PandoraPartyProject

シナリオ詳細

彼岸花の咲く頃に。

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 曼殊沙華の海の中で、あの人は鮮血に濡れていた。


 人斬りが出没するという噂が立ったのは、最近のことだ。
 “酷く美しい女が、曼殊沙華の咲き乱れる中に佇んでいたら、近寄るな。”
 ――そう聞いていたのに、彼は、高を括っていた。どうせ噂話に過ぎない、と。
 だから、鬱蒼とした木々を抜けた先、不自然に空が吹き抜けた小さな大地に曼殊沙華が一面咲き誇り。
 その中央で、長く美しい豊かな髪を揺らしながら目を閉じているその女を視界に捉えた時、彼の脈が跳ねた。
 女の線は、驚くほど細い。触れば折れそうな華奢な体躯に、しかし、すらりと高く伸びた背が、何処か儚かった。
 そして、もはや足元にまでも伸びている黒い髪は、羽搏くようなボリュームで、先の方で一本に括られている。
 肌は病的に白く、何か塗っているのかと思ったが、どうやら地のものらしい。
 まるで、人形のようだ。彼がそう思うのと同時に、事前に耳にしていた噂を頭の隅に押しやり、眼前の美貌に吸い寄せられていく。

「おい、こんなところで、何をしている」

 男が訝しんだように問いかけるが、女は瞼を閉じたまま、頭上の突きを見上げていた。
「……聞こえてないのか? おい――」
 そう言ってもう一歩踏み出した男の視界に、突然、朱が奔る。
「……え?」
 月光に照らされた輝く鮮血が、周囲に飛散する。
 二、三度、瞬きをして、男は気が付いた。
 ――その血液が、自分の身体から漏れ出たものであったことに。
 直後、無様な叫び声が辺りに残響する。男は、腹部から流出していく血と臓物を、必死に押し留め戻そうとするが、驚くほどに無力だった。
 月を眺めていた女が、漸く、死にかけの男の方を見遣る。
「曼殊沙華には、血がよく似合う。そうは思いませんか?」
 女は相変わらず瞼を閉じたまま、首を艶めかしく傾ける。一方の男は、もう殆ど意識が残っていなかった。故に、返事はなかったが、女はそのことに特段の不満も無さそうに、 再度月を見上げた。
 辺り一面には、地面が見えないほどの曼殊沙華が咲いている。
 気が付くと、斬られた男の死骸は、その曼殊沙華の海の中に消えていた。

● ローレットへの依頼
《豊穣》(カムイグラ)のとある地域で、連続的に人斬りが発生している。
 既に多くの村人達がその被害に遭っており、多数の殺害が認められているという。
 今回の事件で特徴的なのは、その人斬りが、曼殊沙華――彼岸花の群生地域にのみ出没するということだ。尤も、より正確に表現するならば、“彼岸花の群生地域のみで殺害が行われていると推測される”ということだが。
 実際は、斬り殺された村人はその死骸ごと消失してしまうため、今までに判明している情報は本の数例しかない目撃談に依るものだ。
 人斬りの目的も、斬り殺された死骸の行方も不明。只、分かっていることは、その人斬りは尋常ではない程に強い、ということである。これまでに雇われてきた手練れの刺客達も、悉く返り討ちにあっている。
 今回、《特異運命座標》(イレギュラーズ)は、村人たちの最後の希望として人斬り討伐を依頼された。
 イレギュラーズは、最近発生した彼岸花群生地域に向かい、人斬りを撃退して欲しい。

●昔話
 人を斬っていない時の貴方は優しすぎる、と彼女が言ってくれたことを、その人斬りは思い出していた。
 そんな彼女はもう居ない。斬られて死んだ。あの時の、咲いていた白い曼殊沙華が、彼女の血に濡れて朱く染まりゆくその光景。
 全てが夢幻。《貪瞋痴》(三毒)がこの世に蔓延り。人の世は、夢幻。
 だから殺そう。この孤独を胸に秘めて。
 ゆえに殺そう。全ての毒を飲み干すまで。

 そして殺そう。誰かが私を、《認めて》(ころして)くれるまで。

GMコメント

■ 成功条件
・ 『人斬り』を撃退する。(人斬りの撤退基準は後述)

