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シナリオ詳細

再現性東京2010:鳥籠の中

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 籠の中の鳥はいつ外に出ることが出来るのでしょう。
 かたい鉄の檻から外を眺めて、時々涙を流す。ポタポタと滑り落ちていく涙。
 鳥が羽ばたけばギィギィと吊された鳥籠が鳴った。

 パシャパシャと眩しい光が檻の外で何度も弾ける。カメラマンがレンズをこちらに向けた。
「皆さんお待たせしました、言葉を話すオウムのピーちゃんです」
 餌を持ってきてくれる飼育員がカメラマンに向かって大声で喋る。
「さあ、喋ってごらん。いつもみたいに『こんにちは』って」
「コンニチ、ハ」
 ガラガラ声で言われたとおりに言葉を発すると、カメラマン達は「おおー」と言いながらシャッターをしきりに切っていた。
 良い子って飼育員が餌を与えてくれてそれを食べる。
 美味しいから「モット」って言ったら、またシャッターが焚かれた。
 それを食べながら考える。
 昔はもっと上手く食べる事が出来たし、くちばしだって無かったような気がするのだ。
 羽根だって生えていなかった。飼育員と同じ手があったはずなのに。

 いつも夢の中に居るみたいにぼーっとして、何だか心地良い。
 でも、鳥籠の中に入っていると、悲しくなってくるのだ。
 だって、飼育員(おかあさん)が泣いているから。
 ポタポタ滑り落ちていく涙は母のものだった。


「なになに~? 今日のお便りは『動物園のオウムは人間かも』だって」
 カフェ・ローレットのテーブルの向こう側。
 身体を左右に揺らして『猫鬼憑き』綾敷・なじみ(p3n000168)は投書函に入っていたメモを広げた。
 今朝のニュース番組で流れていた『動物楽園』のコーナーで紹介されていたオウムの事だろう。
「怪しい、これは、とっても怪しいですねぇ?」
 メモとは反対側の手に持った虫眼鏡を近づけたり遠ざけたりするなじみ。
「綾敷さんはあやしくないけど、このメモは匂うね! 事件の予感!」
 それで、となじみは資料を広げた。
「私が独自の調査をした結果、こんな事が分かったよ!」

 鳥籠に入れられたオウムは夜妖憑きらしい。
「元々は人間だったみたいだけど、浸食が進んで今は鳥の夜妖の方が勝っているみたい」
 なじみ自身も夜妖憑きだから、少しは分かるのだろう。
「でも、この子は融合しすぎていて元に戻るかは分からない。祓うと死んでしまうかもしれない」
 このまま何も見なかったことにして、オウムとして生きる方が幸せなのかもとなじみは言う。

「それで、数年前この飼育員から警察に捜索願が出ているんだよ。当時、三歳になる男の子で名前は翼くんっていうらしいよ」
 病弱だった息子に元気に生きて居て欲しいと思ったのかもしれない。
 契約は交され、翼は本当の鳥になった。
 それを知っているのは母親のみ。
 父親は居なくなった息子の代わりにオウムを大切にするようになった妻に同情したのだろう。

「何でこんなに詳細な情報を知っているかって思った?」
 にんまりと笑うなじみは、何枚ものメモを机の上に広げる。
 違うメモ用紙や便せんを使っても、筆跡までは簡単に変えられるものではない。
 メモから似たような文字のクセを見つけたなじみ。その先に繋がる答えは。
「これは、きっと母親からの救援信号なんだよ」

 どうすることもできない。間違っていることは分かっている。
 それでも、息子に生きていて欲しかった。
 けれど、このまま時間が過ぎて行けば自分は死んで息子は一人取り残される。
 だからどうか。終わらせてほしい。そんな願いの話。

GMコメント

 桜田ポーチュラカです。よろしくお願いします。

■依頼達成条件
・怨霊を退治する
・夜妖憑きを祓う、又は夜妖として討伐する

■フィールド
 夜の動物園です。広いです。電灯がありますので、視界に特に問題は在りません。
 夜妖憑き『鳥籠』は鳥籠の中に居ます。鳥籠の傍に母親がいます。
 悲しい気持ちに引き寄せられるように怨霊が集まってきています。

