PandoraPartyProject

シナリオ詳細

春を迎えるために

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●エウィン
 覚えているだろうか。妖精郷の決戦前に攻略の要となった街の名前だ。
 街のあちこちで死闘が行われ、特に被害の激しい一角はじつにその四割が破壊された。
 段ボールくらいの大きさの家々が並び、キノコの街灯が並ぶ風光明媚なミニチュア都市。そこの住人である妖精はいまだに避難所での生活を強いられている。
 痛む怪我を抱えながら、かろうじて残った公共の建物に雑魚寝をしている状態だ。根がおおらかな妖精と言えど、プライバシーの頭文字もない状況で朝から晩まで隣人と顔つき合わせているとギスギスした雰囲気になってくる。娯楽らしい娯楽もないので、子どもたちや老人はストレスのやり場がない。元気盛りの子どもたちにじっとしているのを強いるのは酷であるし、いまだ瓦礫だらけの危険な街中を空を飛ぶのも難しくなった老人に散歩させるわけにもいかない。
 何より、放置された区域には邪妖精が跳梁跋扈している。

●戦火のその後で
「まあ僕の『弟』が壊したんだけどね……」
 マルク・シリング(p3p001309)はため息をついた。彼が『弟』と呼ぶのは他でもないアルベド・タイプマルクのことだ。同じ記憶を共有し、意見を戦わせた末に明確な自我を持った白化はマルベドと名付けられ、自らの意思で冬の王に造反し戦いの末に命を落とした。そしてそのフェアリーシードから助けられたのが……。
「シムです、よろしくお願いします」
 柔らかそうな緑の髪が印象的な、手のひらサイズの妖精がマルクの肩に座っている。少年にも見えるし少女にも見える。背に負ったウスバカゲロウの羽が美しかった。
「エウィンの街の復興のお手伝いをお願いします。……おそらくマルベドさんもそう言うでしょう」
「そうだね。マルベドはエウィンを壊したことを悔いていただろうな。僕にもわかる」
 シムにとって、マルベドは誰よりも近くで感情に触れていた存在。複雑な思いはあれど、けして嫌いではなかったのだろうと言葉の端々から伝わってくる。マルクにとってもマルベドは魂の兄弟(ソウルリンカー)だ。その肉体は呪われたかりそめのものであっても、根幹をなす魂はたしかに存在していた。それと深く触れ合ったマルクだからこそマルベドの思考は手に取るように理解できる。
 折しもそんな矢先にシムからエウィンの復興依頼が出された。マルクは困った顔で依頼書を広げてあなたへ見せる。指定されているのは被害が大きく、復興が後回しになっている地区だ。瓦礫まみれの街角にレッドキャップが住み着き、地域の住民を脅かしている。そのほかにも諸問題が目白押し。放置された怪我人、切断されたライフライン、不便な生活。生々しい戦闘の爪痕。
「この復興事業に参加したいんだ。手伝ってくれないかな。どうにも責任を感じてしまってね」
「人手は多いほうがいいです。あの戦いに関わったヒトもそうでないヒトも、どうかご参加ください」
 さて、何をしよう。あなたは少し悩んで……。

GMコメント

みどりです。シムシテー楽しいよね。マルク・シリング(p3p001309)さんのアフターアクションから派生しました。ありがとうございます。

妖精たちの日常生活を取り戻してあげましょう。
やれることのフックがたくさんあるので、どれをメインにするか各人が表明しておくと楽になります。「俺、これ得意だぜ!」から「何ができるかなあ」を考えるとだいたい上手くいきます。いろんなアプローチを試してみましょう。

やること
1)エウィンの街の復興
2)避難所の妖精のストレス対策

状況
・目下の課題はとにかく住むところが圧倒的に足りないということです
・PCさんが必要だと考えたものは常識的な範囲で必要十分な量が用意されるものとします
・幹線道路が大きな打撃を受けているため流通が滞っており商店は開店休業状態です
・避難所の妖精は退屈しています、彼らにどう接するか、またどう使うかで街の復興度が上下します

