PandoraPartyProject

シナリオ詳細

フフとプティとオアシスの街。或いは、商売のお手伝い…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●前途多難
 オアシスの畔、とある宿屋の前に駐まった馬車の傍。
 地面に散らばる書物や雑貨、携行食に民芸品を青い髪の女が拾い集めていた。
 それを見下ろし、にやにや笑う男が4人。
「……あのぉ? これ、全部買い取ってくれるんでしょうねぇ?」
 女性の名は“フフ”。つい最近、ラサに辿り着いた旅の商人である。
 そんな彼女の傍らでは、心配そうな表情でフフを見つめる少女が1人。
 その手は無意識に自分の首筋を撫でていた。
「プティ。こちらのお客様たちは少々気が立っているご様子ぅ……馬車に戻っていてぇ」
「でも、フフ。この人たち……」
「いいからぁ」
 長年、商人として仕事をしてきた経験からかフフの脳裏に警鐘が鳴る。
 フフの声音から何かを察したのだろう。プティと呼ばれた少女は、ゆっくりと荷馬車の裏へ回った。
 そんな彼女の後ろ姿を、男たちのじっとりとした視線が追う。
「あの娘は預かっている子よぉ。それより、お代の方を支払ってもらえるかしらぁ?」
「あぁ? 砂まみれの本や食い物に幾らの値段も付くもんかよ。こんなとこに品ぁ広げてるのがわりぃんだろ」
「そうそう。それに、ここで商売したって何の得にもならねぇよ。もうじきでけぇキャラバンが来るのさ。ほら、お前ら以外の商人も、誰もここにゃいねぇだろ?」
「皆、怪我して去って行ったぜ。お前らも、あんまり長居するとさぁ、怪我しちまうんじゃねぇかな?」
 そう言って男たちは、フフの集めた売り物を再度蹴飛ばし去って行った。
 怒鳴りつけてやろうと立ち上がりかけたフフの袖を、くいと誰かが引き留める。
「……プティ?」
「あの人たち、盗賊だよ。前に見かけたことがあるもの。だから、関わらない方がいい」
「……盗賊が何だって商売の邪魔をするのよぉ?」
「たぶんだけど……キャラバンに雇われてるんじゃないかな」
「プティ。詳しい話を聞かせてもらえる?」
「うん。馬車に戻ろう、フフ」

 馬車に戻ったフフとプティは紅茶を飲みつつ話し合う。
 プティ曰く、先ほど商売の邪魔をしてきた男たちは盗賊団のメンバーだという。
「それもキャラバンに雇われてる盗賊。ここみたいに店舗の少ないオアシスや集落を移動しては、先にいた商人たちを追い出して商売するようなキャラバンだよ」
 砂漠の旅には水や食料、そして日除けの道具は欠かせない。
 旅人たちはそういった品を砂漠に点在するオアシスや集落で買い求め、補充するのだ。
 そのため、そういったオアシスや集落を巡って商売をする商人は多い。フフもまたその1人というわけだ。
「1度見聞きしたものは忘れないから、間違いないよ。盗賊に捕まっている間に、同業者だって言いながら、話しているのを見たことある」
 プティは1度、見聞きしたものを忘れない。
 そのせいで、つい先日まで盗賊に捕らわれ利用されていたのである。
 もっとも、プティを捕らえていた盗賊団は既に壊滅しているのだが……。
「プティがそう言うなら、そうなんでしょうね。たしかに水や食料は欠かせないものだから、少し高い値段を付けても良く売れるのよねぇ」
「だから、だと思う。自分たち以外の商人がいなければ、法外な値段を付けても売れるもの」
「売れる時に売れる物を、なるべく高く売るのが商売の基本だけど……気に入らないわぁ」
 希少価値の高いものに、高い値段が付くのは当然。
 けれどその希少価値は、商人が自らの手で作り出すべきではないというのがフフの考え方だった。
 そこに暮らす人々の営みや、それを作った誰かの努力の結果として“商品”の価値は上下する。
 その価値の上下を見極めて、売り買いするのが商人だ。
 そうして幾ら儲けを出すのか、それは商人の腕と頭次第である。
「フフ。どうする? ほかの商人さん達みたいに、場所を移動する?」
「……そうねぇ。それでもいいけど、旅人さん達が損をするのは見過ごしたくはないわねぇ」
 売る側も買う側も、両者が“得”をする商売を。
 それがフフの信条であった。
「目には目を、歯には歯を、と言いますしぃ。最初に邪魔をしてきたのなら、こちらも多少の意趣返しぐらいはいいわよねぇ?」
 受けた恩はきっちり返すし、受けた仇もきっちり返す。
 けれどしかし、相手は盗賊を雇ったキャラバン。人数も、戦力も、商品の量もフフとは比較にはならない。
 で、あれば、しかし……。
「彼らに協力を頼みましょうかぁ。ちょうど近々、この辺りに大規模な旅団も来るようですしぃ。この機会は商人として見過ごせないものぉ」
「うん。フフがそう言うなら、きっとそれが一番冴えたやり方だよ」

