PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Your Last Day.

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●DEATH Epidemic.

 ──気づけば、薄暗い石牢の中に閉じ込められていた。

 『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は開いた視界の中、薄暗さに慣らそうと目を凝らす。毎回行っている事だった。暫くすればだんだんと目も慣れてきてそこにある輪郭が分かる。自分の他に8人。顔見知りからよく話す間柄まで様々だが、いずれもローレット所属のイレギュラーズであることに変わりはない。
(いつからここにいるんだっけ)
 考えようとしてやめた。光も差さないこの場所で日数を考えるなど無意味なことだったから。すっかり力も尽きて無力な自分たちは外からの助けを待つしかない。どうして力が回復しないのかなど考える事すらしない。ただただ、少しずつ衰弱する仲間と自身を目にしながらじっとしている他なかった。
 眠っては目覚めて、助けが来ていないことを知るとまた眠って。少しずつ判断力が鈍っていく感覚はしたけれど、さりとてどうにかできるわけでもなく。

 いつからだっただろうか。9人いる内の1人が、魘されるように呻きだしたのは。

 暗いから良く見えなかった。ほとんど眠っているから大して気にしもしなかった。ただ、呻くその人の肌はニキビでもできたかのようにボツボツとして、少しずつ膨れ上がっているように見えた。誰かが声をかけて、正気づかせようと体を揺らしたようだけれど、その人は酷く痛がっていたように思う。少しずつ、少しずつ膨れ上がったその人は──ある時、はじけて死んでしまった。
 パン、と水風船を割ったような音。ビシャリと何かが床にまき散る音。黙り込む空間。誰も何も言わず、されどかつての仲間を隅にやれるほどの薄情さもなかったか。それともよくわからないものを遠ざけなければならないという思考にも至らなかったか。シャルルは明らかに後者であった。
 それから数日──おそらくはそれくらい経っていた──して、別の1人が同じように苦しみだした。症状は同じようで、やはり随分と苦しんだ後に死んでしまった。1人、また1人と死んでいく狂気的な状況に誰も何も告げることは無く。いや、もう言葉など発さなくなってどれだけ経ったのか。もうそんなもの忘れてしまったのかもしれない。
 そうして麻痺した時間を過ごすうち、シャルルは自らの異変に気付いた。顔が痛い。腕も足も体中が痛い。それは奥から来る痛みではなく、表皮がジクジクと膿んで痛むような感覚だ。
 そこでようやく疑問を持ったシャルルは手をおもむろに上げ、自らの頬へ触れる。激痛が走って呻いた声は、これまで聞いていた誰かの声に似ていて。その指が降れた箇所はまるで水でも入っているかのようにブヨンと膨れていた。
 ──ああ。死ぬのか。
 どうしようもなくそう思った。思わざるを得なかった。これまで弾けて死んだ仲間のなれの果てを見れば、同じ結末を思い浮かべるしかなかった。
 どうしよう? いいや、どうしようもない。助けなど来ない。助けてくれる人もいない。ずっとそうだったから、あそこに遺体が転がっているのだ。
 だから『死にたくない』と、『痛いのは嫌だ』と叫んだとて、全くの無意味なのだ。


●それはあまりにも酷い夢だった。
「これが件の悪霊なのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はイレギュラーズたちの前へ小さな鳥籠を置いた。皆が良く目を凝らせば、その中には小さな小さな黒い鳥が留まっている。鴉という訳ではなさそうだが、どことなく不気味さを感じされる鳥だ。
 いや、鳥ではないか。ユリーカ曰く『悪霊』らしい。
「これは生者に悪い夢を沢山見せないと成仏できないのです。でも、野放しにしておくとやんごとなき身分の方にも悪夢を見せてしまうので、捕縛依頼が出ていたのです」
 これまでも市井で悪夢をばらまいていたらしいのだが、その後村娘がすっかりトラウマでふさぎ込んでしまったり、眠るのが怖いと寝不足極めて大怪我をした者がいたらしい。とある町でローレットに頼もうということになり、この度捕縛に至ったということだった。
 では、この悪霊をどうするか。当然ながら只人である町人がどうにかできるはずもなく、追加料金を払ってローレットに処分を頼んだ。故に悪霊の犠牲、もとい成仏させるための協力者を募集中だったというわけである。
「シャルルさんにめちゃくちゃ圧をかけられたのです。怖かったのです……」
 彼女が既に第1の犠牲として悪夢を見せられたらしい。その後の事を思い出し、ユリーカはふるりと体を震わせる。
 されども。依頼として処分しなければならない以上、イレギュラーズの協力(犠牲)は必要なものであった。

