シナリオ詳細
<幻想蜂起>エンプティ・アジテイト
オープニング
●ライライクライト
「最早、国は我々民衆を守ってなどくれない!」
広場の高台に立つと、顔を隠したその男は突如大声を張り上げた。
「貴族共は、我々の恐怖になど知らん顔だ! 父が娘を殺し、友が友を殺す中で自分達だけが安穏を貪っている!」
高台の周辺には、彼を守るようにして、同じように顔を隠した連中が立っている。事実、護衛か仲間なのだろう。
「それは何故だ! 誰が敵か、誰が殺人鬼か! わからない中で何故貴族は平然としていられる! 決まっている、貴族が敵だからだ! 我々は今まさに、奴らに食われようとしているのだ!」
男の言うことは無茶苦茶だ。だが、日々に不安を抱える人々はそれを否定したり、無視したりということができず、自然と立ち止まり聞き入っていた。
事実、理解しがたい猟奇事件は増えている。目の前の友人が、親が、妻が、自分に刃を向ける悪意かもしれない。根付いた疑心暗鬼に、男の呼びかけは都合が良く、そうかもしれぬと思わせていた。
「何をしている!?」
不穏な空気を感じ取ったのだろう。警邏の兵が近寄ってきた。護衛の連中が殺気立つが、かまわぬと言うように、演説の男が手を上げて制していた。
「見ろ、事実無根ならば放っておけば良かろうに。止めに入るのはそれ相応のやましさがある証拠だ!」
「黙れ、何を証拠に――」
兵士の声は遮られた。自分の喉を割いた短刀によって。
「潮時だな……オイ、撤収するぞ」
男は担当を仕舞い、護衛達へと声をかける。
「後日、またこの場所に私は来る。その時までに決めておいてほしい。座して死ぬか! 立ち上がり生き残るのか!」
言いたいことだけを言って、その連中は場を後にした。
民衆の心に不穏の種を植え付けて。
●ボムケーキ
「先輩、今回のミッションッスー!」
集まった面々を前に、眼鏡をかけた『可愛い狂信者』青雀(p3n000014)が元気よく呼びかける。
「民衆の扇動を行っている集団の討伐をお願いするッス」
とある辺境領にて武装蜂起を民衆に説く集団が現れた。
彼らの主張では、今現在起きている猟奇事件の数々が王国貴族主導のものであるというのだ。
無論、その論弁は荒唐無稽なものだ。貴族が主導したという証拠は存在せず、彼らは悪戯に一般国民の不安を煽っているに過ぎない。
だが、明確な証拠無く民が乗せられる可能性は大いにありうる。
よって、この集団による混乱を早期に解決する必要があるのだ。
「次の演説のタイミングを狙って取り押さえてほしいッス。当日は一般国民も見に来てるッスから、そっちを巻き込まないようにお願いするッス!」
- <幻想蜂起>エンプティ・アジテイト完了
- GM名yakigote
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年05月09日 22時45分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●テストプレイ
人間はいつだって物事を深く考え、裏を読み、思惑を探り、熟考に熟考を重ねたと思い込み、ただ好ましい方に流れていく。それを良しとさえ思いながら。
この町の住人の心を写しだしているかのように灰色に濁った曇天を見上げ、小さなため息をついた。
ここのところ、嫌な事件には事欠かない。やれ隣人が狂った。やれ妻が狂った。誰も彼もを信じられはしないが、何もかもあらゆるをひとりで賄える者などそうそういない。誰が単独で居を作り、衣を縫い、田畑を耕し、食を調えられるというのか。
人が不安がるのも当然だ。誰をも信じられる根拠がないのに、そのアンバランスの中でしか生きる術を持たないのだから。
「仮面の集団の演説か」
『太陽の勇者様』アラン・アークライト(p3p000365)は吐き捨てるように言う。
「ったく、下らねぇ……住民も狂ってやがるな」
誰もが強いわけではない。その事実を知ってはいるが、つい口に出してしまうのは悪態だ。だが、口さがないというだけで人間の価値が決まるわけではない。ようは示せば良いのだ、行動というやつを。
「しょーがねぇ。ここはひとつ、ぶっ殺して解決するか」
「仕事を増やしてくれる素敵な人達! とはさすがに言わんよ。治安悪くなるのは色々面倒だからな」
