シナリオ詳細
白獅子剛剣は大人の世界に踏み込まんとす
オープニング
●会場決定の連絡
「例の件ですが、決まりましたよ」
「おおっ、ありがとうございます。助かりました」
ある日のギルド・ローレット。リゲル=アークライト (p3p000442)の姿を見つけた新田 寛治 (p3p005073)は、頼まれ事の結果を報せるべく話しかけた。
「それで、何処の店ですか?」
「天義の都市ラ・グーカのカサ・デ・ウェイです。店主がリゲルさんのファンらしく『そう言うことでしたら是非うちで!』と快く引き受けてもらえましたよ」
リゲルが寛治に頼んでいたのは、貸し切りで使わせてもらえる酒場だ。二十歳となり飲酒が許されるようになったリゲルは、このところ酒と言うものに興味津々であった。これまでは年齢的に飲酒が許されず他のイレギュラーズ達が酒で楽しんでいるのを目にするだけだったので、許されたとなればどんなものか実体験も交えて色々と知りたいと思う。
とは言え、それまでの経緯もありリゲルは酒と言うものをよくわかっていない。そこで先達を頼り、酒について教えてもらうことにした。ついでに、その会場探しも幅広い人脈を持つ寛治に頼んでいたというわけである。
(ああ、早くその日にならないものだろうか……)
寛治と別れたリゲルは、当日が楽しみで仕方ないという様子で寛治から受け取った店の地図を眺めるのだった。
●酒を知るための宴
ラ・グーカは山の麓の都市であり、山の中腹まで続く坂の半ばほどに神殿がある。この神殿への巡礼者を目当てにした店が、広い坂道の左右に連なっていた。
カサ・デ・ウェイもそんな店の一つであり、昼はレストラン、夜は酒場を営んでいる。巡礼者を相手にするためか店内はシンプルながらも上品な内装でまとめられていた。普段は巡礼者達で賑わっているところであるが、この日は一昼夜貸し切られているため、客はリゲルをはじめとする八人だけだった。
「ちょっとおれさまには合わねえが、今日の主役はリゲルだからな」
「確かにアンビアンスはそうだが、店の設備をデストロイしなければフリーダムなのは悪くない」
内装に半ばぼやくようにつぶやいたのはグドルフ・ボイデル (p3p000694)。郷田 貴道 (p3p000401)はグドルフに同意を示しつつも、貸切の条件はそれを補って余りあると感じていた。
リゲルの活躍に熱烈なファンとなっている店主の好意により、この店が用意出来るものは酒にしろ料理にしろ全て出してくれる。それだけではなく、酒や飲料、食事の持ち込みも自由。さらには厨房を使って料理をその場で作っても構わないし、店の物を壊しさえしなければどれだけ騒いでもいいというのだ。
「お酒を知りたいと仰るのでしたら、しっかりと教えてさしあげるのですわ!」
「そうねぇ、リゲルくんのお酒を知りたいという気持ちに、しっかりと応えるわぁ」
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ (p3p001837)は熱く意気込んでおり、アーリア・スピリッツ (p3p004400)はゆるゆるとした雰囲気ながらも、頭の中では何を教えようかと言う思案を始めていた。
「ぶははっ! 酒を知るなら、酒だけじゃなくてツマミも知らねぇとな!」
酒を楽しむなら共にする料理は外せない。料理に一家言あるゴリョウ・クートン (p3p002081)は、いざとなれば自分でツマミを用意してしまうことだろう。
(大丈夫だろうか、リゲル……)
リゲルに同行してきた妻のポテト=アークライト (p3p000294)は、集まった面子を見て口に出しこそしないものの不安を感じていた。どうにも、極端すぎる人選のような気がするのは否定出来ない。
「そろそろ、始めるとしましょうか」
「俺に、お酒のことを色々教えて下さい。よろしくお願いします」
料理と酒の準備が整った頃を見計らって、寛治が宴の開始を提案する。続いてリゲルが席から立ち上がり、一同に向けて深々と頭を下げた。そして全員が一杯目の入った杯を手に取り、高く掲げる。
「――乾杯!」
リゲルが酒を知るための、宴が始まった。
- 白獅子剛剣は大人の世界に踏み込まんとす完了
- GM名緑城雄山
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年10月20日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●宴の前の諸々
「私は決して強くない。だが、二十余年を生き残った。その秘訣をお教えしましょう」
『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)が『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)に向けて語った言葉には、熟練兵が新兵に戦場で生き残る術を教えるような趣があった。もっとも、寛治が二十数年生き延びてきたのは、実際の戦場ではなく酒宴の席であるのだが。