やれることフック
・避難民 全体を10とすると、3割が治療の必要な怪我人、4割が労働可能な大人、2割が子ども、1割が老人です
・避難所 学校・公民館などいわゆる箱物はすべてすし詰め状態です、ストレスによるいざこざが絶えず、学業も停止したままです
・衣食住 どれも女王のはからいで最低限保証されています、逆に言えばそこまでが限度で、不便な生活をしています
・娯楽 ないに等しく、避難所の妖精は暇を持て余しています
・治安 生き残った邪妖精が崩壊した地区に潜んでおり、掃討が必要です、30ほど倒せば脅威を感じてエウィンから退散します
・邪妖精 狡猾なレッドキャップどもです、復興の妨げになっています 簡単に倒せますが地の利に長け、PCを見かけるとすぐに逃走します

マルベドって誰? って人はマルクさんに聞いてください(ひどい)。

  • 春を迎えるために完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月08日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
ハルア・フィーン(p3p007983)
おもひで
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
マリア・ドレイク(p3p008696)
守護竜

リプレイ


 現地についたイレギュラーズは言葉を失った。
 大災害にあったかのようなエウィンの街並み。避難所の人々は暗い顔で縮こまっている。突然破壊されたのは街だけではない、そこへ暮らす妖精たちの日常もだ。
「戦いの傷痕は常に弱いものたちが背負う」
『冷たい薔薇』ラクリマ・イース(p3p004247)は瓦礫が連なる様を目の前にしてため息をついた。いったいどれほどの命を飲み込んだのか。
「まずは邪魔なレッドキャップを駆逐しましょう。警戒心の高い相手です。こちらも慎重にいきましょうか」
「そうだね。斥候を出しておこうか」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)が袖から一枚のカードを取り出す。それを放ると、カードは白い小狐に変わり主人の足元へ収まった。
「我(アタシ)の従者だよ。忍び寄るにはもってこいさ。言葉も通じるから遠慮なく使いっ走りにしておくれ」
「うん、頼りにさせてもらうよ」
 すこししんみりした口調で言うのは『Remenber you』ハルア・フィーン(p3p007983)。街の傷痕に心が痛む。もし襲撃がなければこの地では優しい日々が流れていただろうに。
(でもマルクが弟を想うように、皆の魂は傍らに。だったら未来へ繋ぐんだ。笑み溢れ風も爽やかな未来へ)
 両の拳を握り、よしっと気合を入れなおすハルア。
「これ、お土産」
 マルク・シリング(p3p001309)はシムへ妖精サイズの豆本を十数冊取り出した。
「なつかしい。英雄王奇譚ですね。子どものころはよく読みました」
「避難所の子どもたちに良かれと思って。よろしくね、シム」
 マルクはあらためて肩の妖精に挨拶をした。シムはふわりと浮き上がり、マルクの前へ。
「こちらこそよろしくお願いします」
「身内の不始末で……弟の遺志だから、力になりたいんだ」
「そう言っていただけるとありがたく思います。見てのとおりの有様ですから」
 猫の手も借りたいのですよとシムはとろりと微笑した。