金になるならばどんなことをもという『ブルーヘイズ』ルーティエ・ルリム(p3p000467)であったが、流石にクーデターを引き起こされるなどというのは歓迎の外であるようだ。混乱に混乱を重ねた現状を思えば、どちらにせよ頭の痛い話ではあったが。
「わたしは傭兵を副業にしてるが仕事は困らない程度にあればいいんだ」
「「誰が敵か分からない」とか「守ってくれない」とか、それは君達も敵かも知れないし守ってくれないってことじゃないの?」
『cherie』プティ エ ミニョン(p3p001913)がエゴを問う。悲しいかな。強くもなく、優しくもないまま生きているということもあるのだ。変えるように燃え立つよりも、変わらぬことを嘆き悲しむこともあるのだ。
「まだ雇われ者の私達のが信用ありそうなもんだよ。なんたって、世界を救っちゃうんだからね!」
「ここ最近不吉で不気味な事が多くて、不安になるのは分かるよ。でも、だとしたってこんなの、他の人の不安を利用してるだけだよ! 自分達だって好き放題やってるのに!」
『兄の影を纏う者』メルナ(p3p002292)は憤る。ひとは宙ぶらりんな状態になると、流されやすくなるものだ。そうして、先導者という人種はそんな人間らしさを巧みについてまわる。
「お兄ちゃんならきっと、こんなの見逃さない……だから、私も!」
「ぶそーほーき? 仲間がたくさん欲しいのです?」
どこか狂った調子で、『トリッパー』美音部 絵里(p3p004291)が小首を傾げている。扇動いう行為の目的はまずひとつとして、数の利を得ることだ。支配階級は武装をしていても、全体で見れば人数で劣っている。いつだって、戦いの基本は自分の土俵で行うことだ。
「私も「お友達」たくさん欲しいのですよ」
その物言いは、どこか不気味なものを孕んでいたが。
「周りはみんな敵だらけ。鬼の周りは餌だらけ」
『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)が歌うように言葉を転がしていく。誰のことを歌っているのか。何のことを詠んでいるのか。ころころと、滑るようになぞるように、風刺的だが、それ故に耳に残る者ものだった。
「エールでもワインでもお手にどうぞ。きゅんきゅん鳴る犬の鼻声がようく聴こえますから」
「民衆を扇動ですか、今の国の情勢ならばそれも一つの策ですね」
苦々しげに、『蒼壁』ロズウェル・ストライド(p3p004564)。国が悪行を興すなら、民が立ち上がらねばならない。国が腐って見てもいられないなら、民が一掃せねばならない。だが、そうではないのだ。まだ、そうではないのだ。様々な憶測が飛び交い、安易に持ち上げられる「誰が悪いのだ」という声。
「……ですがそれを上手くいかせる訳にはいかない」
民衆が、今か今かと仮面の集団を待つ中に、『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)は紛れていた。わらわらと、がやがやと。人を隠すには人の中とは言ったものだが、確かにこの中であれば目立ちはすまい。何せ、頭ひとつ低いのだから。
そんな自虐じみた思考は悲しくもなるが、それで誰かが助けられるのなら、悪い話でもないだろう。
ざわめきが、大きくなった。
視線を同じにすれば、現れる仮面の集団。
人数も事前情報と変わらない。ならば、これ以上の戦力は無いだろう。
ざわめきが、ひとつ小さくなった頃。
扇動が始まった。
●オペラ
三人寄れば文殊の知恵と言う。しかし大衆は個人としての性質を失い、流されやすいのだそうだ。どこからどのあたりまでが知泉の境目なのだろう。
演説が始まるよりも、少し早く。
ルーティエは広場の一角を使い、ダンス・ステージを披露していた。
集まっていた民衆の中には、明確な貴族への不満を持つものも居たが、この世情の中、数少ない娯楽代わりとしている者も少なくはなかった。
ようは、野次馬根性である。あくまで妥当貴族を掲げているのだ。明確に革命を掲げなくとも、攻撃の対象にはならないと楽観視しているのだろう。
だが、そんな連中だからこそ、より娯楽性の高い方に傾いていく。顔を隠した素性の怪しい男が声高に叫んでいるよりも、可愛い女の子が踊っている方が遙かに魅力的だ。
ふらふらと。ふらふらと。
ひとり、またひとりそちらへと移ろいでいく。
頃合いを見て、ルーティエが移動を開始する。釣れた連中を、この後戦場となる広場から引き離そうというのだ。
十分な距離をあけて、さて戻ろうかという時に。