しかし、異世界の日本と言う国のサラリーマンであった寛治にとって、酒宴は社会的な生存をかけた戦場であった。そして、酒宴での振る舞いが社会的な生死を分けるのは、無辜なる混沌においても変わらない。
そう言う意味では、リゲルは確かに新兵だ。リゲルが飲む立場として酒宴に挑むのは、これが初めてなのだから。そして、寛治としてはリゲルを初陣で討死させるわけにはいかない。ましてや、『百万回出禁になった女』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が同席するとあっては、備えを万全にしておく必要があった。
寛治の「牛乳か飲むヨーグルトで胃を保護する」「練達製の肝臓水解物を飲む」などのアドバイスに神妙に聞き入りながら、リゲルは用意された牛乳と肝臓水解物を飲んでいく。
「今日は、リゲルのために貸し切りにして下さって有難うございます。
ちょっと……いや、大分羽目を外して騒ぐと思いますが、お店に被害は出しませんからそこは安心してください」
「ぶははははっ、厨房を使わせてもらえるとはありがてえ。しっかりツマミを作って抑え役に回るから、安心してくれ」
その一方で、リゲルの妻である『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)と『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は、宴に供する料理の準備のため一足先に会場であるカサ・デ・ウェイに入り、店主に挨拶をしていた。
「ええ。そこは大丈夫だと信じていますので、存分に楽しんで下さい」
一片の疑いも無く、にこやかに笑顔を返す店主。
(……せめて、カオス待ったなしのメンバーでなければな。
だけど、この信頼を裏切るわけにはいかない。リゲルのためにも!)
(折角の良い店だ。リゲルが今後通うためにも、出禁だけは防いでみせる!
俺としてもこういう店との付き合いは大事にしていきたいしな! ゴリョウ亭的な意味で!)
店主の信頼をやや重く感じながらも、それを裏切る事態は絶対に避けようと意を決しつつ、ポテトとゴリョウは料理の準備にかかっていった。
やがて、ヴァレーリヤ、『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)、『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)と言った面々も入店してくる。
「オウオウ、こいつぁシャレてるじゃねえか。おれさま達にゃピッタリのいい店だ。
いいところ押さえてきやがったな!」
豪快に笑うグドルフだったが、ヴァレ―リヤの姿を認めると何か言いたげな視線を向けた。
(しかしよ、ヴァレーリヤは……何で呼んだんだ?)
「どうしましたの、グドルフ?」
酒宴にウキウキしている様子のヴァレ―リヤだったが、グドルフの視線に気付くと不思議そうにその意味するところを尋ねる。
「……おめえ、どう考えても暴れるだろ、マジで」
「あら、そんなことは致しませんわ」
直球で返したグドルフに対し、笑い飛ばすようにヴァレーリヤは否定する。その否定を信じられようはずは無かったが、まぁいいかとばかりに、グドルフは椅子に腰を下ろした。ここで波風を立てる必要は無い。暴れたら暴れた時にどうにかすればいいのだ。
一方、アーリアはシリウス――リゲルの父の名を冠した盾を、カウンターの上に置いて必死に祈りを捧げていた。
(リゲルくんの名誉と尊厳とその他諸々を守り、平和にこの宴を終わらせるのでどうか力を!)
リゲルを尊敬しているという店主に、リゲルが限度を超えて醜態を曝す様を見せて、失望させるわけにはいかない。いざとなれば、その元凶となるであろう存在をロープでふん縛るつもりでいるアーリアだった。
「HAHAHA、リゲルももうハタチか! ベリーグッド、しっかり楽しんでもらわねえとな。
ミーに任せときな、居るだけで賑やかになると評判なんだHAHAHA!」
陽気に笑いながら最後に入店したのは、『煌希の拳』郷田 貴道(p3p000401)だ。自分で言うだけあって、貴道の笑い声は確かに店の雰囲気を一気に賑やかなものとした。
酒宴が初体験とあれば、リゲルにとって良い想い出にしてもらいたいと思う貴道だったが、ふと、その想い出が残っているかと言う不安が頭をよぎる。貴道はその不安を喚起させたヴァレーリヤに注意しつつ、適度に加減して飲ませることにした。
●それぞれのお勧めを、料理と共に
「リゲルくんも晴れて成人、感慨深いわぁ。お祝いに大人の階段を昇る手伝いをしましょうねぇ。
お姉さんのおすすめは、とっておきのヴォードリエ・ワイン!
