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シナリオ詳細

誰かを助けるのはいけないことですか?

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●エレミタ・ニア
 ――ああ、神様。私はどうすればよかったのでしょう。
 課外活動として外へ出た折、私はあの人に出会ったのです。
 青褪めた顔をして、木の根本で座り込んでいました。足には綺麗な赤が滲んでいました。
 けれど罪深き大人です。しかも旅人だと言うのです。旅人は存在してはならないと、ファザーから教わりました。
 なのに。なのに私は……。

 膝がしらは堅い足場を得て、ひどく冷えている。痛いという感覚もあるはずなのに、今の少女を覆うのは喜びと、ほんの少しばかりのもどかしさ。改悛者のように許しを乞うでもなく、彼女は後ろ手に縛られ、ぐったり項垂れていた。
 湿る空気が、辺りを夢幻のように覆ってしまう。霧により白んだ世界が、彼女の前にある崖の恐怖を薄れさせる。
 溜める涙など無かった。すでに枯れ果てたまなこは、景色を明瞭に映してくれやしない。裂かれた衣服は無残に垂れ、肩へと押し付けられた魔女の刻印は、少女に尋常ならざる痛みをもたらした。我慢しようと思って我慢できるものではない。少なくとも十を数えたばかりの娘に、この痛みは。
 だから素直に悲鳴をあげた。
 この世の終わりかと思える悍ましい声が、自分の声だと少女にはわからなかった。
 それでも周りで子どもたちが歌う。つい昨日まで少女と共に笑い、遊んでいた子どもたちが放胆に歌う。
 魔女を罰せよ、裏切りの魂を浄めの時をと、華やいだ声で。

 ――真に罪深きことだというのなら、私は喜んでこの身を捧げましょう。肉を離れ、魂が浄められるのを祈りましょう。
 しかし、しかし私は迷っているのです。わからないのです。お教えください我らが神よ。

 そして少女は、悲鳴が終わらぬうちに叫んだ。

●目撃
 天義の地を歩むイレギュラーズのひとり、『ネクロフィリア』物部・ねねこ(p3p007217)が抱く欲は実に素直なものだった。
 アドラステイアから少し行ったところにあるという、『疑雲の渓』と呼ばれる場所。
 魔女裁判によって裏切り者とされた子どもを突き落とすための、底の見えない崖。アドラステイアからそこそこ近いのもあり、調査に時間はかけられない。いつ気付かれ、追い払おうと軍勢が押し寄せるかもわからない。
 だが、調査をしようと言い出した本人――ねねこの心は少しばかり踊っていた。
 底がわからないため崖を下りることはままならずとも、そばに何かしら痕跡が残っていないだろうか。崖に引っ掛かってくれたらと思いつつ、数多の子が落とされたのならその可能性は低いだろうと、小さく溜め息を零した。
 息を吐いたところで、立ち止まる。
「あれ……? 人がいる、みたいです」
 ねねこは共に調査のため訪れていた仲間へ小さく囁き、近くの岩場へ身を寄せた。
 まだ随分と先だが、薄い霧の中で蠢く人影のようなものがぼんやり見える。
 逸早く気付けたのも幸いで、数歩だけ近寄ってみるも、向こうの団体様はイレギュラーズに気づいていないらしい。ただ、あまり急いて前へ出ると、感づかれる可能性はある。それに、岩や窪みなどが身を隠してくれるとはいえ、ここは開けた崖の上。音や声などが、いつ届いてしまうかもわからない。
 その証拠に、天をも切り裂く大音声が乗ってくる。
「旅人を助けた背信者ニアに、魔女の刻印をッ!」
「我らが新しき神を裏切ったエレミタの魔術師に、決して消えぬ証を!!」
 連なった声はいずれも十代半ばの子どものようだと、ねねこたちは思う。
 どうやらニアと呼ばれた、彼らにとっての『裏切り者』が『疑雲の渓』へ突き落とされるところらしい。よくよく位置を確かめようにも、距離が空きすぎているのと、霧のおかげで肝心のニアの居場所はわからない。もちろん、周りにいるアドラステイアの民の正確な人数や居場所も。
 瞬時にイレギュラーズは状況を理解し、顔を突き合わせた。
「情報は得たいところですけど……どうします?」
 ねねこの問いはシンプルだ。
 魔女として今まさに殺されようとしているニアを救うため、急ぐか。
 ニアには構わず、アドラステイアの民を捕らえることに注視するか。
 そのとき、イレギュラーズの耳朶を、少女の張り裂けそうな悲鳴が打つ。
 ここからでは窺えないが、苦しげな声音と先ほど聞こえた言葉から――身体に焼き印を押されたのだろう。
「ぁあうあッ、く、ぁ……お、お教えください! 我らが新しき神よっ!」
 水分を失せた掠れ声が、絞り出したような声が、悲鳴に続いてイレギュラーズの元にまで届く。
「誰かを助けたいと思うのは……本当にいけないことなのでしょうか……!」

GMコメント

 あなたはなんて答えますか? それとも、何も答えませんか?
 アフターアクション、ありがとうございました!

