PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<FarbeReise>開闢の『ニオウ』

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●洗礼を受けし者
 ラサ傭兵商会連合からの通達に喜び勇んだ者達の中にも、稀に酔狂なものが存在する。
「あぁっらっせるぁああっシャイヤァ!!!」
「うおっ! ウォッ! ウホォっ!!!!」
「そぃっやっせるぁああっショイガァ!!!」
「へあっ! ヘァッ! ヘアァっ!!!!」
 その名も『希望のお祭り騒ぎ大信仰・何もかもフコーニナーレ教会・ラサ支部』という一団だった。
 彼等は願いが叶うとされるその一文。例え微々たる効果といえど決して軽んじず、ただただ己が全身で「これは凄いものだ」という信仰心のみで砂漠を駆け巡る男達である。
 熱い砂の上をふんどしと、褌と尻の間に挟んだ教会のシンボルである女神像と共に駆け抜ける彼等が目指したのは、どうやらファルベライズの中でも比較的小さな遺跡だったようだ。
 彼等は、砂の大地にぽつんと在った神殿へと殺到した。
「んるぁああああああああっはぁぁん……っ」
 そして玉砕された。
 死者24名も出す大惨事となってしまった。

●洗礼を与えし者
 小さな遺跡を調査していた折に、突然舞い込んで来た変態集団を前に。ネフェルスト本部から商会長の依頼で来ていた学者とその傭兵達は唖然とした。
 殆どが砂に埋まってしまったその神殿は、唯一地上に突き出た門扉から入るしかないのだが。どうも力技では開かなかったのだ。
 何らかの文字や法則、或いは合言葉めいたものを見つけようと門の横を掘っていた最中に変態集団がやって来たのだ。
 奇抜ながら力強い男達の声が轟いた直後、なぜか神殿の門は解放されて変態集団は中へと招かれてしまったのである。
 あまりの光景に塞がらない口を開いたまま、学者達はすぐさま神殿へと向かう。

 だがしかし、開放された門の中には地獄絵図が広がっていた。
 果敢に肉弾戦車で立ち向かう変態集団の前に立ち塞がったのは、旅人よろしく異世界の極東武神『ニオウ』なる巨大な石像が四体並んでいたのだ。
 門から続く階段には磔にされたミイラが石柱から突き出て並び、迸る砂を撒き散らして叫び騒いでいる。
 驚き慄く学者達だったが、彼等は冷静に神殿を観察した。
 六本の階段が伸びる先に広がる、六角形の闘技場めいた広間。
 その左右、二方向に伸びる階段上の台座にはそれぞれ巨大な砂時計と、巨大な火で満たされた杯があった。
 そこで学者達が目をつけたのは、『ニオウ』達が額に刻まれたエンブレムと他の階段上にある台座のレリーフだった。
 稲妻めいたエンブレムを刻まれた石像。水を思わせる雫のエンブレムを刻まれた石像。
 花のエンブレムを刻まれた石像。砂時計のエンブレムを胸にした石像。
 その後方に座すレリーフは同じ物、同じ形をしていた。

「こ、これは……!」
 無謀にも特攻しては死して行く男達を眼下に、学者達はその神殿の様相を記録した。
 瞬く間に轢き潰され、殲滅されて行く男達。彼等はたった六名となって学者達と共にその場から逃れようとする。
 神殿から逃げ出した彼等は。果たして。
 最後の生存者が潜り抜けた直後に閉じた砂の門を。ただ茫然と見つめるしかなかった。


 大陸に住まう者なら知る人ぞ知る砂漠地帯、ラサ!
 様々な遺跡が眠っているこの地に夢見る者が多い事は然もありなん。
 名立たるラサにおける遺跡の数々の中には、遠く離れた地にさえ名を知らしめるような聖地もある。
 そうした遺跡群の一つにFarbeReise(ファルベライズ)と呼ばれる区域が存在する事が解明されたのも、他でもないイレギュラーズがよく知っている事だろう。