味の違いはゆっくり学ぶとして、今は葡萄の香りを楽しんでねぇ」
リゲルの最初の一杯は、アーリアおすすめの名酒、ヴォードリエ・ワインだった。
「ああ、ちょっと酸味がありますけど、確かに葡萄の香りと甘さを感じますね」
乾杯に用いた杯を軽く傾けて、味を見るように少しずつ飲んでいくリゲル。舌から鼻へと、フルーティーな香りが抜けていく。
「赤でしたら、料理はこれなど如何でしょう?」
二人が赤ワインを飲んでいると見ると、店主は牛肉の赤ワイン煮込みを出してきた。しっかりと時間をかけて煮込まれ、ワインの香りの付いた肉は、噛みしめればしっかりとした歯応えを感じさせながらもほろりと口の中で柔らかく崩れていく。そこでワインを飲めば、牛肉とワインの輪舞曲の出来上がりだ。
「あら。これ、いいわねぇ~。そうそう、キールやキティなんかのカクテルもありよ。
高級ワインをカクテルなんて邪道って言う人もいるけど、お酒に王道はあっても邪道はないもの。
美味しく飲めればそれでよし! 改めて、成人おめでとうねぇ」
「はい、ありがとうございます!」
ふふ、と微笑みかけるアーリアに、真面目な表情になって返すのがリゲルのリゲルらしいところであった。
「おれさまはエールってのが好きでよ。安くてうまい。種類も豊富。
モノによっちゃ、果物みてえに甘い後味のもんもあるんだよ。おめえはどの酒が気に入るかな」
グドルフが勧めてきたのは、エールだ。ワインほど高くなく、苦みは多少あるものの強くない酒であり、飲みやすい。カサ・デ・ウェイにも何種類かのエールが用意されていた。
「……ま、別に今日ぜんぶ試す必要はねえさ。これから毎日、いつでもいくらでも飲めるんだしな」
「よくグドルフさんが飲んでいるコレが、エールなんですね。
少し苦い……ですが、これならグドルフさんみたいにジョッキを一気に飲み干すのも出来そうです」
「慣れねえうちは一気飲みは止めとけ。ゴリョウ、ポテト。何かツマミ頼むぜ」
エールは飲みやすく、喉越しもいいだけに進みやすい。リゲルは思わず、ジョッキの三分の一程を飲み干していた。
それに自信を持ったか一気飲みを口にしたリゲルをグドルフは止め、料理をリクエストする。
「枝豆に鶏の唐揚げ、鳥の軟骨はどうだ?」
「私からは、フライドポテトにポテトチップだ。無茶な飲み方はするなよ、リゲル」
グドルフのリクエストに応えて、ゴリョウは大衆居酒屋の定番メニューを出し、ポテトはジャガイモ料理の中でも揚げ物を出してきた。ゴリョウが言うには、揚げ物の油は胃の粘膜を保護し、枝豆のタンパク質は代謝を維持して酔いを押さえるらしい。
「おお、ありがてえ。もう一つエールのいいところがあってな。どんなツマミにも合うんだよ」
「なるほど……確かに、どれもこれも、酒が進みますね」
合間に料理を挟みつつ、グドルフとリゲルはグビグビとエールを飲み続けていった。
「新田さん! お勧めの日本酒を教えてください!」
「初めての日本酒なら、『水の如し』と評される淡麗辛口などが飲みやすいでしょう」
ひとしきりエールを堪能したリゲルは、今度は日本酒について寛治に尋ねる。寛治は持参した日本酒とお猪口を取り出して、リゲルの分と自分の分を注いだ。
寛治は手本を見せるようにお猪口を傾け、少しずつ飲んでいく。それを見習って、リゲルも日本酒を飲み進める。さらっと舌の上を酒が水のように流れていき、やや遅れてふうわりとした甘い香りが舌と鼻に残った。
「日本酒なら、こいつは如何だ? 絶対、合うはずだぜ」
「これは……魚ですか?」
「ホッケですか。嬉しいですね」
ゴリョウが出してきた肉厚の白身の魚に、首を捻るリゲルと嬉しそうにする寛治。魚を干物にして焼いたものだとリゲルに説明しながら、寛治はホッケを少し食べると、日本酒をまた少しだけ飲んだ。
