を増やしたり改良したりを繰り返すようになった。
 セララは強く祈祷すれば豊作を呼ぶことができたが、それにばかり頼ることはなかった。
 農具や肥料、そして肝心の稲の改良を毎年続け、安定した食料の確保にいそしんだ。
 人が集まると家々が並ぶようになり、家々が並べば物が端から端まで運ばれるようになる。
 セララはそれを見越して道路の舗装と水道管理を行った。
 稲作にとって水道管理は必須事項であったが、これに加えた上下水の管理によって人々の生活水準を格段に高めることができた。
 一方で川のルートを強制的に変えるなどして田園地帯を広げ都の立地を整えたことから、元々川に生息する生物や妖怪たちの不評を買いはしたものの、それが大きな災いになることはないようだった。
 人間には欲求の段階というものがあり、それを満たすための知恵を求める。逆に知恵のないまま水準をあげた人間は本能的な暴力によって暴走を引き起こすとも言われる。
 セララは経済が一定まで育った段階で都に複数の学校を作成。読み書きや計算といった初等教育を税によってまかない、この中で『道徳』を基礎項目に組み込んだ。
 表向きには子供たちがより高度な職につけるように、実質的には『知識、愛国心、他人を思いやる心』の三つを教育する機関として、学校は機能した。
 義務教育世代の子供は大人になるにつれ輝かしい社会進出をはたし、学問や工業、そして軍事と言った面で高い成果をみせた。
 一方で都に住まない地方部族は帝の政治的影響力が及ばず、これによってプライド面で大きな格差を生んだが次世代がこれを解決するものとして強い期待がよせられた。
 また税を少なく取っていた一方でインフラや学業に税をさいた結果国家予算の逼迫を招いたが、これもまた若い世代が解決するものと期待された。
 政治は帝主導のものであったが、成績優秀な若い世代を積極的に雇用したことでやや民主主義的な治世が行われ、そのなかで国教が生まれるに至った。
 土着の精霊信仰を発展させた形で作成されたのが通称セララ教であり、セララは予言者としてその信仰をうける唯一の対象となった。
「帝が倒れた時、民は自立しなければならない」
「魔種の手が民を脅かすだろう。しかし、心を強く持ち決して負けないように」
「明日をより良くするため、皆で協力して国を纏めるのだ!」
 以上の三つを主だった『予言』として国に布告し、「いつか帝が倒れるかもしれない」「魔種が現れるかもしれない」という不安と備えを国民や政治機関は行うことになる。
 そのなかで設立されたのが『聖剣騎士団』である。セララを聖帝としたエリート軍隊であり、有事の際に妖怪や魔種と戦うための戦力である。
 こうして迎えた新時代。
 大半を八百万とするセララの豊穣郷は高い愛国心と軍事力によって地方獄徒たちの反乱を鎮圧し、時折発生する魔種反転事件にも対応することができた。一方で(いい意味での)悪人が徹底的に排除されたことからはかりごとには弱く、善性と軍事力によって維持される国家となっていた。
 強大な魔種と彼らのおこす策略に、この新世代が対抗できるか、否か。それはまだ未来の話である……。

●『もふもふバイト長』ミミ・エンクィスト(p3p000656)の豊穣郷
「帝さんの代わり。小市民のミミにできるでしょーか……。
 いえ、一人で全部あれこれ考え過ぎず、専門家方との相談とすり合わせが大事、ですかね?」
 はるか高い空のもと、ミミは両頬をぺちんと叩いて気合いを入れた。
 そしてそのはるか高みにあるであろう青龍にむけて、宣言するように胸を張る。
「皆がそれなりに幸せに生活できる国にしたいなって、思うですよ!」

 ミミのいう『それなりに幸せ』を実践すべく、まっさらな豊穣郷への入植を開始した。
 田畑を耕し木を切り開き、家を沢山建てていく。
 ミミにとって幸せとは暖かい家であり、暖かい食事であった。
 そしてそれを維持するための仕事と収入のアテであった。
 帝となったミミが最初にぶつかった壁が、つまりはこの『仕事と収入』という部分である。
 それまで作物等による物々交換が主であり、ある程度コミュニティとして発達した地方自治体でも米の重量を貨幣として扱うのが限度であり、ぶっちゃけていうと『お金』という概念が農民達になかったのだ。
 ゆえに農業ができる人間が生きていける人間で、それができないほど体力が乏しいなら死ぬしかないというのが常識とされていた。
 ミミはこの問題の抜本的解決策を、当時豊穣郷の中でも特に知恵のあった八百万たちに求めることにした。
 『困窮する方にお仕事あげれる仕組みを作りたい』というミミの願いは、貨幣制度の一般普及という形で幕を開けた。
 これに必要となるのは金を数える頭であり、要するに読み書きそろばんであった。
 それができる八百万が豊穣郷を頼ってやってきた獄徒たちにそれを教える施設(この当時は寺の離れを利用したため寺子屋と呼ばれた)が多く作られ、計算能力を身につけた子供たちは親世代にかわって農作物を貨幣に変換するいわゆる米売買を始めるようになる。
 たちまち米の価値は揺れ、地方にいけばいくほど高くなるという格差が生まれはじめたが、これに対してもミミが頼った八百万たちは農業共同体を組織し作物の価値を統一し売買することを提案。やがて農家は安定的な収入を得るようになった。
 一方でミミが政治的に頼った八百万たちが頭となって政治中枢機関『四扇』が設立され、この後の国色を決定づけることになる。