 ――遺跡が内包する『秘宝』が持つ価値は計り知れない。
 ラサ傭兵商会連合はこれに邪な考えを持った者が現れると危惧し、ネフェルストで管理することを決定し。それによって現在、ラサでは相互監視や牽制し合う環境を元来有している事もあり、比較的安定した状態を保っているようだ。
 しかし、その後ラサを行き来する商人や冒険者、傭兵達に『秘宝』を確保しネフェルストに届けた者に金一封と周知し持ち逃げされる可能性を防いだものの。そもラサの砂漠は広く、人も多かったのだ。
 全てが善ではない。
 傭兵商会連合からの通達を無視して私欲に走る者もあれば、夢と希望に満ちたそのワードに群がる悪意は際限が無い。こと『願いが叶えられる』などと囁かれれば尚のこと。
 そして、こと壮大な背景を持った浪漫に危険はついて離れないというもの。
 数ある『秘宝』を懐いた遺跡には時に、知識のみならず己が身で以て力を示さなければ辿り着けない場合もあるのだ。生半な武力では攻略できない事は稀でもなんでもないのである。

 ……故に、イレギュラーズへ助力を乞う機会が増えるのも必然となった。
 ラサ傭兵商会連合を介しローレットに舞い込んだその依頼は、遺跡探索の護衛依頼だ。
 砂の香りが残る依頼書を携えたローレット職員の人間に案内を受けたあなたは、依頼人となる護衛対象について話を聞く事となる。

GMコメント

「もうよく分かってくれたと思う。君達の依頼人はこちらのラサから来て下さった方々だ」
「ぁぁああっレッうっやァ! ぁぁああっレッうっやァ!」
「ふぅううっしゃああああい!!!」
「すまない。どうも今日は幻想支部の祝日に当たるらしくて……依頼人に代わり詳細なすり合わせをしよう」

●依頼目標
 ニオウの神殿攻略を目指す

●情報精度
 この依頼の情報精度はBです。依頼人その他情報に偽りはないものの神殿には秘密があるようです。

●神殿の守護者(エネミー)
 ニオウ(4体)
 神殿内部にて眠っていた巨大な石像達が起こされた姿。7m程の背丈に重量感のある六本腕の石像。
 それぞれ『雷』『水』『花』『砂時計』のエンブレムを有しており、対応する台座を背にしています。
 他の台座とそれに対応する石像が存在しない事から、何かしらの因果関係はありそうです。
 特筆する能力は無いものの、無機物である点と超重量のパワーで奮われる六本腕の石剣は非常に強力。
 神殿の外までは着いて来ない様ですが、神殿から退去して直ぐに門は閉じてしまい石像のダメージが癒えてしまうようです。

●神殿(ロケーション)
 ファルベライズ中でも小さめの遺跡。
 神殿はその殆どが砂に埋まっているものの、『雷』に該当する台座側の門が外から開くようです。
 恐らく掘れば他の門も見つかるでしょうが遺跡の特異性を考慮して、『雷』の門を開けてから内部に侵入して頂きます。
 その後、ラサで複数の調査隊が現地で見た所この『雷』の門は一定以上の爆音で開放できることが判明。スピーカーボムまたは気合いで叫んで入れて貰いましょう。

 神殿内部全体は半径120mの広さを有しており。六角形の闘技場は半径70mになっています。
 この中で神殿を守護する石像から逃げ回りながら調査するか、或いは破壊してしまうのも手です。
 既存台座の『砂時計』『炎の杯』の傍には崩れた瓦礫が散乱していることから、【石像の破壊】か【神殿の謎を解く】かで行動指針は分かれるでしょう。

■台座のレリーフと台座上に残るオブジェクト
 『雷』――オブジェクト『金属球』
 『水』――オブジェクト『空の杯』
 『花』――オブジェクト『割れた瓶』
 『女』――オブジェクト『空の砂時計』

●秘宝(色宝)
 この遺跡が『色宝(ファルグメント)』を有しているかはハッキリしていません。しかし、依頼人組織が有する古文書に酷似した内容が記されており。
 『形なきモノ封じる 秘宝 六角の門 開いて 落ちし者よ 手を伸ばせ』
 この記述から、かの神殿を守護する『ニオウ』を突破した先に秘宝が隠されている可能性があります。
 え……? そういえば確かにどうやって解読したんでしょう……

