シナリオ詳細
<幻想蜂起>憎しみと蔑みの交錯点
オープニング
幻想(レガド・イルシオン)は、古くから続く由緒正しき大国である。
だがそれは最早、遠い昔の御伽噺。
今のこの国には貴族たちの利得権益が交錯し、それを統べるべき王にはその意思が欠けている。
「大変残念なことだか、君達に悲しい事実を伝えなければならない」
幻想内、小さな町『グルブーム』にて。
数日前にどこかからここへ流れてきた男が、住民を前に演説を行っていた。
この小太りの男は『アボット』と名乗っていた。
「これを見てくれ!」
そう言うと彼はとなりに控えさせた馬車の荷を部下に解かせる。
するとそこには、無惨にも全身を切り裂かれたこの町の青年が遺体となって横たわっていた。
あまりの光景に住民の間からは悲鳴や嗚咽があがる。
「あの『シルク・ド・マントゥール』の公演以来、この国には猟奇的な事件が多発している! 私は商人として色々な町を渡り歩いてきたが、どこも似たような状況だ。
そしてついに狂気はここまでやって来てしまった!」
彼は目頭を押さえると、声を震わせながら続ける。
「これは私の余計なお節介だ。だが伝えなければならないと思ってしまったのだ。私が彼を見つけたときにはまだ息があった! 薄れゆく意識の中で彼は確かにこう言ったのだ……『ジャンにやられた』と」
その言葉に住民達はどよめきだす。
この町でジャンと言えば、領主であるムーフ家の次男『ジャン・ムーフ』が一番に思い浮かぶからだ。
「この町の遍歴は多少なりとも知っている。だが敢えて問おう! 民衆よ。君達の悲しみの涙は怒りの血に染まっている。暮らしを奪われ、仲間を奪われた今この時、ムーフ家にその命を持って分からせてやらねばならない事があるのではないか?!」
アボットの問いかけは住民達の拍手によって迎えられる。
「宜しい。ならば武器を取れ! これは困難へ立ち向かう勇者であるキミ達の選別だ!」
アボットがそう宣言すると、彼の回りに控えていた黒いローブの男達が、待機させていた馬車の荷をほどく。民衆達は思い思いに武器を取ると、復讐の雄叫びをあげるのであった。
~~~
「という事があって、現在貴族の屋敷へ進軍中らしいのです……」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は頭を抱えつつ、集まったイレギュラーズ達に事情を説明した。
「元々グルブームは美味しいプルームが取れる農家が中心の街だったのです。ですが新しく領主となったムーフ一族が行った土地開発でプルームの品質は落ちてしまって、住人達は職を失ったそうなのです」
今でこそ交易品の中継地として利用され何とか町としての機能は成立してはいるが、元々の暮らしを奪われた人々は常々不満を持っていた。そこに何の積みもない若者が殺されたと知り、怒りが頂点に達したのだろうとユーリカは続ける。
「今回の依頼は、自分への武装蜂起計画を知ったジャンからの依頼なのです。依頼内容は『武装蜂起の鎮圧に協力してくれ』との事なのです」
元々小さい故に、何かが起きれば翌日には三軒隣の家まで知られているような街だ。
こんな蜂起を起そうなどと計画すれば、当然ジャンの耳にも届くのだという。
その事は住民も承知の上のはず。
それなのに何故と問いかけるイレギュラーズに、ユーリカは悲しそうに答えた。
「グルブームの人達は温厚な性格だと聞いたことがありますから、きっと決死の抗議をしようと考えているのだと思うのです……」
ユーリカは悲しそうに目を伏せるが、ぶんぶんと首を降ると集まった一行を見据える。
「でもレオンが言っていたのです! ローレットなら被害を最小限に抑えられるはずだと!」
これまで何でも屋としてたくさんの人々の期待に応えてきたイレギュラーズ。
貴族と市民、双方から見て中立の立場にある自分達ならば、この事態を最小限の被害に抑えられるはずだ。
こうして、依頼を受けたイレギュラーズ達はグルブームから少し距離のあるムーフ家の屋敷へと向かう。
彼らが見届ける結末や如何に。
- <幻想蜂起>憎しみと蔑みの交錯点完了
- GM名pnkjynp
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年05月09日 21時50分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●揺り篭の温もり
依頼を受けローレットにて馬車を借り受けたイレギュラーズ一行は、メンバーを2つの班に分け今回の事態に対処すると決めていた。
相談の上それぞれ班に分かれたメンバーが乗る馬車が、依頼人ジャンが住む屋敷へと連なって進む。
馬の蹄鉄と地面がこすれ合う音を除けば、ささやかな風と木々の揺らめきが彩る今宵は、花見でもしようかと言いたくなるような美しい夜。
そんな光景に窓から空を見上げる『夜想吸血鬼』エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ(p3p000711)は、小さくため息を漏らした。
「どうかしたか? エリザベート?」
その様子に『夢は現に』ディエ=ディディエル=カルペ(p3p000162)が声をかける。
「いえ。今宵はこんなにも優しい静寂が辺りを包むというのに……悲しい依頼もあったものだと、そう思っただけです」
そう言うと、彼女は自身の肩に乗せた蝙蝠を指で撫でてやる。
気怠げに、されど何かを想いながら遠くを見つめる。
そんな儚げな姿に、『妖精騎士』セティア・レイス(p3p002263)は内心でとても動揺していた。
(うっわ、エリザベートさんのお姫様感……マジでパない!)