 貧困問題を解決したところで、ミミは失業問題と軍事に対して積極的に介入していくことになった。
「軍事力を強く育て、多めに持っておかないと危ない気がするです。
 お金はかかりますが、外敵に負けて一般の民が酷い目に遭うよりは良いと思うですよ」
 ミミはそう主張し、軍部に強い権力を持たせた。つまりは身分や経歴に関わらず軍人として採用し、軍人は税によって養われるとしたのだ。
 ミミの言うとおり豊穣郷は外部の地方小部族から敵視されることが多く、頻繁に反乱にあっていた。
 これを制圧するための軍隊を設立し、都の周囲を固めるように配置。これによって豊穣郷の権力は確固たるものとなり、反乱勢力は枯れ草のごとく弱るか、地下に潜るかとなった。
 だが平和を得る一方で軍隊の必要性は下がり、それでも断固として軍事力の維持をとなえたミミは軍人に濃厚や土木作業を行わせることで活動資金をまかなうことを提案。
 結果として『備兵』という身分ができ、彼らは半国家公務員となった。普段は農業をはじめとする肉体労働につき、軍人として給料を受け取る。しだいにこれは配給制度へと発展し、国家は共同で生産し共同で得るという思想が広まることになる。
 また、この段階での備兵のほとんどは元失業者であり、軍人として戦うことにはむいていないが他の職にも適性は低いといった人々が多くを占めた。
 しかし彼らはものすごく贅沢をするというわけでもなく、ミミいわく『ちっちゃな幸せ』を求め日々温かく生きていくことができた。
 ミミはその優しさと太陽のような温かさから温帝と呼ばれ、国に永く平和をもたらした。
 この国がやがて来たる魔種や鬼人種の反乱に耐えうるのか。それは、まだわからない……。

●『遺言代行』赤羽・大地(p3p004151)の豊穣郷
「青龍よ、聞いてくれ。
 皆に等しく、知る機会を、学ぶ機会を与えられる国。
 それが、俺の望む所だ」
 大地は大空のさなかで腕を広げ、これを見ているであろう青龍へむけて語った。
 いまだ国としての形すらなしてない豊穣郷を拓くにあたっての、これが彼の宣言である。

 大地ははじめに宣言したように、知の力に拘った。
 例えばはえいずる稲が食べ物だと知ることが知識だとして、知恵はそれをより多く豊かに育てることであり、これを共有して万人に広めることが学問であり、誰がそれをなぜなしたのかを順序立てて説明できることが教養であり、そうして出来た米を毎日食べておにぎりや餅にして時にはそれを作る祭りをひらくことが文化である。
 そういった意味で、知識がすべての根幹だと、大地は主張したのだ。
 当然それを得る、ないしは広めるためには必要なものが山ほど合った。
 食糧自給、軍事力、そして何より学力。
 はじめからそれらを保有していた八百万たちは他にそれを分け与えはしたものの、鬼人種を獄徒と呼んで差別し、また差別階級を作ることで民草の統率をとっていた。
 だが大地の考えはこれをよしとしない。『皆に等しく』が宣言であるからだ。
 その信念のもと、鬼人種やそれに類する者たちに分け隔て無く学問をひらき、身分に関係なく実力主義ないしは素質によって昇進をさせた。
 産みの苦しみはあらゆる世界にあるようで、例外なく大地の豊穣郷にもそれは急速な差別の撤廃による反動という形で現れた。
 この時点で学のない差別階級が権利を認められたことをかわぎりに各地でクーデターを起こし、多くの八百万が暗殺ないしは焼き討ちされた。これにより多くの人材や文化財を失ったが、大地は自分の信念が八百万たちにもそして反乱を起こした鬼人種たちにも伝わることを強く信じた。
 というのも、やがてくる魔種やそれに類する脅威に触れることで彼らが団結し共に戦うだろうと考えたからである。
 『皆が人の痛みを知っていれば、今までのように鬼人種や、双子や、卑しい身分に生まれた者が、不当に扱われることも無くなる』と、大地は後の書に記した。
 この書『赤羽平壌記』は大地の意思や人格をそのまま移し込んだものであり、いわば知恵と教養の結晶である。
 万一大地が死したとしても、それを受け継ぐことで治政を全うできると考えたのだ。
「青龍よ、俺の答えが唯一無二の解だなんて、傲慢な事を言うつもりは微塵もない。
 だから、どうか、他の可能性を。
 他の皆の思い描く希望を、聞いて欲しい」
 願いを込めて、帝となった大地は書の最後を締める。
 誰よりも知恵に優れ知の力を信じた大地は知帝と呼ばれ敬われた。
 願わくば彼の記した書が末代いや永代にわたって信念を貫き続けんことを……。