「野戦病院の臭いがするな」
 すんと鼻を鳴らし、『神威の星』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)は避難所の周囲に漂う臭いに顔をしかめた。放っておけば体力をなくした者から倒れていくのは目に見えていた。
「俺が来たからにはそんなことはさせるものか」
 静かに闘志を燃やす。彼のやる気を受けて『その色の矛先は』グリーフ・ロス(p3p008615)もゆっくりうなずいた。
「この地を見守るにあたって、まずは現地の方たちの力になれるならと思います」
 グリーフもまた、アルベドのように誰かを模して造られ、その誰かになれなかった存在だ。
(せめて、安らかに眠れるよう、後のことはワタシたちに託してください)
 祈るような思いで覇気のない妖精たちを眺める。施設の庭ではボール遊びにも飽きたのか、子どもたちが退屈そうにぶらぶらしていた。大泣きする赤子を背負う女に罵声が飛ぶ。
(皆余裕を忘れています。さぞかし生きづらいでしょう。まずはこの避難所の対策をとらなくては)
 グリーフが顎をつまんでいるうちに『地を這う竜』マリア・ドレイク(p3p008696)がしゃがみこみ、庭の妖精たちへ声をかける。
「ハロー、しけたツラしてるわね。こんな日々がずっと続くのかってうんざりしてる顔だわ。子どもは風の子って言うけどもうちょっと落ち着きなくてもいいんじゃないの?」
 だってと子どもたちが口々に文句を言い始める。
「どうしようもないことに文句を言うのはおしまい。言うなら未来のためのワガママにしなさい」
「未来のため?」
「そうよ、ひとまず大事な人のところへ戻って何が必要か聞いておいで。ついでに伝えておきなさい、イレギュラーズが来たってね」
 子どもたちは避難所の中へ元気よく駆け込んでいった。
「さすがマリアだな。あっという間にガス抜きしてのけた」
『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)の言葉にマリアはまんざらでもなさ気な笑みを見せた。
「しっかり働いてもらうからね、サイズ」
「もちろんだ。俺は妖精鎌だ……妖精の武器だから妖精の為に働くのだ……。俺はこの衝動に従うぞ! 冬の王が出てきた戦いではうまく立ち回れなかったからな……色々挽回しないと!」
 ギフトを用いてきゅきゅっと妖精並みの大きさになる。
「期待しているよ」
 ウィリアムが声をかけた時にはもうサイズは飛び出していた。


「まずはこの街の脅威を取り除こう。レッドキャップどもは狡猾だと聞いていた。おそらく逃げの一手を打ってくるだろう」
 マルクの発言にみなそれぞれうなずいた。グリーフ、マルク、ラクリマ、武器商人、ハルアは瓦礫と化した一帯を哨戒していた。それなりに歩いているはずだが、敵の姿は微塵も見えない。かなりの数が潜んでいるとの事前情報とは裏腹に広がるのは荒涼とした景色。
 傷ついた木々へグリーフは音もなく再生付与をかけていく。痛々しい傷痕が少しずつ修復されていく。
(また緑なす大地へ戻ればいいのですけれど)
 保護結界も張りつつ移動する。進むたびに瓦礫が砕ける音が最小限に抑えられたのは僥倖だろう。
 マルクは小鳥のファミリアーで偵察を続けていた。地上は武器商人の小狐が進んでいく。
「いたよ、前方120m、10時の方向」
「10時の方向だね」
 武器商人はそちらへ小狐を走らせる。小狐はしばらくして戻ってきた。
「四体いるよ。お食事中だそうだ」
「食事?」
 無邪気に聞いたハルアを、ラクリマが止めた。
「詳細は聞かないほうがいいでしょう」
「そう? あなたがそう言うならそうしとこうっと」
 一行は木陰に隠れ、少しずつ進んだ。射程内に捉えたところでハルアは立ちすくんだ。レッドキャップの口元は紅でも塗ったように赤く、周りには妖精の羽が散らばっていた。
「食事って……」
「今はかまっている暇はありません」
 ラクリマが冷気を集める。弓矢の形に成形されたそれをつがえ、ひょうと放った。矢はレッドキャップを一匹串刺しにし、氷の彫像に変える。
「……」
 マルクが無言のままファントムチェイサーを放った。見えない悪意がまた一匹のレッドキャップを死の淵へ追いやる。残された二匹はおののき、どこから来たのかわからない攻撃に体をすくめる。それが命取りになるとも知らずに。武器商人が走り寄る。すれ違いざまにレッドキャップの顔面を掴み、ボールのような小さな頭を握りつぶす。
「もう、怒ったよ! 許せないんだから!」
 浮き上がったハルアがSAG。接近した勢いを載せて残った一匹の首を手刀で切り飛ばす。間抜けな音がして噴水のように血が溢れ出た。邪妖精の血で汚れた手をハルアは嫌そうな顔で振った。武器商人が袖から懐紙を取り出し、ハルアへ渡す。
「一刻も早く禍根を断たなくては」
 そうつぶやいたマルク。
「ええ、行きましょう。避難所を襲われたらひとたまりもない」
 グリーフはそう言うと羽を拾い集めてポケットへ入れた。