リゲルも寛治を真似て、ホッケを口に入れる。微かに塩気のあるプリプリとした肉厚の白身から、とろりとした脂がほどよく流れ出してきて美味い。そして日本酒を口に含むと、舌に残る脂をさらっと流して甘い香りが残る。そうするとまたホッケを食べたくなるから不思議だ。
「これも如何だ? 日本酒にはよく合うはずだ」
ポテトが出してきたのは、ポテトサラダだ。粗く潰したジャガイモをまろやかなマヨネーズが包み込み、黒胡椒が引き締める。そのまま食べても美味いのだが、日本酒と合わせると混然となって口の中で溶け合った。
「んん……美味い! ああ、皆にこうして、酒もそうだし合う料理も教えてもらえて、俺は嬉しい!」
アルコールによる酔いも手伝って、リゲルは幸せな気分に包まれながら、この宴を楽しんでいた。ちょうどいい感じのほろ酔い加減、と言ったところである。
●レクチャーの傍ら
それぞれがリゲルにお勧めを教えている間、ゴリョウやポテトは忙しなく料理を作っていた。カサ・デ・ウェイのシェフが小洒落た風の料理を作り、ポテトはその名前故か芋中心のメニュー。そしてゴリョウはいわゆる大衆店向けのメニューと言う風に、分担が自然と分かれている。
今回ゴリョウが特に気を配ったのは、リゲル以外の者へのツマミを絶やさないようにすることだ。リゲル以外――特にヴァレーリヤが――出来上がって、リゲルに無理矢理飲ませる展開は最も避けたいところである。
(作れる料理のレパートリーが増えるのは嬉しいな)
一方、ポテトは自分の料理を作る傍らで、シェフやゴリョウが料理を作る様子にも目を配り、特に初めて見るメニューを覚えて自らのものにしようとしていた。
ゴリョウとポテト以外が何をしているかと言うと、自分の好きな酒を飲んだり他者のリゲルへのお勧めを味わってみたりしている。
「ひゃっほー! お酒も美味しいしゴリョウやポテトの料理も美味しいし、幸せ……。
ずっとこうしていたい……」
速いペースで自分の持ち込んだ酒や皆のお勧めを呷りながら、ヴァレーリヤは思う存分に幸福に浸っていた。何人かが暴走を警戒していたが、ゴリョウの配慮が効いているのか、まだその様子はない。
嗚呼。ここで誰かがヴァレーリヤの持ち込んだ酒に気が付いていたなら、あるいはヴァレーリヤが自身の言ったとおりにただ酒や料理を楽しむだけであったら、リゲルが最大の危機を迎えることは無かったであろうに……。
●宴はカオスへと
「次はミーの番だな。テキーラやウィスキーを堪能させてやろう。
強い酒だが、下手に飲みやす過ぎる物や炭酸割りなんかよりはマシだ」
「強いんですかぁ~、でも、負けませんよ~」
貴道の番になる頃には、リゲルの口調が少し怪しくなってきていた。やや、身体のコントロールも怪しくなってきているように見える。
「よし。テキーラと言えばストレート。ライムに塩が王道だ、飲み口がたまらねえ」
見本のようにライムを囓り、テキーラを少し飲んでから、塩を舐める貴道。リゲルはやや手をふらつかせながらも、貴達の真似をした。ライムの酸味が、テキーラのアロエを思わせる甘さを引き立てる。そして塩が最後に舌を締めた。
「ウィスキーは……そうだな、ピートの強いヤツはまだ早いかもな。
甘みの強いマイルドなヤツにしよう。良い氷があるから、今日はロックだ」
リゲルがテキーラを飲み終えたと見れば、貴道は背の低いロックグラスに、大きめの氷をカランと入れて、ウィスキーを注いでいく。自分の分とリゲルの分とを作ると、やはり見本を示すように、貴道は少しだけ自分の分を呷った。
貴道の真似をしようとしたリゲルは、ウィスキーのアルコールの匂いに、グラスに口をつけたところで少しだけ止まる。だが、氷で匂いが抑えられていることと、リゲル自身に酔いがかなり回っていることもあって、すぐに続けて飲み出した。何とも言えない複雑で豊かな香りが、舌と鼻をくすぐってきた。
