PandoraPartyProject

シナリオ詳細

昨日終わった世界のはなし

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●なにひとつ失われてなど
 暗い洞窟はいつも静かだった。
 洞窟の奥の神殿の奥の、冷たい岩の上に敷かれた座敷の上。
 彼女はいつでもそこに座っていた。
 この世界において『巫女』と、そう呼ばれていた彼女はこの場所から出ることを許されていない。
 足を鎖でつながれた彼女が外の世界を知る唯一の方法。
 それは、岩壁に申し訳程度に開いた細い窓から光を見ること、草の匂いを感じること、鳥の声を聴くことだ。

 ただ、ある日それが突然パタリと止んだ。

 光は刺さず、草の匂いは鼻を掠めず、鳥の声は歌うことを忘れたように響かない。
 すべてが失われたかのように、何一つ。
 そう、何一つ彼女には与えられなかった。

 だって世界は終わっていたから。
 昨日、世界は終わったから。
 突如として地表から噴出した悪性ガスは、その世界に生きる命という命を奪いつくした。
 突如として世界を覆った闇は、その世界から光を奪いつくした。
 なにも、なにも、なにもない。
 この世界にはもう、何もありやしないのに。
 それでも、彼女は信じていた。
 いや、夢を見ていたのだ。

『わたし、いつかそとにでて、この世界を自分の眼で見るの』

 だから、彼女にとってこの世界はまだ失われてなどいないのだ。
 だって、わたしはまだこの眼で何も見ていない。
 見ていないものを、どうして失ったと思えよう?

 世界を知らぬ無垢な彼女は、自分がとうに死んでいることさえ知らなかった。

●昨日終わった世界の話
「やぁ。来たね。イレギュラーズ。今回はね、とある宝物を手に入れてほしいんだ」
 そう言って『境界案内人』カストル・ポルックスがイレギュラーズに手渡したのは、ぼろぼろに擦り切れた一冊の本。
 表紙にはただ一言、『ロスト』と。

 それは世界が失われるまでの物語。
 世界は終わり、人は絶え、生命の消えた大地がただ、広がっている場所。

「その世界の人々は信仰に厚くてね。自らの世界が終わりを迎える前に、天に捧げる祈りを込めた宝物を残したらしい」
 その宝物は、世界が終わりを迎えた時に天に昇り、人々の祈りを空に届ける……はずだった。
 けれど、結論から言えばそうはならなかったのだ。
 巫女と呼ばれた少女の亡霊の心となり核となり、その身に取り込まれてしまったから。
 その宝はいわば、失われた世界の人々の最後の願い。最期の祈り。どうにか空に届けてやらなければ。
「宝物を手に入れるには、その巫女の亡霊を倒さなくてはならない。……生涯を洞窟の奥で過ごした女の子らしくてね。倒せばきっと、その魂もやっと天に還れるはずなんだ」

 だから、ああ、どうか。
 願わくば、その少女の心ごと、暗い洞窟の奥から掬い上げてはくれないか。

NMコメント

 こんにちは、凍雨と申します。
 お久しぶりになりますが、どうぞよろしくお願いしますね。

●目標
 亡霊『巫女』を倒し、宝物を手にする。
 宝物は透き通った水色の宝珠です。

●世界観
 『ロスト』
 すべての命と光が失われた世界です。
 舞台は洞窟の中になりますが、視界ペナルティはありません。

●巫女
 生涯を洞窟の奥で過ごした少女の亡霊です。
 外の世界が終わったことも知らず、自分が死んでいることにも気づいていません。また、洞窟の奥に魂が繋がれ、今のままで外に出ることは叶いません。
 祈りが込められた宝物を心と同化させ、核としています。
 洞窟に閉じ込められていた寂しさから狂い、近づいたものへ攻撃を仕掛けてきます。耐久は低めですが、その攻撃は苛烈。近距離攻撃が主体です。
 攻撃している間も色々喚いているようです。
「またわたしを閉じ込めるの!?」
「寂しいのはもういや……」
「ここから出して……!」

 そして彼女を倒そうとするとこう言うでしょう。
「消えたくない、死にたくない! わたしはまだ、この眼で外の世界を見ていないもの!」

●備考
 ・心情系依頼と捉えて下さると幸いです。
 ・アドリブが入りがちなので、『アドリブ歓迎』や『アドリブ不可』など、どの程度のアドリブが可能かを書いて下さると嬉しいです。

 それではどうぞよろしくお願いします!

