PandoraPartyProject

シナリオ詳細

せめて、終止符くらいは。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 過去はいつだって美しく、愉快で、そして残酷だ。

●ローレットへの依頼
 ある依頼がイレギュラーズ達へと持ち込まれた。
 依頼人は匿名の女性。その詳細は原則開示されないとのことだが、容姿は若く美しい女性らしいとのこと。
 彼女がローレットへと依頼した内容は、『ある所に咲いている、ある花を取ってきて欲しい』というものだった。
「……そんなことは、イレギュラーズの能力を用いずともよいのでは?」
 本件の依頼書を眺めていたあるイレギュラーズの男がそうぼやいたのも、理解できる所である。
 しかし、よくよくと話を聞いてみると、文面程穏やかな内容でもないらしい。
 例えば、依頼者の女性が純種の数人を雇い花を取りに向かわせたが、戻ってこなかった―――とか。
 そんな話を聞くにつれ、これはイレギュラーズ達向けの内容に相当するであろうことは理解できた。
 依頼書には、その花のイラストが添付されている。
 可憐な、紫色の花だ。依頼書を読んでいたイレギュラ-ズの男も、統一されたバベルによって、その花が地球文明で云う所のコルチカムという花に極めて酷似していると認識した。
 そのまま依頼書を持って、彼は立ち上がる。
「コルチカムの花言葉は、確か……」


 イレギュラーズ達がその廃墟(と云っても、人が住むのを放棄されてから暫く経っているという意味に限定され、その外観・内観は常に手入れされているかの如く整然としている)に無事侵入し、その広い間取りを進んでいくと、依頼書に記載れていた通り、地下室へと続く道を発見した。
 暗い下り道をゆっくりと進む。
 深い。
 先は見えない。
 それでもイレギュラーズ達は下り続けると、漸く階段が終わり、その先には一つの部屋があった。
 二十メートル四方の正方形の部屋だ。その中央に、腰まではあろう、直方体の石座があり、そこに一輪の花が咲いている。
 土も、水も無いというのに。怪訝に思いながらも、イレギュラーズの一人がその花を手に取ろうと、近づいた。

 ……近づいて、そして。
 イレギュラーズ達は、突然のフラッシュバックに襲われた。


「……っ」
 イレギュラーズの一人である彼は、気が付くと先程の廃墟とは異なる、けれどとても見覚えのある場所に居る。
 そして、その眼前には。―――ああ、その眼前には。

 この≪世界≫(無辜なる混沌)に召喚されるもっと昔、彼が死ぬほど殺してやりたかった奴が、立っていて。
 そいつを殺す事の出来る、強力な武器が手に在って―――。

GMコメント

●依頼達成条件
・『ノモグロファの黄昏』の撃退


●情報確度
・Aです。想定外の事態(OPとシナリオ詳細に記載されていない事)は起きません。


●現場状況
(立地)
・≪幻想≫郊外にある廃墟の地下室。

(状況1)
・依頼目標である『コルチカム』(⇔『ノモグロファの黄昏』)を手に取ろうとした瞬間、訪れていたイレギュラーズ全員にフラッシュバックが発生し、一時的に意識を失い、幻覚を見させられます。
・其処は、『ノモグロファの黄昏』が見せている、時間軸の異なる精神世界です。

(状況2)
・幻覚の中でプレイヤーは、『自身の過去における課題』と対峙します。
・『自身の過去における課題』とは、
 (1)その時、殺してやりたいほど憎かった相手 であったり
 (2)その時、何としてでも変えてしまいたかった自身の境遇 であったり
 (3)その時、どうしても食べたかったお肉のこと であったり
 します。これらは参加プレイヤーが各自任意で設定可能(※1)であり、プレイングに記載して下さい。
・プレイヤーは、その当時の姿か、現在の姿で対峙するか、任意に指定する事が出来ます。
・プレイヤーは、その当時の記憶しかないか、現在の記憶も含めて行動するか、任意に指定する事が出来ます。