■夜妖憑き『鳥籠』
 病気だった男の子と鳥の怪異が混ざった夜妖憑きです。
 見た目は鳥(オウム)です。少年の意識は三歳児程度。
 鳥は餌を貰って生きています。戦闘能力はほとんどありません。
 戦闘不能にすれば夜妖を剥がす事が出来ます。倒しても構いません。
 少年は運が良ければ生きる事ができます。

■怨霊10体
・しめつけ:物至単の攻撃【苦鳴】
・叫び:神遠範の攻撃【麻痺】
 母親と鳥籠も攻撃します。

■母親(あさひ)
 翼の母親。温厚で優しい性格。
 病弱な息子に生きて欲しいという願いが大きく、夜妖に魅入られてしまいました。
 後悔を抱えています。終わらせて欲しいと願っていますが、一縷の望みを掛けて投書函にメモを残しました。

●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
 希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
 練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
 そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
 それも『学園の生徒や職員』という形で……。

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 再現性東京2010:鳥籠の中完了
  • GM名桜田ポーチュラカ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月15日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
エト・ケトラ(p3p000814)
アルラ・テッラの魔女
九重 竜胆(p3p002735)
青花の寄辺
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
フラッフル・コンシール・レイ(p3p008875)
屋根裏の散歩者
溝隠 瑠璃(p3p009137)
ラド・バウD級闘士
黛・帯刀(p3p009150)
井の中の蛙

リプレイ


 日中の賑わいは何処かへ行って。夜の闇に浮かび上がる動物たちの檻。
 太陽の光が無くなり眠りにつく動物たちも居れば、活発的になる性質のものたちも居る。
 鳥の展示場の前に翼の母親あさひと、鳥籠が一つ置かれていた。
「夜妖憑き……噂にゃ聞いていたが何て悪趣味な……それに今夜は招かれざる客まで来てやがる」
 小さく吐き捨てた『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)は母親を安心させるように声を掛ける。
「……アンタ、いい母親だよ……安心して俺らに任せな。アンタはその子から離れないでくれ」
 少年一人救えなくて何が勇者なのだとアランは剣を握った。
「やってやるさ、全力でなァ!!」
 剣の刀身に怨霊の影が映り込む。アランのファミリアーが空を飛んだ。
「ええ。悲劇の幕引きは大嫌いなの、みっともない程に足掻きましょう」
 アランの後ろから『アルラ・テッラの魔女』エト・ケトラ(p3p000814)も一歩前に出た。
「弱き心に付け入って害を成す。正しく、妖異の所業だな」
 アランと連携してファミリアーの鳥を召喚した『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は戦場を俯瞰する視点で把握する。
「そのような輩に変化させられる事で得る生が、幸福なのであってたまるか。
 ――救うぞ、必ず!」
 母親に近寄ってきた怨霊を大太刀で牽制する汰磨羈。
「まずは邪魔者の排除といこうか。こうしている間にも浸食は進んでいる筈。手早く片付けるぞ!」
 イレギュラーズは汰磨羈の声で駆け出した。

「可能性があると言うのであれば、掴んでみせるべきでしょう?」
 すらりと二本の刀を抜き去る『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)は現れた怨霊の前に立ち塞がる。
「――悲劇で幕を閉じるなんて、私が認めないわ」
 怨霊の前に飛び込んで煽るように剣を翻した。
「私の為すべき事は貴方達を引き付けること。下手に動き回られて叫び続けられても困るもの」
 竜胆の剣が舞い上がる。
「願いを叶える……確かに、生きてほしいという願いは叶っている。
 人の名は、願いを込めて付けられるもの」
『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)は鳥籠の中の夜妖憑きを見つめた。
「そして翼という名に込める願いは多種あれど、鳥に関するイメージが入る事はまず間違いない」
 もしかしてと冬佳は目を伏せる。
「夜妖憑き……或いは夜妖とは、願い想いを込めた感情が形になったもの、なのだろうか」