「できればこの場で待っててくれ。後で金取るから……」
仮面の集団が出現したことでざわつき始めた民衆の中を、サンディがするすると合間を縫うように進んでいく。
集団から外れぬように、無理な移動をして悪目立ちしたりせぬように。時に止まって、時に動いて。その合間に興味を引きそうな言葉を撒いていく。
興味本位の主婦層を見かければ、「向こうの通りの店で特売が始まる」などと言って視線をそらさせた。通りは角の奥になっていて、ここからでは見えない。確認しようと彼女らは集団を外れていく。
不安げに仮面らを見上げているひとまとまりの間に入れば、「もうすぐここは戦場になる」と煽ってみせた。
「おい、行こう」と誰かが誰かの手を引いて駆けていく。
虚実を交えようかとも考えたが、不要な嘘がバレてギルド側の印象を下げるのはリスクが高いと思い直す。
仮面のそれらからは見えぬまま、引き剥がしていく。減らしていく。興味を、ずらしていく。ひとり、またひとり。
高台の上から、男がロズウェルのことを見下ろしている。
何かを言おうとするも、ロズウェルの声はか細い。その脇腹には、短刀が深く突き刺さっていた。
はじめ、演説が進む中、ロズウェルはそこに割って入ったのだ。
「一つ、宜しいですか?興味深い話だと思いますがその話の根拠は何処にあるのでしょう」
だが男は答えず、彼の部下が一斉にロズウェルへと攻撃を開始した。これ見よがしに剣が翻れば、民は怯えて逃げていく。
割って入った兵にすら、一切の躊躇いなく暴力に訴えた仮面の集団。彼らがロズウェルの発言を悠長に待つ道理など無かった。
準備が整わねば、あまりにも無勢。
耐えれば、仲間が来てくれる。そう願いを込め、襲い来る凶刃を弾き返して、何度目か。
脇腹に、鋭くも重い感触。
体温が失われていく。呼吸が荒い。痛みが信号を脳で掻き鳴らしている。
それでも、震える声で矜持を掲げた。
「無辜の民達を犠牲にさせる様な真似は――」
そこで意識が途切れた。
●クライオ
泣いて良いという。泣いてはいけないという。逃げても良いという。逃げてはいけないという。無理をするなという。限界を超えろという。生きろという。死ねという。
倒れた仲間に向け、トドメとばかりに振り下ろされた剣に対し、メルナが割って入っていた。
殺意のこもった長剣に、己の大得物打ち合わせる。
不快な金属音。質量同士がぶつかった響きが全身に伝わり、メルナは小さく顔をしかめた。
先の依頼による傷がまだ癒えていないのだ。無理をすれば自身の生命に関わる。その危機感に焦りはするものの、仲間の窮地を流すような真似は出来なかった。
「人と戦うのはまだ慣れてないけど、でも、悪い人達なら容赦は出来ない。お兄ちゃんだってしないはず。だから……覚悟!」
盾で構えた敵のそれに深く接近し、大剣を横薙ぎに奮う。風を切る重さは驚異だ。だが、盾に阻まれ思うようには攻撃できない。
喧噪。走り去る人波。広場全体から住民が避難できるまで、あとどれほどだろう。それをかき分けて仲間が合流できるまで、耐えねばならない。
敵の長剣を防いだそれに合わせて飛んできた術式がメルナを打ち据える。
意識を全方位に。頬を伝う汗を拭う暇もない。
ようやくというべきか、不測の事態への対処としては迅速と称するべきか。
逃げ惑う人混みを抜けたアランが、敵前衛に向け、カモフラージュにと布で包んだままの剣をそのままたたき付けた。
同時、熱気が荒れ狂うも、巻き付けた布に阻まれて重さとしての効力を超えはしなかったようだ。
剣を覆うそれには火がついたものの、瞬時に焼き尽くせるものではない。それを振りほどかんと、一度大きく空を切らせた。
盾持ちが厄介だと感じたのか、迫る敵に向けて大上段に振りかぶる。
肩と手首に力を込める。柄の根と端に左右の手を配置し、てこの原理を合わせて思い切り振り下ろした。
相手の構える盾ごと押し込んだ鈍い感触が伝わってくる。
が、浅い。
その要因は高台からこちらを見据えるリーダー格の男だ。
その術式により底上げされた生存能力が、アランの剣術を思うようにはさせてくれない。
厄介なものだと内心で毒づきながら、戦闘のスタイルを切り替えていく。
プティの放つ矢が、敵を上空から強襲した。
高高度による狙いにくさもあり、放たれたそれの殆どは碌なあたり方をしたわけではなかったが、敵の意識を上空に向けさせることには成功したようだ。