彼女の地元である田舎にも居なくはないが、ここまで気品を纏った人物にそうそう出くわすことはない。
内向的な性格も相まって、セティアは自身の羽根をマントのようにして身体に引き寄せ、小さくなっていた。
そんなセティアの横では、ディエがエリザベートの言葉に応えている。
「悲しい依頼、か。確かに此度の彼らの願い……聞き及ぶに過ぎないが、本当ならば度を超えているであろうな」
だが、と続けるとディエは足を組み替える。
「それが昨今幻想に広まる狂気によって歪められた願いならば、それが是正される事こそ彼らに眠る深淵よりの望みであろう。ならば、ボク達のする事は決まっている」
「なるほどなるほど~。ネーアさん的にも、笑って頂けないのは困りものですからね~。であればこの愚かな道化! その復讐という炎を笑いで消し飛ばしてしまえるように、精々張りきらせて頂きましょう!」
『ペストマスク』Nerr・M・März(ねーぁ・もりあ・まっづ)(p3p004857) もまた、ディエの言葉に賛同した。
その様子にエリザベートも頷く。
「やる気があるのは結構な事。4人で協力して、私の可愛いユーリエが良い情報を持って来てくれるまで頑張ると致しましょう。ね、セティアさん?」
「あ、……えっと、うん。私も、がんばる」
内心の訛り丸出しの言葉が漏れぬ様、ぼそぼそと話すセティアだったが、彼女もの拳もまた、やる気を示すかように強く握りしめられていた。
~~~
一方、彼女達が乗る馬車と並走するもう1つの馬車には、先程エリザベートが言っていた『笑顔の体現者』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)を含むメンバーが乗り合わせていた。
「へくちっ!」
「あれ、もしかしてユーリエ風邪?」
「う~ん。そんな事はないと思うのですが……えへへ」
彼女は心配してくれた『鳶指』「シラス」(p3p004421)に、照れ臭そうに言う。
その様子を見ていた『死を呼ぶドクター』「レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン」(p3p000394)は、かけている眼鏡を軽く押し治すと、診断を下す。
「ふっ。俺から言わせてもらえば、今のは突発的生理現象の域を超えないと思うがなァ。ま、気になるっていうならもっと本気で診てやることも出来るが」
「いえいえ! ちょっと鼻がムズムズしちゃっただけですから! このくらいへっちゃらですよー!」
レイチェルに対し笑顔で元気に答えるユーリエ。
そんな彼女の姿にレイチェルは、遥か昔に無くしたものの面影を感じたような気がした。
「おっ、見えてきたっスよ!」
『駆け出し』コラボパス 夏子(なつこ)(p3p000808)の声に、一行は馬車から外を確認する。
そこには最初の目的地であるムーフ家の居城が、静かにそびえ立っていた。
●フェイタル・コレクション
ジャンの屋敷に入り内部を調査する事になっていた、ユーリエ、シラス、レイチェル、コラボパスの4人は、警備兵のチェックを受けると馬車を降り、屋敷へと足を踏み入れる。