(状況3)
・幻覚の中で『自身の過去における課題』と対峙したプレイヤーは、自身に『幻覚の中でだけ使用可能な解決策』を有していることに気が付きます。
・『幻覚の中でだけ使用可能な解決策』とは、
 (1)どんな敵をも斬り捨てる剣 であったり
 (2)突如降りかかった幸運 であったり
 (3)突如現れた最高級のお肉 であったり
 します。これらは参加プレイヤーが各自任意で設定可能(※1)であり、プレイングに記載して下さい。
・或いは、『幻覚の中でだけ使用可能な解決策』を”有していない”とすることも出来ます。即ち、その当時の姿か、又は現在の姿・能力のまま、再度『自身の過去における課題』と対峙するという状況であっても構いません。また、この場合でも、下記『自身の過去における課題』を克服することが可能です。

(状況4)
・プレイヤーは、『自身の過去における課題』を克服したいという気持ちをプレイングに記載する事で、『自身の過去における課題』を克服する事が出来ます。
・『自身の過去における課題』を克服する事で、プレイヤーは現実世界に復帰します。参加者全員が復帰し、『コルチカム』(⇔『ノモグロファの黄昏』)が途端に枯れていくことに気が付きます。この時点で、シナリオは『成功』以上が確定します。
・従って、ハイルール上、全員が『『自身の過去における課題』を克服したいという気持ち』を有し、プレイングにそれが伝わる様記載する事が必要となります。

(状況5)
・現実世界に復帰したプレイヤーは、フラッシュバック中の出来事を鮮明に覚えているか、少しだけ覚えているか、忘れているか、任意に指定する事が出来ます。
・幻覚の中での出来事は、あくまで幻覚の中の話であり、現実世界に染みだしません。

(※1)
 あくまでプレイヤーご自身の設定の範疇でのご指定をお願いします。例えば、他GMのシナリオで登場した敵、NPC、アイテム、状況等を描写する事は出来ません。


●敵状況
■『ノモグロファの黄昏』
・『コルチカム』に擬態した他世界の神。時間軸に関する作用を施す能力を持つが、制限により過去しか見られない。
・過去の課題を突き付け、それを解決できなかった者はノモグロファの黄昏に取り込まれてしまいます。イレギュラーズは字の如く特異的であり、ノモグロファの黄昏の見せる過去の課題に対する耐性を有しています。その耐性により、ノモグロファの黄昏を撃破する事が可能です。ハイルールに反し、『『自身の過去における課題』を克服したいという気持ち』を記載せず、すぐに現実世界に復帰しなかった場合においても、やがて復帰は出来ますが、相応のペナルティが課せられます。


●まとめ
・プレイヤーは、
(1)自身のキャラクターにとっての過去の課題の場面と、
(2)其れに対するキャラクターの行動・心情をプレイングに記載し、疑似的にその課題を解決して下さい。
・解決する(過去を疑似的に克服する)事で敵を撃破し、シナリオが成功となります。


皆様のご参加心よりお待ちしております。

  • せめて、終止符くらいは。完了
  • GM名いかるが
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年05月01日 21時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

朱・夕陽(p3p000312)
渡烏は泣いてない
ニアライト=オートドール=エクステンション(p3p000361)
主の人形
銀城 黒羽(p3p000505)
リノ・ガルシア(p3p000675)
宵歩
ラデリ・マグノリア(p3p001706)
再び描き出す物語
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
マリス・テラ(p3p002737)
Schwert-elf
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド

