PandoraPartyProject

シナリオ詳細

厭世の渓に堕ちる前に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 いよいよ明日はあなたの番よペリエ。逃げられると思わないでね。

 マザーの足音が遠ざかる。簡単な南京錠で閉じられた埃っぽい部屋で、わたしは最後の夜明けを待つ。
 明日の魔女裁判は、あたしが被告として立つことになっている。どうしてあたしが? 何をしたというの? 魔女裁判にも一切関わらず、目立たないように生きてきたのに。こんなの絶対間違っている。
 行き場のない感情が両目から溢れ出した。十三歳の少女ペリエは嗚咽をもらす。

 陥れられる前に堕とす。それが独立都市アドラステイアに住まう少年・少女の日常茶飯事。
 昨日まで聖銃士様と敬愛された少女が一夜明けると魔女として吊るしあげられる。
 弾劾するネタなんて合ってないようなもの、捏造なんて当たり前。隙を見せたら終わりなのだ。自室は絶対に施錠する。友人は作らない。不要な会話は絶対にしない。借りは作るなんてもってのほかだ。
 弱みを握られたら自死を覚悟するほどの狂気の世界。あれに堕とされるくらいなら一層のこと……。

「ペリエ……大丈夫?」
 扉の向こうからわたしを呼ぶ声――クロエだ。わたしの唯一の友達。彼女だけは例外なんだ。
「大丈夫だよ。あの件、やってくれた?!」
「もちろん。一週間前に依頼しておいたよ。あたし達の全財産をはたいて」

 流石はクロエ。あたしがここで唯一の味方として選んだだけある。あたし達の全財産、無駄遣いせずに必死に貯めてきたから結構な額になっているはずだよね。
「あの人達は今晩には来てくれる。だから、諦めないで」
 あ、まずいかも。そろそろ行くね。そう言い残してクロエは去った。

 もうすぐか。埃っぽい部屋に一週間も閉じ込められて、食事も酷いものばかり。とてもひもじい。でも生きて出られるなら我慢しなくちゃ。
 そういえば、あたしが魔女として告発された理由……。
 助かると分かったせいか、思考に余裕が生まれてあの日のことを思い始める。ペリエは埃とカビだらけのベッドに横たわる。

 一週間前のこと。
 朝食から部屋に戻ると、マザーが凄く怖い顔であたしを睨んでいた。急に部屋を調べさせろって。その時、マザーはなんて言っていたっけ。
 そうしたらちゃんと施錠したはずのあたしの部屋から、怪しい道具が幾つも見つかった。
 渇いた血がこびりついた短刀、幻覚効果のある禁止された薬草、人骨らしきもの。ペリエは何一つ身に覚えはなかった。誰かにやられたのは当然だけど一体誰が……。ペリエに思い当たる節はない。

 首都フォン・ルーベルグまで行けば親戚が何人かいるから、きっと助けてくれる。どうか、この狂気の都からあたしを連れ出してください。


「アドレステイアの依頼があるが……ちょっと待ってくれ」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)は依頼書に視線を落とし暫し考え込む。
 依頼は要約すると、アドラステイアに幽閉された少女を解放し、首都フォン・ルーベルグまで護衛する、となるようだ。
「だがアドレステイアはなかなか厄介な都市だ。潜入は出来ても、簡単には出られまい」
 ましてや戦えない少女が一緒であればな。ショウは依頼書をイレギュラーズ達に手渡した。

 選択肢の無い子供たちの拠り所はおかしなドグマ。それにはまると自主的に抗争に走り出す。
「なぜ子供たちに選択肢が無いかって? 戦災孤児ばかり集めているからさ」
 集団ではなく孤独が集まっているだけというわけだ。ああ、依頼人のペリエという少女はレアケースでな。首都フォン・ルーベルグに何人か親戚がいる。その親戚筋は彼女を引き取る気があるらしい。彼女の死んだ両親に恩があるそうでな。裏は取ってある。