●『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)の豊穣郷
「まさか、こんな小娘が夢とはいえ国を動かすことになるなんて、ね。
 故郷を失った私だからこそ、考えられることをやりましょう」
 生まれたばかりの豊穣郷は数棟の家屋とわずかな畑、そして生い茂る森でしかなかった。
 それはいわば集落と呼ぶべきものであり、国とはとても言えなかった。
 そんな豊穣郷にたいして既に、ルチアはある理想を抱いていた。
 ある世界の出身者なら誰しも聞いたことがあろう。
 『すべての道はローマに通ず』
 属国の技術を積極的に吸い上げることであらゆる文化を習合し厳粛な階級制度と優れた治政者たちによって民の暮らしもまた優れたものとなる。
 ルチアの考えるなかで最も成功した国家が、ローマ帝国なのだ。
 まずルチアは皇帝ルチア一世として君臨し政治の頂点となるが、専制独裁には走らず臣民の代表者からなる公選議院を設置。民主的手続きを重視した。
 『最大多数の最大幸福を実現するためには、政策提言の機会は多様な階級に与えられるべきである』というのが、皇帝ルチアの主張であり、それは絶対のものとして民に受け入れられた。
 だがすべてがローマにならったわけではない。
 ルチアの主観からしてローマのとっていた奴隷制度はこの国にそぐわないと考え、農民を保護し安定供給を目指す選択をとった。
 ちなみにこれを重農主義(フィジオクラシー)とよびローマのはるか後フランスの経済思想として形になる。富は農業からのみ湧くという思想から端を発したものだ。
 また軍事面においては徴兵制度をしき、それまで『軍人』という概念がなく単に一地方に一定数戦士の家系があっただけであったものを、あらゆる民を潜在的な戦士としたのである。
 彼らは平時には農作業をし妖怪や魔種などが現れた際には兵士として戦うことを義務づけられた。
 布告当初は家柄を利用したりわざと病気や怪我をおったりなどした徴兵逃れが頻発し国は混乱したが、これを二世代ほど続けた頃には一般化し民衆が抵抗することはほぼなくなった。
 未だ周辺少数部族ややがて来るであろう強大な魔種との戦いなど様々な不安は残るものの、ひとまずは豊穣郷として形となった頃、皇帝ルチア一世はこの世を去り、ローマ帝国のそれと同じように彼女は神格化され、それを襲名したルチア二世が国を治めることとなる。その未来や、いかに……。

●『玩具の輪舞』アシェン・ディチェット(p3p008621)の豊穣郷
「理想の国……」
 空にうかぶ雲のように、流れゆく風の一部になって、ディチェットは豊穣郷の空をたゆたっていた。
「人も鬼も妖も互いに垣根を持たず認めあえる国かしら。
 ただ、望めば手に入るってほど簡単なものだとは思わないのだわ」
 よし、と腕まくりをして、アシェンは国造りをはじめることにした。

 アシェンが理想とする『垣根を持たず認めある国』にはあまりにも無数の障害が存在する。現に豊穣郷はそれを成そうと差別階級を配し自由と平等の政策をとったが、その結果暴徒化した獄徒が八百万を襲撃するという事件が発生。今の混迷に至る原因ともなった。
 そこでアシェンはまずは地域の資源情報を全域にわたって調べさせることからはじめた。
 国力が伴わないうちからの調査団の結成と出発は命がけとなり地方部族との対立や妖怪による被害によって散逸した情報も少なくない。しかしこれによって得られた情報は後の国家を発展させるために大きな要素となったのは間違いないだろう。
 アシェンがまず手をつけたのは濃厚、漁業、そして鉱物の採掘業である。
 湾や農業に適した平地や山、そして鉱山にそれぞれ地方省をかまえそれぞれに管理させた。労働力と管理能力のある人員の確保にやや苦心したが、細いながらも回り始めた経済は成長し、民の食糧自給は満たされた。
 三番目に着手された鉱山での採掘は石材をはじめとし多くの資源を獲得させ、それを用いて交通路をしいていった。
 この三大事業の共通点は学力を問わないという点であり、帝となったアシェンの豊穣郷には稼ぎを求めて上京する者をおおく呼び込んだ。
 衣食住が豊かになると今度は娯楽を求めるもので、アシェンの都にもそれは自然発生していた。
 国が用意した娯楽場は身分と問わず入ることを許し、しだいに発達した文化の中で教育に関しても手を入れ始めた。
 はじめに述べたように垣根のない国をつくるべく、生まれを区別せずに学校に入れることとした。
 ここまでの政策によって豊穣郷には獄徒をはじめとするいわゆる貧しい市民が多くを占めるようになり、一方で地方を個々に治めていた八百万などの富裕層は自らの権利や財産の剥奪や差別意識のある獄徒と平等になることを嫌がって豊穣郷に迎合しない考えを示すことが多くなった。
 よって外敵は主に豊穣郷の拡大と領地侵害をおそれた周辺部族となる。
 対抗するのは鬼人種を中心とした層が大半を占め、平等に学をおさめさせたことで低い身分の中にも優秀な人間がまばらながら存在することがわかり、これらの起用によって軍の形成は進んだ。
 だが中でもアシェンが重視したのは『互いを理解し共闘できる人』という基準であった。
 能力よりも協和を優先し求めたのである。