 走り出す『ラド・バウD級闘士』溝隠 瑠璃(p3p009137)は的確に怨霊の位置を捕えていた。
「怨霊如きが僕達にかなうと本気で思ってるの? いいから親子に纏わり憑かないでとっとと逝きなよ」
 瞬時に敵の背後に回り込んだ瑠璃は一撃を叩き込み、直ぐさま離脱する。
「夜妖って色んな奴が居る事は知ってるけど夜妖憑きで鳥になった事例は初めて見たゾ!」
 今のままでは鳥籠の中の翼も母親のあさひも辛いままだろう。
 どんな結末が待って居ようともきちんと片を付けるべきなのだ。
「でもやっぱりハッピーエンドの方がいいに決まってるからね。
 皆幸せ大勝利! な結末の為に尽力しよう!」

『井の中の蛙』黛・帯刀(p3p009150)は鳥籠と怨霊を見据えた。
 鳥になった子供、随分と珍妙な話だろう。しかし、それが親の愛なのであれば納得も出来ると帯刀は肩を竦める。
 ――井の中の蛙、再び大海に出てみようじゃねぇか。もう二度と、取りこぼさねぇために。
 覚悟を決めた目で帯刀は怨霊へと走り出した。
「僕は鳥籠というものがそもそも嫌いだ。檻、鳥籠、温室。全てが僕のつまらない過去を思い出させる」
 実に不愉快だと『屋根裏の散歩者』フラッフル・コンシール・レイ(p3p008875)は吐き捨てる。
 鳥籠の中の少年はまだ幼く、自分では何も分からないまま。
 今の状況に何の疑問も持たず、幸せを感じているのかも知れない。
「けれど……自分で選ぶ事さえできずに、ただそうあることしかできないなんて言うのは――」
 言いかけてフラッフルは首を振った。
「いや」
 鳥籠の中の少年は自分ではないのだ。そして、今が少年にとっての分岐点。
 フラッフルはただ少年から夜妖を剥がすのが使命。それだけの事なのだ。
 自分の中のわだかまりを振り払ってフラッフルは戦場に立つ。


 帯刀の役目は鳥籠と母親を怨霊から庇い守る事だ。
 背に護りながら母親へと言葉を掛ける。
「んん゛、お゛たくと゛お゛たくの゛子供を゛護りに来た。死にたくなきゃ、俺の゛後ろ゛から出ねぇよ゛うに頼む」
 こんな声だが、礼儀を通せば少しはマシに伝わるだろうと考えたのだ。
 仲間が名乗り口上で敵を引きつけてくれているが、序盤は数が多い分帯刀の元へ敵がやってくる。
「怨霊を゛近づけさせねぇの゛が俺の゛仕事゛だ。しっかりと゛役目はこなそ゛う」
 怨霊の処理に時間がかかって翼の夜妖化が進行した場合、無理にでも母親と鳥籠を引き離さなければならない。そうならないことは理想だが念には念を入れるのだと帯刀は思った。

 アランは戦場を見渡して竜胆の元へ集まっていない敵を絡め取っていく。
「輝け、降り注げ、月よ。……今こそ、救うぞ!」
 古き月輪が左手から舞い上がり、閃光となって戦場に降り注いだ。
 蒼き光の束は戦場の敵に差して怒りを付与していく。味方を巻き込まないように放たれた光から数体の敵が漏れ出した。
「チッ……、そっちは頼む!」
「ああ、まかせろ」
 アランに汰磨羈が応えて駆け抜けていく。
 汰磨羈は俯瞰した視点から戦場を捉えていた。
 怨霊が何処へ向かって進んでいるのかが手に取るように分かる。
 水行のマナで生んだ霧を噴射し、木行のマナを込めた気弾を打ち込めば、お互いが干渉し合い爆発した。
 五行に精通している汰磨羈だから放てる複合技だ。高威力の衝撃波は怨霊を確実に仕留めていく。
「構うな! 消えろ! これから親子の感動の再開が待ってんだ、邪魔するんじゃねェ!!」
 汰磨羈の耳にアランの叫びが聞こえた。

