PandoraPartyProject

シナリオ詳細

『収穫祭』

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●熟れた穂は頭を垂れ、人は信仰に頭を垂れる
 秋は実りの季節である。
 黄金の野はそのまま人々の胃袋を満たす神からの授かりものとしてパンになり、大人達の喉を潤すエールとなる。
 人々は一年の成果を称え合い、一年かけて生き、この日を迎えたことを喜び合う。
 収穫祭の日に限っては、それまでの遺恨も諍いも無く各々が他者を認め合い褒め合う、ただただ幸福を享受する記念日だ。

 秋は実りの季節である。
 冬の到来に己の肩身の狭さと心の隙間を埋めるべく男女が無計画に肌を重ね、子を為し、後悔や希望をない交ぜにして生き続けた十月十日の精算はこの季節に至る。
 無計画の代償は無関心であれ孤独であれ割を食うのは女性ばかりだ。
 この世の地獄を味わうのが彼女達のみなれば、実りを享受するのはやはり男達なのだろう。
 天義は幸福で平和な国だ。そんな存在が「いてはならない」。然るに女達は、何れ訪れる末路を憂いたり男達の庇護を受けるべく媚びるのだろう。
 ならば、愛の足りない子供達の末路など考えるまでもない。だからこそ救済(すく)ってやらねばならない。
 ――然らばこれは収穫だ。

 ドミール・ブランは善良な天義の男だ。妻であるリサは善良な男と縁のなかった女であり、一人娘のミサの手を引き僅かに目立ち始めた腹をさすり途方に暮れていた所を保護した経緯がある。
 助けてやろう、救ってやろう、手を貸してやろうといいよった男は少なくなかったのだろう。そのたび裏切られてきたのだろう。そして、彼等の神は子供の誕生を拒ぐことを許さない。
 ドミールにとってミサと、リサの抱えた新たな命は自分とはなんら縁のない子らだった。だが、彼の中に灯る善性は彼女らに性愛によらぬ無償の愛を提供せよとささやきかけ、彼は実際、そのようにした。
 医者の話では、遠からず新たな命が生まれ落ちるだろう、という。
 産まれる子供に罪はない。命を授かったミサも然りだ。
 だから、今日は彼女との出会いと今に至るまでを神に感謝し――。

 そして、呪った。

 金属が擦り合う音が聞こえる。
 黒衣(くろご)をまとった女が訥々と何かを述べている。「罪深い女」だとか。「罪を雪ぐ」とか。
 その手に抱えられた血まみれの赤子は、己が世に落ちたことの不条理を叫び訴えている様にも見えた。
 ミサは血まみれのまま座り込み、手に不格好なコインを持っていた。焦点の合わない瞳は、黒衣の女の言葉を反芻している。
 そして、誰の子かもしれぬ子供達が居る。クスクスと笑い、ミサに「おめでとう」と声を掛け合う。
「なんだ、お前達は。リサはどこだ。ミサ、お母さんは――」
 ドミールは気付いていなかったが、彼こそが目の焦点が合っていなかったのだ。脳が事実を排斥し最小限の情報を理解させるに留め、心を潰す致命的なものに焦点を合わせていなかった。
 リサ「だったもの」が座り込むように転がっている。彼女だと確証が持てなかったのは、顔を確認できなかったから。
 そして彼女だと理解できたのは、視線を下げて胎児を抱えていた腹部を見たからだ。
 絶叫。喀血を伴うほどの、喉から絞り出したそれは正気がなさしめるそれではない。
 じゃきん、と金属が擦れる音がする。
 ……それが鋏の音で、リサだったものの後ろに控えていた機械仕掛けの異形から響いた音だと知ったのは、ドミールがリサと似通った末路を迎えてからだった。