●目標
 魔女とされた少女ニアを救出し、無事に連れ帰る
            or
 アドラステイア勢の殲滅もしくは『4人』以上の捕縛

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 オープニング直後から動けます。現時点では相手に気付かれていません。
 目安としては『攻撃が届かないぐらい』離れています。
 突き落とされるまで、そんなに時間は残されていません。助けるなら迅速に。
 薄い霧がかかっていて、やや視界不良。それは相手も同じです。
 なお、崖をおりることはできませんのでご了承ください。

●敵
・アドラステイアの騎士(聖銃士)×2人
 鎧と兜で全身を覆った騎士。聖獣の使い手。中身は10代半ばの子どもです。
 一人は氷で出来たような長杖が、もう一人は炎や雷の魔弾を撃つ銃が武器。
 どちらも中・遠距離の攻撃を得意とし、単体・範囲攻撃どちらもできます。

・ジズ(聖獣)×2体
 ダチョウみたいな姿をした鳥で、羽が真っ白。爪が異様に太く、鋭利です。
 暴風を起こして吹き飛ばしたり、高速で蹴ったり、嘴でつついたりします。
 耳をつんざく鳴き声は広域へ届き、ダメージなし。識別、怒り、ブレイクあり。

・子どもたち×6人
 戦で親を失ったり、親に捨てられてアドラステイアへ来た子どもたち。
 ニアを魔女裁判にかけた時のメンバーです。見た目は10代前半。
 ナイフ持ちが3人、槍使いが3人いて、いずれも素早い動きが得意です。

●救出対象
 名前はニア。エレミタと呼ばれる小さな村出身の孤児。見た目は10歳前後。
 旅人(ウォーカー)を助けたとして、裁判にかけられました。
 基本的に抵抗はしませんが、来いと呼んですぐ動けるかはわかりません。

●独立都市アドラステイアとは
 海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 内部では戦災孤児たちが労働し、魔女裁判で互いを谷底へ蹴落とし続けています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

 それでは、いってらっしゃいませ。

  • 誰かを助けるのはいけないことですか?完了
  • GM名棟方ろか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
レオンハルト(p3p004744)
導く剣
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
物部・ねねこ(p3p007217)
ネクロフィリア
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)
孤独の雨
ビスコ(p3p008926)
軽快なネイキッド