●目には目を
「というわけだ。少しばかり条件のきつい部分もあるが、お前さんらならやれるだろ?」
「えぇ、しにゃたちにかかればよゆーですね!」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)の問いかけに、は胸を張って即答した。
 ほんの一瞬の間さえ開けない返答である。よほどの自信があるのか、それともノリと勢いで回答したのか。
 一拍の間ほど、驚いたように停止していたショウだったが、気を取り直して説明を続けることにしたようだ。
「……さて、今回の依頼だがフフの方から“これだけはしてくれるな”という要望が何点か届いている」
 そう言ってショウは、1通の手紙を取り出した。
 そこにはきれいな文字で、以下の内容が記されている。

・1つ、キャラバンの者に怪我を負わせないこと。商人は腕と頭で勝負するもの。多少の妨害は日常茶飯事だがそれは暴力によって為されてはならないのです。
・2つ、キャラバンの馬車や商品を破損させないこと。とくに商品を傷つけることは、それを作った誰かに対する侮辱です。
・3つ、護衛の盗賊は1人残らずボコボコにすること。盗賊は旅商人の敵です。とくにうちの商品を傷つけた4人からは商品代も回収してください。

「……だ、そうだ。それと可能であれば旅団相手の商売にも手を貸して欲しいと言っている。キャラバンの雇った盗賊どものせいで、今オアシスにはフフとプティ以外の商人がいないからな」
 旅団との商談や歓待をフフとプティ2人だけで行うことは不可能だ。
 あまり旅団に悪印象を与えてしまえば、フフのような個人商会は今後の仕事に支障も出てしまうのだろう。
「手癖の悪い連中でな。【足止め】【暗闇】のBS付与と、一時的に武装を外させる技を持っている」
 外された武装は盗賊にダメージを与えることで回収することが可能だ。
 装備を外されてしまえば、当然その分の強化値や耐性は失われることになる。
「それと、旅団とキャラバンの到着はほぼ同時刻となる予定だ」
 本来であれば先に到着している予定のキャラバンだが、不測の事態により遅れているらしい。
「砂漠に入る少し前に荒野があるんだが、なかなか通過の難しいところでな。通過のために荒野を拠点とする別の盗賊団を雇っていたそうだが、どうにもそいつらと落ち合えなかったらしい」
 結局、キャラバンは大きく荒野を迂回してオアシスへ向かうことになったとのことだ。
「なんとっ! 荒野を拠点とする盗賊団というと、もしかしてしにゃたちが壊滅させた?」
 なんて、しにゃこの問いかけに、ショウはにやりと笑みを返した。
 もしもキャラバンが早く到着していれば、フフに反撃の機会は訪れなかっただろう。
「場所取り合戦はこちらが有利、ということだな。邪魔者の盗賊も多少近くにいるんだろうが……まぁ、大半はキャラバンの護衛についてるはずだ」
 ちなみに売り物に関してだが、近くの街から運んでくる手筈となっている。
 フフ曰く、売れそうなものがあれば一緒に発注してくれて構わない、とのことである。
 商人である彼女が仕入れを他人に任せるのは、非常に珍しいことである。
 どうやら、売り物を傷つけられたことに対して、よほど強い怒りを感じているようだ。
「食料や水、衣服、旅の道具なんかはフフが発注済みらしい。なんで、そう言うの以外で“金”になりそうなものがあれば……だな」
「むむ? オアシスだと何が売れるんですかね?」
「さてな。そこはお前さんらで考えてくれ」
「了解しました!」
「……お前さん、本当に元気がいいな。その調子で頑張ってくれ」
 なんて、言って。
 地図と依頼書をその場に置いて、ショウは立ち去っていった。