GMコメント

●シナリオルール
夢の外
その1:シャルルの見た夢は知っていても構いません。皆様が見る夢に影響してもしなくても構いません。
その2:皆さんが寝るのは借りたどこかの宿屋です。順に個室で、枕元に悪霊の鳥籠を置いて眠ります。

夢の中
その1:皆さんが見る夢は一律『死を近くに感じる瞬間』となります。死ぬ前に目が覚めます。
その2:夢の中では夢であると感じません。いくら矛盾があろうとも、現実に戻ってくるまでは夢が『現実』です。
その3:夢は共に眠った者でなければ共有できません。(同行者設定するともれなく相部屋で寝たことになります)

●ご挨拶
 愁です。今朝の悪夢へ皆さんをもご招待。
 基本ダークでシリアスに悲恋な路線ですが、穏やかな死もいいですよね。最後に笑って消えられるのならどんなに素敵な事でしょう。
 どうぞよろしくお願い致します。

  • Your Last Day.完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年10月11日 22時21分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
アルム・カンフローレル(p3p007874)
昴星
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
十七女 藍(p3p008893)
希望ヶ浜学園の七不思議
エンジェル・ドゥ(p3p009020)
Comment te dire adieu

リプレイ

●『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)の夢
「自分が死ぬ夢だなんて、ぞっとしないわね」
 ルチアは寝転がった視界の端に映る鳥籠へ視線を向ける。そこには小さな黒い鳥が留まっていて、その瞳はルチアを映しているようだった。コレさえいなければ、悪夢を見ることは無い。けれど──。
(これが依頼というなら仕方のないこと)
 ふぅ、と瞼を閉ざし視界を黒で塗りつぶして。ルチアはそのまま現と夢の狭間を通り越し、落ちて、落ちて、非現実に包まれる。

 ──おやすみなさい。


 ぱちりと目を開けると見慣れた、けれどどこか懐かしい街の中にいた。しかしそれは次の瞬間、幻であったかのように崩れ去る。
「っ!?」
 突如視界にちらついた赤、煙る視界。悲鳴、破壊音。焦げ臭さが鼻をつく。顔を上げたルチアの視界に、先ほどまでの見慣れた街はなかった。炎に包まれた建物は崩壊し、人々が逃げまどい、それを追う男たちがいる。ルチアもまたそのうちの1人に捕らえられ、無理やりに連れて行かれた場所には同じような者たちが多くいた。
 誰もが口を噤み、青ざめて一方を見ている。そのうちの何人かがまた別の蛮族に連れて行かれ、ルチアは視線で追った。
 血だまりがある。
 おびただしい量の血が広がっている。
 その中心には簡素ながらも『処刑台』があった。連れて行かれた者は順にそこで首を刎ねられていく。

 ああ、この集団は。そこに入れられたルチアは。これから誰1人残らず──あそこに立つのだ。


●『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)の夢
 たくさん、たくさんの魔法使いがそこにいた。メリーもまたその1人だった。『魔法』を使うから、そこに入れられた。大人しくしなければ待っていたのは『死』で、死ぬのは嫌だったから抵抗しなかった。たくさんいると言ってもそれより一般人口は多く、魔法使いとて数で向かってこられてはたまらない。

 また1人、いなくなった。実験の結果らしい。
 また1人、いなくなった。脱走しようとしたらしい。

 たくさんいたはずの魔法使いは少しずつ数を減らしていく。非人道的な実験に心身を蝕まれ、命を落とすか心を壊すかして処分された者もいた。その中で正常を保っていたメリーは幸せであると言うべきか、否か。
 いいや、もうとっくに擦り切れて壊れていたかもしれない。それを研究者たちに勘付かれなかっただけかもしれない。一緒に実験台となっていた魔法使いがメリーより明らかに顔に出やすくて、そちらへ視線が向いていただけなのかも。
 けれどもうそんな『隠れ蓑』は通用しない。誰もいなくなって──メリーは『最後の魔法使い』になってしまったのだから。