リプレイ


 寒空に見守られた『疑雲の渓』は、いつもの光景を眺めて過ごす。泳ぐ霧は魔女の罰の行き先を覆い隠すかのように、渓底との境界線を曖昧にさせていた。隆起した岩場や窪みの続く一帯が、急ぐイレギュラーズの呼吸を乱す。
 だから息吹が干渉する時間の流れへ『解放する者』レオンハルト(p3p004744)は触れた。固い岩を蹴って跳ね、飛び込んだ先は敵陣の真っ只中。駆けつける靴音に敵襲だと感づいたアドラステイアの民も、到着までの早さに騒然となる。
 守りを固めて応戦の態勢を整えようとしていた子どもたちの輪を乱し、レオンハルトはそっと顔を上げた。
「誰かを助けることの是非を、他ならぬ神に問うのか?」
 姿はすぐに見当たらなくても、辺りにニアがいるのは――感じ取れる気がして問い掛ける。同時に宙を分断したのは狩猟者の乱撃。重厚な処刑剣で風音を生み、彼の技は冴えた彩りの花を咲かせた。飛沫をあげた命の欠片をも、霧は包み込んでいく。それでもレオンハルトの猛攻は止まない。
 そんな彼の後背からふわり飛び出した人影――『須臾を盗む者』サンディ・カルタ(p3p000438)は、岩の頂から頂へ移りながら愛用の武器を構えていた。
「……さてと」
 一陣の風が吹き、衣を靡かせようとも彼の軌道は変わらない。
「大怪盗サンディ、行くぜ!」
 宣言して跳んだ身は、目にも止まらぬ速さで子どもたちの間へ消えた。次に子どもたちがサンディを認識したときにはもう、彼のツェアシュテーラーが遺憾無く力を発揮している最中で。
「ただの一撃だと思って甘く見んなよ?」
 得意げにサンディが口端を上げた。何故ならこの武器は、サンディがすべてを駆逐するために生まれたもの。ゆえに彼の力が肌身を裂けば、彼の心が敵対者を小突けば、戦い慣れた者でもまともに立っていられない。
「どうだ! 布陣もなかなかできねーだろ!」
 胸を反らして誇ったサンディはそこで留まらず、次なる疾風となって渓を巡る。
 二人に続いて前を、上を、未来を見つめて地を蹴った『アデプト・ニューアイドル!』ビスコ(p3p008926)は、全身から解き放った眩しい輝きで敵の目を焼く。その間に、レオンハルトの唇が子どもらへ発したのは、驚嘆にも似た情。
「君は……いや、君たちは教えられていないのか?」
 亡き親か、近所の人でもいい。一回でも耳にする機会があったなら。目にする機会があったなら、受け取り方も違ってくるだろうとレオンハルトは考えて。
「誰であれ、困っている人を見かけたら助けてあげろ、とな」
「そんなのおかしーよ! ね!」
「自分の身は自分で守るんだよ!」
 共感による連帯を強めつつ、子どもたちは明るく言う。邪気がない、とも取れる反応にレオンハルトの目が細まった。そんな彼へ異種を混合したかのようなジズが飛び掛かり、サンディやビスコをも捕捉した鳥の鳴き声が思考へ響く。
 そうして賑わいを作り出す彼らとは別に、『誰かの為の墓守』グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)は岩を踵で打ち鳴らし、空気を伝わせてグリムの存在感を敵陣へ叩きつける。
 倒さねばならぬ敵が、目の前にいる――そんな認識をさせる程、グリムの呪術は敵の精神を侵す。グリムは死のはじまりを視るからこそ、怒涛の敵意が己を突き刺したところで、怯みはしない。
 襲撃と感情の変化を誘う動きが連なり、崖上のざわめきが増していく。そんな中。
 きっと今も。これからも。いたるところで魔女裁判が行われ、子供達が洗脳され、戦に駆り出される。