 こうしてアシェンは心ある王『心帝』とよばれ、民に愛される王となった。
 軍事力の面でも数の多い豊穣郷が優性となり団結しない周辺部族は手が出せず指をくわえて見るという状態が長く続いた。
 そしてやがて、絶望の海を越えて強大な魔種がやってくる。
 内側に生まれた魔種や反転による被害、そしてそれに乗じるであろう周辺部族に対して帝アシェンはいかに戦っていくのか。
 それは、まだわからぬことである……。

●『銀河の旅人』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)の豊穣郷
 酒瓶をラッパ飲みし、ギターをぽろぽろとひきはじめるヤツェク。
 まっさらな大地に人が集まり村ともよべないほど小さなコミュニティが形成されていくその中心に、彼はいた。
「おれが示したいのは互いに違う人格を持つ奴らが、強い奴も弱い奴も性別年齢人種、それぞれ違うなりに生きていける世界だ。風通しのいい国だ。
 いまのカムイグラは、おれの好みからすれば閉鎖的だな」
 弾き語りのように、ヤツェクは彼の豊穣郷を作り上げていく。

 まず目指したのは自由と交流。つまり交易都市の建設である。
 民は元々飢えていたが、精霊の加護を得たヤツェクにとって作物を実り豊かにすることは難しくない。
 それを求めて民が集まるのもまた道理である。
 しかし食料やその他資源は自給自足ができる程度に確保し、残る国力を軍事に回した。
 それでもすべてに手が届かないであろうことを考え『冒険者ギルド』の国営化を開始。
 貧しいものは一発逆転を狙って冒険者になることが多く、そうした市民をサポートすることにも厄だった。
「若い奴らには飯と学問の機会を与える。腹が膨れて考える頭を持てば、ひがみあったり、内輪もめなんぞ考えんもんだ」
 ヤツェクはそんな考えのもと、人々がそこそこに満足できるだけの食料と学を与えることにした。
 そこからは商業への傾倒である。読み書きや計算はもとより市民に商業を奨励する形で国庫からの費用を投じ周辺部族との交易を狙ったのである。
 周辺部族は帝ヤツェクの国に対して中立的立場をとっていたが、自分たちに利益があるとわかると交易に応じやや肯定的な立場へとかわっていった。
「人の流れが多ければ、様々な視点も入って来る。様々な文化も入って来る。混沌の中の調和。それこそがおれの国の武器だ」
 ヤツェクが語るように、交易は文化を豊かにした。
 様々な部族の知識や知恵が行き交い、そしてそれぞれの部族もまたそれを取り入れ始める。
 中心地である豊穣郷は憧れの的となり、上京するものも増えた。
「他民族とは戦になる前に懐柔を。敵は素早く倒せ、しかし、友と潜在的な友を不注意で敵にするなかれだ」
 しかし問題がなかったわけではない。
 商売を豊かにしたことでだまし合いや実質的な奴隷売買が行われるようになり、力の弱い部族が武力や財力などの複合した力に飲み込まれ消えていくこともあった。
 これらは豊穣郷の外の問題とはいえ放置はできない。
 また種族の違いをそのままにという方針は差別問題をどうしても消せない格好にもなった。交流が増えるだけに小さな問題もおこりやすく、経済的なバブルやその崩壊による被害も大きい。
 こうした問題におおらかながらも真面目にとりくむヤツェクの姿勢は黄金の都を建てるとして黄帝と呼ばれ尊敬の対象となったのである。