●マルク・シリング(p3p001309)の夢
 寒い、寒い冬だった。燃やすものは打ち壊した木切れ。食糧は既に食い尽くし、水ばかりを飲んで、死んでいく同郷の子らは冷たい台所の床へ寝かせて。1人、また1人と体力のない子から死んで、台所へ寝かせて。足の踏み場もなくなったなら、できるだけ冷たくて春までもたせられるような場所へ寝かせて。
 大人? 子供を護るために──もういなくなってしまった。子供もどんどん力尽きて残っているのはマルクと幼馴染のクレアだけ。2人で身を寄せ合うも、極寒の中へ助けはこない。
 助けがこないだなんて、知っていた。だってこんな寒い地域を通る者がそもそも少なくて、村で生きているのはここだけなのだから、皆息をしていないと思われたって仕方がない。
「つめたいね」
 おかしいな、燃やすものはたくさんあるはずなのに。
「さむいね」
 おかしいな、毛布で包み込んで身を寄せ合っているのに。
 吐息に混じらせ囁いて、2人は冷たい体をくっつけていた。もうどちらが冷たいのかもわからない。けれど飢えと寒さと言うありふれた死因が音もなく近づいていて、近づくほどに命が削られていく感覚があった。意識が朦朧として、僅かにつなぎとめたその中にクレアの柔らかな体という感触が残る。
「クレア」
 応えはない。
「あったかく、ならないね」
 クレアの身体は小さい。いいや、自分が大きいのか。
 命の灯火がゆらゆらと揺れている。ああ違う、これは暖炉の火。もうすぐ消えちゃいそうだから木切れを足さないと。でも酷く寒くて冷たくて凍えていて、ロクに体が動かなかったから──マルクはクレアが温まりますようにと、冷え切った体を抱きしめた。


 マルクにとって、これ以上の死は知らない。世界にどれだけ壮絶なそれが溢れていようとも、マルクにとってはこれだけが唯一。
 偶然にマルクたちは救われた。偶然がなければ救われなかった。そんな『もしも』を思い描いた死の悪夢。なぜか自身の身体が大人になっていたことに気付くのは、目覚めた後の事だった。


●『両手にふわもこ』アルム・カンフローレル(p3p007874)の夢
 はっ、と目を覚ます。アルムは顔を強張らせたままゆっくりと起き上がった。
 夢を見た。この混沌世界から放り出され、転げ落ちて別世界に行ってしまう夢。知らぬうちの世界転移はアルムにとって『よくある事』ではあったし、恐らくは死にかけたこともあっただろうが、その記憶は擦り切れてしまっている。だから実感としては薄い。
 けれど、たった今見た悪夢でアルムは死にかけた。夢の中であれど明瞭な記憶として刻まれた。なるほど、死を感じる感覚とはこのようなものか。
(こういうことにも多少は耐性をつけないと、とは思ったけど)
 百聞は一見に如かず。死を間近に感じる恐ろしい夢というのも、見る者によって異なるのだろう。内容ではなく『死を間近に感じる夢』であることが大切なのだ。その理由に想いを巡らせ、アルムは視線を巡らせる。
「……もしかしてキミは、忘れられるのが怖いのかな」
 視線を向けた先には鳥籠と、その中に閉じ込められた悪霊がいる。真っ黒な瞳がアルムを見つめていた。
 数々の異世界へ移らされ、記憶に刻んだはずの出会いと別れを薄れさせてしまったアルム。慣れはあれど何も感じないわけではなく、死ぬことは怖いし既知の増えた世界から放り出されてしまうことも怖い。自分が消えたら、自分が忘れてしまったように──皆もまた、自分の事を忘れてしまうだろう。
 この依頼が達成させられたなら、この悪霊は成仏し、消滅する。元がどの様な霊だったか不明だが、このままであればいつか誰の心からも忘れ去られてしまうだろう。かつてアルムがいた世界で、きっとアルムが忘れられているように。
「その気持ちは分かるけど。でもそれなら、方法は間違っちゃいけないよ……」
 聞いてるのか、いないのかもよくわからない。黒い鳥はじっとアルムを見つめるだけだったから。

