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シナリオ詳細

<FarbeReise>チャロアイトの輝き

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●FarbeReiseへ
 砂漠地帯であるラサで、つい最近遺跡群の『鍵』が開けられた。その報はラサ中に広がり、同時にディルクたちが取り決めた事項も同時に広がっている。

 遺跡群──FarbeReise(ファルベライズ)にて発見される秘宝は、首都ネフェルストで管理される。

 この秘宝は人の願いを叶える。御伽噺のようなそれが現実である様を、とあるパサジール・ルメスの少女たちが、そしてラサの傭兵たちが、商人たちが目撃している。もはや御伽噺だなどとは言えまい。
 そして人の流れが多いこのラサにおいて『全てが善』ではない。故にラサ傭兵商会連合では互いを監視する名目で首都管理を決めたのだ。
「まあ、それでも信用しがたいだろうな。人は人だ」
 『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)は往路の馬車でそう呟く。パカダクラが引く荷台は砂上を軽快とまではいかずとも、順調に進んでいた。
 ラサ傭兵商会連合はその取り決めと同時、連名でローレットへの依頼を寄越した。それは各国で多大な貢献を見せたイレギュラーズへの信頼であり、ハイ・ルールのあるローレットに対する信頼でもある。

 もう一度述べるが──ラサは『全てが善』ではない。

 トップの取り決めに従わない者もいるだろう。元より自由な盗賊などは広まり始めた噂から秘宝の奪取にかかるかもしれない。ラサからローレットへの依頼は秘宝の保護に留まらず、そのような通達に従わない者たちの取り締まりも含んでいるのだった。


●charoite
「ここだ」
 ファルベライズへ入り、暫し。塔のようにそびえたつ遺跡の前でフレイムタンは立ち止まった。
 まだ開かれたばかりということもあり、発見された秘宝もまだ少ない。とはいえ、ぼんやりとしていれば次第にそれなりの数が集まるだろう。秘宝保護も依頼の内である以上うかうかしてはいられない。
「この遺跡に関してはあまり情報がなくてな。今判明していることについては依頼書を読んでもらった程度のことしかない」

 ひとつ、この塔の中では飛べない事。
 ひとつ、石人形たるモノが守護している事。
 ひとつ、この塔の中は──。

「魅了の魔術がある、だな」
 フレイムタンの手が石造りの扉を押し開く。続いて遺跡へ入ろうとしたイレギュラーズたちは突然立ち止まった彼の背中へ勢いよくぶつかった。彼も彼でその衝撃にたたらを踏み、後方へ謝罪する。イレギュラーズたちはフレイムタンへ顔を上げ──その視界に映った遺跡の内部に同じような反応する他なかった。
 変哲もない石の積みあがった遺跡だ。中には広めの空間と壁伝いの螺旋階段がある程度で、そこらの遺跡よりシンプルかもしれない。特に壁へ特徴的な文字や絵が描かれているわけでもなく、だというのにどこか目を惹きつけてやまないのだ。
「いや、これほどとは思わなかったな」
 フレイムタンの呟きにイレギュラーズもまた我へ返る。確かにこれほどとは思わなかった。魅了と言ってもそこまで強いものだとは想定していない。これに持続性は感じられないが、一時的に強い魅了効果を持っているようだ。
「石人形の相手をすると思えば些か面倒な仕掛けだが──その分、この先の『秘宝』とやらも楽しみだ」
 フレイムタンがほんの少しばかり楽しそうに言って、上を見上げる。そこにはどこまでも続く螺旋階段と、何か所かに踊り場らしき階層が見えていた。

 ──目指せ、最上層。

GMコメント

●成功条件
 色宝(ファルグメント)の獲得

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に気を付けてください。

●フィールド
 螺旋階段といくつかの層によって作られている遺跡です。外観と内観を考えるに、隠し通路、隠し部屋といったものは考えにくいです。ただし、壁、床、階段に至るまで何らかの『興味を引く』魔術がかけられているようです。これはBSではなく、戦闘中もランダムに1ターンBS同様の効果がかかります。
 螺旋階段に手すりなどはありません。何かに気を取られて落ちないようにお気を付けください。この空間では『飛べません』。