●護衛対象
 やたら騒ぐ人達。
 しかし現在は六名しかラサにはおらず、この調査が終わった暁には色宝を前に殉教者達を弔ってから他国の支部へ移る予定。
 この依頼には並々ならぬ情熱を見せており、何なら一人さえ残っていれば後は囮となって散る事も厭わない覚悟を見せています。目が本気です。
 戦闘力はほぼ皆無なので巻き添えを喰らわない対策が必要。
 ……神殿の外で待っててもらいましょうか。

●最後に
 初めまして、シナリオを運営させて頂くイチゴと申します。よろしくお願いします。
 今回は護衛依頼の体をもった戦闘シナリオになりそうな予感がします。
 全体的に綺麗なリプレイとなるのはどちらか一方での作戦ですが、皆様のハイセンスなミッションムーヴ次第で如何様にもなると思います。
 皆様のご参加をお待ちしております。

  • <FarbeReise>開闢の『ニオウ』完了
  • GM名いちごストリーム
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月10日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
アト・サイン(p3p001394)
観光客
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)

リプレイ


「遺跡! 謎かけ! 宝探し! っと、何とも冒険チックな依頼なのですが。依頼人の方々のインパクトがそれに勝ってしまっていますね……忌憚なく申しますと、邪教では?」
「――どうやら我等の正体に気付いてしまったようだな」
「え?」
 何気ない『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)の一言から1300字相当の謎バトル勃発。
 ハイルールに抵触しないのかなこれ、とか思いながらなんとかイレギュラーズは集合場所で依頼人をしばき倒す事に成功した。

●雷鳴の門
 砂の上を土下座したままホバー移動する六人の男達に追従する『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は目を細めて。
「要素だけ抜き出し聞けば真面目な信仰者なのだと思っていたんだがな……」
「あまり近付かない方がいいぞ。キテレツに過ぎる」
「……まあ、魔種で無ければ如何なる方々からの依頼でも完遂するのがローレットの心意気。謝罪はしている事ですし」
 『鬨の声』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は引いた様子で。ヘイゼルはホバー土下座に免じてノーカンにすることにしながら、一同は邪教がどうとかではなく依頼の背景について思い出す。
「解読自体は偶然、ね。ネフェルストのバザールで安売りされてたとかそんな事ってあるの……貴重な古文書が」
「その商人は真贋を見抜けなかったのか、まぁ……いま遺跡攻略に役立ってるなら幸だね」
 そんな馬鹿な、と『紫緋の一撃』美咲・マクスウェル(p3p005192)並びに『観光客』アト・サイン(p3p001394)は呆れていた。
 肝心の解読後の内容が断片的な部分に関しても頁の欠落が原因らしい。
「三つの謎は目星がついた、後は……女、空の砂時計……これが一番の悩みどころね……どういう事なのかしら……」
 『砂食む想い』エルス・ティーネ(p3p007325)は依頼人からの情報に期待できないと分かって早々、道中その残された謎に頭を悩ませていた。
 抽象的ながらもある程度の紐づけが叶うかどうか、と言った所だ。
「「すいませんでしたぁぁあああ!!!」」
「ちょっと、声大きいよ?!」
 声を張り上げる『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)と共にアトが眉根を顰め、砂漠の向こう側にまで届くのではないかとさえ思うのだった。

