シナリオ詳細
美食家の憂鬱と再起~鉄帝編~
オープニング
●
「旦那様、お加減はいかがでしょうか?」
豪奢な作りの広い食堂に二人きり。若き女中は初老の紳士に声をかけるが、彼は宙を見つめたままで返事がない。
紳士の名はボンゴーレ・ビアンコ。かつて美食家として名を馳せており、レストランを営むものであれば彼の舌に挑戦したいと誰もが考えた。
彼の舌に認められれば瞬く間に店の名は広まり一躍有名店の仲間入りという訳だ。
だがビアンコ氏は一年前に起きたある出来事をきっかけに介護が無ければ生きていけない状態……心を壊してしまった。
ビアンコ氏はあるシェフの挑戦を受けることになった。一年前、この食堂でのことだ。
シェフの自慢の料理を食す。煮込み料理だ。美味い。
「この味は?」
わからない。こんなことがあるのか? 使われている食材が何か分からない――牛か豚か、肉か魚か。それすらも分からない。私の知らぬ調理法なのか。
彼が舌で稼ぐようになってからは初めてのことだった。もはや料理が美味いか不味いかなんてどうでもよくなっていた。
ビアンコ氏にとって食事とは真剣勝負であった。
シェフの創意工夫を称賛し、全ての食材達に感謝する。その神聖な儀式を放り投げてしまったことになる。
それは好敵手との運命の一騎打ちを、棄権という形で終わらせた剣士の心境に似ていた。放棄に等しいのだ。相手への侮辱になるとビアンコは考えた。
「旦那様、今日は鉄帝のヴィーザル地方で食されるという山菜鍋をお持ちしました」
女中が料理の皿を出すとビアンコ氏が反応を示した。
彼が一人で行える唯一の衣食住は食事であった。ある種の反射であろうか。見事完食しまた宙を見つめる。
「旦那様、どうすればもとに戻ってくださるでしょう……その鍵は食事にあるのでは……」
シェフと美食家の勝負。その価値観は私にはわかりません。しかしそこまで自身を追い込まなくとも。元に戻ってさえすれば、余生は平穏に食を楽しむ道を私がお手伝いしますのに……。
その時、庭に繋がれているペットの灰色熊が啼いた。
「お前も悲しいのかい。そうだろうね」
灰色熊……獣……狂暴……強い……なんでも屋……女中はローレットの存在を思い出した。
●
「少々変わった依頼が入っている」
まるで俺達をなんでも屋だと思っているような内容だ。『黒猫の』ショウ(p3n000005)は手元のメモに視線を落とす。
依頼主の名はボンゴーレ・ビアンコ氏だ。依頼者は正確にはその女中だが。
ビアンコ氏のために八種類の『美味しい食べ物」もしくは『珍しい食べ物』を用意して欲しいそうだ。八という数字はかつてビアンコ氏が愛したコースの品数だそうだ。
腕に覚えのある者は鉄帝にあるビアンコ氏の館で調理してもよいそうだ。
「極楽鳥の卵で作った目玉焼きなんて喜ばれるんじゃないか?」
そんなものは見たことがないだって? 誰も見たことがない料理だからいいんじゃないか。ショウは口角を上げた。
ビアンコ氏は甘党でもあるそうだ。地方まで足を延ばして趣向を凝らしたスイーツを事前に調達するのもいいだろう。
「心神喪失状態でも食事だけは出来るか。不思議なこともあるものだ」
せいぜい変わったものを食べさせて、こちらに呼び戻してやってくれ。ショウは説明を終えた。
- 美食家の憂鬱と再起~鉄帝編~完了
- GM名日高ロマン
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年10月07日 22時50分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●くるみ亭からの使者
「くるみ亭を代表してメロンパンをお持ちしたのですよ」
『もふもふバイト長』ミミ・エンクィスト(p3p000656)は女中のベラドンナと物言わぬ氏に上品にお辞儀する。
ミミは接客が本業だが製パンの技術も備わっている。今回は彼女の手作りの品を持参した。
紙の包みを開けると中には丸いパンが幾つか入っている。
「可愛らしいパンでございますわね。この香りは?!」
ベラドンナは思わず眼を見開いた。
ミミが紙袋を開けると部屋中に華やかで甘く優しい香りが広がっていく。幸せな家庭の午後、ティータイムのひと時を髣髴とさせる。
「……さとう……こむぎこ……」
「はっ! 旦那様が言葉を」
ミミの持ち込んだパンが奇跡を起こした。嗅覚と記憶は深い関係を持つというがメロンパンの香が恐らく脳に大きな刺激を与えたのだろう。