「ところで売れ残った携行食って食べてしまってもいいんですかね? ちょっとぐらい悪くなってても、しにゃなら平気なんですけど」

GMコメント

※こちらは「フフとプティと盗賊団。或いは、広い荒野を馬車に揺られて…。」のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3965

●ミッション
フフとプティの商売を手伝い、儲けを出させること。
必須条件は下記3項目。
・1つ、キャラバンの者に怪我を負わせないこと。
・2つ、キャラバンの馬車や商品を破損させないこと。
・3つ、護衛の盗賊は1人残らずボコボコにすること。

●ターゲット
・キャラバン
7台の荷馬車によって編成された小隊。
大量の商品を運んでいる。
代表を努めるパンタローネという男は強欲で姑息。
盗賊を雇って他の商人の邪魔をすることで市場を独占して利を得ている。
また、パンタローネは護身用に拳銃を携行している。

強欲の弾丸:物遠単に小ダメージ


・盗賊達×24
パンタローネに雇われた盗賊団。
キャラバンに先行してオアシスや集落に赴き、他の商人を追い出す役の者が4~6名。
残りはキャラバンの護衛を務めている。
戦闘力はほどほどだが、命中率が高い。

※一時的に対象の武器や防具を1つランダムで外させる技を持つ。外された装備品は、盗賊にダメージを与えることで回収出来る。

盗賊のやり方:物近範に小ダメージ、足止、暗闇
 どんな手を使ってでも、最終的に勝てばいいのだ。
 目潰し、不意打ち、だまし討ち、なんでもやる。






●フィールド
オアシスの畔。宿場町。
小さなオアシスであり、常駐している商隊はいない。
近々、大規模な旅団がやってくる。
例年であれば旅団相手の商売を行うために、今時期は商人で賑わっているのだが……。
キャラバンの雇った盗賊が数名、商人たちを追い出すために潜伏している。
フフ&プティを手伝うために、商品を仕入れて売ることが出来る。
※食料、水、旅の必需品の類はフフ&プティが既に用意済み。


砂漠地帯。
現在、オアシスへ向けてキャラバンが移動中。
キャラバンには10数名の盗賊が護衛についている。
暑いことと、足場が崩れやすいことにだけ注意が必要。
遮蔽物などはなく、見通しは良い。遠くの景色が歪んで見える。
※対策がなければ機動-1~2となります。

  • フフとプティとオアシスの街。或いは、商売のお手伝い…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月06日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グドルフ・ボイデル(p3p000694)
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼

リプレイ

●暴力の代償
オアシスの畔。
燦々と照り付ける太陽の下で“旅の商人”『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)は、木箱を広げて通りを眺める。
木箱に詰まった珈琲などの嗜好品に、トランプ、ダイスなどの娯楽品。
砂漠を行く長い馬車での旅路において、それらはほんの一時の、細やかな幸福を与えてくれる。
「中々仕掛けてこないわね」
頬杖を突き、欠伸を零すメリーの視線がついと隣の“商人に同行する占い師” 『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)へと向いた。
「ヒッヒッヒ……非力でか弱い占い師のワタクシとしては、この平穏が長く続けば何よりですので」
「……よく言うわ。そんな風に思っている目じゃないわよ?」
 なんて、つまらなそうに言葉を返してメリーは通りへ視線を向けた。
視線の先では“旅芸人”『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)が通行人を相手に大道芸など披露していた。とはいえ本職ではないので、その芸は拙いものである。
 とはいえしかし、退屈を紛らわす程度の見物にはなるようで、しにゃこの芸は、なかなかどうして盛況のようだ。