 この後、強大な魔種や妖怪の出現に対しては味方につけた各部族と共に戦うことができ、大きな難を逃れることにも繋がった。
 ヤツェクの国は問題だらけながらも末永く、タフに続いたのである。
 そしてその状態を、ヤツェクは笑ってこう語った。
「理想の国、って奴には作る奴の心のありようが全部映されてしまうもんだ。
 おれは学問も食事もろくに得られなかった、辺境惑星の鉱山で働く細腕の少年だったおれを、孤独なガキを。たとえ夢でも増やしたくないのだ」

●『魔剣鍛冶師』天目 錬(p3p008364)の豊穣郷
 はじめはなにもない平地だった。
 金槌をもった錬がただ一人現れ、大きな石を打った。
 それがすべての始まりであり、豊穣郷の開祖であると歴史書には記される。

「俺はカムイグラの民には諦めず挑戦をし続けて欲しいと思っている。
 昨日より優れた今日の自分を、今日より優れた明日のための努力を。
 停滞を良しとせず、少しずつでも前に進み続けて欲しい」
 錬の目指す豊穣郷は技術やそれに対する探求によって成り立つと、彼は考えたようだ。
 技術の種類を問わず、あらゆる分野に対してそれを適用しようと考えていた。
 さらには食糧自給や住宅の建設もそこそこに、帝である錬は土地開拓にまず力を入れた。
「領地毎の人口は減るがこの豊穣の地で広く版図を持てば総資源は増えることだろう。
 中央、高天京に拘らず発達すれば精霊種も鬼人種との付き合い方を考えるはず」
 というのが、錬の弁である。
 当然問題となるのは地方の少数部族だが、そうした部族に対して交易を行うことでできる限り友好的な関係を結ぼうと努力した。
 一部の民族はこれに迎合し開拓された文明を享受したが、保守的な部族は豊穣郷の積極的な開拓運動を嫌い旧態依然とした姿勢を守ろうとした。
 そのせいで末端どうしでしばしば争いが起こり、攻撃に対してきわめて消極的な錬の姿勢も相まって豊穣の民が一方的に襲撃される事態も多く発生した。
 特に土地の環境に適応した妖怪たちからの反発は強く、豊穣郷は軍事力の保有と拡大が迫られた。これに対して錬は通信技術を高めることで広い国土に対応しようと考え、軍隊を広域に配置しその連携を保つことに尽力した。
 非常に広い国土をもちその間を絶え間なく人と物が行き来する錬の豊穣郷。
 やがて錬はその技術貢献や積極性が認められ、民から練帝という呼び名がつくようになった。

 そしてついに、錬の豊穣郷は転換期を迎える。
「開拓は海にも及ばせたい……歴史のIFを想像するならば考えるだろう、『もしも豊穣も新天地を求めて海に出ていたら』」
 かつて『絶望の青』とよばれた海は海洋王国が幾度も国力を尽くして踏破を目指したが誰一人として帰ってこなかったことから『絶望』の名を冠したという。
 それは豊穣郷からみても同じことであり、この海を越えようという発想がそもそもなかったようだ。
 しかし錬は一転し、この未知なる海への挑戦を掲げた。
 彼らの国が海を打ち破ることが出来るのか。
「『人は、神の思惑を超えられる』。
 諦めない者こそが希望を掴み取れる。俺もその途上ではあるが、この夢を通じてその一端を見たいんだ」
 錬は青龍に宣言するように述べると、大いなる海へと国をあげて乗り出したのだった。
 彼らがこの難関を越えられるのかはわからない。
 だがもし成功したならば、豊穣郷はこれまでにないほどの革命期を迎えることだろう……。

●『章姫と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)の豊穣郷
 神の視点から大地を見下ろし、鬼灯は美しい人形を抱きかかえていた。
「国、国を造るか。
 夢の中とは言え一人の忍には随分なお役目を頂いてしまったものだが……
 伊達に四つ領地を頂いていないさ。尽力しよう」
「でも楽しそうね鬼灯くん!」
「そうだね、章殿」
 にっこりと人形もとい章に語りかけ、鬼灯は国造りという大いなる夢の幕を開けた。