「という訳だ。厄介な依頼だが少女を救ってくれ。そうでなければ、彼女はあれに堕とされることになる」
 ショウは一度踵を返し、依頼の説明を終えたと思いきや、振り返る。
「……恐らく新世界の奴らも出てくるだろう」
 無傷で帰れる保証がないことは覚えておいて欲しい。知っているかもしれないがあの国は旅人のことを……。

GMコメント

日高ロマンと申します。よろしくお願いいたします。
潜入&脱出ミッションとなります。

●依頼達成条件
・アドラステイアからペリエを連れて脱出する

●ロケーション説明
・ペリエが幽閉されている建物は木造二階建て(狭い)。部屋は予め特定できています。
・アドラステイアからの脱出経路は複数利用可能です。
 →石畳の街路、路地裏、下水道など
・街には敵対勢力が徘徊している可能性があります。
・本シナリオの舞台はアドラステイア下層となります。中層以降への潜入は不可となります。

●シナリオ補足
・イレギュラーズはアドラステイアに潜入した直後からスタートします(幽閉最終日の夜)
・戦闘結果によって、イレギュラーズは負傷または重傷を負う可能性があります。

●敵対勢力
・???:よわい
・子供達:よわい
・大人達:よわい
・聖銃士:普通
・新世界:強い
・聖獣:強い

※数はルートによって変動します

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 厭世の渓に堕ちる前に完了
  • GM名日高ロマン
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月16日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
アト・サイン(p3p001394)
観光客
セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
小金井・正純(p3p008000)
ただの女

リプレイ

●退路班I
「ここが下水道の入り口だな」
 使い魔を出すまでもなかった。ここまでは情報通り……。『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)は下水道の前で腕を組む。入り口は鉄柵で封印されていたようだが、強い力でねじ切られている。千切れた鉄柵は獣の牙にも見えた。
 化け物の口に入るみたいで、ぞっとしねぇな。キドーは舌打ちをする。
 アドラステイアの地下に張り巡らされた下水道は広く長い。
 怖いもの見たさで入り込むと、生きて出られないという噂も立つほどだ。それは迷路のような下水道で迷って野垂れ死ぬというわけではない。侵入者を見境なく襲ってくる化け物が出るらしい。

「少し待ってくれ。最短経路を出す」
 キドーは下水道の壁に小石を当てる。音を反響させてルートを探るためだ……こっちだ。
 汚水をかき分け奥に進むと間もなく二股に差し掛かる。二股の先には更に分岐が待っている。網目状に展開された下水道はまるで獲物を捕らえるための蜘蛛の巣の様だ。
「こいつは骨が折れるが、俺達ならやれなくもない」
 『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)が複数のルートを見渡し、「こっちのルートは狭すぎる。戦闘になったら終わりだ。やめておこう」と戦略眼を光らせる。
「隣のルートのことは壁越しに分かるかもしれません」
 『星はそこに』小金井・正純(p3p008000)は壁に手をかざして向こう側を読む。
「今、遠くで――」『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)の聴覚が何かを捉えた。
「遠くと言っても下水道の中から。獣の唸り声のようなものが聞こえました」この通路の遥か先で、とクラリーチェは指で示した。
「恐らく聖獣ってやつじゃねぇか?」使い魔に探らせる、とキドー。
「出口まで何もいない、なんてあり得ない……お約束ですね」クラリーチェは残念そうに肩を竦める。
「俺達は潜入捜査に長けていると言えるが、一般人が迷い込んでしまったらぞっとするな」
 蜘蛛の巣か蟻地獄か。と世界はため息を吐く。
「ですねぇ。大方、脱走する子供たちを捉えるための措置なのでしょうね」
 正純は無意識に自身の信仰について考えていた。彼らの象徴――ファルマコン。一体どんな教義なのだろうか。今もどれだけの子供たちがそれを植え付けられ、狂わされているのだろうか。出来ることなら助けないと。
 しかし、正純はかぶりを振る。今はこの任務に集中しないと。ペリエさんを確保して彼女から情報を得られれば次に繋がるから。
 まずはペリエさんと救助班が来るまでに退路を確実に確保しないと……。