我を取り戻したビアンコはベラドンナからひったくる様にメロンパンを受け取り、頬張る。
「美味い。この触感は……クッキー生地か!」
「そうですよ♪ 旅人から教わったレシピなんです」ミミはにっこりと微笑んだ。
「表面はサクサクで中はしっとり。王道であり至高」
ビアンコは瞬く間にメロンパンを完食する。その直後、再び放心状態となった。
「あら? でもこの調子でいけば回復するかもしれないですよ!」
さあ次の方! ミミに促されて次なるシェフが登場する。
「私にもメロンパンをおひとつ」
女中は懇願するも――残念ながら彼女の分はない。ビアンコが完食していた。
●伝説の中華料理
「次は僕の料理だ」
『特異運命座標』時任 零時(p3p007579)は自らカートを押して登場する。
零時が押してきたカートには料理が一皿乗っている。小さな饅頭のような物だ。
「まぁ、レンゲに載る一口サイズ。可愛らしい」
さあ、旦那様。ベラドンナがレンゲをビアンコの口に運ぼうとしたところで零時が止める。
「小籠包はそうじゃないんだ」
零時は人さし指を左右にふり女中を嗜める。
「レンゲに乗せて小籠包を割り開いて溢れたスープを軽く飲む。さあどうぞ」零時は一つ見本を見せた。
「素晴らしい。旨味が凝縮されている。こんなものは食べたことが無い」
ビアンコは再び自我を取り戻した。
「ああ、旦那様。よかった! しかし中にスープを仕込むなんて魔法のような料理はどうやって?」
「もしや、これが噂に聞く中華料理か。数千年の歴史を感じる」
ぎらりと零時を見やる。ビアンコの目に輝きが戻った。
「作り方はね、小麦粉で作った皮に豚の挽肉や野菜とかを混ぜ込んだ具を包んで蒸すんだ」
「だが、どうやってスープを中に仕込む?」
「煮凝りさ」
零時は丁寧に調理を法を説明する。ビアンコは一語一語を噛み締めるように頷きながら聞き入った。
「後、ポイントは料理のコンディション。作り立てが一番なんだよ」
ノーマルとピリ辛、他にも生姜を刻んで一緒に食べても美味しいよ。
「生姜か。滋養味があってよさそうだ。いただこう」
零時が差し出した小籠包をビアンコは全て平らげる。
「零時さんとやら、他の皆さんも。ベラドンナに頼まれて来てくださったんのだろう。お手間をかけた。もう大丈夫だ。しかし」
残りの品も是非食べさせて欲しい。ビアンコは口の端をナプキンで上品に拭き取った。
●珍味
「オイラの料理は間違いなく食べたことがないはずだよ。究極の珍味さ」
「ほう。謹んでお受けいたす」
『空歌う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)は調理場を借りてサラダを用意した。材料は持ち込みだ。それもそのはず、彼の選んだ素材はビアンコの館にストックは絶対にない。
「サラダ風か。む、この素材は一体。トリュフでもないな」
――肉厚の木の皮さ!
「なんだと!」
正確には木の皮の幹に近い部分で外皮より硬くないところ。面白い味がするよ?
「以外に柔らかい。繊維が切られている……これは隠し包丁。丁寧な仕事だ」
「正解さ! じゃあ味付けは分かるかな?」
「これは。苦みもあるが、何かマイルドな素材が。分からない」
「それはチーズさ!」
「なんと大胆な」ベラドンナも驚愕の表情を隠そうとしない。
もう一つ種明かしすると苦みは花のつぼみなんだ。「なるほど面白い趣向だ」「旦那様、わたくしも一口戴いてよろしいですか?」
「ならん!」
ビアンコは少年のように皿を奪い取り独り占めを始めた。
「ケンカするなよ……まだまだあるからさ」
「アクセルさんと言ったか、この料理はどこで発案された? そもそも食材はどこで手に入れたのか? あなたの発案か?」
ビアンコは矢継ぎ早に質問を投げかける。
「オイラが鉄帝と幻想の国境近く、深い雪山で野生生活を送ってたころに見つけたものなんだ」
「なるほど。アクセルさんは飛行種――ただの人間には知りえない世界があるのだな」
「そうだね! オイラはこの翼でいつだってどこへでも飛びゆける。そこら中に色んな発見があるんだ」
いつだって色んなことがそこら中にあるんだよ。この間だってさ――。
アクセルの料理も完食された。ベラドンナの分はない。次の料理は……。
●究極のメニュー
「よかったら皆、調理場に来てくれ」