●エネミー
・地上~第1層
石人形(四つ足型)
 獣を模したゴーレム。俊敏かつ攻撃的で、侵入者を入口の方へ押し戻そうとします。
 壁から生成され、侵入者が入り口から出ることで元の位置に戻ります。生成される前はどこからくるか不明ですが、初手奇襲攻撃は行いません。あくまで『侵入者を撤退させる』目的で作られているようです。

・第2層~最上層
石人形(人型)
 典型的な人型ゴーレム。まだ目撃した者はいませんが、どうやら侵入者を通さないように通路を塞いでいるようです。侵入者が現れれば排除の為動き出すでしょう。恐らく、第1層までより格段に危険です。

・最上層
 ファルグメントのあるであろう場所。しかし油断は禁物です。

●NPC
『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)
 グリムアザースの青年。そこそこ戦えます。イレギュラーズの指示に従います。
 今回は宝を探すとあって、ほんの少しばかりワクワクしているように見えます。

●ご挨拶
 ようこそ、FarbeReiseへ! 愁です。
 遺跡群のうちの1つ、この遺跡は大層魅惑的なものばかりのようで。どうぞお気を付けくださいね。
 それではよろしくお願い致します。

  • <FarbeReise>チャロアイトの輝き完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月11日 22時21分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
セララ(p3p000273)
魔法騎士
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
ニア・ルヴァリエ(p3p004394)
太陽の隣
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
ランデルブルク・クルーガー(p3p008748)
遍歴の