 各々の能力を駆使して最短ルートを選びつつ、罠は全て避けることに成功した。
「鳥の声……野鳥だと思います。アドラステイアの中にはいないはずです」クラリーチェは耳をそばだてる。
「つまり、外は近いってことですね。ではこの辺りで引き返して皆を迎えに行きましょうか? この周囲に不審なものはありません」透視で罠がないことを確認した正純は合流を促す。
「待ってくれ」キドーは皆を制止する。「鼠の一匹が戻ってこねぇんだ……この先に何かいやがる」
「この先は一本道だな。進むしかないか。番人がいるなら、四人で倒しておくか?」と世界。
「得体の知れない相手だろうけど……援軍は私が呼ばせませんから」正純も交戦を覚悟する。
「倒すよりいなして通りたいですね。一本道の先から足音は何も聞こえない――集団で潜んでいるわけではなさそうです」
 救助班と合流まで戦闘は避けたかったけど、致し方ありません。クラリーチェも遭遇戦の準備を始める。

●救助班I
 風のない暗夜に蝶が音もなく漂う。仄かに輝く鱗粉は主を誘う道しるべ。
 ――こちらに。
 『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は儚き使い魔に誘われ闇の中から不意に現れる。
「ここまでありがとう。小さくて可愛い使い魔さん」
 続いて黒いローブを脱ぎ捨て闇の中から現れたのは『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)。
「あの建物だね。見張りがいるな。僕に任せてもらおう」
 『観光客』アト・サイン(p3p001394)はゆらりとした佇まいで先陣を切る。勿論、正面から斬りかかるわけではない。

 ペリエが捕らわれていると思しき建物はスラム街に溶け込んでいた。とてもこの都市の主権を握る組織の重要施設とは思えない。経年劣化で朽ちかけた二階建ての建物だった。カモフラージュの意図もあるかもしれない。
「スラム街の中であの建物だけを巡回する奴がいるね。武器は隠してるつもりだろうが見え見えだ。だったら――」
 アトは段ボールに身をひそめると――警備はそれに意に介さず見過ごした。「甘いな」アトは背後からナイフで強襲する。
「アドラステイア。ホント、心を煮詰めたような嫌な街」
 『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)もアトの攻勢を皮切りに速攻をかける。見張りを手早く穏便に倒して一般市民には何も気取らせない。
 はい、完了。アトとセリアは倒した警備をす巻きにしてから人目のない路地裏に投げ捨てる。セリアはアリシス達にサインを送る。
「……ではペリエ様奪還に参りましょう」アリシスとリゲルは警戒しつつも建物に侵入する。アトとセリアも続く。

「あの部屋にペリエはいる」
 建物の二階、リゲルはペリエの気配を感じ取りドアに駆け寄る。粗末な建物の二階には部屋が二つだけ。ドアはいずれも簡素な作りで、力ずくで開けられないこともないように見える。
 二階の廊下は四人でも手狭といえた。だが班分けをしたのは良判断であった。班を分けていない状態で敵の強襲を受けたならば一網打尽にされていたかもしれない。
「この程度の鍵なら解錠は簡単だ」アトはものの数秒で南京錠を開けてしまう。だがドアは開かない。建付けが悪いようだ。
「こんなもの!」リゲルは力を込めると蝶番ごとドアが外れた。金属の接合部が腐食していたようだ。

 ――誰?
 長い黒髪を後ろで束ねた少女はベッドに腰を掛け、救助班の面々をぼんやりと見つめる。頬がこけている。目が虚ろだ。
 部屋の唯一の明かりは消えかけの蝋燭一つ。このロケーションがより少女を不健康に見せた。
「ペリエ様ですね。どうか警戒しないで」アリシスは腰を折り彼女の目線に合わせて微笑みかけた。
「あなた大丈夫? 肩貸そうか」とセリア。
 二人の柔和な表情を見てペリエは警戒をいくらか解いた。もし強面な退路班の……いや、それでも問題ないはずだ。
「安心して欲しい。俺達は君を助けに来た」
 ペリエは長身のリゲルを不思議そうに見上げた。大きい男のヒト。頭一つ分以上の身長差がある。
「これ……」ペリエは短刀をリゲルに突き出し――。