リプレイ


 イレギュラーズがその美しい花を手に取った時、フラッシュバックが、彼らを襲って。

●『暇人』銀城 黒羽(p3p000505)の場合
「ったく、花を採ろうと思ったらいきなりこれだ」
 突然の事に舌を打つ。躰を確認するが、異常は無い。
「何処なんだ、此所は?
……他の奴もいねぇし。てか、得物もねぇな」
 黒羽の眼前に広がる其処は―――、果てしなく白だけが広がる空間だった。
 そして、そんな純白の世界に唯一つ浮かび上がる……漆黒の影。黒羽は眼を凝らす。
(人か? だが顔も見えねぇ。
 ……なのに、確かに伝わってきやがる)
「これは憎しみと殺意と……悲哀?」
 影は、黒羽をそのまま投影したかの様な等身。
 やはり、人だ。そしてその身から溢れる、膨大な感情。
 ―――気が付けば影は、黒羽の眼前にまで迫ってきていた。
 漆黒の剣をその腕に携えて。
「……ああ、そう。そっちは飽く迄もヤる心算な訳か。
 何でそんな感情を俺にぶつけるのか分からねぇが―――ヤるしかねぇみたいだな」
 今は釵もない。黒羽は襲い掛かる影からの斬撃を素手で払う。
 太刀筋は上等だ。
 成る程、重い斬撃。―――何処かで見覚えのある、斬撃。
「……」
 影は黙したまま再度、黒羽に斬りつける。
 黒羽はそれを、唯、受け止めた。
 それは、黒羽が≪不条理で道理の通った世界≫(無辜なる混沌)でずっとやって来た事。
(この影には“それ”しかしてやれねぇ。
 何故かは分からねぇが……、そんな気がする)
 凄絶な斬撃は、次第に黒羽の躰をも刻み始める。だが彼は攻撃には転じなかった。
「痛めつけてぇなら思い切り来い。
 殺してぇなら殺す気で来い。
 てめぇの気が済むまでかかって来やがれ」
「……」
 斬、と黒羽の掌から血飛沫。影の刃をそのまま肉身で受け止めていた。
「―――だが、てめぇの攻撃で絶対に膝はつかねぇ。
 最後の最後まで立ち続ける。これが俺の信念、俺の覚悟だ」
 俺はやるぜ。今の俺に出来ることを……!

●『Schwert-elf』マリス・テラ(p3p002737)の場合
 かつての地上は、戦火で焼き尽くされていた。
 その原因が元の世界の自身であることをテラは理解した。
(あれは、かつての私。
 些細な心のエラーすら握り潰し、軍隊で生き続けた兵器の私―――)
 今、テラは幻影と対峙していた。
「貴女は確かに強い……それは私が、良く知っている」
 幻影が奔る。その体躯から銀光を発すれば、寸での所で回避したテラの皮膚を焼く。
「でも、だからこそ。攻撃は……しない」
(兵装等は全て幻影のほうが遥かに上位。
 下手な武力行使は意味がない。斬り返せばそれ以上で必ず返って来るだろう)
 テラが唯望むのは、対話だった。
「愚かな。自滅を望むのか」
 幻影がテラを嘲笑し、続ける。
「貴女は唯の破壊兵器だ。それ以上でも以下でもない。
 存在意義を思い出せ」
 テラは無言で、足元の残骸を手に取った。同族の残骸だ。
「同情か? 無意味な事だ」
「確かにこれは、兵器には無駄な記録……」
 でも、とテラは続ける。
「同時に、私が今まで散々振り撒いてきた罪過でもある」
 目を反らすだけでは何も変わらない。
 貴女は無意味だと云うけれど。
 変わるためには、認めなければいけないのだ。
「今までの犠牲を無かった事にして、一体どうしようと云うのか」
「償えるかは解らない。
 どうやったって償いきれるものでもない……かもしれない」 
 単純な解決策を手にして縋っては贖罪にならない。
「……ただ抱え続けること。
 それが一番辛い道だと、私は理解している」
「非合理的。理解不能」
 諦観する様に呟いた幻影は、再度攻撃態勢を取る。
「でも、自棄になって暴力に頼るよりずっと良い。
 それに―――」
「『何より、一人より二人の方が強いってな!』」
 ―――同居人が言った。力強い言葉で。