 そうこうする間に到着した。殺風景にも砂丘が景色の一部みたいな石柱が数本あるだけの遺跡。
 しかし、見れば納得する。
 砂丘の中から顔を出すように突き出た巨大な石門は、確かにその下に何かが埋まっている様に見えた。
「何とか知恵を搾って攻略を目指しましょ!」
「遺跡! 番人! デストラップ! と来たらお宝! しかないよね! きっと6つのレリーフに因んだ秘宝なんだよ~……ボク! 頑張るよ!!」
 むむ、と鼻を鳴らして謎に満ちた神殿の周囲をぐるりと見回るエルスに次いで。別の意味で空気を吸い込む『咲く笑顔』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は、うっとりと浪漫に思いを馳せ尻尾を忙しなく揺らしていた。
 悩まし気に『雷』に該当するであろう石門を手探りながら、エルスが内部に秘められた謎について頭を巡らせる姿を前にがしがしとルカは頭を掻いて。背嚢に収め持ち込んで来た『花』について思い起こす。
「謎解き系のダンジョンか。冒険にゃつきものってわかっちゃいるが……苦手なんだよなぁ、こういうの」
「やれる限りはやってみようか、っとその前に」
 エルスが周囲を調べている間に美咲はそっと門に触れてみるが、手応えは壁に手を押し当てるに等しい。
「門は駄目、と。ならこっちは……ああ、壁もね」
「物質透過で通り抜けられない?」
「お約束ではあるけれどね」
 ランドウェラにひらりと手を振り、美咲はその場を離れる。
「もう行っていいかな? 謎に関して準備不足は否めないけど、やっぱり中に入らないと分からないかもしれない」
「謎はどうにもさっぱりだ。実際僕は一つも分からなかった」
「仮に解けずとも焦らず、落ちついていつも通りやるだけだ。それに学者達も神殿内部を隈なく調べたわけでもない」
 ラダ等が応じる最中。そもそも内部に突撃して行ったはずの依頼人達へ視線が向く、彼等は土下座ピラミッドのまま頷いていた。
 なに遊んでんだ、と一同は眉間にしわを寄せる。
「しかしなんでこの扉騒音で開くんだろうね……雷だからか?」
 石門の前に移動したアトは訝しむ様に腕を組む。
 曰く、地上から侵入できる門は神殿内部に配置された台座にある『雷』のレリーフに該当しており。気合いの一声で開くだろうと推測されていた。
 尻に女神像を挟んだ男六人が門に向かって叫ぶ。
 目を逸らすラダの隣でアトが白けた視線を送る。叫ぶ変態ども……しかしというか案の定、なにもおきなかった。
「音量不足か」
 ラダが担いでいた身の丈に迫るケースを置き、肩を慣らすように首を鳴らして言った。
「言いたい事はあるが、とりあえず一度で終わらせるぞ」
「……よし、Dr.Bonby謹製の爆弾よーいするかね」
 依頼人達に並んで、ルカとランドウェラが構える。
 やたらカラフルなバズーカ砲を構え出した仲間に訝し気な目が向かう。
「ボクも手伝うね!」
「え、ヒィロも?」
 依頼人達も交えルカが腹に力を入れて深呼吸を繰り返す傍。ぴょんと跳ねて並ぶヒィロ。
 そして。
「ばらけない様に一度で行くぞ……――!」
「オオオオオオオオオッ!!」
「「うおおおおおおおおお!!!」」
「お宝ー! 財宝ー!! 美咲さん大好きー!!!」
「え? いまなに…/――【ドゴォォオオオオンッ!!!】

 あらゆる音が混ざって乾いた晴れ空に響き渡った直後、きら星を叩きつけられたパーティー会場の扉(?)が地響きと共に開放された。
 ラダがタイミングを合わせ、ルカが半ば先行する形で結果的に全員の士気が高まるかの様に声と音が乗ったようだった。
 開放されてからどの程度で閉じるか分かったものではないが故に、一同は直ぐに動き出す。
「……ヒィロなんて言ってた?」
「えへっ」
 美咲の前を行く背中。ぺろっと舌を出して狐娘は悪戯気に笑っていた。


 うおおん、と男泣きの声が響き渡る。
 何が琴線に触れたのかランドウェラに『こんぺいとう』を渡された依頼人達は、揃ってカラコロと口に頬張ってイレギュラーズを見送っていた。泣きながら。
「こんぺいとう、好きだったのかな……」
「静かになったのは良い事だ」
 問いに真顔で返すラダ。
 食べろと勧めまくったランドウェラも戸惑いを隠せないが、喉は休まりそうだと完結することにした。
 ――それよりも。
「それでは謎解きと参りましょうか……私はニオウの相手なのですが」
 やることはやる、今がその時だ。
 ヘイゼルが開放された石門の内へ一歩踏み入った瞬間。乾いた砂の"息吹"が彼女の頬に吹きつけた。