「君達に聞きたいんだが、罪人の子供は罪人だろうか? 俺はそうは思わない。生まれる命ってのは祝福されてるんだから、親の罪を被る必要なんて無い。そうだろ?」
 『探偵』サントノーレ・パンデピス(p3n000100)はイレギュラーズにそう問い掛けた。反応は様々だろうが、少なくとも天義の「まっとうな」教義に明るい者ならその問いに是と応じる事だろう。
 彼がそう問うということは、そして彼も同意見であるということは。つまるところが、『そうは思っていないクソ聖職者』が敵であることを示していると取れるだろう。
「アドラステイア周辺で、ここのところ出産を控えた女達が胎児を奪われ殺される事例が多発している。女達は独り身での出産を控えていたり、再婚者であったり……贔屓目にも『まともな経緯で出来た子じゃない』のが共通点だな」
 意図せずか、意図していたとしてその後に不幸が訪れたのか。どちらなのかは分からないが、何れにせよ父親の影が薄いというのが共通項か。
 そして、先のサントノーレの言葉を借りるならその子らは、母の罪を背負って産まれてきた、とでもされているのだろうか? イレギュラーズの一人が、怪訝な顔でそう問う。
「……少なくともアドラステイアのクソ野郎はそう考えたらしい。被害者の中には子持ちもいたらしくてな、一人、行方不明になってる」
 話によれば、ミサ・ブランという少女が両親を殺され、胎児とともに姿を消しているとされる。
 目撃者の証言が正しければ、ミサはアドラステイアの子供達と『マザー』、そして巨大な鋏状の腕を持つ多足機械と共に行動しているのが確認されたのだとか。全身に血を纏いながら、子供達と揃いの衣装を身に纏っているところを見るに……すでに彼女は洗脳を受けているとみていいだろう。
「ここまで説明すれば分かって貰えるだろ? 赤ん坊達は『疑雲の渓』に落されようとしていて、ミサ含めた子供達はそれでキシェフを得ようとしている。無垢な子らに罪を押しつけて身綺麗になろうだなんて最低の発想だ。……時間の猶予はない。是非、頼む」
 ついていけないのが申し訳ないが、とサントノーレは頭を下げた。

GMコメント

 アドラステイアは気になっていたんですが皆秀逸すぎて腰が引けていました。

●成功条件
 胎児達の救出(下記エネミーの生死は問わない)
(オプション)
 ミサ・ブラン及び『懐胎解体者』の殲滅

●失敗条件
 胎児の二人以上の死亡

●独立都市アドラステイアとは
 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
 しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

●胎児×3
 救出対象です。
 出生そのものに正当性(正しい夫婦関係から生まれた)がない子供達と定義され、魔女の子として『疑雲の渓』に落されようとしています。
 現在は胎内から摘出後適切な措置を受け籠に入れられており、『断罪の前に死ぬ』ことをよしとしないことを意識しているようです。
 連れ出すにはアドラステイアに潜入し、監視と妨害をかいくぐり『疑雲の渓』に到達し、連れて脱出する必要があります。
 潜入自体は然程困難ではないですが、脱出の際は地下水路に『聖銃士』が出現するため注意が必要です。

●『子供達』×推定10
 アドラステイア下層に住まう子供達。『キシェフ』を得るために断罪を行い、互いを密告し合う歪んだ関係にある。
 今回の一連の事件を提唱したのも彼等であり、マザーの是認が合ったとみられる。
 全員がナイフないし棍棒で武装しており、ナイフには各種の毒が、棍棒は衝撃による行動への不利を被る事があります。
 EXF高め。

●ミサ・ブラン
 胎児の一人の母親である『リサ・ブラン』の実子。
 何らかの手段でアドラステイアに接触し、母を売った(正確には自分の弟か妹を売った)と思われる。
 不可逆的な洗脳状態にある。性能は『子供達』と同程度だが、返しのついたナイフを所持し、『致命』を追加付与してくる。

●懐胎解体者×1
 『聖獣』と呼ばれるアドラステイアに配された悪夢的な存在。
 両腕が片刃の大包丁のような形状をしており、交差させ鋏のようにして用いる機械人形。杭状の六足歩行。
 至近距離での必殺・失血・恍惚を伴う『大罪切断』、物遠単・足止『足縫い』を用いる。
 その他詳細不明だが、通常攻撃も相応の危険性を持つと留意すること。

●『聖銃士』×複数
 脱出時の水路に現われます。数は不明。一瞬でも引きつけられれば逃走成功率はぐっと上がります。
 抵抗は高くありませんが全体的な性能は高めで、倒すより逃げることを重視しましょう。
 銃剣を所持し、遠近対応のオールラウンダーです。

●『マザー』エクィル
 子供達と懐胎解体者を率いる女性。『疑雲の渓』に出現する。
 洗脳を行っているのは彼女である。基本的に戦闘に介入しないが、子供達へと飛ばす指揮は彼等に何らかの上方修正を与える模様。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • 『収穫祭』完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月24日 22時11分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
エンジェル・ドゥ(p3p009020)
Comment te dire adieu