  • 昨日終わった世界のはなし完了
  • NM名凍雨
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月11日 22時20分
  • 参加人数4/4人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
シセラ・デュセス(p3p009105)
宵闇の調べ
ルイビレット・スファニー(p3p009134)
湖面の月

リプレイ

●願いは届いた
「滅んだ世界で独り残される……ですか」
 洞窟を進みながら『放浪の剣士?』蓮杖 綾姫(p3p008658)が何処か遠くを見るように呟く。
 終わった世界の信仰についてとやかく言うものではないとは思うけれど。
(それでもやるせない思いを抱くのは間違っていますでしょうか)
 その想いは人間的なそれであるのか。
 それとも”知らないはずの滅んだ世界”に既視感を覚える、自分の何処かからいずるものか。
 それは綾姫自身にも判断のつかないことであったかもしれない。
 そしてどうやらどこかで聞いたような話、と思っているのは『蛇霊暴乱』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)も同じの様だった。
 旅人であるアーマデルが生まれ育ったのは死の気配の色濃い世界。ヒトが容易く死ねば、死人と縁を結んでいた者たちも死に惹かれる。そんな場所。
 そんな世界を歩んでいたアーマデルだからこそ重ねてしまうのだろう。
 滅んだ世界と、自らの故郷たるかの世界を。
 かの世界においてヒトは死神の祝福に依って《物語》を紡ぐ。
「この世界の巫女は、どんな物語を紡ぐのだろうな」
 その小さな呟きは誰に向けられたものでもない。その結末は未だ知らぬものだから。
 何かを懐古しているような様子の綾姫とアーマデルを「大丈夫かい?」と気に掛けるのは『湖面の月』ルイビレット・スファニー(p3p009134)だ。その身はワインレッドのドレスに包まれ、夜の華たる美しさを存分に発揮していた。
 長い睫毛を伏せ、未だ見ぬ少女の姿を思い描く。彼女は――。
「彼女は確かに助けを求めて手を伸ばしたし、それを私たちが見つける事が出来た」
 ならば物語の結末をハッピーエンドにせずしてなんとする?
 終わった世界にひとり取り残される絶望をルイビレットは知らない。けれど、それを可哀相だとも愚かだとも思いはしない。
 一人の女の子の願いは届いた。消えなかった。確かに糸の一端は掴まれた。
 ならば手繰り寄せ、そっと秘密を囁くように教えよう。
 まだ世界は終わっていないのだと。
「このせかいはおわっていない。わたしがそうしんじているから。それを、ひていできるほど、ざんこくにはなりきれません」
 『宵闇の調べ』シセラ・デュセス(p3p009105)も頷いて言葉を紡ぐ。すきとおったうみのようなひとみを瞬かせて。
「しかし、このままほうちできるほど、わたしは、むかんじょうにはなれないのです」
 だからかたりあうのだ。ふれあうのだ。その先に、少女の願いが叶えられると信じて。
 ふいにひやりとした空気がイレギュラーズの肌を撫でる。
 洞窟の奥。目にしたのはぼうっとき通った体。流れる長い黒髪。夢見るような水色の瞳。
 巫女の彼女はこちらの姿を認めると、泣き出しそうに顔を歪めた。
「あなた達もわたしを閉じ込めるの?」
 その声に顔を見合わせたのち、誰からともなく頷いた。
 シセラが巫女を見つめ。
「おわらせましょう。では、さいごのふれあいを。いざ」

●大切に胸に抱かれ
「あんでっどさんは、あなたのはなしあいてに、なりますでしょうか?」
 シセラが召喚したのは外の世界の素材を持ち込み生成したなりそこないのアンデッド。けれどそれらも苛烈な攻撃に頽れていく。
「ならば。しょうかんしつづける、のみです」
 シセラは破壊される傍から新たなアンデッドを作り出していく。
 望むのは交渉だ。一方的にうばうことじゃない。
(ですから、あわれみなど、ふようです)
 対等で在れるように。高圧的に奪い取るなど言語道断である。
 彼女はこの世界の末裔。その誇りや世界への愛までは傷つけられていいものではない。
 それに、自然風景やまだ見ぬ世界への興味が尽きないごく普通の女の子であるはずだから。
「みこさん、そとのせかいにでたら、なにがみたいですか? ひだまり、そよかぜ、よいですね……」
 じぶんのきもちに、すなおになってしまいます。とシセラが笑む。
 それらがいかに心地いいか。よいものであるのか。語りかけながら尚も問う。
「あなたのみたいもの、おしえてください」
「わ、わたしは、……月の光が地面を照らすところが、みたいわ」
 なぜだろう。シセラとは何故かはなしやすく、思わず答えてしまう力があるような気がして。
「すてきです。それをしるには、あなたのたからものが、ひつようなのです」
 そう訴えるシセラの声に心動かされる。けれど。
「でも、でも……! さびしいもの……!」
 この宝物があれば心が温かいのだ。満ちた祈りが心の空洞を埋めてくれるのだ。
 尚も続けられる攻撃を綾姫が剣撃と魔法をはらんだ双撃を放ちながら受け流していく。
 更にはアーマデルが鞭のようにしなる剣を操り、ルイビレットは苛烈な攻撃を華麗に避けながら巫女に攻撃を叩きこんだ。
「いや、いやよ……死にたくない!」
 もう叶うことのない巫女の叫び。
 風纏う術式を展開し、元気づけるようにルイビレットは言葉を紡ぐ。
「嘆く元気があるなら大丈夫。まだ君はこれからたくさんの事を知る」
「そんなこと……もう、寂しいのは嫌よ!!」
「本当。君をここから解放するよ」
 巫女はなおもイヤイヤと首を振る。
(彼女の逝く先は、彼女をここへ閉じ込めた者たちと同じ場所なのだろうか?)
 アーマデルの一撃が狂気の声に呼応するかのように悲し気な不協和音を奏でていた。