 どんなに思考の糸を手繰り寄せても終わりが見えず、『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は駆けながら眉根を寄せた。アドラステイアの現状について、憂うよりも強く濃くこみ上げてくるのは怒りだ。
「君たちに問う!」
 霧も空も構わず貫くリゲルの一声は、子どもたちの視覚を吸い寄せる。
「人助けを悪しき行為とするならば、何をもってして正義とするのか!」
 堂々たる口上と共に、リゲルの心根そのものを――白銀の剣としてかたち作り、項垂れていたニアにも届いた。イレギュラーズに少女の姿は、まだ見えないけれど。
「ニアは間違っていない! 神に代わり、ここに断言する!」
 いざ言い終えてみると、リゲルも僅かに苦みを噛み潰して笑うしかなくて。
「神を代弁する不届き者を懲らしめよ!」
 聖銃士の指示に一考もせず、子どもたちが武器を振りかざす。罰せよ、知らしめよと不穏当な音で。
 一方、迂回していた『鏡の誓い』ドゥー・ウーヤー(p3p007913)が鼻を鳴らした。霧に紛れても匂いは匂い。残滓として漂う焼き印の残り香を拾い上げ、突き進む方向を定める。
「ほんの少しだけど……あっちからする」
 研ぎ澄ませた感覚で捉えた道は、はっきりと映らない。だが匂いだけでなく、音という道標もあった。
「ありがとうございます、急ぎますわー」
 ドゥーの判断を頼りに『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)が応じる。
 誰かを助ける志を拒む世界はきっと、ユゥリアリアの望む色をしていない。睫毛を震わせてそっと押し上げれば、霧に隠れたこの戦場は、望まぬ景色に似た色をしている。
 だからユゥリアリアは囮が活動している所を避けて進んだ。移動に全身全霊を注いだ彼女の足は早く、満ちる霧にも妨げられぬまま小柄な少女へ近付く。もちろんドゥーも一緒に。
「あなたを助けに来たんだ」
 ドゥーの挨拶は、少女にとって最も判りやすいものだった。
「たす……?」
「あなたが助けを望んでいるかは分からないけれど、俺は……」
 言い淀んだ音が、霧にさらわれていく。
「……誰かを助けたいと思ったあなたを肯定したい」
 どう伝えようか迷ったドゥーは、素直な気持ちを言の葉に換える。
「俺達にも、あなたを助けさせて」
 ニアの瞳が揺れる。喜びと戸惑いの入り混じった少女の感情に、ドゥーは顔色ひとつ変えず手を差しのべて。
「離脱するよ。しっかり掴まってて」
 言い終えるや彼はニアを抱え上げた。すっかり冷えて体力も奪われていたのか、傷だらけのニアの足は痛々しい。
 そこを、地面に這いつくばるようにして、慎重に罠の有無を確かめていた『ネクロフィリア』物部・ねねこ(p3p007217)が、呼び止めた。二人へぐっと親指を突き出し「大丈夫」の合図を送る。
 あの、とニアが戸惑いを声で模る。霧で表情も包まれてしまうため、ねねこは顔の筋肉よりも唇と声帯を動かした。
「捨てる神あれば拾う神ありって奴です。私、神様ではないですけどね」
 ねねこがさらりと継げたからか、ニアはきょとんとする。
「あ。ニアさんこれどうぞなのです」
 お菓子を手渡すかのような気軽さで、ねねこが少女の手へ乗せたのは、とっておきのヒールグレネード。しかも安心安全の強化版だ。双眸できらりと自信を光らせたねねこが、ドゥーとユゥリアリアに支えられて歩くニアへ続ける。
「爆発するけど大丈夫なので! 寧ろ治るのです!」
「なお、る……爆発するのに?」
 理解が追いつかず、ニアは首を傾ぐばかりだ。ねねこの空気に誘われたニアの反応は、力無くとも子どものもの。退避しながらユゥリアリアやドゥーは、緊張を帯びた頬に少しばかり、柔らかさを付け足した。


