PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ランプ・ブラックの島

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「ああ、ハンス。ちょっといいかい?」
 ハンス・キングスレー(p3p008418)に声をかけた『黒猫の』ショウ(p3n000005)はこれなんだけど、と1枚の羊皮紙を見せる。そのタイトル部を見てハンスは目を見張った。
 羊皮紙は1枚の報告書。先日、ハンスが海洋に赴いた時のものだった。静寂の青──かつては絶望の青と呼ばれていた海域だ──にて被害をもたらす怪鳥の討伐依頼である。
「それは……フォアヴォーゲルについてですか?」
「そう。気にかけているみたいだったから」
 聞きたいだろう? というショウの言葉にハンスは一も二もなく頷いた。
 件の討伐依頼は実のところ失敗している。多大なダメージを与えたことは確かだが、倒れた姿を見ていない。その遺体を確認していない。故に倒しきれたとは報告できなかった。かの怪鳥の行方を気にする者はハンスのみではなかったが、ショウは早くの内から気にする様子を見せていた彼へ声をかけた次第だった。
「残念ながら、フォアヴォーゲルが見つかったわけじゃない。けれどその姿がよく見られたっていう島があるんだ」
 ショウがそう告げながら別の羊皮紙をテーブルへ広げる。どうやらこれからイレギュラーズたちへ公開する予定の依頼らしい。ハンスはそこに連ねられた文字へ視線を落とした。
「フォアヴォーゲルの痕跡を見つける調査依頼ですか」
「そう。まあ、見つかるとも限らないけれど……巣があるかもしれないよ」
 フォアヴォーゲルがいるが故に近づけなかった島だったが、イレギュラーズとの交戦以降めっきり姿を見せなくなった。そのため、この島へ調査隊を派遣してみようということになったのだ。巣があるとは言い切れないが、少なくともフォアヴォーゲルが生活していた痕跡くらいは見つかるだろう。
「あの怪鳥と戦ったくらいだから心配はいらないかもしれないけれど、島にはモンスターもいると思うんだ。行くなら気は抜かない方が良い」
 フォアヴォーゲルの『食料』になっていたモノは少なからずいるだろう。それがイレギュラーズへ牙を剥かないとも限らない。加えて地形もはっきりしない状態だ、あらゆる危険を想定して動かなければならないだろう。
「まあ、そんなわけだから。もし行く気があるなら改めて声をかけてよ」
 参加者名簿に入れておくからさ──ショウはそう告げて、羊皮紙をくるりと丸めると持って行ったのだった。



 アクエリア島から船が出る。イレギュラーズたちを乗せた中型船だ。
「あそこに見えるのが例の無人島だ。フォアヴォーゲルはここんところ姿を見せていない」
 船長は島を指さし、次いで甲板を──下を指す。イレギュラーズはこのまま島まで向かうわけではなく、ここから小型船に乗って島まで近づくらしい。聞けば乗り込めるのは島の東から南にかけて存在する海岸のみで、この船のまま行けば座礁してしまう。しかし北から西にかけての崖付近は非常に波が荒れ、接岸に向いていないらしい。
「ここから真っ直ぐ行く程度なら小型船でも問題ないだろう。俺たちはここでイレギュラーズの帰りを待ちつつ、もし狂王種なんかが来るようなら足止めだ。
 だから頼んだぜ、イレギュラーズ。さくっとアイツの痕跡を見つけて帰って来てくれ」

GMコメント

●成功条件
 フォアヴォーゲルの情報を得て、持ち帰る事

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。

●フォアヴォーゲル
 静寂の青において未だ大きな被害をもたらす、鮮やかな黄色の怪鳥。
 笑い声は人のようであり、狂気をもたらします。一節ではフォアヴォーゲルが飲み込んだ者の声だと言われています。吐き出す火の玉は船を木端微塵にするほどです。
 前回の戦いでは深い傷を負いながらも海中へと逃げのび、その後行方がわからなくなっています。姿がよく見られていた後述の島に巣があると考えられています。

●フィールド
 静寂の青に存在する無人島です。海岸から森へ続き、よくわからない果物なども生っているようです。比較的広く、入江があったり、湖があったりします。
 フォアヴォーゲルはこの島でよく見られており、遠目からでも森に降り立っていく様子や活火山の火口付近へ上がっていく様子が確認されていたという事です。故にこの島の探索もできませんでしたが、近ごろフォアヴォーゲルの姿が見られないことから調査へ踏み出すこととなりました。
 島全体は広大な森に覆われています。火山は北の方にあり、海岸は東から南にかけて続いています。北から西にかけては崖のようになっており、船での接岸はできません。入り江はこの崖下に存在しているようですが、周辺は波も荒く危険です。
 森の中には獣など、何らかの敵性生物がいるとみなして良さそうです。