「……わたくし、こんな見た目だけれど前の世界では大人の外見で子を持つ母親だったのよ。
 だからあさひ、貴女の気持ちは少しは分かる。大切な子に生きていて欲しい、幸せでいて欲しい」
 エトは仲間に回復を施しながらあさひへと語りかける。
「だから助けを求めたのね、自分がどうなろうとも。
 ……なら覚悟を持って。あの子には冷たい鳥籠じゃない、温かい家が、家族が必要よ。
 生きて、償って。何より今はあの子を名前を呼んであげて……!」
 エトの必死の叫びにあさひは涙を流した。
「聞こえているわね、優しい子! お母さんも、きっとお父さんも人の貴方を待ってるわ!
 だから、もう少し頑張って! 貴方は絶対に助けるから……!」
 夜妖に侵食されるのを留まってほしいのだとエトは翼に叫ぶ。
 たとえ、怨霊を倒しても翼が夜妖に飲まれてしまえば、意味が無いからだ。
 だからエトは戦闘の最中でも声をかけ続ける。
「が、んばる?」
「そうよ! 貴方にはまだまだこれから先の未来があるの。お母さんと一緒に居たいでしょう!?」
 エトの言葉に翼は鳥籠の中でバタバタと飛んだ。
 それは、何処か生きたいと願う動きに思えた。
「アラン!」
「ああ、連携するぜ!」
 竜胆のかけ声と共にアランが距離を詰めていく。
 背中合わせに敵の攻撃を受けながら、仲間が殲滅するのを待つのだ。
 傷だらけの二人だが、どこか晴れ晴れしい顔をしている。
 アランと竜胆の連携にフラッフルの攻撃が重なった。
 その背に生み出した光翼を羽ばたかせ、舞い踊る光刃を敵に降り注ぐ。
 不殺を持ち合わせていないフラッフルが鳥籠への攻撃を行うのは危険だろう。
 だから、フラッフルは怨霊の排斥に専念するのだ。
 瑠璃はフラッフルと協力して敵を追い詰めていく。
 背後からの奇襲を繰り返し、怨霊を消し去った。

「強い悲しみの感情だけがあれば、それが怨霊を引き寄せる……それが夜妖憑き故なら、解らなくはない話です。であればやりようはある……のかもしれない」
 陣を展開した冬佳はその中に無数の氷刃を生み出した。不浄なる者を払い清めるその光景は白鷺の羽の如く敵を覆い尽くす。
「揺蕩い彷徨う怨霊よ――我が神水の術法を以て、洗い浄め祓い鎮めましょう」
 鮮烈なる羽根の乱舞に怨霊が次々と無に還っていった。


 アランは鳥籠から夜妖憑きを出す。これは母親のあさひにとっても翼にとっても痛みを伴う決断だ。
「……正直、助かる保証はないが、それでも…俺はアンタと翼くんの絆を信じてるぞ」
 ぐっと拳に力を込めて覚悟を決めるアラン。夜妖が凶暴化した時に備え体勢を整える。