■ 情報確度
・ B です。
・ OP、GMコメントに記載されている内容は全て事実でありますが、ここに記されていない追加情報もあるかもしれません。

■ 現場状況
・ 《豊穣》(カムイグラ)のとある地域。
・ 曼殊沙華(彼岸花)が一帯を覆い尽くす様に群生している森の中。後述の『人斬り』が立っている場所は、『人斬り』を中心にした半径15メートル程だけ木々が無く、ぽっかりと空が見えています。
・ 時刻は夜ですが満月が照らしており、視界はおおむね良好です。
・ シナリオはPC達が現場に到着し、『人斬り』を確認した時点からスタートします。

■ 敵状況
● 『人斬り』
【状態】
・ 人形の様に病的に白い肌。際立って長く、ボリュームのある艶やかな黒髪。折れてしまいそうな華奢な体躯。一見すると絶世の美女であり、OPでは発見者も“女”と認識していますが、実際の性別は判明していません。常に瞼を閉じていますが、視界はあり、周囲は見えているようです。
・ 怨霊の類なのか、妖怪の類なのか。ならず者なのか、バグ召喚された《旅人》(ウォーカー)なのか。魔種なのか。現状では正体が一切不明で、名前も分かりませんが、非常に強敵であるということだけが事実です。
・ 理性があり、人語を介した会話が可能です。

【能力】
・ 鞘の無い妖しくも美しい日本刀(太刀)を所有しており、それを用いて戦います。
・ 攻撃力、反応、機動力、EXAが非常に高く、殺傷能力に優れます。基本的に、常に複数回行動を行います
・ HPが50%を切ると、EXスキルを発動し、撤退します。

【攻撃】
 1.抜刀・灼然(A物至範、出血、流血、失血、大威力)
 2.受刀・儚(A物至範、必中、飛、大威力)
 3.閃刀・滅諦(A神中域、万能、石化、魔凶)
 4.終刀・彼岸の蛇(A物近単、体勢不利、出血、流血、失血、大威力)
 5.EX 曼殊沙華の蹲(A特レ物、出血、流血、失血、超威力)
   ※特レ:『人斬り』の視界に認識された者すべてを対象とする。

● 『曼殊沙華の掌』
・ 群生している曼殊沙華の一部が意志を持ち、PC達に絡みつき、行動を阻害します。HPを削るような攻撃力は有しません。
・ 一帯に火をつけて燃やしたりなどは出来ません。幾らか刈り取ることは可能ですが、無数に生息しているため行動手番の消費と天秤にかけると、メリットは薄いです。一方で、PC達の血を浴びると動きが鈍くなります。血は『人斬り』の攻撃に依って得られたものでも、自身の行動に依って得られたものでもいずれでもよいです。

■ 味方状況
特になし。

■ 備考
特になし。

皆様のご参加心よりお待ちしております。

  • 彼岸花の咲く頃に。完了
  • GM名いかるが
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年10月26日 22時06分
  • 参加人数6/6人
  • 相談10日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (6人)

杠・修也(p3p000378)
壁を超えよ
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
久住・舞花(p3p005056)
月下美人
緋道 佐那(p3p005064)
緋道を歩む者
白薊 小夜(p3p006668)
盲御前
笹木 花丸(p3p008689)
はなまるぱんち