 メリーたちが露店を開いて10分ほどが経過しただろうか。
「よぉ、しょっぱい売り物ばっかだなぁ。もしかしてこりゃ、リサイクル商品か?」
 現れたのは5人の男。
 服装こそ旅人のそれだが、その身に纏う暴力の気配は隠せない。粗野で乱暴、そのうえ短慮が人の形を成しているかのような有様の彼らは盗賊を生業とする者だ。
 挨拶のつもりなのだろうか。
 メリーの前に置かれた木箱を蹴り飛ばし、その中身を地面に撒いた。
 その瞬間……。
「オウオウ、派手にやってくれたねえ。どう落とし前付けてくれんだ?」
「兄さん達。喧嘩の売買をお望みかい?」
物陰から姿を見せた『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)と 『撃劍・素戔嗚』幻夢桜・獅門(p3p009000)が、盗賊たちに言葉を投げた。
「あぁ? 何だぁ、てめ……あぐっ⁉」
 言葉を吐き出し終わる間もなく、その顔面にグドルフの拳が突き刺さる。折れた前歯が宙を舞う。盗賊の1人が意識を失い地に倒れた。
「なっ! てめぇら……くそっ、護衛なんぞ雇ってやがったのか!」
 先制攻撃を許したことで、浮足立ったのも束の間。
 日頃から荒事に慣れているだけあって、立て直すのも早かった。素早くナイフを引き抜く
 メリーの命を盾に、護衛であるグドルフたちを牽制する算段だ。
 けれど、しかし……。
「うん。よく分かった。喧嘩の始まりだな」
 ナイフを握った男の手首を、獅門の振るった棒が打つ。
 否、それは布を巻いた大太刀だ。
 鋭く強かな殴打によって男の手首は粉砕された。

 地面を舐める5人の男。
その眼前に『鬨の声』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は歩み寄り、襟首を掴んで起き上がらせた。
「駄目にした商品代、耳揃えて払ってくれよ。あぁ、別にお前の死体から金回収しても良いんだぜ? さっさと払う方が得だと思うけどな」
 そう告げながら、ルカは男の腹部に拳を押し当てる。

「あらぁ、あっという間にのしちゃいましたねぇ」
「すごい。強い、ね」
縛りあげられた盗賊たちを眺めつつ、そう言ったのは2人の女商人だった。
背の高い女性がフフ。小柄な少女がプティ。
彼女たちこそが、今回の依頼人である。
「まぁ、このぐらいわね。こいつらの身柄をどうするかは任せるよ。もう十分懲りたと思うけど」
回収した商品代をフフに手渡しマルク・シリング(p3p001309)はそう告げる。
 ひどく打ちのめされたおかげで、5人の盗賊たちは逃げる気力を失っていた。
「おう、久しぶり。2人共元気だったか? また厄介事みたいだが、喧嘩は得意だ。任せとけ!」
 フフとプティへと向けて、獅門はそう言葉をかける。
「えぇ、お久しぶりですぅ。またお会いできて……うふふ」
 にぃ、とフフはその口元に笑みを浮かべた。
 グドルフ、獅門、しにゃこの3名とフフ&プティは以前にも逢ったことがある。そんな彼らの実力のほどを、フフは正しく理解している。
 だからこそ、彼女は笑みを浮かべたのだろう。
「これは上手くいきそうですねぇ」
なんて、囁くように告げたフフを一瞥し『双彩ユーディアライト』恋屍・愛無(p3p007296)はスンと小さく鼻を鳴らした。
「善悪を内包してこその国だとは、我が団長の言だが」
「あらぁ? 私は別に悪人なんかじゃないですよぉ? 私は正しく真っ当な商人ですものぉ」
「分かっているとも……恩も屈辱もまとめて返せと。これも我が団長の言葉だからな」

●悪徳キャラバン
 持参した商品の陳列や整理をフフとプティの2人に任せ、一行は砂漠へやってきていた。
 しばらく砂漠を進んだところで、見えてきたのは数台の荷馬車とその周囲を囲む盗賊たち。プティから聞いていた特徴とも一致しており、その一団がターゲットであるキャラバンで間違いないだろう。
キャラバンの者に怪我を負わせないこと。
キャラバンの馬車や商品を破損させないこと。
護衛の盗賊は1人残らずボコボコにすること。
今回の依頼達成に際して、フフより以上の条件が提示されている。
「商人は商売で叩きのめすという、お二人の矜持には脱帽です」
 と、そう呟いてヴァイオレットはキャラバンへ向け歩き始めた。