 まず彼が目指したのは『皆が互いを尊重し、それぞれのあり方を認められる国』であった。
 差別の解消や平等政策とはまた異なる、かなりデリケートな方針ということになるがそのための手段が重要になるだろう。
 もちろんまずは生活基盤を整えることから始めるのだが、鬼灯は川のそばに簡単な集落を建設しそれを徐々にグレードアップさせるという地道な手段をとることにした。
 食糧自給は問題だったが、民に鬼灯自ら芋を植えることを教え、それを食料の基盤とした。
「俺の元いた世界ではこいつで飢饉から救われた村もあるんだ」
 次に手をつけたのは水路の整備である。
 川のそばに集落を作ったのはそれゆえだろう。土を掘って進むことで水路を作り、田畑へ水がわたりやすい環境作りを行った。
 治水は国造りに重要な要素であることを、彼は重々理解していたのである。
 この辺りから芋中心の食糧事情が米や麦といった穀物にシフトしていき、徐々に国の豊かさが整っていった。
 食料のある土地は周辺部族の略奪にあいやすい。特に食べ物の減る冬は危険だ。
 これに関しても鬼灯はみずから、民の自衛能力を高める訓練をつけてやった。
 中でも手を入れたのは武器の作り方や戦い方の伝授である。
 鬼灯がそもそも忍者であったこともあり、民の武装は忍具が多く戦い方もそれに寄ったものとなったのは着目すべき点だろう。
 更に鬼灯は民より率先して動き、集落のまわりに堀をつくることで防御を固めていった。
 こうしてできあがった安全地帯に民は集まり、やがて城となり、人々が作業を分担して過ごすコロニーに変化していった。
「家事が苦手? 戦が怖い? 恥ずかしいことじゃないさ、家事は得意な者に任せてその間にその者が苦手なことを手伝ってやったり報酬を渡してやればいい。戦が怖いなら戦を起こさぬように相手を言いくるめられるように頭を使えばいいのさ」
「みんな得意なことや苦手なことが違ってもおかしくないのだわ! 自分に出来ることをのんびり探せばいいの!」
 コミュニティでは物々交換が基本となり、その働きを統一するために鬼灯は基準を定め不当なバランスによる取引が発生しないように監視もした。
 こうしてできあがった風雲鬼章城はやがて城下町をもつようになり、文化が発展し、平和で穏やかな国へと育っていくのである。
 こうした国がいずれ来るであろう強大な魔種やそれに乗じた悪人たちといかに戦っていくのか。それは帝……鬼灯次第といったところだろう。

●『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)
 青空のなか、神の視点から大地を見つめる一人の神父……否、山賊。
 グドルフ・ボイデルは胸にさげたふたつのロザリオを握りしめて目を瞑った。
 やがて彼の体格はほっそりとしたものに変わり、歳は若く、服装も聖職者のカソックへと替わっていく。
 艶のあるやさしい黒髪の間から、これもまた優しい双眸がのぞいている。
 前髪をかき上げてなでつけるようにすると、深く吸った息を吐き出した。
「先生……いえ。私が何かを言う資格はありません。
 貴女は、優しい人だから……」
 カミラという女性がこの国に召喚される経緯を、半分までは知っていた。
 天義で発生した神隠し事件を追うなかで、自らも神隠しにあったのだ。そもそも、小さな教会で優しく祈るだけのシスターがここまで大きな事件に引っ張り出されることから既に不自然であった。
 祈りを力に変える才能をもち、わずかながら込めた力を他人に与えることもできた。そうした才能を、国が有事に放置するはずがなかったのだ。
 そしてそれが、民の助けになるのなら、カミラが拒むはずもなかったのだろう。
 豊穣郷という見知らぬ土地へやってきてさえ、同じような運命をたどったのだから。
「何もかも背負ってしまう貴女の、ほんの少しでいい。支えになりたいと……」
 もしかしたら、彼アラン・スミシーが人生を『引き継いだ』男グドルフもまた、同じ気持ちだったのかもしれない。あるいは、青肌のブルースでさえも。
 そして天義にて彼女にまつわる人間のなかで唯一……きっと唯一、自分だけがそれを成せる気がした。

 帝アランはあるときこの大地に召喚された。
 彼は持ち前の責任感の強さや優しさや、意思の強さや愛の深さによって四大精霊に認められ加護をうける。
 そんな彼の周りにはひとりまたひとりと仲間が増え、やがて彼の拠点の周りには多くの家々がたち田畑が拓かれるようになった。
 それをとりまとめる立場、つまりは帝という位置に担ぎ上げられつつも、アランはそれを全うしようと努力した。
 稲作を進め、その技術をマニュアル化することで学のない者や貧しい者でも自国で働けるようにした。
 また季節のうつろいが激しい豊穣郷の風土は凶作や飢饉がおこりうると考えたアランは狩猟と漁業で獲得した肉や魚の一部を干したり塩につけたりすることによる保存食を必ず用意するように命じた。
 この政策は当初食べられる食料が減るからと難色をしめされたが、本当に凶作が訪れた際に高い効果を発揮し帝アランは先見の明ありと尊敬や信仰を受けるようになった。
 賢帝アランと呼ばれるようになったのは、この段階からである。
 こう呼ばれるには他にも理由があり、水害に備えて川の土手や堀を作り家々を高所に作るなどし、山や森から熊などの動物がおりることに備えて見張り台や柵を多く作るように命じていた。
 これらの防災策は施設した当初は難色をしめされつつも有事の際に人々を決定的に助けるものであった。特に、『難色を示すが必要なこと』ほど命令するというアランの姿勢は国を治める者としてきわめて適切だった。
 そして中でも強く命令したのが『悪意ある人間』への備えであった。
 健康で狂人な男には兵役を課すかわりに高い報酬や家族への手厚いケアを約束し、悪意と戦う兵を育てることにつとめた。
 これもまた施策当初は兵役逃れが続出したが、それはむしろアランの狙い通りと言えた。
 農家や漁師は働き手を求めて多く子をもつがそのほとんどが家督を継ぐことはできない。
 そのためあまりがでて地方の八百万へ奉公に出るというのが当たり前だったが、その先でどんな目にあうかわからないうえ家族には口減らし以上のメリットがない。
 一方でアランの政策は『必要な民に必要な仕事が割り振られる』仕組みとなったのだった。
 また、か弱い女性や真面目だが未だ力の弱い子供などに安易に戦士の道を選ばせたくないというアランの優しさも効いていた。
「未来ある若者たちが剣を握り、血を流さねばならぬ世界。そんなものは、間違っている」
 それはきっと、彼の歩んだ人生そのものが証明した『間違い』なのかもしれない。
「私が望む幸福とは。
 『弱き者が守られ、平穏に生きられる世界』だ。
 その為ならこの身すらもなげうつ!」