リプレイ

●地獄は隣人のように
「クソが、洗脳だの断罪だの相変わらず胸糞悪いことしやがって……! 許せねぇよなァ…お前ら(イレギュラーズ)……!」
 『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)の絞り出すような怒気に、一同は静かに頷いた。アドラステイアへ通じる水路を行く中で声は小さく、動きは最小限に進みゆく彼らの表情には一様に負の感情が渦巻いている。っそういったものを想起させるのが敵側の目的だというのなら成程、数限りなく行われてきたかの者達の蛮行は十二分に効果を発揮していたといえよう。
「まだ間に合うんだ……胎児の命だけは守らねば」
「そうだよ、あの子達は殺されるために生まれてきたわけじゃないんだから! 魔女裁判がなんだ!」
 『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)のいつになく重苦しく、激しい感情を伴った声に『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)も気を吐く。無論、周囲に響かない程度の声ではあるが……アランを始めとした多くの仲間がひとつに纏まり、探索能力を駆使して進んでいる以上、思わぬ形での遭遇戦は避けられるだろう。それでなくともこの区画は特に警戒が甘いらしく、周囲からは鼠の鳴き声くらいしか聞こえはしない。
「そもそも『まともな経緯』って何なの。こんなの、正しいだとか何とか誰が決める話じゃない。どんな経緯で産まれたって子供に罪はないわ。これだけは絶対に言い切れるわ」
「罪人の子は罪人、だからころす? まだ生まれて間もない命を! ……ああ、やだやだ! 悪魔の理屈ってのは天使には理解できないわ!」
 『揺蕩』タイム(p3p007854)はサントノーレの言葉に上った『まともな経緯で出来た子じゃない』という言葉に引っかかりを覚えていた。出自の別はあれど命にまともか、そうでないかの違いはない。そんなものを定義づける時点でそれこそ『まとも』じゃない、と思うのは当然だ。
 『Comment te dire adieu』エンジェル・ドゥ(p3p009020)は(自称)天使の身の上として、悪魔のような者達の理屈にはどうにも理解が追いつかなかった。道理が通らない。罪は血筋が背負うものではなく、本人の人生で背負うものだ。洗礼を受けていない命を弄ぶなど理解できるはずがない。
「産まれたての子を攫い、罰を与える。そしてそのことになんの疑問を覚えない子供たち、心底気味が悪く気持ちが悪い……」
「彼らも色々な方法で心身の平穏を得ようとしますね……興味深いです」
 『星はそこに』小金井・正純(p3p008000)の心からの嫌悪と『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)の好奇心に満ちた感情とは、随分と対照的だ。既存の神を捨て、新たな神を奉ずる為に顕在化した歪みが発散しきれない結果として、これ以上歪んだ例もそうはあるまい。或いは旧来の天義で見過ごされてきた歪みが、アドラステイアに行き着いたと見れなくもないが……。
(人は生まれを選べない。それはもう、そういうものだ。……だが)
「か弱き者がそこにいる。助けたいと思える者がいる。自分が助けたいと思う相手が、そこにいるのであります。それ以上の理由は必要でありますか?」
「……ねえよ。エッダ、お前いつになく静かじゃねえか」
 『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は長めの沈黙から低い声でそう告げた。彼女と付き合いの長い者、冗談を言い合う仲であれば、その内心に湧き上がる感情が正義だの道理だのの退屈なそれではなく、生き方を貫くための大いなる自己満足であることは理解できよう。
 それをからかう程度には、アランは気のおけない相手ということだろう。……脇腹を小突かれても苦笑いで済ませる程度には。
「……不気味な程にセンサーになにも引っかかりませんね。まさか、ここから出てもまだ『疑雲の渓』までは相当……?」
「いいえ、そんなことは無いわ。……この辺りに沢山いる霊魂(こ)達が、近いって告げているから」
 リゲルの感覚には、助けを待つ嬰児らの心の叫びは届かない。死を前にしているなら当然、本能的に恐怖を嗅ぎ取っている筈だが、それがつかめない理由が判然としない。
 されど、エンジェルが疎通した霊魂達の声や、アランやタイムらの使い魔は確かに『疑雲の渓』が直ぐ側にあり、そこにある嬰児達の様子を見て取っている。……タイムの表情が見る間に曇る。
「……なんで、そんな顔をしていられるの?」
「タイムさん?」
 タイムの、誰に聞かせるでもなく漏れた絶望の乗った声に正純は思わず聞き返さずにはいられなかった。アランの表情は、相手を見れば殺しかねない程に歪んでいる。
「今から突き落とす子供にそんな笑顔を見せられるなんておかしいよ。……マザーエクィルって、なんなの?」
「いつかブッ殺す奴だ。今はガキ共と聖獣をぶっ潰す」
 水路から出た一同を迎えたのは、昼日中のアドラステイア。
 ……天は恵みの光を与えたもうが、されど人の心を照らしはしない。
 そうでなければ、今まさに生まれたばかりの子らを笑顔で殺す子どもたちが湧いて出るなどありえぬではないか――。