●ご挨拶
 愁です。アフターアクションありがとうございます。
 調査依頼となります。万が一にターゲットを見つけても、刺激せずに撤退してください。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • ランプ・ブラックの島完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月09日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
マリナ(p3p003552)
マリンエクスプローラー
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
蒼剣の秘書
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手

リプレイ


「女王陛下の海にこんな脅威がまだ潜んでいただなんて……」
 近づいてくる島の影に『浮草』秋宮・史之(p3p002233)は険を隠さない。さもありなん、ここはようやく海洋の──敬愛する女王陛下の傘下となった海と言っても良い。その治安を良くするためなら史之はどこまででも向かうだろう。全ては女王陛下のために。
「今回は野生の怪鳥……の、捜索って言っていいのだわ?」
 『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)が視線を巡らせれば、彼女の言葉に苦々しい表情を浮かべた仲間たちがいる。それは『生まれたてのマヴ=マギア』クーア・ミューゼル(p3p003529)がアクエリア上陸戦時に相対したように、いずれも一度はかの鳥──フォアヴォーゲルと交戦したことのある者たちだ。
「出来る限り纏まって行動だな。俺も不意打ちには気をつけるが」
 『戦気昂揚』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は難しい顔でその続きを途切らせる。彼ほどの反射神経があれば不意打ちなど受けるはずもないが、つまるところは『勘』だ。声を上げる頃には皆の眼前へ敵が現れている可能性の方が高い。声を掛け合うのであれば皆で警戒するしかないのである。
「出てきてくれりゃあ一番の『成果』なんだがね」
 果たして出てくるかと『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は瞳を眇めた。前回の戦いではかなり消耗させたはずだ。例えフォアヴォーゲルの隠れ家たる島に踏み込もうと、相手は回復を優先して出てこないかもしれない。
「出てこなくても、痕跡ぐらい残しておいて貰わないと。ああも翼を痛めつけたんだ」
 『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)は執拗に傷つけた翼を思い出す。逃げ帰る途中で羽根のひとつやふたつを落として──あわよくば道標のように痕跡を残してもらいたいものだ。
 翼と聞いて思わず華蓮が何とも言えない表情を浮かべるが、仕方ないことだと理解してはいるのだ。皆の安全のために倒さなくてはならないし、より効率的な戦い方だったのだろうと。それはそれとして──翼を狙われる、というのは飛行種としてやはり何とも言えない気持ちになるのである。
(そもそも鳥の敵自体が、ね……ううん、だからって皆を危険に晒せないのだわ)
「そこまでして倒し切れない、って相当手強いよね」
 華蓮が1人納得する傍ら、史之はハンスの言葉に考え込む。通常なら翼を傷つけられ、押し切られてしまいそうなものだが。
 そうこうしている間に船が砂浜近くまで到着する。ここまでくればあとは降りて上陸も容易だろう。一同は船を降り、足元をいくらか海水に濡らしながら島へ上陸した。
(水にも食糧にも困らなさそうだ)
 縁は島を見上げる。緑が豊かに広がる森からは何か──獣的なモノ──の気配がする。湖もあるというから皆そこで水を得ているのだろう。加えて人も寄り付かず、フォアヴォーゲル以外に危険な生物も確認されていない。これ以上ない隠れ家というわけだ。
「ルートは?」
「海岸沿いから森を巡って入り江を目指しましょう。そこからは火山へ」
 エイヴァンへハンスが答える傍ら、史之がカメラを手に飛び上がる。島の全景を写した写真はすぐさま現像され、飛んでしまわないようにしっかり掴んだ史之はぐるりと見回した。
(フォアヴォーゲルは辺りにいないし……島を見下ろす限りそれらしい影もない)
 広がるのは緑と合間に見える湖、そして火山か。火口付近の赤を見て史之は引っかかるものを感じたが──後で見に行けば良い、と海岸まで降りていく。写真を手に作成される地図を見てクーアはほう、と目を瞬かせた。
「なるほど、写真があればマッピングも楽なのです」
 手に握りしめたのは櫂だ。クルーに余分なものを分けてもらったのだが、いかんせん重い。飛ぶにしても彼女の持つ護符では身ひとつのほうが動きやすいやもしれなかった。
(動きにくいなら置いていきましょう)
 上空からの視野に役立たないならと船へ置いていくクーア。万が一フォアヴォーゲルと相対してしまった時も邪魔になってしまうかもしれない。
 フォアヴォーゲルがここにいるとも、生きているとも限らない。それでもクーアは思うのだ。『大人しく野垂れ死ぬ相手』ではないだろうと。
「匂いが混じるな……」
 わずかに顔をしかめた『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)は周囲を見る。この辺りでは特に羽根などは落ちていなさそうだ。可能ならフォアヴォーゲルの匂いを辿って、という方法も考えたのだが、できないならば仕方がない。
「さて、探し始めるとするか」
「ええ。必ずや成果を得て帰還したいですね」
 縁に頷いた『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)もまたフォアヴォーゲルと交戦経験のあるイレギュラーズだ。次へと繋げるために──その想いはこの島に到着する前から、誰しもが抱えている。
(折角また手にしたんだ)
 魔女の力がこもった外套を羽織り、ハンスは島の遠方にある火山へ視線を向ける。あそこだろうか。別なところだろうか。いいや、順番に着実に調べていけば良い。
 さあ──行こうか。