リプレイ


(確かに、尋常の者ではない様ね)
 人斬り、辻斬り。……その正体が何であれ、生活感・気配というものがある筈。
 けれど、これは。
 元が如何かは兎も角、もはや俗界浮世の“人”には見えない。
(化生の類を疑う声も――わかるというもの)
『月下美人』久住・舞花(p3p005056)の瞳が細められる。
 同時に刀を抜いた。
 その視線の先には、匂い立つような美貌の人影。
 ――人斬りが、深紅の彼岸花に埋もれるようにして立っていた。
(彼岸花の咲き誇る地に現れる、人斬りを行う剣士……不思議なものね?)
 彼岸花に“何か”を視たのか。
 その花にこそ血を。
 或いは、自分を見せたいのか。
 それとも……。
「……なんて、戦を前に頭を捻るのは似合わないわね。
 見聞きで知り得ぬ事なら、剣で伝わるものもあるでしょう。
 であるなら──今は、この一時に身を任せましょう」
『緋道を歩む者』緋道 佐那(p3p005064)も舞花に続き、鞘から刃を抜く。
 構えたるは、虚式『風雅』。
「だって……、今日は、とても。
 ――楽しい夜になりそうなのだから」
 平時は清楚で通る穏やかな佐那の瞳の奥に、赫い火が灯る。
 これは佐那にとって、又とない機会。
 極上の剣士と刃を交わらすことができるのだから。
「彼岸花の群生地域にのみ出没する人斬り……かぁ」
『おかわり百杯』笹木 花丸(p3p008689)は拳を構えながら、興味深そうに人斬りを見遣る。
(それだけ彼岸花に思い入れがあるって言う事なのかな?)
 内心で首を傾げた花丸。次いで、眼前に鮮やかに咲き誇るその花々を見た。
(赤い彼岸花の花言葉は、“思うはあなた一人”、“また会う日を楽しみに”。
 ――そして、“悲しい思い出”)
 人斬りの様子は、只の快楽殺人者という訳でもなさそうだ。
 何を思っているかは分からない。
「……だけど」
 花丸の拳に、力が入る。
(こんな事は誰かが止めなくちゃいけないんだ。
 だから、私は戦うよ。
 あなたがもう、誰かをこれ以上殺さないで済むようにっ!)
 花丸の少し後ろで、『壁を超えよ』杠・修也(p3p000378)も同じく拳を構えた。
(人斬りっていうのは、何を想い人を斬るんだろうな)
 それは花丸と同じ疑問。
 だが他人の考えを知る術はない。
 人斬りを挟んで、修也の逆サイドには『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)が立っている。
 イリスの真の姿は魚類のものであって、現在の人型は仮の姿。
《海洋》の出身たるイリスには、人斬りの機微などと云うものには縁遠いものであろう。
 だが、此度の斬り合いにおいて。
 イリス、そして花丸の存在は。
 確かに、極めて重要な意味合い持つことになる。
(――人斬り。
 それも、かなりの遣い手と斬り合えるなんて、こんなに嬉しいことはないわね。
 依頼ではあるけれど、楽しませて貰いましょう)
 今宵のイレギュラーズ六名。その最後の一人である『乱れ梅花』白薊 小夜(p3p006668)が、和傘から仕込み刀を抜いた。
 ――この取り合わせは、ある意味、幸運なものなのか。
 極上の、そして美しい人斬りと相まみえる、三名の刀鬼。
 人はそれを、運命と形容するだろうか。
(ただ追い払えばいいのでしょうけど、斬り捨てる心算で行くわ)
 眼前の人斬りは、常に瞼を閉じている。
 ……その様子は、どこか盲目の小夜の姿と重なって見えるが、小夜にそれを知る術はないし、人斬りが盲目なのかも分からなかった。
 だが、それでいい。
 剣士に語るべき言葉は無い。
 あるのは一足一刀の間合い。
 そして刃の交わる、一瞬にして永遠の時間だけ。