 勿論、柄の方をリゲルに向けている。
「これは、証拠品か。君が魔女裁判を受けることになった時の」
「なんにも、覚えがないんです。お前のものだろってマザーがあたしに突き付けてきて」本当に知らないんです。ぺリエは力なく項垂れる。
 リゲルは僅かに鼻腔をくすぐる香を感じた。この短刀に付着したものだろう。

「おや、君は?」アトが背後の気配に気が付いた。
 部屋の外からこちらをうかがう少女が一人。特に身構えることなく立ち尽くしている。
「――香の、共通項がある。恐らく彼女がクロエだ」リゲルがクロエと思しき少女に鋭い視線を送る。
 なるほど、とアトがクロエに歩み寄る。
「君がクロエか。ありがたい、頼りにするよ」「なんなの、何も話すつもりはないわよ?」
 アトはクロエの肩を優しくがっちりと掴む。彼女はもはや逃げられない。そしてアトの瞳が怪しく輝く――。
「答えてもらおう。ペリエを売ったのは君だろう?」

「……そうよ。ペリエを堕とせば新……世界。……をもらえるから」アトの催眠術に促されクロエは訥々と話し始める。
 ペリエには聞かせない方がいい。セリアは憔悴した少女を気持ち、クロエから遠ざけた。
「冤罪なのは予想していました。では、私達を呼んだ本意はどちらに?」アリシスは小声で問う。
「……お前たちは新世界にはいらない……我々が根絶やしに……!」
 クロエは腰から短刀を抜き、躊躇なく自らの手のひらを突き刺した。そして半狂乱で暴れ始める。アトも一旦は間合いを取った。
「ダメ!」セリアはペリエを守るように立ちはだかった。
 クロエは短刀を振るのを止めて部屋の外に飛び出した。そして一目散に階段を降りて建物の外に逃げ出した。
「まさか催眠術を退けるとは。大した胆力だと言いたいところだが、あれは薬物だろうね」
 あの不自然な瞳孔は前にもどこかで見たことがある。アトは暫し考え込むが、直ぐに志向を切り替えた。さてここからが本番だ。

●退路班II
「犬か。好かねぇな」
 キドー達の前に立ちはだかる『もの』は犬に酷似していた。犬と決定的に違うところは体全体がどす黒い泥のような物で構成されている点だ。
 キドーは遠い間合いから神秘の力を間断なく打ち込み、一方的に封じ込めに入る。
「気を付けましょう! 強さも未知数でしょうから!」クラリーチェも遠距離から神秘の力で先手を取り、行動疎外を狙っていく。
 四足歩行の獣は撃たせるがままで、特に防御行動を取ろうとはしない。
「救助班の合流を待つまでもない。終わらせてやる」
 世界は虚空から白蛇を呼び寄せる。白き蛇は変幻自在の軌道で獣に飛び掛かり、瞬く間に絡みつく。
 獣はうめき声をあげ、不揃いの牙を食いしばる。効いているようだ。
「効いてますね! だったら!」
 正純も得意の間合いで攻勢に出ようとした瞬間、獣の背が爆ぜて無数の触手が飛び出した。触手はよく肥えた蚯蚓くらいの太さで、数百本は這い出ている。