●満天下の断罪
「いい子ね。泣かなくてもいいのよ? あなた達は、笑っていればいいの」
 『疑雲の渓』に並べられた籠から響く泣き声に、マザー・エクィルは満面の笑みを向けて応じた。裏を見せぬ柔らかい笑みは嬰児達の根源的な恐怖を解し、すぐさま笑みを向けさせる……リゲルの感知能力にかからぬ程度に、彼らは手厚く遇されていたのだ。それこそ、『不幸を与えるために幸福であれ』と言わんばかりに。
 これから嬰児達は死ぬ。マザーの選んだ子供達が満足するための糧として、キシェフのコインに成り下がる命なのだ。
「おめでとう、ミサ」
「おめでとう」
「ありがとう、私も……ここにいていいのね」
 ミサ・ブランは子供達から祝福され、美しい笑みで応じていた。あんなに美しく笑い、残酷に、自分の弟、あるいは妹を神に売り渡せるだなんて。ああなんて有望な子を見つけたのだろう! マザーにとっての喜びはそれだ。
 けれどきっと、この場に邪魔者が現れるだろう。それもまた、神の示した試練である。けれど、彼女は子供達と、聖獣を信じているがゆえに手を出さぬ。
 柔らかい笑みで、残酷に。彼女は子供達に死を覚悟させるのだ。
「悪魔崇拝者達め! 不正義を断罪する!」
「さァ、こっちだ! 来い! お前らの大好きな旅人が来てやったぞ!!」
 ……果たしてそれは、予想よりずっと早く現れた。
 リゲルとアランの声に応じて、子供達は2人を取り囲み襲いかかろうとする。それが誘いであるとわからぬ者達でもあるまいが、さりとて不心得者を潰す誘惑からは逃れがたい。
「全員生きて帰るよ! だから、その子達はお願い!」
 タイムはタクトを振るって己の身に防御術式を張り、仲間達を賦活する光を放つ。わずかの差が命を繋ぐ道となる。それを知ったればこそ、いっときの手間を惜しまない。
「道を拓きます。救い難いあなた達に情けはかけませんが、邪魔をしないなら殺しはしない」
「魔女裁判がなんだ! 絶対に助けてみせる!」
 正純の矢が敵を穿ち、スティアの生み出した――――がアラン達に群がる子供達へと文字通り食って掛かる。
 それで命を落とさぬのだから大したものだが、しかし混乱を生むには十分にすぎた。
「Gggrrryyyyy……」
「邪魔であります、下がって頂けますか」
 ようようと動き始めた懐胎解体者めがけ、エッダは衝撃を叩き込んで退き、籠の一つへ飛びつき抱きかかえた。エンジェルがそれに続き、懐胎解体者の振り下ろした腕をその身で受ける。……浅からぬ傷など知ったものか。相手の腕も多少なり傷ついたことで、動きを鈍らせることに成功した。マザーは目の前で目標が奪われてなお、阻止に動かない。耳慣れぬ聖歌を諳んじ、子供達へと語りかけるかのようだ。
(覚えておくわ、この顔。子供達にこんなことをさせて……)