彼らは到着するとすぐに謁見を申し入れ屋敷の奥へ通される。
そこには謁見室にて、椅子の上で下らなさそうに座り込むジャンの姿があった。
「お前らがイレギュラーズか。ローレットも華奢な奴ばかり寄越しやがる」
「ジャンさん。少し質問をしても宜しいでしょうか?」
確かに今回ジャンが会った大柄なコラボパスはまだしも、他のメンバーは小柄であったり、温厚そうな見た目をしていたり、外見から強さを感じるようなメンバーでは無いと言えるだろう。
だがユーリエのその問いかけには、先程馬車の中で見せた朗らかさとは別な強さが確かに感じられた。
「はぁ……手短にしてくれ」
「ありがとうございます。貴方は最近グルブーム村へ出かけましたか?」
「当然だ。俺の領土だからな。2・3日と空けずに行っている」
「それはまた随分頻繁に行くんだなァ? 視察か何かか?」
今度はレイチェルが問いかける。
「別に。あそこの木の実を喰いによく動物が入って来るからな。害獣狩り、ってやつだ」
「狩り……か~。俺、やった事はないんだけど、色んな獲物がいるよね。鹿とか兎とか……人とか?」
シラスはジャンと視線を合わせる。
だが彼の試すように質問にも、ジャンの瞳はまるで揺るがない。
「ふん。情報屋にも言ったが俺に覚えはない」
「そこにいる使用人さんも?」
ジャンの側に立つ初老の執事も、黙って首を縦に振った。
それを確認すると再びユーリエが質問する。
「では、ここ数日で屋敷に立ち入ったお客さんは居ますか?」
「ここ数日? 目新しい客は来ていない。俺の知り得る限りいつも出入りしている者だけのはずだ」
「例えばどんな方でしょう?」
「使用人や我が一族を除けば、商人くらいだろうな」
ジャンの返答にコラボパスが食いついた。
「商人って言いますと~あれですかねぇ? 武器商人、的な?」
「ああ」
「ほう! そうでしたかい、やっぱり狩猟用の武器を?」
「そうだ。興味があるか?」
「そりゃあもう! あっし武器に目がないもんで!」
「はっ、そうか」
コラボパスのたたみかけるような太鼓持ちに気をよくしたジャンは、使用人に命じ一行を武器庫へ案内させる。
「こちらが我が家の武器保管庫となっております。坊ちゃまのお許しを頂いておりますので、私めにご報告頂ければ、こちらにある品を賊討伐のために持ち出して良いとの事」
それだけ告げると、執事は武器庫の入り口にじっと佇む。
レイチェルはその様子を注意深く観察していた。
(俺達に付き添わない? 好きに物色していいって訳か。こいつは無実である自信か、それとも……ま、思う存分調べるとするか)
各自部屋に散らばり武具を吟味する。
中でも「特徴的な傷」を付けられそうな、鋭利な刃の付いたものを中心に探していく。
(こんな……酷い)
ユーリエは自身の持つギフトで、触れた物の使い方をおおよそ把握出来る。
今回の場合その力は「この武器はどのようにして人を殺すのか」という無残な知識を彼女へ提示する事となる。
武器を取るたび脳内で繰り返される映像は気持ちの良いものではない。
彼女の背後ではシラスもまた武具を見ながら自分なりに検証を行う。
(身体を切り裂く特徴的な傷……。これか?)