どこから来るか、分からない。そう意識付けさせるだけでも、レイドアタックを仕掛けた意味は大きい。線上に高さが加わると、それだけの複雑さが増すのだ。
プティは高度を下げ、敵ヒーラーとおぼしき方へと弓を引き絞る。その選択肢は正しい。集団戦における場合、替えのきかない役割から潰していくのは非常に利にかなった戦術だと言えよう。
盾役が間に割って入る。ありがたい話だとほくそ笑んだ。かばうという行為は、避けられてないということだ。
急所を避けてはくるだろう、盾でいなしてもくるだろう。だが避けられない。射線から身を逸らすわけにはいかないのだ。
高度を下げ、弓をまた引き絞る。定められた狙いに向けて、風を切る音がした。
「向かって来てくれるなんてうれしいなあ、『皆』と一緒にがんばらないと。だって、お友達になってくれるんでしょう?」
絵里の言葉の意味は、無邪気だがとても残酷なものだ。理解をしてはならないと、異常な忌避を感じたのか、足の鈍ったフォワードのひとりを、左右に持った刺突剣で貫いた。
嗚呼、またひとり。そう思うと同時に、まだこれだけ、という思いも拭えない。
数で劣る状態を相手に、正面から攻撃をすることは難しい。
こちらの損耗と、向こうの損傷と、その程度を秤にかけて絵里は実感していた。
前衛に居た最後のひとりが、盾を割られ、地に伏せる。
まだまだお友達になってくれる人は残っているが、防御の一角が崩れた今、巻き返すことはかのうだろうかと。
「がんばって倒すのです。お友達増やすのです。もっともっともっともっと。だって、私は寂しがりやなのですから」
それでもどこか、瞳の奥に螺子曲がった色を宿しながら。
魔力を帯びた矢が、カタラァナを貫いた。
痛い、とは思うが、みっともなく喚いたりはしない。
二度、三度。いや、もう数える方が馬鹿らしいか。はじめから、数の有利で遅れをとっているのだ。手数の差は考える程、空しいだけだろう。
空気の層に声の波を通し、反撃する。
脇腹が痛い。それでも話す。肩が契れそうだ。それでも問う。血がどれだけ流れただろう。それでも歌う。
剣で裂かれ、術で飛ばされ。それでもなお、震わせる。震わせる。震わせる。
渾身の歌。暴威とも呼べるそれ。肺に十分な空気が送られず、喉が割け舌の根が乾いても。それでも。
司会が揺らぐ。自分が膝をついたのだと分かる。水たまりの感触。雨はいつ降ったのだろう。あんなにも息苦しい曇天だったのだ。確かに、降り出していてもおかしくはない。
びちゃりと、顔が水たまりにつかる。
ひどい匂いだ。雨は鉄錆のような匂いがするけれど、今日は特にひどいものだ。
●キングス
我思うと思う根拠を述べよ。
退こう、と誰かが合図した。
敵に士気を悟られないよう、それは聞いただけではとりとめの無い言葉だ。鼓舞をするような、活力を得るような。そういう言葉だ。
行動は早い。敗北への懸念よりも、放置すれば仲間の命に関わるからだ。
倒れた誰某を担ぎ上げ、敵を睨んだまま後方へと足を向ける。
身軽な味方が得物を振りかぶり、わざと大ぶりな一撃を放つ。
上がる土煙。一瞬の目眩まし。
それでも十二分。
走る。走る。走る。走る。
街の外周までたどり着いた頃になってようやっと追いついたのか、披露が両足にのしかかり、酸素を求めて肺が心臓をドラムした。
口の中に感じた苦みは、しばらく忘れられそうもない。
了。
成否
失敗
MVP
なし
状態異常
あとがき
流されやすい生き物なのです。
GMコメント
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。
武装蜂起を促す危険な集団が現れました。
彼らが民を扇動し、その思想を植え付ける前に討伐する必要があります。
【敵情報】
■武装した集団
・顔を隠した集団です。
・16人。
・それぞれが武装しており、戦闘経験があると予想されます。
●リーダー格
・5人の護衛を連れて後方で行動します。
・味方の命中・回避性能を上昇させます。
●ヒーラー
・2人の盾役と共に行動する回復役。
●前衛5人
・主に剣と盾で武装している。
●後衛2人
・神秘攻撃を主とする。
【シチュエーション】
■街中にある広場
・街の中心にある開けた場所。
・高台があり、そこで演説しています。
・これを気にして住民が見に来ているようです。そのまま戦闘を開始すれば巻き込まれるでしょう。
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