●『主の人形』ニアライト=オートドール=エクステンション(p3p000361)の場合
 ニアライトは息をのんだ。眼前に、車椅子に座った老人―――≪最後の人≫(主)が居たからだ。
 何故。如何して。彼女の胸に渦巻く動揺は、しかし、直ぐに収束した。
(吾等は人に仕え、その願いを叶える為に生み出された物達。
 ならばこそ、“この願い”を叶えるのも、吾等の役目なのであろうな)
「お久しぶりで御座います。―――ご主人様」
 老人は穏やかに、頷いた。その微笑みは、ニアライトの感情を酷く感傷的にさせた。彼女は自覚している。それが、元の世界の最後の主人であったその老人の願いを、叶えられなかった事に起因していることを。
 老人は喋らない。やはり、これは幻影なのだろうか。
 ニアライトは、老人の背後に回り、車椅子を押した。懐かしい感触だった。
「何時までもご主人様の事が気がかりでありました。
 願いを叶えるための存在である吾が、その義務を放棄して消えてしまった事―――」
 これが夢か現実かは定かではない。
 だがニアライトのすべき事は唯一つだった。
 静かに彼女は車椅子を押し続ける。その先には、一つの扉が在った。
「今は吾もあちらで過ごしているのですよ。ご主人様」
 老人はニアライトを振り返り、また穏やかに微笑んだ。
 その扉は元の世界に繋がる扉だ。ニアライトは識っていた。
 ゆっくりと、扉を開ける。
「今までの様にお世話は出来ませんが……賑やかな世界を見に行きましょう?」
 主人の最後の願い―――『自分以外の人間に会いたい』。
 無数の可能性を内包した、その世界へ、主人を連れてゆく。

(―――良き日々は過去であった、であるか。
 仕える者がいた日々は、確かに……良き日々であったのであろうな)

 これは、ノモグロファの黄昏が見せた幻覚に過ぎない。
 しかし、最後の主の願いを叶えられたという確信は……、彼女に残るのだろう。

●『宵歩』リノ・ガルシア(p3p000675)の場合
 ―――やぁねぇ、これって夢かしら? 随分悪趣味だわ。
「そうは思わない? ―――ねえ、“お兄様”」
 黄金の毛並みを持つその人。
 怖いくらいに綺麗な人。
 一族の為にはどこまでも非情になれる、厳格で冷徹な人。
 私が幾度となく誘惑しても一切靡かず、妻だけを愛した誠実な人。
 私のものになってくれなかった、酷いヒト。

 ―――彼は今も変わらず、険しい目で私を見ている。
 
 リノは、彼にそっと触れる。
 絹の様に美しい髪を撫ぜ、艶やかな頬を撫ぜ、無骨な肩を撫ぜ、
 鍛えられた腕を撫ぜ、温かな胸を撫ぜた。
 彼は険しい瞳の侭。声も挙げずに、リノの為すが侭。
 彼のその手をとって、頬に擦り寄せる。
「ふふ、熱い手ね。
 ―――想像通りだわ」
 ああ、それは。
 叶わなかった、何時かの逢瀬に違いなく。
 リノは構わず、彼を抱き締めた。
 強く。壊れてしまいそうな程に。
 胸が躍る激しい抱擁。これは、たった一夜の走馬灯。
 離れる二人の躰。
 リノは、愛おしげに彼の唇を見詰めて、不意にその唇を奪った。
 情熱的な接吻。
「アナタが好きよ、お兄様。
 私のものにならないアナタが―――殺したいくらいに、好き」
 唇から降りていき、彼の首筋に口づけ。
 それだけで私はしあわせ。
 リノは愛おしげに、右手で彼の頬を撫ぜ。
 左手で握り込んだナイフを、優しく口づけした首筋に当て。

 ―――そのまま、彼の首を斬り落とした。

 憎くて憎くて、殺したいくらいに愛してるの。
 噴出する熱い血飛沫。
 浴びるのは。たった二人。
 浴びて良いのは。たった二人。
 浴びて欲しいのは。たった二人。
 永遠に二人だけの、瞬間。二人だけの、血雨。