 

●『Comment te dire adieu』エンジェル・ドゥ(p3p009020)の夢
「貴方、悪霊じゃなくて立派な悪魔よ、ねえ?」
 エンジェルは寝転がったまま悪霊へ話しかける。相手からの返事はないけれど、天使(エンジェル)の言葉は届いていることだろう。
 夢。それはどこまでも現実らしく、そして嘘で出来ているもの。だから──エンジェルは、それが嫌いだ。


「貴方って結構面白いのね。嫌いじゃないわ」
 くすくすと笑ったエンジェルはちくりと痛みを感じた。構うものか。
「ねえ、もっと話したいわ。貴方のことが知りたいの」
 じくじくと膿んでいくような痛みは『恋』をしてしまったから。恋情を募らせるほど、それを言葉に込めれば込めるほど世界が与えたもうたギフトはエンジェルを苦しめる。
 苦しくて痛くて、だんだんと強くなっていく。それでも構わないほどに、愛を伝えたいと思うほどに愛しくて。色々な場所へ一緒に行って、貴方のことを知って、もっともっと。
 それでもエンジェルに愛は伝えられない。だって、愛を伝えたなら死んでしまうから。夢は死ぬ前に冷めてしまうから──。


 ぱち、と目を開ける。気付かぬうちに寝入っていたらしい。そして見た夢を思い出してエンジェルは小さく口を尖らせる。
 ほら、やっぱり。名前も顔も分からない誰かに懸想なんてできやしないのに、夢の中じゃ気にもしなかった。
「あーあ! 夢でも自由にしてくれないなんて」
 せめて夢だから、想いを遂げさせてくれたなら良かったのに。偽物で出来た夢は嫌いだけれど、見せるならばマシな夢にしてほしい。
「ねえ、悪霊さん。貴方がなんでこんなことをするのか知らないけれど──言葉にできることは言っておいた方がお得よ!」
 枕元の鳥へそう投げかければ、鳥はエンジェルを見て小首を傾げたのだった。


●『希望ヶ浜学園の七不思議』十七女 藍(p3p008893)の夢
 ふんふんと鼻歌が帰路を滑っていく。
 学校も楽しくて、部活は疲れるけれどそれもまた良い。変わらない帰り道も温かなご飯が待っていると思えば足取りは軽くなる。
(お父さんも帰っている時間ですね)
 どうやら自分が一番最後。藍は鍵を取り出し、玄関を開けようとして──おや、開いている。不用心なことだ。
「たっだいまー! ……くっさい!?」
 扉を開けた藍は鉄錆の臭いにうえっと声を上げる。母が『また』奇天烈な食材を買ってきたらしい。さすがにこの匂いは文句を言う必要があるだろう。家にこびり付きそうな臭いだ。
「ちょっとお母さ──」
 リビングに入れば不思議とそこは真っ赤で。両親は椅子に座って眠ってしまっているらしい。しかしまな板に生肉を置いておくだなんて鮮度が落ちてしまうだろう。
「お母さん? あんな骨付きの大きいお肉、どこから?」
 ゆすっても母は目覚めない。ならば父はと視線を向ければ、最近気にしていたビール腹がなにやらすっきりしているではないか。向こう側まで見えるくらいである。
「お父さん。……お父さん?」
 無視された。酷い。1人娘に何て仕打ちだ。

 けれども藍は首を傾げる。なんだか違和感を感じる。おかしいな、なんだろう。
 頭を抱えようとした藍はあれっと手元を見下ろした。そこに在るはずの腕はどこに行ったのだろう。あれ、お腹は?
 やっぱりなんだかおかしい──そう視線を上げた先には『自分の顔があった』。
「あら、美人さん」
 そう呟いた藍は次いで気付く。どうして、鏡があるわけでもないのに自分の顔が見えるのだろう?