 真っ先に切り込んでいった獅門の前に盗賊たちが立ちはだかった。
 流石は荒事を生業とする盗賊たちといったところか、奇襲を受けたことによる混乱はほんの一時。獅門の手に大太刀があることに気づくと、即座に臨戦態勢を整えた。
「おい! 離れてやれ! 商品を巻き込むんじゃないぞ!」
 馬車の1つから顔を覗かせ老爺が叫ぶ。
 おそらくは彼が、このキャラバンの主“パンタローネ”という商人だろう。
「人数も多いし、余裕が無いからな」
 手加減は無しだ、とそう告げて獅門は刀を大上段に振りかぶる。
「ちっ! おい、馬車の傍でそんなもんを振り回すんじゃねぇ!?」
 慌てる盗賊たちが馬車を離れ、獅門に斬りかかっていくが……。
「ま、命までは取らねぇさ」
 振り下ろされた獅門の刀が、盗賊の1人を切り伏せる。
 飛び散る鮮血と盗賊の悲鳴。
 直後……。
「っと……お⁉」
 地面に伏した仲間の頭上を飛び越えて、接近した盗賊の1人が獅門の刀を奪い取る。
 丸腰になった獅門に向けて数名の盗賊が襲い掛かった。
「ち、誰か俺の刀を取り返してくれ!」
 刀の回収を後回しにし、迫り来る盗賊たちを徒手空拳で迎えうつ。
 
 獅門の刀を抱えて逃げる盗賊を、ルカは補足し追いすがる。
「知ってるか? ラサでの盗みは重罪だ」
 両手持ちの大剣を、片手で掴み振り回す。その一撃で、横から迫った盗賊は切られて後ろへと飛んだ。
「何であんなもん片手で振り回してんだ?」
「いいから止めろ! 馬車に近づけるな!」
 数名の盗賊がルカの進路を塞いだが……。
「装備を奪わないと戦えないなんて、色んな意味でやらしー盗賊さんですね!」
 頭上から降る少女の声に、盗賊たちは思わずその足を止めた。
 見上げた先には、宙を舞う桃色髪の少女……しにゃこの姿。その手に握られた傘を、彼女は地上の盗賊たちへと突き付けて……。
「さぁ、チャンスですよ!」
 火薬の弾ける音が響いて、無数の弾雨が降り注ぐ。
 銃弾を浴び、慌てふためく盗賊たちの最中を駆け抜けルカは頭上へ視線を向けた。
「しにゃっこ、お前ちゃんと仕事してたんだな。正直タダの無駄飯ぐらいだと思ってたぜ。ご褒美に帰ったらちっと良い飯食わせてやるよ!」
「本当は働きたくないんですけど、お金無いと可愛いお洋服も買えませんからね! たくさんゴチになりますよ!!」
 能天気なやり取りが、悲鳴の合間に木霊した。

 呻き声をあげ、盗賊が1人地面に伏した。その手から零れた“琥珀のお守り”を回収し、メリーはふんと鼻を鳴らす。
「なるべく不殺にするってのが全体の方針だから、命までは取らないであげるわ」
 お守りを付けなおしたメリーがそっと手を掲げると、その細い指先で指輪が強い光を放った。
 一瞬の閃光が、周囲の盗賊たちの目を焼いた。
 踏鞴を踏んで悲鳴を上げる盗賊たちの背後に迫る不吉な影はヴァイオレットだ。その手には不吉な気配を纏う剣が握られている。
「投降をおすすめしますよ。迷惑をかけた分は……労働力として償って頂くことになるでしょうか?」
 剣を首筋に押し当てたうえでの降伏勧告。
 断ればどうなるか……盗賊たちは、自身の身に降りかかった不運を自覚した盗賊は、戦意を失い項垂れた。
「ヴァイオレット。そいつらの捕縛は任せていい?」
「? 構いませんが……メリー様はどちらに?」
「わたしはあっち。逃げようとしてる奴らをそのままにはしておけないでしょ?」
 指輪を掲げ、メリーは笑う。
 放たれた不可視の悪意が、背を向け駆ける盗賊の背を撃ち抜いた。