 音響とも違う、亡者とも知れぬミイラ達の狂騒。
 門から薄暗い神殿内部へと続く、降り階段。その道中に並ぶ石柱のミイラ達は歓迎するように、砂を喉から噴いて叫び散らしていた。
 そして出迎える。六角の間にて頭を低くして座すは、異界文献に酷似した神から取った名を持ちし守護者。
「あれが、ニオウ! 行くよ! 皆のこと、信じてるからねー!」
「ヒィロ! 分かってるとは思うけど――」
「わかってる! 任せたよ美咲さん!」
 ヘイゼルの傍を颯爽と飛び出し、石階段上を滑り降るように駆け抜けるヒィロ。
 交わされる視線。
 すぐ下に安置された台座を飛び越えた狐娘が一挙に階下の闘技場へと舞い降りたその瞬間。緋色の闘志が奔ったのと同時に四体の巨大な石像が動き出す!
「続きましょう。ああ――エルスさんは、こちらを。もしも手が空いたその時、必要ならば」
「え? ……これ、熱砂の」
 吹き荒れる砂塵。轟音と共に響き渡る石像達の雄叫びめいた衝撃は、ヒィロめがけ繰り出された石剣の衝突によるものだ。
 階段上を飛び降りるように続くアト。ヘイゼルはその間際、エルスに書物を一冊投げ渡す。
 神殿周辺を探索していた折にエルスの呟きを聞き取っていた面々は頷く。
「砂時計の謎か。うん、試せるものを試す事は重要だ」
 階段直下の踊り場――台座の間、そこに安置された金属球の左右をアト達が抜ける。
 降り立つ瞬間、『朱い巣』がその場を掻き乱す様に叩きつけられる。怯み、鈍るニオウどもは、半数の二体がヘイゼルに怒りの剣撃を見舞う!
「当たらなければどうと云うことはないのですよ」
 闘技場の石畳を抉り削る切先と空気を引き裂く刃の隙間、巨躯ゆえに生まれた穴を縫うかのように。少女は跳び、毛先を撫でる砂を置き去りにして躱し抜いたのだった。
「当てさせもしないけどね!」
 階段を降る最中にランドウェラから大弓の一矢が奔る。
「やあっ!」
 一条の矢が砂時計のエンブレムを胸にしたニオウへ突き立った直後、アトが至近で音速を越えた一撃を見舞う。
 エルスから解き放たれた魔性の大顎、『黒顎魔王』が噛み砕いた石剣が砂を噴く。
 轟音と地響きは止まらず、連続する。
 そんな神殿内部の一画で雷光が嘶き――次の瞬間。六角の闘技場へ白雷が放射された。
「これで当たりなら、早々にひとつ潰せるはず!」
 駄目なら、次に懸ければいいと。自信に満ちた美咲の声と雷鳴が轟いて金属球に『チェインライトニング』が直撃した。
(反応は……!)
 電流が幾度も奔り。金属球に纏わり付いたまま小さく嘶く。
 祈るような思いで反応を伺う美咲の視界の端を駆け抜ける、ラダとルカの姿が映った。
「よし、こちらも……!」
 燃え上がる杯を越え。塵が積もった杯へと辿り着いたラダは背嚢から水気を含んだ小樽を掴み取る。対岸の花の台座に向き合うルカと視線を合わせた。
「これで……ああ、これでいいのか?」
 ざばっとラダが杯に水を叩き込んでいるのを目の前に、握り締めていた花を割れた瓶に突きつける様に捧げる。
 砂に混じり花の香りが漂う。
 空白の間。対岸のラダも、出入口となっている雷の門の側にいる美咲も、視線が揺れる。
(これはまずいな、何か方法を変え――!?)
 ラグにしては長過ぎると、イヤな予感が背筋に流れた瞬間。
 ――神殿内部を光と、巨大な揺れが襲った。