 イレギュラーズたちが運び込んだ大量の物資。その中には食料品もあった。
 サイズは荷馬車いっぱいのそれを次々と避難所へ配っていく。久しぶりにまっとうなものが食べられると、妖精たちは大喜び。鍋やフライパンを持ち出して、簡易かまどに行列ができる。
 そしてサイズは作業服に着替えると猛烈な勢いで集合住宅を作り始めた。
「無茶振りどんとこいですよ!」
 目指すは妖精たちがくつろげるような家だ。半壊した家を参考に間取りを決め、コンパクトだが風雨をしのげる場所をせっせと作る。そしてまだ見込みのある家は修理して使えるようにする。
「とにかく住むところがないと聞いてますからね。修理ができそうな家があったら教えて下さい。俺の出番です」
 サイズはこの地区の妖精たちよりも二周りは大きいサイズだ。妖精たちにはできない力仕事も容易にできる一方、ニンゲンの大きさでは難しい細かな仕事もできる。修理にも秀でた鍛冶職人はひっぱりだこだった。特に家を修理してもらった妖精の喜びは大きく、サイズの周りには何か手伝えないかと若者が集まるようになった。こうなってくるとさらに仕事が楽になってくるもので、必要な建材を運んだり、集めた材料を整理したりと、細々としたことは妖精がやってくれるようになり、お互いに大助かり。
(こんなに喜ばれるとはおもわなかったな)
 誇らしい気持ちを胸にサイズは夕方までかかって集合住宅をひとつ建て終わった。抽選で居住権を獲得した妖精たちが続々とサイズの作った家に引っ越してくる。もともと身一つだったからこういう時はフットワークが軽い。思ったより広く明るい室内に妖精たちは驚き、老人は安楽椅子に目を細め、新しい環境に子どもたちは興奮している。代表の妖精がサイズに何度も頭を下げた。
「サイズ様……なんとお礼を申し上げればよいのか」
「様なんて、呼び捨てでいいですよ。気に入ってくださって嬉しいです」
 日が暮れてくるとサイズは場所を借りて着れなくなった服や端切れを集め、パッチワークの要領で次々と衣服をリサイクル。鍛冶屋は防具も作るのだ。衣服も似たような感覚で取り組んでいく。妖精たちがサイズを心配して珈琲を差し入れに来てくれた。
「お休みにならなくて大丈夫ですかサイズさん」
「できるだけのことをしたいんです。それまで戦闘続行ならぬ献身続行です!」