 頭上には、冗談の様に巨大に輝く満月。

 冷たい一陣の風の風が吹く。

 足元すら見えぬほどの彼岸花が嗤う様に揺れて。

「――始めましょう」

 人斬りの口から、鈴の様な声が零れた。


「――っ!」
 瞬きをした次の瞬間。
 花丸の眼前には、もっといえば三十センチメートル先には、人斬りが立っていた。
「匂いますね」
 ――何が? そう問いかける前に、花丸は自身の視界が宙を捉えていることを認識した。
 花丸の体躯が舞う。その様子をコマ送りで見ていた修也は、ほぼ無意識の内に左腕を上げ、防御の態勢を取る。
 ――時が一倍速に戻る。修也の腕を一刀の軌跡が斬り抜くと、修也の後ろで人斬りが三手目を構えていた。
 右方から左方作法へ斬り抜いた刀。人斬りの首に巻きつくように密着した右手、其処から伸びる刀は。掌の内で柄の握りだけを逆転させる。
 人斬りの態勢が、ほぼ地面に這うように。
 そのあまりに柔軟な体躯が、この上なく撓やかに、獰猛な獣の様に。
 その姿を、深紅の彼岸花の中に深く、深く、沈めて。
 ――時の流れがまた遅れる。
 瞳孔の捉える映像の連続性が、舞花から失われる。
 コマ送りになりながら舞花は、剣の持ち手を切り替える。
 視線が落ちる。
 彼岸花が散る。
 其処に追随して現出する蒼い軌跡。
 のち。
 ――時が一倍速に戻る。
 舞花は両手で柄を逆さに握り、その刃先は地面を向いて剥いていた。
 そのおよそ中央に交わる、淡く青く輝く刀身。
 左上段から振り抜かれた人斬りの剣戟を寸での所で受け止めた舞花は。
 映像より遅れて感知する。
 耳を劈く、刃と刃の邂逅の音を。
「――速い」
 舞花に見えるのは、人斬りの形の良い頭。深く低く屈んだ人斬りの一刀に、舞花が感想を漏らす。
 人斬りは瞬刻の邂逅を楽しむ。そして直後、その刃を舞花の刀をなぞる様に直上へと走らせる。
「……っ!」
 舞花は身を仰け反らせてそれを避けると、頬に縦立て一筋の朱。そのまま、一歩間合いを取る。
 人斬りは振り上げた刀を、気づいたときには、既にださらんと右手を降ろし、体側に落とすと、やはり瞼を落したまま口元に微笑みを浮かべた。
「あなたたちからは、強く血の匂いがする。おかしいですね。だったら、むしろ歓迎されるべきなのですが」
 そう言ってふるふると辺りを見渡した人斬りは、「……あ」と口を開けた。
「この様子――ああ、そうですか。詰まり、“私の問題”、ということですか」
「……何を、言っているの?」
 眼前で繰り広げられた神速の剣戟に、打って変わって独り言ち始めた人斬りを警戒する様にイリスが問うと、人斬りはくるりとイリスの方へ振り返る。
「いえ、詰まり……」
 人斬りは、少し間を取って、

「――“ご同類”に出会えたことに、幾許、感動しているのです」

 言い終わった瞬間。
 疾る影。
 人斬りは降ろしていた右腕を上げる。
 軽やかに振り上げた刀身は。
 ――業火に燃ゆる、佐那の強烈な一撃を受け止めた。
 佐那の一撃は右方から一文字に斬り抜く刃筋。
 人斬りの蒼き刀身が、『風雅』が帯びる火焔を浴びて、軋む。
 佐那の瞳は、己が刀身のその業焔を映し出すかのように赤く。
 その視線は、未だ露わにならぬ人斬りの瞳と、交錯した。
「――成程」
 火粉の舞い散る中、佐那がぽつりと零す。
「どうかされましたか?」
「いえ。……今日は、私も。何の躊躇いも無く……。
 ……ううん、違うわね」
 ぎり、と交わった刃先が音を立てる。
「こんな日に、嘘偽り、建前。偽善、そんなものは、無しにしましょう」
 佐那の口元には、笑みが。
「あなたとの命を懸けた斬り合い――心の底から愉しませてもらうわ!」
 言い終わると同時に弾ける二人。
「……」
 人斬りの動きはそのまま流れるように刀を上段に横で構えると、
「私もね」
 佐那との入れ替わる様に、人斬りの視界に現出する小夜の刀身。
 それは、恰も凄愴と称すべきほどに――疾い。
「あなたを一目見て、思ったわ。多分、私たち……」
 キィンと響く刃音が無数に鳴り響く。
 小夜が放つ剣戟はあらゆる方角から人斬りを斬り、穿つ。
 その小柄な体躯からは想像もできぬ程の手数。
 その軌跡はやがて目に留まらぬ程に。
 だから、邂逅する刃と刃との閃光が、まるで舞吹雪く桜の花の様に――。
「――似ているのね」
 カァンと鳴り、最後の一刀で人斬りが爆ぜる。
 そのまま後方へ飛んで、音も無く彼岸花の海に着地する。