「やばい奴じゃねぇか。ただの中型犬じゃねぇな、あれ」
 キドー達は再び間合いを取る。気温が低いはずの下水道で汗が頬を伝う。冷や汗か? なんなんだあいつは……。
 触手は一本ずつ、それぞれが意思を持つかのように予測不可能な動きを始めた。最初の犠牲は足元にいた鼠だった。触手の一本は鼠を絡めとり、獣の背に取り込んだ。捕食したのだろう。
 聖獣とは名ばかりで、本性は魔種の眷属にあたる怪物であった。下水道の番人、逃亡者の処刑機械。そう、無意識の機械に過ぎない。理性はなく食欲だけで半永久的に活動する。普段は肉塊の形で潜み、獲物が近づくと変形を始める。犬型に見えるのは最初に捕食した生物が犬だったのかもしれない。
「この先に出口がある可能性は高いです。ここは一旦……」クラリーチェは撤退を促す合図を目で送る。
「そうしましょうか。皆と合流して一気に仕留めて脱出するのが――」そう言って正純が退路を見やると、少女が一人駆けてきた。

「君は? もしかしたらペリエか?」世界は少女に問いかける。
 少女の右手には短刀。左手は血まみれだった。
「……聖獣。目覚めている」
 少女は虚ろな表情で、世界の背後でゆらゆらと揺れる獣の触手を眺めていた。
「酷い怪我。大丈夫ですか?」クラリーチェが案じて駆け寄る。しかしこの少女はペリエではなく……。

 少女は四人を振り切り、獣に向かって駆け出した。
「危ない、戻るんだ!」世界が叫ぶも彼女の足は止まらない。
 獣の触手が少女を捉えに行くが……すんでのところでぴたりと触手が止まる。少女は悠々と獣の背後にある通路――外に通じる最後の一本道を駆けていく。
「ふん、読めたよ。あれはアドラステイアを蝕む中枢の奴ら、聖獣を使う側だ」世界は遠ざかる少女の背を見つめ、ため息をつく。
「新世界だったか」キドーは間もなく視界から消える少女の背を見つめぽつりと言った。
「ああ、気に入らない名前の奴らだ」
 世界は眉間に僅かに皺を寄せた後に、深呼吸して言った。
「さて、俺達はどうやってここを突破しようか?」

「聖獣は追ってはこない。これで合流できますね」と正純。
「ですね、救助班は今頃はペリエさんを救出していると思いますし」クラリーチェは頷く。
 (あれのいるところまでの)退路を確保した四人は一旦、下水道の入り口まで戻ることにした。救助班と合流するためだ。
「あれがクロエ……さん。少し安心しました」道すがら正純がぽつりと漏らした。
「どういうことですか?」クラリーチェが問う。
「彼女が、私達と共に行くことを望んだら、見捨てることはできませんから」正純ははにかんだ。彼女の慈愛の精神故、だろうか。
 優しいんだね。仲間にそう言われると正純は頬を赤らめる。でも聞こえないふりをする。ばしゃばしゃと下水の水しぶきがうるさいから、と。
「ようやく入り口まで戻れましたね……皆着いてますかねぇ?」
 正純が下水道から顔を出すとアドラステイア下層の街並みが目に入る。そこに一匹の蝶が――。

●救助班II
 黒き蝶が舞えば闇夜に鱗粉がぽつりぽつりと浮かび上がる。その軌跡を無数の人影が追う。
 ペリエも救助班の面々と共に懸命に夜道を駆ける。
 おぶろうか、遠慮しないで。セリアの申し出に首を横に振る。疲労の色は見えたがアリシスの治癒のおかげもあって持ちこたえている。
「お嬢さんにおぶらせるわけにはいかない。必要なら俺を頼ってくれていい」
 リゲルはペリエに微笑んだ。少女はリゲルから目線を逸らし頬を赤く染めた。
「間もなく合流地点に……あら」
 アリシスは遠目に下水道から顔を出し、辺りを見回す正純を確認した。イレギュラーズの八人が再び集う――その前に、

 ――貴様らそこで何をしている。
 下水道に合流する手前の区画で巡回中の衛兵と鉢合わせてしまう。恐らく下水道の入り口も巡回コースに含まれていたのだろう。不運であった。
「敵は四人か。ペリエがいては分が悪い。ならば」
 リゲルは殿を買って出る。「任せるよ」アトは静かに頷いた。無論、リゲルを信用してのことだ。
「死ぬ気はない。すぐに追いつく」
 リゲルは皆を先行させ、無手のまま四人の衛兵と対峙する。白銀の剣は抜かない。