『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)は全員を調理場に連れ出した。
「俺が用意したのはアンコウという魚だ」
「ふむ、大きい魚だな。だがこんな難物をどうやって調理をするのだ?」
ジョージは腕をまくる。彼自らが包丁を手にして巨大魚をさばくのだ。
「お魚は鮮度が大事ですわ。館の料理人を助っ人に呼びましょうか? こんな巨大魚はさばくのにどれだけ時間がいるのか」
「まあ、見ているといい」
ジョージはベラドンナの提案をやんわりと断り準備を進める。ベラドンナは自分の申し出が杞憂であったことを五秒後に知る。
「何という速さ」ベラドンナも料理の心得があるが、ここまで迷いのない包丁さばきは初めて見た。
「そして正確だ」アクセルも舌を巻く。ジョージは瞬く間に身・内臓・骨を切り分けていく。
「ほとんど無駄な部位を出していないね」零時も感心する。
次はアンコウの肝をすり潰し、野菜と共に火を通す。ジョージは手際よく調理を進める。
「スープなどは入れないのか?」ビアンコが問う。
「ああ、水を使わないアンコウ鍋だ」「なにぃ、鍋に水を使わないと?!」
肝と野菜に火が入り、水分がにじみ出てくる。素材の水分だけで十分なスープになる。
「最後は味付けだ」醤油を入れ味噌を溶く。最後に味見して少々調整し完成となる。
「煮えたな。さあ、どうぞ」ジョージに差し出された椀をビアンコは両手で丁寧に受け取った。
「いただきます」ビアンコは始めにアンコウの身を頬張る。そしてスープを一口飲むと目を見開いた。
「このまろやかさは……フォアグラか?!」
「まぁ正解だな。魚の肝は食べ慣れていないか? 味噌と相性も抜群だろう……マリアージュと言ったら伝わるか? 俺は使わない言葉だがな」
ジョージの説明に何度も頷きながらも箸は止まらない。ビアンコは一人で鍋の大半を平らげてしまった。
料理は楽しめたかビアンコ氏よ。俺は楽しめたぞ。
未知の美味を追い求めてこそ美食家であろう。まだ貴方の舌も鍛える余地があるのだ。ジョージは美食家に温かなエールを送った。
その頃――。
「ヴァリーシャ、そろそろ行かないと調理の時間無くなるかも」と『雷光・紫電一閃』マリア・レイシス(p3p006685)がぽつり。二人は森で食材集めの最中だ。
「あら、そうですわね」十分、材料も集まったことですし。
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)とマリアはビアンコの館に足を向けた。
●二人はサバイバル
二時間前。
「ゼシュテルの森であれば私の出番ですわねっ! 行きますわよマリィ」
「頼もしいね。なら案内してもらおうかな♪」
ヴァレーリヤとマリアはビアンコの館に入る前に、食材を現地調達するために森の深い方に向かい始める。
「ヴァリューシャは得意な料理とかあるのかい?」
二人は森の木漏れ日を浴びながら何気ない会話を交わす。
「ボルシチとかペリメニとか、この辺りの郷土料理が中心かしら。でも今日は新鮮な魚を使った料理にしますわ」
「うん、私はグラタン・ドフィノワにするよ。茸を探したいな」
「あら、マリィ。この茸は」「うん、それは毒茸だ」
マリアはサバイバル技術を食材探しに活用する。
「大分、集まりましたわ。バスケットがこんなに」
ヴァレーリヤは戦利品を掲げ微笑を浮かべる。
「ヴァリーシャ、そろそろ行かないと調理の時間無くなるかも」
「あら、お料理の残り香が」
ヴァレーリヤとマリアが食堂に入るとジョージの料理が食された直後だった。
「調度、食べ終わったところだ」
ジョージは空になった鍋を見せ、僅かに口角を上げる。完食こそが料理人の誉れ。それを聞いて遅れてきた二人は、
「マリィ、行きますわよ!」「うん!」ヴァレーリヤとマリアは調理場に駆け出した。
「デザートを除くと残り三品。佳境だね。僕も拝見させてもうおう」と零時。
「最後は二品同時に出すようね」美咲も調理場に足を運ぶ。皆も続く。
じゃがいもを薄切りにして、にんにくをすりおろす。
その後鍋にじゃがいもと茸を並べて牛乳を入れて火にかける。マリアは驚異的な手際で調理工程を進める。
沸騰して火が通ったら塩に胡椒……ナツメグを加えて耐熱容器に移してチーズを散らす。最後はオーブンに。
ここまで五分。「いい手際だね」零時が頷く。
「速さに自信があるんだ。戦闘だけではなく料理もね」さてヴァリューシャは?