「忘 れ ま し た !」
 オーマイガーッ!! と頭を抱える──バラバラ死体だが腕はある──藍。死にそうな気配がしたのだが、具体的な内容が全く思い出せない。なんてこった。
 死ぬ瞬間があるのなら、無くした記憶もあるいはと思ったが。そう上手い話もないという事らしかった。


●『逆襲のたい焼き』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)の夢
 ベークは廃滅の海に立っていた。何も終わってなどいなかったのだ。

 狂王種が。
 魔種が。
 仲間たちが。

 倒し、或いは旅立って行ったはずの者たちがベークへ武器を取る。牙を剥く。ある者は終わらせないと叫び、またある者はベークの旅は終わるはずもないと嘲り、またある者は命を終わらせてやると襲い掛かる。
「いいえ……終わりです。僕の旅だっていつか終わる。だから、こんなところで死ぬわけにはいかないんですよ……!」
 それは永遠にも思える永い時。しかし廃滅病に塗れ、死のカウントダウンを与えられたベークに『永遠』などない。故に進まねばならない、抗わねばならない。
「あなた達は死んだんです。分かっているでしょう? あなたたちには感謝しているんです……だからまだ生きている僕を、使命を背負った僕を止めないでください!」
 仲間を蹴散らす。魔種を殺す。狂王種を沈める。ああ、だというのにまだ出て来るのか。まだ起き上がるのか。まだ立ち塞がると言うのか。ベークの力は、命は削られていくと言うのに。
(ああ、だめかもしれません)
 流し過ぎた血にくらりと視界が歪む。衝撃がベークの身体を吹っ飛ばした。じくじくと痛むのは廃滅病ゆえか、それとも彼らに与えられた傷か。

 ベークの旅の終着点──またの名を、Game Over.


 ふ、と短く息を吐いて意識が浮上した。それが夢だったのだと現実に戻って来て理解する。ベークはぼんやりと視線を天井へ向け、そして瞼を閉ざした。
 いつも見る夢だ。悪夢であることに変わりはないが、皮肉なことにベークは慣れてしまった。けれど心の弱い者が見ればしばらくは寝られないことだろう。
(……シャルルさんもお可哀想に)
 ユリーカへ圧をかけたという旅人を思い出す。彼女の事だから声を荒げることはなかったのだろうが──きっと、無言でねめつけるように見ていたのだろう。


●『地上の流れ星』小金井・正純(p3p008000)の夢
 悪霊祓いの術が『悪夢を見る事』であるならばと正純はベッドへ寝転がった。悪霊を成仏させるのも巫女の務め。
「おやすみなさいませ」
 目を閉じれば悪霊の力だろうか──深く、深く沈み込む感覚が残って、消えた。


 見上げた空には星が瞬いていた。きらきらと煌めく星に正純はほっとする。まだ星は自身を、そして皆を見守ってくれている。
 例え星の声を──彼らが与えてくれる鈍痛や激しい痛み、心地よい痺れを──感じることがなくなってしまっても、『まだ大丈夫』。

 見上げても星は見えなかった。いいや、星だけではなくて光そのものを目が感じにくくなっていた。夜空を見上げても見ることができなければ星の存在は完全に正純からは感じ取れず、どこにあるのかすらも分からない。
 辛うじて昼なのか、夜なのかは分かる程度。だから夜であればそこに星が瞬いているのだと記憶のそれに想いを馳せて──『まだ大丈夫』。

 視界が閉ざされ、代わりに鋭くなっていたような気がした聴覚も気づけば鈍くなっていた。人の声が遠い。肩を叩かれてこんなに近くにいると驚くほどに遠くから話されている気がしていた。
 触れられればわかる。けれど視界は完全に闇へ包まれ、そこに星が瞬くことは無い。

 視覚に続いて聴覚が消えた。触覚はまだ辛うじて。けれどそれも日に日に鈍くなっていく。『もう大丈夫』は通用しない。
 そもそも1日はどれくらいだろうか? 今は昼? 私は寝転がっているのか? 食事を取ったのはいつだ?
 ──私は、今、生きているのか?


「っ!!」
 正純は飛び起きた。見える、聞こえる、匂いもする。自らを抱きしめれば温かく、けれどじとりと嫌な汗をかいていた。それは体を走る鈍痛故ではない。
 深呼吸をして、窓越しに空を見上げた正純はその痛みに安堵した。

 ──私は、生きている。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ──良い夢は、見られましたか?

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