●形を成した物
 計二十四本もの腕が幾重にも連なり、奮われる石剣。
 それら一撃一撃は全てが人間の生身を粉砕して余りある破壊力を秘めていた。
「無機物でパワーがあるって厄介ね……」
 揮う黒鎌が空を切ると同時、朱い魔力糸を先端に引っ掛け手繰り寄せる。
「損耗が激しくなるようなら一度撤退を考えるのも手かと」
 文字通り蜘蛛の巣を散らすように、無数の朱い糸が降り注ぐ中。ヘイゼルが宙を舞う。
 エルスの鎌に引かれた事により中空で鋭角な軌道を描く彼女を追う石剣の側面をアトが穿つ傍ら、ヒィロが地面を打った剣の刃先を駆け抜けて石像の側頭部を蹴り飛ばす。
「でも、もう少し中央に引きつけないと!」
 ヒィロは弾くようにニオウの顔面を蹴って、ヘイゼルの腕を掴み、共に地上へ滑り込む。
「上はどうなってるかな」
 ニオウの眉間にランドウェラが放った一矢が突き立つ。
 昏い色の血管めいたモノが伸び、ニオウの巨躯を軋ませ、震えるのを見据えたランドウェラは他の仲間達へ視線を仰いだ時。真っ先に飛び込んだのは稲光だった。
「これは、例の金属球に当てた奴か!?」
 眩いばかりの電光は誰も傷付けず。ただ三体の巨像に纏わりついて、音も無く収束する。
「……崩れます!」
「!」
 鋭いヘイゼルの声に一同が飛び退く。
 ニオウが一体。突如その身に亀裂を走らせ崩れ落ちる。
 呆気に取られた彼等の前で次に起きたのは、神殿内部に走った大きな揺れ――ミイラが埋め込まれた石柱の上部から噴き出た大量の水が押し寄せ流れ込んで来たのだ。
「これ……水の杯の? じゃあ、さっきのが雷の謎だとしたら次は!」
 足元をすくわれぬ様に踏ん張りながら見上げたエルスの前、ニオウが更に一体。その額に『雫』めいた水を連想させるエンブレムを懐いた巨像が崩壊する。
 水に濡れ、泥の様に流れたそれを見下ろす一同。
 この次に来る現象、三体目の崩壊は――すぐに来た。

 二度目の地震と共に闘技場の中央で巨大花がニオウを包んだ時、ルカは魔剣のレプリカを背負う様に担ぎ、ふわりと台座の上から闘技場へと飛び降りた。
「……時間差か、繋ぎ合わせたのが良かったのか。まあ……もうどうでもいい」
「お疲れ様。おかげで守護者はあと一体だ」
 労いの言葉に次いでアトが示した先には一体の巨像が在る。
 水気を帯びて滑らかな質感を増した肌と脈動を携え、花の根によってその身を更に頑健な物と化した武神像。
 これは、見るからに強化されているだろう。
「少し強そうだけど、相手はあれ一体だもん! 美咲さんたちがやってくれるまで待っても待たなくてもイケるよ!」
 ニオウが動き出す前にヒィロが躍り出て、その闘志で引きつける。
「さて、ルカが来た事だし今なら……上で色々試そうとしてる二人の所に行ってもいいと思うよ。エルス」
「いいの? やっぱり私、悩むよりこっちの方があってるかも? ……なんて思ってたんだけど」
「ずっと戦いながら考えてたんだけど、この神殿。ペナルティの存在が殆ど無いような気がしてね――気乗りはしないけど試せるなら全部試して見るのも冒険って奴さ」
 翻す外套の下で水気が滴り落ちる。
 一瞬の逡巡の後、エルスはその場から踵を返して階段へと向かって行った。