「足下気をつけて」
 低空飛行した史之が前方を行く仲間に声をかける。そして本日何度目かに辺りを見回した。
(この辺りも特に何もなさそう、かな)
 イレギュラーズ以外の足跡や抜けた羽根、排泄物など。そういったものがあれば痕跡としては十分だが、今歩いている周囲にはないらしい。すっかり自然が吸収してしまったか、それともこの辺りは木々が多くて降りられないのか。ともあれ『近頃ここに降り立っていない』ということはわかる。
「よく燃えそうですが、特に跡もないのです」
 クーアはさらりと木の幹を撫でる。火を放ったらよく燃え、辺り一帯を黒焦げにすることだろう。しかしかの焔の痕跡がないあたり、フォアヴォーゲルは生態系というものを理解していたのかもしれない。
(ふむ。あの焔は嫌いではありませんでしたが、さらにそのような知性もありましたか)
 強く賢く、美しい焔を吐き出すモノ。嗚呼、クーアとて海洋に領地を預かってさえいなければまた違った手段を取ろうとしたかもしれない。けれど領地を預かるが故に──『脅威』は排除せねば。
「お、手頃な洞窟でごぜーますね」
 マリナは鬱蒼とした木々の間に小さな、とは言ってもイレギュラーズたちが入り込める程度の洞窟を発見する。史之へ伝えると彼はひとつ頷いて自ら書いた地図にそれの所在を書き込んだ。
 が、しかし。マリナのエネミースキャンが敵の存在を感づかせる。それは目の前──洞窟の中から。
「十夜さんっ」
 マリナの眼前へすかさず縁が飛び込み、洞窟から飛び出してきた獣の牙を受け止める。じわりと血が滲み、しかし彼は怯まず刃を翻した。別の赤が跳ねると同時、炎と雷の奔流が獣を焼き焦がした。
「いっちょあがりなのです」
 黒焦げの獣を見下ろすクーア。マリナは再び洞窟内を調べてみるが、ここにはもう害意を持つモノはいないらしい。周囲にも大した被害はなく、獣に巻き込まれて近くの雑草が焦げたくらいだろう。
「この調子だとありがたいんだがね」
 それを一瞥した縁は小さく息をつく。今フォアヴォーゲルが姿を見せないとしても、それは本当に『今だけ』かもしれない。後から再び出没するなら警戒の種は少ないほうが良いだろう。
「ここでまで逃げられると、さすがにいたちごっこになりかねませんもんね……」
 マリナは引き続きエネミーサーチで警戒しながら縁へ頷く。けれど彼女はふと視線をあげた。
「鳥?」
「敵意はないみたいです」
 ピィ、と鳴く小鳥。フォアヴォーゲルの雛ではなさそうだ。華蓮は小鳥へ向かって声をかける。
「もしもし、今少しだけお時間いいかしら?」
 かくりと小首を傾げるが、逃げないところを見ると小鳥は話を聞いてくれるらしい。華蓮がフォアヴォーゲルの特徴を伝えると、小鳥は再びかくりと首を傾げた。
「あら、そうなの? そう……ありがとうなのだわ」
 飛んでいってしまった小鳥を見送った華蓮へ、ジョージがどうだったんだと視線を向ける。華蓮はほんの少し残念そうに首を横に振った。
「あの子、生まれてそんなに経ってないみたい。そんな鳥には会ったことがないって言ってたのだわ」
「フォアヴォーゲルが全く姿を見せていないから、ですね」
「だが……話に聞く限り、かなりの大食漢だろう」
 ハンスの言葉に、しかしジョージは引っかかるものを感じるらしい。かの鳥が──しかも手負いで──いるのだ、全く姿を見せないというあたり、そもそも『戻ってきているのか』自体が怪しい。手負いの獣は隠れ潜むと言えど限度があるだろう。
「少なくとも、この辺りでは見ないということよね」
「それならもう少し進みましょうか」
 痕跡のない場所でたむろしていても仕方がない。イレギュラーズたちは時に足場の悪い道を低空飛行で進み、時に飛び出てきた獣をいなしながら森を進むこととなった。それでもまだ戦闘の回数が少ないのはエネミーサーチを効かせ、出来る限り迂回するようにと道を示したマリナの功績だろう。
 そして。
「ねえ」
「はい」
 時折空から島を調べていたハンスと華蓮が顔を見合わせる。
 一同はもうすぐ、森を抜けようとしていた。目の前に広がるのは広大な湖。2人はそれを知らせるため仲間の元へと降り立つ。同時、ジョージが小さく鼻を鳴らした。
「……ああ、臭うな」
 湖のほとりまで出た一同は、ジョージの鼻を頼りに腐敗臭をたどっていく。それはやがて優れた嗅覚がなくても嗅ぎとれるほどになり、それが見えるからにはすっかり皆顔をしかめていた。
「夏を過ぎて……って感じなのだわ。ナマモノは放置したら大変なことになるのよね……」
 華蓮がそう呟くも、フォアヴォーゲルにそのような配慮をする心──あるいは知性──はなかったのだろう。しかし周囲の折れた木々や焦げ跡がフォアヴォーゲルの仕業だとたしかに告げている。
「なるほど。この辺りならば広く、狩場にも向いていますね」
 クーアは焦げ跡に立ってぐるりと見渡す。鼻は慣れてきた。エイヴァンは周囲に残るフィールドサインを確かめるが、どうやらすぐ逃げる必要はないらしい。それらはあまりにも風化し、あるいは腐っていた。フォアヴォーゲルとイレギュラーズたちが戦った前後から、それよりも前だろう。
「この辺りのみ荒れている、ということは飛んでどこかへ去っていったのか」
 ならば戦う前だろうかとエイヴァンは空を見上げる。ハンス曰く、徹底的に翼を痛めつけてやったようだから。
「見る限りは肉食っぽいですね」
「ああ。他に手がかりは……なさそうだ」
 マリナとジョージは腐食したそれ──中型の獣だったようだ──を調べ、フォアヴォーゲルの食性を探る。フンに植物の種子などが混じっていればとも思ったが、残念ながらここにあるのは食べカスだけのようだ。
「魂も……とうに天へ向かったようです」
 周囲にそれらしき魂が徘徊していないことを感じ取ったハンスは空を見上げる。他にも霊はいくらか漂っているようだが、意思疎通してみるかぎりフォアヴォーゲルとは無関係なようだ。
「すっかり”コレ”もボロボロだしな。とすれば、次は入り江にでも行ってみるか?」
 エイヴァンが傍に落ちていた大きな羽根──らしきものを拾うと、その振動でいくらかが砂のように零れていく。思い切り振ったらそれこそ粉々になるだろう。
「そうするかね。あちらさんもずっと待たされているんじゃ落ち着かないだろうよ」
 縁はクルーたちを思い浮かべて小さく肩を竦めた。あちら──ここまで連れてきてくれた海洋の船とそのクルーのことだ。未だ平和とは言い難い海の上、しかもフォアヴォーゲルの潜伏していた島の付近ともあれば逃げ出す者はおらねど安心はできないだろう。
 空を飛べる者たちが再び上空から島を見下ろし、且つ地図でもって適切なルートを割り出す。それを元に一同は崖下に存在すると言う入り江へ向かい始めた。