 大太刀を抱え、マルクは獅門の元へと駆けていく。
 獅門の周囲には、意識を失い倒れた盗賊たちが転がっていた。顔を腫らした者、間接を外された者、嘔吐し呻く者、まさに大喧嘩の後といった有様だ。
「随分と派手にやったね? これ、必要なかったかな?」
「うん? おぉ、取り返してくれたのか。いや、ありがてぇ!」
 鼻血を拭いつつ礼を述べる獅門に苦笑を返し、マルクは杖を取り出した。
 その先端を獅門に向けて回復術を行使する。
 マルクを中心として展開された光陣が、獅門の負った傷を癒した。

 商人には商人の流儀があるように、賊には賊の流儀があるのだ。
「この山賊グドルフさまの通ったあとは、ペンペン草一本も残らねえんだ!」
 顔を腫らして呻く盗賊の懐から、財布や装飾品を取り上げながらグドルフは呵々と笑って見せる。
 賊の流儀とはつまり「勝った者がすべてを得、負けた者はすべてを失う」というただそれだけ。そうして奪った装飾品は、後で売りに出す心算である。
「ぐ……て、めぇ」
 顔を腫らした盗賊は、弱々しくも腕を伸ばしてグドルフの首へと手を伸ばす。
 血に濡れたその手が、グドルフの下げたロケットを掴んだ。傷だらけの古いロケットだ。
 盗賊の手がそれを掴んだのは、ともすると偶然だったのかもしれない。
 だが、それがまずかった……。
「──それに汚ェ手で触るな」
 低く、地の底から響くような声。
 滲む怒りの感情は、盗賊に呼吸を忘れさせるには十分だった。
「あ、や……」
 弁解を試みる盗賊だが、悲しいことに彼が発することを許させた言葉はたったの2文字。
 グドルフの手が頭部を掴み、その顔面を力いっぱい地面へ向けて叩きつけた。
 ぐちゃ、と骨と肉の潰れる音を最後に耳にし、彼の意識は闇に飲まれる。

 馬車の荷台から身を乗り出したパンタローネは、怒りに顔を赤くする。
 高い金を払って雇った盗賊たちが、もはや1人も残ってはいない。たった8人の賊を相手にこの体たらくとは、所詮荒事に慣れただけの無法者ということか。
「ぐ……くそっ、くそっ!!」
 懐から取り出した銃をパンタローネはヴァイオレットへと向ける。
 その指が引き金を絞る、その直前……。
「しかして。ラサは定期的に、この手の輩が湧いてくるな」
 しゅるり、と。
 その手に黒い触手が巻き付いた。
「な……あ、あ? はぁっ⁉」
 視線をあげたパンタローネの眼前に、映るは巨大な口腔だ。馬車の屋根に張り付くその姿は、爬虫類のようにも見える。
 黒い体の、不気味な怪物。それが、人の言葉を発したのだ。パンタローネの驚愕は、果たしてどれほどのものだろうか。
 ぬめる体表から零れた粘液が、パンタローネの頬を濡らす。
 限界まで口を開いたパンタローネに、その怪物……愛無は1枚の紙面をパンタローネへ突き付ける。それは傭兵連合への紹介状だ。
「傭兵連合へ報告することも出来る。アコギな商売は控えるんだな」
「それと、何があるか分からないから、安全第一で慎重にオアシスを目指した方がいいよ」
 愛無に続き、近づいて来たマルクがアドバイスを送る。
 その言葉の裏を読めないようでは、商人は務まらないだろう。
「わ、分かった……。私たちはここで暫く野営をしよう。護衛たちも休ませねばならんからな……」
 その点、悪質とはいえパンタローネは歴戦の商人であった。