 開かれた蓋。
 空の砂時計に注がれる革袋一杯の砂。
 しかしそれらはただ空虚に瓶底へと沈むばかりで、何の変化も起きないでいた。
「今度は時間差ではなさそう、かな」
「この台座だけは女性に見えるレリーフが刻まれている……そして古文書の内容では連想される形のない、見えない、或いは概念的な物は何かがある。音、時、炎、雷、水、香。光、影、風、熱。或いは夢や美か……誰か何か思いつくか?!」
 落ち着いた声音のラダだが、しかし僅かに焦りが滲む。
 眼下の闘技場ではランドウェラとルカが回り込んでニオウと衝突しているのが見える。これは、つまりヒィロの挑発を躱して台座にいる自分達を潰しに来たという事だ。
「思いつく事は、思いつくよ――後で怒られるかもだけど」
 そう言って美咲は迷いなく。自身の流麗な黒髪に手を伸ばしかけた、その時だった。
「待って……! これ、これを試してみて!」
「エルス! ――これは。砂漠の伝承綴った……歌?」
 階段を駆け上がるエルスが投げ渡して来た一冊の本をラダが掴み取る。
 髪に触れたまま見上げて来る美咲と、ラダが視線を交わす。試せるものは、試すべきだと彼女は躊躇わずに本を砂時計に投げ入れた。
 変化は――砂時計の中で起きた。
「文字が溶けて行く……!」
 それは果たして誰の声だったか。
 バラバラになった頁から浮かび上がる様に黒い文字が砂時計の中で溢れ出た直後、蓋が勢いよく閉じて。その砂時計は台座の上で反転した。
 誰かの想い。
 形なき物に秘められた、蓄積された何かが黒々とした水と成って。砂時計の中で時を"逆流"し始める。
 空気を揺るがす咆哮。
 最後に残されたニオウが膝から崩れ落ち、身体を構成する全てが神殿の内部に溶ける様に霧散していたのだった。

「この後何が起きるのかな? そーいえば古文書の『落ちし者よ 手を伸ばせ』って……落し穴でも開くとか?」
「なるほどこれが青き血の本能か」
 見事なフラグ立てだった。
 ルカが感心したように言った瞬間、六角の闘技場が地響きを伴い。神殿内部が揺れ動く。
 全てが内側に開き、吸い込まれる様に落ちて行くのだ。
「これ、デストラップじゃない!?」
「くっ……底が見えないのが心臓に悪い、が。入口も塞がれてはどうしようもない……!」
 滑り、階段を駆け上がろうとして宙に放り出された刹那に『雷の門』へと視線を向けたアトが叫ぶ。閉じられていたのだ、恐らくは最後の謎を解いた時かこの仕掛けが作動した際に。
「嘘でしょう!? これ、どうすればいいの!」
「……! 皆、手を伸ばせ! 下を見ろ!」
 全身を襲う浮遊感。明らかに落下している感触にエルスが探索どころではないと瞬きさせる中、ラダが眼下の光景に目を見開いて叫ぶ。
「星だ――!」
 闇の帳を引き裂くように落ち行く最中。彼等は無数の光を見た。
 点々と輝く星。
 それはやがて、長い浮遊感の果てに掴み取れる距離まで近づいて。
「あっはははは! 見て見て美咲さん! すごーい!」
「ヒィロ! 手を……!」
 それぞれが無我夢中に手を星々の輝く虚空に伸ばしていく。
 そうするうちに、やがて。一瞬だけ彼等は天の川めいた光を突き抜けた先に黄金に輝く砂漠が見えて来た。
 死の足音を一瞬聞いた気がした。
 だが――しかし、長距離を落下して死亡する事は無かった。
 カコン、と。瓶の様な物が置かれたかのような音が鳴ったのが全員の耳に聴こえたと思った後、砂の上に彼等はゆっくりと着地したのだった。
 冷や汗が出た者。
 安堵した者。
 神殿の外に何故か出て来ている事に気付き、辺りを見回す者。
 それぞれが違う反応を見せる中、彼等は自身の手に何かが握られている事に気付く。

「……リング?」
 ヘイゼルは翡翠に光る、小さな指輪を見下ろして首を傾げた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした! 無事にファルグメントの回収、完了です!
 こんぺいとうを食べていた依頼人達も回収しましたのでご心配なく!

 ご参加いただき、誠にありがとうございました。
 またご縁がありますれば、よろしくお願い致します!

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