 マザーとタイムの視線が交錯する。マザーの表情には薄く笑みが張り付き、タイムは明確な嫌悪感に顔をしかめた。子供達を賦活しているであろう聖歌を止める? 無駄だ、下手に手出しをするリスクを取る理由がない。タイムはただ、まともじゃないと蔑まれた子らの命を救いたいだけなのだから。
「大丈夫ですか、お三方! 大丈夫じゃなくてもそこから下がって下さい! 少しくらい……私が治します!」
 四音が嬰児を抱えた3人に叫び、すぐさま治療術式を施す。腕の中に籠を抱えた彼女らは素早く懐胎解体者の射程から逃れ、子供達から距離を取る。子供達、そしてミサはアランらに殺意を向けているが、然し同時に、嬰児を抱えた者達への殺気を隠しもしなかった。
「おのれ、それは僕達がみつけた『魔女』だぞ!」
「その子達を死なせてあげるのが神の思し召しなの! わからないの?」
 子供達の言い分は一方的だ。
 そして、身勝手で――死んでもいいのではないかとすら、思える。だが、それらはまだ可愛い方ではないだろうか?
 マザーの聖歌に底上げされ、苛烈な攻撃を加える子らの猛攻を引き受けたアランとリゲルはかなりの苦戦を強いられていた。スティアがスイッチして彼らの怒りを引き受け、受け止めてもなお猛攻は止まらない。恐ろしいことに。……そして。
「お母さんは『あの男』との子を、ドミールと育てようとしたの。ドミールはお父さんじゃないから、その子を育てる必要はなかったの。私もそう。だけど、お母さんはドミールがとても好きだった」
 ミサは乾いた声で告げる。
「お母さんは捨てられて捨てられて遊ばれて何も見えなくなっていたから。そんな子供を生むお母さんも、そんな罪を請け負ってしまったドミールも、罪深い人たちなの。だから、その子は幸せになれない。私は幸せになりたいから、3人の罪を雪いであげるの。その生命で」
「できると思ってんのか、そんなこと」
「『この神』なら!」
 肩で息をし、遅れて襲いかかってきた懐胎解体者を凌ぎながら問うアランに、輝く目でミサは告げた。
 ああ、彼女はもう救えないのだ、救われないのだなと。
「この報いは、いずれ必ず受けさせる! だから――お前だけは倒していくぞ、懐胎解体者!」
 暴風の如き斬撃で子供達を蹴散らし、空気を求める喘ぎ声とともに無力化させたリゲルは、そのまま懐胎解体者へと横一閃の斬撃を叩き込む。無論、その一撃は倒し切るには力不足だ。
 だが、それが退いた先は谷底。崖にその腕を押し付け、鈍い金属音とともに落ちていくそれを視界の端に収め、リゲル、アラン、四音、正純そしてスティアの5人は踵を返した。
「……ミサ?」
 マザー・エクィルは崖の端に捕まり、異様な力で登りきった少女を感動すら覚える表情で見た。輝く魂がそこにある。鈍色に輝く、黒く濁った魂が。
「ああ、ああ――罪深い、ひと! あんな人達を逃がすなんて! マザー、この子達は役割を全うできなかった『魔女』です! 裁きを――!」