 住居が確保できるようになったとはいっても、まだまだ避難所ぐらしの妖精はいる。そんな彼らの要望を吸い上げていくのがマリアだ。
「依頼としてきてるのだから遠慮せずどんどんワガママいいなさい。何が足りない、何がほしい。いいのよ、言うだけいいなさいよ。私以外の人達がどうにかしてくれるわ」
 飄々とした常に明るい彼女の周りには人だかりならぬ妖精だかりが出来ていた。マリアは聞き取った内容をメモにとり、その中でも優先順位をつけていく。
「それじゃ行ってくるわね」
 ひらひらと手を振り、マリアは近くの村を目指した。そこの商会に入り支援物資を要請する。
「この村で不良在庫のまま眠ってる衣食品、医療品、娯楽品はあるかしら。大口顧客になるから捨て値で売ってくれない?」
 自分が依頼でエウィンの復興を目指しているのだと明かすと、商会の顔役の態度が変わった。恰幅のいいその妖精の商人は、人を見る目はあるようだった。
「エウィンの現状はわしらも知っている、だがこのくらいの値段にはならんかね?」
 商人が提示したのは思ったよりも高い額だった。まあそのくらいでなくては商売はやれないだろう。そこでマリアは言い募る。
「ここでローレットと縁をつないでおくのは悪い手じゃないと思うわ。それにエウィンが大変だった時にふっかけたなんて噂が広まると商売しづらくなるんじゃないかしら? その点ここで善行を積んでおけばイメージアップに繋がるわよ。もちろんエウィンに戻ったら、あなたのところの商会が身銭を切ってくれたと触れて回るわ。どう? 損して得取れっていうじゃないの」
「いいだろう。そっちの要求を飲もう」
 天秤がマリア側に傾いた。マリアは商人と握手を交わし、納品日を指定すると次の村へ。道案内についてきていたエウィンの妖精がここまでしてもらえるなんてとかしこまる。
「一方的に助けてもらうだけなら、復興後の力関係がいびつになっちゃうもの。相手にも利を与えて軽い貸しぐらいにしとかなきゃ。それより、あっちの準備は進んでる?」
「はい、子どもたちに廃材に絵を書いてもらってプレートにする件ですね。問題なく」
「被災地応援商品、書いてるのはあどけない子ども、復興支援名目での新商品。これは売れるわよ。こいつで材料費と人件費を稼いでおかなくちゃ」
「よくそれだけ次々とアイデアが出ますね」
「どうすれば私が楽になるかを考えたらそうなるのよ。道が治り、品物が売れ、善行もでき、娯楽にもなり自分で儲ける充実感も得られる。みんなで幸せになりましょう」

 妖精たちに寄って瓦礫が次々と撤去されていく。グリーフは空いた場所にひとまずダンボールを設置した。なかに仕切りを作り、簡易住宅として扱う。なかでも必要だと思ったのはプライベートルーム。一人一部屋を徹底したうえで、治療用のスペースや、授乳室、清拭もできるワンルーム、更衣室やトイレ。特にトイレは常に清潔に使えるよう気を配った。ダンボールの部屋はそのままだと味気ないので、床には端切れを敷き絨毯代わりに。ニンゲンサイズの手袋布団は好奇心の強い妖精たちに大受けした。必要なダンボールはしっかりした防水加工済みのを武器商人が提供してくれる。まるで巨人の世界に迷い込んだような遊び心をこめて、グリーフは仮ごしらえの家を整えた。
 夜になると眠っている妖精を起こさないようグリーフは見回りをした。もともと食眠不要なので、こういう場面では強い。
(住民が安心して休めれば)
 グリーフの心にあるのはひたすらに妖精たちの安寧だった。