 アランの作り上げた豊穣郷は災いに対して安全で、それゆえに多くの人々が集まる土地になった。
 それは強大な魔種が襲来した時すらも同じである。
 大陸から召喚されてしまった魔種がアランへと牙を剥いたその時には、彼の政策によって救われた多くの人々がそれぞれのやり方で戦い、はじめは彼のやり方を煙たがっていた政治家たちが多くの実績により心強い味方となり、魔を打ち払うだけの力へと育っていたのだ。
 戦いに勝利した賢帝アランは聖帝アランと称を改め、あらたな国家の未来へと歩んでいくことになる。
 そして……。

「よく、がんばりましたね」
 帝のおわす謁見の間に、ある日現れたシスターが優しく微笑んで顔をあげた。
 目を見開き、動揺する家臣達をおちつけてから彼女へと歩み寄るアラン。
「きっとあなたは、どんな場所でも誰かを救うために戦っていると、信じていました」
 アランの頭をいつかのように優しく撫でる……カミラ。
「そのために沢山傷つき、沢山失ったのですね。それでも前を向き続けた。わかります。あなたのことは」
「……先生。私は、ただ」
「はい。わかっています」
 こみあげるいろんな感情に声がふるえ言葉がでないアランを、カミラは暖かく抱きしめた。
「皆を、愛したのですね。私の、言うとおりに。
 あなたは優しい子だから」

 ふと、グドルフは自分が神の視点からその様子を眺めていることに気がついた。
 涙を流すアランとそれを優しくなだめるカミラの様子を、ただ黙って。
「……青龍だかなんだか知らねえがよ。こんな時にグダグダ言ってんじゃねえぞ」
 俺は目に物をみせたぞ。
 そんな堂々とした姿勢で、グドルフはさらなる高みよりこちらを見つめる青龍の大樹へと語りかけた。
「勝手にてめえが期待して、勝手に失望しただけだろうが。
 人間なんてのはな、間違えたら間違えただけ学んで成長すんだ。
 たった一回間違えただけで、おれら人間を見限ってヘソ曲げてんじゃねえ!」
 その声は、確かに青龍へと届いたようだった。
 大樹はまるで涙を流して泣くかのようにざわざわと葉を鳴らし、雨の滴をおとしていった。

●『此岸ノ辺の墓守』フリークライ(p3p008595)の豊穣郷
 それはまるで、キネトスコープのようだった。
 物悲しくも懐かしいピアノ演奏と共に、モノクロカラーの映像が流れていくような。
 大きな木の前に立ち、同じような形の仲間達と信号で会話をかわしながら『大いなる墓』を守る映像。
 やがてフリークライは両目に光をともし、はたと顔をあげた。
 『これも縁だよ』……と、誰かが言ったような気がした。