「――ああ」

 人斬りは目元に左手の掌を当てて、空を仰いだ。

「あなたたちは……素晴らしい」


 ぐん、と人斬りが駆ける。今度は上段冗談に刀身を振り上げて、そのまま足を踏み込んで、最短にいる修也へと切り込む。
「させないよ……!」
 振り下ろされた凄絶なる一刀を――初撃を受けていた花丸が真正面から受け止めた。
「……っ!」
 人斬りの顔色が、少し変わる。この感触は、人斬りにとって聊か不可解だった。
(――硬い)
 仲間へと振るわれる刃を、花丸は己の拳で受け止める。その手からは、血が噴出する。
 剣の達人たる人斬りにとって、それは無粋と感ぜられるものだろうか。
 ――否。
「“其れ”があなたの、刀なのですね」
 人斬りは、花丸の拳を、その拳こそが刀であると認識した。……花丸がそれに同意してくれるかは、分からなかったけれど。
 そのまま人斬りは、すぐに刃を戻すと、そのまま振り向きざま後方の佐那を切り結ぼうとするが、
「馬鹿正直に、正面から斬り込んでくれるのは助かるけど。
 ……よそ見する余裕は、無さそうね」
 その先には盾を構えるイリスの姿があった。頑丈さは、ほぼ花丸と同等。
 従って。――極めて堅牢なる二名のイレギュラーズに、人斬りは挟まれていた。
「……あなたは、どうして人を斬るの?
 人を斬って、斬り捨てて。その果てに、あなたは何をしようと言うの?」
 花丸が人斬りに問いかける。その声色は、非議と云うには優しく、むしろ、哀切に近い感情を感じさせた。
 人斬りの相貌に、感情の色は無い。唯々、婉然としたその振る舞いが、匂い立つほどに美しい。
「私の刀には、鞘がありません。それが理由であり、目的なのです」
「鞘が無いことが、理由?」
「はい。想像したことはありますか? 納めるべき鞘の無い刀の末路を」
 人斬りが刀を構える。
「しかして、この場では理由など些細な事。
 今宵も彼岸花が――曼殊沙華が、血を欲しています」
 その刀身に、月光が反射する。舞花は、その刀が極めて薄いことに気が付いた。刃毀れしてすぐに使い物にならなくなる様な、そんな刀。けれどその刀身は、透けるように美しく妖しく輝いて、剣士である彼女の心に、強く感情を昂らせる何かが、間違いなくあった。
「さあ、祝杯をあげましょう。
 私たちの出会いに。
 私たちの邂逅に。
 私たちの――殺し合いに」
 人斬りが高らかに笑い声をあげる。
 呼応するかのように、群生している彼岸花がざあざあと蠢き始める。
(この曼殊沙華とやら……、人斬りと何か関係があるのか?)
 修也が眼鏡越しに鋭い視線を張り巡らす。修也の脳に入り込んでくる数多の情報がその彼岸花の敵性を解析すべく消費されていく。しかし、
「……駄目か。どうやらこの曼殊沙華、俺達に敵意がある訳じゃないらしい」
「厄介ね」
 イリスの返答に修也が頷く。
「人斬りの本体が花の化身かとも疑ってみたが、どうも違うようだ」
 修也の言葉に、舞花が刃を構える。
 その刃先をしなやかな腕捌きで回転させ――、一息に、踏み込む。
「この光景といい、やはり自然のものじゃない。
 ――貴方の影響下、貴方の仕業ですか」
 その舞花の一振りに、びゅうと強い風が吹く。裂帛の一振りに追随した小さな嵐が周囲の彼岸花を切り刻むと、宙に舞う。まるでそれは、血飛沫の様であった。
「――お覚悟を」
 刀を握る右腕を大きく肩の位置まで上げて、突きの態勢。
 次の瞬間、大地を蹴り抜き。
 空間に咲き誇る血花の海を抜け。
 その刃が、人斬りへと振り抜かれる。
 ――キィンと金属の爆ぜる音。舞花の体躯は人斬りを追い越して、その後に音が連なる。
 正しく、後の先を斬る剣。――だが、
「……っ!」
 一拍遅れて、舞花の左腕からが噴出する血液。舞花は後ろの人斬りを振り返る。人斬りは、舞花を見ていた。
「やるじゃない」
 その一拍を見逃さず、佐那は云うと、人斬りの懐にまで鮮やかに踏み込んだ。 深く落とした重心を、掌にて鍔を持ち替えて、勢いよく直上へと振り上げる。
 視線を戻す間もない人斬りは。刀をびゅんと下に切り伏せ、佐那の剣を受ける。一瞬止まった刃を、その側方になぞらせて直下に――佐那の柄の持ち手にまで、滑らせていく。
 佐那は眼前の敵の刃を見据えて、柄ごと左方へと、人斬りの体躯を蹴り飛ばした。
「――」
 寸での所でそれを躱した人斬りは、けれどその代償に、佐那の腕を斬り落とす機会を失った。そして、
「その俊敏さ、削らせてもらうぞ」
 続けざま後ろから修也が、人斬りの足を狙って拳を振るう。その拳は、花丸と同様に刃の拳。
 渾身の一撃は。破滅的な威力を以て、人斬りへと襲い掛かり、
「……っ!」
 やった。そう感じた修也の視線の先に、殴打したはずの人斬りの姿は無く、
「後ろ!」
 イリスの叫びに修也の身体が無意識に反射する。振り向きざま腕を上げ急所をカバーする修也の身体に、横一線の凄絶な斬撃が向かい来るが、
「――させないわよ」
 その一撃をイリスが受ける。そして、イリスの身体から五秒遅れて血が噴出する。体には、十一の裂傷が出来ていた。
 だが、ここで漸く、人斬りの攻撃を止めた。その隙を逃さず、小夜が抜刀する。
 ちゃき、と鞘から半身抜かれる刀身。小夜の膝が深く沈む。
 其処から、横に――否。円を描くように一周する軌跡は、彼岸花を赤く散らしながら、
「まだよ」
「――――っ!」
 其れを逆手に受けた人斬り、しかし、小夜の攻撃は留まらない。邂逅した刃先を振り上げると、振り下ろし、右上段へ振り上げ、左一閃に振り抜き、逆手に持ち替えて逆方向方法、右一閃に斬り抜き――。
 がん、と。お互いの体躯の真正面で、刃と刃が交錯する。ぎりぎりと震える二対の刃。人斬りと小夜の顔が、息が届く程に近い。
「素晴らしい――」
 吐息に交じって、人斬りの声が届く。
「その匂い、その腕。あなたたちの様な人を、私は待っていたのかもしれない」
「随分と思わせ振りな言い方ね」
 次の瞬間、邂逅が弾ける。刃だけでなく体躯ごと互いがすり違うと、人斬りが振り向き、頬を撫ぜる。掌には、朱が滲んだ。
 そのまま視線を小夜へと移すと、小夜の身体には、右肩から袈裟斬りに、左太腿までの斬撃から、多量の血が噴き上がる。
 ――その血を吸って、大地の彼岸花は一転大人しくなった。
(まるで、体温に安心して眠る、赤子の様――)
 小夜は視覚を持たないが、その代わりに研ぎ澄まされた感覚を持つ。周囲の雰囲気に、小夜は彼岸花の動きを感じ取った。そして、己の傷が浅くないことも。