リプレイ

●地上から、上へ
「皆、準備はいい?」
 『魔法騎士』セララ(p3p000273)の言葉に仲間たちからええ、とかおう、とか声が上がる。『須臾を盗む者』サンディ・カルタ(p3p000438)は連れてきたサイバートカゲことGRNDにロープを括りつけて仲間を振り返った。
「必要ならここに繋いでくれな」
 これが何であるか──というと、先ほど『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)が引っかかっていた遺跡の『魅了魔術』に対抗する策である。一時的に強烈な魅了状態へ陥るギミックだが、多少の衝撃があればすぐ正気付くことはやはり先ほどのフレイムタンで実証済みだ。故に、仲間同士のマントの裾を繋いだり、ロープで結んだりするなどして他者からの働きかけを狙うのである。GRNDはロボであるため、もしかしたら魅了魔術も効かないかもしれないという狙いだ。
「こういう本格的なのは初めてなんだよね」
 ロープでつなげながら『君が居るから』ニア・ルヴァリエ(p3p004394)が天井を見上げる。遠い。螺旋階段が続いているのはあくまで通過地点なのだろうが、そこまで黙々と登り続けることになる。手すりもないこの場で落ちたら直視しがたい事態になるだろう。
「こういう魅了の魔術とか、普通にあるモンなのかい……?」
「いやあ……手が込んでるよな」
 ニルの率直な疑問に遺跡慣れしているサンディも言葉を濁す。まさか遺跡自体に魅了されるなんてそうそうないはずだ。
「できれば床や壁に懸想したくはないもんだ」
 『遍歴の』ランデルブルク・クルーガー(p3p008748)も渋い顔をしながら──彼はロープに体を繋ぐ様子も、服の裾を誰かと結ぶ様子も見られない。サンディがじっと見ていると彼はその意図に気付いたらしい。
「リスクはあるが、いざという時に身軽な奴がいた方が良いだろう?」
 ロープや裾を結んでおくのは戦闘でないときだけ。ゴーレムの出現を察知すればそれを解いて臨戦態勢に入ることとなる。だがそうスムーズにいくとは限らないだろう。
「落ちないようにだけ気を付けてね。流石にあのあたりから落ちられたら……」
 『砂食む想い』エルス・ティーネ(p3p007325)の視線が螺旋階段の上の方へと注がれる。あそこからこの硬い床まで落ちたなら──よくて重症か。
「まあほら、そうならないためのコレでもあるだろ」
 サンディが示したロープにフレイムタンも頷く。彼のような成人男性の体格でもロープに繋がっている、誰かと繋がっているのであればすぐは落ちないはずだ。
「魅了のトラップ、か。どういう原理か調査したいところだが……」
「『鴉』のこともあるし、敵も多そうだし、あまりのんびりはしていられなさそうね」
 『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)とエルスは視線を交わして頷く。今回は目当てとなる色宝──ファルグメントの保護に注力だ。
「それじゃあ行くッスよ! 皆、平常心を忘れずにッス!」
 『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)の言葉に一同は頷き、階段を登り始める。コツコツと石を踏む音が遺跡に響いた。それらは乱れるも、すぐに同じような音を立て始める。
「おっと」
「大丈夫か?」
 『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)はくん、とロープで引っ張られ目を瞬かせる。後方から聞こえたサンディの声に返事をしながらラダは再び階段を登り始めた。
(まあ、全く見ないわけにはいかないからな……)
 目を伏せ、なるべく見惚れてしまわないようにと優れた聴覚や嗅覚で視覚をサポートする。けれども転んでしまわないように視界を閉ざすことはできない。まさか足元に見惚れるとも思わなかったが──。
「! 皆、来るぞ」
 突如響いた小さな音にラダが警戒を向ける。顔を上げたゼフィラは美しく揃った石の壁が盛り上がっていることに気付く。それはイレギュラーズがロープなどを解いたころにぶつん、と壁から切れた。
「先手必勝だ」
 ゼフィラはすかさず術式を展開し、ゴーレムの頭上へ銃弾を放つ。それは黒い風を呼び、ゴーレムを巻き込んだ。
「早いな。オジサンもまだまだってことかね」
 ぼやくランデルブルグも常人よりはよほど早く、蒼き彗星の如く飛び込んで素早く後退していく。それを追うように飛び出してきた四つ足のゴーレムにひやりとさせられるが、ゴーレムはランデルブルグの近くにいたゼフィラへ飛び掛かった。ひんやりとした鋭い牙が食い込み、しかし相手の様子にゼフィラは視線を注ぐ。
「なるほど? かなりの俊敏さだ」
「まったくだね」
 ゼフィラとゴーレムの間を風が走る。精霊の風を操るニアはちらりと階段の外へ視線をくれた。そこそこの高さまで来ている。此処から落ちたら、なんて──流石にゾッとしない。
「さっさと倒すに限るッスね!」
 眼力を一時的に向上させた鹿ノ子が接近し、天が降らす雨の如く攻撃を加えていく。この一瞬に過剰な負荷がかかるとしても、早急に終わらせられるのならばと手抜きはない。最も簡単に打ちのめされるゴーレムでもなく、その攻撃は一心にニアが受けているのだが。
「ええ。皆、落ちないように気を付けて……!」
 ゼフィラによる回復の恩恵を受けながら、エルスの指輪が大鎌へと姿を変えて魔術と共にゴーレムの首を狙う。石人形とは思えぬしなやかさで直撃は回避していくものの、鹿ノ子の度重なる攻撃、そしてそこから繋がるエルスの攻撃に無傷ではいられない。同時にラダの放つ弾がゴーレムを後方へと押し下げ、同時に前衛が進んでほんの少しばかり先に見える踊り場を目指す。手すりも何もない事には変わりないが、それでも広さがあるならば階段の途中で交戦するよりよほど良い。サンディは引き離されていくゴーレムに最大限射程でナイフを遠投した。『何か』がのったナイフはその頭上へと振り、ゴーレムの足を鈍らせる。
「今だ! セララ──スペシャルッッ!!!」
 その体をセララの聖剣が空中へ跳ね上げる。真上と飛んだゴーレムの身体は、再び聖剣によって地面へと叩き落された。その体を構成していたものはボロボロと崩れ去り、塵となって──踊り場に吸い込まれた。
「え?」
「あれ……?」
「なくなった、な」
 困惑の声を上げるイレギュラーズにフレイムタンはそう零すしかない。何もなかったかのように踊り場はまっさらだ。これも遺跡の仕掛けか、とイレギュラーズたちは顔を見合わせるがそうしてばかりはいられない。一同は再び階段を登り始めたのだった。