●祈りと共に天へ昇り
 綾姫もまた内心では歯噛みしていた。
 個人の望みで言えば、巫女の少女にはすべてを伝えたいと思う。
 けれどそれで彼女は納得してくれるのだろうか。寂しいと泣き狂う少女にただ残酷な真実をつきつけるだけではないだろうか。
 けれど、けれど、それでも。
(初めて自分の眼で見る世界が、虚無に満ちたものだなんて。そんなのは)
 憶えていないはずの頭が痛む。知らないはずの景色がおぼろげに瞼裏で再生される。
「かつて世界を『滅ぼした』側としては受け入れ難いのです!」
 絞り出すようなその叫びは何時か何処か、彼方の記憶。忘れていたはずの記憶の残滓。
 ”かつて世界を滅ぼした”少女は、今度こそ目の前の少女に願わくば、輝きに満ちた新たな世界が訪れますようにと。
 祈り願って剣を振るう。綾姫を包んだ聖なる光が巫女の少女を照らし、その身を蝕む狂気を僅かなりとも滅していく。
 一瞬。巫女の狂気が薄れて動きが止まった。
 それはほんのわずかな間のことだったけれど。
 アーマデルが踊るように巫女の身に呪いを孕んだ剣を突き立てたのは、暗殺者たる彼がその一瞬をふいにしなかった結果であったのだろう。
 はっと見開かれた水色の瞳から透明な涙がこぼれて、地面に落ちる前に空中で霧散していく。
「外に出たいと望むなら、その願いは叶うだろう」
 淡々としたアーマデルの声。みるものは、望んだものとは限らないが。
 願いは近く、傍らに在り、自分の胸に抱くもの。
 祈りは遠く、仰ぎ見て、迷う足元を照らすもの。
「願いを大事に抱くといい。祈りと共に届くだろう」
 アーマデルは静かに、ただ静かに少女に告げた。

●眩く空を照らすだろう。
「消えたくない、死にたくない。わたしはまだ、外の世界を見ていないもの……っ」
 光粒子を纏って消えゆきながらなお、巫女の少女はか細くうめく。
 それはこれから辿る旅路への不安からのもの。
 希うように伸ばした震える手を、ルイビレットが強く握った。
 否、亡霊の手を握れるはずはない。それでも確かに巫女の手にはその体温が伝わって。
「さあ! その目に焼き付けなよ! 今君の目の前にいるのはまさに外の世界の存在なのだから!」
 宝石のような赤い瞳が巫女を見つめる。最初から変わらず、ただまっすぐに。
 寂しいなら話をしよう。
 手を伸ばすならその手を取ろう。
 知りたいのなら魅せてあげよう。
「生きたいと願う君を、消えたくないと望んだ君を、私はずっと覚えているよ! だから笑って。私は君の笑顔を覚えていたい」
 瞳を揺らした巫女の少女は蕾を綻ばすように微笑んだ。
 それは死に絶えたこの世界に咲いた、最後の花。

 光の粒子となって消えた彼女のところには、煌めく水色の宝珠が残されていた。
 それを拾い上げながら、アーマデルがきょろきょろと辺りを見渡す。
「あーまでるさん、どうかしたのですか?」
 シセラに一度視線をやってから「あった」と声を零し、アーマデルが床から担ぎ上げたのは少女と思しき死体。
 それは巫女の少女の体であった。
「アーマデルさん、もしかして」
「弔いかい? 私もご一緒していいかな」
 アーマデルの表情は動かなかったが、頷きそのまま洞窟の外へと向かう。
 洞窟の外は相変わらず命の感じられない場所だった。そっと地面に寝かせた少女の体を水色の宝珠から溢れた光が包み込み、光は水色の靄となって空に昇っていく。
 輝く靄を眺めながら、それぞれに想い巡らす。
 例えば綾姫は、ほんの少し思い出した自らのこと。
「私も……巫女だったのですね」
 小さな呟きは、人知れずじんわりと自分の中に沁みこんでいく。

 例えばシセラは、彼女の口から聴いた願い。
 遥かな空の上から、彼女は生まれて初めて外の世界を見るだろう。
 そのひとみにうつるせかいが、どうかすこしでもうつくしくあればいい。

 例えばルイビレットは、最期に咲いた彼女の笑顔。
 最後まで世界は終わっていると口にしなかったルイビレッドは決めていたのだ。
 例えこの世界が終わっても、彼女の願いはずっと自分の心に残していく。
 決して忘れたりはしないと。

 例えばアーマデルは、この世界に於いての『巫女』の存在。
 閉じ込めて鎖に繋ぎ、属する筈の世界の事も知らない。
 巫女と呼んでいたものの、まるで贄のようにも……。
 考えたところで、ゆっくりと首を横に振る。今となっては誰にもわからないことだ。

 ゆっくり空に昇っていく水色の靄を瞳に映した後、弔うように瞼を伏せたのだった。

成否

成功

状態異常

なし

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