「―――ああ、やっぱり。
 思っていた通り、血に濡れた金髪がとってもステキだわ」

 ―――私のお兄様だものね。
 彼の頭を大切そうに抱きしめたリノは、心底嬉しそうに呟いた。

●『渡烏は泣いてない』朱・夕陽(p3p000312)の場合
 気が付くと、夕陽は船上に居た。
 辺りを見渡せば、一面冥い、夜の海。大海に浮かぶ小さな船は、心許なく浮かんでいた。 
「……あ、何となく、思い出した」
 夕陽が呟く。この状況に、覚えがあった。
「―――まだ俺が小さい頃。
 夜中に爺ちゃんの様子がおかしくなって……、俺は、一人で隣島までお医者さんを呼びに行ったことがあった……」
 その時の船だ。夕陽は確信した。
「……結局、あの時は、呼びに行くのが遅くなって、……爺ちゃんの死に目に会えんかったんやけど」
 あの時と、違うのは。
 俺の姿は、大人のままで。
 しかも、都合よく隣島に向けて“強い追い風“が吹いている。
 ―――いや。何もかもが、違うのだ。
(あの頃はヒヨコやから飛べんかったし。
 船の櫂は重いし。周囲は暗闇やし、怯えて泣くばっかやったけど……“今”は。“今”なら)
 夕陽は櫂を船底に置く。彼は、力強く隣島の方角を見詰めた。
「大人やから、飛べる。夜も怖くない……!」
 羽ばたいた夕陽。今なら飛べるのだ。

 ―――だから、もう一度。
 今度こそは。ちゃんと、お医者さんを呼んでくるけんね、爺ちゃん―――。

●『信風の』ラデリ・マグノリア(p3p001706)の場合
 ―――村が焼けていた。
 ラデリが幼い頃、住んでいた村だった。
 彼は、その様子を眺めている。
(当時はその理由が分からなかったが……)
 地獄の様なその状況を誰が齎したのか、知っている。
(……火を放ったのは、俺の父親だった)
 ―――見つけた。
 火の色に似た毛を靡かせ。踊るように狐火をばら蒔くその姿。
 穏やかな微笑みを浮かべている、父親。
 殆ど機能していない目をきょろりとさせて、何かを探している、父親。
 ラデリは、いつの間にか子供の様に縮んでいた我が身に構わず、恐る恐る彼に近づいた。
 ≪放火犯と化した狐人≫(父親)は、一人囁いていた。

「ラデリ、ラデリ。私の小さな光」
「早く帰っておいで、お前の恐れる夜は追い返したから」
「近くにいるんだろう、声が聞こえるんだ、お前の声が」
「風邪でも引いたのかい、声がずいぶん違って聞こえる」

 今なら分かる。それは。
「その“声”は違う!
 それは、その声は―――“俺の声”じゃない!」
 目が合った。
 ラデリは、既に狂ってしまった父親と、目が合った。
「お前は、誰だ? ラデリを騙る、愚か者よ」
 父親の声のトーンが変わる。
(……当時の俺は、怖くて逃げた。けれど)
 気が付くとラデリの手には、銃があった。“今の彼”の愛用品だった。
 ラデリは小さな両手でグリップをしっかりと握り、かつて父と呼んでいた人に、銃口を向けた。
「ラデリ……」
「―――けれど。
 その声を『原罪の呼び声』だと知る“今の俺”は、逃げる訳にはいかないんだ」
「ラデリ……」
 ゆっくり近づいてくる父親。優しかった父親。
 ラデリは、その顔に照準を合わせた。
 ―――引き金をひく。乾いた音が一つ。風船が割れるような音が一つ。
「ラ……」
 最後まで息子を求めた父親が息絶えたと知った瞬間。
「……おやすみ、父さん」
 途端に、ラデリの視界が滲む。