「はーっ! 落ちる心配がないっていいね!」
 セララの声が安堵を含む。でも、とニアは上を見上げた。
「まだまだあるね」
「高いッス……」
 鹿ノ子も同じように見上げて呟く。彼女の耳には遠くまで行って反響した自らの声が良く聞こえていた。けれど道のりを考えれば半分いった、くらいだろうか?
(あそこまで行けば財宝ゲットッスかね?)
 遠くに見えるのは今自分たちが踏んでいる床──地上から見ていた天井──と同じようなものだ。あの先があるのかわからないが、やはり同様の高さがあると思われた。
「……オジサン、無機物に懸想する趣味はなかったはずだったんだけどな」
 再び階段を登り始めながらランデルブルグの沈んだ声が響く。これには皆苦笑せざるを得ない。それを言うならば『自分だってそうなのだ』から。
「材質は石。けれどそうは思えないくらいに滑らかだ」
 ゼフィラは登りながら壁に触れ、曲がっていると言うのに滑らかなそれへ見惚れて──ロープに惹かれる。いやはや、そんな趣味は自分も持っていないはずであるのだが。魅了の魔術とはなんとも怖いものだ。
「どうせ見惚れるなら女の子とかが良かったんだけど──なんてな!」
 落とし穴より殺意は低いとサンディは笑う。この遺跡においては造形の如何を問わず魅了されてしまう様だが、此ればかりは仕方がない。
「厄介だよね。でもここまでして……しかもゴーレムまで用意して守らせてるんだから、相当なお宝だよ!」
「僕のご主人もその昔、財宝を引き当てた経験があるッス! これは期待大ッスよ!」
 セララの言葉に鹿ノ子は大きく頷いた。今こそメイドでありイレギュラーズだが、昔はラサの孤児だったのだ。故郷で面白いことが起こっていると分かればわくわくする。
「だが……気になるな」
「何がだ?」
 フレイムタンの問いかけにラダは視線を伏せて進みながら口を開く。『ラサは全てが善ではない』という言葉を耳にしたのだと。ラサが、とつけるにはどのような意図があるのだろうかと。
「それは……」
「……国家ではないから、ではないかしら」
 フレイムタンの言葉を引き継いだのはエルスだった。フレイムタンの視線にエルスは先を続ける。それはこの国に来て早1年、少しでもラサを知ろうとした『来訪者』だからこその視点だろう。
「ラサって、厳密には幻想や海洋のような『国』ではないでしょう? 他の国より統率すると言う面では弱いのではないかと思うの」
 それはラサの長所であり、短所だ。人が自由に物事を始め、進め、広げられる。けれども何かを一丸となって行おうとした時には他所よりばらつきが出るのかもしれない。現にディルクたちの取り決めへ従わない者は既に暗躍を始めている。
(良い所も、そうでないところも知って……それでも)
 この国に尽くす。そんな自身の想いは変わらないのだとエルスは自覚していた。自身が『自身のままであった』のならば引っかかっていたこともあるだろうが──この1年は、自身の行動は無駄ではないのだ。
「いるッスよ」
 視界にゴーレムを認めた鹿ノ子が皆へ注意を促す。踊り場を塞ぐように座り込んだ人型の石人形は、イレギュラーズの姿を見て瞳に当たる部分を光らせた。
「落ちないよな?」
「流石にそれはないと信じたいね」
 サンディの言葉にゼフィラは先制攻撃をしかけながら告げる。先ほどより硬そうな感じはあるが、それ以上に気を付けねばならないのは足元だろう。敵の専有面積が多い以上、落ちる危険性は格段に上がる。
「落ちたくはないもんだ」
 ランデルブルグはアーリーデイズで自身の能力を高め、ゴーレムの元へ飛び込んでいく。先ほどまでより硬質な音が響き、ランデルブルグは距離を取りながら浅い傷を見た。
「硬いわね……でも私だって、私たちだって引き下がれないわ!」
 エルスの大鎌が魔性を帯びる。その直後、頭上から鋼の驟雨が的確にゴーレムだけへと降り注いだ。のそり、と持ち上げられた腕が細かな傷を帯びていくがゴーレムは気にしない。気にしないままに──振り下ろされる。注意をひきつけんとしたニアのみならず、周囲の仲間へもその余波は響いた。
「皆!」
 ゼフィラの治癒が戦線を支える。鹿ノ子はひるまず軽やかに敵へ攻撃を加え、少しずつだが力を自らのものへとしていた。威力は星の型と変わらない──より追撃できるか否か、それだけ。彼女の的確かつ安定した連撃は確実に鈍重なゴーレムから力を削いでいく。この守護者が守護者足り得る力の持ち主だとしても──イレギュラーズとて、引くわけにはいかないのだ。