 無数の命を吸い込んだ渓に流れたのは、明朗なるビスコの天使の歌。そして敵陣の挙動を見て彼女は胸いっぱいに息を蓄える。
「レオンハルトさん! サンディさん! 今です!」
 入り組んだ足場も何のその、ビスコの明るい声が透りさえすれば、ふたつの返事が霧に圧されず返る。
「こいつはおまけだ!」
 サンディが勢いの波に乗り、得物での殴打を重ねていく。
 歌に紛れ、憎悪を垂らした爪牙で切り込んだレオンハルトは、明らかに異質な羽ばたきを感じた。羽ばたきのみではない。暴れ回る気配が、崖上での脅威となっている。
 騒がしさが見事に健在な渓で、意識せずレオンハルトは短い息を吐く。
 アドラステイアでの教育が洗脳に近しいことも、彼は理解している。
 そうしてレオンハルトが引き続き、言葉と得物で群れを掻き回す。渦中にある分、刃や魔弾に狙われやすくなるも――これは囮を担った仲間たちも同じこと。
 抜けだそうとした巨鳥へ、グリムは笑みの代わりに静けさの盾を手向ける。
「行かせない」
 押せば縋り付く体勢になり、鳥が払い落とそうと身をよじった。
 荒ぶる姿をもグリムが押し込むその近く、敵に囲まれたのを視認したリゲルが、すぐさま得物を旋回させる。彼の光輝なるものに惹かれた敵を払えば、転んで動きがままならなくなる子も出始めた。まともに受けたとて致命傷にはなり得ない。
 だからこそ一刻も早く、目的を済ませるのが大事だった。
 別の方角から避難していたとはいえ、迫る脅威もしかと捉えられるだけに、少女ニアの唇は色を失い、手はひどく冷えきっている。
「ニアさん、心配しないで」
 ドゥーは声かけを絶やさず、終わりなき悪意でジズを追い詰めていく。言知らずの鳥は叫ぶばかりだが、耳をつんざく鳴き声はイレギュラーズにとって苦痛の種だ。
 声から遠ざかっていくように先導するねねこと、ニアを抱えたドゥーを庇おうと、ユゥリアリアが姿勢を整えて立つ。子どもや騎士は仲間たちが抑えているが、ほんの一瞬の隙を縫ってジズが駆け寄ってきた。恐らくニアを狙っているのだと、ユゥリアリアは察して。
「あの子に近づけはしませんわー」
 緩めた眦はまるで幼子を諭すかのよう。声音もまたむずかる子を宥めるかのよう。けれどユゥリアリアが顕した紋章は鮮烈な色彩を連れて、果てのない海の歌を響かせる。聖銃士が悲鳴も呻きもあげず、兜を押さえ込んで苦しむ。
 鳴り止まぬのは、かれらに届く歌だけではない。
 ニアを庇って進むねねこが、思い出したように口を開く。
「……ちなみに私は、助けれる人は助けた方が良いと思ってるのですよ?」
 ねねこがニアへ添えたのは、安堵へ繋がる言葉。具に渓を調べるのが叶わなくても、ねねこの瞳から光は損なわれない。
 離れたとはいえ微かに聞こえてきた会話に、グリムがゆっくりと瞬く。誰かを助けたいと願う気持ち――それは心ある者にとって普通のことで、否定されてはならないもの。
 直後、悠久を冠した杖に暗黒を這わせ、ジズの羽根を切り裂く。
 散った白羽根は天使のように舞えど、悪魔を思わせる爪は凄まじい速さでグリムを蹴った。