 ――丸腰か。馬鹿め、盗人風情が。
 リゲルは片膝をついて石畳に右手をかざす。
「ここは天義の成れの果て……なのか。だとしても無駄に命は散らすつもりはない」リゲルの周囲一帯はまばゆい光に包まれた。

●合流
「リゲルさんは一人で大丈夫なのですか?」
 クラリーチェは全員が揃う前に下水道に突入することに引け目を感じていた。
 ペリエの安全が最優先であることは認識しているが、イレギュラーズも全員揃って無事に脱出したいというのが心情というもの。
「大丈夫だ。彼を信じていいと思う」とアト。退路班にはもう一つ懸念があった。下水道の奥で見たあれの存在だ……。
「ペリエ様、お加減はいかがでしょう」アリシスは顔色の悪いペリエの背を支える。
「幽閉されている間、ろくな物をもらってなかったんだよな」
 ほら、これ。世界はひょうろうボーロをペリエに差し出した。
 あの腐臭漂う下水道で口に物は入れられない。突入前に差し出したのは世界の親切心であろう。
「美味しい」イレギュラーズの面々は少女の笑顔を初めて見た。
「リゲルを信じて行こうぜ。どうせ、追いつくことになるからな」キドーは含みを持たせる。勿論、あれの存在を指している。

「あの下品なものは一体……」
 聖獣を目の当たりにしたアリシスは暫し絶句した。
「触手系……。全ての聖獣があの形状ではないのだろうけど」近づいたら絶対に捕まるよね、とセリアは汚物を見るかの様に、眉間に皺を寄せる。
「万物の捕食者であってもあれは食べたくないよ」アトは肩を竦める。
「ところで神秘の力は通るのですか……?」アリシスは眉を八の字にして苦悶の表情で問う。
「手ごたえはあるんだが、再生力が高くて破壊が追いつかない」世界は眼鏡をくいと上げ、どうしたものかと思案する。やはり一気呵成に行くべきか。

 そこへリゲルが追いついた。
「待たせたね……あれは、ここの番人か……」リゲルはこの日、初めて剣を抜いた。
「人が出れば不殺を貫くつもりだったが、あれは人ではない」
 白銀の剣を構える。そこから戦局は一気に動いた。
「気持ち悪いから! 動けなくして逃げちゃおう!」
 セリアは渾身の先制を放つ。自身の精神力を弾丸に替えて撃ち出した。光弾は触手の何本かを引きちぎって獣の体を貫通したが微動だにしない。
「ええ、長々と戦うつもりはありません!」正純も足止めに徹底する。
 アリシスも強力な呪いで呪縛狙い――皆、呪縛のフルコースで畳みかける。

「そろそろ潮時では」アリシスは呪いの力で無理やり聖獣を押さえつけている。相当な抵抗があるようだ。
「ああ、逃げようぜ。お姫様の無事が何より優先だ」とキドー。
 クラリーチェの治癒のおかげで怪我人も出ていない。脱出するには概ね万全な状態であると言えた。
「そうしましょうか……さぁ、ペリエ様」アリシス達に手を引かれペリエは下水道を抜けて――。

●エピローグ
 ペリエはアドラステイアの下層から見事脱出した。
 イレギュラーズの誰かが崖上からこちらを見る人影を見た。
「あれは、クロエ……」彼女がこれからどうなるのか、知る由もない。

 ペリエは首都フォン・ルーベルグで無事に親戚と再開し事なきを得た。

 後にクロエは新世界に捕えられる。彼女にはペリエとイレギュラーズを逃した罰が待ち受ける。
 聖銃士の称号は剥奪され、暗殺者として野に放たれた。
 体に魔種の眷属を埋め込まれて……。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

無事成功となりました!
ステルススキルの数々、お見事でした!

※聖獣との戦闘を回避したので怪我人も出ておりません

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