●最上階
「お前とて飛べないのだろう──落ちろ!」
 ラダの弾が爆風を起こし、ゴーレムにたたらを踏ませる。よろよろと後退したその先に階段はなく、ずりおちた巨体は瞬く間に落下した。とんでもない音と共にもうもうと砂煙が上がり、イレギュラーズたちは咄嗟に顔を腕で覆う。
「止まったね……」
「今の砂煙はゴーレムの身体からか」
 セララに頷きながらフレイムタンがそっと見下ろせば、ゴーレムは大破した状態で地面に転がっていた。幸いにして床は抜けていない。イレギュラーズたちはあれもいずれ遺跡へ吸収されるのだろうと考えつつ、更に上を目指すこととした。
 少しずつ、魅了に邪魔をされながらも天井が近づいてくる。最後の階段を目にしたラダは後続を手で制した。
「最上階だ」
 その先に階段は続いていない。呟いた彼女はハイセンスで上の層に探りを入れる。視覚、聴覚、嗅覚──今のところは特筆するものもないフロアか。ひとまずの安全を確かめたラダはじめイレギュラーズは、注意深く最後の階段を登り切った。
「最上階……何か少し空気が違うかしら……」
 エルスはぐるりと辺りを見渡す。ここまでのフロアとは違う気配。それがイレギュラーズへ害為すものか否かは不明だが、ともあれ警戒は続けなければならないだろう。
「見たところ、ここまでにいたようなヤツらはいなそうだが」
 サンディも見回すも、だだっぴろいフロアは一体何のために用意されているのか分からない。しかし目的のものに限りなく近づいた今、ここで依頼失敗とならないように宝を手に入れて帰還すべきか。
「ゆっくり調べられないのが残念だね」
「誰が、何のためにっていう情報も調べられなさそうかな?」
 それはまた今度になるかな、とゼフィラはセララに答えながら視線をある一点に向ける。この無駄に広いフロアの中、小さな台座が奥に用意されていた。それ以外には何もなく──壁も床も装飾ひとつすらない──セララが望むような情報はより時間をかけて調べなければ、存在の有無すらもわからなさそうだ。
「周りに罠がないか警戒しておかなくちゃね」
「任せるッスよ」
 エルスへ鹿ノ子が持ってきている明かりを見せる。遺跡の灯りはまだついているが、いつ消えないとも限らない。ファルグメントを手に取った瞬間何かが起こるかもしれない──その対処のひとつとして、鹿ノ子は蛍袋の洋灯を持ってきたのだ。
「でもまあ、ここまでくると期待しちゃうよね」
 話題の秘宝ってやつ。そう告げるニアの口元は笑っている。ランデルブルグはああと頷いた。未踏破の遺跡、そして何某かの思惑が絡まらず気兼ねのない冒険──これが心躍らずにいられようか。そして宝がもう間もなくともあれば、注意しなくてはと思いながらもどこかそちらへ意識を傾けてしまうのも仕方のない話だった。
「少なくとも、掠め取って一目散に逃げる……なんてことはしなくて良さそうだ。行ってくるといい」
 ラダの言葉に頷き、何人かがファルグメントの方へと向かう。ラダは彼らの背中からフロア全体へと視線を巡らせた。鹿ノ子も同様だ。
「正直、ちょっとわくわくしてるよ」
「同じく、だな」
 ニアにフレイムタンは頷き、向かった中でも後方から皆を見守る。視線の先ではエルスがファルグメントへ手を伸ばしているところだった。
(そっと……慌ててはダメ……)
 目の前の水晶玉は濃い紫色で、思わず魅入ってしまいそうになる。それは手にした瞬間強くなり、周囲の仲間も水晶玉へ一心に注意を向けていた。
 だが。
「ラダさん」
「ああ」
 鹿ノ子とラダは表情に険を乗せる。その耳に聞こえるのは何かが軋み、動く音。しかしトラップはイレギュラーズたちの眼前に姿を現さず、着実に準備を進めているようだ。
「皆、こっちに来るッス!」
 撤退の為呼びかける鹿ノ子に、数人がはっとして魅入っている仲間たちの肩を叩く。その間にも周囲を警戒するラダは周囲を見渡し、トラップが何であるのか気づくと同時に叫んだ。