「リゲルさん、少しだけ真面目な話を」
「はい、何れしょう~?」
リゲルがウィスキーを嗜んでいるところに、寛治は真剣な様子で話を切り出した。素面では言いにくいことを言えるのも、酒の席のいいところだ。
「貴方は天義の新たなる象徴となる騎士だ。
だから貴方は真っ直ぐなまま、汚れる事ないリゲル=アークライトでいてください。
舞台裏の汚れ仕事は、私のような悪人が引き受けるべき役回りだ」
「新田しゃんの言いたいころはわかりまひた~。でも、新田さんが悪人らなんて~、俺はそんなころは思いませんよ~」
そしてかなり酔いが回りながらも、真摯に話を聞けるのはリゲルという青年の真面目さ故か。
「しかしリゲルよお、気が付きゃずいぶんと長い付き合いになったな。
もう三年か、あん時よりはいい顔つきになってきたが……まだまだおめえは抱え込みすぎる」
そこに、こちらもいい感じに酔いの回っているグドルフも割って入ってきた。
「酒ってのはいいぞお。嫌なもん全部酒と一緒に喉奥に流し込める。
これからまだまだ長い人生を生きるんだ。
上手に酒と付き合っていく上で、おれさまがおめえに教えてやれることは……」
グドルフの言葉に、ゴクリと唾を飲み込むリゲル。
「この渾身の腹踊りだ!! いいか? 見逃すなおれさまの勇姿!
見ろ!! オラオラオラオラオラオラ!!!」
「すごいれふ、グドルフさん……! 俺も、いつかグドルフさんのように踊ってみへます!」
突然腹を見せつけるように踊り出したグドルフに、リゲルは目を輝かせながら見入っていた。宴は佳境を迎えつつあったが、未だに真のクライマックスを迎えていない。
「リゲル~、次は私のお勧めですわよぉ~」
グドルフの腹踊りが続く中、ついにヴァレーリヤが動く。一瞬、場の空気がざわめいた。
「私のお勧めはぁ~、ウオッカですわぁ~。寒い鉄帝では、これで暖を取るのですのよぉ~。
身体がぽかぽかして気持ちよくなりますからぁ~、是非飲んでみて下さいなぁ~」
「そうなんれふかぁ~。それじゃ、いたらきますね~」
ヴァレーリヤがリゲルのグラスにウオッカを注ごうとしたその時だった。瓶のラベルを見た貴道に、電流が奔る。
「やべえ、ヴァレーリヤを止めろ! リゲルが壊されるぞ!」
「お姉さんに任せて! これも宴を成功させるハイ・ルールのうちよ!」
突然の貴道の叫びに素早く反応したのはアーリアだ。ヴァレーリヤから瓶を取り上げるとロープでぐるぐる巻きに縛って拘束する。
「最初からスピリタスなんて、何考えてやがるこの酔っ払いは!」
スピリタス――アルコール度数九十六パーセントの、酒と言うよりもほぼ純粋なアルコールだ。とても常人に飲みこなせる酒ではなかった。
「えっ、えっ!? 何をなさいますの! 鉄帝では普通のことですのよぉ~」
断じて、そんなことはない。
ヴァレーリヤをめぐる騒ぎの中、既にパンドラを使い果たしていたリゲルは、酔い潰れてすうすうと寝息を立てていた。「ポテトぉ~、愛してる~」と寝言をつぶやきながら。突然の出来事に、飲んでないにもかかわらずポテトの頬が紅くなったのは言うまでもない。
●翌朝のアークライト夫妻
リゲルが潰れた後は、ヴァレーリヤの恨みがましい目を余所に、宴は当初の予想よりも、ではあるが穏当に続いた。縛られたままのヴァレーリヤが寝落ちてしばらくすると、解散となった。
「ううっ……頭が、割れるように痛い……。確か、昨日は……」
翌朝、目を覚ましたリゲルは激しい頭痛に襲われる。二日酔いだ。
「おはよう、リゲル。二日酔いだな、無理も無い」
ベッドの横で幸せそうにリゲルの緩んだ寝顔をつんつんとつついていたポテトは、リゲルが目覚めるとにっこりと微笑みかけてから、台所へ向かう。
「ほら、ゴリョウが新米で作ってくれた甘酒だ。二日酔いに絶大な効果があるそうだぞ」
「ああ、ありがとう。ポテト」