彼が手にとったのは刃先がギザギザと欠けている小型の鎌。
振り下ろせば確かに他にないタイプの傷口になるであろう。
(いや。もっと鋭利な……)
2人が目の前の武器に頭を悩ませる中、コラボパスはおよそ人を殺すに向かないであろうコレクションばかり注視していた。
「いやあ流石! 金ピカでとても素晴らしい物っスねぇ~。 執事さん、こいつを借りても?」
「……おい、何を考えている?」
見当違いの物を選んでいくコラボパスに、そっとレイチェルが耳打ちする。
「ジャンさんが犯人じゃないじゃん! って証拠を、と思いまして」
「ほう。洒落はつまらんが、アイデアとしては面白いかもなァ」
「あちゃ~。洒落も自信あったんスけどねぇ」
頭をかくコラボパスを背に、レイチェルも自身の経験とスキルを活かして、陳列された武器を調査していく。
(どの武器にも偽造した痕跡は見当たらねぇか。部屋に細工をした様子も無し。であれば恐らくこの部屋の武器は全部本物。だがあの傷を付けられそうな武器には、最近使われた形跡がなかった。しかしこの武器、世界に一本しかないような物ではなさそうだ。つまり……)
調査を終えた4人は集まると、各々の見解をすり合わせ次の行動へと移る。
●邂逅
「キィ!」
「ふふっ。こちらも丁度、始めるところですよ」
エリザベートの肩で蝙蝠が鳴き、彼女はそっと喉元を撫でてやる。
彼女達は屋敷で別れた後、民衆が通るであろうルートを推測し逆走するよう進んでいた。
地図もあればもとより一本道に近いこの地形、こうすれば少なくとも蜂起した町民がジャンの屋敷へと到着する前に接触できるというイレギュラーズ達が考え出したアイデアだ。
そしてこの蝙蝠はユーリエがファミリア―を使い使役している個体で、一行の連絡係として役立っていた。
「おやおや? 灯りが見えて参りましたー。緊張ですね~」
ネーアの声に一行は視線を前へと向ける。
視界の先には、幾つものランタンの灯りが見えてきていた。
このような夜陰にわざわざ光で存在を示しながら進む集団。
そのような存在はほぼ民衆に間違いなく、逆から言えばこちらの存在も向こうに気づかれたと考えるべきであろう。
セティアは小さく深呼吸をすると、ランタンの光を今よりも高く掲げた。
「ユーリエさん達、もうすぐ。それまで、絶対、行かせない」
彼らが待ち受けるのは、道の両側から小さな岩肌が飛び出る細道。この道は複数人が一度に通るには向かぬが、ここを抜ければジャンの敷地内まで後一歩という場所。
ではなぜここを選んだのか。
それは屋敷調査に向かったメンバーが打開策を運んでくれると信じ、合流の為に敢えて距離を取り過ぎないでいたからだ。
「お前達はジャンの手先か!?」
一行との距離を保ちながら、光に気づいた集団の先頭に立つ男が叫ぶ。彼は火縄銃のような物の構えていた。
「お待ちになって。御覧なさいな。私達は何も武器等持ち合わせてはいませんよ?」
エリザベートがゆったりと両手を挙げる。
他の3人もそれに倣った。
「俺達はジャンの手先かどうかを聞いている!」
「手先? いやいや~。ネーアさん達は皆さんの敵ではありませんよ~? もし敵でしたら何の備えもしていないなど愚の骨頂!! と言えますからねぇ~。ああっと、勿論私は道化ですから下の中の下!愚の愚でございますけれども~」
ネーアは手を挙げたままヘラヘラとした様子で、言葉を放つ。
彼はのらりくらりとした動きで悟られないようにしつつ、少しずつ距離を詰めていく。
「ボク達は敵意のなさを充分に示した。 次はキミが……まずはその銃を降ろすところから始めよう」
それに続いたディエは、先頭の男の目を見据え言う。
「……分かった。……まずはこの銃を降ろすところから始めよう」
彼女の眼が持つ輝きには魔力が込められており、男はそれに魅入られるように指示に従う。
だが、先頭の男以外の民衆は少し離れた位置で未だ警戒を解かずにいた。
(くっ。未だボクの力には限りがあるか)
ディエは己の力量が及ばぬことに悔しそうな表情を見せる。
だが、これにより話し合いをするに必要な環境は整備されたと言えるだろう。
「貴方がこの集団のリーダーでしょうか。どうしてそのような武装を?」
あくまでこの状況を知らないという体を貫くエリザベート。
ディエの力により落ち着きを得た男は、投げかけられた問いにつらつらと答える。
「なるほど。ではその若者が殺されたのを目撃したのは、貴方達に武器を与えた商人である、と」
エリザベートはその赤き瞳を少しだけ細めた。
「その商人……本当に信じて良い方なのでしょうか? 無料で武器を渡すなんて、商いとしておかしいとは思いませんか?」
彼女の言葉は理にかなっていた。
だからこそ。
その言葉は人によってなけなしの希望を奪い去るものにもなり得る。
「うるさいうるさいうるさいぃぃっ!!!!」
ほんの少し離れた場所で、話を聞いていた女が発狂した様子でそう叫んだ。