 ―――ああ、本当に自慢の息子だよ、ラデリ。ゆっくり、おやすみ。
 
 最後に聞こえた優しい声も。幻覚だというのだろうか。

●『紅獣』ルナール・グルナディエ(p3p002562)の場合
「まさかこんな形での再会―――か」
 ルナールが皮肉気に口の端を歪める。
 彼の眼前に立っていた其れは、過去の彼にとっての憎悪の象徴―――弟の姿だった。
(両親を殺し、同時に俺をも殺そうとした張本人。
 結局、あいつ自体もその後、他人に殺されたが―――)。
 あいつは今も嗤っている。
 「……?」
 思わず握りしめた手に、何かがあるのに気が付く。
 血染めの巨剣。振ればどんな相手をも一撃で殺すことが出来る。
 そんな都合の良い剣を持っている事に、ルナールは突然、気が付いた。
(辛うじて生き残った俺は、勝手に死んでいった弟への感情の捨て所が無くて。
 ……当時は散々悩んで憎んで)
 挙句、自棄になって実験体に成り下がった。
「ふん。それでも“こっち”に召喚されて、
 やっと真っ当に生きる目的を見つけたっていうのに……。
 このタイミングでまた再会出来るとはね。
 ―――運命っていうのは、相当悪戯好きなんだな」
 けらけらと嗤う弟。
 ルナールは血濡れの剣を見詰める。
(……全部ぶっ壊して逝ったお前が、当時は心底憎かったさ。
 それでも、こっちで手に入れた穏やかな時間、そして愛する恋人)
 蒼き翼のオッドアイが、ルナールの中で微笑んだ。
 柄を強く握りしめていた手を、緩める。
(……それに比べればな。
 お前に抱いていた憎しみなんて感情は、ちっぽけだ)
 ルナールは相変わらず嗤い続ける弟を見遣る。然し、その瞳に宿るのは、憎しみとは別の感情。
「だからもうこれで終わりだ。お前の幻影に縛られた過去はもう必要ない。
 俺に必要なのは―――この先の未来だけだ……!」
 ルナールは巨剣を振るう。
 憎む為では無く。進む為に。
「此処でお前に構っている時間なんぞ―――、今の俺にはもう無い!」

●『魔道火車の瞳』クーア・ミューゼル(p3p003529)
 絨毯が敷かれた廊下を音も立てずに駈けられたし、、
 小さな針金が在れば扉を開錠する事が出来た。
 手には、人を殺すのに十分な量の毒が塗られたナイフが一本。
 クーアがメイドとしての最後の主に仕えていた、“あの時”。
 あの時には無かった能力も、武器も、在った。
「だから、今なら出来るのです」
 今でも思い出したくない。
 だって、私達は毎日、虐げられていた。
 目も髪も自慢だった猫耳も犠牲にした。そんな有様。
「今なら主を……アイツを、殺せるのです」
 そんなクーアを救ったのは、劫火だった。
(私が最後に体験した、炎の中での死。
 ―――五感の全てが赤く熱く染まる感覚。
 あれは、間違いなく救いの手だったのです)
「だから、≪主≫(アイツ)には同じ最期なんて迎えさせてあげないのです。
 アイツが最期に見るべきは炎ではなく、血の……、苦痛の赤なのです」
 クーアがすべき事は、決まっている。
 アイツが独りになる瞬間を、今なら捉えられる。
 部屋に忍び込み。アイツが一人で戻ってくる。
 昔は対面するだけで足が竦んでいた。
(けれど、今なら……)
 アイツが居る。無防備な背中を曝して。
 ―――憎いアイツが、居る。
 気が付くと、背中をナイフで刺された主が、激痛に苦悶し倒れていた。
「貴様、メイドの分際が、何を、ふざけるな、許さんぞ―――」
 その表情には憎悪が浮かび上がる。
 クーアは無言でその様子を見下ろしていた。
 どれだけ主が悪態をつき。最後には赦しを請うて、命乞いを始めても。
 彼が死を迎えるまで、クーアは見下ろしていた。
「遂に、やったのです」
 ……だというのに。
 やっと悲願を達成したと云うのに―――なんだか感慨が薄い気がするのは。
「私が既に、救いを得たからでしょうか?」
 クーアの意識が遠のく。
 ああ―――せめて、同僚の皆も。
 ≪救いを与えて≫(焼き殺して)あげたかったのに。