「ひぇっ……こ、こんなに危ないなんて聞いてないのだわ!」
 ぶおぉっと強風が撒きあがる。暴れまわる髪に華蓮は小さく悲鳴を上げた。
 島の北から西にかけて続く崖は高くそびえたち、海上から吹き上がる風は勢いよくイレギュラーズたちの身体を揺らす。入り江へと下る坂もまた然りだ。けれどもイレギュラーズたちは入り江の影にぽっかりと開いた洞窟を見つける。
「海に飛び込んだ方が早そうだ」
「ああ」
 今の場所からそこまでの距離と、さらに海からの距離を視線で量る縁とジョージ。しかし皆が皆同じように行けるわけではない。
「僕たちは後から追いつくことになりそうですね」
「流石に簡易飛行では煽られそうなのです」
 ハンスやクーアの言葉に何人かが同意し、まず水の中も問題なく動けるジョージと縁が先行することとなった。2人が飛び込むと水柱が上がり、それから荒い波だけが崖を叩く。
「それじゃあ、追いかけましょうか」
 マリナは引き続きエネミーサーチで敵性存在がいないか探知しながら仲間たちと坂を降り始める。その間にもジョージと縁は荒ぶる海中を進み、洞窟の中で顔を出した。
「風が吹き込んでるな」
「奥は深そうだ……だが」
 すん、と鼻を利かせたジョージが顔を顰める。次いで、何かいるな、と。縁にはまだ感じ取れないが、対流する風の中にやはり腐臭がするのだと言う。
(砂浜に足跡はなさそうだったが……)
 視線を下ろした縁は未だ半身ほど海水に使った自らの身体を視界に入れる。そう、泳いでこの中を進んだのなら。足跡などろくに残りもしないだろう。今2人が同じように奥へ踏み入っているのだから。
 ジョージは暗闇をもものともせぬ目で奥を見通す。臭いから感じられる距離はもう少しと言った所だろうか──丁度その時、闇の中により一層濃い影が見えて。ぎょっと立ち止まったジョージに縁も何かを気づいたらしい。縁は宙泳ぐ幻遊魚を使役して後追いのメンバーへ有事であることを知らせる。
 息を殺し、じっと様子を窺う2人。余計な刺激を与える前に撤退すべきかと縁が考えを巡らせた頃、ジョージが「死んでいる」と呟いた。
「こいつが腐臭の正体だ」
 あまりにも満たされた臭いに最初は気づかなかったが、この巨体こそが腐臭を放っているのだとジョージは告げる。ややあって後方から複数の音が小さく聞こえ、警戒した仲間たちがゆっくりと様子を見に来ていた。
「これは……」
「フォアヴォーゲル、ですね。死んでいる……?」
 ハンスの呟きにジョージが頷く。闇に慣れてきた視界では先ほどよりくっきりとフォアヴォーゲルの身体を見ることができた。翼はハンスたちに攻撃された時のまま、痛々しい状態に。そしてその体はここで力尽きた故か腐り始め、所々骨が突き出しているようだった。
「血は海水で洗い流されたか」
「ただただ臭いね」
 ジョージの言葉に史之が頷き、地図にある入り江へバツマークをつけた。腐った体の後方にはフォアヴォーゲルが喰ったと思しき動物の骨があるが、そちらの比ではない。こんな場所には動物も寄りつかないだろう。
「これを成果とするならば十分だな」
 エイヴァンの言葉に誰しもが頷いた。フォアヴォーゲルは死んだ。それがイレギュラーズの与えた傷を決めてとしたかは知りようがないが、その一端を担ったのは確かなのだろう。
 他に生き物がいないことを確認した一同は、荒れ狂う波と風に気を付けながら洞窟を出て島の内部へと上がったのだった。