「恐らく……ただ祓うだけでは翼君は救えない。
 幾つかの仮説は思いつくけれど、検証する事が出来ないとなれば、やってみるしかないのでしょうね」
 冬佳は思考の海に思いを巡らせる。
 母親はかつて、恐らくはただ病弱な息子に生きていて欲しいと願ったのだ。
 故にこうなったのだとしたら。
「あさひさん、どうか強く願ってください。翼君の人としての姿を思い浮かべて、人として生き続ける事を」
 竜胆は冬佳の思いに言葉を重ねる。
「全ての準備は整ったわ。後は貴女の想い次第よ。あの子に、翼に生きて欲しいと思うのならば言葉を尽くしなさい。彼がまた貴女達と共に生きたいと思うように。
 夢に揺蕩っているあの子を、優しく目覚めさせるように」
 自分の剣では夜妖と翼を引き剥がす事は出来ない。けれど、言葉を届ける事は出来る。
 竜胆とフラッフルは頷きあった。なじみの言葉から考えるに少年の気の持ちようは重要。
 少年を奮い立たせる事ができるのは――母親の声だ。
「あさひさん、君は息子と一緒に生きていきたかったんだろう。
 なら、このまま化物として彼を殺すより、元に戻るかもしれない望みにかけてみてはどうだろう。
 彼が夜妖に勝てるように、人として君の元へ戻ってくるように」

 汰磨羈はあさひに最後の意思確認を行う。
「本当にいいんだな? 荒療治になる。覚悟を決めてくれ」
 他の仲間が掛けてくれた言葉を胸に、汰磨羈を向いて決心するあさひ。

 ――夜妖憑き『鳥籠』から光の鳥が生まれる。

 瑠璃は腰を落として集中する。
「間違っても翼君を殺しちゃいけないからね……でもちょっと痛いゾ! 覚悟してね!」
 叩き込まれる瑠璃の蹴りに鳥の鳴声が響いた。
「夜妖如きに負けちゃ駄目だゾ! 君は決して鳥じゃない!
 人間で……あさひさんの大事な息子さんなんだ!
 大好きなお母さんをこれ以上悲しさで泣かせない為にも……目覚めるんだ、翼君!」
 徐々に減っていく体力に帯刀がもしもの時に備えてあさひの前に立つ。
「言いてぇこと゛は言えるうちに言わねぇと゛な」
「翼! しっかりして! 翼、戻ってきて。お母さんの所に戻って来て!」
 あさひの叫び声が耳に響いた。
「戻ってきたんだぞ! 目を覚ませ、お母さんと家に帰るんだ!」
 アランの呼び声と冬佳の願い。翼が人として生き続けられるように祈り。
「在るべき形を願う――禊祓」

 ゆっくりと剥がれていく夜妖の鳥。空へと舞い上がらんとする夜妖を汰磨羈が捕えた。
「――厄は滅する。それが、私の宿命だ」
 汰磨羈の攻撃は不殺ではない。
 夜妖を決して逃がさず、その存在が消えるまで攻撃を止めないという意志の力。
 必殺の霊楔。物質を構成する陰陽の切れ目を穿つ強烈な霊障だ。
 翼に取り付いた夜妖は汰磨羈の攻撃により、消えていった。

 光に包まれた子供がドサリと倒れる。
 アランが用意した毛布に包まり、すやすやと眠る翼。
「大丈夫そうよ」
 エトが天使の歌を奏で翼の状態が回復していく。
 これであさひも一安心だろうとエトは母親の顔で翼の頭を優しく撫でた。
 親子の再開を見届けた帯刀はその場から立ち去る。
「まだ、足りねぇ。もっと゛力を゛付けねぇと゛」
 帯刀はより多くを救う為に邁進するのだ。

「子を想うのであれば、今度こそ貴女は貴女の務めを果たしなさい。
 それは辛いことかもしれないけれど、もう二度と後悔だけはしたくないのでしょう?」
 竜胆の言葉に涙を流すあさひ。
「はい。ありがとうございます」
 その腕の中にはしっかりと『生きている』翼が抱えられていた。
 この希望ヶ浜において、夜妖憑きから戻った翼の行く末は、辛い道のりかもしれない。
 けれど、世界は広いのだ。何処でだって生きて行ける。
 未来はこれからなのだから。

成否

成功

MVP

溝隠 瑠璃(p3p009137)
ラド・バウD級闘士

状態異常

なし

あとがき

 イレギュラーズの皆さん、お疲れ様でした。
 楽しんで頂けたら幸いです。
 MVPは覚悟を持って夜妖と対峙した方にお送りします。
 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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