 しぶといジズの脚に絡まるのは、ドゥーが贈った虚無の力。脚力を発揮させないための力でふらついた鳥へと、グリムは翻した外套を盾に、ジズの一打をいなして押す。より均衡の崩れた鳥が、爪で岩を掻き、嘴で行く手を阻むグリムたちを襲う。
(誰かを救いたいと願った者達が、あの子を助けてと言っている)
 願いにも祈りにも似た数々の声がした。だからグリムは、生きるのをやめない。聖銃士の撃ちだした氷が来ようとも、払いのけてまた立つだけ。しかもグリムの身にはねねこが投擲した身代わりねねこ人形が張り付いている。
 グリムが被弾した瞬間、人形が爆ぜて敵にも痛みを伝播させ、聖銃士を翻弄した。
 その頃、レオンハルトの繰り出した一撃がジズへ向かう。そして一撃とは別に、子らへ語りかける。
「お前たちが何を信じても否定はしない。……が、信じる者を違える時は黙って見送ってやれ」
「新しき神への裏切りだ!」
 やはり彼らは呪文のように、そう答えた。
 二体のジズがやり場なき苦痛に喘えでいると、続けて踊り出たサンディが華麗なるルージュ・エ・ノワールをお披露目する。混ざったふたつの色が羽に滲み、ジズが苦しげな呻きを漏らす。
 仲間との距離を目視し、リゲルが披露するのは鮮やかなる流星の剣技。施した相手はジズだが、白んだ佳景にあっても衰えぬ銀の瑞光は、子どもたちに未知の『色』を伝える。そこでリゲルは尋ねる。子どもたちへと、常の調子で。
「君達は、何があってもアドラステイアと共に生きるつもりなのかい?」
 先ほどの一閃と同じように、当人の言葉に乗る色もまた、彼らにとっては異質であり見知らぬ存在で。
「魔女裁判のない世界に行きたいとは思わないのか?」
 単刀直入に胸裡を探ったリゲルへ、助けを求める声は届かない。襲いくるがむしゃらな力を押し返しつつ、リゲルがもう一度尋ねてみるも、答えは一緒だ。
「ビスコちゃんに任せてよ!」
 その間に、ビスコが実に慣れた足取りので、レオンハルトとサンディへ交互に声援を送り続ける。振り撒く愛嬌も、アイドルという存在がもたらす希望も知っている少女だからこそ――けれど本当は。
(死んだらそれまでだもん、戦わないと誰かが死ぬなんて、そんなの……!)
 笑顔の裏にある情を滲ませない。一拍だけ呼気を整えて、再び前を見つめるのみ。
 同じ頃、尚も追いつこうともがく聖獣たちに、ユゥリアリアは片頬に手をあて、ほう、とため息をつく。そして。
「引き際をご存知ないのですかしらー」
 高速機動に長けたノートゥイ=シュクヴァールの噴出力で、盛大に弾き飛ばした。真白き羽根が散り、無残な姿となった一体のジズを、レオンハルトのヘイトレッド・トランプルが断つ。
 そこへ、祝福のブローディアを掲げてグリムが肯う。
「だから何としても……救い出して終えよう」
 自らの士気を叫びに換え、戦場を震わせる。狼煙をあげろと彼が叫べば、聞き付けた子どもやもう一体の鳥が騒ぎだす。
 直後、一気に距離を詰めたサンディの双撃が、まばたきよりも速く鳥を斬り伏せ――絶命へと連れていった。
 状況を察したビスコが、すかさず挙手をして。
「ビスコ一日署長です! 交通安全をモットーについてきてくださーい!」
 変わらず清らかな歌を口ずさみながら、彼女は囮役だった仲間たちの前をゆく。
「援護するのです!」
 先を進んでいたねねこが、鞄から取り出したスターライトボムを次々と勢いよく投げ、蝕む苦悶から仲間を癒していく。全員きっちり生かして帰す。それが此度の任務におけるねねこの方針だ。
 聖獣は消えたというのに、行く手を阻もうとする子どもたちに、お願い、とドゥーがか細く囁いた。
「どいて」
 燻る焦心がドゥーの胸を蝕もうとも、手足は微塵も緩まない。杖で相手の鎖骨を小突き、表情が歪んだ隙に駆け抜ける。
(……あの子達も、アドラステイアに毒された被害者だ)
 振り返らずともドゥーには感じ取れた。子どもたちが己の背へ浴びせる、猛烈な敵意を。それでも。
 ――できるだけ殺したくない。
 小さく動いて言の葉を紡いできたユゥリアリアの唇も、今ばかりは絶望の海を歌う。凍てつく呪いを帯びた声で。その青は芯を蕩けさせる魅惑の歌。どんなにニアを追おうとしても、触れさせないための音だ。
 連ねて、黒に埋もれたグリムのまなこが敵をじいっとねめつけた。開戦のタンジーで、少女へ向かうはずの意識を自らへ引き寄せる。
 そうしてイレギュラーズも撤退していく道中、サンディは振り向きざま、騎士や子どもたちが集まっている足元へカードを投げ放った。
 前方でひたすらニアを励ますドゥーの声音は、霧に溶けそうな柔らかさで紡がれていて。
「もうすぐ、もうすぐだから」
 ニアは言葉ひとつひとつに頷いた。
(落ち着けるところまで行ったら休んで手当して……それで……)
 ドゥーにとっても、考えることはたくさんある。
「焼き印を消すなら、練達の技術なら或いは……とは思います」
 詳しくは知りませんけど、と付け足してねねこが囁く。
「お化粧で隠したりも出来ますしね」
「焼き印を……」
 ニアはまたもや同じ音を口にする。まだ、自分の中で置かれた状況がしっくり来ていないのだろう。
 そこでレオンハルトが屈み、ニアの焼き印へ銀腕の知を授ける。
「……大した効き目はないかもしれんが」
 無いよりは良い、という理由から不調を拭うレオンハルトの厚意に、ニアは目を瞠る。急ぎ腕をニアの視界から隠して、レオンハルトはほんの少し目付きを緩めた。焼き印も心なしか、薄れてきていて。
「ニアは強い子だね」
 リゲルがふと想いを綴る。
「誰かを助けたいという思いは、勿論正しい。とても尊いものだよ」
 目線を合わせて褒めると、慣れていなかったのか恥ずかしげにニアは俯いてしまった。
「世界はね、人の心の暖かさで回ってるんだよ!! だからビスコもたくさん歌って踊るんだ」
 ビスコもまた、ふくりと頬を上げてニアを応援する。
「優しさで世界はできてるって、ビスコは信じてる!!」
 前を向いて歩き続ける。それがアイドルの仕事。
 つい先ほどまで凛々しく渓を見据えていたユゥリアリアの目許も、いつのまにか穏やかになっていた。
「よく頑張りましたわねー」
 仲間とニアへの真正面からの労いに、再びニアは頬を赤らめ顔を逸らしてしまう。
 この調子だと、やつれた少女とまともに話せるのは、少し先になるかもしれない。
 けれど世を渡る風は今日も冷たく、イレギュラーズに現実を報せる。このまま走り続ければ、アドラステイアから随分と離れる。追っ手も来ないだろう。
「レディを泣かす集団ってーのは、ろくでもねーもんさ」
 サンディは後ろを振り向くこともなく天を仰ぎ見て、ぽつりと呟く。
(やっぱ人に言われてなる聖銃士なんて、大したもんじゃねー)
 噛み締めた苦い情を、どうにか飲み込みながら。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 無事、ニアを救出し、敵の追跡も振り切れました。
 戦闘にせよ救出にせよ、場所が場所なので時間をかけていたら危なかったことでしょう。

 ご参加いただき、ありがとうございました。
 またご縁がつながりましたら、よろしくお願いいたします。

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