「あの、一応なのですが」
 安全な場所まで上がったハンスは仲間へ告げる。火山も見に行きたいと。エイヴァンもいいんじゃないかと頷いた。
「あちらも目撃情報が多いからな。何か隠しているかもしれん」
「火山のエネルギーを蓄えていたりしてもおかしくないとは思いましたが」
 高威力の炎でしたし、とマリナは戦った時の事を思い出す。あれほどの炎をたった1匹の力で吐けるとは思えない。
「火口に巣があってもおかしくないかも」
 史之は火山の頂上を見上げる。海に逃げたからあそこで力尽きただけかもしれない。
 そう、だから──念のため。そのはずだったのだ。だからフォアヴォーゲルの死を確認した今『あんなモノ』が見つかるなんて誰も思わなかっただろう。それを見つけたのはハンスや華蓮と共に火山の上空から探索していたクーアで、彼女自身も目を疑って他の仲間たちを呼んだほどである。
「いや……笑えねぇな」
 縁の呟きを誰も否定できない。しかも持ち帰るには大層大きくて無理がある。
「……報告するしかねーですね」
 無理にでも持ち帰ろうとすればソレを刺激してしまうかもしれない。マリナへ頷いた一同は船のある場所まで戻り、こう報告した──『フォアヴォーゲルの卵と思しきモノがあった』と。

 その卵を壊すべく海洋の軍が向けられたのはそれからほどなくのことだったと言う。

成否

成功

MVP

マリナ(p3p003552)
マリンエクスプローラー

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ!
 フォアヴォーゲルの遺体と卵を発見しました。つつがなく処理されたようです。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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