 ふと夕陽は地下室に居る事に気が付いた。
 首を傾げた彼は、
「あっ……」
 ―――目の前のコルチカムが急激に枯れていくのを見た。
 夕陽は、花の生命を繋ぎ止められないかと、知識を活かし緑の抱擁を試みた。
「枯れんでくれんね!」
 しかし、花は次第に枯れていく。
「あー……」
 夕陽は肩を落とす。花は今では滅紫色となり、萎んでしまっていた。
「残念でしたね」
 不意にテラが言った。見渡すと全員が既に復帰している。夕陽は萎れながら頷いた。
「依頼人に届けたいのだろう?
 枯れてはしまったが、なるべく其の侭で持ち帰るのはどうだ?」
 小さな溜息を零しつつ、黙って煙管を咥えていたルナールが言った。
「形が崩れるけん、押し花にしたらどうかと思うのですが……」
「良いんじゃない? 私は賛成」
 リノが言うと、他の面々も頷く。リノは「それにしても、最良の日々、なんてね。嫌味な花言葉だわ」と小さな声で加えた。

 ラデリはコルチカムを、静かに見つめ続けた。
「……この枯れきった花は、俺に何を伝えてくれただろう」
「『過去は消せない、だが教訓にはなる』かな」
「……言い得て妙だ」
 ルナールの言葉に、ラデリはゆっくりと頷いた。
「どこかの俺が爺ちゃんに会えたかもしれんって思えるだけで、俺は満足」
「私は残念無念なのです。まあ、あれはあれで気が晴れたので良しとするのです」
「『三者三様ってやつだな!』」
 対照的な夕陽とクーアに、マリスに笑い声が被さった。


「依頼者は花の回収よりも、この花に会わす事が目的だったようにしか思えぬが……。
 これから何が得られたのであろうかな?
 これも何かの縁であるならば……また、会う事もあるであろうな」
 ニアライトの言に、黒羽も頷く。
「今回の依頼に疚しい点は一つもねぇ。
 なのに匿名で、しかもそれがどんな危険性を持っているかを伝えなかった」
「吾等を試したのか、依頼者も知らなかったのか」
「それとも、この花の餌にでもする心算だったのか。
 ―――もう分からねぇがな」


 その押し花が手元にまで届けられたのを見て、彼女は心底驚いた。
 彼女が感情を露わにすることは、それだけ珍しい。
 彼女は従者に離れる様、目で伝える。一人になった彼女は、暫くの間、真剣な眼差しで滅紫色のコルチカムを眺めると、ふ、と不意に表情を緩めた。

「―――なんて、美しい花」

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

皆様の貴重なお時間を頂き、当シナリオへご参加してくださいまして、ありがとうございました。

①各プレイングについて
全ての参加者が自己を掘り下げる非常に濃度の濃いプレイングで、私がPC様を知ることが出来たこと、
そして熱いプレイングを頂けたことがとても嬉しかったです。

②アドリブについて
シナリオの性格上、一部強めのアドリブ及び補完を行っています。
PC様の性格を損なっていないか、PL様の意図に反していないか、
思う所がございましたら、今後のクオリティ向上の為に、遠慮無くFLでご指摘ください。

③コルチカムについて
『持ち帰る』という発想を一切想定していませんでした。PBWの面白い所だと思いました。
結果、様々な好意的判定を勘案しましたが、枯れる事を阻止することは出来ませんでした。
一方で、花自体は持ち帰ることも、依頼者を満足させることも出来ました。お見事でした。

ご参加いただいたイレギュラーズの皆様が楽しんで頂けること願っております。
『せめて、終止符くらいは。』へのご参加有難うございました。

=========================
アイテムドロップ!
名称:『コルチカムの押し花』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:
 朱・夕陽(p3p000312)
 ニアライト=オートドール=エクステンション(p3p000361)
 銀城 黒羽(p3p000505)
 リノ・ガルシア(p3p000675)
 ラデリ・マグノリア(p3p001706)
 ルナール・グルナディエ(p3p002562)
 マリス・テラ(p3p002737)
 クーア・ミューゼル(p3p003529)

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