戻ってきたポテトから甘酒をもらうと、リゲルはゆっくりと飲んでいく。心地よい、ホッとするような甘さが、口の中に広がっていった。
「そうそう。嬉しくて、楽しかったのは分かるが……酔って襲うなら家で頼むぞ」
「!? ゴホッ、ゴホッ! 俺はポテトにそんなことを……?」
「冗談だよ。寝言で愛の告白はされたけどな。皆、しっかりと聞いていたよ」
むせるリゲルに、悪戯っぽく笑うポテト。知らぬ間の行動に気恥ずかしくなったリゲルは、布団で顔を覆うのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
リクエスト、どうもありがとうございました。今回はかなりアドリブに走った感はありますが、PCPL共々「楽しい宴で良かった」と思って頂けましたら幸いです。
リゲルさんとヴァレーリヤさんには、Re:version(隠語)回避(パンドラ使用)&酔い潰れ(戦闘不能)&二日酔い(重傷)で、パンドラ減少が入っています。ご了承下さい。
MVPは、ロープと言うヴァレーリヤさんへの抑止力を用意しておいたアーリアさんにお送りします。これが無ければ、失敗とまではいかなくても、もっと酷い状況になっていたでしょう。
久しぶりに、飲みに行きたくなってきました。
GMコメント
EXリクエストのご指名、どうもありがとうございます。
野外でのバイト先の忘年会に参加したら、周囲を走り回りながらZガ●ダムの後期OPを歌っていたらしい(記憶は無い)緑城雄山がお送りします。まぁ、これでもまだ酒の上での黒歴史としては人に話せるものなのですが、それはさておき。
皆さんで、リゲルさんにお酒の楽しさを教えてあげて下さい。
●成功条件
リゲルさんがこの宴を楽しみつつ、他の皆さんから酒について教わる
●失敗条件
リゲルさんがRe:version(隠語)する
店の備品が破壊される(※過失でグラスが壊れる程度は含まない)
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●リゲルさん
今回のシナリオのキーマンとなります。今回のシナリオでは、以下のように扱われます。
・フィジカルと特殊抵抗が高いため、一般的な青年男性よりも酒量の限界は高いものとします。常識的な度数や量の飲酒であれば壊れたり失敗条件を満たしたりすることはありません。
・一方、飲酒の経験が無いため、自分自身では酒量の限界がわかりません。そのため自力で酒量をセーブ出来ず、酒への興味もあって勧められれば飲んでしまいます。限界を超えないように酒量をセーブさせるには、誰かが注意する必要があるでしょう。
・強度あるいは量で「これは度を超えて飲ませすぎている」とGMが判断した場合、マイナス修正付きの特殊抵抗判定を行います。失敗したら……言うまでもありませんね?
●カサ・デ・ウェイ
今回の会場です。巡礼者相手で客層がいいためか、品のいい店です。
レストランと酒場を兼ねているため酒も料理もメニューが豊富ですが、基本は洋風の物がベースです。
店主が天義の騎士としてのリゲルさんを尊敬しファンとなっているため、いろいろ便宜を図ってくれています。
・店にある酒や料理は何でも出してくれます。
・酒や料理の持ち込みは自由です。
・厨房の使用も自由です。
・どれだけ騒いでも構いません。
なお、店主やシェフ、ウェイターやウェイトレスもいますが、店の備品が破壊されない限り、皆さんのやることに口出しはせず自由にさせてくれます。
失敗条件を満たさない程度に、楽しくやって頂ければと思います。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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