ヴァレーリヤも『ウハー(ゼシュテル風魚料理)』の調理が終盤に差し掛かっていた。
臭み消しにウォッカ垂らす。「そうか、その手があったか」ジョージが膝を打つ。
「後は煮込むだけですわ」ヴァレーリヤはここで一区切りと、ウォッカをラッパ飲みする――美味しい。染み入るよう。
「?!」ミミは見てしまった……が何も口にはしない。
「出来ましたわ。ふふ、マリィもちょっとだけ食べる?」スプーンをマリアの口元に運ぶ。
「わーもらう……美味しい!」
お返しにとヴァレーリヤにも自分の料理を味見してもらう。
「美味しいですわ。ホワイトソースが絶品」
ヴァレーリヤはマリアの料理に舌鼓。今度この料理を作るときは誰のためでもなく私のために。そう願って酒を呷る。
「出来ましたわ。ふふ、味見は不要ですわ。完璧ですもの」ヴァレーリヤの目が少し据わっている。
「結構、酔ってるね。風にでもあたるかい? 庭が広かったよね」マリアは庭を見ると、そこに居るはずのないものが視野に入る。
「……ヴァリューシャ、庭に熊がいるよ! 熊が!」マリアは嬉しそうに声をあげる。
「旦那様のペットの灰色熊ですわ。名はマルス。雄、三歳。調教されています。旦那様のスパーリングパートナーでございます」
マルスも体が鈍っているのでよろしければスパーリングをどうぞ。ベラドンナの提案に笑顔で頷き、ヴァレーリヤがふらふらと庭に向かう。右手にはウォッカの瓶、左手には蜂蜜の瓶を持っていた。
「待ってヴァリーシャ。あ、ビアンコ氏、私達の二品をご賞味あれ」ビアンコに二皿を差し出すとマリアもその場を去る。
「いただこう。ウハーか。魚の鮮度はとてもいい。スパイスは――不思議なものだ。鉄帝ではなく恐らく海洋のものか。このスパイスが味わいを複雑にしている」
ビアンコがフォークを置くと皿に残るのは魚の骨だけ。スープも一滴残さず飲み干した。
続けてマリアの皿に手を付ける。「これはグラタン・ドフィノワというのか」
ビアンコ氏はホワイトソースとじゃがいもをスプーンでたっぷりとすくい、ふうふうと必死に冷ます。
美味い。じゃがいもとホワイトソースの愛称は間違いない。にんにくの香りもいい。茸もいいものを使っている。茸は恐らく私の森のものだろう。
「お嬢さん方、美味であった。おや、いない――」
●メインディッシュ
「メインは私ね」『紫緋の一撃』美咲・マクスウェル(p3p005192)は何やら厳重な包みを持ち出した。
「それは?」ビアンコの視線が釘付けになる。
「料理自体は普通だけど、食材がとても珍しいもの」そういって美咲が包みから取り出すのは……。
「赤身――魚か」
「そう。狂王種のマグロよこれ」
「なんと見事な……あっ!」
美咲は赤身の表面を包丁で削ぎ落すとビアンコは思わず声をあげた。
各国間の移動が短時間でできる私たちとはいえ、こうしている間にも鮮度は落ち続ける――。美咲は手際よくマグロの表面を削ぐ。
「ああ、勿体ないがなんという大胆な調理。つまりはそういうことか?!」
「そうよ。見極めて取り分けた内部は熟成されてるって寸法よ」
「削ぎ落したところは回収したいくらいですわ」ベラドンナも思わず狼狽えた。
――揚げる。
「この、とろっとろな赤身に、下味・小麦粉卵にパン粉を付けて揚げる」
「揚げ時間はどうするのだ? いや、これは失礼した」
真剣勝負に無粋な真似をしたと、ビアンコは額をぴしゃりと叩いた。シェフのやり方に口を出すのは無礼千万。
「揚げ具合はあくまでほどほど……衣近くの外側は火が通りつつも、内部は生の良さを残す」
つまり『レア』か。美咲とビアンコと女中の声が和音を奏でる。
間もなくメインディッシュが完成する。ご飯は大盛でお願いしますとビアンコが美咲に告げた。
そして食堂に並べられた狂王種マグロのカツ丼。
「どう? ビアンコ氏だけじゃなく、皆も挑戦してみる?」
美咲の好意に皆頷く。だがまずはビアンコ氏の初手を待ってからがよいだろう。そんな空気が醸成されていた。
「まずは断面。予想通り美しい」とビアンコ氏。そして大きな口で頬張る。
「美味い。サクサクの衣と程よく加熱された赤身のまろやかさが絶妙」
称賛は続く。「マグロも最高だが米も輝いている」ビアンコは丼に食らいつく。米も美咲の伝手で上質なものを調達しておいたそうだ。
「俺もいただこう」ジョージもご相伴にあずからせていただくと丼を手にする。他の皆も続いた。
「美味しいですわ。旦那様」ベラドンナもこの日、初めて料理にありつけた。