 花丸が駆ける。頭上から振り下ろされた人斬りの刃を真正面から受け止めて、身体中から血を流す。頑強なる花丸を以てして、人斬りの放つ斬撃の殺傷性は一部の隙も与えてはくれなかった。だが逆に言えば、“花丸だからこそ”、この程度で済んでいる。
 イリスも人斬りへと接敵し、その斬撃を浴びながらその動きを阻害する。そして人斬りの背後、舞花が刀を左上段から斜めに斬り抜くと、人斬りの刃が弾けた。
 ――正体は不明ながら、その剣は見紛いようもない。
 それは斬る為ではなく、きっと、殺す為の剣。
(でも、殺しを愉しんでいる様には見えない。
 ――かといって、斬る事を愉しんでいるようにも、戦いを愉しんでいるようにも。況や、技を愉しんでいるようにも見えない)
 剣を通して遣い手の思想情念が見えるというが――舞花は眼前の人斬りを見て、その底知れぬ感情を探る。
(……何故剣を振るう。何故、殺す?
 欲は見えない――けれど、無想無念の境地という訳無さそうね)
 片眼を斬られ左眼だけを開けた舞花は、問う。
「貴方……何者です」
 イリスが後方へと吹き飛ばされ、修也が殴りかかる。返す刀を花丸が受け、逆方向から佐那の焔を纏った刀身が人斬りの腕を斬る。人斬りは構わず太刀を前方に大きく突くと、佐那の右肩に深く刺さり、艶麗な佐那の相貌が大きく歪んだ。