 フリークライは、国を作るという点において他と大きな違いがあった。
 それは、文明は自然と調和すべきという方針である。
 これはいわゆる深緑郷アルティオ=エルムの自然融和思想に通じるものであり、実のところ青龍が大樹の姿をとっている理由でもあった。
 精霊は広義にとれば自然の一部であり、動植物すべてもまた自然の一部。余計なものをもたず、心豊かで穏やかな暮らしをしようという考え方だ。
 フリークライは深い山や森の中にコミュニティを築き、果樹や木の実を得たり狩猟を行ったりなどして細々と暮らすことを求めた。
 畑や家畜を最小限にとり、そうした暮らしが長く続けられるように保存食を必ず備蓄するようにも求めた。
 これは先述もしたが、施策当初には難色を示されつつもいざ凶作がおきれば有効に働く防災策である。人は放っておいても勝手に生きるが、民が永く安全に暮らすには彼らが嫌がることも時には命じなければならない。そういった意味で、フリークライは優れた帝であった。
 当然備えは食料のみに留まらず、水害や日照りといった天災全般への備えをもたせ安全な国造りを目指していった。
 彼の国造りには既にある程度人工物ばかりに囲まれた文明を気づいていた地方小部族たちからは下に見られることもあったが、彼らが災害に弱く格差やそれによる差別によって慢性的な問題を抱えていたのもまた事実である。
 フリークライの政策はそれらの抜本的解決策であり、極論すれば『捨て去ることの利点』であった。
 その利点は他民族や妖怪たちとの交流にも生きた。
 増える人口とそれによる労働力や余る食料を対価として、人里からは離れてくらしがちな妖怪たちのコミュニティと、フリークライの豊穣郷は積極的に繋がっていった。
 これはさらなる妖怪コミュニティとのつながりを促し、やがてこの土地は『八百万がバラバラに統治する小部族群』と『フリークライがもつ自然と妖怪たちのネットワーク』というふたつの勢力によって構成されるに至った。
 八百万たちは勢力圏を伸ばすため各地の妖怪コミュニティの排除を行おうとするが、そこにフリークライのネットワークが牽制することで拮抗状態を作り続けることができたのだ。当然フリークライは小部族たちに攻撃を行わないので、これと仲良くするに越したことはない。必然この土地の争いは減った。

 特にフリークライが妖怪たちや一部の人間達から慕われたのは、彼の『信仰』によるところがある。
 フリークライは『墓』というものを重んじた。
「死ネバ ミンナ 星。
 ミンナ 花。
 ミンナ 命」
 これがフリークライの経典である。
 使者は人であろうと妖怪であろうと必ず弔われ、骸は丁寧に青龍大樹のもとへと埋葬された。
 死した肉体は土へかえり草木を通してみのり風となり雨となり世界をまわって、やがて動物たちへと巡っていく。自然分子的転生論だ。
 人工的に作られたフリークライだからこそ、それを強く想ったのかもしれない。
 こうした思想は国民のみならず他部族にも伝わり、そもそも妖怪の人権や人格を意識すらしていなかった人々の考え方を変えた。
 高天京で流行したような妖怪を用いた呪詛も、きわめて禁忌的だと考えるようになるだろう。

 フリークライは自然と調和するその生き方から『緑帝』と呼ばれ、特に青龍の加護を強く受けた者として信仰と敬服の対象となった。
 しかしそんなフリークライも永遠に生きているわけではない。
 その動きをとめ、他の者とおなじように大樹のもとへ埋葬される日が来るだろう。
 だが……。
「多分 永遠不朽 国家 ナイ。
 備エテモ イツカハ キット 来ル。
 タダ。
 霞帝 敗北 デモ 終ワラズ。
 晴明 繋イダ。
 何カアッテモ 国 滅ビテモ。
 民 或イハ 未来 人類 心ニ 培ウ 残ル 次 繋ガル 願ウ」
 根付いた想いは先年先まで続き、受け取った後世の人々が同じように国を動かしていくだろう。
 フリークライはそうした人々が繋ぐ想いこそが国であり、民なのだと説いたのだ。
「花枯レテ 種 残スヨウニ」
 と。

「『花枯レテ。種、残スヨウニ』……」
 心に直接響くような声がした。
「霞帝、裏切った。青龍、そう、思った」
 どことなくフリークライに似たような途切れ途切れの信号によって語りかけてくる。
 そう、当人の言うように、これは青龍からの直接の呼びかけだった。
 植物と対話できるフリークライだから、というだけの理由ではないだろう。彼の提示した国のありかたと守り方に、青龍は納得し共感したのだ。
「けれど、霞帝の、思い、受け継ぐもの、いた。
 ひとり、だけでなく、沢山。
 フリークライ……君が、そうか」
 呼びかけに、フリークライは目をちかちかとゆっくり点滅させた。
「フリック タダノ 墓守。想イ 繋イダノハ 皆」
「違う」
 青龍は、フリークライを優しく抱きしめるように大樹の上へと運び上げると、緑に輝く宝玉を彼の手に握らせた。
「墓守は、心、守る者。次、君が、守れ。霞帝が、作ろうとした、優しい国。それを愛した、誰かの心」
 そして、こう締めるのだ。
「『花枯レテ。種、残スヨウニ』」

成否

成功

MVP

グドルフ・ボイデル(p3p000694)

状態異常

なし

あとがき

 青龍は十人のイレギュラーズが提示した国造りへの考え方に触れたことで、霞帝にかけた想いや夢が彼ひとりの敗北だけで潰えたわけではないことを、皆さんから教えられました。
 これに心をうたれ、皆さんのことを認めた青龍は再び加護を与えるべく、結界を作るための宝珠をさずけました。

 ――フリークライ(p3p008595)は青龍の加護を得ました

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