「あの人はジャンに重税を課されたわ! 必死になってあの頃のプルームをもう一度取り戻そうとしただけなのに……! それでも自分に歯向かってきたから殺したのよ! アイツが! 自分の治世に邪魔だからって!」
殺された青年に特別な想いを抱いていただのであろう。
その女性は、涙を流しながらボウガンを真っ直ぐにエリザベートへ向けた。
「だから……だからぁ!!!! あたしが、この手で彼の無念を晴らすっ!!!」
頑なな意思は、優しき女性からためらいを奪い去る。
「エリちゃん!!!?」
現場に到着したユーリエ達を迎えたのは、轟く一発の銃声の音であった。
●憎しみに慈しみを
「つっ!?」
エリザベートは驚きに声を漏らす。
それは、予想もしなかった事態に対する驚きによるものである。
だがそれは、自身が傷を負ったからではない。
目の前で倒れ行くセティアの姿が視界に入ったからだ。
彼女の左胸付近からは、刺さった矢と共に鮮血が滴り落ちる。
「畜生!」
目の前で起きた事態にいち早く動き出したのは、馬車から飛び降りたコラボパスだ。
駆け出しとは言え、仮にもファランクスを名乗る戦士。
目の前で誰かが傷つくことは彼にとって許されるものではない。
「怒りなら! 僕にぶつけろ!!」
「なによ……!? なんなのよ?!!?!」
彼が大盾でセティアとエリザベートを庇うように陣取ると、狂乱した女はボウガンを乱射。
しかし粗悪な矢は盾を貫くことはない。
女の意識がそちらに向いている隙をついて、ディエとネーアがすかさず行動を起こした。
「仕方ない……ボクの力、見るがいい!」
彼女は女に接近し地面にその手を触れると、逆再生を発動し足元をぐらつかせる。
「失礼致しますよー、ちょっとだけ痛いかもですけど、慣れれば快感になりますからね! ご安心を~!!」
女がバランスを崩した瞬間、同時に接近していたネーアが赤い注連縄で女を締め上げる。
「ああっ、ぐうぅ……!」
一瞬の出来事に、狂乱した女以外の人々は唖然とその光景を見守っていた。
そこに、駆けつけたシラスが大声で叫ぶように語り掛ける。
「おい、そこのアンタら! グルブーム村の住民だろ? 少し話を聞いてくれないか!!」
目の前で実力差を見せつけられた民衆は、素直に彼の言う事に従った。
問題がない事を確認すると、彼の合図で馬車からジャンの執事が降りて出てきた。
彼は一礼すると、原稿を読み上げるかのように淡々と言葉を述べる。
「ここ1週間の坊ちゃまの狩猟の結果を報告させて頂きます。猪1、犬3…………兎3。以上です」
彼の報告の中に、人間という言葉はない。
「ジャンさんの屋敷にいって、武器の確認もした! だが見てくれ!」
コラボパスが持ってきた数点のコレクションを盾の前に投げ捨てる。
そのどれもが彼らが目撃した特徴的な傷、「卍模様」を付けられるような物ではなかった。
「もう分かっちゃいるだろうが、俺達はイレギュラーズ。特殊な力を持つ存在な訳だが……俺のこの魔眼をもってしても、ジャンの武器に青年が殺されたという証拠は無かった」
たたみかけるようにレイチェルが言葉を続ける。
彼女の右目が見据えるものは決して殺人を証明できるものではないが、この状況では充分ハッタリとして機能した。
「そして俺は医者だが、ここにある武器でその傷をつけるのは不可能に近いと判断する」
「……だそうだ。レイチェル達の言う事が伝わったならば、その矛。一度降ろしてくれないか?」
今度は魔眼の力ではない、ディエの言葉に民衆は武器を降ろす。
その時、パンドラによる復活で死ぬ事を免れたセティアが、ゆっくりと身体を起こす。それをユーリエとエリザベートが支えた。
「セティアさん、大丈夫ですか!?」
「どうして私を庇うなんて……」
「わたし、聖剣騎士だから……。住民は、殺さない。仲間も、依頼主も、殺させない……」
片膝をつきながらも、一言ずつゆっくりと、セティアはネーアに捕らえられた女性に向けて言葉を紡ぐ。
「気持ちは、分かる。ジャンは、きっといい領主じゃない。でも、ちょっと待ってほしい。人が死んだら、誰かが悲しむ。殺した人は、それを背負う。あなたは、そんなの、背負わなくていい」
屋敷調査組の説明とセティアの身体を張った訴えに、女の暴走は止まった。
そして彼女の憎しみに共感していた民衆もまた、手に持った武器を地に落とすのであった。
長い夜が明けて。
恋人の無事に涙を流し喜ぶユーリエの姿に、全員が事の終結を感じ取る。
一行の活躍により武装蜂起は犠牲者無く終焉を迎えた。
そして時は流れ。
今日もジャンは武器を注文する。民衆の心が見えぬ彼に蜂起の裏の真実など視えはしない。
「……これにするか。アゾット! 支払いを頼む」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
今回はご参加いただきありがとうございました!