●オアシスの賑わい
 喧噪の中、間延びした女性の声が遠く響いた。
「さぁ、こちら携行食に水に外套、干し肉なんかも揃えておりまぁす。在庫は豊富に用意しているのでぇ、どうぞ焦らずお選びくださぁい」
「うん……いいもの、たくさん、揃えたよ」
 客を呼び込むフフとプティの表情は明るく、とても楽しそうだった。
「品質は僕が保証しよう。あぁ、嗜好品の類をお求めなら、あちらで僕の仲間が商っているので、寄ってみるといい」
 と、そう言って商品を薦めていくのは愛無だ。
 ラサではそれなりに名が売れており、旅団の中には以前愛無を見かけたという者もいた。
 名声のおかげもあり、並べた商品は飛ぶように売れていく。
「いやぁ、助かったよ。毎年ここに立ち寄るんだが、いつも法外な値段を吹っかけられていたからね」
 買い物をする客たちも、どうやら満足そうだった。
 そんな彼女たちの傍では、女性客を相手にマルクは小物や手拭を紹介している。
「これは? ラサでは見かけないデザインね?」
「絶望の青、今は静寂の青と呼ばれる海の向こう、カムイグラからの特産品です。嵩張らなくて希少性が高い。オアシスまで足を伸ばした成果を、一つ増やしていきませんか?」
 貝殻を加工したイヤリング。
 鬼を模した魔よけの置物。
 カムイグラの職人が染めた布。
 次々と手に取り、紹介していくマルクの表情は活き活きとしていた。それもそのはず、イレギュラーズとなる以前は、学問や商売について学んでいたのだ。
 こういった場こそ、むしろ彼の本領発揮といったところか。
「暑い所だし、風を起こしたり日差しを遮るものがあれば良いかと思ったが、こちらはどうだ?」
「そうですね。扇はこの辺りでは稀少性も高く、嵩張らないし需要はあるかと……あぁ、そちらのお兄さん。よければ見ていきませんか?」
 獅門の持参した日傘や扇を受け取ったマルクは、近くを通りかかった小太りの男に明るい声を投げかける。

「なぁ、何で売れねぇと思うよ?」 
 グドルフは低く唸るようにそう呟いた。
 眉間に皺を寄せた厳めしい面構えを見て、ルカは呆れてため息を零す。
 その手で硬貨を弄びつつ、グドルフの顔を一瞥した。
「鏡見てみたらどうだ?」
「あぁ? 鏡たって……酒瓶でいいか」
「まぁ、何でもいいが……物はいいんだがなぁ」
「オウ、おれさまが厳選したんだ。あ、おいおめぇ買えよ。買うよな? な? いい酒なんだろ?」
「は? いや、俺は……」
「お買い上げアリガトウゴザイマース!!」
 ルカの手から硬貨を数枚ひったくり、グドルフは酒瓶の蓋を外した。
「んじゃ、売れた祝いに一杯やろうぜ!」
 
 オアシスの畔に腰掛けて、談笑を交わす一団があった。
 その様子をぼんやりと眺め、メリーは一言「繁盛してるわね」と、そう呟く。
 談笑の輪の中心にいるのはヴァイオレットとしにゃこの2人だ。
 どうやら旅団の奥様方にコーヒーを売り込んでいるようだが……。
「むぅ、少し苦いです!」
「はちみつなど垂らしてみては? 砂漠の星の下で飲むコーヒーは、あれでなかなか良いものなのですがねぇ」
「それよりしにゃは、お腹一杯ご飯が食べたいです!」
 販売しているコーヒー豆は、ヴァイオレットが普段使いしているものだ。
 深い香りと、すっきりとした苦みに奥様たちは喜んでいたが、しにゃこには少々苦すぎたらしい。
 その様子を眺めていたメリーのもとへ、プティが歩み寄ってくる。
「あなたは……何か、売らないの?」
「私はいいわよ。暑いし、疲れたし」
「そう。なら、一緒に休憩しよう」
 視線も向けずに答えたメリーへ、プティはそっと油紙で出来た袋を差し出す。袋の中身は、クッキーに似た焼き菓子のようだ。
 1つ摘まんで、メリーは焼き菓子を口へと運ぶ。
「助けてくれて、ありがとう、ね。フフも、商売が出来て、楽しそう」
「……あっそ。それなら、良かったわ」
 なんて、ぶっきらぼうに言葉を返し。
 メリーは2つめの焼き菓子へと手を伸ばす。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
依頼は成功となります。
悪徳キャラバンと盗賊たちは撃退され、フフとプティの商売も無事に成功しました。

このたびは、アフターアクションの提案やご参加ありがとうございました。
機会があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

PAGETOPPAGEBOTTOM