「私は……」

 呟いて、人斬りの顔が、その端正な顔が、歪む。佐那に突き立てた刃をずるりと引き抜くと、くるりとその切先を背後へと向けて、前方に重心を落す。人斬りの背に大きな切り傷――それは小夜の切っ先が付けた傷だったが、人斬りの反撃の刃は、返す刀に小夜の腹を貫通した。
「――思えば私も永い時を彷徨ったわ」
 花丸が駆け寄り、自身の拳が切れることを一切厭わずに、小夜の身体から刀を引き抜く。
 膝をつきかけた小夜は、寸でのところで留まり、それでも刀を向ける。
(だから、斬り結ぶその刹那に、互いが互いだけの事を一心に、一途に想い求め合う。
 そんな斬り合いが好きで、そんな死合わせの果ての終わりを願う。
 ……だと言うのに、あなたの心には“別の者”の事を考える余裕が在る様子)
 私には――それが許せない。
「沈め――人斬り!」
 小夜の視線の先で、拳から血を流す修也が、渾身の一撃を放つ。
「……っ!」
 その一撃が、人斬りの腹部を捉えた。かは、と人斬りの口から鮮血が零れる。
「――イタイ」
 びゅん、と人斬りが刃を奔らせた。その切先は修也を捉えて、彼の顔と腹を深く切り裂く。
「くっ……!」
 続けざま、その刃は片目を潰した舞花へと向け鋭く突き出されて――。
 ずぶりと今宵幾度目かの感触。深く肉を絶った感触。――だが斬られたのは舞花ではなかった。
 人斬りの目が細められる。其処には、己の身体の内に刃を留まらせる、花丸の姿があった。
 深く深く、花丸の胸に刺さる刃。それを抜くのではなく、むしろ抑え込むように、花丸は刃を抱いた。
「鞘が……無いのなら……」
「何故……」
「私が……鞘になってあげる……」
「――――っ!」
 そう呟いた花丸の言葉に、人斬りは今日初めて、強い感情を見せた。

「やめろ!」

 構わずに人斬りは、花丸の身体から刃を引き抜くが、その動きは余りに隙だらけで……。

「――この刹那だけは。
 余所見も気移りも、決して許さない」

 その眼前には。
 瀕死の小夜の刀が、余りに疾く――。


 小夜の刀が人斬りの右目を貫いたとき。

 人斬りの左眼が、

  人斬りの黄金色の虹彩が、

   イリスたちを見ていた。


 突然、身体中に激痛が走り、血が流れたことは覚えている。
 だらんと腕を伸ばし、刀をぶら下げた人斬りが、急激に萎れていく彼岸花の中をとぼとぼと歩いていく背中が、修也に見えた。
 身体は地面に倒れ、辛うじて周囲を見渡すと、仲間達も同じく萎れた彼岸花の中に埋もれていた。
「……待ちなさい」
 地に伏した佐那がその背中に投げかけると、人斬りは、ぴたりと歩を止めた。
「……あなたは、何の為に刀を握る? 何故人を斬る?」
 人斬りが振り返る。
 右目は潰れて、血涙が流れ、残る左眼は、元の通り瞼が閉ざされている。

「あなたも一緒でしょう?」

 鈴の様な声が鳴る。そのまま人斬りは歩き出そうとするが、

「――ねえっ」

 その凄絶なる攻撃を受けてなお。
 花丸が、震えながら立ち上がり、

「貴方の名前を教えてよっ!」

 必ず貴方を止められるように、
 貴方の事を忘れえぬように、
 貴方の名前を――。

 ふ、と人斬りは穏やかに笑って、

「――人斬りに、名など無用です」


 人斬りの胸に、嘗てないほどの充足感が満ちていた。
 人の世は夢幻。されど、かれらと交えた刃は、不変。

「あなたたちなら」

 ――人斬りは一人、暗路を往く。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

久住・舞花(p3p005056) [重傷]
月下美人
緋道 佐那(p3p005064) [重傷]
緋道を歩む者
白薊 小夜(p3p006668) [重傷]
盲御前
笹木 花丸(p3p008689) [重傷]
はなまるぱんち

あとがき

皆様の貴重なお時間を頂き、当シナリオへご参加してくださいまして、ありがとうございました。

大変な斬り合いだったと思いますが、盾役と剣役を上手く使い分けた作戦で、何とか人斬りを撃退することができました。
重傷の方が多いので、身体を休めてくださいね。
彼岸花が咲いているのを見て思いついたシナリオでしたが、返却する頃にはもう散ってしまいましたね。

ご参加いただいたイレギュラーズの皆様が楽しんで頂けること願っております。
『彼岸花の咲く頃に。』へのご参加有難うございました。

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