 運命は変転し、悪夢はしかし変わらない。ミサという少女はその時、もはや『ミサ』ではなくなった。

●命を賭けるになお早く
「旅人、太陽の勇者……アラン・アークライトだ。お前たちは悪くない、悪くないが……引導を渡してやるよ」
「天義を守る者として、不正義を見逃しはしない! 君達は間違っている!」
 アランのはなった月光が聖銃士の心に忍び込み、次いでリゲルの誇り高き宣言が肉薄した聖銃士に響き渡る。『アークライト』の名を冠した2人の性格はまるで異なれど、しかし信念とそのために選択した行いとは全く同じだった。
 即ち、己を的にかけ子供達を守る、そのためなら命を削る事すら厭わず、全てに優先して切り込む、という役割。
「そのしぶとさを信じております。アラン様、命を大事になさってください」
「余計な心配だぜエッダ。テメェに様付けされるとむずむずする……! 往け!」
「ごめんね……! わたし達が絶対に外に送り届けるから!」
「ワタシたちに何があっても、この子たちは守ります。この子たちの未来のためにも」
「3人とも頼もしい! 俺達のことはいいから、早く!」
 エッダ、タイム、エンジェルの3人がリゲルとアランに翻弄される聖銃士達の横を駆け抜け、四音が癒やしの波長を2人に送りつつ慎重に駆けていく。前方には敵なし。その場で押し止められた連中が最後なれば、逃げる者達の治療と護衛に全霊を割くのは無理からぬこと。それは正純にとっても、是である。
「皆さんを癒やし守るのが私の使命です。今回は、あの子達が優先です……お任せ下さい」
「あの子達は幸せになるべきです。私達は、彼らを打倒するため生き延びるべきです。――忘れませんよ、聖銃士の皆さん」
「愚かな方々だ。僕達よりもずっと長く生きてきて、僕らの神の真意を汲み取れない愚鈍さには吐き気がする。そんな大人は、居なくてもいい」
 正純の言葉に冷笑を傾けた聖銃士は、次の瞬間にアランの強撃によって大きく身を傾ぐ。死には到底届くまいが、さりとて守りを砕く程度には、重い。
「子供を攫って殺して悦に入るクソ神をありがたがるガキ共が、俺の仲間を笑うんじゃねえよ」
「悪魔を奉ずる異端は、不正義の誹りすら生温い。赤子に洗礼を与え、生まれを喜ぶ暇を与えぬまま殺そうとする神が居て堪るかッ!」
 アランの勢いに触発された――もしくは、正しき騎士たらんと押し込めてきた善なる心の内側、激情を吐き出すようにリゲルが吼える。
 逃した子供達の未来を奪おうとしたのは? 今まさに殺そうとしたのは? ……それらを当然と笑ったのは、誰だ?
「アランさん、リゲルさん! ……下がって!」
 リゲルの視界が赤く染まりかけた直前、スティアの声とともに福音が鳴り響く。振り撒かれた天使の羽根と、鳴り響く鐘の音は正しき神を奉ずる者には心地よく聞こえたことだろう。異端を奉ずる銃士兵がそれを耳にしてどう思うかはまた別の話だ。
「スティア……悪ぃ、すぐに戻ってこいよ!」
「退路は確保します! ……あと数十秒、もたせましょう!」
 アランとリゲルはその好機を逃すことなく、そしてスティアと「ともに」逃げるべく立ち回る。リゲルの一閃が聖銃士達を弾き飛ばし、アランの追撃が感情をかき乱す。誰へ敵意を向けるべきか、何をすべきか。彼らは短時間のうちに乱された感情で答えを見出すことができない。
 それは、逃走者達を相手にするには致命的な暇であった。
 寸暇をおかず踵を返し、逃走に全てを振った3名は先行した面々とともにアドラステイアを脱出する。誰一人、逃走時に深手を追わなかったのは僥倖という他あるまい。
「この子たちは、然るべきところに預けるべきでしょうね」
「……この子達が薔薇色の人生を歩めるように願わずにはいられないわね」
 正純は子供に微笑みかけ、正しい道を歩めるよう働きかけることを願った。
 エンジェルは嬰児らの不幸がこの先の道程の幸運に繋がればいいと願う。茨の先には美しい薔薇ば咲いているように。
「望まれぬ命を産まないのも、また選択だ。それは良い。だが、産まれたからにはその命は、子のものだ」
「……うん。許しを得るのも祝福されるのも、すべて自分の命でやらなきゃいけないことだよね。誰かの命を担保にするのは間違ってるよ」
 淡々と信念を口にするエッダに、タイムは苦い顔で応じる。子供達は、生まれの誉を神殿で受けることになるだろう。それからの人生は、己の命を用いて切り開くものだ。
 ……アドラステイアの子供達は、自分の命すら信じられなくなったのだ。それは悲しい話だ。
「人身御供というか、罪を押し付ける生贄というか。己の利益のために、他者を踏み台にし続けるにはあの世界は狭すぎますが」
「だから外から奪うってんだろ、胸糞悪ぃ」
 四音は、狭い世界で他人に罪を押し付け合うあの構造はいかにも歪だと感じた。仲間とてそうだ。
 だからこそ外に罪を求め、贖罪の贄とする姿勢が正しいわけもない。アランにはそれが許しがたい。
 彼の地の闇は未だ深い。今は、子供達の未来に幸多からんことを願うばかりである。

成否

成功

MVP

タイム(p3p007854)
女の子は強いから

状態異常

なし

あとがき

 懐胎解体者、崖底に転落。存否不明。
 ミサ・ブラン、生存。その場の少年少女数名をマザー・エクィルのもと『断罪』。
 そして彼女は、神の血を受け(報告書はここで墨に塗りつぶされている)

 MVPは救出班として活躍しつつ、引きつけ役の命を一瞬分おおく繋いだ貴女に。

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