「──伏せろ!!!」

 言葉と、トラップの軌道と、どちらが早かったか。
 頭上すれすれを鋭い風が舞っていく。そのブツはイレギュラーズへ鋭利に尖ったそれを突き立てることなく、壁まで飛んで突き刺さった。
「……矢?」
「壁の隙間からだ」
 視線を向ければ壁を突き破った痕が見える。この遺跡の性質をもってすれば確実に当たるという事か、発射口を隠す事すらしない。生還する者がいなければ誰もがあの穴を怪しみつつもファルグメントを取るため手を伸ばし、そして矢に貫かれて死ぬのだろう。
「もう何も無さそうかな?」
「みたいッスね。これ以上何かが起こる前に降りた方が良さそうッス」
 セララへ周囲を見渡した鹿ノ子が頷く。もう何かが動く音も聞こえない。そしてファルグメントはエルスの──イレギュラーズの、手の中に。

「次は調査したいね」
 ファルグメント抜きで、とセララは遺跡へ振り返る。先ほどまで自分たちはこの中の最上階──あのあたりだろうかと視線を上げる──にいたのだ。今回は秘宝の保護という名目があったが、遺跡自体やゴーレムたちも調べる価値はあるだろう。
「ええ。でも折角秘宝を保護できたんだもの、『鴉』に渡らないよう運んでしまいましょ」
 エルスは水晶玉の入った包みを大事に抱きかかえる。どうやって運んでいこうか、その間に『鴉』こと盗賊団がくるとも限らない。戦闘ができるように両手は開けておきたいところだ。
「世界平和も願ったら叶うかな?」
「沢山のファルグメントを集めれば、或いは」
 とはいえ、誰もが幸せな世界などあるのだろうか──そんな疑問はあれど、多くの人が同じような願いを抱くだろうとも思う。ラダはエルスの抱きかかえるそれに視線をくれ、そして遺跡を見上げた。

 ファルグメントを眠らせた遺跡。その集まりたるファルベライズ。秘宝はまだ、あちらこちらに眠っているのだろう。

成否

成功

MVP

鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 濃い紫の水晶玉がラサの首都《ネフェルスト》へ運ばれました。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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