メインディッシュも当然ながら完食。この時点でビアンコ氏の摂取カロリーは一万キロを突破した。
●ミルキィマジック
「腹八分目。これくらいでデザートを迎えるのが健康の秘訣であろう」ビアンコは名残惜しそうに腹を摩る。
「今まで沢山食べてきたじゃないか」零時が呆れ顔で指摘する。
「デザートはボクに任せて♪ とっておきスイーツを作ってあげるね!」
『甘いかおり』ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)がコースのトリ、画竜点睛を飾る。
ビアンコ氏が自我を取り戻したことは奇跡に違いない。
しかしこの後に本日二つ目の奇跡を目の当たりにする。
皆、調理場のミルキィに注目する。腕を披露する際は当然のように調理場に同行するようになっていった。
「それでは特製パフェを作っちゃいます!」
――ミルキィマジック♪
彼女がミルクに手をかざすと瞬く間に生クリームと濃厚なバニラアイスが生まれ出てくる。まるで……。
「奇跡だ」ビアンコは口に手を当てて震えている。
「美味しそうなのです♪」とミミ。「鮮度抜群だね」零時も頷く。
ここからが彼女の腕の見せ所だ。パフェの器選びやトッピングの順序も重要だ。
トッピングは定番のチョコレートにフルーツ。綿あめも加えて個性を打ち出す。
「しかしジャンボパフェには欠点がある」ビアンコの目が冷たく光る。
「確かにミミも重大な問題があると思うのです」ミミも頷く。
そう、ジャンボパフェには欠点がある。トッピングをしようとも終始バニラと生クリームが主体だと味に飽きが来るのだ。
――勿論、計算づくだよ☆
ミルキィは考慮済みであった。生クリームベースに、チョコレートソースとフルーツソースを絡めて変味対応を完備。
また、ケーキやシリアルを入れることで自分好みのアクセントも付けられるようにしている。
「残さず食べてね☆」
ビアンコはいざ勝負と覚悟を決め、頂上から果敢に攻め始める。ああ、美味だが腹が冷えてきた……そう感じた矢先、
「あったかいコーヒーもどうぞ♪」ミルキィが差し出したコーヒーを美味そうにすすりビアンコは言った。ああ、天使が舞い降りたと。
「今日の御もてなし、いたみいる。落ち着いたら美食探訪を再開しようと思う」
皆様のことは忘れない。ありがとう。ビアンコは女中と共に深々と頭を下げた。
至高のメニューでビアンコを回復させたイレギュラーズ。皆が十二分な活躍を果たした。
余談だが、この日を境に灰色熊のマルスは暫く人間不信になったそうだ。
アクセルによると自分もスパーリングをするために庭に行くと、マルスは既にグロッキーで使い物にならなかったらしい。最初にスパーリングに行ったのは……。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
数々の至高のメニューをありがとうございます。
ビアンコ氏の生涯で特筆すべき料理対決になったと思います。
無事成功となります。お疲れさまでした!
GMコメント
日高ロマンと申します。よろしくお願いいたします。
メインは非戦闘シナリオとなりますが……
館の庭に調教された鉄帝産の灰色熊がおりますので調理等の時間が余った方はお好みでスパーリングなさってください。
(スパーリングの結果、負傷することはありません)
(スパーリングは女中の勧めです。そのため事前情報はありません)
●依頼達成条件
・依頼主(ビアンコ氏)に八品の『美味しい食べ物』もしくは『珍しい食べ物』を食べさせる(自作料理やイレギュラーズだからこそ手に入れられる食べ物)
・イレギュラーズは一人一品を用意する(全八品)
●補足事項
・提供する食事に制限はありません(創作料理でも市販品でも、料理でもお菓子でも)
・提供する食事の重複は可能です(ラーメン×八杯など)また、現地で作らずとも持ち込みも可能です
・舞台は鉄帝にある彼の館の食堂です
・シナリオはビアンコ氏の館がある森に入ったところからスタートします
・森には野生動物や山菜・キノコが存在し採取可能です。採取の際、スキルの使用が可能です
・大抵の調味料や食材はビアンコ氏の館で借りれます
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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