「長期的な都市計画を共有したいんです」
 マルクは武器商人とラクリマを連れて、エウィンの長老のもとを訪れていた。
「崩壊地区の整地は順調です。住居やライフラインが復旧した後のことを考えて、区画整理をしてみてはどうでしょうか。できる限りのことはするけれど、今後エウィンの街を発展させていくのは、妖精のみなさんだから」
「区画整理か……古い町並みじゃからのう、おぬしの提案は魅力的じゃが一部の妖精たちに立ち退きを要求することになるかもしれん」
「その件なら我(アタシ)たちがやろうかね」
 武器商人が口を出す。
「生活必需品を商店街へ流すついでに幹線道路の打撃を視察してきたけれど、ご愁傷さまだねえ。あれじゃ我(アタシ)たちは動けても妖精には無理だよ」
「そうなんじゃよ。頭の痛いところでな」
「舗装も年季が入っているようだったしね。ここで我(アタシ)という外の縁を使って新しい舗装をするのもよかろ」
「いいのかね?」
「キミたちがそれを望むなら、お気に召すままに」
「ありがたい。頼らせてもらおう。そっちの坊っちゃんは何の用かね?」
「俺は更地に農地を作るのを推します」
「農地じゃと?」
「ようするに畑です。畑が充実すれば食料自給はもちろん、他の街に売りに行ったりもできます。何より植物の成長は楽しい! 手間を掛けた分必ず美味しくなります! どんな感じに実ってくれるのだろうとか、美味しく育つといいなとか。色々考えると楽しくなってくるのです……!」
「わしら妖精は自然を愛する。畑との相性もよい。いいところに目をつけたな坊っちゃん」
「はい! 開墾は大変ですが畑さえ作ってしまえばお年寄りでも子どもでも手入れはできるようになります。収穫の早い葉野菜や、育てるのが楽で保存の効く根野菜など色々と埋めていきましょう! そのための開墾作業は避難所で退屈している大人たちの力を借りたいと思ってます。体を動かせばきっとストレス解消にもなるので!」
 長老は好々爺の笑みを3人へ返した。
「長としてぜひとも頼む。この街の未来へ手を貸して欲しい」

「さあ、笑顔を取り戻す戦いの始まりだ」
 日が落ちた頃。妖精たちは周りの木の枝に鈴なりになっていた。その中にはウィリアムによって治癒を受けた妖精たちもたくさんいた。
『怪我も被害も辛かっただろう。俺たちがきっと何とかするから。どうか信じて欲しい』
 ウィリアムがそう被害者の心に寄り添えば、妖精たちはポロポロと涙をこぼした。
(妖精たちの心に一時の夢を)
 ウィリアムは助手のハルアと目を合わせてうなずきあった。
 広場の中央に立ったウィリアムが妖精たちに礼をする。続けて彼はただの小石を見せびらかし、種も仕掛けもないことを強調して手のひらに握り込む。再び姿を表した小石は淡い青の星明かりを放っていた。
「触ってごらん、熱くはない」
 桃色、黄色、緑色、次々と輝く小石を作り、妖精たちに手渡していく。妖精たちは物珍しそうに彼のギフトの品を膝に載せ、覗き込んでいる。十分な光源が満ちたと感じた彼は、夢の劇場を開始した。強く強く念じれば現れたのはおそろしい大蛇。毒の息を吐く様に妖精の子どもが甲高い悲鳴を上げる。固唾を飲んで見守る妖精たちの前に光の剣を持ったイレギュラーズが現れた。剣の銀線が流星のよう。蛇はまたたく間に退治され、場は拍手で包まれた。
「絶望は、希望で塗り替えられる」
 その一言に妖精たちも瞳に炎を灯す。
「幸せたくさんよっといで!」
 空を駆け、ハルアが乱入した。人懐こい笑みを絶やさずハルアはアクロバティックな空中ダンス。跳躍と回転をふんだんに取り入れ、時にトリッキーな動きも。そのたびに妖精たちから口笛が飛ぶ。
(みんながこの夜を……復興を懐かしく思えるように)
 ハルアを魔術で彩るウィリアムも、心から楽しんでいた。魔術は戦いのためだけではない。大切なことに気づいて。
「――皆、楽しんでくれたか? でも、冬は越え、春は必ず訪れる、皆で力を合わせて乗り切ろう」
 ハルアと共にそう締めくくったウィリアム。ふたりへ万雷の拍手が返ってきた。


「シム、今更だけど…弟がご迷惑を、と言うべきなのかな」
 済んだことですとシムはマルクへ答えた。
「また君に会いに、エウィンに来てもいいかな? マルベドも、この街のこれからを見届けたいだろうから」
「もちろんです。同じことを考えていました」
 シムはそう微笑んだ。

成否

成功

MVP

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!
あれこれやれるだけに悩むのもまた楽しかったでしょうか。

MVPは住宅問題へ正面から切り込んだあなたへ。

それではまたのご利用をお待ちしております。

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