PPPでは初めてのリアクション執筆でしたので、不手際も色々あったかと思います。ですが、皆様個性豊かで大変楽しく作業させて頂きました。
この場を借りて御礼を申し上げます!
内容としては、GM的には一番オーソドックスな結末となりました。
もしここでグルムーブ村へ行ったなら……真実は見えたとしても成すべきことを成せない結末なども考えていたのですが、無事に成功して何よりです!
ご参加下さった皆様も、リアクションを読んで頂いただけの皆様も、
また次の機会にお会いできることを楽しみにしております!
GMコメント
こちらでは初めてシナリオを書かせていただきます、pnkjynp(ぱんくじゃんぷ)と申します。これから皆様と一緒に、この混沌を旅していけたらと思っておりますので、どうぞ宜しくお願い致します!
さて、今回のシナリオでは民衆の武装蜂起を止め、ジャンを守りきれば成功となります。
以下のユーリカから提供される情報をもとに事態の解決に向けて行動して下さいませ!(情報確度B)
●状況
グルブームの市民30人余りが、列を組んで屋敷に向けて進軍中。血気盛んな若者が多いですが戦闘経験はありません。但し農業で鍛えた足腰と死んでも屋敷へたどり着く覚悟があります。
一方ムーフ家は屋敷周辺に兵を配置。
ジャンは反乱を起こす者など必要ないと、イレギュラーズ以外で近づく者は問答無用で殺すように命じています。
イレギュラーズは、グルブームから屋敷までの道中のどこかを選んで、そこに向かっている状態からスタートとなります。
地形はユーリカが提供した地図である程度把握している他、人数分ありますので途中で誰かを下ろすといった別行動も可能です。
但しあまり離れた所同士では、シナリオ内にて合流は出来ません。
●時間
夜。
民衆がグルブームを出発してから数時間が経過しているそうです。
●舞台
グルブームからジャンの屋敷にかけて。
大体歩いて5時間ほどの距離ですが、途中には奇襲をかけられるような林や岩場がある他、開けた荒れ地が続く部分もあります。
屋敷は手練れの兵士5人によって厳重に警備されていますが、人数の都合上警備範囲に限界はあります。大半の勢力は他の一族と共に出掛けており、警備以外では今はジャンと数人の使用人があるのみです。
屋敷には部屋や武器庫などがあります。
●事前情報
グルブームにてアボットなる人物が演説を行い武器を渡したこと、惨殺された住人はグルブームの人間であること、その住人身体中を切り裂かれており、その傷は特徴的であることは確認されています。
依頼を受ける際、その情報を元にグルブームの住人を惨殺したかユーリカが問いかけてみたところ、ジャンは「覚えてない。気に入らないやつは殺すこともあるが、ごみ掃除をするなら綺麗にやる」と言ったそうです。
また、ジャンは狩猟が趣味で、これまでコレクションした武器で様々な生物(場合によっては人も含む)を狩ってきました。
●PL向け解説とお願い
今回は蜂起が収まれば良いので、住民の生死は問いません。
住民に攻撃を加える際には殺すつもりがあるかどうかは明記をお願い致します。
また、ジャンは必要であれば武器庫から好きな武器を貸し出すといっています(彼の持つ武器は攻撃力よりもコレクション的価値に重きを置いたものがほとんどです)。
住民の武器は剣だけでなく銃やボウガン、盾なんかもあります。
邪魔する者は敵と見なすほど怒ってはいますが、イレギュラーズが落ち着いて対応できれば言葉を交わせぬほどではありません。
以上、皆様の活躍を描けること楽しみにしております!
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